酒場を後にし、其々の宿へと戻っていく7人。
「そりじゃ~いくわよぅ、My Friends」
「おぅ、サッちゃん!」
「夜はまだまだこれからだぜ」
ベンサム、エース、シュライヤは酒場を出た後も途中まで肩を組んで大騒ぎだった。
「あー、もう3人ともいい加減にしてよ」
「たく、何か妙に波長があっちまっているな」
そんな3人が倒れないようにワタワタとサポートしているカリーナとサガ。
そんな5人を後ろから微笑ましそうに眺めながら歩くレイズとサンディ。
「サッちゃんが就活とは意外だな」
「あら、そうかしら?人は大事な何かのためなら、自分の良心も圧し殺せてしまうものよ」
そう、怪しく微笑むサンディ。
隣を歩くレイズは願掛けで伸ばし始めた銀髪を手で解かしながら、空に輝く月を見上げた。
「それじゃ、あんたを突き動かすその“大事な何か”の正体は教えてくれるのかな」
そう言ったレイズの顔には人好きするような笑顔が浮かんでいた。
ーーーーーーーーー
「あんら~、サンディちゃん何か良いこと有ったのかしら?」
宿として使用している高級ホテルでシャワーを浴びたベンサムとサンディは今後のことについて計画を練っていた。
「良いかしら、Mr.3。今回の貴方の昇級任務は覚えているかしら?」
「もちろんよぅ、「“将軍”ガスパーデの暗殺」なんて任務、あちしに掛かれば朝飯前なのよぅ」
言動こそハイテンションだが、シャワーを浴びた体で踊ることはせず、机に置かれたシャンパンへと優雅に手を出すベンサム。
「なら、なぜ“彼ら”を誘ったのかしら」
そう発したサンディの顔には何の表情も無かった。
まるで仮面のようなその顔にはベンサムは既視感を覚えた。
今日久方ぶりに会った友人も昔そんな顔をしてた。
世界中すべてが敵である、そう決めつけた人間のする顔だった。
ベンサムは自分が周囲から見て奇異な存在であることを自覚している。
それでも、今の自分を変える気はない。
自分を偽ることはしないと憧れの人の生きざまから学んだからだ。
「簡単な事よ、サンディちゃん」
ーーーーーーーーー
港に置かれた真新しい船。
エースたちが所有する「ジャック・ポット号」には現在とてつもない寒気が襲っていた。
「で、レイズは“あの女”と何をお喋りしていたの」
何故かダイニングエリアのフローリングに正座させられたレイズ。
目の前にはそれはそれは見惚れる程に愛らしい笑みを浮かべたカリーナが、背後にブリザードを背負って立っていた。
なお、エース・シュライヤ・サガはソファーを防壁にしてその様子を伺っていた。
「カリーナ、何を怒って「怒ってないよ」
レイズの言葉が終わる前に笑顔が更に深まった顔でレイズに顔を近づけるカリーナ。
「いや、おこっ「怒ってないよ」
「いや、お「怒ってないよ」
「けど「怒ってないよ」」
「で「怒ってないよ」
「「怒ッテナイヨ」
徐々に顔と言葉の距離が近づいていく二人を普段なら囃し立てるエースとシュライヤだか、今は涙目でソファーの影から出てこようとしなかった。
その時、レイズとサガの目があった。
「(助けて、サガ)」「(無理)」
言葉を発せずともその時、二人の意志は確かに通じあった。
「・・・・で、あの女に何を探りいれてたの」
ーーーーーーーーー
「そう、本当に簡単の事よ。だって“
“風死”。
レイズが政府主導で参加した大虐殺「人拐い村殲滅作戦」において作戦中に付けられた異名であった。
能力を“わざと”暴走させ、数多の風の刃を無慈悲に打ち出して最大人数を“殺害”したレイズに付けられた異名。
ベンサムは今でもあの時に見てしまった光景を忘れられずにいた。
まだまだ子供と言われても納得してしまうような幼さを残したレイズと出会ったのは、政府が用意した上陸船の上だった。
「あぁ~暇よぅヒ・マ。あちしったら暇すぎて思わず回っちゃうわ」
まだまだ、自分の拳法に名前を付けず切磋琢磨していたベンサム。
元々しなやかだった体を生かした戦闘法を模索していた彼は経験を積むために戦場を渡り歩いていた。
今回の召集も経験を積むために参加したに過ぎなかった。
何時ものようにクルクル回っていると遠くから何やら音が聞こえてきた。
音のした方に視線を向けるとそこには目を疑う光景が広がったいた。
子供と思わしき人物を中心に死屍累々の地獄絵図が其処にはあった。
ある者は腕があり得ない方向に曲がっていた。
ある者は自分の得物と思われる刀で貫かれていた。
ある者は鋭利な刃物でズタズタに切り裂かれていた。
そして、一際体格に恵まれた男が透明な見えない何かに掴まれているかのように空中に浮いていた。
「わ、悪かった。“コレ”は還す、還すから許してくれ」
男は顔をグシャグシャに涙で濡らしながら子供に懇願していた。
ふと、男と対峙していた子供が男に向けて手を翳す。
そして、何かを握り締めるように徐々に手を握り込んでいくと男の悲鳴が大きくなっていった。
よく聞くと悲鳴に混じり男から何かが折れる音が聴こえていた。
その音が男の骨であると認識した瞬間ベンサムは子供の手を掴んでいた。
「ちょっと待ちぃねぃ」
ベンサムが手を掴んだことに気が付いた子供は顔をベンサムへと向けた。
その時、硝子玉のようにただ周囲を写すだけの瞳と目があった。
その瞬間、ベンサムを吹雪のような殺意がぶつかってきた。
それは、目の前の子供から発せられていることにベンサムは気付いていた。
「た、助かった」
ベンサムの後ろから先程宙に浮かんでいた男が声をかけてきた。
「いったい全体、な~にがあったのよぅ」
一部始終を“見ていた”が確認のために男へと声をかけるベンサム。
すると男は息を吹き返したかのように子供を指差し声を荒げ喋りだした。
「この餓鬼、俺の持ってるこの宝石を奪おうとしやがったんだ。だから、周りの奴等が止めに入ってくれたんだが、この有り様でよ」
ベンサムという後ろ楯を獲た事で強気になる男だが、後ろにいたためベンサムの憤怒の顔を見ることはなかった。
「まぁったく、あんた“たち”はぁ」
その場で回転し始めたベンサムに警戒心を露にする子供だったが、またしても周囲の予想の斜め上をいく結果が現れた。
「あんたたち、バカをお言いでnothing」
ベンサムは己の回転力のすべてを乗せた蹴りを後ろにいた男に見舞った。
なお、対峙していた子供は初めて驚きの表情を浮かべていた。
「・・・・、ねぇ」
その後、少将ボルサリーノの仲裁により事なきを得た騒動。
騒動以降、子供がベンサムの傍を離れようとしなかった。
そんな子供が突如ベンサムに声をかけてきた。
「あんら、何かご用」
「なんで、あいつらに味方しなかったの?」
心底不思議そうに聞いてくる子供に対してベンサムは嬉しさを覚えていた。
「簡単なことよぅ。あーたの目が嘘ついてなかったからよぅ」
「・・・・ハァ、おじさんバカでしょう」
子供から放たれた悪意の塊のような言葉に少なくないダメージを負ったベンサムは甲板にヘタリこむと、何処からか取り出したハンカチを噛み締めて滝のような涙を流し始めた。
「おじさ、おじさんって、あちしは、あちしは・・・・」
そんなベンサムを面白いものを見るような目で見ていた子供。
「おじさん、早死しそうだから、僕がついていてあげる」
そういって子供の顔には年相応の笑顔が浮かんでいた。
「それから、殲滅戦が終るまであちしとレイちゃんはパートナーになったのよぅ」
顔に少し赤みを帯び、昔を懐かしむベンサムからは普段のエキセントリックな雰囲気はなく、そこはかとなく花のような色気が漂っていた。
「だから、久しぶりに会って笑顔だったあの子とそのFriendsに手を貸してあげたくなったのよぅ」
「ふふふ、あなたの過去が聞けるなんて良い夜ね」
サンディとベンサムの会話はそこで終わった。
街中の喧騒をBGMに二人は無言で酒を楽しんでいた。
「(ま、それ以外にも理由はあるんだけどねぃ)」
日頃は拙い物書きの作品にお付き合いいただきありがとう御座います。
パソコンで書いていたせいか、スマホやりにくいです。