ONE PIECE-彼を王に-   作:完全怠惰宣言

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あぁ、今年も終わる。
仕事は持ち越しだけど。


Dに集え/そして結ばれる手

一夜明けてレース開始まで残り2日となった。

再度顔合わせをするためにベンサムとサンディを「ジャック・ポット号」へと招待したエースたち一行。

 

「サッちゃん、サッちゃん。今日はレイズが腕によりかけたランチなんだぜ」

 

我がことのように誇らしく語るエースはデッキに移動されたソファーにてカリーナが準備したミックスジュースに舌鼓を打っていた。

 

「あ~ら、レイちゃんの手料理なんて久しぶりねん。エーちゃん“タコパ”はあるかしら」

 

いつも以上にハイテンションにクルクルと回るベンサム。

そんな彼の後ろから現れたサンディの手にはバケットが握られていた。

 

「そちらだけで準備させるのは悪いから私たちも軽食を持ってきたわ」

 

そう言ってバケットを開けるサンディ。

開けられたバケットをエースが覗き込むとそこには見事に盛り付けられた多種多様なサンドイッチがあった。

 

「おぉー、旨そう。じゃまずは味見を「せんでいいから手伝えエース」

 

バケットの中身にエースが手を出そうとすると突如後ろから現れたサガに耳を引っ張られてテーブルへと連行されていった。

 

「あー、悪いな。こちらから招待しておいてまだ準備終わってないんだ」

 

その光景を見ていたシュライヤはバツが悪そうに頭を掻きながら現れた。

 

「いえいえ、おかまいnothing。あちしたちはソファーで寛がせてもらうわ」

 

そう言うとサンディをエスコートするように先に座らせ自身もソファーへと優雅に着地するベンサム。

 

「あら、お姉さまに男姉さま。もうすぐ準備できるから先にオードブルでも摘まんでて」

 

船内から現れたカリーナの手には鮮やかに彩られた多種多様な野菜やフルーツが盛られたクラッカーが乗ったトレイがあった。

 

「ワインとシャンパンも準備してある。楽しんでくれ」

 

その後ろから姿を見せたサガの両手にはワインボトルとシャンパンボトルが握られていた。

ここに至り、サンディはある事に気が付いた。

今まで出て来た今回の共同参加者は誰一人敵意が見えないのだ。

昨晩、話した“あの男”も姿を現さないのは自分に配慮したためであるとすぐに理解できた。

この船の上にはサンディに対して一切の敵意がなかったのだった。

 

 

-----------

 

 

「「「「サンディの正体?」」」」

 

時は昨晩、カリーナに問い詰められていたレイズはため息とともに自分の行っていたことを明かしていた。

 

「そう、何日か前に”賞金首リスト“の整理をしていた時に最近見ない顔を見てね、それで気になっていた時にサッちゃんと再会して、後ろから出て来た彼女を思い出してね」

 

そう言うと船に戻ってきてから取りに行っていた手配書を持ち出した。

そこには、年端もいかない少女が映し出されていた。

 

「おそらく、彼女は”ニコ・ロビン”本人だと思う。外見的にもこの子が成長したら彼女になりそうだし」

 

4人に手配書を渡したレイズは足を崩し近くにあった椅子に座りなおした。

4人には確証はないと言外に言っているがレイズには確証があった。

それは彼の裏技”塗りつぶされた原作の記憶”である。

以前にも記したがレイズは所々抜け落ちた原作知識を持つ転生者である。

原作の大まかな内容は思い出せるのだが、細かい内容については“インクで塗り潰されている”ような感覚で思い出そうとしてもはっきりと思い出せない状況にある。だが、知識を得ることでその“インクで塗り潰されているような箇所”が思い出されるのである。

そんなレイズは原作のルフィの仲間である”ニコ・ロビンという存在”をなんとなく覚えていたが容姿や能力、彼女の過去といったものに関しては霞がかかったかのように曖昧にしか思い出せなかった。

しかし、酒場でサンディと出会ったことで”手配書の少女”と”現在の姿”という情報が加わり、大まかにではあるが彼女のことを思い出していたのである。

そのことに現実味を帯びさせるためにサンディに話しかけて情報を引き出そうとしたのだが余計な警戒心を植え付ける結果に終わってしまった。

 

「なるほどな、彼女は”裏社会”じゃ有名だからな、それこそ真偽問わず情報が溢れているがレイズは何か知ってるんだろうな」

 

ソファーから出て来たシュライヤは椅子に座りこんだレイズへと視線を移した。

復讐の対象であるガスパーデの情報を探すために、一時期は裏社会に身を置いていたシュライヤも”ニコ・ロビン”の情報は多少有していた。

 

「・・・・は、胸糞悪い話だよ」

 

そう、レイズにしては珍しく、エースたちがいるにも関わらず嫌悪感を露わにした顔で語り始めた。

「オハラの悲劇」その真実について。

 

 

-----------

 

 

テーブルにところ狭しと並べられた料理の数々。

ビュッフェ形式で並ぶ料理の完成度に思わずロビンは声を失っていた。

隣を見るとMr.3が優雅な所作で暴飲暴食を開始していた。

 

「ちょっとちょっとちょっとジョーダンじゃないわよぅ。レイちゃん“タコパ”は?タコパが無いじゃないのよぅ」

 

常日頃から彼が求める謎の料理「タコパ」。

それを知っていることに戦慄を覚えたロビン。

 

「サッちゃんや、“あれ”はデザートでしょ。未々あるから先に食べきっちゃってよ」

 

昨晩金がないと言っていたにも関わらずこのおもてなし。

ますます、警戒心を抱くロビンだった。

 

「にしても、MyFriends。あーたたちお金無いんじゃなかったの?」

 

その問いを待っていましたとばかりにエースたちは笑顔を向けた。

 

「「「「レイズがやりました」」」」

「お陰で、もうこの島で賭博は出来ないけどな」

 

そう、レイズは今日のために昨晩島中の賭博場(表裏の関係無く)の金庫を空にしてきたのである。

当然、イカサマしてだが誰もいつイカサマが行われたのか理解できなかった為、レイズは無事に船に帰ってこれたのだが。

 

「そんなこと良いからさっさとパーティーしようぜ」

 

エースのその声を切欠にながらではあるが、宴が始まった。

エースの天性のモノによるのか、レイズが気が付くと当初は輪に加わろうとしていなかったロビンもカリーナの横で笑顔で料理を楽しんでいた。

デザートの準備でレイズが船内に戻った後も楽しそうな声が船上には響いていた。

 

 

「それじゃ、ビジネスの話といこうか」

 

デザートをもって現れたレイズ。

準備されたケーキやフルーツの盛合せ、タコパが机にならび、其々がお茶を飲んだところでレイズのそんな声が響いた。

 

「此方の条件はレース中の同盟関係の締結。それと“ジャック・ポット号(この船)”で一緒に参加すること。賞金の山分け」

「それと、何か有るんじゃないかしら」

 

互いに悪い顔をするロビンとレイズ。

周囲はそんな二人に割って入ることもなく、成り行きを見守っていた。

 

「ガスパーデの首は早い者勝ちでいこうよ“バロックワークス”」

 

その名前が出た瞬間、明らかにロビンは顔をこわばらせてしまった。

二人のやり取りをみていたベンサムは顔がにやけるのを止めることはなかった。

 

「(“コレ”よ。コレがあるからレイちゃんは怖いのよ)」

 

レイズの裏技を知らない者にとってレイズの知識量は脅威でしかなかった。

僅か5分前は知らなかったはずの情報を何処からか引き出し考察し答えを導き出してしまう。

わずかな時間であったが、バディだったからこそ理解してしまったその異常さ。

だからこそ、ベンサムはレイズを仲間にしようと共闘を申し込んだのだ。

“敵”とならないために。

 

「・・・・何のことかしら、私たちはそんな組織に属していないわよ」

 

顔の強張りに気が付いたのか笑顔を張り付けたロビンはレイズを正面に見据えて”ボス”との約定のために嘘をつくことを選んだ。

 

「バロックワークス、徹底した秘密主義が採られており、社員たちは社長の正体はもちろん、仲間の素性も一切知らされず、互いをコードネームで呼び合う「秘密犯罪会社」。

 基本的に男女ペアで行動し、男性は数字が若いほどに実力者とされ、パートナーの女性は曜日や祝日、記念日などからコードネームがつけられる」

 

レイズは顔を下を向いた姿勢のまま語られていく組織の全容に背筋に冷たい何かが走るのを覚えるロビン。

徐にあげられたレイズの顔を見たとき、ロビンは久しぶりに困惑を覚えた。

目の前の青年はなぜかとても悲しそうだったのだ。

その悲しみが何から来ているのかロビンには解らなかった。

今まで自分の存在を排除され続ける人生だった彼女に向けられてきた感情は憎悪、嫌悪といった感情が大半だった。

なのに目の前の青年はなぜか悲しみの感情を自分に向けてきている。

理解が追い付かないロビンにレイズは彼女にしか聞こえないであろう声で告げる。

 

「信じろとは言わない、あなたの半生は人間の汚いモノで塗りつぶされてしまっているから。打算でもいい、オレを信じなくてもいい。利用してくれてもかまわない」

 

そうポツポツとつぶやかれる言葉が不思議とロビンの心に沁み込んでいった。

 

「だけど、忘れないでほしい。あなたを愛してくれる人は必ずいるから」

 

そう呟くとレイズはロビンの後ろにいる仲間に目をやる。

その奥にただ無言を貫き、真剣な眼差しでこちらを見てくるエースを見て心を決めるようにレイズはロビンに語る。

 

「オレは死ぬ間際にただ一人の存在が”愛してくれて、ありがとう”なんて言わせる世界を嫌悪する、オレは”世界のための小さな犠牲”を軽蔑する」

 

レイズの言葉に宿る熱が徐々に上がっていくのを船上誰もが気が付いていた。

 

「だから、心を殺してまでやり遂げようとするサッちゃんもあなたも尊敬している。その踏み台程度でいいから」

 

レイズの頬に涙が伝うのをロビンは見とれてしまっていた。

 

「少しの間だけ信じてくれ、オレじゃなくてエースたちを」

 

 

気が付くと空は夕暮れに染まっていた。

 

「・・・・わかったわ、あなたはやっぱり信じられないけど」

 

ロビンは後に語っている。

 

「あなた”達”は信じてあげる」

 

あの時、久しぶりに心から笑顔になれたと。




年末はいいなぁ~。
死に物狂いで終わらせたけど。

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