相変わらずこんな感じですがガンバリマス。
シュライヤの体から立ち込めるどす黒く染まり濁った殺意。
その目はレイズが時折する硝子玉のようにただただ目の前の映像を景色として脳に映すだけだった。
時間は少し遡る。
夕御飯を誰よりも食べたはずのエースは席につくなりメニューの端から端まで注文し手当たり次第食べ始めていた。
「うお、このペペロンチーノ案外旨い」
「おいエース、このマルゲリータも中々いけるぞ」
「んがはははは、シューちゃんあちしのたこ焼き少し食べる?」
「お前らは本当によく食べるな、しかしこのピクルスつまみに良いな」
そんなエースにつられたかのようにシュライヤとベンサムも食事をし始め、その様子に呆れながら樽をジョッキ替わりに酒を飲むサガ。
「まぁ、」
「でもな」
「やっぱし」
「だな」
突如食べる手を止めた4人は何かに納得したように空になった皿にフォークを置く。
「「「「レイズ(レイちゃん)のメシ(ご飯)の方が旨い(わねぃ)!!!」」」」
何故か勝ち誇ったような顔をして周囲を見渡す4人だった。
「おいおい、嬉しいこと言ってくれるね」
4人の感想に答えるように返答が聞こえ、その声を待っていましたとばかりに満面の笑顔で振り向くエース。
「遅えぞレイズ」
そこには、湯気たつカップとソーサーを器用に両手で7つ持ち、未だに
「悪かった、途中で絡んでくるアホが多かったからな。淑女のエスコートに時間をかけたんだよ」
そう言うとエースの隣に座ろうとするレイズだったが、両腕の淑女により強制的に現状のままの位置関係で座らされていた。
「んで、どうだったのよう。早く教えなさいよぅ」
カリーナから紅茶を受け取ると優雅に一息つけレースの概要を聞くベンサム。
「落ち着いてMr.3、今話すから」
ロビンに窘められるような形になったが、レースの報告が始まった。
今回のDead End Race概要は通常通りの何でもありのハチャメチャレースで、最初にゴールの島についた船が優勝となる。
途中までの航海で妨害戦闘何でもあり、文字通り悪党による悪党のためのレースだった。
ゴールは酒と祭りの島「エントローリ」。
「って訳なんだけど、オレ等のターゲットを考えるとこの状態でなにもしてないとは考えづらいわけで」
「このエターナルポースも何かしらのトラップが仕掛けられていると考えているのよ」
「だから、帰ったらサンディとレイズそれにアタシも
知略班に分けられていたロビンとレイズ。
そこにカリーナが加わることを本人の口から強く念を押される他4人。
カリーナの意図を汲み取ったのかその顔は苦笑いだった。
「おうおうおうおう、こんな場所でナニしてんだよオメエは」
レースの話もそこそこに周囲の参加者の確認をしているとあからさまに柄の悪い男たちがエース達の机に近づいてきた。
現状、無用な争いを起こさないようにしていた7人は無視を決め込んだ。
「こんな良い女テメエみてえな優男には勿体ないぜ」
男達にとって最大の不幸は彼らの存在だった。
「やっぱ、オレ等“ガスパーデ海賊艦隊”のメンツみちゃいなゃ」
先頭にいた男は気が付くと仲間を巻き込み蹴飛ばされていた。
「テメエ等」
レイズが視線を上げるとそこには、自分の対面に座っていた筈のシュライヤが蹴り抜いた形で椅子に立っていた。
「オレの前でその名前出してタダで済むと思うなよ」
その声と共に一団へと襲いかかるシュライヤ。
「少しは自重できんのかあいつは」
レイズが持ってきたコーヒーを飲みながら下の階へと場所を移したシュライヤ無双による喧騒をBGMにサガが呟いた一言はテーブルに残った4人も無意識に首を縦に振っていた。
「でゅーも、シューちゃんからしたら復讐の対象なんだから“あんな状態”になってもしょうがないんじゃなーい」
「でもね
「カリーナの言う通りね。私達はあくまで協力関係なんだから決めたことは守って貰わないと」
「サンディが正しいとは言わないけど、作戦決めた時に念を押したはずなのにな」
「「「「「はぁ~~~~」」」」」
5人同時に溜め息をついた時、レイズはある違和感に気がついた。
徐に指差し確認でテーブルに着席している人数を数え、周囲を見渡し頭を捻るように奇妙な行動をしていた。
「ところでさ」
意を決したようにレイズが4人に話し掛けた。
それと同時に下の階がまた一段と煩くなってきた。
「エースは?」
突然だが、現在彼らのいる席はテラス席のようになっており、目の前をエレベーターのような滑車が上下して上層と下層のやり取りをしているようだった。
その滑車は帆船用の鎖でいったり来たりを行っていた。
レイズ達の目の前にはそんな鎖の一つがある。
「はん、来いや雑魚供が」
下から上がってきているであろう集団をこれでもかと煽りながら上がっていくシュライヤを見送った一同。
「おっしゃー、やったれシュライヤ」
少し遅れてシュライヤに声援を送りながら上がって行くエースを認識してしまった。
「「「「「なにを煽ってんだ、てかなにをやってんだあのバカ!!!」」」」」
滑車の頂上、キッチンを兼ねた小型船の船体に上ったシュライヤとエースは端にまるで相手を歯牙にもかけていないようにふざけた態度で座っていた。
「テメエら調子に乗りやがってもう逃げ場はねえぞ」
どう見ても悪人面の小物感丸出しの男が威勢良く吠えている。
そんな様子を意に返すことなくシュライヤとエースは雑談を始めていた。
「あぁ~、やっちまった。絶対にレイズに怒られるわ」
「なっはははは、シュライヤは馬鹿だな」
「いや、煽ってたお前も同罪だからなエース」
一切の緊張感も追い詰められた恐怖すら感じていないように陽気に喋る二人を見て海賊たちはついに我慢の限界に達した。
「行くぞ、お前ら」
先頭集団が駆け出したその時、エースとシュライヤは悪戯が成功したような悪い顔をしていた。
「んの馬鹿どもは」
突如レイズが額を抑えるように立ち上がるとロビンとカリーナを立たせて後ろへと移動し始めた。
「どぅーしたのよぅ、レイちゃん?」
その奇妙な行動に目をぱちくりしているベンサム。
「サッちゃん、サガ”ここ”まで来ないと濡れるよ」
レイズがそう言った瞬間上から船が落ちてきたのであった。
「いいかエース、あいつらをバカにするためにこの船を落とそう」
「あん、どういうことだ?」
海賊たちが追いつく前、船体にたどり着いたシュライヤはエースに提案していた。
「この船をつるしているロープ、いくら頑丈と言ってもあんな人数が乗ったら落ちちまうだろうな」
「そうだな」
「だからよ”落とす”手伝いをしてやろうぜ」
そう言うと懐から机に置かれていたナイフを取り出しロープに投げつけ切れ目を入れていくシュライヤ。
「これで船が落ちても”あいつら”が原因になるし何よりバカにできる」
「いいなそれ、のった」
エースも自分たちが落ちないようにロープを準備し、下っ端共が上がってくるのを待っていたのであった。
「あっはははははは、バーカバーカ」
「本当に間抜けじゃねえか」
一番上で大声で相手を小馬鹿にしているエースとシュライヤ。
ひとしきり馬鹿にし終えると近場のテラスへと飛び降りたのだった。
「おい手前ら、ふざけんじゃねえぞ」
「「んお」」
その時、運良く助かった追い回してきていた海賊の一人がギリギリ助かったのかエースたちにピストルを構えていた。
「なぁ、もう諦めろよ」
「そうそう、お前たちじゃオレ達に敵わねえからさ」
エースとシュライヤは息切れすらしておらず、かたや下っ端海賊の男は息も絶え絶え疲労困憊という状態だった。
「ふっざけんなよ、オレ達にも意地ってもんがな」
男が最後まで言葉を発しようとした瞬間、エースとシュライヤの間を縫うように槍のような何かが通りすぎた。
次の瞬間、ピストルを構えていた男の体には穴が開いていた。
「騒々しいぞ、手前ら」
その声とともにテラスの奥、暗闇から男が二人現れた。
そして、一人の男を見た瞬間、シュライヤは自分でも抑えきれない殺意に押しつぶされかけた。
「将軍、ガスパーデ」
暗闇の奥から現れた今回の標的にして、シュライヤの殺したい相手は気怠そうに現れたのだった。
今年の目標
今年中にビビ編に入りたい。