「えー、というわけでとりあえずガスパーデをぶっ飛ばしに行くことになりましたが」
額を真っ赤にしたレイズが、無表情で話し始めたことで会議が始まった。
シュライヤとアデルの感動的再会の裏で皆に忘れ去られていたレイズはカリーナが思い出すまで気絶していた。
「そ、それは、解った、から、いい加減に、たすけ、助けてレイズ」
そして、なぜか苦しそうに話すエースは最後までレイズを指さして爆笑していた。
そんなエースは現在。
「トリアエズアトゴフンツイカネ」
「ゴメン、マジで悪かったから、いい加減弛めてください」
見事に極まったレイズによる逆エビ固めの餌食になっていた。
-”15”分後-
レイズの気が済むまでありとあらゆる関節技の犠牲になったエースは、疲労困憊の顔でソファーに寝そべっていた。
とりあえず言葉を上げる気力もないらしく、アデルが先ほどから突っついても反応できないでいる。
「さっきも言ったように、ガスパーデを追いかけてぶっ飛ばすことが決まったのですが、一つ問題があります」
そう言うとロビンに目配せをするレイズ。
レイズの視線を受け、自身の豊満な胸の間から配られたエターナルポースを”ムニュ”っと取り出すロビン。
なお、その時の反応は人それぞれだったと言っておこう。
「言われた通り調べさせてもらったけど、これはゴールへと向かうエターナルポースじゃなかったわ」
そう言うと島の名前が彫られていた彫金をナイフで取り外すロビン。
彫金は二重になっており、下からはエースたちにとって見知った名前が出て来たのであった。
「『海軍造船島』っておいおい、ガスパーデの野郎と頭目はグルだったのか」
「だとすると、ガスパーデの野郎まんまと逃げやがったということか」
エターナルポースをマジマジと見ながら苛立ちを隠そうとしないサガ。
ガスパーデを”ぶっ飛ばす”ことに目標を切り替えたシュライヤもその小悪党ぶりにあきれ返っていた。
「まあ、今頃頭目のお馬鹿さんも嵐の海域にでも送られてる頃ねぃ」
「人を信じないということは徹底しているみたいだな」
「イシシシシシシ、そ・こ・で、”これ”が役に立つのよ」
そういうと、カリーナもまた自身の年不相応に育った胸の谷間からある物を取り出して机の上にふわりと置いたのであった。
「「「「何、”これ”?????」」」」
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「ガスパーデ、ワシの孫はどこに行った」
ガスパーデの海賊船「サラマンダー号」にて一人の老人が叫んでいた。
老人の名はビエラ、ガスパーデの「サラマンダー号」のボイラーマンをしている。他の海賊団員からは「モグラ」と呼ばれ蔑まれていた。
実は、溺れかけていたアデルを救い保護したが、ガスパーデの部下に捕まってしまった。
以降、ボイラー室で大人しく働いていたが、ここ最近体調を崩しベッドで横になっていた。
そして、気が付くとアデルが消えていたのであった。
「あぁ、ガキなんざ知らねえよ。どうせ海にでも落ちたんだろ。それよりも手前はボイラーの様子でも見てやがれ」
ガスパーデはそう言うとビエラを蹴り飛ばした。
この数年間、ガスパーデに一矢報いようと様々な準備をしてきた。
心の支えだった少女がいなくなった今、老人はボイラーの前で一人涙を流していた。
「しかし、ガスパーデ様の見事な策略には私敬服いたします、はい」
執事風の筋骨隆々の男性がガスパーデの隣に現れる。
「いきなり出てくるんじゃねえよ、”ミンチック”」
「申し訳ありません。しかし、今回のように定期的に雑魚を消し去り、収入を得られるのは大変ありがたく、はい」
ミンチック。
ガスパーデの側近であり、元海軍本部所属の海兵。
弱者を嬲ることに快感を覚える厄介な男でガスパーデとはその頃からの付き合いになる。
「しかし、”将軍閣下”。そろそろ、先の海に進んでもよい時期ではあ~りませんか?」
ミンチックの後ろからマカロニのような巻き毛をしたいかにも音楽家という井出達の男が現れガスパーデに声をかける。
「”ミルキサー”か。まぁ、手前の言う通りだな。戦力増強の目途も立ったことだし、そろそろ先に進むのもいいかもしれねえな」
「そうではあ~りませんか。ニードルス殿もそろそろ退屈でしょうし」
「そうなのか?おい、ニードルスどうなんだ」
壁によりかかり腕組みをしているニードルスは何の反応も示さなかった。
「相変わらず暗い男だぜ」
「まったくですね、はい」
「それでもよいではあ~りませんか。我々の貴重な戦力なのですから」
そう言うと三人は大声で笑い始めた。
天候が変わりやすいグランドライン、曇りである事から天気が崩れるのではと考え船の速度を上げるようにガスパーデが指示を出そうとしたその時だった。
「ガスパーデ将軍、後ろから船が追い付てきます」
「なに、そんな馬鹿なはずあるか」
「いえ、あれは参加リストにある船です。名前は」
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「あった、あれがガスパーデの船だよ」
小雨が舞う天候の中、船首にてアデルが声を上げている。
彼女の指差す方向にサラマンダー号が目指できる距離までエースたちは近付いていた。
「しかし、便利だなぁ、その”紙”」
「”ビブルカード”っていうんだよ、エースの分も作ってあるから」
「イシシシシ、レイズの手際の良さに脱帽ね。こうなる事見越してあの時気絶していたガスパーデの部下の爪切っておいたなんてね」
「まったくだぜ。それをカリーナにお使いさせて作りに行かせるなんてあの短時間で良く考え付いたな」
「シュライヤよ、レイズは策士だ。”
「あらあら、サガったら案外毒舌ね」
「そんなことどうでも良いのよぅ。あちしは早く戦いたくてウズウズしてきたわよぅ」
そんなアデルの後ろに横一列に並ぶ男女(とオカマ)。
「さてと、レイズ」
「“道”は造ってやる。だから」
レイズは瞳を閉じ、穏やかな笑みを浮かべた。
「存分に暴れてこい」
「「「「「「おう!!」」」」」」
仲間の気合いの入った声を満足そうに聞くと、レイズは一歩前へと踏み出す。
両腕を鳥が飛び立つかのように広げ、サラマンダー号へと視線を向ける。
「
その声と共に、レイズの目の前に変化が現れた。
周囲の大気が徐々に形となっていく。
それは、アーチとなりものすごい速さでサラマンダー号へとたどり着き、風の道となった。
「さぁ、行ってこい」
そんなレイズの声に後押しされて皆が走り出した。
「(大気が更に不安定になってきてやがる。何事もなければいいけど)」
レイズの前方には嵐を予見させる積乱雲が渦巻いていた。
それは、これからの戦いを象徴するかのようにレイズは思えたのだった。