ガスパーデの船にたどり着いたエースたちは示し合わせていたかのように全員がバラバラになって走り出した。
全員の実力を顧みて、幹部以下の相手“程度”なら戦う必要がないと判断したレイズによる速攻作戦にうってでたのであった。
そうは言っても、どこからともなく現れるガスパーデ配下の海賊たち。しかし、レイズの目論み通り障害になることもなく全員が無事に駆け抜けていった。
ーデッキ中央ー
其処には、刀を腰におさめ油断なく前方を見据えるサガがいた。
船内を移動していたはずなのに気が付いたらデッキ中央にいた彼は薄暗い船首の方から放たれる殺気を感じ取り臨戦態勢を整えていた。
「(この気配、感じたことがある)」
サガの意識がほんの少しだけズレた次の瞬間、暗がりから大型の獣を思わせる殺気が放たれた。
殺気に反応し、刀を眼前へと構えるとそこに交差するように鉄爪が鋭い音を立てながら現れる。
”ガスパーデ海賊艦隊・戦闘隊長 鉤爪のニードルス” V.S. ”賞金稼ぎ 銀獣のサガ”
二人の再戦が始まりを告げた。
雨が強まる中、互いに間合いを意識しながら相手の出方を窺うサガとニードルス。
時折、その俊足でサガに対して揺さぶりをかけるニードルスだがサガは自身に向けられる攻撃のみを的確に必要最小限の動きで避けていく。
一方でサガも自身の間合いに立ち入ったニードルスを撃退すべく刀を振るうが、ニードルスの俊足の前にダメージを与えきれずにいた。
そうして再び相手を自身の間合いギリギリに感じる位置での膠着状態となった。
「貴様」
「あん、なんだ」
突如、ニードルスがサガに話しかけてきた。
ニードルスは酒場での手合わせにも満たないやり取りで、サガのおおよその実力を把握していた。
腐っても元海兵、相手の力量を瞬時に見抜く力はこの場にいる誰よりも高いという自負がニードルスにはあった。
「貴様、この数日で何があった」
しかし、ニードルスの目の前で油断なく居合の構えを見せるサガはたった数日で見違える程に成長していた。
それは、ニードルスの経験上ありえないことではない。
ただの一介の剣士がその境地に至ることはあり得ない。
それこそ”大剣豪”と謡われる”あの男”のような存在しか、ニードルスは考え付かなかった。
そんなニードルスの問いにサガは沈黙をもって答え、そしてこの数日で己に起きた奇跡に思いをはせていた。
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「アァン、デュー、ゴラ--------」
酒場での一件以降、サガはベンサムという強者に戦いを挑み続けていた。
サガからみてもベンサムは数段格上の戦闘者であり、その独特の戦い方は先読みを習得しようとしているサガにとって絶好の教本だった。
「アァン、デュー、ウォラ--------」
そしてサガは、今日も何もできずにベンサムに吹き飛ばされ気絶してしまった。
「ン、ガッハハハハハハ。サガちんたらヨ~ワ~ウィ~」
そんな癪に障るセリフを聞きながら暗闇へと意識が沈んでいった。
気が付くと甲板のデッキチェアーに横にされていたサガは起き上がり、眼前の光景へと意識を向ける。
「アァン、デュー、ウォラ--------」
「ウォラ--------」
「アァン、デュー、ゴラ--------」
「負けてたまるか」
そこにはエースがベンサムと模擬戦の域を超えかけた戦闘を行う姿があった。
「悔しそうね」
サガの背後、正確には船内へと下るドアから出て来たカリーナの第一声に思わず否定の言葉が出かけた。
だが、今目の前で起きている光景を目の当たりにして自分に嘘をつく気はサガにはなかった。
「あぁ、悔しいな」
それほどまでにベンサムとエースの模擬戦は凄まじかった。
「なぁ、お前らはなんでそんなに戦えるんだ」
それは当然の質問であった。
非戦闘員と括られるカリーナも、ロビンとの戦闘訓練で旗を駆使した独特の戦いで制限時間全てを危なく逃げ切った。
エースとカリーナ、二人と自分の違いを知りたいと思ったサガからそんな言葉が不意に漏れたのだった。
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「・・・邪魔をするな」
「あぁん」
突然、ニードルスがサガに対して語りかけたきた。
「邪魔をするなと言っているんだ。お前たちではどう転んだところで、あの化け物を倒すことなどできない。オレから海兵の誇りを奪ったあの男だけはオレが倒す」
ニードルスのその発言にサガの表情が曇る。
その僅な隙を見逃す程ニードルスは甘くも優しくもなかった。
「(好機)」
自身が出せる最高速でサガへと迫るニードルス。
その鉄爪がサガの心臓を抉り取ろうとさし迫る。
その時、ニードルスは不思議な感覚に見舞われた。
視線を上げたサガと目があい、その目は憤怒に染まっていた。だが、戦闘者としての自身はサガから攻撃の気配を一切感じなかった。
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「私は心に旗を掲げているの」
カリーナからの返答は意味不明な物だった。
「あたしもエースもレイズに追い付こうと無理してたこたがあってさ。その時に、ガープ中将とレイズの会話を聞いたんだ。そしたらあの二人同じこと言ってたんだ」
「それは、一体?」
「それは、“心の真ん中に絶対譲れない象徴を掲げる”ことだってさ」
ひどく抽象的な答えにさすがのサガも戸惑いを隠せないでいる。
「自分がこう有りたいと思える何か、それが心の真ん中にあり続ければその人は何度倒れても立ち上がれるんだって」
そう言うとカリーナは船内へと帰っていた。
恐らくサンディとレイズが良い雰囲気になるのを邪魔するために。
「”絶対譲れない象徴”・・・・・かぁ」
それはサガが考えてこなかった気持ちの在り方だった。
我武者羅に鍛えれば体に力はつき、その力こそが刀を振るうのに重要なのだと考えていた。
「ちょっとちょっと、なーにを黄昏ちゃてんのサガちん」
「へいへいへいへい、次はシュライヤとサガが対戦するぜ」
「よっしゃ、それじゃ今晩のおかずをかけるぞ」
いつの間にかシュライヤまで加わっていた模擬戦。
その光景に頬が緩むのをサガは確かに感じていた。
「(それが先生の言っていた”無天の極致”なのかもしれないな)」
「バレてレイズに怒られてもオレは助けないぞ」
「「「えぇ~、助けてよ」」」
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-我が心に刀を-
いつになく穏やかな気持ちでサガはニードルスが突撃してくるのを見ていた。
-未だ鈍らなれど、いずれ世界の頂へと駆け上がるその日まで-
しかし、一方で灼熱の焔のような怒りが全身を駆け巡っていることも実感していた。
-オレは
「くたばれ、剣士」
ニードルスがサガの間合いに触れた。
「一刀流」
この時、サガは自身の奥底で刀の抜刀する音を聞いた気がした。
「居合」
サガは慣れた動作で刀を抜き、ニードルスの鉄爪ごと刀を振るう。
「
サガの刀が砕け、サガが崩れ落ちる音がした。
その音を聞き、暗く笑うニードルス。
「お前からはエースのような魂が燃える熱さも、レイズのような何者にも捕らわれない風のような気高さも」
サガが語り掛けるのと同時にニードルスの鉄爪が砕けた。
「カリーナのような満月のような心を躍らせる煌びやかさも、シュライヤのような大樹のような何ものにも代えられない信念も」
鉄爪が砕けると今度はニードルスの体に斜めに刀傷が走る。
「ベンサムのような太陽のような温かさも、サンディのような咲き誇る花のような強さも何も感じない」
身体を起き上がらせニードルスへと視線を向けるサガ。
その目に貫かれた時、ニードルスは自身の心が折れる音が聞こえた。
「この船から逃げ出さずに、ガスパーデの元にい続けることを選んだ時点でお前は海兵じゃなくなったんだよ」
サガの声が聞こえたのかどうかは定かでないが、刀傷から大量の血を流しニードルスは気絶した。
「ちっ、また刀探さないとな」
”ガスパーデ海賊艦隊・戦闘隊長 鉤爪のニードルス” V.S. ”賞金稼ぎ 銀獣のサガ”
勝者 サガ