一連の騒動の中、皆さんは無事に過ごされた居ましたか。
まだまだ、完全終息には至っていませんがどうかご自身と周囲の皆様のためにご自愛なあって生活してください。
ベンサムにとって人生のターニングポイントと呼ぶべき出会いが2回あった。
一つは憧れの“あの人”との出会い。
自分というあやふやな存在に対して形容しがたい違和感を常に抱えて生きてきたベンサム。
そんな自分を肯定してくれるような大きな存在。
彼の女王との出会いが、本当の自分と向き合う切っ掛けとなったのだから。
その数年後、今度は不思議な少年に出会った。
人形のように唯々、周囲を写すだけの硝子のような瞳。
目的も、夢も無く生きるだけの人形のような少年。
自分を変えてくれた、憧れの女王のように、そんな少年を変えたいと付き添い続け、別れの時に見せた笑顔の眩しさに確信した。
“自分はコレでいいのだ”と。
それから数年、自らの信念を曲げてまで掴みかけた憧れの人の行方。
またあやふやになり始めた自分は彼の少年に再会した。
そして再び、期間限定ではあるが供に戦いに身を投じている。
そんな青年になったかつての相棒に顔向けできないことだけはしたくない。
そう考えていた。
“ガスパーデ海賊艦隊
「アン」
「あん」
「デュー」
「どー」
「「ウォラー」」
ベンサムの攻撃にマカロニのような巻き毛をしたいかにも音楽家という井出達の男“ミルキサー”が鏡に映したように同じ蹴りを放つ。
「アン」
「あん」
「どー」
「デュー」
「「くぅぉらー」」
再び、同時に放たれる回し蹴り。
先程まで半歩遅れて放たれていたミルキサーの攻撃は徐々にベンサムの攻撃速度を上回り始めていた。
「ん~も~、あんたったら何なのよぅ。さっきっからあちしの“マネ”ばかりしてぃ」
そんな現状に苛立ちを隠せないベンサム。
反対に自慢巻き毛をきにする余裕をまで見せるミルキサー。
「“マネ”とは心外な。これは、わたくしの拳法」
「“ケンポウ”?」
「そう、相手の攻撃を観察し、見切り、その呼吸に合わせる。そうすることで相手の攻撃の威力を乗せた攻撃を放つ、その名も“輪唱アタック”」
室内での戦闘にも拘らず、何故か背面で爆発を起こすミルキサー。
煙と音がすごいだけで室内が燃えてはいなかった。
「うっわぁ~、ダッサ~」
そんなミルキサーを思わず真顔で感想を返してしまったベンサム。
しかし、誰も攻めはしないだろう。
「だ、ださ、ダサいとはあなた失礼ではあ~りませんか?そう言いながらもあなたは既にワタクシの美しいマッスルとこの洗練された髪型の前に他も足も出てないではあ~りませんか」
「髪型は関係ないでしょうよ」
多少の怒りを込めたベンサムの蹴り。
しかし、ミルキサーは気持ち悪い笑みを浮かべるとその攻撃をベンサムのようにまるでオカマを舞うように回転して避けてしまう。
「ふん、だから無駄だと言ってるではあ~りませんか。あなたの軟弱なマッスルではワタクシの鍛え抜かれた美しいマッスルの前には意味をなさないと」
そして、その回転の威力も乗った回し蹴りがベンサムを捉え壁へと打ち付ける。
「(うん?今の感触、少しおかしかったではあ~りませんか。まるで紙を蹴り挙げたように軽かったような?)」
壁まで吹き飛ばされたベンサム。
しかし、ミルキサーの考えているとおり、実は攻撃の瞬間自ら後ろに跳ぶことで勢いを殺し、ダメージを最小限に減らしていたのであった。
「(本当にもうジョーダンじゃないわよぅ!)」
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「サッちゃん」
それは、久方ぶりに会ったダチからの会話から始まった。
「あらレイちゃんどうしたの」
思い起こせば、目の前の友が張り付けた表情の大半は“無”だった。
別れたあの時も最後のその一瞬までもしかしたら笑顔を見たことかなかったかもしれない。
ベンサムにとってレイズという存在は過去に置いて来てしまった後悔の象徴だったのかもしれない。
だから、あの時思わず声をかけてしまったのかもしれない。
「サッちゃん」
今まで笑顔だったレイズは一転して真剣な眼差しをベンサムへと向けている。
「“人の道”から外れることを一番嫌う貴方が“ソコ”に居続ける理由を聞こうとは思わない」
「レイちゃん」
「“オレ”が悪役で構わないから頼みがあるんだ」
そう言って笑ったレイズの顔はベンサムが知る中で最も輝いているように思えた。
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「そろそろ、終わりにしようじゃあーりませんか」
ほんの一時、目の前の敵から意識を外していたことにベンサムは笑いそうになった。
しかし、友が建てた計略と自分の野望のために自分はこの役割を全うするほかなかった。
「それじゃ、死んでもらおうじゃあーりませんか」
「ふん、何ふざけたことホザイてんのよぅ。終わるのはあんたのほうよぅ」
二人の間合いが重なり、互いが攻撃に移ろうとした次の瞬間、突如として船が大きく揺れた。
慌てて身構え攻撃の構えを解いてしまうミルキサーに、一振りの鎗と化した強烈な脚激が突き刺さった。
次の瞬間、ミルキサーは部屋の壁を突き抜け2つ先の鉄扉まで蹴り飛ばされた。
「んがーっはっははー。あんた勘違いしてんじゃないの」
依然として揺れる船内、立ち上がることで精一杯のミルキサーの目前には目を疑う光景が映っていた。
「そんなブッサイクな筋肉であちしのオカマ拳法を真似しようなんて、あんたヴァカじゃないの」
そう言って揺れる船内で一切ぶれることなく真っすぐに自分に向かって歩いてくるベンサムの姿があった。
「来日も来日もレッスン、レッスン。日々レッスンに打ち込み続けたこのあちしの柔軟で柔らかなバディこそがあちしのオカマ拳法の持ち味なのよう」
「ワタクシの美しいマッスルとこの洗練された髪型をこともあろうにブ、ブサイクとは失礼な」
「もう終わりにしてあげるわ。見なさい、これこそがオカマ拳法の
ベンサムは懐から取り出した数字の“3”にも見える白鳥の嘴のような器具をトウシューズの先端にセットした。
「受けなさい、そして華々しく散るがいいわ」
「黙りなさい、ワタクシが負けるはずが有るわけ無いではあーりませんか」
「オカマ拳法・
「輪唱アタック・最終楽章」
「
互いが技を放った瞬間、あれだけ揺れていた船は静寂を取り戻していた。
互いが己の持てる最高の技を放ち、その残心にある最中、ミルキサーは自身の勝ちを確信し笑みを浮かべた。
しかし、先に動いたのはベンサムだった。
「あんたの敗因はただ一つ」
そう言ってミルキサーを見ようとせず、そのまま自分がぶち抜いた壁から廊下へと出ていく。
「相手があちしだったことよぅ」
“ガスパーデ海賊艦隊
勝者 ベンサム