ONE PIECE-彼を王に-   作:完全怠惰宣言

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言い訳も出来ませんが遅くなり申し訳ありません。
皆さんが少しでも楽しんでいただけるのなら幸いです。


その果てに掴み取れー焔人ー

ジャク・ポッド号デッキには降り始めた雨にうたれながらレイズが1人仲間の帰りを待っていた。

エース達が不在の今、船に掛けた空気の橋である「凪の架け橋」の維持と襲いかかってくるガスパーデの部下達の対処に当たっているため、仲間を追いかけられないでいた。

 

「エース、みんな。無事に帰ってこいよ」

 

しかし、その目には一切の不安が写されていなかった。

彼にとって始まりはエースだったかもしれない。

現在の「フェンシルバード・レイズ」という存在が確立され、記憶と自意識の混濁が起き、自我が不安定な日々が続いたそんな時にエースと出会った。

〇〇〇〇だった頃に知りえた物語、その結末を思い出したい。

そんな願いがあったこともとうに忘れた。

今はただ仲間達と共にありたいと心から願っている。

そんなレイズの胸中を知る者はいないだろう。

だから、そんな彼の本音は一人の時に呟かれるようになった。

 

「まだまだ、旅も始まってないんだ。もっともっと世界を見て周ろうぜ」

「だから、エース」

 

その視線の先には半壊した船が見えていた。

しかし、レイズにははっきりと見えていた。

 

「こんなところで躓いてんじゃねえぞ」

 

太陽のように明るい笑顔で自分の前を走り続けるエースの姿が。

 

 

 

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サラマンダー号のデッキでは対照的な光景が広がっていた。

船はズタボロになり廃船でももう少しマシじゃないかというような姿のデッキに無傷のガスパーデが気怠そうに立っていた。

そして、その反対側、ガスパーデが立っている場所よりは破壊の後が見当たらない。

しかし、そこに倒れ伏しているエースとシュライヤは目を背けたくなるような悲惨な有様だった。

 

「手前ら、口ほどにもねえな。まったく船をこんなに壊しやがってどうしてくれるんだ」

 

何処からか引っ張り出してきた椅子に腰かけたガスパーデが悠々と二人を見下す。

喋る気力すらないのか、荒い息を整えるのに必死で意識が飛びそうになっているエースとシュライヤ。

 

「雑魚どもが。暇つぶしにもなりゃしねえじゃねえか」

 

ガスパーデから放たれる屈辱の言葉すら返す余裕が二人にはなかった。

それでも、ガスパーデに負けたくないという二人の意地が、その闘争本能に火を入れる。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」

 

もはや獣の咆哮にも聞こえる叫びをあげてガスパーデへと突撃する二人。

そんな二人を哀れそうに見ながら椅子から立ち上がることなくガスパーデは両腕を振るった。

飴と化したその腕は鞭のように二人を捕らえ何度も何度もデッキへとぶつけ、最後に適当な壁へと投げつけた。

 

「本当に、暇つぶしにもならねえな」

 

そう呟くとガスパーデは船長室だった場所へと歩いて行った。

 

 

 

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エースは歩いていた。

そこには空も大地も海もない闇だけが広がる場所だった。

足を動かすたびに闇は纏わりつき、思考が徐々に黒く染まっていくのを自覚した。

 

ロジャーに餓鬼が居たら、真っ先に殺してやるのによ

 

歩いている最中、今まで生きてきた中で言われてきた罵詈雑言が呪いのように木霊していた。

何時から歩いていたのか分からず、ただただ歩いているエース。

 

“鬼の子”なんて、居なくて正々するぜ

くたばっちまえ

ロジャーの血族は皆死んじまえばいいんだ

 

その間もひたすらに聞こえる言葉に何故か耳を覆うことすらできなかった。

そんな時だった。

 

オレの名前はサボ、いつかこの自由な海に出るのが夢なんだ

 

初めて出来た兄弟の声が聞こえた。

 

エースもサボもオレのにいちゃんだ

 

今も故郷にいるであろう弟の声が聞こえた。

 

あたしの馬鹿”息子”達を二度と理不尽にさらすんじゃねえ

 

決して認めることはないであろう義母の声が聞こえた。

 

エース、あなたはお母さんが守ってあげるからね

 

知らないはずの女性の心地いい声が聞こえた。

 

そうして、次々聞こえてくる声を目指し次第に歩みは軽く、早くなっていくエース。

 

そして、目の前には太陽のように輝く何かがあった。

その何かを前に躊躇していた次の瞬間、誰かに優しく背中を叩かれる感覚がした。

 

こんなとこで何遊んでんだよ、とっとと行こうぜエース

 

そう言われエースは後ろを振り向いた。

そこにはレイズを中心に、カリーナが、シュライヤが、サガが仲間が笑って立っていた。

仲間たちに手を伸ばした時、エースは何かに触れた感覚を持った。

周りを見渡すと瓦礫と化した部屋だった。

そこには仲間はおらず、一人倒れている自分だけがいた。

頭を振るうと自分がガスパーデにやられた記憶がよみがえってきた。

 

「しっかし、どうすればあいつを殴れるんだ」

 

考えようと腕を組んだエースの目の前に宝箱が何故かあった。

 

「なんだ、コレ?」

 

警戒心を見せることなく宝箱を開けるエース。

中には奇妙な形をした果物のようなモノが入っていた。

 

「まさか、こいつは“悪魔の実”か」

 

そんな自分のつぶやきに、以前レイズに教わったことが思い出された。

 

 

 

「“悪魔の実”を食べて能力者になることで“弱く”なることはまずない」

 

そう言い切ったレイズはソファーに座りながらオレンジジュースを飲んでいた。

 

「なんでそんな事言い切れるんだよ」

 

まだ二人で旅をしていた頃、ひょんなことからエースが「能力のアタリ・ハズレ」についてこぼしたのが始まりだった。

 

「だってよ、オレの弟は体がゴムみたいに伸びたり縮んだりするだけでレイズみたいに風を操って斬ったり浮かしたり出来ないんだぜ」

「いいかエース、悪魔の実の能力者に求められるのは発想と着眼点そして能力の理解度だとオレは思ってる」

「はっそう?ちゃくがんてん?りかいど?」

 

エースが不思議そうに顔を傾けるのを見て、レイズは徐にジュースの入ったグラスをエースの目線まで持ち上げた。

そして、能力を使用してグラスの中のジュースを自分の口に運び、ジュースを綺麗に飲みほした。

 

「風を操ると言うけど実際にオレが操っているのは“空気”。もっと詳しく言えば地面から数ミリ離れた個所から存在する“大気”を操ることでこういった芸当も行えるようになった」

「それがなんだ」

「つまり、オレの場合“大地”や海に少しでも接してしまっている個所に存在する“大気”を操作することが出来ない。それに流動的な“大気”を停止させたりすることは不可能だ」

「その代わり、一定範囲の大気を操ることで空気の中に含まれる様々なモノの濃度を上げたり下げたりできるし、お前の言ってたカマイタチで斬りつけたり、全身に大気を纏って空を飛ぶことも可能だ」

「これは、オレが今まで能力を使用してきた中でこんなことが出来るんじゃないかという発想、そもそもエアエアのエアが何なのかっていうところに疑問を持つことが出来た着眼点、そして色々と試行錯誤をしてきた結果、自分が今現状この“エアエアの実”の能力を理解しきれているから細かい操作も出来るんだ」

 

そう言うと、テーブルに置かれていた空の皿をシンクへと風に乗せて運ぶレイズ。

 

「自然系なら自分の能力がどういったものか知れば知るほどに出来ることを突き詰めれることが出来るし、動物系ならそもそも身体能力の向上が約束されているようなもんだろ」

「そんなもんかね」

「とにかく、この先もしお前が“機会”を得たとしてそれをどうするかは自分で決めろ」

「もし、オレが能力者にならずに売っぱらちまおうって言ったらどうすんだよ」

「そん時は豪勢に遊び尽くす」

 

 

 

そんな会話を思い出しながら目の前にある不思議な形の実をエースは見つめた。

 

「今、オレに必要なのは“力”だ。そうだよなレイズ」

 

エースは迷うことなく目の前の実に齧り付いた。

 

 

 

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船長室の残骸でガスパーデは世界政府から預かった電伝虫の入った箱を探していた。

 

「たく使えないゴミ共ばっかだ、さっさと連絡とってこんな場所から移動するか」

 

そうぼやいていたガスパーデは突如として襲われた悪寒に後ろを振り向いた。

それと同時に瓦礫と化した船から突如巨大な火柱が立ち上がった。

その中から悠々と一人の男が姿を現した。

 

「よう、ガスパーデ」

 

それは火が徐々に人の姿を模っていき、ついに一人の男の姿となった。

 

「第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

炎の悪魔の力を得た鬼の子。

“火拳のエース”が誕生した瞬間であった。


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