“三竦み”という言葉がある。
三者が互いに得意な相手と苦手な相手を一つずつ持つことで、三者とも身動きが取れなくなるような状態のことである。
「グラララララ、お前らまだ諦めてなかったのか」
白鯨を彷彿とさせる自身の船『モビー・ディック号』船首に長年戦場を共にしてきた『むら雲切』を片手に豪快に笑う男。
“白ひげ”の異名と共に『最も“海賊王”に近い』と目される巨漢。
『エドワード・ニューゲート』は三竦みの均衡に陥っている残り2人を見ていた。
「ウオロロロロ、死に損ないのクソジジイが。いつまでも上から見てるんじゃねえ」
龍を象った船首に立ち、自慢の金棒を担ぎ上げ今にも戦闘開始を告げそうな白ひげを越える巨漢。
眼窩上隆起で発達した眉骨辺りと目の下部にある複数の縦皺、血走った目など見る者に恐怖を与える威圧感のある人相。
そして、“龍”を連想させる特徴的な髭。
“百獣”の異名と共に『世界最強の生物』と恐れられる漢。
百獣海賊団“総督”『カイドウ』が獰猛な笑みを浮かべ開戦を待ちわびていた。
「マンママンマ、お前らオレの可愛い婿様に用事か?」
丸々とした体つきで、先程から子供のように表情がコロコロと変わり、はっきりとした表情と口紅や大きな鼻と丸い形の強靭な歯が特徴的。ピンク色の巻き毛の髪にこれまたピンクの水玉模様のキャミソールのようなワンピースや白と黄色のマントを着用。左腕にハート型の赤いタトゥーを入れている女性。四皇の紅一点であり、
海軍からは「生まれついてのモンスター」と称される程の怪物。
ビッグ・マム海賊団の船長にして
『シャーロット・リンリン』は愉快そうに嗤っていた。
嘗て同じ海賊団に所属した3人は長い年月を経た今、実力的にも条件的にも互いに拮抗していた。
純粋な戦闘力で言えば白ひげに軍配が上がるだろう。
事実、彼が睨みを効かせるビック・マムは彼と戦えば僅差で負けるだろう。
そんなビック・マムだが、彼女の能力から考察される手数の多さはカイドウにとって脅威であった。
一対一であれば間違いなく最強と目されるカイドウ。
最も年若い彼が暴れると、身体を病魔に蝕まれ年々衰えている白ひげには倒しきれない相手として認識されていた。
そんな三竦み状態になったとある島を目の前にした現在、最も神経をすり減らしているのは各船に乗船している副船長たちだった。
「まったく、オヤジも人が悪いよい」
白ひげの艦隊において一番隊の隊長を務めるマルコは白ひげの号令が掛かれば、いつでも飛び出せるように臨戦態勢に入っていた。
「ちっ、ここでミスったらキングのアホに何言われるか解ったもんじゃねぇぜ」
百獣海賊団“大看板”を背負い『疫災』の異名を持つクイーンは今回持ち込んだ『疫災弾』の残弾と効果を頭に浮かべながら、戦闘にならないよう心の底で祈っていた。
「ペロリン♪ホーミーズ、ママの合図があり次第戦闘だ」
シャーロット家長子であるペロスペローは母であり“便宜上”の船長であるビック・マムの号令を待ちつつ、いかに戦闘を回避するか頭を回していた。
「うひゃひゃ、どうよ社長?」
白いワイシャツに少し緩めのジーパン、足首まで覆うサンダルという姿のレイズは隣で興奮を隠そうとせずシャッターを切り続ける今回の一番の協力者に声をかけていた。
「いいぞいいぞ、嘗てロックス海賊団にいた四皇達の三竦み。これはビッグニュースだ!!」
世界経済新聞社長モルガンズは用意された撮影スペースから有りとあらゆる手段を用いてその光景を撮影していた。
「(クスッ)“あれ”を越えるビッグニュースがもう少しで届きそうなんだけどな」
「ん、何か言ったか、レイズ?」
「んにゃ、お気になさらずに」
ニコニコとモルガンズに手を振るレイズ。
再び水平線へと目を向ける。
「ほら、オレの勝ち」
そこには、1隻の船が風に逆行する勢いと加速力で島へと向かってきている光景があった。
「おいおいおいおいおいおいおいおい、“あれ”を突っ切って行くのか?」
操舵を任されたサガは目の前の化け物の三竦みを見て声をあげていた。
「そのための秘密兵器が船尾にあるから、それを使うためにエースが船尾に行ってるんだが。おいカリーナ、マジで突っ込むのか?」
張ってあった帆を畳み終えたシュライヤがカリーナの真後ろに降り立つ。
真っ直ぐ前を見据えるカリーナからはなにやら黒い気配が感じられた。
「レイズの傍に女の気配がする、しかも1人は喰ってる気配がする」
光を消失した瞳が真っ直ぐ捕らえる島。
ことレイズの“そういったこと”へと働くカリーナの勘はバカにできないものがあった。
「「(関わらないどこ)」」
サガとシュライヤ、末っ子二人の面倒を押し付けてた自覚はできたが、男と女の関係で口を出す気は更々なかった。
「エース!!まだなの!!」
船尾にいるエースへ伝声管を通してカリーナのゲキが飛んだ。
『まだ説明書読み終わったばっかだ。もう少し待てよ』
ジャック・ポッド号船尾に新たに設置された装置に入ったエース。
先程まで読んでいた説明書によれば、この装置は今後の冒険をよりスリリングかつエキサイティングにしてくれる装置だった。
【この説明書を読んでいるのはエースだろうから簡単に書く】
「うるせぇよ」
【エースがメラメラの能力を後の巨大な鉄の筒におもいっきり撃ち出すことで炎の力を推進力にした爆速ダッシュが可能になる】
「まじか!?」
【追伸、帆はちゃんと畳んでおくこと】
「そこまでバカじゃねえよ!?・・・・シュライヤ、帆を全部畳んでくれ」
装置の前で深く息を吐くエース。
全身を炎に転化し、徐々に炎を右手に集中させていく。
右手の炎の色が変わっていき、白く輝きだした。
筒を見据え、その中心を叩くように右手を思い切り撃ち出す。
「火拳」
一点に凝縮された炎は白く輝き船尾の大筒から物凄い音と共に放たれた。
その凄まじい勢いはジャック・ポッド号を強制的に超加速させ、真っ直ぐに海を滑るように翔んでいった。
「うん?」
「あぁ?」
「おやぁ?」
白ひげ、カイドウ、ビッグ・マムの3人がその異変に気がついたのは、3人が睨みあうために立っていた船首を物凄い速さで通り抜けていった一隻の海賊船を微かに視認したのと同時だった。
3人が一斉に島を見ると、船は島へと突き刺さり今回の胴元兼賞品であるレイズには嬉しそうに抱きつく小僧達が目に入ってきたのだった。
「「だ、出し抜かれたーーーーーー!!」」
「グラララララ、レイズの野郎の言う通りになったな」
物凄い音と共に突貫してくる一隻の船。
「おいおいおいおい、レイズ“あれ”はなんだ!?」
流石のモルガンズも船が海の上を滑るように翔んでくる姿に度肝を抜かれていた。
「あれこそが、社長に言ってた今回の目玉『次代の海賊王』の乗ってる船さ(あれ?でもあの勢いで止まれるかな?)」
レイズの心配は持ち論的中し、モルガンズの横ギリギリに船が突き刺さった。
「あちゃー、引き抜くの大変そうだなぁ」
呑気に笑うレイズの耳に、久方振りの声が聴こえてきた。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
その呑気そうな声は目の前の船からではなく、何故か空から聴こえてきた。
「おおおおおおおおおおお」
徐々に自分に近づいてくるその声にレイズは空へと視線を移した。
「おおおおおおおおおおおお」
声のする方向に目をやると、そのバカは太陽を背にして猛スピードで落ちてきていた。
「おおおおおおおおおお、あ!!レイズーーー!!」
その勢いで突っ込んでこられると流石に痛いじゃ済まないので、レイズは徐にその人影へと手を伸ばした。
「
レイズの周囲に風の障壁が発生する。
その風の障壁により物凄い勢いで飛んできた人影は軌道を逸らされ再び空に打ち上げられた。不思議そうな顔をした件の人影は、勢いがつきすぎたことに気がつくと、少し勢いを殺して再び落ちてきた。
「レイズーーー!!見付けたーーーー!!」
そして今度は、風に誘導されレイズへと抱き付いてきた。
「遅えぞ、エース」
「わりぃ、待たせたレイズ」
久々の再会に子供のような笑顔をするエース。
そんなエースに少し困ったような、嬉しそうな顔で答えるレイズ。
その声を合図にしたのか、船から次々と人が降ってきた。
「レイズーーー、寂しかった」
「ごめんねカリーナ」
「よぉし、賭場荒らしに行くぞ」
「それはもう少し待ってねシュライヤ」
「また、鍛練の手伝いを頼む」
「おう、任せろサガ」
降ってきた3人に潰されているエース。
その顔は何故かとても嬉しそうだった。
「ところで、れいずからおんなのにおいがするんだけど、どういうこと?しかもふたりぶんも」
カリーナの抑揚のない声が聞こえたのかエース・シュライヤ・サガはサッとその場から離れた。
「おい、お前」
そんな薄情な男達の後からフワフワと少女が浮きながら現れた。
素肌の上には見慣れた男物の白いワイシャツ。
黒いミニスカートと合間って大変可愛らしい。
そんな少女、ペローナは目の前の胡散臭い女(ペローナ視点)を値踏みするように見る。
対するカリーナもどこかムカツク目の前の浮いてる女(カリーナ視点)を値踏みするように見据える。
互いに納得したように小馬鹿にするように鼻で笑う少女。
「あたしが本妻だからな!!ホロホロホロホロホロホロ」
「ハッ!あたしが本妻よ!!うししししししししししし」
「「あぁん」」
睨み会う美少女、そんな光景が繰り広げられたいるなか、レイズはというと。
「レイズ大丈夫?はいお水」
「ありがとねプリン」
「ううん、気にしないで(あのアホ共が醜く争っている間に、あたしはレイズの好感度稼いでレイズの幼妻として確固たる地位を築き上げてやる)」
「(プリンも悪い笑顔浮かべてるんだけどなぁ)まぁ、良いか」
「オレのレイズが~」
「誤解を招くからその言い方やめろエース」
「君らがレイズの認めた海賊団かね。フム、まぁ合格だ」
「なんだこのガリガリ貧弱で傷だらけの優男は」