こんなはずじゃなかったのにな。
ロビンとノインがノリにのって全長2mに及ぶ退職届を書き乗ってきた巨大亀のバンチに持たせてから2日。
とある無人島に停泊したジャック・ポッド号とゴーイング・メリー号。
“それ”は、2隻の船の前に広がる砂浜で行われていた。
「しっ!!」
その人物が勢い良く腕を振るうと右手の中指についた細長いチェーンが腕の延長と言わんばかりに勢い良く伸びる。
そして、先端についた羽のような刃物がランダムに立て掛けられた板に勢い良く突き刺さる。
「ふっ!!」
その動作に繋がるように身体を回転させ今度は左手の中指についたチェーンがカーブを描いて重なるように置かれた2枚の板、その後ろの板に先端の刃物を突き刺す。
そして、再び身体を回転させ指についた指輪状の器具の中にチェーンが勢い良く戻ってきて収納された。
その姿はダンサーが華麗に踊りを踊るようであった。
そして、最後に回転する身体を無理矢理止め回転の勢いを全てを右腕に乗せるようにすると、右手のチェーンが今までで一番の速さで真っ直ぐと伸び、砂浜に植わっていたヤシの幹を貫通し倒してしまった。
「
「「「「「出来るか!!」」」」」
“軽い”運動をしたかのように笑顔で顔の汗を拭うシュライヤを後ろに戯れ言をのたまうのは鍛えると約束したレイズ。
そして、その戯れ言に対してツッコミをいれるのは身体能力一般人組(ナミ、ウソップ、ビビ、イガラム)だった。
始まりは“とある島”へと向かう途中、無人島を見つけたエースがルフィと修行したいと駄々をこねてそれを
「ビビ王女、今時間よろしいですか?」
海を眺めるビビにレイズが声をかけてきた。
レイズの方を向くビビの視線の先、砂浜には大量の板が立てられており、その側でラチェットとウソップが息も絶え絶えに倒れていた。
「鍛え上げる、とお約束しましたから今からやろうと思うので動きやすい服着て砂浜集合してください」
「えっと、今からですか?」
「まぁ、現状で貴方がどれだけ動けるかを見させていただきたいと思いまして。
そう言われてしまうと、イガラムから反対されるのが目に見えていたビビには拒否権はなかった。
カリーナから借りたジャージを身に纏い砂浜に降り立ったビビは武器である「孔雀スラッシャー」でレイズの指示があった的を攻撃するべく、砂浜を縦横無尽に動き回っていた。
レイズの終了の声とともに砂浜に座り込んでしまうビビ。
そして、以外に戦闘が出来たことに驚くナミとウソップ、自分が目を離した隙にまた無茶をしているビビを心配そうに見つめるイガラム。
これだけ動ければ、そう4人の思考が一致した中で言われた言葉は衝撃だった。
「え、本気?」
それは、心底「この娘、大丈夫かなぁ?」と心配している顔をしたレイズの声だった。
「まず、“護身”を目指すなら合格点でした」
ウソップ特製折り畳み黒板を設置したゴーイング・メリー号甲板にて「おめでとうパチパチパチ」、と抑揚の無い声で死んだ魚のような目をしたレイズが立っていた。
「それの何が悪いのですか!姫様に殺しをさせる気など私はありません!」
その明らかに人をバカにした態度を受けてイガラムが思わず返してしまう。
その後ろではナミとウソップも頷いていた。
「いや、“倒す=殺す”って発想が間違いですよ。さっきも言ったようにビビさんの今の力では格上に手も足も出ないということを認識してほしいのです」
眼鏡を指で押し上げイガラムの考えを訂正させるレイズ。
「No.0~No.5ペアまでが能力者で構成されていると伺いましたが、No.6及びNo.7ペアに関してはどうでしょうか。非能力者であると掴んでらっしゃるそうですが実際は能力者である可能性も残っている上に非能力者であってもそこら辺の能力者よりも強い奴なんて普通にいます」
「でも、ビビにはゾロすら誘惑させたダンスが」
「あんなんガチの実戦で使えるかボケ」
旗色が悪くなる一般人組の中、ウソップが起死回生とばかりに一味の戦力であるゾロすら嵌まった踊り“メマーイダンス”を話に出そうとする。
しかし、それすら一蹴の元に切り捨てられる結果となった。
「ナノハナでしか作られない特殊調合の香水と視覚効果により酩酊に近い状態にする服。どちらかが欠けてたら使うことが出来ない技を戦力としてカウントするのは無駄」
バッサリと言い切るレイズ、ビビ以外の3人が項垂れている後ろでビビが必死にレイズを拝んでいるのだがそれには理由があった。
それは、実技よりも前に学習した方が良いなとメリー号に来る途中のことだった。
「ビビさん、正直“メマーイダンス”ってどうなの?」
準備の関係で先にメリー号に戻ったウソップとナミの後を歩いているとビビにとって触れて欲しくないモノにさらっと触れてきたレイズ。
「えっと、正直なところ嫌です」
「だよね、“ミス・ウェンズデー”は“そういうキャラ”だったけど、アレ使いどころが難しいし正直使えないし」
「え!?ネフェルタリ家の女は覚えるべきだってイガラムが」
「使うのに必要条件がありすぎる技は意味が無い。だったら、切り捨ててスラッシャーの方を鍛えた方が良い」
「私、結構恥ずかしかったのに」
「(まぁ、一般的な男からしたか眼福なのは黙っとこ)」
そんな経緯もあり、ビビとレイズの間で孔雀スラッシャー自体の強化及びビビの強化が決定したのだった。
そして、冒頭に戻る。
ラチェットによる強化・改修を受けた孔雀スラッシャーは武器としての強度も上がったことにより、潜入時よりも格段に攻撃力が上がっていた。
使っている人間がある種の規格外であることも含めてビビの目指す理想の形を実演した訳だが、結果総ツッコミを受けることになった。
そして現在、ビビは“あるモノ”を手に甲板で真剣な面持ちでいた。
「ねぇ、あんなことしてて本当に大丈夫?」
デッキチェアに座り、オレンジジュースを片手にビビを見守るナミはどう見ても遊んでいるようにしか見えない状況に疑問を浮かべていた。
「遠回りに見えるでしょうが、“あれ”が一番安全なんで」
若干眠そうなレイズはビビと一緒に“それ”を器用に操るウソップを眺めていた。
「手首の動きや身体との連動性を覚えるなら“ヨーヨー”の方が安全なんですよ」
レイズの視線の先、そこにはヨーヨーで様々なトリックを決めるウソップ、その後ろで上手く手元まで戻ってこずに悪戦苦闘しているビビとそのビビに丁寧に教えているシュライヤがいた。
「ナァミすわぁーーーーーん、オレンジジュースのおかわり御持ちしました」
「はい、レイズに頼まれたレモン水と経口補水液持ってきたよ」
そこにラブコックサンジとプリンも加わり、メリー号のデッキは騒がしくなっていった。
「ところでよエース、どこ向かってんだ?」
昼食時、頬と腹を目一杯膨らませたルフィがエースに尋ねたのは船の進路だった。
「あぁ、ちと知り合いの婆さんに頼まれてな。喧嘩の仲裁に行くことになったんだよ」
「それが、ウィスキーピークの次に示す島。太古の姿残る伝説の島“リトルガーデン”ということですな」
「まったく、エースがあの婆さんに賭けで負けるからこんな面倒ごと頼まれるんだよ」
「イヤ、お前も思いっきり負けてるだろシュライヤ」
「まぁ兎に角、お使いを済ませるために行くからよろしく」
そう言うとキッチンへと歩いて行くレイズと肩を組んでともに歩いて行くエース。
「・・・・本当に良いのかエース?下手したら“死ぬ”よ彼ら」
「あぁ、あの爺さん達の相手は兎も角としてロビン達の予想が正しければ確実にオフィサーエージェントがいる。だけどよ、七武海なら余計に経験値が必要だろ」
「まったく、“お兄ちゃん”は心配性だな」
「すまんな、けどアラバスタの件まではあいつのこと見ていたいんだ」