「(私としたことが、まさかあんな餓鬼に痛手を負わせられるとは)」
ビュンゾウは新世界への護送船へと歩く道すがら、自分を敗北させた男のことを思い出していた。
今思い出しても、何故かあの時の恐怖は蘇らず、まるで自分が負けたこと自体が悪い夢に思えてしまうほどだった。
「(そう、ちょうど目の前の海兵と同じぐらいの年齢であったな)」
自分の目の前を歩く海兵。
階級も低そうだし、何より“強者の匂い”がまるでしなかった。
これから、自分に起こるだろうことを考えていると、その目の前の海兵が話しかけてきた。
「ビュンゾウ殿、確認したいことがありますが宜しいでしょうか」
そう、罪人である筈のビュンゾウへ最高礼をする海兵に気を良くしたビュンゾウはふと顔を上げてしまった。
次の瞬間、自分の胸に何かが突き刺さる感触がした。
恐る恐る確認すると、自分の右胸に目の前の海兵の人差し指が突き刺さっていたのであった。
「き、貴様、何を「
そう宣言した青年は指を引き抜くのと同時に姿を消した。
青年の立っていた後ろには、肩から切り裂かれ絶命したジャラララの遺体が横たわっていた。
―――――――――――――――――
「それじゃ、アイツ等の船にあった資産の90%と懸賞金は半額を貰い受けますからね。良いですね」
ジャラララ達を討ち取ったエース一行はレイズが贔屓にしている海兵が勤めている支部へと来ていた。
エースとカリーナを船に残し、レイズはジャラララ達の身柄の引き渡しと懸賞金及び海賊の資産の取り押さえにて生じる追加報酬の相談をしていた。
レイズの対面には実質この支部を取り仕切っている海軍本部所属の男性海兵が座っていた。
「返事くらいして下さいよ、
名を呼ばれ、対面にてヤのつく自由業顔負けのふてぶてしさを醸し出している、葉巻を豪快に3本同時に吸っていた男“スモーカー”が気だるげにソファーから上半身を起こした。
「あぁ、勝手にしやがれ。俺が“この支部”にいるのもあと数時間。テメエのその張り付けた笑顔も、見納めだと思うと清々するぜ」
机に足をかけ寛ぐその姿は罷り間違っても海兵には見えなかった。
「で、今頃アイツ等は世界政府に消されているということか。いったい何処までがテメエの
右手に握っていた十手をレイズに向けるスモーカー。
「いやいや、どこぞの王様や支部長からリークされた情報を元に計画練ってたところに“女狐”が現れたんですよ、完全にアドリブですよ」
スモーカーの言う張り付けた笑みは消え、そこにはエースやカリーナには見せたことのない冷酷な笑みを浮かべたレイズがいた。
「まぁ、オレはテメエが“海賊”にさえならなければ問題ないがな」
「はは、それはどうかな」
数分後、鼻唄混じりで部屋を後にするレイズ。
先程自分に見せた冷酷な顔を思い出し、背筋に寒気が走るスモーカー。
「・・・・・・まったく、テメエが相手じゃ骨が折れる」
それは、独り言のように消えていった。
―――――――――――――――――
「ことの顛末を話すとこんな感じだ」
「はぁ、エースって強かったのね」
船の甲板にて金銀財宝をベッドにしてジャラララとの戦闘経緯を話すエースと何故かレイズのワイシャツを着たまま話を聞くカリーナ。
現在、二人はレイズの交渉待ちで暇になってしまい昨晩の顛末をエースの主観混じりで話していた。
自分が眠っている間に起きたことの凄さに改めて驚きを露にするカリーナだったが、ふとエースを真剣に見つめ、次の瞬間思いきり頭を下げていた。
「おいおい、カリーナ何を「騙していたことも謝るし、雑用もなんでもやります。だから、この船においてください」
そう言うとカリーナは更に体勢を低くしていく。
このまま、“次の姿勢”になられたらレイズからどんなお仕置きを受けるか分かったもんではないエースは慌てカリーナを立たせようとした。
「・・・・・エース」
しかし、時既に遅く振り向けば画面に文字を起こすことすら憚られるような顔をしたレイズがエースを蔑んで見ていた。
「お、オレは無実だーーーーーーーーーー」
―――――――――――――――――
「悪かったって、そんなにヘソ曲げるなよ」
「エース、本当にゴメンね。この美少女に免じて許してよ」
支部を後にした船内では、実はからかわれていたことに気がついたエースが盛大に拗ねていた。
「・・・・イジメ、カッコワルイ」
そう呟くとレイズが作ってくれたフルーツパフェをマグマグと食べては二人をチラ見するという行為をエンドレスで続けているけているエース。
反対にレイズとカリーナはやり過ぎたなという苦笑を互いに漏らしながらエースの機嫌が治るのを遠巻きに眺めていた。
「今晩はレイズの特製唐揚げが出てくるなら、もう許す」
そう妥協点を提示するエースはとても幼く見えた。
「はいはい、元々今晩は大金が舞い込んだパーティーだったから出す予定だったから大丈夫だよ。あと、エースが頑張ったからブートジョロキアペペロンチーノも山盛りで出すよ」
レイズのパーティーメニューを聞くと、端から見ても機嫌を治していることが丸解りな顔をしてレイズとカリーナが座るソファーへと上機嫌で近付いて座り直すエース。
「よし、それじゃ許してやるよ。カリーナも冗談がキツいぜ」
「あら、あながち“冗談”じゃないわよ」
その言葉と共にカリーナは立ち上がるとエースとレイズ、二人が対面になるように移動すると再び頭を下げた。
「“女狐”カリーナしがない泥棒ですが、どうか一緒に旅をさせてください」
先ほどと違い、体からその言葉が真剣であることが伺える気迫のようなものがあった。
「あぁ、いいぞ」
「さしあたって、カリーナは航海士をやって貰おうか」
カリーナにとって一世一代の覚悟を決めた懇願はかなり軽めに了承された。
―――――――――――――――――
「エース呼び出してゴメンね」
東の海であることとレイズの探知領域で船及び周辺に害意がないと解ると3人其々の部屋で眠りに付いた。
暫くしてレイズが完全に眠りに落ちたのを確認したエースとカリーナは船首で顔を合わせていた。
「別に良いけどよ、レイズに相談しにくいことなんだろ」
頭の中でオレ船長ぽいな、とか余計なことを考えているエースとは対照的に仲間になると宣言した時と同じ覚悟を匂わせたカリーナ。
「エースには話しておくのがスジだと思ったから」
カリーナはそう言うと羽織っていたレイズのカーディガンで自分を抱き締めるように包み込んだ。
その仕草からエースは唐突に閃いてしまったのだった。
「(ま、まさかカリーナの奴オレに惚れたのか。いや、確かに今回のオレは自分で言うのも何だが滅茶苦茶カッコ良かった)」
勝手に納得していると意を決したカリーナがエースを見据えた。
「あのね、エース」
「おう(レイズ、オレは今日大人になるぜ)」
「あたし」
「(明日からどんな顔してレイズに会えばいいんだろうか)」
カリーナとエース、互いの心臓の音が聴こえているかのように周囲に静寂が訪れた。
「あたしね」
「おう(オレは準備出来てるぜ)」
「あたし、レイズが好きになっちゃった」
その瞬間、本当に世界から音が消えたような気がした。
「・・・・え、今なんて」
自分の想像の斜め横に行く展開に目を丸めるエース。
「だから、
きゃー言っちゃったと体をくねらせてカーディガンの裾で顔を隠し恥ずかしがるカリーナを前にやっと再起動したエース。
「あ、え、か、カリーナお前」
うまく口が動かないエースを後目に火の付いたカリーナは止まらなかった。
「最初見た時から「あぁアタシのタイプだなぁ」、て思ってたんだけどあんなに優しく抱き締められちゃった上に、頭ナデナデしてくれて、それでねそれでね・・・・」
一度火の付いたカリーナは止まることなくエースに自身の思いの丈をぶつけるのだった。
「あ、あのよカリーナ「解ってるわエース。確かにアタシも「あれ、アタシチョロ過ぎない」とか思ったけどね、けどね」
カーディガンの袖で隠れていた顔を覗かせるカリーナ。
エースは不覚にもときめいてしまった。
「カッコ良かったの」
そう言うとまた顔を隠し照れ始めるカリーナ。
「(オレはーーーーーーー?)」
心の中で叫ぶエース。
それを顔に出してないだけスゴいことなのだろう。
「だ・か・ら、レイズの相棒のエースにはそっち方面でアタシのサポートお願いしたくてね。
それじゃ、ヨロシクね、せ・ん・ち・ょ・う。
あぁースッキリした。それじゃ明日からヨロシクねエース」
そう言うとスキップで船内に戻っていくカリーナ。
エースはこの日、よく解らない失恋を、そして違う意味で相棒をめぐるライバルが生まれたのだった。
「なんだか、よくわからんけど」
海へと向き晴れ晴れとした顔をするエース。
思いきり息を吸い込んだエースは。
「良くわからねぇけど、レイズの馬鹿野郎」
「ウルセエぞ、エース。さっさと寝ろ」
アンケートの結果、100票を越えたキャラが現れましたのでアンケートを終了させていただきます。
近々、別項目のアンケートを開始しますのでその際は、またご協力お願い致します。
ズバリ、エースのお相手は?
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何故か生きてる幼馴染み系女流剣士
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恋愛処女帝
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砂漠の王女
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サラダなあの子(推薦は感想に記入を)
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馬鹿野郎、エースがホルホルだろ(無回答)