ストライク・ザ・ブラッド 鮮血の真祖 作:魔王吸血姫
「………ふあ………うむ、よく寝た」
欠伸をしながら棺桶の中で呟くルミアは、蓋を開けようとして―――
「………ぬ?」
―――開かなかった。力を込めて再度挑戦するも、微動だにしない。が、こうなったことは何度も経験していたルミアは、はあ、と溜め息を吐いて、
「またお主の仕業か………南宮那月よ?」
銀色の鎖で雁字搦めにされた棺桶の中でルミアが名前を口にすると、ふん、と鼻を鳴らして黒い豪奢なドレスで身を包む黒髪の少女―――那月が答えた。
「本当に貴様は学習能力がないな。私に連行されるのはこれで何回目だ?」
「いや、連行されるような悪いことをした覚えはないぞ?」
おかしいな、と言いながら紅い霧へと姿を変えて、僅かな隙間から開かない棺桶から離脱し、すぐに人の姿に戻って那月の目の前に降り立つ。
それを見た那月は、チッ、と舌打ちして棺桶を縛っていた銀色の鎖を歪んだ虚空に仕舞い込む。どこからともなく取り出した扇子をルミアに向けて、
「それで、いい加減私のモノになる気はないか?」
「ぬ?………ああ、メイドとして雇われろ、という話か?」
「そうだ」
「ずっと丁重にお断りしているはずだがのぅ………何せ我には家事スキルなぞ皆無だからな」
そもそも、吸血姫の我に家事なぞ不要だしのぅ、と苦笑しながら頬を掻くルミア。血さえあれば生きていける彼女にとって、家事は出来なくてもいいらしい。
那月はニヤリと怪しげに笑って、
「それについては、私がみっちり教え込んでやるから別に貴様が気にすることではない」
「………なんだろう、そのみっちりという言葉になんとも言えない恐怖を感じたんだが………?」
「さて、なんのことだろうな?別に貴様が吸血姫だから、遠慮しなくていいとか思ってないが?」
「……………よし、逃げるか」
「逃がすと思うか?」
早速逃亡を図ろうとするルミアを、那月は捕縛せんと無数の銀色の鎖を歪んだ虚空から撃ち出す。が、鎖がルミアを捕縛するよりも速く、紅い霧に姿を変えた彼女は、僅かな隙間を見つけるとそこから外へ出て行き、那月宅から離脱した。
去っていく紅い霧を眺めて、チッ、と舌打ちする那月。今日もルミアのスカウトに失敗した。どうすれば彼女は自分のモノになってくれるのだろうか。
やれやれ、と首を振った那月は、ふと足元に棺桶が置いてあることに気がつく。ルミアが棺桶を忘れて逃げるなんて珍しい。だがこれは、
「くく、いいことを思いついた」
使える、と悪魔のような笑みを浮かべた那月。別にルミアの力が欲しいわけではない。彼女に住まいを提供し、自分は従順なメイドを手に入れるという、お互いに得する関係を築きたいだけなのだ。
☆
絃神島。それは太平洋上に浮かぶ小さな島で、カーボンファイバーと樹脂と金属と魔術によって造られた人工島だ。この絃神市には、もう一つの名前がある。
魔族特区。獣人、精霊、半妖半魔、人工生命体、そして吸血鬼などの魔族と人類が共存する人工都市である。吸血姫のルミアがここにいられるのはそのためだ。未登録魔族というところがちょっと違反しているが。
「………酷い目に遭うところだった」
人の姿に戻ったルミアは日傘の下で、はあ、と深い溜め息を吐く。那月が自分の力目当てでないことは分かってはいるが、簡単に彼女の提案に乗るのは危険な気がした。たしかに住まいは欲しいが、自分には棺桶が―――
「………ぬ?」
―――背になかった。那月から逃げる時はいつも棺桶も霧に変えて一緒に離脱しているはずなのだが、今回は慌てて逃げてきたせいか、大事な棺桶を那月宅に置いてきてしまったらしい。
「やってしまった………我としたことが、大事な棺桶を忘れるなんてのぅ」
頭を抱えるルミア。今すぐにでも棺桶を回収しに行きたいが、那月が待ち構えているに違いない。ならばここは一旦諦めて、時間を置いて取りに行くことにしよう。
「ふむ。特にやることがないから、あの少年―――暁古城の様子でも見に行くとするか」
そうと決まれば早速、血の臭いで彼を探さねばな、とルミアは頷き、鴉に姿を変えて空を飛ぶ。蝙蝠の翼を背に生やして飛ぶのは流石に目立ちすぎるから鳥に化けることにしたのだ。
数分後、
他にも二名の人間が古城と同じテーブルの席に着いている。一人は短髪ツンツンのヘッドフォンを首にかけた少年。一見ただの高校生にしか見えないが、
「(ふむ、超能力者か。流石にどんな異能を使うかまではわからないが………第四真祖の周りには特殊な人間が集まるいうわけか)」
ルミアは次にもう一人の、金髪の少女に目を向けて―――言葉を失った。この血は………まさか、
「(………こんなにも早く、彼女に会えるとはな………幸先がいい)」
金髪の少女を、優しげな眼差しで眺めるルミア。彼女を絶対に死なせるわけにはいかない。絶対に守り抜いてみせる、とルミアは一人決意した。とはいえ、早々に彼女の命が狙われる様な事態にはならないだろう。ならば、今は密かに遠くから見守ることにしよう。
「(………む?)」
ルミアはふと、ファミレスから真下に目を向ける。するとそこには、見覚えのない黒髪の少女が立っていた。彼女はファミレスを見ているだけでその場から動かない。
不思議に思ったルミアは、黒髪の少女の血から情報を読み取り、
「(ほう、メトセラの末裔か。ならば獅子王機関が派遣した巫女といったところか)」
黒髪の少女がただの人間ではないことを理解するルミア。彼女がファミレスをじっと見つめて動かないということは、誰かを監視しているのだろう。そしてその対象者は―――
「(………第四真祖、暁古城か。やれやれ、我との平和条約を結んだその翌日に、獅子王機関の者に平和な日常を壊される羽目になるとはな)」
哀れな少年だ、とルミアは同情の眼差しで古城を見つめた。
「(これは気になるな。もう少し様子を見させてもらおうかな)」
クックッと喉を鳴らすルミア。だがこの選択が、自分の平和も乱されるような事態に発展してしまうことに、彼女は気づけなかった。
☆
時間が経ち、二人の友人と別れて古城もファミレスを出た頃。
「―――にしても、この暑いのだけは勘弁してくんねえかな、くそっ」
パーカーのフードを目深に被って悪態をつく古城。鴉の状態で尾行していたルミアも同意する。
「(まったくだな。暑いのもそうだが、この忌ま忌ましい太陽さえ隠れてくれれば少しはマシになるんだがのぅ………)」
そしてルミアの予想通り、例の黒髪の少女が古城を尾行していた。彼を監視しているのは本当らしい。それにしても、下手っぴな尾行だな、と苦笑いを浮かべるルミア。黒髪の少女は見習いといったところか。
「尾けられてる………んだよな?」
案の定、古城にもバレていた。が、黒髪の少女は完璧に尾行してるつもりでいる。空にも鴉の姿に化けたルミアが尾行しているのだが、流石に鴉に尾けられるようなことがあるわけないと油断しているのか、こちらには気づいていないらしい。
「………凪沙の知り合いか?」
古城の呟きに、ルミアは首を傾げる。凪沙………何処かで聞いたことのある名前のような気がするが、思い出せない。ちなみに、暁凪沙は古城の妹だ。黒髪の少女の格好が、凪沙と同じ制服ということでその線に辿り着いたわけだった。
しかし、それなら話しかけてくるはず。なのにただ尾行を続けている。ならばこの線は不正解か?
「様子………見てみるかな」
ショッピングモールに入っていく古城。それを追う黒髪の少女とルミア。古城はゲームセンターに入っていき、黒髪の少女はその店の前で棒立ち。鴉の姿に化けたルミアも、流石に中に入るわけにもいかず、近くの屋根に降り立った。
「(ふむ、やはり獅子王機関の者か。げーせんなるものを知らぬようだな。動揺して初奴よのぅ)」
クックッと喉を鳴らすルミア。
暫くして、古城が店から出て、黒髪の少女は店の中に入ろうとして、ばったり鉢合わせた。
「だ………第四真祖!」
黒髪の少女が古城をそう呼んで身構える。それに古城は、
「オゥ、ミディスピアーチェ!アウグーリ!」
「は?」
「(ぬ?)」
「ワタシ、通りすがりのイタリア人です。日本語、よくわかりません。アリヴェデルチ!グラッチェ!」
大袈裟なアクションと早口で似非外国人を装って、その場から逃げようとする古城。硬直する黒髪の少女。ルミアは、随分と思い切った演技よな、と苦笑い。
「な………!?待ってください、暁古城!」
ハッと我に返った黒髪の少女が、今度は古城の名前を呼ぶ。古城はうんざりと振り返って彼女を睨む。
「誰だ、おまえ?」
「わたしは獅子王機関の剣巫です。獅子王機関三聖の命により、第四真祖であるあなたの監視のために派遣されて来ました」
は?と気の抜けた顔で聞く古城。ルミアは、予想通りの正体に嫌そうな感情になる。三聖直々とか、面倒この上ない未来しか見えない。ルミアは、心の中で古城に合掌した。その古城も、面倒事を回避する手に打って出る。
「あー………
「(人違い作戦か………そんなもの通じるわけ)」
「え?人違い?え、え………?」
「(ないだろうに―――って、通じるとな!?)」
困惑する黒髪の少女に、驚愕するルミア。まさか古城の言葉を信じようとするなんて、彼女は騙されやすい性格なのだろうか。
その隙に背を向けて立ち去ろうとする古城。それを黒髪の少女が慌てて呼び止める。
「ま、待ってください!本当は人違いなんかじゃないですよね!?」
「いや、監視とか、そういうのはホント間に合ってるから。じゃあ、俺は急いでるんで」
古城はぞんざいに手を振って、その場から急ぎ足で離れていく。混乱したような表情で呆然と立ち尽くす黒髪の少女。
「(本当に信じ込んでしまうのか、哀れな獅子王の巫女よ。まあ、このまま諦めて帰ってくれた方が我としてもありがたいがな)」
ルミアは、去っていた古城ではなく黒髪の少女を見ていると、見知らぬ男二人組が近づいてきて、
「―――ねえねえ、そこの彼女。どうしたの?逆ナン失敗?」
「退屈してるんなら、俺たちと遊ぼうぜ。俺ら、給料出たばっかで金持ってるから―――」
彼女をナンパしてきた。ルミアは、その男達の血の情報を読み取り、
「(ふむ、
彼らの手首を見ると、金属製の腕輪を付けていた。これは生体センサや魔力感知装置、発信器などを内蔵した魔族登録証。ルミアも本来は付けなければならないものだ。だが彼女は正体を隠して潜伏しているため、それを付けるように強制されていない。
「(………ぬ?まさか、我のことを気遣って那月は我を自分の家に連行してるのか?)」
那月の行動に意味があることに今更気がつくルミア。公園とかに棺桶が置かれててその中で寝ているとこを見られたら、吸血鬼ということが即バレしていただろう。そうなれば、彼女の平和な人生は一転して研究付けの地獄の日々へと変わっていたに違いない。
「(………ふ、む。そういうことなら、那月に匿ってもらうのもありかもしれぬな。メイドにされる運命の回避はできなさそうだが………研究付けの日々を送るよりかはマシか)」
ルミアは、那月の〝みっちり〟という言葉を思い出して苦笑いを浮かべる。吸血姫だから容赦なく躾けられそうな気しかしないが。
ハッと我に返って黒髪の少女に視線を戻すルミア。すると去っていったはずの古城が彼女の下へと駆け戻ろうとしていた。そのすぐ後に、暴言を吐いた獣人の男が黒髪の少女のスカートを捲った。古城は、ばっちり彼女のスカートの中身を視界に収めて硬直していた。
「(ふむ………ラッキースケベだな少年)」
ルミアが、クックッと喉を鳴らしていると、怒った黒髪の少女が動いて、
「
呪文を叫んで、掌底を獣人の男に叩きつけ、彼は勢いよく吹っ飛んでガードレールに激突した。それを見たルミアは、ほう、と感心したように声を洩らす。
「(見習いにしては中々の技よな。感情に躍らされてるところは減点だがな)」
黒髪の少女に評価をつけるルミア。仲間を吹っ飛ばされて呆気に取られていたD種の吸血鬼の男が、我に返って怒鳴った。
「このガキ、攻魔師か―――!?」
攻魔師。魔術師や霊能力者などの、魔族に対抗する
攻魔師に攻撃された、それが
「D種―――!」
黒髪の少女が表情を険しくして呻いた。D種は、ルミアが口にした通り、〝忘却の戦王〟を真祖とする者達を指し、一般的にイメージする吸血鬼にもっとも近い血族だ。
「―――
吸血鬼の男が絶叫し、その直後、彼の左脚から陽炎のように揺らめくどす黒い炎が噴き出した。それはやがて歪な馬のような形をとって現れる。甲高い嘶きが大気を震わせ、炎を浴びたアスファルトが焼け焦げる。
「こんな街中で眷獣を使うなんて―――!」
黒髪の少女が怒りの表情で叫んだ。
吸血鬼の男が左手に嵌めた腕輪が、攻撃的な魔力を感知して、けたたましい警告を発している。ショッピングモールに、来場者の避難を促すサイレンが鳴り響く。
眷獣。それは吸血鬼が自らの血の中に従えている、眷属たる獣のことだ。その姿や能力は様々で、最も弱い眷獣でさえ、最新鋭の戦車や攻撃ヘリの戦闘力を凌駕する。
〝旧き世代〟の使う眷獣ともなれば、小さな村を丸ごと消し飛ばすような芸当も可能だと言われている。若い世代の男の眷獣にはそこまでの威力はないが、灼熱の妖馬が走り回るだけでショッピングモールが壊滅するくらいの被害は出るだろう。
制御を解き放たれた眷獣は、半ば暴走状態になって、周囲の街路樹を薙ぎ払い、街灯の鉄柱を融解させている。意志を持つ破壊的なエネルギーの塊、それが近くを掠めるだけでも、人間の身体など一瞬で消し炭に変わるだろう。
「(第四真祖の監視を任されるだけの実力を持つ獅子王の巫女だ。この程度で殺られるとは思えぬが―――吸血鬼の同胞として、D種の〝若き世代〟をお仕置きしてやらねばのぅ)」
クックッと喉を鳴らしたルミアは、黒髪の少女が動くよりも速く、彼女と吸血鬼の男の眷獣の間に割って入るように降り立った。
「え?か、カラス………?」
「「は?」」
鴉という予想外の闖入者に、間の抜けた声を洩らす三人。ルミアは、鴉の姿だったことを思い出して羽をぱたつかせた。
「おっと、元の姿に戻るのを忘れてた」
『カラスが喋った!?』
愕然とする三人に、クックッと喉を鳴らしたルミアは、人の姿に戻って古城の方に向いて笑いかける。
「我だ。昨日ぶりだのぅ、暁古城よ」
「え?おまえ、昨日会ったルミアか!?」
「ルミ………ア!?」
古城がルミアの名前を呼ぶと、黒髪の少女が臨戦態勢を取った。それにルミアは、彼女の方に向き、
「やはり、獅子王の巫女には名前だけで正体がバレるのか。だが安心しろ、我はお主から〝若き世代〟を守るために邪魔をしに来たわけではないからのぅ」
「え?ではあなたは、何をしに現れたんですか?」
黒髪の少女の質問に、ルミアはニヤリと笑って、吸血鬼の男を指差して言った。
「街中で眷獣を使うこの阿呆な〝若き世代〟の仕置きに来たのだよ」
「あぁ!?」
ルミアの発言に、吸血鬼の男がキレた。
「誰だか知らねえが、ガキのくせに生意気言いやがって!灼蹄ッ!攻魔師の女もろとも、そこのガキもやっちまえ!」
吸血鬼の男が吼えると、灼熱の妖馬が嘶き、黒髪の少女とルミア目掛けて突進してきた。掠めただけで消し炭にされるその一撃を前に、ガキ扱いされて一瞬、ムッと眉を顰めたルミアが嗤う。
「威勢がいいのは認めるが………
そう言ってルミアは、左腕を包んでいた長袖をたくし上げて白い肌を露にすると、右手に長く鋭い爪を生やしそれで―――左腕を躊躇うことなく切り裂いた。
「「は!?」」
ルミアの行動に驚愕する古城と吸血鬼の男。そりゃそうだ、自傷行為にいきなり走ったのだから。黒髪の少女だけ、ルミアの能力を聞かされていたため、静観していた。内心では、本当にこんなことをするなんて、と驚いていたかもしれないが。
切り裂かれた左腕から血が止めどなく流れ出ていたが、それはピタリと止まり、宙に舞っていた血がある形を作り出していった。三日月のような鋭い刃を備えた血で作られし巨大な鎌。小柄なルミアには余りにも大きすぎる血鎌が、爪の長さを元に戻した彼女の右手に収まる。
「な、なんだあれは………?」
古城が呆然とルミアの血鎌を眺め、黒髪の少女は、背に背負っている獲物をいつでも取り出せるように身構える。
眼前に迫った灼熱の妖馬に、ルミアは血鎌を縦に一閃する。すると灼熱の妖馬は縦に真っ二つに切り裂かれて、悲鳴のようなものを上げて霧散した。
「う………嘘だろ!?俺の眷獣を一撃で消し飛ばしただと!?」
眷獣を失った吸血鬼の男が、怯えたように後退る。そんな彼の背後に一瞬で移動したルミアが、首筋に血鎌の刃を軽く当てて嗤う。
「吸血鬼には眷獣があるから大丈夫、などとは思ってはならぬぞ若造よ。我のような眷獣が通用しない者が存在することを覚えておくことだな」
「………ッ!!?」
恐怖で全身を震わせる吸血鬼の男。ルミアは、そんな彼を見て満足したように笑い、血鎌を彼から離した。それから恐怖に染まった吸血鬼の男の前に移動して、彼の顔を覗き込み言った。
「ほれ、分かったならさっさと去った方が身のためだぞ。獅子王の巫女がお主を生かして帰すとは思えぬからのぅ?」
「わ、分かった!分かったから離れてくれ!顔
顔を赤くして怒鳴る吸血鬼の男。ルミアは、クックッと喉を鳴らして彼から離れた。気絶した仲間を連れて足早に去っていく吸血鬼の男。それを見送っていたルミアは、背後に気配を感じて振り返り様に血鎌を振るった。
「………ッ!雪霞狼―――!」
黒髪の少女は、冷たく輝く銀色の槍でルミアの血鎌を受け止める。金属と金属が衝突したような音がして激しく火花を散らす。そして力負けした黒髪の少女が銀色の槍ごと撥ね飛ばされるが、受け身を取って華麗に着地し、念のため距離を取ってワゴン車の屋根に飛び乗る。
ルミアはそれを追わずに、血鎌を構えながら黒髪の少女に訊いた。
「獅子王の巫女よ。何故我に奇襲をかけた?お主と戦うつもりはないぞ?」
「すみません。ですが知りたかったんです、あなたのその鎌が、獅子王機関三聖の話していた実力が伴っているのかを」
「ほう………して結果はどうであった?」
「はい。噂に違わぬデタラメな鎌ですね。雪霞狼で無効化出来ない魔族の武器が存在するなんて恐れ入りました」
油断なく銀色の槍を構えて答える黒髪の少女。ルミアは照れ臭そうに頬を掻くが、苦笑いしながら言った。
「別に無敵というわけでもないがのぅ。この鎌は魔力の消費が多いから長期戦には不向きだ。他の真祖どもと違って魔力も無尽蔵というわけではないしな」
「え?」
ルミアの発言に、黒髪の少女が驚く。自分の弱点を口にしていることと、鎌にも欠点があることを知って彼女は驚いたのだ。
「………あなたはご自分の弱点を晒して大丈夫なんですか?」
「ぬ?……………ふ、む。その、あれだ。先の話は聞かなかったことに」
「無理です」
「そうであろうな!」
ぬぅ、と唸ったルミアは血鎌を消してその場にしゃがみ込んで頭を抱え込む。相手が見習いだからと油断してしまった。よくよく考えてみれば、彼女は三聖の命で第四真祖の監視に来ているわけだから、今の話を報告される可能性大に違いないだろう。
そんなルミアに、話を聞いていた古城が近寄ってきて声をかけてきた。
「大丈夫かルミア?顔色が相当悪いみたいだが………」
「心配してくれるのか?優しいのぅお主、大好きだぞ」
「は?うお!?」
唐突にルミアに抱きつかれてバランスを崩した古城が、その場に倒れ込む。古城の上に馬乗りしたルミアが、彼の顔に自分の顔を近づけて悪戯っぽく笑い言った。
「ふふ、どうだ少年?ドッキリしたかのぅ?」
「は、はあ?い、意味わかんねえよ―――ってだから顔近えんだよあんた!」
ルミアを突き飛ばして起き上がる顔を赤らめた古城。クルリと宙で一回転したルミアが着地してクックッと喉を鳴らした。そんなやり取りを見ていた黒髪の少女は、はぁ、と溜め息を吐いて銀色の槍を仕舞って二人に歩み寄る。
「獅子王機関ですから、私が報告するまでもなく、あなたの弱点くらい把握してると思いますよ―――〝鮮血の真祖〟ルミア・ブラッディー・サイス」
「ぬ?………そうか。まあ、
とほほ、と肩を落とすルミア。そんな彼女に苦笑いを浮かべる古城。黒髪の少女は再度、はぁ、と溜め息を吐くと、古城とルミアを見回して険しい顔をした。
「第四真祖に鮮血の真祖、同胞を持たない稀少種のお二人が、この
「は?」
「何をする、とな?」
黒髪の少女の質問に、古城はうんざりと見返し、ルミアは少し考えた素振りを見せたあと、ニヤリと笑って答えた。
「決まっておろう―――静かに平和に暮らすだけぞ」
「………え?」
「え?じゃねえよ。俺もいつも通りに生活するだげだ。それ以上もそれ以下もねえよ」
「え?………え?」
困惑する黒髪の少女。ルミアは古城に駆け寄ると、彼の腕に抱きついて笑う。
「我と古城は平和条約なるものを交わした仲だからな。この絃神島を征服だとか、破壊するだとか、そんなくだらぬ真似はせぬよ」
「ああ。面倒事とか、勘弁だからな」
古城も頷いてルミアに同意する。いちいち腕に抱きつく必要はねえけど、と鬱陶しげにルミアを見下ろす古城。そんな二人に、黒髪の少女が暫く無言になり、
「………はい?」
予想外の答えを聞いて間の抜けた声を漏らすのだった。
〝鮮血の真祖〟
血を武器にして戦う姿から付けられた名。真名ではない。
〝千変の魔女〟(未登場の名)
様々な姿をとることから付けられた名。今回は血飛沫を思わせる霧と、鴉に化けた。(霧化は吸血鬼としての能力でもある)
〝深紅の血鎌〟
万物を切り裂くとされる血で作られし大鎌。なにものにも壊すことはできないが、ルミアの魔力の枯渇か死亡でただの血に戻る。