先行していたチームから野盗の様子がおかしいとの連絡があり、チームは合流。もしもがあればエ・ランテルに情報がいくように足の早い斥候が後方に待機するようリーダーのバオを筆頭にチームメンバーが賛成する。
「という訳でここからは命懸けになるかもしれん。ヴァルキュリアさんたちはここで離れた方がいいと思うんだが・・・」
「ここまで来たら一蓮托生よ。私も気になるし、もしも何かあれば私たちも戦力に入れてくれてかまわないわ」
「すまない。助かる。ならば、もう一度情報を整理する。・・・やけに肌寒い・・・。今までもこんなことがあったときはヤバいことがあったんだ」
レイナたちも撤退の言葉もあったが、レイナもここまで付き合って静観できるほど冷徹ではない。一緒に釜の飯を食べた仲というのか親愛に近いものを感じており、黙ってやられるのを無視はできない。
「よし、野郎共いつもより慎重に行けよ。できるなら身を挺しても彼女たちを守れ!。ここが男をあげるチャンスだぞ!」
「当然だ!レイナさんたちは絶対に守るぜ!」
それは彼らも思ってくれていたらしく。リーダー指示に誰も文句を言わずに答える。
「私は女なんだけどね・・・。でもいいわ。レイナさんにはポーションのお礼もあるし、あんたたちの盾ぐらいにはなってやるわ!」
野郎という言葉に反応するチーム紅一点のブリタは吼える。
ポーションを自分の不注意で壊したあと、誰も見ていないところでレイナよりポーションを譲ってもらっていた。しかも、エ・ランテル1とされるバレアレ産をである。
叱られ、慰められ、更にと恐縮する彼女にレイナは騒動を止めなかった自分の責任もあるからと押し付けたのだ。もし、気にするのならば出世して返してくれればいいと言って。
特に異常なく、野盗の住み処らしい洞窟を発見するも、そこには異様な光景が広がっていた。辺り一面に血溜まりがあり、そこにあるはずの遺体が全くないという状態だ。
森のモンスターにやられたのだろうか?。遺体はそれが巣に持ち帰ったのか?。そうして、バオが洞窟内へと踏み込もうとしたとき、
「ここからは、私が先にいくわ。何人かここに残って、見張りをお願いしてもいいかしら?」
レイナがバオを引き留め、ただ同行するものとしては越権行為を言い出した。
「いや、レイナさん。俺らが矢面に立たせて貰いたい。依頼人をみすみす怪我などさせていては、護衛も買ってでた自分等がギルドに顔向けできねぇ」
「そうですよ!もし、俺たちに何かあればレイナさんには逃げてもらわないと!」
レイナの言葉に彼らは誠実に返す。それだけ、レイナがふざけて言っている訳ではないと短時間ながら彼女を信頼しているのだろう。
「ありがとう。でもここからは本当にヤバい気がするの」
「いや、ならばこそ我々が・・・」
「あ、あの皆さん!ここはレイナさんの言葉を信じてくれませんか?」
そんな彼らの善意が嬉しく礼をいうレイナの笑顔に、一瞬心奪われる彼らだが、次には渋り始め、そこをエンリが止める。
「その信じられないかもしれませんけど、レイナさんは本当に強くて、私もそれに助けられたんです」
「え、でもエンリちゃんやシオンは護衛に雇ってるって・・・」
エンリの言葉に信じられないとブリタが事前に聞いていた情報を言うが、エンリ、さらにシオンまでが首を横に振り答える。
「それは方便で・・・ほんとのところは、私たちがレイナさんに師事を請うて、同行させて貰っているんです!」
「レイナさんの姿を見たあんたたちには、なお信じられないだろうけど、彼女は本当に強い。あの王国最強と言われるガゼフ・ストロノーフと
「レイナさんの言葉。あの人が止める程のことが起きているんです!。私からもお願いします!」
「頼む!」
「あなたたち・・・」
そう言って頭を下げる2人にチーム一同は困惑するなか、バオが腕を組んだ。
「わかった。そこまで頭を下げられちゃ。無視はできない」
「リーダー!?」
「だが、俺や副長はついていく。それができないなら、この異常だ。速やかに全員でエ・ランテルに帰るぞ」
バオの言葉にレイナは強く頷く。
「それでいいわ」
「よし、お前とお前はここで見張りだ。他は少し離れた所を巡回して、いつでも逃げれるようにルートを確保しておけ」
テキパキと指示を出す彼は立派なリーダーなのだろう、まだ納得していないメンバーも彼の決定に従い位置についていく。
「ま、まって!私は付いていくわよ。リーダーと副長入れても2人でしょ?。3人守るなら頭数一緒な方がいいわよね?。そうじゃなくても無理やり付いていくから、恩も返せないうちに死なれたら後味悪いもん」
「わかった。お前はエンリちゃんに付け、俺はレイナさん。副長はシオンの坊主の方を頼む」
ブリタの抗議も受け入れられ、洞窟に入るのはレイナたち3人とリーダーのバオと副長、ブリタに決まった。
外も異常だったが、中はそれ以上だった。洞窟の天井まで血が飛び散っているのに、遺体や体の一部さえ見つからない。辛うじて野盗が使っていたらしいボウガンや剣の残骸が転がっている事から、抵抗したところで無駄だったということだろう。
それほどのナニかがこの奥にまだいるのかもしれない。自然とレイナ以外の全員が息を呑む。
「なんだ、これは・・・いったいどんな力でやれば天井まで血が飛ぶんだ・・・」
「ヤバいぞ。リーダー。これは俺達で対応できる範囲を越えている」
「うう、匂いがひどい。なのにそれらしいものが1つもないなんて・・・」
「そんな・・・こんなことが外では起きるの?」
「野盗なんて、自業自得だとは思うけどな。さすがにこれは言葉が見つからねぇ」
各々が自分に言い聞かせるように呟く。そうしなければ、この場の空気に押し潰されそうになるからだろう。今まで多くの仕事をこなしてきた彼らでさえ、体の震えをおさえられていない。
レイナだけが、静かに意識を集中させて、周りを伺い。そして、一つの音を拾うそれは声で一人は女。もう一人は男のもので、どうやら会話をしているらしい。
「いたぞ。皆私の後ろに下がってできるだけ息を殺せ」
レイナが前にでて、剣をどこからか引き抜く。その剣はエンリが村で素振りさせてもらったものであり、不思議とその剣を見ただけで体の震えが止まる。それはエンリだけでなく、シオンや護衛の3人もであった。
「な、なんだ。その剣は?。体の震えが止まった?いや、これは・・・」
「何故か、心からあたたかさが溢れてくる。その剣の力なのか?」
「スッゴい綺麗。それだけじゃない。まるで光に包まれるような・・・」
自分達と違い震えることなく前をいくレイナの後ろ姿に3人は英雄の背中をみた気がした。
シオンが言ったガゼフ・ストロノーフと互角という話も信憑性が湧いていく。
「もうすぐだ。心を強く持つのよ」
そうして、向かった先はこの洞窟の最奥の広い空間で、4つの人影が見えた。
「バ、バカな。俺の技が・・・全部あたらないだと・・・?」
その男ブレイン・アングラウスは今、心が折れようとしていた。あの日、王の御前試合での戦いでガゼフ・ストロノーフに敗れて以降、死にもの狂いで、時には命も捨てる覚悟で挑んだ戦いもあった。そうして、培ってきた力の元、今ではガゼフにさえ勝てるという自信もあった。
しかし、それでも力を求め、野盗の仲間になってでも、もっと上を目指し、研磨してきたはずの技が見るからに少女である血のような赤い鎧に仮面をつけた槍と盾を持つ女に負けたのだ。
最初は、久しぶりの強者に胸を踊らさせ、更なる高みへの踏み台にするはずであった。重そうな鎧なので、動きは遅いだろうと思った。両隣にやけに白い肌のドレスをきた女がいたが、手を出す様子は見えない。よく見れば仮面の少女も鎧の隙間首もとが同じくらい白いのに気付き、そこに狙いを定める。
「お前たちは、奴の後方へ。逃げないように見張れ」
少女が女たちに指示をだし、アングラウスの後方へと移動し、
身構える。彼はそれを止めなかった。もし、逃げる事態になっても女を切り殺し逃げれる自信があったから。
危惧した挟んでの攻撃というわけではないらしい。少女は一歩前に歩き、アングラウスの範囲から少し離れた位置に立つ。
「お前の噂は聞いている。かの王国最強と言われるガゼフ・ストロノーフと互角の腕前を持っているらしいわね」
「へっ、知ってて挑んでくるとはあんたも腕に自信があるとみた。だが、今の俺はそのガゼフよりも上だ。残念だが、あんたは俺の強さの糧になってもらう」
「口だけは達者ね。ほんと・・・」
少し前の私に似てるわ。
そう仮面の下で呟く少女の声は聞こえなかった。
そうして、槍を構えブレインに近づく少女は彼の射程距離に
入った。
瞬間、普通では届かない距離にみえるそこで、ブレインは武技を発動させた。
武技<領域>
自分の周囲の気配を感じ正確に位置を捉えれる。例え相手が陰遁していても、見逃さない。相手の動きも手をとるようにわかるため、避けようとしても正確に移動先へ追うことができる。
武技<秘剣・虎落笛>
もうひとつの武技<瞬閃>と合わせた音速の早さで相手の急所を切り裂く。単純明快な効果だがその威力は一点に集中しておる分、ガゼフの使う四光連斬よりも高く。そこらの鎧などは簡単に斬鉄してしまう。
そんな技が少女の首筋めがけ放たれる。鮮血が舞い少女の仮面が外れその下の何が起きたかわからないという表情がみれると、そう確信したブレインの予想は少女に覆された。
ほんの少し後ろに下がるそれだけでブレインの凶刃を回避したのだ。薄皮1枚さえ切れていない。少女は完璧にブレインの矛先を読み避けたのだ。いや、そうあってほしいとブレインは思う。<神域>で感じたのだが、信じられなかった。少女が刃を捉え、それを
信じたくなくて、ブレインはがむしゃらに刀を振るうがそのどれもが少女には当たらない。半身で、首だけ動かして、何でもない動きの一つで全てブレインの必殺と呼ばれる斬撃が空を切る。
そして、終わりはすぐにきた。
ここで少女が動いたのだ。
ブレインが放った刃の先に槍を手放し、
「念のため、避けたが・・・当たれば絶対斬られるというのではないのね。警戒の必要もなかったわ」
何でもないように言われたその言葉でブレインの心が折れるのには充分だった。
「引き込みたいなら言葉は選ぶべきよ。そんなことでは歴戦の戦士も子供のように泣いて逃げてしまうわ」
力が抜け、膝をつきそうになったその時、少女とは違う凛とした声が聴こえた。