~野盗の洞窟内~
洞窟内で破裂音が響き出す。地を抉り、空気を裂き、彼女たちがぶつかり合う。すでに立っていられるものは、カーミラの連れの女たちと、自分の相棒である神刀で体を支えるブレインのみであった。
顔を狙った一撃を首を傾けるだけで避け、すぐさま姿勢を低くし、頭上を横凪ぎに払われた槍が通りすぎる。そのまま懐に潜ろうとするが、カーミラの体を隠すタワーシールドがその行く先を防ぎ、あまつさえ近いレイナに盾の表面で殴り付けようとする。
少し前には見せたこともない攻防。この流れになる前にもフェイントを使った攻撃が幾度もあり、その全てをレイナは受け流し、逆に利用までしてダメージを与えていた。
ユグドラシルではNPC対プレイヤーでは対策さえしていればプレイヤーがNPC相手に勝つことはそう難しくはない。しかし、彼女は凄腕のプログラマーにより行動チップを魔改造されており、創造主の愛もあって装備もかなり充実しており、下手なプレイヤーでは確実に負ける能力を持つ。
過去ユグドラシルの1500対ナザリックにおいても、最後はやられるも数十人を倒しその後も奮闘したことからその強さがわかるだろう。
そして、ユグドラシル最後における戦いにおいてレイナには通用せず惨敗しその自信を砕かれたシャルティア改めカーミラは負けた悔しさを糧に自分に足りないのは何かを模索し、他の階層守護者に頭を下げてまで鍛錬をこなした。
他にも壁になればいいと存外に使役し、時に夜には鬱憤をぶつけて怖がられる事の多い倦属たちを慣れない褒め方を使うなどしてぎこちないながら改善し、今回は1対1。しかも洞窟内では使えないがアウラから学んだ連携を試行したりもした。
そうして、自分は強くなったはずだ。だが油断はしない。それがあの時の敗因でもあるから。
ゲームのプログラムというある縛りから抜け出した生きた思考による攻防一体化の技。レイナに直撃する。
はずだった。
盾は何の手応えもなかった。驚いたカーミラは盾をのけ視界を確保したところでレイナの姿を見失う。
どこに!?と見回して、ブレインを逃がさないように配置した
あまりに早い攻防。ブレインの目には残像のようにハッキリとは見えなかった。最初は自分を余裕で捌ききったカーミラと過去に彼女を倒したことのあるレイナという戦士はある程度拮抗するものだと思った。
だが蓋を開けてみれば、ただ一、二度の攻防でその実力の差がわかる。両者の身体能力に大きな差はない。ならばなぜ、レイナの方が上回るのか、それは経験の差である。
それにはブレインも覚えがある。ガゼフに敗れるまでろくに鍛錬もせずやって来たがそれからは色んな実戦を通してここまで強くなった。それらはカーミラには通用しなかったが、経験があるのとないのでは雲泥の差なのは、身に染みる思いだ。
あのカーミラが放った必中の盾による打撃。それを
その動きからレイナは
遥かに高い身体能力と圧倒的な経験からなるその強さはブレインを魅了していた。
朦朧とする意識のなか、カーミラは改めて思う。この女は強い。自分の我が儘に付き合ってくれた同僚たちに悪く思いながら、ちょっと鍛錬したくらいで力を削ぐことはできると思っていた自分の浅はかさに嫌になる。
あの時と違う真正面から戦ったレイナの強さに悔しさよりも一人の戦士として感心する。弱い人間がよくもここまで強くなったと、あのユグドラシルでは確かに人間には強いやつがいたが、ここまでの奴はそうはいない。
愛しのアインズ様が手を出すなと言っていた意味がよくわかる。きっと人間に中で頂点に立つだろう彼女はその強さ故の慢心さえせずこちらを伺っている。さらに、今回は秘策としてある案を実行してみたがそれも使うことができなかった。
格下であろうと油断せず本気での戦い。フェイントでの戦いも見事に"これでどうだ"という手に"甘いなこうだ"と返される。
さっきの連撃もみごとだった。顎への盾を使ったアッパー。胴への斬撃。追い討ちに腹への蹴りで実力の差を実感させられた。
ホントに・・・相手が1人だと油断した自分とは大違いだ。
デミウルゴスから聞いたが彼女の持つヴァルキリーは自分が持つワルキューレと本来同じような存在らしい。
生者で信仰系魔法使いの戦士。
死者で信仰系魔法使いの槍使い。
同じような存在なのにあり方は逆とも取れる存在。
あの時は感じなかったこの感情は、この世界に来たことで芽生えたもの。ただ力が強いだけでは届かない遥か高みにいる打倒すべき存在。そうカーミラは、シャルティアは初めて出会ったのだ。ライバルと言うべき存在に。。
そこには退屈がなかった。まだまだ強くならなければならない壁がある。いつかその壁を破り対等に戦いたいと!
そこに恨みがないとはいえない。だが、それ以上に楽しいと思う自分がいる。まだ戦いたい。体が悲鳴をあげる。それでもと心が叫ぶ!不思議と憎悪を募らせるより力が湧いた。
これは強くなるため協力してくれた同僚や共犯になったソリュシャンを裏切る事になるだろうか。
今も心配そうにこちらを伺う片方の
その時は、同僚や上司部下など関係なく謝るしかないだろう。
「ま、まだだぁ!まだ私は・・・戦える!」
ふらつく体を気力で立ち上がり、槍を構えようとするシャルティアを見ながらソリュシャンはその擬態を
(こんなに強いだなんて!、これでは少し弱体化させても、取り込もうとすれば腹から食い破られてしまう!ユグドラシルでの敗北は油断からと期待していたのに・・・これではヘロヘロ様の仇も打てず、一矢報いることさえできない!)
なぜ、ここにソリュシャンがいるのかと言えば、シャルティアとソリュシャンは同じ目的の元で行動しているのもあるが、ソリュシャンは自分がスライムであることを利用し、部屋に籠りなんとか2体に分裂した。セバスにさえ気付かれないようにするには骨が折れたが令嬢役は問題なくこなせるほどの力しか与えず、今ここにいるソリュシャンは通常通りの能力を引き出せるが、レイナとの元々のレベル差でほぼ意味のないものとなっていた。
正面から戦うのではなくアサシンとして観察力のあるソリュシャンが第三者の視界を受け持つことで危険をメッセージで伝えるなどしようとした。盾に隠れたレイナのことも伝えようとしたがその瞬間ソリュシャンの方に気を向けてきたのだ。直接目があった訳ではない。見られていると感じたのだ。
これがナイフや石などの物理なら気にせずに行えただろうが、意識を向けられただけで思考も体も膠着したのだ。
(全くこれではあの女の方が化け物ですわ!)
ソリュシャンの瞳は憎悪で濁り、レイナを捉えて離さない。それに気付いているのかレイナもシャルティアに気を配りながら、ソリュシャンにも警戒している。お陰でレイナが連れてきた者たちを人質にとろうにもそうした動きをみせた途端に距離を詰められ、消滅させられそうである。
シャルティアが構え、レイナも静かに構えたまま再び対峙したところで、洞窟に異変が起こる。
パラパラと天井から土が落ちてくる。そうここは野盗が根城にしていた随分前に捨てられた廃鉱跡であり、当然充分な補強もされずにいた洞窟。レイナとシャルティアの攻防に耐えれるはずがなかったのである。それに気付き、慌てたのはレイナと一緒に来たアイアンチームリーダーのバオであった。
「ヤバイぞ!。洞窟が持たない!。急いでここを脱出するぞ!」
「そ、そんな!?」
「ちっ、忌々しいな」
レイナとシャルティアも気づいているが対峙したままでは動けない。
「ふぅ、やってしまったわね。建物が壊れるなんて考えなかったわ。カーミラとやら、ここは一時休戦して場所を変えてから再戦しない?。このまま続けても共々生き埋めが精々よ。それでもやるならしょうがないけど・・・」
「貴様の言葉に乗るようでしゃくだが・・・。いいだろう。今のわたしでは勝てないことぐらいわかる。悔しいが今回は引くことにする」
「助かる。では・・・<空間固定>」
レイナがそう唱えた瞬間、洞窟の崩れるのが止まる。急ぎ駆け出そうとしたアイアンチームが驚き固まる。
「私のタレントよ。空間をその時のまま固定することでトラップを作動させなかったり自然災害を止めることができる。当然時間制限はあるわ。呆然としているが急ぐわよ。この方向から弱いけど人の気配を感じる。もしかしたら、野盗に捕まっていた捕虜かも知れない」
それがあれば戦う時間はあったのでは?というように睨んでくるカーミラや彼らをすぐに納得させるために時間制限があることや便利なタレントを言い訳に利用する。これで今は凌げるだろうが、漆黒には回復魔法効果上昇。それに彼らには空間を固定するなどで2つタレント持ちだと思われる。彼らに口止めしてもいずれは漏れて、世に出回る。この調子ではまだまだタレントは増える一方であるのが悩みの種だ。
「わ、わかった。すぐに!」
「レイナさんを信じます!。ブリタさん!」
「はいはい、わかってますっていきゃいいんでしょ?あとあんたも来なさい。元野盗の仲間なんでしょ牢か何かにいれてるんでしょ?鍵どこにあるかわかるわよね?」
「あ、ああ。自分で走れるから引っ張るな!」
すぐに動いてくれたのはエンリ、シオンと以外にもブリタであった。彼女はブレインを乱暴に引っ張り駆け出す。彼らに続くようバオたちも動き奥に作られた牢から捕まっていた女性たちを見つける。
そこで、レイナの空間固定で牢が開けれない等とあったが一時的に解除することで問題なく女性たちを救出。洞窟から出ようとした時にカーミラが倦属とまだいることに不思議に思うがなんと
「勘違いしないでほしいが、別に助けるわけではありんせんよ。どうせ、無事に脱出するのだし、万が一にも死なれて勝ち逃げされてはわたくしの
と長々と言い訳する少女がいたが、レイナたちは無事に洞窟から脱出することができた。
のちにブレインが野盗が集めた金銀財宝を話し、洞窟の大半は崩れたがその宝物庫は無事でそこにあった隠し通路も比較的に頑丈に作られていたので外から通り回収し、思わぬ収入を得ることになるのだった。
☆
う、うまい!と叫んでからのモモンガの動きは早かった。お握りを噛み締めては、涙を流しながら咀嚼し、飲み込むまで時間がかかった。主が食べられたのでナーベラルやユリも食べてから、思わず固まる。確かにナザリックの料理に比べれば劣る味だが、不快にはならないむしろ・・・
「あんなに嬉しそうに泣いて食べる人は始めてみました」
「今まで大変だったのかな・・・」
「豪快な食べ方である。レイナ殿もうかばれるである」
「くぅ、ただでさえナーベちゃんやユーリさんに挟まれて食事なのに、同じものとはいえレイナの手作り羨ましいぜ!」
喜ぶ御方の姿に嬉しい気持ちもあるがそれがまたあのレイナという女のおかげなことにショックを隠せない2人であった。