「くそ!凌いでも次から次へと沸いて来やがる!」
「い、今のところ死人は出ていませんが重軽傷者多数出ており、このままではここもいつ突破されるか・・・」
砦を護る隊長がボロボロの姿で、怒声をあげて折れてしまった槍を捨て、帯刀していた剣を抜く。目の前の大門も度重なる襲撃ですでに門としての機能を残していない。
さっきから兵士と冒険者が負傷者を後方へ移動。彼らも心身共に疲れ果てており、もし次が来れば撤退も考えなければならない上に問題はまだある。
どこからか漏れたのかアンデットが街の至るところに現れたのだ。しかも緊急の避難路にも現れたことで避難は難航。被害らしい被害は今のところ聞かないが、連絡が遅れているだけで被害は出てしまっている筈だと隊長は考える。減らしたくない人員の中から足が速い者を選び、各所へ走らせたが果たして間に合うかどうか。
「た、隊長!!」
「!?お前は・・・」
その時現れたのは彼が送り出した伝令の者であった。その兵士は重い鎧を脱ぎ走りやすい格好をしている。服は砂汚れが目立つが息が切れている以外は怪我もないようだ。兵士は息を整えると隊長に話し出す。
隊長はこの時最悪の予想を立てていたが彼の報告に言葉を失くしかけた。
「ーーの地区は被害はゼロ。市民も軽く怪我した者がいるくらいで避難は無事終了しました!アンデットの姿もありません!」
「なに?」
「市民の皆さんが口々に白騎士に助けられたと!」
「本当なのだろうな!?こんな時にガセの情報など流せば混乱が大きくなるぞ!」
「う、嘘ではありません!その地区を受け持っていたミスリル級冒険者クラルグラからも白騎士がいたことを確認しています。遠目でしたが私もアンデットを瞬殺する白騎士の姿を拝見しました!」
「隊長!」
「お前も無事だったか!」
彼に続いて他の伝令たちも次々と戻り、報告が舞い込む。
いわくアンデットとは違うモンスターが現れ、人間には目もくれずアンデット惹き付け殴り殺していた。
いわくエルフの少女が悪魔を使役し市民をアンデットから守った。
いわくアンデットだけを食べるスライムが現れ、人間が間違って体内に入っても吐き捨てる。
一番アンデットが多く現れたところでは銀髪の女旅人が赤い鎧の少女と弓使いの眼光鋭い少年に妖精の羽根を生やしたダークエルフが冒険者たちと協力して市民の避難を進めていたなど、まるで白昼夢でも見たような報告に隊長は怒りを通り越して呆れそうになる。
「お前ら揃いも揃ってまともに報告もできんのか?この混乱だ。よくわからん幻でも見たのだろう。いい加減な報告をする暇があるなら事実の一つくらい言ってみろ!」
「し、しかし隊長っ!」
「しかしも案山子もあるか!?ええい、話にならん!それが事実ならその当事者の一人でも連れてこい!」
「隊長!!」
「今度はなんっ!?」
外の見張りを任せていた兵士の声に隊長が振り向き、今度こそ言葉を失くした。
街の奥から最初に報告のあった白騎士が悠然と歩いてくる姿。彼の白い鎧はこの夜という暗い中でも随分と目立つ。
それだけではない。
彼の右隣からなんとも形容しがたいピンクのモンスターが。
左から巨体の悪魔に肩車されたエルフが。
路地裏から禍々しい紫のスライムが。
建物の屋根から落ちてきたピンク色だがこちらはスライムほど液体然としたものではなく丸い物体がポヨンと軽い音を発てて着地?した。
そして、その頭上から妖精がもつ羽根を生やしたダークエルフに掴まり降りてくる白銀の髪を夜光で輝かす絶世の美女が。
人間だけでなくエルフやダークエルフ等の亜人どころかモンスターと言われる者たちが足並みを揃えて歩いてくるその姿は恐ろしいというより幻想的で隊長の中でお伽噺に語られる13英雄たちを思い起こさせた。
「たっちと茶釜は砦の門前を警戒。アンデットが現れたら速攻で倒せ」
「ああ、了解だ」
「オッケー❤️まっかせてぇ~ 」
白騎士とピンクのナニかが門の防衛に向かうため兵士や冒険者たちの間を抜けていく。
「やまいことあけみにヘロヘロさんは遊撃に回って近付くアンデットは全て殲滅を」
「わかったよレイ」
「私とお姉ちゃんに不可能はない!」
「レイナさんに従いますよ」
悪魔とエルフ、しゃべるスライムに驚く暇もなく、門を出て少し離れたところを巡回する。
「もっちさんは私と一緒に怪我人の治療を相棒は上空から私たち周辺を護衛してアンデットの動きを監視」
「はいはい。任されましたよ~。でもなぁなんかやる気が」
「ーーーあなたが頼りよ。お願いね」
「!?まっかせなさい!全力全開で頑張っちゃうから!」
「ふぅ、お熱いことで。私もできる事をやるわ」
指示に拗ねたように答えるダークエルフが銀髪の女の言葉と顔をみた瞬間今まで以上のやる気を出して、羽根を羽ばたかせ上空へと見えない速度で消えた。
残った女とピンクの丸い物体が怪我人が集まる場所へと近付いてくる。正体不明の相手にパニックになるかと思われたが。
「あ、あの人は大丈夫です!彼女は回復魔法が使えます。重い怪我を受けた人を優先して治療してもらいましょう」
「賛成である。我輩ももう回復魔力が枯渇してしまったある」
「レイナさんがいてくれれば百人力だぜ!」
「彼女は信頼できる人物なのは私たちが保証します!どうか怖がらないで!」
「そうだ!俺たちも保証する!」
ここの防衛に最初から最後まで担当していたシルバー級の冒険者の声に他にもいた冒険者たちも彼女を知っているのか賛成する声が上がり始める。
「ありがとう。みんな。私たちが来たからには誰も死なせないわ」
そうして、まずは彼女を信頼する冒険者たちが進んで回復魔法を受けて問題ない事を証明し、次々と重症の兵士たちが彼女とピンクの丸い物体の前に運び受けることになる。
この場にいるすべての重軽傷者が治るまでただ数人でアンデットを漏らすことも彼女たちの魔法が切れることなくこの騒動は収縮していくのだった。
「漆黒の英雄に・・・白銀の女神か・・・」
一部始終を見守っていた隊長が動かなくなった利き手が治った事に大歓喜する部下を見ながらそう呟いた。
☆
~エ・ランテル
カジットの今回の作戦は途中までは上手くいっていた。たまたま手に入ったスレイン法国秘宝"
そのタレント持ちの小僧を拉致する時に手強い護衛の邪魔が入り、結構な量の魔力を使ってしまったが目標は達成。抵抗が激しかった小僧も今は両目を潰され、"
小僧の力が思いの外高かったためか予想以上の
だが蓋を開けてみれば未だに人死が出ていないため負の力は全く溜まらず、このままでは念入りに下準備した全てが無駄になりかねない。
アンデットを召喚したあと合流するはずの弟子たちからの連絡もない。
そんな苛ついていたところ現れたのは銅級の冒険者3人をよく見れば内1人は苦渋を嘗めさせられた武道家の女であった。あれほど苦戦させられた女がただの銅級。そんな訳がないといい加減な採用をした冒険者ギルドに対しての怒りさえカジットは感じた。
これがミスリルやオリハルコンなら警戒のしようもあり、待ち伏せしていた計画を後回しにしていれば!と今更ながら後悔していた。
相手はあのクレマンティーヌを一撃で再起不能にしかけた女とそれと肩を並べるらしい漆黒の戦士と魔術師だ。正直今すぐ逃げ出してしまいたい。
しかし、ここまでして失敗すればカジットに後はない。運良く生き延びて次の計画を立てているうちに彼の寿命は尽きるだろう。
「では戦士は戦士同士で向こうで決着をつけようか。ユーリ、ナーベこっちは任せたぞ」
「わかりました。モモンさん」
考え事をしている内にクレマンティーヌが漆黒の戦士を挑発してこの場から引き離していた。きっと彼女から見て漆黒の全身鎧の男は相手取れると判断したのだろう。みれば彼女は余裕の江見を浮かべている。奴を引き連れている内に女2人は任せたということか。
相手は女が2人だが油断などできない。すぐに切り札を使う事にした。
スケリトルドラゴンの3体召喚。
いくら骸竜が打撃に弱くてもそれが3体。アダマンタイトの戦士でも厳しい内2体を武道家の女を襲わせ、もう1体は魔法絶対耐性を盾に魔術師にあて武道家を倒すまでの時間を稼ぎ、最後は自分も含めて攻撃に参加するしか勝ち目がない。
あまりの光景に絶句しているかと思った女たちは
「ふぅ、何を出してくるかと思えば、こんなものですか・・・」
「姉さん・・・しょうがないですよ。あんなに息巻いてて喚んだのがこれでは拍子抜けもします」
彼女らの声には恐怖が一片も入っていなかった。
「いきなりあったのがあの女性だったから、幹部級となればそこそこ強いかと考えていたのですが・・・どうやら少し臆病になっていたようです」
「これでも幹部らしいですからね。私たちが知らない情報網もあるかもしれません」
「そうですね。ナーベ。あのなかなか好感を持てる人間を拐ったのですからどうしてやろうかと思っていましたが・・・」
「な、なにを言っているの・・・だ。お前たちは・・・」
「?」
あまりに気負いもなにもない日常的な会話に、女たちが現実逃避しているのかと思って訪ねてみたが返ってきたのは純粋な疑問を抱いた首を捻るというしぐさであった。
「今!この状況を!見て!どうしてそんな態度でいられるのだ!!」
カジットの叫びに2人はああと言って顔を見合わせると
「こんなの分もいらないわ」
「まぁ、話をするには邪魔ですね。片付けましょう」
家が散らかっているのを見て、掃除しましょうというような気楽さで女たちが動いた。
クレマンティーヌは歩いていた。今まで誰にも見せたことのない表情で。
カジットと別れて漆黒の戦士と対峙して、戦闘を開始しようと身構えると男が話しかけてきたのだ。
「まぁ、待て。少し聞きたいのだが君は何が目的なのかな?どうしてこんなことに協力したんだ?」
いきなりなんだと面を食らう。こっちはバリバリの殺気を出しているのだ。それなのに男はちょっと話すように語りかけてくる。武器も持たずに無防備に。
「ああ?いきなりなんだ。命乞いか?」
「いやいや、考えてもみたまえ。私たちは今日でついさっき会ったばかりじゃないか。君がどんな人でどんな性格なのかとか私にしてもなにも知らない。もしかしたら話し合いの余地くらいはあるんじゃないだろうか?」
「ふざけてんのか、てめえこの期に及んで話し合いましょうなんて体だけは立派なとんだチキン野郎だ」
「そう思ってくれて構わない。だが今私は武器を持たずに両手もあげている。少しくらいはいいだろう?」
「・・・ふん、少しだけよ」
クレマンティーヌの煽りもものともせず話しかけてくる殺し合いになる直前でそんな事をしてきた奴ははじめてで彼女も少し毒気を抜かれてしまい思わず了承してしまう。はっとなるが男が喋りだしたので警戒は解かずとも耳を傾ける。
「ありがとう。ではまず私の今の目的を話そう。私はモモンつい最近この地を訪れた旅人でね。あまりこの辺の事を知らないんだ。生まれながらの異能タレントや君たち戦士が得意とする武技については初めて聞くものでね」
「はっ、まさか教えてくださいとでも言う気か?」
「ああ、その通りさ」
あっさりと答える目の前の男を見る。全身鎧で背中に背負った双振りのグレートソード。体躯も今まで見てきたどの男性よりもずっと大きい。黒い鎧はある人物を思い出させるのでマイナスだが自分のビキニアーマーを見ても動じない理性と今も見せている紳士的な態度。腕もあるように見える。かなり優良物件だと思える。なにより・・・
初めてだった。自分よりも身体能力や技術が高い者たちや自分にはないタレントがいたあの国。そこで落ちこぼれとされた自分に肉親である両親さえ興味がなく。近寄ってくるのは欲望ただ漏れのろくでなしばかりであり、自分もそんなやつらを挑発し、こちらがその気になったと思わせて油断したところを反撃してあとは趣味の拷問を繰り返した。
そんな自分が今更誰かに必要にされたからと言って乙女のようにドキッとしたなど・・・
「ぼーとしてどうかしたかい?」
「な、なんでもねぇよ!」
「そうか・・・ところで俺の事も話したんだ。君の事も教えてくれないか?」
こいつ、もしかして口説いてるつもりかと思いもう条件反射といえる苛つきを抑える。久しぶりかもしれない自分の感情を抑えて相手の機嫌を損ねたくないと思ったのは、だからだろうか、自分の事を話すのに抵抗が無かったのは
「特に面白くもねぇぞ」
「ああ、君がどんな人なのかが知りたいからね。気を利かせたようで悪いね」
「!?」
まただ。この男わざとやっているのかっ。熱くなった頭を振り自分の身の上話を話す。これもカジットがあの女たちを倒す時間稼ぎだと言い訳しながら。