「ぐはぁっ!」
クレマンティ―ヌは地面に叩きつけられた。既に武器は奪われ手の届かない位置で地面に転がっている。打撃用のモーニングスターがあるが不得意なそれが相手に通じないことはわかる。
死角を狙ってもダメ。
テンポを変えてもダメ。
フェイントもダメ。
一体いくつ死ねば気がすむと言うのだ私は!?
今、生きれているのは相手がこちらを殺す気がないからだ。もしそれが実戦なら負ければ死ぬ以上に悲惨な目に遭うだろう。
国の馬鹿どもを見返すため死に物狂いで鍛練し、一部の強者には勝てないが自慢のスピードで撹乱し逃げることはなんなくできると自負していたのにここ最近でその自信は砕かれた。
最初は
その心のまま対峙した自分よりも身体能力は高いだろう
最後は目の前にいる回復魔法を使いこなす(何だそれは馬鹿にしているのか!)
これが鍛練で相手が同性なのに安心する自分が許せない!
気合いで起き上がったクレマンティ―ヌは通算52度目となる突撃を行う。それは今までよりも断然速くここ一番だと言えた。
クレマンティ―ヌは遂に更なる壁を打ち破りレイナへと迫る。どこかのゼノなブレイドであれば勝確BGMがかかる程であったが。
「良いわ。また壁を突破したわね。この調子よ」
「ぐばはぁぁぁぁ!?」
レイナ・ヴァルキュリアには通じない!
向こうはそれ以上の早さで動き延びた腕をとられ、その速さを活かされた投げ技は再びクレマンティ―ヌを地面にかえした。
「お~お~。また派手にやられていたな」
「ちっ、うるせえ・・・うるさいな」
先程の模擬戦をしていた場所から少し離れた木にもたれ掛かるクレマンティ―ヌの側に同時期に合流した系統は違うが速さを武器にしていた戦士。というより侍のブレインが話しかけてきた。
口が悪いのをレイナによって修正されているクレマンティ―ヌはついでそうになった言葉を飲み込み言い直すがブレインは気にした様子もなく手を小さく横に振る。
「別に俺に対して言い直す必要ないぜ。同期だし、今はまだお前の方が強いしな」
「・・・別にお前たちだからって言い直した訳じゃないわよ。あいつがすぐ側でいることがわかったからよ」
「ああ、あれには人生4度目に驚いたぜ」
ブレインが言う4度目の驚きは最初は王国での自分を負かせたガゼフとの御膳試合。2度目は野盗の洞窟で出会った化け物。3度目はその化け物に余裕で勝つレイナで今回が4度目である。
思い出すのはレイナとの模擬戦を20回目を終えた後レイナからクレマンティ―ヌではないその後ろを見ながら言われたのだ。そこに浮かんでいる女の子は知り合いかと。
なんのことかと思い最初は相手にせず模擬戦を続けていたのだが当然敗北を重ね地面に大の字で倒れたまま話の種に聞いてみたのだ。もしただの勘違いならからかってやろうとして。
それがいけなかった。
レイナはまず女の子の特徴をあげたのだ。
特殊な刺繍がされた白いロープ。
髪は女の子らしい腰まで伸びている。
決まり手は女の子が頭に着けているリボン。
クレマンティ―ヌはそれに心当たりがあった。
まだ今のように最強の戦士となる前。
忌まわしい仕事を受ける前。
誰も頼らない信じないと決める前。
狂気に陥り狂戦士になる前。
お互いに信じあっていた友人の姿に。
クレマンティ―ヌは今自分がどんな顔でいるかも知らず動けない体で地面を這ってレイナに近付き懇願した。彼女に会わせてほしいと。
レイナに言われ確認しようにもどこを見てもその女の子の姿は見えないのにレイナだけは一点から目を離さない。当然クレマンティ―ヌも彼女の異常な行動に目を丸くしているエンリたちにも見えていないのに彼女だけは見えているのだからなにか方法があるだろうと。
レイナはただ頷き。呪文を唱える。
".アストラル・アイ"
それはユグドラシルでは幽体のモンスター相手に戦士が物理攻撃できるようにするための信仰系魔法の1つだ。
この世界では幽体を白日の元に固定して生者に見えるだけでなく触れるようになる。
そこに現れたのは間違いなくあの日任務で死んでしまった友達が当時の姿のまま存在していた。
クレマンティ―ヌは駆け寄ろうとしたがうまく体が動かず立ち上がるものの再び倒れそうになるところをレイナとエンリによって両側から支えてもらえ倒れることはなかった。
周りの誰もがなにも言わずクレマンティ―ヌを女の子の前まで連れていく。
手の届く位置に来るとクレマンティ―ヌは震える手を伸ばし女の子の頬にさわる。それは死者らしい冷たいものだったがクレマンティ―ヌは気にしなかった。そこに友人がいるそれだけで心があたたかくなった。
女の子のほうも自分が見えるだけでなく触られていることに驚いているが逃げる事はなかった。
感動の再会の後レイナからもし遺品か何かあれば蘇生が可能だと言われ。何でもするからお願いすれば快く引き受けてくれた。問題は遺品だが彼女が亡くなった時にクレマンティ―ヌは彼女の形見を見晴らしの良い場所に埋めて本国では建てられなかった小さい墓石の下に決別も込め埋めたので取りに行けば良い。
そうして蘇生の目処も立って落ち着いた時にはたと気づく。一体いつから友人はクレマンティ―ヌの側にいたのだろうか?
友人が蘇ることに顔を喜びで溢れさせていた彼女の顔がみるみる青白くなっていく。その急変にエンリたちは疑問に思うも良く考えたらこの状況は普通に稀である。
いくら友人でも幽霊は怖いかなとハッキリわかる優しげな目でエンリから見られ男たちからはわかるぞと相づちまでされる。
ちがう!そうじゃない!とクレマンティ―ヌは心で叫ぶも口には出せず、なんとか冷静な思考を蘇らせ恐る恐るレイナを通して友人に確認をとる。
アストラル・アイでも姿を現し触れでるようになるだけで喋れないらしくレイナだけが意志疎通できるらしい。レイナは耳元で囁くクレマンティ―ヌの質問にあ~と理解する。
気付かれた。正直耳から煙が出る位恥ずかしいが確かめなければならない。レイナが気遣いエンリたちには聞こえない声量で友人に話しかける。
友人は自分の首を締めるしぐさをしたあと両手で羽をはためかせ首をかしげ降参のポーズ?をとる。こちらには身ぶり手振りでしか伝わらないが充分過ぎた。
つまり最初からである。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クレマンティ―ヌは転げ回った。穴があったら武技を発動させてでも入りたかった。上から年下の少年少女や少し上の男に困惑の視線を向けられていても頭を抱えて転げ回った。
レイナの捕捉で友人は死んだあとふわふわしたまま今の幽霊になり、気付けばクレマンティ―ヌの近くにいた。朧気ながら生前の記憶があった友人はクレマンティ―ヌが心配で見守っていたのだ。
そうずっっっっっと見られていたのだ。信じていた友人に。
愉悦に高笑う自分も。
拷問して楽しむ自分も。
表では努力なんて力のないやつのすることと言いながら影では死に物狂いで努力していた自分の姿を。
さらにレイナの捕捉でクレマンティ―ヌがなにかやらかしているのは知っていたがそれも見守る自分ではどうしようもないとして離れていたらしい。
そういえば結構気を使う子だったなと思いだし、死んだあとも気を使わせていたことにクレマンティ―ヌは死ぬほど今までの行いを後悔していた。
クレマンティ―ヌの黒歴史 "爆誕" である。
今ならモモンガことモモンとその手の話で盛り上がることは間違いない。傷の舐め合いになるだろうし話せればだが・・・。
そんなこともありレイナには友人の蘇生や今回の恥じを知られたことから完全に頭が上がらないようになった。
「まぁ確かにねぇ。お前の領域という武技は確かに厄介だが自分自身が相手に追いきられないところがある。鍛練不足なんだよね」
「身をもって知ってるさ。嫌ってほどな。お前の場合はまっすぐいくのは速いがフェイントが入ると若干遅くなるってところか」
「あの速さを見切れるレイちゃんがおかしいの!でも確かにそれが課題だねぇ」
ちゃっかりお互いに知見を教えあう2人の前ではエンリとシオンが組んでレイナを相手に戦っている。2人はクレマンティ―ヌらよりレイナと戦っているためか2人より良い動きをしている気がする。
それはエンリたちがレイナに直実に追い付きつつあるという訳ではなくレイナがどう戦えば戦いやすいかうまく誘導しているからであるがその動きは数日前まで素人だったとは思えないほどであった。
「はぁ、あれで数日前まで素人だったんだって言うから信じられないぜ。シオンは村でレンジャーしていたらしいからわかるが、エンリはただの村娘って言うんだからなぁ~。これがほんとの才能なのかね?」
「お前がそれを言うの?あんただって才能あんでしょうに、私なんてないない尽くしでここまで登ったのよ?嫌味になるわよそれ?」
「お前こそそんなことないだろうに・・・。周りに見る目ない奴が多かっただけだろ?」
「・・・ふん」
ブレインのお返しにクレマンティ―ヌは鼻をならし会話を終える。そのままエンリたちがレイナにやられるまで見学していた。その時の空気は悪くないと思うのだった。
「うっまぁぁい!!レイナさん何ですかこれは!?これはなんていう料理なんですか!?」
「お、おい。エンリ美味しいのはわかるが落ち着けって!」
「うふふ、これはカレーライスと言って私の国にあるご飯に良く合う究極の料理よ。そんなに喜んでくれたならこれに決めた甲斐があったわ」
「すげぇ、エンリの飯だけ俺らの3倍の速さで無くなっていく・・・これが強くなる秘訣なのか?」
(ば、馬鹿な!?う、旨すぎる!?)
エンリの食べっぷりを見てこれが若さかと自分が老いたように感じて少し塞ぎ込むブレイン(エンリが桁外れなだけで気のせい)を差し置いてクレマンティ―ヌは愕然とした。
目の前にある料理は良い香りはするが色が茶色で泥のようなものが白い豆の山にかけられており見た目で損している気がするが匂いにつられ一口食べてみればピリッとした辛さに野菜や肉の旨味がすべて溶け出したカレーライスはレイナが究極の料理と言うのも頷ける。
実力も負け。人格も負け。少し自信のあった裁縫(冒険者のネームプレート埋め込んだビキニアーマー)?も彼女が冒険者用に作っている鎖帷子を見て完敗。料理も肉を焼くぐらいしかしたことがないクレマンティ―ヌは当然負けた。
気のせいかアストラル・アイが解けて見えなくなった友人がうっすらと同情の眼差しでこちらを見ていた。
「ちっくしょぉぉぉぉ!!」
その日あんまりな女としての天と地の差にクレマンティ―ヌはやけを起こしエンリと並んでカレーライスをお腹に放り込んでいくのだった・・・。