王都リ・エスティーゼ王国上空
「あれが200年も栄えている王国ね。確かにエ・ランテルがスッポリ入る大きさは見応えあるわ」
レイナは眼下を眺めて呟く。この世界に来たときは忙しくできていなかったがユグドラシル時代レイナはなにもするでなく様々な街やダンジョンをこうして眺めることがある。そうして発見した光景等を写真機能で録りブログ内で披露させていた。
そのブログは結構好評でその景色目当てにユグドラシルをプレイを再開した者や始めた者までおり、公式から表彰されたこともある。
フライとは違う戦士用のスキル"飛翔"を使用して念には念を入れて、陰遁アイテムを使い姿を見えないようにしていた。
ずっと続く町並みの最奥には立派な王城がドッシリと構えている。
「でもこれじゃ。ガゼフの家は徒歩では探せそうもないわね。たしかガゼフが兵舎を探して名前を伝えれば案内してくれるんだったかしら?」
ざっと見回しそれらしい建物を見つける。王国内にいくつもあるようだが、そのなかでも一際大きめの建物で兵が大勢いる所を見つける。さらに遠目だが見覚えのある人物が窓からチラッとのぞいた。今から入る王国の入り口からそんなに遠くはない。
全体的に主な道は綺麗に整えられているが脇道は基本野ざらしのままだ。そこはエ・ランテルの方が整えられている気がする。そのまま王都を眺めていれば貧困層らしいボロボロな建物。
基本平民が暮らす先程よりは綺麗な建物。
かなり大きめで庭付きらしい富裕層が暮らすであろう建物ときて、そこにここ最近良く会う顔ぶれがいることに気づく。
なにやら業者らしい者に案内されて空き家を探している執事服の老人。消えているレイナの方をしっかりとみた。さすがセバスと感心し、一瞬だけ姿を現し手を振る。
向こうも業者に気づかれないよう小さく頷く。返事は期待しなかったが律儀な人だ。というか姿も消した上で気配も消していたのに気づくとは・・・ゲームとは違いそこら辺はこの世界に来て変化したものなのかわからないが、もしかしたら今ナザリックの元NPCでは彼が一番厄介なのかもしれない。
・・・今度悟にお願いして一勝負申し込もうかしら。
いや、その前にカーミラとの約束が先か・・・悟には謝ったけどナザリックに住む者たちにも一度謝らないといけないしね。・・・許してはくれないかもしれない。
彼らにしてみれば家に侵入して玉座の間を破壊したのだから最後まで使わなかったとはいえどうみても最終決戦用ステージであり最終防衛ライン。
彼らにしてみれば寝首をかかれた気分だろうし。いくら悟の言葉で協力者として紹介されても思うところのある者はたくさんいそうだ。
レイナはこれからのことを考えて深く溜め息を吐くと仲間たちを待たせている近くの林に降りて行った。
☆
いつもの訓練を終えここ最近の事情から兵舎に来ていたガゼフ・ストロノーフ戦士団セイラン副隊長は他の兵士たちから様々な視線を向けられながらこの場にいた。
ガゼフに憧れている平民出身の憧れの視線。
ガゼフを良く思わない貴族に仕える者の見下した視線。
これもいつもの事なので気にせずいると突如兵舎全体で騒がしくなる。走ってどこかへ向かう兵士に話しかければ、今とんでもない美人がここに道を訪ねに来たらしい。
とんでもない美人・・・ふとカルネ村であった女性を思い出したセイランはまさかとその兵士に特徴を聞き確信す。
流行る思いを抑えて副隊長がその場に着くと思った通りそこにはあの村で出会ったレイナが4人のお供を連れており、内2人オロオロしている見覚えのある少女とうざそうに顔を歪める女も顔もスタイルもいいせいか視線を集めている。
レイナ以外に近づかないのは目付きの鋭い少年やセイランもガゼフから聞いたことのある屈強な男が身を挺して護っているからか。レイナに話しかける1人の兵士が貴族に仕えていることをバックに彼女が言う案内を引き受けようとしているところであった。
すぐに彼女の元へ向かおうとするも野次馬が壁となって邪魔をする。どうやって野次馬となった兵士たちの壁を抜けようか考えていると・・・。
彼女の蒼い瞳と合った。
彼女はすぐにその兵士に断りを入れるとこちらに向かってくる。
「セイラン副隊長探したわよ」
自分の名前が呼ばれそれに気づいた周りがサッと道を明ける。
「わ、わたしの名前を・・・」
「当然でしょ。誰があなたの傷を治したと思うの?それとロウとハッシェは元気?あと・・・」
戦士団の他の者まで・・・あの時カルネ村で重軽傷者をその癒しの魔法で治していった彼女はそれだけでなく彼らの不安の声を聞いてくれていた。
自分もその一人だ。戦士長のためならと仲間たちと粉砕する覚悟で天使を召喚する魔術師たちと戦ったが天使の一撃が武器を持つ右手を吹き飛ばす。まっ赤になる視界の中で見た戦士長も長旅と武技の連発で満身創痍。自分達が憧れた背中が無惨に散ろうとしたその時、彼女とそれに従う白騎士。協力関係にあるだろう黒い魔術師たちが現れた。
一瞬だったが確かにみたのだ。光景はすぐに変わり自分達は村人が立て籠っている民家に移されていた。
傷ついた兵は頼まれていたのか村人たちが応急措置を行ってくれ命に別状がある者はいなかったが兵士としての命は尽きたといえた。止血されたがなくなった利き腕。覚悟していたとはいえジリジリとした思いが生まれるもの無理がない。
だがそんな不安は彼女のおかげでスッカリなくなった。なくなった腕が彼女の回復魔法で元に戻り、違和感もなくまるでさっきまでのことが夢のように感じる程だ。
これほどの効果を持つ回復魔法の使い手で凄腕の戦士。その姿は美しく性格も優しいが厳しい所もある。勝算もなく突撃とは目に余るもっと作戦を練りなさいと叱咤された。
これしかないと自分達は信じていたが後からもっと他に方法があったのではないかと考えた。あの魔術師たちを背後から奇襲するとか、もしものために何が起きていたのか王国に伝令をとばすとか。
あの場で誰も伝令として一人だけ逃げるなど承諾しそうにないがいくらでも反省点が存在した。
「でも隊長を見捨てないあなたたちはとても無謀だったけどとても勇敢でもあったわ。だから私たちも覚悟を決めた。あなたたちのその動きに心を動かしたの。あなたたちがそう行動したからこその勝利よ」
落ち込む私たちに彼女が言ったその言葉にどれ程救われただろうか。ただ戦士長の背中を見てがむしゃらについてきたその姿を見て心を動かしてくれる人がいたことに。
見れば上半身を包帯まみれだった戦士長が嬉しそうに頷いている。その事に起きていた仲間たちは嬉しくて泣いていた。
強く優しくも厳しい憧れの
「ガゼフ戦士長の自宅まで行きたいのだけど迷ってしまいそうでね。案内をお願いできないかしら?」
「お安いご用ですよ。任せてください!」
「ええ、よろしくお願いするわセイラン副隊長殿」
少々気合いが入りすぎた返事に彼女は少し笑って私の隣にくる。久し振りに会えた彼女の顔がすぐ近くにあることにドキドキしながら彼女の後について来ていた者たちにも声をかけてその場を離れた。
チラリと後ろをみれば彼女を誘っていた兵士が悔しそうに地団駄を踏んでいる姿が見え、いつも他の兵士に連れている女を自慢していた彼には悪いが胸がスッとした。
「しかし、大変な騒ぎになってしまい申し訳ありません」
「しょうがないわ。ここにくるまでフードを被ってたんだけどここの門番に怪しいからとれと言われてね。それでこれよ」
「うちの仲間がすみません・・・」
「仲間と言っても戦士団とは違う集まりでしょ?あなたは悪くないわ」
微笑む彼女の表情に胸が締め付けられる。自分よりも弱い存在なのにこうして対等に話してくれた上に慰めてくれる。
カルネ村で彼女に傷を癒されたものが勢いで告白していたがそれを止めたのは彼女に迷惑がかかるだけじゃない。
嫉妬したのだ。たとえ玉砕覚悟の言葉とはいえ愛の告白に。
戦士長も反対側から止めていたがもしかしたら・・・
彼女と自分ではどうしても釣り合わない。釣り合うとすればそれこそ王国1とされるガゼフ戦士長かあの時彼女と共にいた白騎士か黒の魔術師だろう。
それでももし彼女が好きになってくれたのなら自分を側に置いてくれようとするだろう。だがそれで自分は満足するだろうか?彼女と対等に笑って暮らせるだろうか?
・・・だからこの想いは誰にも言わずに秘めようと想う。でもせめて心のなかだけでも
彼女の隣を歩きながらしゃべることが楽しくて戦士長の自宅までの距離を短く感じながら
レイナさん。私は貴女のことが好きです。
これを最後に想いを封じた。
☆
目的地のガゼフ邸を真正面から眺める。さすが戦士長という肩書きに恥じない立派な建物だ。富裕層のより豪華差はないがしっかりとしたレンガ造りだ。
肩書きに反して王城より離れた所にあるのは道中セイランが話してくれた戦士長への冷遇から推測できる。
変に地位を拘る貴族たちの反対でも受けたのだろう。こんな所まで自分達の幅を利かせるのだから腐りぷりが目に浮かぶ。
ガゼフと戦い彼の強さを知るブレインはもしあの時ガゼフに勝っていたら自分がその位置にいた可能性に渋い表情を浮かべていた。
「では私はこれにて。レイナ殿一行が来たことを戦士長らに報告しなければならないので。そこのアングラウス殿の件もありますから」
そう言ってセイランはお礼の言葉もそこそこに去ってしまった。始終笑顔で対応してくれた彼だが背中を見せる一瞬だけ泣きそうになっていた気がするが・・・。後でガゼフにも確認してもらおうか彼も戦士団副隊長だ。悩みの1つや2つ抱えているかもしれない。
彼の背中を見送ったあと再びガゼフ邸に向き直る。結構広い玄関口だがこちらは結構大所帯だ。いつまでもこうしてはいられない。現に何事かこちらを伺う市民の姿が見える。
レイナは木で出来た頑丈な扉につけられた長前を数度叩く。すぐに人の気配が近付いて来るのがわかると一歩後ろに下がり待った。
仲間たちもとくに口を挟むことなく扉が開くのを待った。エンリやシオンはこんな立派な家に訪問するのは初めてだからか緊張が伺える。
ブレインは元々の性格故か動揺は見られないしクレマンティーヌも大国出身のためかまぁまぁかなといった感じでガゼフ邸を見ていた。
気配が玄関口でとまり鍵が開けられ・・・ることはなく覗き窓が開く。
「こちらはかの王国戦士長のお宅ですが・・・どちら様で?」
そこから覗く皺のよった目はレイナたちにサッと走らしたあと疑惑を深めてからそう呟く。
こんな世界なので用心するのはわかるが中々に警戒心が強い気がする。これは何かあったなと思いながらもレイナはフードを外し笑顔で答える。
「こちらがガゼフ・ストロノーフ殿のお宅と聞いて来たのですが私はレイナ・ヴァルキュリアと言います。ガゼフ殿から王国に来た際は是非寄ってくれと言われたので訪ねたのですが何か聞いていませんでしょうか?」
「貴女が・・・確かにガゼフ様から聞いてた通りに美しい銀髪と蒼い瞳の女性。少々お待ちください」
レイナの美貌に一瞬驚くも彼はレイナの一番の特徴である輝く銀髪を確認して覗き窓を閉じる。・・・銀髪前にあった言葉は極力無視しておく。後ろで焦るシオンと興味津々のエンリにヒュ~と口笛を吹くブレインと面白そうに見てくるクレマンティーヌもだ。
「どうぞ。話は伺っています。命を救ってくれた大恩人何だとか。先程の無礼をお許しください」
いえ、お気になさらずと返せば。扉を開けたお爺さんは笑みを浮かべガゼフ様が言われていた通りのお人だと笑い邸内に招いてくれた。
外も立派だが中も言わずもながらだ。ただきらびやかという訳でなくどちらかと言えば堅牢さを重視した作りに思えるところからガゼフの性格を良く表している気がする。
客間に案内されて椅子に座っていると扉がノックされきっと夫婦なのであろうお婆さんが紅茶のはいったティーポットと少しつまめそうな物をお盆に載せて入ってきた。
この世界のお茶菓子には興味があったので目の前に置かれたものをいただく。
・・・少し味付けが薄目だがクッキーなのだと思う。美味しくも不味くもない普通の味だ。
老夫婦はこれから夕食の準備があるということでガゼフが戻るまでここで待つように言われた。良ければ家の中も自由に観てくれて構わないと。
さすがにさっきとうってかわって無用心さに思うことはあれどお言葉に甘え内装等を見せてもらおうと仲間に声を掛ければエンリとシオンが着いてくるようだ。
最初は落ち着かなかったエンリとシオンだが紅茶を飲んでしばらくすればブレインたちと同じくらいのんびりし始めたので暇をもて余したのだろう。
ブレインたちは基礎が出来ている分、慣れない全力での訓練を行っていたためもあるがまだ日が浅くレイナのテントが安全だと知っていても習慣が抜けておらず気が抜けなかったのだろう。
基本壁に守られている王都に入って安心したのだろう疲れもあってか椅子に寄りかかり船を漕いでいた。彼らにはガゼフが帰るまでここで仮眠しておくよう伝えれば小さく返事をしてそのまま寝てしまった。
大の大人が子供のように寝てしまった事に可笑しくて3人で小さく笑い部屋を出る。
内装は無駄な装飾は一切なく実用性のあるものばかりだがリアルの世界ではどこにも売られなくなった文化遺産級の品物にレイナだけでなく村の民家くらいしか知らないエンリたちもつられて感心していた。
あらかた見て回ると厨房らしきところから調理する音でなくなにやら困ったように話す老夫婦声が聞こえてきたのでいったいどうしたのかと気になったレイナたちは声をかけてから話を聞かせて貰うことにした。
副隊長さんの名前調べても出てこなかったので誠実そうな名前でセイランと名づけました。原作登場人物と被らなければいいですが・・・。
モモンの状態では魔法制限がかかりフライをアイテムで補っていたので戦士は基本飛べないのかなと考えたのですがそれだとユグドラシルプレイヤーから不平不満が起きそうなので戦士用のスキルとして漢字にしただけですが"飛翔"とつけました。