ナザリック地下大墳墓モモンガ自室
玉座の間がレイナとの戦いで使えず、スキルや魔法を試すため第6階層へ赴き守護者全員を集め忠誠の議と彼らが自分をどう思っているか確認した後、モモンガは自室のベッドへとその身を沈めていた。
「あいつらマジ・・・か」
誰もいないことをいいことにモモンガは疲れたように呟く。
レイナがナザリックから消えてから大変だった。すぐに追撃しようとするアルベドをそれどころではないと止めて、回復魔法で全回復した執事長であるセバス・チャンにプレアデスから隠密に長けるソリュシャンとともにナザリックの周辺を探索を任せる。
今にもレイナを襲撃しようとするアルベドにはナザリック内の情報を集めるように指示したりとその全てで魔王ロールプレイで行えば元一般のサラリーマンである鈴木悟として心労が半端なかった。
「レイナさんへの対応がなぁ、出来ればナザリックに招ければいいけどここはカルマが極悪な上に彼女は人間種・・・」
配下からは良い思いをしないだろう。今回の彼らの様子からモモンガが言えば従うだろうが、表面上だけではいつ爆発するかわからない。現に・・・配下からは不穏な空気が漂っていた。
「アルベドもそうだし、何故かシャルティアも同意してたし、何よりヘロヘロさんが倒されたと知ってソリュシャンや一般メイドの様子がかなりヤバイ」
特に彼女たちの反応はそれはもう凄かった。正直モモンガはビビりかけて精神安定でなんとか乗り越えた。
(そういう意味ではソリュシャンを外に出したのは悪手かもしれない)
レイナがソリュシャンに殺られるとは思えないが、もし何かあればソロ最強プレイヤーとナザリック全軍の戦争になるかもしれないと考えるとモモンガのないはずの胃を痛みが襲う。
そうしてどうしようと思い悩んでる内にモモンガは眠気に誘われた。
「え、今自分寝てたのか?アンデットなのに?」
少年の朝は速い。
彼らの家族はこのカルネ村で唯一の狩人で村の食事事情や畑を荒らす害獣対策に貢献している。もともとこのカルネ村には専門の狩人がおらず、父親が村長の知り合いというツテでこの村に来てくれないか頼んだところ父親が快諾したのが始まりだ。
当時はまだ幼かった少年は数年が経ち今は父の後を追って狩人見習いをしている。名はシオン・レイヴァン。父親から受け継いだ緑色の髪に鷹を思わせる鋭い目を持った少年だ。
村で飼っている鶏が鳴くより早く目が覚めた彼は、これまた早く起きて料理を作る母親に挨拶して日課の井戸への水汲みを行うため木で出来たバケツを持って村の中央にある井戸へと向かっていた。
井戸への水汲みは他の村人が集まる前にいくのがシオンの決まりのひとつで今日も道中、村人にすれ違うことなかったが井戸に着いてみればそこには珍しいことに先客の姿があった。
女性だ。白銀の長髪を先端で括ったこの村では見たことない背中。そういえば昨日村中が騒がしかったのを覚えている。たしかかなり美人な旅人が来たと比較的年の近い独身である友人が言っていたなと思い出す。少年はそんな友人に呆れて何を大袈裟なと思い、見に行こうという友人の誘いを断っていた。
彼女は井戸のなかを覗き水を汲み上げるように持ち手にロープを結んだバケツを投げ入れている所だった。
いつも一番手だった少年は少し悔しい思いをしながら井戸へと近づく。そんな彼の気配に気づいたのだろう女性が少年の方へ振り向いた。
登りかけの朝日に反射してキラキラ輝く白銀の髪がフワリと揺れるのが随分とゆっくりと見えて・・・。
彼女レイナと目があった少年は今まで一度も感じたことのない衝撃を胸に感じた。
お前には助けられてばかりだな
私がやりたいからそうしたんだ。それに大変なのはこれからよ
ああ、だが一人じゃない。仲間がいる。それに他にも手伝ってくれそうな奴も心当たりがある。○○も手伝ってくれるだろう?
勿論よ。○○○
レイナは目が覚めた。まだ朝日が登り始める前だが、すでに住人は起きているのか壁越しから音が漏れている。
「あら、おはようございます。レイナさんもう起きたんですか?」
「おはようございます。ええ、目が覚めてしまって」
リビングらしい所にでるとエモット婦人が朝ご飯を作っている所で起きてきたレイナに気付いて挨拶してきてレイナも返す。
「良ければ何か手伝うことないですか?」
「そうね。じゃあ悪いのだけど水汲みをしてきてもらえる?」
「ええ、お安いご用ですよ」
エモット夫人が指す所に木で出来たバケツがあり、井戸は村の中央にあるので迷うことはないだろうとレイナはバケツを持つと颯爽と出掛けていった。
「空気が美味しいな」
朝明けのカルネ村の中、レイナはバケツを持ったまま大きく深呼吸した。リアルのアーコロジー以外でこんなことしようものなら有毒なガスを吸ってものの数分で倒れてしまうだろう。
(しかし、改めて思うがここは本当に異世界なのね)
考えるのはリアルのことユグドラシルで最後の最後まで遊んでいれば気付けば感覚が鋭くなり、触覚や嗅覚どころか味覚まで感じるようになった。
今こうしてユグドラシルのアバターの体を手入れているが、ではリアルの自分の体はどうなったのだろうか?、魂がアバターに入ったことで植物人間状態?もしくは死亡?いや、なんとなくそうは思えなかった。確証があるわけではないが、レイナは今もリアルと繋がっている気がするのだ。
今日の夢、あれはリアルの・・・
気付けばレイナは井戸の前まで来ていた。エモット夫人を待たすのは悪い早く水汲みをしていこうと、レイナは井戸の近くに置かれたロープ付きのバケツを持って井戸の中へと投げ入れた。
「?・・・」
ふと背後に視線を感じ、振り向くとエンリと同年代くらいの少年がレイナから少し離れたところで呆然としていた。手にレイナと同じバケツを持っていることから水汲みに来ているのは察することができるが少年は顔を赤くしたまま動かない。
見ず知らずの自分に戸惑っているのかもしれない。ならばさっさと替わろうとレイナが水が入ったバケツを引き上げようとする。
「て、手伝うよ」
「え?・・・」
少年は早足でレイナの隣に来ると彼女が持とうとしたロープを握り、それを引き上げる。どうやらレイナが女性だからと力仕事を引き受けてくれたらしい。それがレイナと狩人見習いである少年シオン・レイヴァンの出会いだった。
「すまないわね。運ぶのも手伝ってもらって」
「いや、これぐらい平気さ」
あのあと、シオンは水をレイナの分も合わせて汲み上げ手持ちのバケツにうつすと、家までの帰路で会話していた。彼の両手には2つのバケツがあり、レイナの分も持っているらしい。彼女は最初汲み上げてくれただけでも助かるのにと、自分で持つとゆうが少年がどうしてもというので言葉に甘えることにした。
「なるほど、シオンは狩人なんだ」
「まだ見習いだけどだ。前まではラッチモンさんが一人で村のモンスター対策してたけど、半年前に怪我をしてから、俺の父が村長に呼ばれてそれで家族揃ってここへ来たんだ」
それは大変ねというレイナに今は全快して分担して作業してるんだとシオンは笑顔で話す。
「俺たちが来る前はラッチモンさんが一人で、この村の肉提供者だったから大変だったみたいでね。前から父に村長が打診していたらしい」
「確かに、どうしても行き渡らない人たちもいるわよね」
「ああ、今じゃ安定して街で買う分も合わせて全体に回るようになったんだ」
「・・・すごいわね」
レイナの素直な感想にシオンは照れて頭を掻く。
「そういえばこの村の回りには柵とかないけどモンスターとかの危険はないの?」
「ああ、それはこの村の付近は森の賢王と呼ばれる魔獣のテリトリーになってて、他のモンスターはそれを恐れて近付いてこないみたいだ。俺たちも最初は驚いたな」
前にいた村もだが柵はどの村にも必須だったからと苦笑するシオンにレイナも微笑んで歩く。他にもこの辺りで出没するモンスターの種類を聞いたりとエモット家につくまで終わらなかった。
「レイナさん、さっきレイヴァン君と話してましたね」
「ああ、井戸の水汲みを手伝ってくれてね。いい青年だわ」
「ええ、彼もその家族のお陰でカルネ村も豊かになりましたから、目付きは怖いですけど狩人としての腕も良くて人格も信頼できて村では結構人気者なんですよ」
「へぇ、エンリも気になってる感じ?」
「うーん、今のところ少し仲のいい友達かな。それよりも私は彼がレイナさんに向ける目が気になるなぁ~」
「え、そう・・・?」
「レイナさん美人ですからもしかして・・・」
「確かに照れていたけど、まぁ自意識過剰だと恥ずかしいし、様子見かな?エンリもあまり外には漏らさないでね」
「・・・もう手遅れかもしれないけど」
「?」
そうエンリが言うように朝の水汲みにはどの家の人も行うことで遅れながらも2人の姿を確認した村人たちがたくさんいたと言うことだ。その日瞬く間にシオンとレイナの話がカルネ村に拡がったのはいうまでもない
夕方頃その話を聞いたシオンの友人が血涙流しながら彼に突撃して返り討ちにあっていた。