オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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42.戦乙女と少年騎士

 

 

 ツアレへの見舞いから数日経った。私の所には何もなかったが、セバスの所には貴族を連れた八本指の手先が来たらしい。要求は連れ去った女の引き渡しと慰謝料500金貨。それができないなら、ソリュシャンを引き渡せと。

 

 呆れたのは言うまでもない。その貴族は馬鹿正直に名前を名乗ったので調べるのは容易(たやす)かった。黒も黒。念には念を入れて裏に通じるクレマンティーヌにより細かく調べてもらったら、八本指に通じており、彼らの娼館に入り浸っているのも突き止めた。

 

 今すぐにでも突撃してしまいたいところだが。まだ証拠は充分でないのと大義名分がなければ王国に迷惑だけがかかるので指を咥えているのが現状だ。

 

 まずは彼女やその後の救出した女性の安全を確立するためにエンリたちやガゼフに相談して匿うことへの許可を貰う。話せばエンリたちも彼も快く引き受けてくれた。彼の家は他の家よりも丈夫で彼の名声もあり、迂闊(うかつ)には手を出せない筈である。

 

 しかし、それだけでは十全とはいかないので冒険者ギルドに依頼した護衛のチームを雇う。彼らもこの数日の内に密かに王国に滞在してもらっている。

 

 その時に予想通り、ニニャが姉にすぐ会いたいと急かしてきたが、今は目立ったことをすれば準備が整う前に襲撃されたり、逃がす切っ掛けになるのでエンリや漆黒の剣他のメンバーで説得して落ち着かせた。

 

 セバスへの警告から八本指が動くのはもうすぐの筈だ。奴らが行動次第、それを理由に襲撃をかける。それができれば正当防衛として王国で諸手を上げて八本指に大打撃を与え、うまくいけば今後の奴らの行動に制限をする事だってできるだろう。

 

 ここ最近はセバスと一緒に王国を見回る振りをして襲撃に備えている。あの時の光景を見られているのならと報復対象であるセバスとその連れをまとめて狙おうとしてくる所を待つ。

 

 襲撃があればすぐにソリュシャンがツアレを連れて屋敷を脱出。予め用意したルートを通ってガゼフ家へ避難。冒険者チームは市民の振りをするのと内部に潜んで護衛するのに別れて貰い。その後は火元を殲滅して、救出した女性たちは戦士団が後にガゼフ邸へと運ぶ予定だ。

 

 そこまでされれば奴らの上も黙ってはいないはず。何かしらの行動をとり、組織のメンツを守るために強引な手段を使ってくるはずだ。悟にも今回の作戦は伝えている。アダマンタイトなので目立つのは避けるため、作戦が始まってから文字通り転移()んできてもらいその騒動に偶然を装って参加してもらう予定だ。

 

 今までの悟が積み重ねた紳士な冒険者の肩書きがあれば、なんの疑いもなく人々は受け入れるだろう。

 

 ここまでは順調だ。しかし不安が尽きない。それは今回の件を悟にも伝えた際に出会ったウルベルトこと明とベルリバーの隼人の様子がおかしかったのだ。

 

 話しかけても別の事を考えているのか上の空で、かと思えば。

 

 「何だったら俺がそいつらを街ごと消してやってもいいぞ」

 

 「な、何をいっているの?」

 

 「そ、そうですよ。ウルベルトさん。街には一般の市民が他にも・・・」

 

 「そんなのわからないだろう?市民のふりして逃げる貴族だっているはずだ。ここまで王国が腐敗したのもそれを黙って見ぬふりしていた奴等なんて同罪だろう?」

 

 今回の作戦を悟と話していると割り込んだきた上にあまりの過激な発言。彼らの中にもまともな貴族はいると言って悟も説得してくれるが、彼が意見を変えることはなかった。

 

 「・・・ところではや、ベルリバーはどうなの?」

 

 「・・・僕もウルベルトさんの意見に賛成だ」

 

 「そんな・・・」

 

 一縷(いちる)の望みにかけて彼にも説得してもらおうと意見を聞いてみるが彼も是と答えるがすぐに視線を切った。その反応から彼は積極的にはそう思っていなさそうであるが・・・

 

 「それはあまりに短絡過ぎるわよ。その国の住民だからと虐殺するのは余計な反感を生むし、のちに語られるのは大虐殺者の汚名だけよ」

 

 「死人にくちなし。長い年月で肥えてしまった支配者層は一掃するしかないだろう?今後の事を考えるなら劇薬が必要なのはわかるだろう」

 

 「貴方が言うのはあまりにリスクが高過ぎる。今回は今ある国を建て直せるかどうかよ。それで上手くいく保証はないわ。出来てもいつか限界を迎えて滅ぶのが当たり前よ」

 

 「どんな歴史でもそうだろう?太古のローマしかり。あとは俺たちの力は圧倒的だ。そんな暴動の100や1000怖くなどないだろうに」

 

 あの理不尽な世界を変えると決めた彼らしからぬ発言に自然と視線がきつくなる。

 

 「あなた今の自分が何を言ってるか理解してる?あいつらと同じ事をするつもり?」

 

 「ま、まぁまぁ零さんもウルベルトさんも落ち着いてください。でもウルベルトさんが言っていることは承服しかねます。力があるからこそ、それだけしか振り回せないようではこれからもそれに頼るしかなくなりますし、相手も力を持って反撃してくるでしょう?」

 

 「ふん、昔の友の言葉より、最近会ったばかりの女の意見をとるのか。薄情な奴だな」

 

 「なっ、そんなつもりは・・・」

 

 ユグドラシル時代は揉め事の仲介をしていたモモンガもヒートアップしかけている私たちを宥めてくれようとするがウルベルトからの心無い言葉に動揺してしまい会議は想定よりもかかる事になった。

 

 「・・・わかった。ベルリバーとウルベルトはもしもの時の援軍でお願い。間違っても王国を焦土に変えるような事はしないで」

 

 想定外の召喚だからこそか2人に協力を頼めそうにはないので無難な所に落ち着ける。

 

 リアルでは協力してきた仲間たちの間に軋轢が生じる。目の前にいるのが本当に自分の知るウルベルトなのか。最初に出会った時と比べて雰囲気までが種族である悪魔そのものになってしまったかのようだ。

 

 あの世界で大勢の敵を作ってもこんな問答無用に市民を傷つけることはしなかった彼だ。なにか理由があるのだろうかと考えるが心当たりはない。聞こうにもそんな雰囲気でもなかったので会議はそこで重苦しい空気のまま解散することになった。

 

 

 

 

 部屋から早々に出ていくウルベルトにレイナは立ち上がると彼の背を追う。その姿をモモンガとベルリバーは止めることなく複雑な心境で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦の通りセバスと見回りしていると、幼い子供を袋叩きにしている柄の悪い男の集団に遭遇した。周囲の反応から子供が大人たちに誤って体をぶつけたのが事の発端らしい。

 

 なんて下らない理由だろうか。どうやらこの地区は貧困層からなり、治安も悪いのだろう。誰もが酷いと思っていても遠巻きに眺め、横暴な男たちのやりたい放題であった。

 

 そんなのを見逃せるはずがなく。野次馬たちの隙間を縫って男たちから子供を護るように立ちはだかる。こちらの制止も聞かず再び子供を蹴ろうとした男から子供を守るために身を挺した際にフードが外れて素顔を晒すとを男たちが驚くと同時に気色ばみ、夜の相手をしてくれるなら見逃してもいいとゲスな笑みを浮かべ、私の手を掴もうと腕を伸ばしてきた。

 

 「あなたのような者が彼女に触るのは許しません」

 

 「なんだ。このじじっ!?」

 

 いつもより厳つい表情をしたセバスが腕を掴んで引き離すと男を絶妙の手加減で張り倒した。仲間がやられたことで怯んだもののその恐怖より私へのいらない欲の方が勝ったらしく男が2人向かってくる。呆れた私は傷に障らないよう子供を抱えて彼の邪魔にならないよう退避しておく。

 

 左右から彼を同時に攻撃しようとした男たちをほとんど同時に倒したように周りからは見えただろう。実際は僅かに攻撃が先にくる男にクロスカウンタ―を決めたあとに、振り向くこともせず裏拳で後の男を気絶させた。

 

 今度こそ怯えて去ってくれるかと思いきやゾロゾロと他の建物から柄の悪い男たちが現れた。

 

 「いいねぇ。俺たちも混ぜてくれよ」

 

 「ああ、いいぜ。いくらこの爺いが強くてもこれだけいりゃぁ・・・」

 

 気のせいでなければ男たちいや、もう野蛮人でいい。はセバスではなく私にロックオンしている。彼の攻撃がほとんど見えなかったのも拍車を掛ける原因か。彼だけなら深追いすることもなく去っていっただろうが完全に自分がこの状況を招いたことに謝りたくなった・・・。

 

 「ごめんなさい。セバス」

 

 「貴方様が謝ることはありませんよ」

 

 「へへ、諦めたかよ。だが許さねえぞ」

 

 というか口に出してた。セバスは幾分か優しく微笑み。周りの男たちは何を勘違いしたのか余裕の表情を浮かべている。

 

 怪我をして動けない子供を庇っているのも漬け込む隙にしか見えなかったのだろう。合わせて数にものを言わせて人質に捕るつもりなのかジリジリとセバスを警戒しながら近付いてくる。

 

 そうして男たちが私を取り囲もうとしてきたその時。一人の青年が私を護るように飛び込んできた。他にも一般人であろう男女関係なく取り囲む野蛮人から私たちを護るように割り込んでくる。

 

 「助太刀します!」

 

 「あなたたち!いい加減にしなさい!?」

 

 「もう見ちゃいられねぇ!久しぶりに鶏冠(とさか)にきちまったよ!」

 

 「子供をなぶるだけじゃなく飽きたらず。女にまで!このクズ共め!」

 

 「くそ!?なんだこいつら!?邪魔しやがって!怪我したくなきゃそこをどけ!!」

 

 「うるせぇ!いつもいつも他人に絡みやがって!迷惑なんだよ!!」

 

 どうやら日頃から野蛮人はここでは目の敵にされていて、今回のことで我慢の限界を迎えた市民が立ち上がったようだ。

 

 「皆さん・・・ごめんなさい」

 

 「嬢ちゃんが謝ることないよ!こいつらはいつもこうなんだ!」

 

 「そうだ!あんたらが前に出てくれたおかげで踏ん切りがついたぜ!逆にありがとうよ!」

 

 「いくぞ!てめぇら!もうお前らにでかい顔させねぇぞ!」

 

 「ぐっ!貴様らぁ!!」

 

 まさかここまでの騒動になるとは思わず再三謝ると何故かお礼を言われた。セバスや最初に助けに入ってくれた少年もどこか嬉しそうにしているのは何故なのか・・・。

 

 こんな中で子供を預けてセバスと一緒に撃退するもの空気が読めてないようで気が引けるので、野蛮人どもは彼らに任せて、怪我した人がいれば必ず治そうと誓った。

 

 

 

 結局は野蛮人たちは己らの不利を悟り、これ以上手を出すことなく退いて行った。これで彼らは厚顔無恥でない限りここにはもうこれないだろう。

 

 一番近くにいたおばさんが私の顔にハンカチを当ててくるから何事かと思えば、そういえば子供を庇った時に靴先が頬にかすっていた気もする。特に痛みは無かったので気にしなかったが痕がついてたかもしれない。

 

 ハンカチを当てながら何度も謝ってくるので、こっちが悪いことしているみたいで申し訳なかった。大丈夫ですと笑みを浮かべて言ってもなんてできた(ひと)なの・・・と涙まで流される始末・・・。

 

 なんとか話を変えたくて抱えた子供の容態を確認する。怪我は酷く骨折はいかなくてもヒビははいっていそうで苦しそうだった。野次馬から最初に飛び出してきた少年がポーションを惜しげもなく使おうとしていたので、それを止めて回復魔法をかければたちまち顔色は良くなった。

 

 途端に周りがさらに喧しくなったのですぐにその場を去る。今の騒ぎで八本指の網にかかるとは思うが・・・。誤算なのは子供にポーションを飲ませようとした少年がついてきてしまったことと。

 

 その少年が私たちというよりはセバスに戦い方を教授しにもらいに来たことだ。

 

 

 

 

 

 

 第3王女ラナーに忠誠を誓ったクライムはある酒場を訪ねたその帰り道。子供を集団で痛めつける現場を目撃した。

 

 正義感に駆られたクライムが放っておける筈がなくその集団に食って掛かる前にそこへ介入する男女がいた。一人はガッチリとした執事服の老人でもう一人のはフードを被っていたが声とマント越しでもわかるスタイルで女性だとわかった。

 

 2人は男たちにやめるように止めるが奴らはあろうことか地面に転ぶ子供に追撃をかける。フードを被った人が子供を庇い男の蹴りが顔に命中したように見えた。いや、したのだろう。

 

 その拍子にフードが外れ蹴られた頬に土が付いている顔が現れた瞬間世界が止まった気がした。

 

 この王国でその美しさから黄金と呼ばれるラナーを敬愛しているクライムからしてもその美しさは見惚れてしまうほどで、ラナーが可愛らしいと表現すれば、彼女は凛としたもので、黄金とは逆の白銀の髪も合わさり。

 

 日に照らされた輝きは真逆の美しさと表現できた。吸い込まれるような碧眼はできればずっと見ていたいほどであったが、すぐにまずいと思うもすでに遅く。男たちは子供ではなくその女に標的を移してしまった。

 

 男たちは女に不快にさせた罰として名状しがたい要求を突き付け連れ去ろうとする。男の野太いだけの汚い手が女に伸びそうになったその時、止めたのは執事服の老人。いつの間にか男と女性の間に入り込み、邪魔だと退かそうとする男を地面に沈めた。

 

 何をしたのか全く見えなかった。いつの間にか男は白目をむき地面に横たわっている。お城で鍛えられているクライムが目で追うとこさえできない強さ(ナニ)か。

 

 最初は老人の隣にいる美しい女に邪な目を向けていた男たちも執事風の老人が訳もわからず仲間を1人倒す(?)と焦り、2人が挟撃するもこれもまた一瞬で沈める。

 

 これで男たちは恐慌状態になり、逃げ去ってくれればよかったが最悪なことに女性の美貌は罪だと言うように他の荒くれものたちを呼び寄せてしまった。協力しておこぼれを貰おうと考えているのだろう。この時すでに怒りが爆発したクライムは覚悟を決めた。

 

 男たちいや、もう荒くれものだ。が子供を庇い動けない女性を人質に捕ろうと動くのと同時にクライムは女性を庇う位置に飛び出していた。だが驚くことに彼だけではない。ただ静観していた一般市民までもが女性を守るために立ち上がったのだ。

 

 正しい行いに皆が感化され行動する。その事にクライムは身体中に力が湧いてくるようで、目の前の荒くれたちが自分よりも体が大きいことなど最早関係なく。たとえそれが全体の一部だとしても高揚は止められない。

 

 いつでもかかってきてもいいように身構え荒くれものを見据えた。

 

 

 

 

 荒くれものは悪態をつくと逃げるように去っていった。

 

 多勢に無勢だったのだ。無理もないだろう。安心したが少し残念だと思う自分に叱咤する。数による形勢が良い事に粋がるというのはさっきまでのアイツらと一緒だ。

 

 女性は年配の女性にハンカチを当てられている。もう大丈夫ですからと笑顔を浮かべる女性に女の顔は命とも言われてるのに気にしないその姿と人柄に改めて見惚れてしまいそうになるが、彼女の腕に抱えられている子供の怪我が気になり、一言告げてから女性と子供の側に近寄り確認してみる。

 

 思った以上に怪我は酷く。男たちが容赦なくいたぶっていたのがわかる。もしもの時のためと用意していたポーションを使おうとすれば止められた。

 

 誰だろうあの子供を庇う女性だった。ポーションは勿体無いとでも言うのだろうか。だとすれば少し失望してしまいそうになるが、それは次の行動で霧散してしまうどころか天元突破してしまった。

 

 どこかで聞いたことのある回復魔法を唱えると子供の傷は最初から無かったように消えてしまう。顔色も戻り、意識さえ取り戻した子供は戸惑いながらもお礼を言っていた。

 

 それを見た周りが聖女さまだ。いや女神だろうと騒ぎ出すと女性は少し慌てて執事服の老人に話しかけてから、しかし子供を優しく離すと2人で早足で立ち去ってしまった。

 

 そんな2人を見失わないようクライムも慌てて立ち上がると急いで追いかけた。

 

 

 

 

 

 クライムはここにくる前酒場で蒼の薔薇ガガーランとイビルアイに会っていた。ガガーランは戦士長との鍛練で一矢報いた事を報告すれば誉めてもらえたが、イビルアイからは逆に厳しい言葉をいただいた。

 

 才能がない。

 

 自分でもそうだろうとは思ってはいてもハッキリと言われて落ち込まないやつがいるだろうか?

 

 励ましかどうかは判断できないが別の道を探せと言われても自分には剣以外に捧げれるものなどひとつもない。もともと恩あるラナーに拾われなければ命だってあったかどうかもしれないのだ。

 

 すぐに言い過ぎたと謝られたが、普段はあまり話さない実力者である彼女が口に出してまで忠告してくれたのだ。今の鍛練で足らないならもっとすれば良いと逆に開き直る切っ掛けになったので感謝しており、謝罪もあったので不快な気分ではなくなった。

 

 さすがはアダマンタイトの英雄たちの一員だと感動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・話してる途中で大量に運ばれてきた酒場の飯を美味しそうに食べている見た目通りの子供っぽい姿を除いて。

 

 いや、別に悪いことではない。ただ一体体のどこに入っていっているか不思議で驚いただけだ。過去の英雄には健胃家が多いともきく。彼女もそうなのだろう。

 

 仮面を器用にずらしたまま食べるイビルアイによく食べる人だったんだなぁとふと向けた彼女と向かい合うガガーランが酒の入ったジャッキを持ったまま目を白黒しているのはなんだったのだろうと思い出しながら。

 

 行き詰まっていた矢先に現れた真の強者の行動と実力。

 

 あれの一つでも覚えれたら自分は更に上にいけるはずであるとクライムは必ずものにして見せると足を早めた。

 

 彼は知らないがそれはレイナに師事をこう前のラキュースとほぼ同じであった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 「それではまず始めに幾つか質問をさせてください」

 

 クライムと名乗った少年の強い眼差しに興が乗ったのかセバスはそんなことを言い始めた。八本指と事を構えようとしている身としては教えている暇はない気もするが、同レベル帯の者が来ない限り苦戦はないなりの余裕なのだろうか。

 

 余裕はあっても油断をするつもりはないが能力不明のタレントや装備があれば苦戦はするかもしれない。今回のことで彼が遅れをとるなど想像できないが、私がカバーすれば大丈夫だろう。

 

 そんな事を考えている内にセバスの質問は佳境(かきょう)に入り、少年クライムにどうして強くなりたいのかと聞いた、きっとその答えによってどうするかが決まる。

 

 クライムはなにかを思い出すように目をつむり再び開いたときは先程よりも強い光を宿しており只一言。

 

 「漢ですから・・・」

 

 その瞬間彼はセバスに気に入られたのだろう。セバスは頷くと良いでしょうと承諾していた。まずはどんな鍛練を行うのか決めるために彼が今帯刀している武器を見て、セバスはそれが鍛練用のやつであることをすぐに見抜いていた。

 

 こういうのはどこで決まるのだろうか?創造された時のそうであれという願いからなのか。もしくは子が両親に似て育つことがあるように彼らも親に似てくるものなのだろうか?しかし、元はそうであったとしても経験くるだろうこれはどうなのだろうか?

 

 剣の次は彼の手を見ているセバスはそれが努力を惜しまない手だと誉めて謙遜するクライムに厳しい言葉を投げ掛ける。

 

 「しかし、貴方には努力することはできても才能がない。そうなると私ができるのはほんの僅かな後押しくらいですね」

 

 努力は裏切らないとは言えない。リアルでもこの世界でもそれは結果として現れる。嫌な世界ではあるが、結果が全てではないという言葉もある。その過程で得られるものもあれば失うものだってある。しかし、少しでも彼がなにかを守れる力がほしいというのなら、彼が手を貸したいと思うのは自然なことであった。

 

 がその後押しがとんでもないものであった・・・。

 

 次の瞬間本当にとんでもない殺気がクライムを襲う。歯を食い縛り、足に力をいれてもその圧だけで少年の体は後退し、今にも逃げ出せと本能が叫んでいる状態だろう。

 

 だが、すでに目の前に迫る拳はあと数刻もせず己の命を絶つだろうことは明白で、その迫る死に絶望しかけた彼の中で大切な者の笑顔が浮かんだ。

 

 路地裏に剣圧ではない拳圧による突風が吹き。哀れ志し半ばで少年騎士(クライム)は頭を割られ、その生涯を終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・そんな事はなくセバスの一撃はクライムの横顔スレスレを通り、空振りした。

 

 彼は今にも諦めてしまいそうなギリギリの中で意識を繋ぎ止め生存できる方法を掴み取った。

 

 ドっと汗を流して彼は両膝を付く。そんな殺気もすでにユグドラシルの最強のポテンシャルを秘めた体を持つ自分は少し強い風が吹いたくらいにしか思わないのだから人外としか言いようがない。だがこれで彼の精神力はこの時をもって一皮剥けたと言えるだろう。そして・・・

 

 「女の方は毒が効いて動けなくしたあと拘束して持っている解毒剤を与える。あんな上物ただ殺してしまっては上に何を言われるか・・・」

 

 「あの爺いの孫娘か?なら丁度いい見せしめにもなるだろう」

 

 「たまたまいた一般人だろうが関係ねぇ。運が悪かったのさ」

 

 「男たちは殺してもいいんだろ?なら楽勝だ」

 

 「上に渡す前に俺たちで楽しもうぜ。前さえ使わなきゃ。言い訳はたつ」

 

 ・・・タイミングがいい。どうやらついにおいでなさったようだ。セバスが彼に殺気を込めた拳を振るった後で良かった。もしその現場に居合わせてしまっていたら彼らは戦意喪失して、襲撃がなかったかもしれない。

 

 しかし、セバスの孫娘だと思われたのは意外だったが、本日2度目。わかっていても自分がその対象にされるのは気分が良いものではなかった。諜報スキルを持っていなくても聞き耳をたてれば聞こえるのでたいした実力は持っていないと思うが・・・。

 

 「・・・お客様のようですね」

 

 彼を助け起こしたセバスも気付いた。えっ?と反応したクライムの声を合図に通路の前に3人後ろに2人と計5人で挟むようにして私のより黒めのフードマントを着た暗殺者が現れる。

 

 さっきまではまとまっていたのに前後をとる行動は速いが、やはり身に纏う強さは遥かに格下。クライムも今なら数で攻められなければ十分勝てる力量だろう。

 

 「どうやら用があるのはこちらのようです。クライム殿は本調子でないようでしたら、ここは任せてもらっても良いのですよ」

 

 「いえ、私も及ばずながら助太刀します」

 

 前後をとられようがセバスと私で鎮圧は問題無さそうなので下がるよう言ってみるが、やはり彼は巻き込まれたというのに手助けしてくれるようだ。前に3後ろに2ならば・・・

 

 「ではレイナ様。後ろの2人をクライム君と一緒に対応してくれますか?」

 

 考えているとセバス方から提案があった。

 

 「え?レイナ殿もですか?」

 

 セバスの言葉にクライムが疑問を口にする。まぁさっきは回復呪文だけで私の実力は知らないから無理はないだろう。逆に回復魔法に特化していると考えられているかもしれない。セバスの殺気に耐えれたところでわかりそうなものだが、よく考えたらあの時にそんな余裕はなかったのだろう。私は愛用の剣を見えるように構えながらそう告げる。

 

 その剣をみたクライム君が息を飲むのが聞こえる。やはりこの剣は目立つのだろうか。

 

 「あら心配してくれるのは嬉しいけど大丈夫よ?剣の方が得意だしね。ところでセバス。逆でも私は構わないわよ?」

 

 「いえ、実は少々暴れたい気分ですので少しでも数が多い方が好都合でして」

 

 それでいいと思うも一応聞いてみれば、なにやらかなり物騒な事を口にするセバス。ほら、近くで聞いていたクライム君もええっ!?と先程よりも驚いた声を出している。

 

 ・・・よく見れば彼の表情はいつもの通りだが、目は少し赤く光り、両手の握りこぶしから鳴ってはいけない音が・・・もしかしてセバス今すこぶる機嫌が悪い?(レイナが襲撃者の声聞いていたようにセバスも聞いており、孫娘と聞いたときは満更でもなかったが、そのあとの一般人であろうと巻き込もうとする性根やそんな彼女を汚そうとする声にたっち・みーより引き継がれた正義の心が燃え(たぎ)っていた)

 

 「さぁ、少しくらい根性をみせてもらいたいものですね?」

 

 セバスではなく背を向ける私たちに投げられた毒ナイフをセバスが指の間で全て掴みとり投げ捨てると無慈悲で無駄な忠告をするのだった。

 

 

 

 

 

 最後の一人はクライムの機転で倒された。

 

 すでに他の襲撃者はセバスとレイナによって倒されている。

 

 瞬殺であった。女だと思って油断した男は首筋への一撃で気絶させられただけで首が飛ばないだけマシだった。その早業にクライムは戦闘中だというのに驚いたが相手も驚いていたので隙を狙われる事はなかった。

 

 セバスが担当した3人は悲惨の一言で、生きてはいるものの顔面は気絶しない絶妙の手加減された往復打撃(ビンタともいう)によってパンパンに膨れてしまって原型を留めていない。

 

 そうした本人はまだ満足していないのか。体の埃を払うしぐさをしながら、「こんなもんですか。サンドバッグの方がまだマシですね」と言って、倒れて命乞いをする暗殺者たちを一人を残して気絶させた。

 

 残されたのはまともにしゃべれそうな者であったが腐っても暗殺者。口は固いかと思われたが、セバスの傀儡掌(くぐつしょう)と呼ばれる相手を自分の命令を聞くように操れるスキルによってどこで今回の襲撃を依頼されたのか暴き、事前に調べていた位置と合致すると作戦を実行するのだった。

 

 

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