オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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44.カルネ村の日常と変化

 

 

 「その木材はBの所に頼む!」

 

 「班長!Cの木材が足りなくなってきている。どこからか持ってこれないか?」

 

 「そうだなぁ。あとで掛け合ってみる。それまでは他の場所の手伝いを頼む」

 

 「わかった!」

 

 ナザリックに近いカルネ村では、今までにないほど活気に溢れていた。従来のやり方よりも効率的な方法がナザリック図書からもたらされた知識で区域分けされた建物が次々と建造されていく。

 

 今のやり取りにあった特殊な文字を使ったのもその一つで、簡単なことではあるが整理を円滑にするので効率的に作業が進む等、もたらされた知識は幅広く恩恵をカルネ村に与えていた。

 

 畑の規模も大きく拡張され、拡張の邪魔をしていた大岩なども防波堤を作るのに一時期貸し出されたゴーレムによってついでに一掃された。

 

 今までは無防備に村を晒していたが大きな防波堤が作られてからはどこの要塞だ言わんばかりの頑強さを誇るまでになっている。

 

 これからの事を考えれば今の防波堤内ではいずれは人口も畑も一杯になるので外に向けて畑をまず広げて、そこも防波堤を作って領土を広げていくことになるだろう。

 

 井戸以外の水場も引かれてその途中には魚が放たれて養殖場として機能しており、まだまだ作業が途中の場所も存在していた。

 

 人が集まりどんどん規模が大きくなる。それは今ある城塞都市のエ・ランテルがそうなっていった初期の頃を彷彿とさせるだろう事は容易に想像できた。

 

 それらの作業をしているのは人間だけではない。指示を出しているのは建設知識を持つ人間だが、細かい資材を運ぶ人間に混じって作業するゴブリン。大きな資材を運ぶのはオーガや鱗を持つリアルでのワニに近いリザードマンという亜人たちだ。違う種族が切磋琢磨し、笑顔を浮かべながら(リザードマンは表情こそ分かりにくいが尻尾が正直だ)作業をしているのをこの世界の他の人間が見れば目を疑うのは避けられないだろう。

 

 現にある国によって滅ぼされた村の生き残りが集まりつつあった頃は、亜人やそれから庇うカルネ村出身の人間との衝突は見受けられた。だが、次第に生活を共にしていれば馴れてくるもの。今ではそれもめっきり減っていた。

 

 ここまで大所帯になれば食料の問題も出てくるかと思いきや、畑は従来にはなかった物やここには不向きな物さえ今ではたくさん栽培されている。

 

 それを可能としたのが時々アインズの命で訪れるダークエルフの少女であった。ドルイドである彼女が土を改善してくれたことで本来畑に向かない土壌も作り替えられた。

 

 たんぱく質である肉の方も森の中での狩りだけでなく、牧場を新たに建てることで、牛だけではなく豚や鳥など、最近ではリザードマンが養殖で育てた川魚まで出てくるので、献立には困らないほど潤っていた。

 

 あのカルネ村がここまで発展するなど襲撃前までは想像できなかった村長は、どうしたらこの恩を返せるか悩んだ。一度その事をアインズの使者である赤毛の僧侶に訪ねてみれば、そのような気遣いは無用とのこと。

 

 ただほど怖いものはないと遠回しに食い下がる彼に、使者は嫌な顔をせず、逆にいい心がけだと誉めたあと、それではこの村で取れたものは優先的に取引をしたいと言ってくれた。

 

 後は当初の契約通り、今後もモデルケースとしてナザリックの案をテストして行い。道具や知識を外部には漏らさないことを再三注意と、これからもそれを厳守してくれればと、なんとも懐の深さを示された。

 

 力はあるのに市井の者を気遣うその姿はどこの王よりも王らしいその度量の深さに村長は涙を流して感謝していた。

 

 

 

 そんな村に住むネム・エモットも、大好きな両親が畑に働きに行くと、任せてもらった家の手伝いをしていた。

 

 この時期にだけ採れるエンカイシというこの村の特産品である薬草をすり鉢とすり皿ですり潰す作業だが、この道具にしてもたまたま立ち寄ったアインズが見かねて用意させたものだ。

 

 今まではごつごつした石でできた重い皿と、簡素な木鉢で行っていたが、この皿はネムでも持てるほど軽く移し換えが楽な上に、皿の中身は溝が掘られており、それが薬草を擂り潰すのにとにかく最適なのだ。

 

 あまり力を籠めなくてもすり鉢で回すだけでどんどん擂り潰されていく。あんなにあったエンカイシがあと少しで終わるところまできていた。

 

 この薬草は独特の匂いがあり、慣れた者でなければ始終苦い表情を浮かべての作業になるだろう。特に若い子供には不人気であるがネムはそんなことはアクビにも出さず、真剣に残りのエンカイシを放り込んでいく。

 

 今までは姉が時間が空いたときに両親のかわりにやっていたが、村を守れるほど強くなるためにと恩人に着いて旅にでてしまい今はいない。

 

 両親がその事を話しているのを聞いたときネムは迷いなく自分がやると手を挙げた。作業の大体は姉を見ていたし、時々やらせてもらって姉からの太鼓判も貰えたので問題ないはずである。

 

 両親は最初こそ子供が気にすることはないと断ろうとしたが、じっとこちらをみるネムの瞳に宿る想いを汲んでくれた。

 

 あの日の襲撃を受けて思うことがあったのは姉だけではなかった。

 

 姉に手を引かれて森の中へ逃げようとした時、運悪く村を包囲しようとしていた兵士に見つかったネムはその手前で道端の出っ張りに躓き、転けてしまった。

 

 兵士はネムが見たことはないが怖いと感じる物を手に持ち近づいてくる。恐怖に体が動かなくなり、涙が溢れて大好きな姉を呼ぶことしかできなかった。

 

 しっかりと握られた手が離れたとき、ネムは子供心にそんな筈はないと思いながらも見捨てられたと思ってしまった。だがそれは違った。涙で視界が歪んでよく見えなかったが姉はあの晩、ネムも憧れたレイナに教えてもらっていた構えをとってネムを護るように兵士と対立したのだ。

 

 兵士は一瞬動きを止めるも、次の瞬間見下す表情を浮かべると再び剣を振り上げ近付いてくる。

 

 すでにどう振り下ろされるか見え見えのテレフォンパンチ。これでフェイントならエンリはただ切られて命を散らしていたかもしれない・・・ただの村娘にその必要はないと思った兵士の判断が命運を分けた。

 

 兵士が剣を振り下ろした速度は確かに速いが、それは練習とレイナが見せた剣速と比べれば雲泥の差。レイナの剣に目が慣れていたエンリにとって、懐に入るのは容易かった。

 

 兵士は宙に浮いていた。姉が深く踏み込み腕を伸ばした先で何が起きたのか理解する間もなく気を失った兵士は、大きく首を反らして後方にいた味方まで巻き込んで・・・倒れた兵士が白目を剥いて気絶したのを知ったのは、姉が再び手を握り走ろうとしてからだ。

 

 再び逃走劇が始まろうとしたが、巻き込まれた兵士が自分に覆い被さる仲間を退けて起き上がり、その顔に恐怖を張り付けていたが逃がさんとばかりに追ってきた。

 

 逃げずに掛かってこれたのは兵士としての意地か訓練の賜物か。しかし今度は向こうも用心して不用意には近付いてこない。エンリも再び構えて待ち受ける。

 

 が兵士の動きはここでまた止まる。兵士の顔を見ればその目が仲間を殴り飛ばしたエンリでも、ましてや完全に弱者のネムでもなく、更に後方に向けられていた。

 

 「2人が守る者たちをみすみす殺させるものか!連鎖する雷撃(チェインライトニング)!」

 

 どこか冷たくも強い想いの籠った声で発せられたそれは、目の前の兵士だけでなく倒れて動かなくなっていた虫の息の兵士さえ飲み込んだ。振り向いた先にいたのはネムでもわかる豪華なローブを着たアンデットと、両隣にいる屈強な姿をした見たことのないピシッとした黒い服のお爺さんと、襲ってきた兵士よりも固そうな真っ黒な鎧で全身を覆った女・・・異常にインパクトのあるアンデットだが、命の恩人に驚き固まる2人にアンデットはその見た目に似合わない可愛く小首を傾げ・・・。

 

 「あっしまった!急いでいたから姿そのままで来ちゃった・・・

 

 今更自分の姿が異形のままな事に気付き、口に手を当てて慌てるアンデットの言葉は、幸いそれどころではない2人には聞こえてなかった。

 

 

 

 偶然にもアンデットに助けられた2人は正体を秘密にすることを約束し、村への救援に行ってもらったが、その心配はなかった。エンリたちを襲った者以外は全てレイナが仲間の騎士と共に倒してくれて、村の誰も被害に遭うことはなかったのだ。

 

 近所のよくしてくれたおじいちゃんや同い年の遊び友だち。何よりも大好きな家族も。だがこの襲撃はまだ甘えたがりの幼ない女の子の考えを変化させるには十分だった。

 

 大切な誰かを失うかもしれなかったという恐怖は彼女を何段階も成長させ、遊び盛りだったのが我慢を覚え、今までは渋っていたお手伝いも率先して行うようになった。

 

 「これで最後」

 

 「お、ネムは手伝いか?偉いな」

 

 「あ、ザリュースお兄ちゃん」

 

 今日の分のエンカイシを潰し終えたところで声をかけてくるものがいた。最近になって何人か村に住むようになったリザードマンの1人ザリュース・シャシャである。大きな体に4本の首をもつヒュドラであるロロロという名のペットを持つ、外見上少し怖いとされているがネムからしたら気のいいお兄ちゃんである。

 

 そのロロロとは村の子供に大人気でネムもその中の一人で

一番仲がいいと思われている。それもそのはず、最初コンタクトをとったのもネムであった。

 

 ペットの主である彼が大人しいと説明しても、見た目は恐ろしいものなので人々は遠巻きに眺め、彼もしょうがないと諦めていた所に、無邪気さ全開で突撃しペットの頭の上ではしゃぐネムを見たことで杞憂だとして皆に受け入れられた。

 

 それからが2人の付き合いは家族ぐるみで行われている。エモット家は引っ越しのお祝いにと畑で取れた作物や軽い怪我の治療用に使う薬草効能を染み込ませた湿布など。

 

 魚の世話で小さくない怪我を負うこともあるので彼らの好意は嬉しいもので、ザリュースたちリザードマンは最近順調に養殖に成功している魚を提供して意見を取り入れて改良できないか試行錯誤している。

 

 不安があるとすれば故郷の生け簀だが。こうなるまではザリュースがいたときは度々つまみ食いしていた兄貴に「本当に任せて大丈夫か」と聞いたら「大丈夫だ。問題ない」と答えた兄は合わせた目を逸らすことはなかったが・・・。

 

 尻尾が嘘をつくときの動きだったので心配だった。

 

 そうだったである。

 

 心配するザリュースの様子を見ていたコキュートスが、「だったら他にも知識を教え理解できる者を増やせば良いだろう」と数十人のリザードマンが集められて行われた研修と呼ばれる会議で、彼と一緒に参加した妻がしっかり養殖の知識を覚え実践と管理もできた。

 

 まさか一度は強者として手合わせしてくれた、あまりしゃべらず、態度で示す武人である彼がそんな発言をするとは思えず、聞き返してしまったのは失礼だったなと言ってから後悔した。

 

 謝るザリュースに彼自身も、昔の自分なら怒りもしただろうが口数が少ないのは自覚している、誤解されるのは仕方ない。言外に気にするなと返してきた。彼も本陣でそう言った会議をいくつもして解決できた課題が多くあったので、今回も同じことをすれば良いという考えのようだ。

 

 全く・・・旅人として見聞を広めたのに先入観で判断してしまうとは自身もまだまだだな。と頬を掻くのだった。

 

 なにも成長したり、周りの影響を受けるのは自分だけではないのだ。目の前のネムという人間や遥か高みにいる強者であるコキュートスだって何かしらの影響を受けているのだ。

 

 そうして妻の料理は部族1と自慢している族長である兄貴だが、尻に敷かれている彼はつまみ食いができずに、今頃はその立派な尻尾をショボくれさせている事だろう。

 

 「ザリュースお兄ちゃんは今日も生け簀?ていう所に行くの?」

 

 「ああ、今回は魚ごとに区分けして育てるために作っている途中の生け簀を完成させようと思っていてな。材料も揃ったし、手が空いている人を集めている最中なんだ」

 

 「そうそう。あっしらもそれでザリュースの旦那に頼まれましてね。今向かっている最中なんですわ。お嬢さん」

 

 「あ、ジュゲムさんたちまで、ご苦労様です」

 

 ザリュースに続いて現れたのは数人のゴブリンたち。そんな彼らに可愛くお辞儀するネムにゴブリンたちだけでなくザリュースも笑顔を浮かべる。

 

 彼らは村の防衛を担うとしてエモット夫人がアインズから貰った角笛で召喚されたゴブリンたち。彼らは最初の亜人移住者で、エモット夫人に忠誠を誓い、娘であるネムにも彼らなりに礼儀を欠かさないフレンドリーな19人のゴブリンだ。

 

 彼らの名前はネムも母から寝る前に聞いたことがある「ゴブリンの勇者」というお話しに出てきた名前だ。

 

 小柄ながら力仕事と細かい作業が得意で狩りの腕前もある。レイヴァンのおじさんやラッチモンと協力して村の発展に貢献していた。

 

 彼らが森の中を警戒中に出会った森でさまよっていたオーガも住むようになった。そうして馴れてきてからアインズからの使者から最近親交を深めている新たな亜人の移住を提案された。恩人の頼みでもあるし、今更亜人が一つ二つ増えようが一緒と会議を開く必要もなく全会一致で賛同された。

 

 それからきたのが鱗を持って立派な牙をもつ亜人なのだからその見た目や部族として戦闘したこともあり、ロロロの件などで少し騒動が起きたが概ね問題なく頼もしい隣人として受け入れられた。

 

 そのロロロは平時は大きな首や口を器用に使ってまとまった資材を運搬するのに大活躍で、今はザリュースたちの後方でネムに挨拶なのか彼女を見つめて舌を出して震わせている。

 

 彼らは森の湖で獲れる魚を主食としている。今回の移住も、アインズにその生産を助けて貰ったお礼として、他のところでも同じことが出来るか試してほしいと、命令ではなくお願いされた形だ。生け簀の第一人者として彼とあと何人かの部族の代表がこのカルネ村に来ている。

 

 緑の鱗で彼よりも筋骨隆々で武闘派で、もっぱら力仕事と警護担当するゼンベル・ググー(最近は何故か元気がない)。全身の白さと赤いペイントが美しく、魔法で補佐する優しいお姉さんクルシュ・ルールー。そしてその彼女にぞっこんで(他の目があっても気にせずにいきなり口説いてくるのでその度に彼女からドン引きされている)絶賛アタック中のザリュース・シャシャを中心とした数十名。

 

 もうここまで亜人だらけになれば、種族が違うとかそのペットのモンスターだというのはどうでも良いと云わんばかりに、遠巻きに眺めるのをやめて交流を深めるカルネ村の住人たちはこの大陸で今一番逞しい存在なのかもしれない。

 

 もともと開拓村ということでその場にあるものを生かして暮らしていたのだから、彼らの順応能力は高いのだろう。

 

 ・・・少し順応しすぎて(平和呆けして)柵の一つも作ってないなどの致命的なところはあるが、それが還って温厚な人柄を育てて、余所者のレイナを追い出すなどせずに招いたからこそ救われたのだろうし、その後のアインズからの支援を受けれたのだろう。

 

 

 

 

 時々養殖で取れた都会でもあまり食べられないと両親が喜んでいる魚を提供してくれる。一度は故郷を離れ旅をしていた彼はいろんな知識を持っている頼りになるお兄さんとネムは認識していた。

 

 ではそろそろ行ってくると手を振ってザリュースたちと別れたネムは潰したエンカイシを別の容器に入れている。そんな時、家の中からなにかが割れる音が響く。

 

 なんだろうと家のなかに入ったネムが見たのは台所に置かれている食器棚。そこにあった2つのお皿が割れていたのだ。それは姉であるエンリが昔から使っていた物とあの日からレイナが使った物であった。

 

 周囲を見てもなにかがお皿に当たった形跡はない。

 

 「お姉ちゃん・・・レイナお姉ちゃん・・・」

 

 成長したがまだまだ幼いネムの心にどうしようもない不安が込み上げてくるのだった。

 

 「どうかされましたか?ネム様」

 

 そこへまた声が掛けられる。声がした方へ向くとそこには白いローブを着てその手には特徴的な杖(白い錫杖(しゃくじょう))を持った、髪も肌も全身が光で出来てるとも思える真っ白な女の人が立っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「あ、ドミニーさん。帰ってきたんだ」

 

 「はい。村を回って怪我をした人がいないか確認して参りました。今日は建設で2人、農耕で腰を痛めた人がいたので治療してきました。ネム様」

 

 ネムの質問に淡々としていながらも、しっかりと答えたドミニーという女性だが、それにネムは先程の不安もなかったように不服そうに頬を膨らます。

 

 「もぉ~!様はいらないっていったでしょ!?」

 

 「いえ、お世話になっている方のお嬢様の頼みはといえ、こればかりはどうぞご容赦ください」

 

 ネムの抗議に女は全く動揺する事なく答える。ネムの視線を受ければどんな頑固な者も最後には屈するのに女はスルー。両手どころか全身を使ったネムの抗議さえ通用しなかった。

 

 表情どころか眉一つさえ動かさない鉄の心を持った女ドミニー。治療される殿方が感謝はすれど口々に勿体ないと称するそんな彼女が誕生したのは陽光聖典の戦いのあと。

 

 てっきり術者の魔力低下か時間経過で消えるかと思いきや、なかなか消失しないことを疑問に思ったが、このままでは騒ぎになるので森の中に隠して様子を見る事にした。

 

 村からガゼフが去り、流石に消えているだろうと様子を見に来るとそこには消える気配のない天使たちが健在していた。

 

 その対処に困ったモモンガが魔法で一掃しようとしたが、仮にも味方になった天使を消滅するのはいかがなものかとレイナが止めたことで一旦保留。2人だけの緊急会議が開催された。

 

 案1 カルネ村の戦力として使う。いい案だと2人して肯定する。空も飛べるし、ユグドラシルでは頼りないがこの世界では充分通用する。だがはたと気づく。彼らは目立つ。だが解決出来ないこともないので保留。

 

 案2 ナザリックに迎えるのはとレイナ。いや、悪のカルマ最大の拠点に天使は・・・とこだわりがでて渋るモモンガ。ボツ。

 

 案3 やはりモモンガの魔法で一掃・・・邪魔だから一掃ってどこの大魔王かしらとレイナは呆れてた。ほんとの最終手段にとっておく。

 

 他にはと頭を絞るがいい案がない。ここはやはり案1を主軸に考えるのがベストだろうと。

 

 そこでレイナはあるアイテムを思い出し、それを取るため拠点のグリーンシークレットハウス(レイナ製テント)を展開し倉庫の中を漁る。モモンガは初めて見る魔改造ハウスに冒険心を(くすぐ)られ、子供のようにはしゃいだりもしたが無事そのアイテムを発見できた。

 

 その名も

 

 擬人化の種

 

 ある時ユグドラシルで深刻なマンネリ化が起こった。運営もあの手この手でどうにかしようとしたがプレイヤーの数は減るばかり・・・このままでは11年経たずしてユグドラシルが終了してしまう!

 

 そんなユグドラシルを憂いた運営が起死回生を狙ったそれはなんとユグドラシルのモンスターなどの擬人化。有名なイラストレーターやアクション部分の声には豪華声優陣を起用。破産覚悟の大博打は・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大成功!!

 

 

 

 

 

 

 

 簡単に言えばモンスターの人化アイテムなのだが、ユグドラシルで空前絶後の大モンスターハントが大流行した。

 

 男女関係なく多くのプレイヤーが戻るだけでなく新規のプレイヤーさえ引きずり込んだこれは、どのモンスターがそうなるかは完全トップシークレットで度々プレイヤー同士でどんな子になるか、どちらがより人気があるかで勝負するなんて事もあり相手の方のモンスターが自分好みだったりと膝をつき、トレンドが解放されてからはそうする者は沢山いた。

 

 逸話も多く存在しする。

 

 どこかのメイド服に命をかけるデザイナーが3日2晩徹夜して作成したメイド服を着たモンスターの擬人化がありそれに巻き込まれたプレイヤーは100人にのぼるとか。

 

 どこかのバードマンが喜び勇んで選んだモンスターが、外見上はドストライクだったのに、声が実の姉だということにショックを受けてしばらくふて寝を決め込んだ事もあったとか。(その後、俺にはやっぱりシャ◯テ⚪アしかいねぇ!と開き直った)

 

 このコンテンツは意外に男性よりも女性の方がのめり込み。理想の殿方を探す婦女子で溢れていた。レイナは特に興味はなかったが相棒やナザリックの女性陣に捕まり、幾度もイケメン狩り(?)を敢行していた。

 

 まさに(ユグドラシル)は戦艦や動物、戦闘機などの擬人化ブームの波がきた!

 

 

 

 大狩猟時代が来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この擬人化の種はモンスターの擬人化に必要なアイテムで、ある課金アイテムの使用時間内での戦闘後ランダムでドロップする。生憎交換不可能アイテムだったのでレイナは使用せず、捨てるのも苦労した分勿体なく感じ、余裕はあったので倉庫の奥深くに埋もれていたアイテムだった。

 

 しかし、全天使に使ってしまえばきっと二度と手に入らない貴重アイテム。どんな結果になるかもわからず使うのは(はばか)れる。そう悩んでいると威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)以外の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だけでなく監視の権天使 (プリンシパリティ・オブザベイション)が彼女に(彼女と言ったがなんとなく線の細さからそういった印象を受けた)自分の力を注ぐように光の波動が彼女目掛けて集中する。

 

 今まで見たことのないそれにモモンガとレイナが呆気にとられているとそれをした天使は段々と透明になっていき、最後には消滅したのである。

 

 その後の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は普段よりも力が増しており、まさかこんな形でレベルアップするとはと新たな発見にモモンガが興奮する中、これ幸いとレイナはアイテムを使用した。

 

 誕生したのは上から下まで真っ白で、元の面影か全身が光輝いている女性。性別はゲームのように選択できる訳ではなかったが、アイテムの使用者のイメージだろうか。彼女はまず最初に自分の姿を確認したあと、そうしてくれたレイナに向かい。

 

 「ありがとうございます。御姉様」

 

 と頭を下げながら爆弾をも投下した。理由を聞けば長い間石の中に閉じ込められていたところをやっと解放されたかと思いきや、目の前には自分を圧倒する力をもつ一人一人がパーティーを組んだ姿。

 

 今ほどに自由な意思はなく、主の命令は絶対という意思で降伏もできず、せめて逃げる時間くらいはと、召喚した主を守ろうと最大の一撃をぶつける準備をしていたが、それも駄目だろうという確信があった。

 

 そうして覚悟を決めたその時。

 

 戦乙女(ヴァルキリー)の号令

 

 それにより自由を得ただけでなく。こうして自我さえしっかりと芽生えることができた上にやろうと思えば消滅させるなど容易かったのに待ったをかけてくれた恩義を感じてレイナをそう呼んだと言うのだ。

 

 そう感謝する時の彼女は鉄仮面だが強い意思を感じさせる瞳で・・・レイナは訂正するのを諦めた。彼女には通用しないことがありありと理解できたのだ・・・。

 

 「この命。御姉様のために尽くす事を誓います」

 

 「まさかこうなるなんて・・・。元に戻すのもなんだし、よろしくねってちょっ!?離しなさい!」

 

 「で、でも良かったじゃないですか。こんなに慕っているんですから裏切ることもないでしょうし、新しい発見もあったんですから」

 

 手を握ったあと急に彼女に抱きつかれ引き離そうともがくが、身長が大きい上に傷つけないよう手加減しているので上手くいかないレイナに万事解決したとモモンガが慰める。

 

 ・・・レイナに抱きつくドミニーが少し羨ましく思ったのは内緒だ。

 

 そしてここまで人間らしくなれば今までの名前は使えないだろうと考えることになるのだが、それはすぐに決まることになる。

 

 名前を考えているレイナを横目にモモンガが言ったドミニオンなんだし、ドミニーでいいんじゃない?という発言にいやいやと思い本人を見てみれば表情は変わらないが気に入った様子だった。

 

 ドミニーに決定した彼女は他の天使も吸収したためか普通の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)よりも強く。信仰系マジックキャスターとしてカルネ村の護衛にとルプスレギナと一緒に配属された。

 

 黒いが笑顔が絶えないルプスと白いが鉄仮面のドミニーとして今ではカルネ村の白黒凸凹シスターズとして村を支えている。

 

 そして、旅には彼女の姿から目立つことは避けれないので残ってもらうことになるのだが、その仮の住居としてお願いしたのはレイナに縁のあるエモット家である。

 

 「むうぅぅ!だ~か~ら~様はい~ら~な~いぃぃぃ!」

 

 「すみません。善処しますネム様。あっ」

 

 「もぉ~!」

 

 「おや、何か家の中が騒がしいと思ったらネムとドミニーさんでしたか」

 

 「あらあら。エンリがいなくなって寂しくなったかと思ったら、違う意味で賑やかになったわねぇ」

 

 「・・・・・」

 

 騒ぐネムの声を聞いてかエモット夫婦が来てその2人の後ろからドミニーとは逆で闇でできたような男がボロボロのマントを羽織って静かに姿を現す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「あ、パパとママにルイス君、お帰り。じゃない!ドミニーさんこんなにお願いしているのに全然様をとってくれないんだよ!ルイス君も何か言って!」

 

 「ああ、なるほど。私たちの呼び方も直してくれるとありがたいんだが、それも彼女らしいと言えばそうだしなぁ」

 

 「確かにまるで自分が貴族のように聞こえるからむず痒いのよね。ドミニーさんすぐにとは言わないから少し考えてみてくれるかしら?」

 

 「しかし・・・あ、ルイス様」

 

 「・・・・・」

 

 ネムの言い分に思うことがあるエモット夫婦も呼び方を変えてほしいと頼むが鉄仮面のまま渋るドミニーにルイスと呼ばれた男が前にでて、どうやって会話してるのか彼女と向かい合う。

 

 このルイスという男は元はデスナイトで村を救った際に召喚した最初の一体目である。この世界では取引可能になった擬人の魂でレイナからモモンガに譲渡されたもので、目立つからとついでに擬人化させたのがこのルイス君である。

 

 それにより体は小さくなったがパワーはそのままで、より細かい作業が可能になり連日の畑仕事以外にも色々と任されるようになった。

 

 名前の方はすでにネムがつけていたのでそれを採用。ドミニーはモモンガがつけたようなもんだし、ルイス本人も気に入ったように頷いていたのでわざわざ変える必要はないかなと納得するが残念でもあったレイナである。

 

 「・・・・・」

 

 「はい。そうしたいのは山々なのですが・・・どうしても・・・」

 

 「・・・・・」

 

 「成るほど。流石はルイス様」

 

 「・・・・・」

 

 「え?俺にも様は要らない?・・・しかし、先住している先輩ですし・・・どうやらこれは性分のようです」

 

 「ハハハ。どうしてルイス君はしゃべってないのに意思疏通できるんだい?私にはさっぱりだよ」

 

 「私もルイス君のことわかるよ!」

 

 「はいはい。落ち着いてねネム。でもこの調子ならもう少ししたら呼んでくれるかもしれないわよ?」

 

 「ん~わかった今は我慢する」

 

 「偉いわねネム。ところでなんで2人とも台所に?」

 

 「あっ!そうだった。あのね・・・」

 

 母の言葉にどうして自分がここにいるのか思い出したネムは食器棚の割れたお皿について教える。

 

 「あら、本当ね。ネムが落としたとかじゃないわよね?」

 

 「ネムそんなことしないもん!」

 

 「落ち着くんだネム。うむ。確かに割れている。たしかその人にゆかりのあるものが突然割れたりするのは不幸なことが起こる前兆とは聞いたことがあるな」

 

 「え?それじゃ・・・」

 

 割れた皿を手に持つ父が洩らした言葉にネムの涙腺が決壊しかける。

 

 「ちょっとあなた!そんなこと言ったらネムが余計に不安がるでしょ!?」

 

 「す、すまん」

 

 妻の叱咤に平謝りする夫をひとまず無視してエモット夫人は泣きそうになる我が子を抱き締める。

 

 「大丈夫よ。ネム。2人を信じましょう」

 

 「・・・うん。わかった」

 

 母のぬくもりと言葉にネムは素直に頷く。そこへエモット旦那から割れた皿を受け取ったドミニーが皿の状態を確認する。

 

 「これは確かに割れていますが。随分と劣化もしているのでそのためでしょう。よくみれば他の皆様の分もかなり使い込まれている様子」

 

 「・・・・・」

 

 「ええ。ルイス様のいう通り。ここらで新しいお皿を新調するのもいいかと。もし食事中に割れるものなら大惨事になりますし・・・」

 

 少しでもネムの不安を拭おうとしているのか食器棚にある他の皿などもチャックしてそうもらすと、隣からそれを見ていたルイスの言葉も翻訳しながらどうせなら全て新調したらと提案する。

 

 表情から誤解されやすい彼女だが、内面は天使そのものなのでその優しさに癒される者は多い。そのため内外が逆なルプスレギナとは表立って争うことはなく上手く付き合っているように見えるが互いに苦手意識を持っている・・・。

 

 「そうね・・・。たしか村のマルコフさんが新しいお皿を作ってみたっていってたかしら?今までのより軽くて丈夫って言ってたけど」

 

 「ああ、それは良い案だな。よし!なら早速ちょうど良い皿がないか聞いてくるよ。良いのがあればすぐに買おう。なければ作ってもらわないといけないしな」

 

 そう言ってエモット旦那が硬貨の入った皮袋を持って出掛けていった。

 

 ネムとエモット夫人が手を振るなか、ドミニーやルイスも小さく手を振るのだった。その姿はどこにでもいる家族で、そんな新しい家族が増えたことにネムは母に抱かれたまま幸せを感じ、できれば、早く姉やレイナお姉ちゃんも帰ってきて一緒に暮らせたらなと願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そう言えば、旦那様。今日は随分と機嫌がよろしかったですね。何かありましたか?」

 

 「あら、ドミニーさんにはわかるのね。ええ、今日帰ってくるときにある人に出会って・・・後は食後にしましょうか。ネムにとっても大事なことだしね」

 

 「ええぇ~なんなのママぁ~気になるよ」

 

 「うふふ、ダ~メ。楽しみにとっておきなさい。それじゃご飯の用意をしましょうか。ドミニーさん手伝いお願いできる?

 

 「おまかせを。エモット夫人」

 

 「・・・まぁすぐにとは言わなかったしね」

 

 「ううぅ~。ママまで意地悪するぅ~」

 

 その食後のエモット家ではある事実によってまた騒がしくなるのだが、ネムが驚きすぎて座った椅子ごと倒れそうになり、それを支えようとしたドミニーとルイスが頭からガッチンコしてしまい。

 

 レベル差でルイスが大ダメージを受け、一撃は耐えるスキルのおかげで一命を留めるなどの一悶着があったがカルネ村は今日も平和だ。

 

 


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