オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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45.戦乙女と救出

 

 

 

 

 

 キィィィン!

 

 背後に回した盾に衝撃が走る。危なかった。もう少し反応が遅れていれば、その一撃で私は殺られていただろう。

 

 防がれるとこちらのカウンターが飛んでくる前に身を翻して距離を取る身軽な襲撃者を睨み付ける。レイナは焦っているのを相手に知られないよう冷静に振る舞っていた。

 

 「かぁ~!今のも防ぐのかよ!?どうなってんだ!俺はあのツヴェークだって暗殺したのによ~!?」

 

 「それは凄いわね。でもまだまだよ」

 

 「くぅ~!?でもそうこなくっちゃなぁヴャルキリー!」

 

 一度奇襲受けて、それを防いでからというもの、度々こうして奇襲してくる謎の忍者が忍刀を逆手に構え直す。

 

 「何度も奇襲してくるの迷惑だからやめてくれない?」

 

 「い~や!俺は諦めないぞ!必ずお前の首を取る!」

 

 「そう・・・なら今日こそ引導を渡してやるわ」

 

 「待って、それはよくない。・・・フッフッフ。なんて言うと思ったか?良いのかな。そんなことを言って?」

 

 また相手が戦闘不能になるか、逃げ切るかが始まるかと思いきや、お経を据えようと剣を構えた私に、忍者は両手を挙げて弱気な態度をとるも、一転してマフラー越しに不敵な笑み(?)を浮かべたので、おちょくられたのがわかる。

 

 「なに?何を企んでっ!?」

 

 そう言いかけて、嫌な予感がした瞬間、その場から身をかわす。

 

 さっきまで自分の首があった所に、刺突が繰り出される。危なかった・・・一瞬でも遅れていたら、致命箇所で即死はなくても追撃で殺られていただろう。

 

 その攻撃をしてきた者は先客が忍者というなら、顔を隠しているのは同じだがこちらは目深にフードを被っており、西洋の暗殺者と言ったところか。

 

 一瞬だけ見えたが、両手首に仕込まれた特殊ナイフがさっきの攻撃の正体。そこから忍者と同じ隠密系で有名なアサシンだろう。

 

 「まじか。今のも避けるのかよ。今日こそ仕留めれると思ったのに・・・卑怯だなんていうなよ」

 

 「よくいうよ。わざと思わせぶりな言葉使って警告してた癖に、そんなに自分でけりをつけたいなら、断ってくれても良かったんだよ?君が手を焼くヴァルキリーに興味があっただけなんだから。一度遭遇してからちょっかいかけ続けてるとか、どこのガキ大将なのやら・・・それがなければ今ので殺れてたよ」

 

 「ちげーし!?そんなんじゃなくてだなぁ「はいはい。それから返り討ちされても、まだ懲りないんだから、さすがは紙装甲な変態(ドM)は違うな、なんて思ってないよ」・・・ひどくなってやがる・・・後で覚えてろよ。んんっ!仕切り直していくぜ。今回はいつもより趣向変えていく。そのために協力な助っ人を用意したんだ!先生!お願いします!」

 

 アサシンが忍者に向かって何かを言った後、訂正しようとしていたが、諦め呪詛を呟いたかと思えばこちらに振り向き、息を整えて、どこかで聞いたことのあるような呼び掛けをする。

 

 現れたのは一言でいうならば鎧武者。重厚そうな鎧を着た大男が現れた。

 

 「忍者にアサシン。鎧武者ね。どうしたの?今日は随分と賑やかじゃない?」

 

 「たまたまだよ。そろそろ焦ってもいいんだぜ。こっちはこれで3人。わざわざ来てやったんだ。歓迎しろよ。盛大にな」

 

 「今更3人くらいなんでもないわよ。多い時は数百人を相手にした事があるんだから」

 

 「そのセリフ。ワンモア。」

 

 動揺を悟られぬように忍者の言葉に答えると、なんか食い込み気味に懇願された。可笑しいことは言ってないはずなのに・・・。そんな彼を見るアサシンからの視線も冷たい。

 

 「もしかしなくてもこれはセクハラかしら?通報したらこの忍者としばらくはおさらばできる?」

 

 「そうだね。頭を冷やすのに丁度いいかもしれないな」

 

 「ちょっ、それはマジでヤバイって!?お前も肯定すんなよ!」

 

 まぁこのくらいの事はリアルでもユグドラシルでも日常茶飯事だ。セクハラだと通報していればきりがないのでやらないが、慌てる忍者の姿は滑稽で面白いので溜飲が下がったので良しとしよう。

 

 「ちょっとそこの紙装甲のド変態(ペロロンチーノ)。正直に何を考えた?いや、やっぱいい。ナニを想像したのかはわかる。でもショックを受けるどころか食いつくとか、もう言い逃れはできないよ?いったいいつからド変態(ペロロンチーノ)がうつったんだい?」

 

 「もう隠しもしないし、あいつが悪口になってる!?嫌いなの?あいつの事絶対嫌いだろ!?ち、違う俺はあんなド変態(ペロロンチーノ)じゃない!百歩譲って変態だとしても、変態と言う名の紳士だ!!」

 

 「それは自白しているのでは?やっぱり通報しようかしら」

 

 「や、やめろぉぉぉ!?いや、やめてください!お願いします!」

 

 「別に、あの時言われたホモ呼びなんて気にしてないよ。でももう手遅れか・・・。いい友人を失っちゃったな」

 

 「おい!小声だが確かに聞いたぞって、こっちの話は聞いてないな!?この野郎!ぶっ殺してやぁぁぁぁぁる!!!」

 

 「クククッハァッハハハ!・・・ヴァルキリーとやらは、お堅いかと思ったが、なかなか愉快な女傑なんだな。気に入った。相棒が迷惑をかけるな。仕方ないとはいえ通報は勘弁してくれないか?そいつがいないと寂しいんだ。それ以外ならこの後、如何様にもしてくれていいぞ」

 

 「あ、相棒!ーーってそれじゃ絶対に俺だけ損じゃん!?くっそぉぉぉ~!味方だと思ってた2人に裏切られた!」

 

 「安心しなさい。今更この程度で通報はしないわよ。でも彼の言うことは魅力的ね」

 

 「最後が不穏だが、まさかヴァルキリーに庇われるとは・・・薄情な相棒を持つと辛いぜ・・・」

 

 「もう少し楽しみたいが、そろそろ始めようか。あんたの噂は聞いている。人間種でありながら、異形種を擁護する裏切り者として、悪質PKパーティーから狙われるが数の不利を覆し、返り討ちにしたそうだな?さすが一騎当千のヴァルキリーは伊達ではないな」

 

 そのまま2人で漫才している所に私も参加したものだから、呆れられたと思ったが鎧武者は含み笑いを堪えられずに噴出する。そう言えば、最初に忍者が呼ぶのを待って現れたのだから、ノリはいいのかもしれない。口調も姿からくるロールプレイだろうし、さすがに話が進まないと思ったのか鎧武者が話を切り出してくれた。

 

 当時の事は今でも覚えている。

 

 裏切り者と一方的に闇討ちしてきたので応戦したのだ。向こうは私の行動を魔法での監視ではなく、斥候の肉眼でチェックしてソロで活動している時間を待ち構えるなど、ダンジョン攻略やギルド拠点攻略と同じくらい本格的に狙ってきた。

 

 正面からの戦闘はさすがに不利なので、1人ずつ確実に葬っていた。彼は一騎当千と言ったが全て私が倒した訳ではない。最後の方で、私の危機を知った異業種のプレイヤーが助けに来てくれて、一気に形成逆転したのだ。彼はそれも知っているのか、詳しく説明していると騒いでいた2人も戻ってきた。

 

 「・・・まじか。まるであの人みたいだ。でもあんたも大変だったんだなぁ。でも最後のは燃える展開だな!相棒が熱心に調べる訳だ」

 

 「そこの意見には同意するよ。でも同情と関心するのはいいけど、油断や加減はしないでよ。それだけ多対1に()けてるってことなんだからさ」

 

 「無論心得ている。そんな事をすれば、すぐに倒されるだろう」

 

 (参ったわね。あの時はほとんど装備頼りの有象無象(うぞうむぞう)で勝てたけど。この3人は互いに戦い慣れていそう・・・。無理したらいけるかもしれないけど一つでも間違えれば、一気に持っていかれるわね)

 

 油断は期待していないが、私を囲むように3人が包囲してくる。忍者とアサシンは後方2ヶ所、正面には静かに腰の武器に手を伸ばす鎧武者。暗殺者2名に背を向けているのも不味いのに彼の威圧感を無視する事ができない・・・。

 

 下手をすればなにもできぬまま殺される。

 

 でもそうでなくては面白くないし、負ける気も

 

 ない。

 

 「いくわよ・・・。覚悟はできたかしら」

 

 「あ、これ、マジでヤバイやつだ。あれでまだ本気でなかったのかよ!?これがトッププレイヤーのプレッシャー!」

 

 「ワールドエネミーを相手した方がマシかもしれないね・・・」

 

 「あの人と同じ、いやまさかそれ以上!?だが面白い!!我もそうでなくては楽しめん!」

 

 打開策を考えながら武器を構え、集中力を高めていく。今までもそうして乗りきってきた。そんなスキルはないのに、周りの動きがスローになり、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 

 向こうもこちらの異常に気付いたのか臨戦態勢をとった。

 

 互いに動き出そうとしたその時、3人の足元に一矢が突き刺され、頭上から聞きなれた声が聞こえてきて、嬉しくても、少し残念だと思う私がいる。

 

 「久しぶりにログインしてみればいきなりピンチじゃんレイ。助けにきたよ!」

 

 「いいタイミングね。相棒。助かったわ」

 

 「げげっ!?お前は閃光の!?だがこっちは3人まだっ」

 

 「そう!閃光の私がきたからには好きにはさせないよ!あと残念だけどもう一人いるんだよねぇ」

 

 「よう、ヴァルキリー。邪魔したか?俺も混ぜてくれよ」

 

 相棒がそう言うと現れたのはまた懐かしい顔触れがそこにいた。筋肉隆々で乱雑に切られた短髪頭で、トレードマークである自分の何倍もある大剣を担ぎ、野生が鎧をきたような男は知り合いに1人しかいない。

 

 「随分と久しぶりじゃない。もう引退したのかと思ったわ」

 

 「その大剣は・・・鬼神!?うっそだろ。おい・・・、今のヴァルキリーだけでもヤバイのによぉ~・・・こっちの相棒も乗り気みたいだし、こりゃ覚悟決めないとなぁ」

 

 「いやぁ、私も偶然ログインしてるのを見つけたときは驚いたよ。久しぶりに組んでレイナのシグナル追ってたらこの現場だよ!」

 

 「やれやれ。言葉と裏腹に嬉しそうにしちゃってさ。素直じゃないね。それにしてもまさかこうもタイミングがいいとはね。いや、さすがというのかな。幸運の女神は伊達じゃないね・・・

 

 「最近の奴はセオリー重視だのつまんない戦いばかりだが、お前さんたちは楽しめそうだ。全力でいかせてもらうぜ!」

 

 「・・・うむ。気が合うな鬼神よ。それにこれで3対3。気兼ねなく戦える」

 

 3対3になったことで数の不利はなくなったが、チーム戦になったことで立ち回りが上手くいかなければ、すぐに呑み込まれる可能性もある。

 

 向こうもこちらの増援に最初こそ驚いていたが、今はしっかり身構えている。それだけ向こうもチーム戦を経験しているのだろう。突発的な戦闘が多いユグドラシルにおいて、応戦するか、逃走するかのどちらでも連携は大事だ。しかし、彼ら仲間にそんな心配はしていなかった。

 

 ピリピリした緊張感の中。戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予告なしに行われた3対3のPVPは何故か運営に録画され、公式PVとして広告された。当初は運営の自作だと思われたが、それにしてはと疑った解析チームがそれを調べてみれば、100%ゲーム内での出来事だと証明され、ユグドラシルの名勝負としてゲームが終わったあとも多くの視聴者やプレイヤーを虜にするのだった。

 

 勝手に録画された私たち6人には公開する前に運営から交渉があり報酬を貰うも、向こうの3人は同じギルドの仲間から手の内を晒すとは愚か者めとお説教を食らったらしい。

 

 逆に当時500人弱で彼らの拠点を攻めようとしていたプレイヤーたちが、その映像をみて、脅威度を上乗せして、かの戦いまでに1500人強で挑もうと人員を募集。まだ改装中の拠点の猶予を作ったと言われている。

 

 結局この戦いが終わっても、彼らとの付き合いは減るどころか増えることになる。

 

 簡単にまとめると、忍者の襲撃にアサシンも混ざるようになった・・・。その襲撃は私がある事情からユグドラシルに一時期来れなくなった時まで続くことになる。

 

 鎧武者からはPVP仲間として、よく対戦を申し込まれるようになり、その時の会話で彼の憧れの対象がまさかたっちとは知らなかったが、彼への熱い想いを受けた私は協力して、悲願でもある武器の制作に必要なアイテムを交換したり、手伝うなどして、完成にこぎつけた。

 

 その武器を持って因縁の戦いに赴いた彼の勝敗はわからない。だが後日会ったときに、彼はもう悔いはないと満足しそうに話し、お礼と表して私に一本の刀を託して、たっちを追うようにして引退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?3対3の方の勝負の行方は?さぁ、どうだったかしら。どこかの誰かさんたちが乱入しなければ私たちが勝ってたのは間違いないわね。(向こうも聞かれたら同じコメントを残す)

 

 

 

 

 

 暗殺者なのに戦士に背後をとられるとは、やはりカンストした能力差とユグドラシルで何度も忍者から襲撃を経験していた恩恵か。どんなことでも備えていて正解だったわねと、レイナは朦朧としながらも、ペラペラと依頼人の事を話す暗殺者を見下ろしていた。

 

 セバスの傀儡掌で操り、場所を特定した2人は早速そこへと向かうも、わかってはいたが少年騎士クライムも参加することだ。セバスが彼の強さを未熟ながら認める実力者だ。現に暗殺者を1人仕留めている。人柄も良いので背中を任せるには充分信頼できる。

 

 「ここですね。レイナ様」

 

 「ええ、間違いないわ」

 

 「ここに・・・八本指の幹部が・・・」

 

 辿り着いたのは頑丈な鉄の扉がある大きめの建物。周りの建物を見てもここだけ異質である。ここにくるまでも何度も細い道を進んだことから、やはり表だっての商売はしてないようだ。

 

 「さて、ではどうしましょうかね」

 

 「あの、出来れば幹部は確保してほしいのですが・・・」

 

 「大丈夫よ。クライム君。私たち2人も無駄な殺生(せっしょう)を好む訳ではないわ。でも抵抗があった場合はその限りではない。それでいいんでしょ?」

 

 「はい。それで構いません。・・・2人には王国の問題なのに大変なご迷惑を・・・」

 

 「なに、これも成り行きです。今回のことがなくてもいずれは衝突は避けれなかったでしょう。遅いか速いの違いでしかありません」

 

 どちらかといえば、こちらの騒動に巻き込んだと言えるのに、彼はそれを心から()やんでいる。そういう彼だからこそきっとセバスも私も好感が持てる理由だろう。

 

 「では私は正面から行って注意を引きます。お二人は暗殺者の自白によると裏口があるので、そこから中の者が逃げないようにしてくれますか?」

 

 「わかったわ。行きましょうクライム君」

 

 「り、了解です。セバス殿もお気をつけて」

 

 少し緊張したように了承したクライム君を伴い裏口を目指す。道中必要ないでしょうがレイナ殿は私が守りますと言う言葉に思ったことを告げると彼は狼狽(うろた)えながらもしっかりと答えてくれた。

 

 緊張も良い具合にほぐれたようだし、大丈夫だろうと私たちは表の方から破壊音がするのを待って裏口から侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然裏口も丈夫な上に施錠されていたが、剣を振るえばバターよりも簡単に切れたので問題はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「必要はないかもしれませんが、何かあれば必ずレイナ殿は私が助けます」

 

 セバス殿に表の襲撃と囮を任せて裏口に向かう私は隣を歩くレイナ殿にそう口に出していた。それは国仕える騎士としてか、はたまたこれ程美しい人と共に戦えることからの漢として見栄か。彼女には必要のないものだとわかっていての発言に今更ながら恥ずかしくなってくる。

 

 「あら。じゃあ遠慮なく守ってもらうわね?若く(たくま)しい騎士様」

 

 笑われるかと思った。暗殺者の襲撃で自分よりも遥かに早く暗殺者を倒した彼女。そんな女性を実力的に劣る自分が守られることはあっても守るなんて烏滸(おこ)がましいと・・・。

 

 確かにその時の彼女は笑っていたが、想像してたのとは違う。こちらを信じて本当にそう思っている笑顔で・・・。不敬ながらラナー様の笑顔よりも輝いて見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後すぐ、彼女が裏口の扉を紙切れのように斬ったことで、理想と現実に差に落胆を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 突入すれば最初は誰も来なかったが、セバス殿の襲撃に気付いた八本指の手下が逃げて来て予想通り、女であるレイナ殿の方が押し倒して逃げ安いと判断したのか彼女に向かうが(ことごと)く触れる前に切り伏せられる。残りはこちらに来るが数は少なく、正面からの対処は簡単だった。

 

 建物の最奥部の部屋にいた手下たちを倒し、気絶した者や実力差に降伏した者は逃げられないように、レイナ殿が用意していた縄で両手と両足を縛り上げてから、部屋の探索に戻る。

 

 ガガーラン殿からいただいたアイテムポーチを使い、隠された扉と罠を看破すれば、それを見ていたレイナ殿が関心している姿に、借り物とはいえお役にたてたことを嬉しく思う自分がいた。

 

 そのアイテムが譲られた物で自身の力でないことを話すと、彼女に(たしな)められた。

 

 「随分と自己評価が低いようだけど、そこまで謙遜しなくてもいいんじゃない?それに騎士であろう者がそんなに自信がないようだったら、護られる対象は不安に思うんじゃないかしら?大丈夫。さっきだって私を背後から襲おうとした奴から護ってくれたでしょ?ありがとう。貴方はもう立派な騎士様よ。自信を持ちなさい!」

 

 彼女なら対処は容易かったろうが、確かにあの時の自分は必死に彼女を護った。その事で礼と一緒にラナー様とは違う笑顔を向けられて、照れない男がいるだろうか?こんなときだというのに天にも昇るとはこの事をいうのだろうか。いや、いかん。調子に乗りかけた気分を頬を叩くことで引き締める。

 

 ・・・思った以上に強く叩きすぎて、赤くなったそれをみてみぬ振りをしてくれた彼女に感謝した。

 

 降りた先にあったのは物置のような地下で沢山に木箱が置かれており、中身を見て見ると沢山のメイド服が入っていた。

 

 なんでこんなところにメイド服がと考えて、ここがどんな場所か思い出して顔をしかめる。つまり、このメイド服はそういうことなのだろう。

 

 ここをよく見ればまだ部屋があるらしく。レイナ殿は様子を見てくるとのこと。地上への入り口はここしかないようなので一人見張るのを任されることになった。

 

 もしピンチになったら迷わず助けを呼びなさいといい。レイナ殿は他の部屋へと向かったが一度こちらを振り向くと。

 

 「息を抜いたときが一番の隙よ。よく肝に命じてね」

 

 そう一言だけ残して進んでいった彼女の言葉の意味を考える。確か、昔の英雄も家に帰るまでが・・・なんだったか。そんな話があった気がする。そして、答えが出てくる前にその意味を知る戦いが始まるのだった。

 

 他にも木箱があったので調べていると中身が空っぽの必要以上に大きな木箱の側面が倒れ、そこから標的である八本指の幹部と護衛が現れたのだ。

 

 どうやら逃走用の隠し通路を隠すものだったらしい。随分と慌てているようだが、私はやつらを逃がさないように地下からの出入口を背に剣を構え、恥も外聞もなく助けを呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 ここにくるまでに思い出した事でクライム君に忠告してから部屋を移動し奥に進むと予想してた通り、三下だがかなりの数の護衛が待ち受けていた。

 

 彼らは私が姿を現したら、一瞬面を食らって動きを止めるもすぐに下卑た笑みを浮かべて我先にと武器も構えず飛びかかってきた。

 

 正直殺す気などなかったがそんな反応にうんざりしてたのもあり、使い捨てである事がわかったのでお望み通り漆黒の剣を助けたときのオーガと同じ末路にしてやった。

 

 仲間が爆発四散したのを見た男たちは、顔を一気に恐怖に染めて抵抗とばかりに、武器を構えるもすでに遅く。私が過ぎ去った次の瞬間には武器と一緒に全員首が落ちていた。

 

 「ーーー(くず)は屑らしくごみ溜めにいけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなイメージが頭を過ぎ去って、振り抜こうとした剣を止める。

 

 ・・・なんだ。今のは?自分が行おうとした凶行に愕然とする。一体今の考えはなんだ。彼らの命をまるでゴミのように扱うばかりか尊厳を踏みにじる言葉さえ吐いた気がする。

 

 さっきまでクライムに向けていた優しさ以前に彼に言った言葉を忘れたか。確かに抵抗があればその限りではないと彼も了承したが、すすんで殺しをしないと否定しておいて、ツアレを捨ててた男にみせた慈悲の欠片など一切なく。

 

 ただのゴミクズに向けるような。あの被支配者層に向ける傲慢な人間たちと同じ目を私はしていた。ただ殺すよりも質が悪い。

 

 死臭で満たされた部屋に、生存者はいない。その惨状を眺め口の端を吊り上げる自分さえ幻視していた。

 

 一体いつから。自分らしくない考えに、何者かの意思を感じて身を震わす。精神支配かそれに類する何かしらの影響を与える力。

 

 ここまで考えても男たちはまだ手を伸ばした状態でまだまだ余裕の距離にいた。思考速度さえすでに人外なのだろう。奴らから見て剣にかけた手を止め、体を震わせた私がビビって硬直したとでも思ったのだろう。ゆっくり迫る奴らの目が情欲に染まっていく過程までがはっきりとわかる。

 

 ・・・なんかそう考えると無性に目の前のやつらに苛ついてきた。こっちは自分の感情について葛藤しているのに、色事しか頭にない奴らの心配をした自分がバカらしい。

 

 情報としては腐った貴族専用の娼館なので、こいつらが手を出せないとは思うが、捕らえた女を絶望させるためとか、こんな仕事だ。適度に発散させるとかで、相手をさせられたかもしれない。

 

 それがなくても、彼女たちに向けるだろう視線は同じ女として、嫌悪感とストレスを与えるのは理解している。少し、いや、女として彼らに死よりもきついOHANASIが必要だろう・・・。

 

 この時男たちは目の前にいる極上の獲物に目がくらみ、気づかなかった・・・彼女の背後にどこかの白い悪魔(ツインテールの魔法少女)に似た影が現れたことに。

 

 そして、後悔する。目の前の綺麗な女(エモノ)が、本気で怒ったら、今まで怒らすのを注意していた幹部連中や死よりも恐ろしい事を体験するということを・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「少し頭を冷やしなさい(ちょっと頭冷やそっか)

 

 「「「「「えっ」」」」」

 

 幻聴でもなんでもなく二重に聞こえたそれに、やっと彼らは異変に気づくも既に目の前にいる獲物(白い悪魔)()()()()()()()()を浮かべ指先を向けてきた。

 

 部屋に光が満ちていく・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「ア"ア"ア"ア"ァァァァ!!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 男たちの叫びは隠し通路を通っていた八本指とその護衛である六腕(ろくうで)にも聞こえ、警鐘(アラーム)を受けて、この先に見張りがいる事を知らずに逃げておいてよかったと思い。

 

 彼らは後に気が付いても、縛られたままガタガタ体を震わして「美人怖い女怖い」と呟くようになるのだった。

 

 

 

 

 私は素早く()()()すると奥に進み、そこで檻に入れられた娼婦たちを発見する。みんな足の神経を切られ、体も至るところに傷が見受けられたが、ツアレのように病気を患っている者もいたが、ここから使用位階を知られないように大治癒(ヒール)とはわからないよう、無詠唱で別の名前を呟き回復魔法で治療すれば、すぐに動けるようになり、口々にお礼を言われた。

 

 ユグドラシルの魔法を使うのは、非常に目立つので、いずれはそこのカバーのためにも魔法を作らなければいけないだろう。時間はあったので、いくつかの創作魔法の目星はついてきている。

 

 そして自分の後についてくるように指示すれば彼女たちは素直に着いてきた。当然先程の部屋を通るのだが、そこには全身を縄で縛られた護衛が分かりやすいように顔の一部を腫らし、気を失った状態で倒れていた。

 

 なにがあったかは一目瞭然なので、男たちに気づいた時以外、元娼婦からの行動に支障がでる反応は特になかった。震える者もいる中、仲間が励ましたり、リーダー格の女性が精々いい気味だと悪態をつくくらいだ。

 

 あの時、あの衝動に身を任せていたらこうはいかなかっただろう。いくら自分達に理不尽押し付けていた者たちの手下とはいえ、血の海と化した部屋を見れば、彼女たちはそれを成したであろう私に対して恐怖を覚え信頼はなくなるだろう。

 

 悪ければ、恐慌状態になり、着いてこなくなるかもしれない。できればそれは避けたかったので安心する。

 

 私がここへくる前にきっと隠し通路を使って逃げた2つの気配を感じていた。その2つがクライムに見張りを任せた部屋に出たのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クライム君と別れたときにした忠告はどうやら正解だったようだ。

 

 女性たちには身を隠しておくよう言ってから、クライムがいる部屋に戻ってきた私の目の前には、肩から血を流す彼がうまく動かない腕をかばうこともせず、剣を構えて標的である八本指を逃がさないようにしている場面だった。

 

 

 

 

 




 本編ではブレインが遅れた理由で、幹部が逃げる時間を稼がせていたのかなと思い待ち伏せしていました。

 詳しい描写がない至高の御方については、あんころもっち餅さんみたいに、自分の想像でこうかなとしています。

 忍者と一緒に出たアサシンは、アサシンクリードのイメージをしてくれたらと思います。

 
 
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