オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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46.戦乙女と八本指

 

  ~王国での囮作戦前~

 

 

 ソリュシャンはカルネ村に来ていた。王国への偵察へ赴く際に一度見たことがある。よく言えば素朴悪く言えば貧相と言える村。どうしてこんな村を守護するのかわからなかったが、今の状況をみて納得がいった。

 

 村は活気に満ち溢れ、動く人影は人間だけではない。多くの亜人やモンスターが共存し、共に1つの村を発展させていく。その光景は輝きに満ちていてた。

 

 少し前なら嫌悪感だけで何も感じることはなかった。

 

 ただヘロヘロの敵討ちなどの出来事や本人との再会と心中を聞いたがために考え方が変わった彼女は、その光景がナザリックで働く仲間たちと重なって見えた。

 

 今回ソリュシャンがカルネ村に来たのは、レイナとモモンガが進めておる王国復活作戦を前にした休暇だ。以前からナザリックの(シモベ)全員に休日をと(すす)めてきた御方のために働けない日と罰に等しいものであったが、しかし、仲間たちがそう訴えると、わかりにくいが、御方の様子がものすごく悲しそうになるのだ。

 

 御方を悲しませる。そんなのは僕としてあってはならないとして、みんな休む日を決めている。

 

 王国の偵察は忙しいこともあり、今までろくに休日がとれなかったセバスとソリュシャンはここでとることにしたのだ。

 

 セバスは屋敷に残り、拾ってきた人間とのんびり過ごすらしく、ここにはソリュシャンしか来ていない。実はナザリックで過ごすことも考えていたが、あることで人間について調べていたソリュシャンはそれを済ませれれば、とここに来たのだ。

 

 そのついでとばかりにある用事も受けたのはナザリックを愛している(ワーカーホリック)ためか・・・。

 

 問題はソリュシャン1人では解決できそうにもなく。普段は頼りにしているプレアデスリーダーのセバスにも今回の案件を聞くのは躊躇(ため)らわれる。ナザリック残留組の姉妹たち(プレアデス)にもお茶会を通して話せる事でもなかった・・・。

 

 とりあえず療養がてら、ナザリックを通したカルネ村への野暮用は本来はルプスレギナ仕事であるが、彼女も忙しくて戻ってきていないのでわざわざ呼び戻すことはせずにナザリックにいて、ここへ赴く自分が引き受けたのだ。

 

 まずはナザリックの用件を片付けようと、カルネ村に移住してきたリザードマンの姿を探し、丁度手が空いていそうなリザードマンを見つけて声をかけた。

 

 「ちょっとそこの白いトカ・・・リザードマン。少しいいかしら?」

 

 「あ、はい。なんでしょうか?」

 

 日傘を差したアルビノであるリザードマンを呼び止めると彼女は振り向いて何のようだろうと首を傾げてくる。トカゲにしては鱗が目立たないせいか、つぶらな赤い瞳もあって少し愛らしいと思ってしまったが、そんなことは顔に出さずに、用件だけを切り出す。

 

 「ここにザリュース・シャシャとゼンベル・ググーというリザードマンはいるかしら?アインズという者からの使いといえばわかると聞いたのだけれど?」

 

 「えっ、あいつとあのやばn・・・失礼しました。2人にですか?あっでも、もしかして、あの件?わかりました。すぐに呼んで・・・」

 

 「よう。白い嬢ちゃん。こんなところで何をしているんだ?」

 

 用件を聞いた白いリザードマンが、前者には笑みを後者には一瞬嫌な顔を浮かべた気がするが、それを呑み込み、件のリザードマンを呼ぼうとする前に別の声が遮る。

 

 現れたのは、全身が緑の鱗に覆われた、白い彼女の何倍もある体。片腕が大きく発達したリザードマン。

 

 「ちょっと私にはクルシュって名前があるんだから!それにそれだとドミニーさんと被るじゃない!」

 

 「お~お~。悪かったよ。でもあの嬢ちゃんは天使様って呼んでるからよ。間違うことはないぜ」

 

 どうやら彼女の反応からして、後者の方で彼がゼンベル・ググーらしい。確かに彼女が嫌な顔をした理由もわかる。なんというか彼は配慮というものがない。思ったことを思ったまま口にしている感じだ。それが彼女にはあまり合わないのだろう。

 

 大体の相手や腹に一物抱える者の方が探り合いも含めて、話を合わせることが得意なソリュシャンも感情でものを言う手合いは苦手ではないが、あまり関わりたいとは思わない。だが本人が来たのなら都合がいい。ナザリックからの用件を全うするだけだ。

 

 「貴方がゼンベルね」

 

 「ん?なんだ嬢ちゃん。俺になにか用か?」

 

 「貴方にナザリックから返すものがありましてね。これになるわ」

 

 そう言って、背中の背負い袋から一本の酒壺を取り出す。いつもなら、オス個体にはからかうのを含めて、胸元から出すのだが、今回は物が飲食物なだけに、(はばか)られるし、何よりもあのサイズを胸元から出すのは怪しまれるーーとかではなく。鱗つき(リザードマン)は彼女の食指が動かなかったからだ。

 

 「お、おおおおおおおおお!その懐かしい壺はまさしく!俺が求めて止まなかった部族のお宝!」

 

 「う、うるさ、ってやっぱりこうなった!ちょっと!?危ないでしょ!」

 

 それを見た瞬間、ゼンベルは我も忘れてソリュシャンが持つそれを奪い取る。あまりの早さと横暴にクルシュが止めようとするも、元々の身体能力的に間に合わず、(合っても吹っ飛ばされる)抗議の声をあげるも、今の彼にはそれも通じない。

 

 「大丈夫ですよ。咄嗟に避けましたから」

 

 「す、すみません。こちらの不手際で・・・」

 

 気にするなと手首から上を振るソリュシャンに、傘下に入った組織に所属する者に失礼な事をすれば、手打ちになっても可笑しくない事案だが、いくら気に入らないとはいえ、同族がそうなるのは望まないクルシュは仲間の失敬に頭を下げる。

 

 実際に普通の人間、彼よりも弱い者なら危なかっただろうが、彼女は余裕で彼の手が届く頃には、手を退いていたので怪我などはしていない。当たっても大丈夫だっただろうが。

 

 そうとも知らないクルシュは彼女の寛大さに感謝し、心の中で、彼の評価を更に下げた。

 

 まだはしゃぎ、さらに久しぶりにと酒を飲む彼に、内心呆れながら、そんなことは表面には出さず。彼に声をかけて、ソリュシャンはまだ終わっていない用件を済ませる。

 

 「あとは、貴方のおかげで、他にも味が違うお酒が生産できたから、お礼として2つほど用意したわ。1つは似た味をさらに濃くしたものと、味は違うものだけど、それよりさっぱりしているお酒みたいよ」

 

 再び背負い袋から出したのは、彼が持つ酒壺とは、違う形をした2本のお酒。それを見たゼンベルは今度は我を忘れることなく、ゆっくりとそれを受けとる。

 

 「ほ、本当なのか?伝説の宝を・・・。複製すると聞いたときは無理だと思ったが・・・。あんたら凄いんだな」

 

 「わたくしたちにかかれば、元さえあれば再現するのに苦労はしませんわ」

 

 「いや、ホントにすげえよ。こりゃ、勝負に負けて良かったな」

 

 「はぁ、あんたはホントに酒が好きね」

 

 「俺だけじゃねぇ。部族の仲間全員酒が好きだぜ!白い嬢ちゃんもどうだ?あいつも来ると思うぜ」

 

 「何故ザリュースが・・・でも考えとく」

 

 「誰もザリュースとは言ってないがなぁ」

 

 「なっ!?」

 

 3本のお酒を抱えたまま頭を下げたあと、互いに実力を認めるザリュースも来ることを仄めかし、酒が戻ってきた上に増えて気分が良いのかクルシュも誘いながら素直でない彼女をからかうゼンベル。

 

 彼に嵌められたと気付いた彼女はその白い肌を真っ赤にして声を出せないでいた。

 

 最初は隷属を疑った彼だが、この村で暮らす内にあの心配はなんだったのかと思うほど平穏で、この宝の再現だ。それだけの力を持っていながらしていることは融和である。

 

 特に無駄な血も流れずに傘下に加えられ、強制された労働もない上に、同じ物を作り、それをお礼と2つもポンっと渡してくれるのだから。強い奴もいて、同じ部族では相手が居なかったゼンベルとしては、ここはまさに想像以上に居心地が良い場所だった。

 

 アインズ・ウール・ゴウンの・・・ひいてはナザリックの仲間たちを誉められたソリュシャンは気分が良かった。それでも普段は表情に表れない彼女だが、このときばかりは、歪んだ笑顔ではなく、自然な笑顔で、それを見たのが人間で男なら一発で虜にできただろう。

 

 これでひとつの用件がすみ、今はこの場にいないザリュースについてはクルシュが届けてくれるらしい。伝言も合わせて伝えて貰うことも約束し、その場から離れようとした。

 

 「あら、クルシュさんにゼンベルさん。こんなところでどうしましたか?」

 

 そこへ、女の声がかけられる。声に振り向くと、そこには野菜を沢山積んだ台車を夫婦で引きながら、その台車の後ろで補助で押している肌の色が若干悪い青年を連れたエモット夫婦が現れた。

 

 その青年の正体をすぐに看破したソリュシャンは、特に警戒せずに、話しかけて来てくれた夫婦とリザードマンの2人の様子を観察することにした。

 

 「あら、エモットさんたちは今帰りですか?今日も大量ですね」

 

 「ええ、これもよく来てくれるマーレ君のおかげですね。今までは実をつけても、土地の養分が足らずに満足いく量は採れませんでしたから。今じゃ分配しても余裕がありますからね。あっ良かったらいくつかの持っていって貰っても良いですよ」 

 

 「本当ですか!?ここの野菜美味しくていくらでも食べれるから、すぐになくなってしまうんですよ!」

 

 「この前いただいた魚のお返しですよ。最初は苦手そうにしていたうちのネムも、一口食べてから夢中になって、骨と格闘していましたからね」

 

 「良かった。また今度ザリュースに相談して、持っていきますね。今日は何にしようかな?・・・あいつに料理作って呼んだら喜ぶかな?」

 

 女性たちは、沢山のった荷台からいくつかの野菜を見繕いながら、今晩の献立を話しあったり。

 

 「よう、エモットのおっさん。この前の野菜の塩漬けありがとうよ。野菜なんてって思ってたが、ありゃ酒のツマミに最高だな」

 

 「口に合ったようでよかったよ。この村では酒を片手に飲むのが数少ない楽しみだからね。今日も大量だから、また作るだろうし、分けてもいいよ」

 

 「おお、なら今度俺たちの住みかにこいよ!一緒に飲もうぜ。丁度新しいお酒が2本も来たんだ。以前のお酒も戻ってきたし、奢るぜ」

 

 「ハハ、それはいいね。妻に話してみるよ。たぶん呆れられるけど、問題はないはずだ。とびっきりのツマミを用意するよ」

 

 「ガハハ!そりゃ楽しみだ。ルイスの兄貴もどうだ?ついでに模擬戦の相手を頼むぜ」

 

 「・・・・・」

 

 「いいのか!?でも相変わらずルイスの兄貴はノリがいいな!」

 

 男たちは酒とそのツマミで盛り上がり、互いに肩を抱きしめる。模擬戦話が出れば、ルイスは返事はなくても頷いて了承していた。

 

 

 

 

 

 和気藹々(わきあいあい)と話す姿は種族の違いなど関係なかった。ソリュシャンは微笑ましく思って眺めていると看破する力をもつ彼女の眼にあるものが見えた。

 

 それはクルシュと話すエモット夫人の情報が多く見えたのだ。

 

 ソリュシャンがこの村に来た理由のひとつでもあった。あの時の()()では病気以上に栄養失調がひどく参考にはならなかったので、できれば健康状態がよい体の情報が欲しかったのだ。

 

 話しが佳境に入ったころ、ソリュシャンはエモット夫人に話しかけた。

 

 「エモットさんでしたか?もしよければ手を見せていただけませんか?」

 

 「あら、貴方は・・・」

 

 「わたくし。ナザリックの者でソリュシャン・イプシロンと言います。実は貴方に折り入ってお願いがあるのです。お願いと言っても、簡単な事で、さっき言った通りなのですが、もしかしたらあなた自身についても大事な事がわかると思うのです」

 

 命があるように見えるが、やはり少し反応が小さいので念のため、触診して確固たる確信が欲しいソリュシャンは、思ったほど自分は焦っていたのか、少し強引になってしまったかと思い断れるかと思った。が彼女は人のよい笑顔を浮かべて、すぐに了承してくれた。

 

 「良いですよ。ナザリックの方には返しきれぬ恩がありますし、どうぞ」

 

 しっかり確かめもせずに、信じてしまって大丈夫なのだろうか?とかえって心配してしまうソリュシャンだが、ありがたいことなので、その手をとった。

 

 ・・・トクン・・・トクン

 

 気のせいではない。確かにそこには命があった。

 

 「ありがとうございます。良かったですわね」

 

 「え?」

 

 つい口に出してしまったが、隠すことではないし、既に彼女の()()の分析はできた。目的を果たしたソリュシャンは手を離すと、彼女の顔を見て笑顔浮かべ、出てくる言葉は自然と決まっていた。

 

 「お腹に新しい命が・・・おめでとうございます」

 

 その言葉にこの場の全ての動きが停まった。

 

 

 

 

 一拍おいて爆発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイスだけが大はしゃぎするエモット旦那に肩を揺らされながらも、いつも通りぽかったが、その変わらない表情が少しだけ喜んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血を流すクライムの肩に手をやり、回復魔法で癒す。痛みが収まり瞬時に腕が治り、驚くクライムを庇う形で現れた私に1人は驚愕し、もう1人も驚くが私の顔を見ると破顔する。

 

 「な!?あの一瞬で回復を!?神官なのか?いや、それよりも部下たちを殺ったのが、こんな女だと言うのか!?」

 

 「ちょ、ちょっと!?かなりの上玉じゃない!娼婦として売れば今回の・・・いえ、損失以上に儲け出るわよ!」

 

 失礼なことを言うあの場にいた者は全く殺していていない。どうでも良いので、訂正するつもりはないが。

 

 「コッコドールさん無茶言わないでください!さっきの手下どもの悲鳴をお忘れですか!?」

 

 「何よ!六腕なら無茶してでも頑張りなさいよ!それにこんな女があいつら倒したとは限らないでしょ!連れがいた可能性があるんだから、この女を無力化して人質に捕れば逃げれるはずよ!」

 

 追ってきた私を見た標的たちの反応の理由がわかった。護衛はさっきの悲鳴を聞いていたのか、顔は青ざめ持っている剣は震えている。護衛の言葉から幹部であることが窺えるオネエ口調の男は私の実力を甘く見て、商品としてしか見ずに皮算用を始めている。

 

 「くっ!わかりました。おい女命が欲しければ大人しくするんだな」

 

 「それで?命をとらなくても、生き地獄には落とすんでしょ?そんなの死んでもごめんだわ」

 

 「ちっ!なら力ずくだ!」

 

 「殺しちゃ駄目よ!商品にならないんだから!少し傷をつけるにしても目立つとこは駄目よ!」

 

 「なっ、くっそぉ!完全に貧乏クジだぜ・・・やったらぁ!」

 

 「気を付けてください!あいつはサキュロント。幻術を使った技を使います!」

 

 やけくそ気味に戦闘態勢に入る護衛サキュロントに、クライムを守るように背後に回して対峙する。そこへ彼から助言が飛んでくる。それで大体の事はわかった。ブラフでない限りはレジストは可能だ。

 

 彼は充分役目を果たしてくれた。休ませてあげてもいいだろう。ここからは私の仕事だ。

 

 護衛の男は5人に分裂して、多方面から攻めてきた。何て稚拙(ちせつ)な幻術だろうか、まるでハリボテのように感じるそれで心配はなくなった。その幻術を囮にジリジリと死角に回り込もうとするサキュロントは姿は誤魔化せても気配が丸わかりだ。

 

 狙いはクライムを人質にするつもりか。それだって全快した彼相手には厳しいだろう。厄介な依頼者を持ってしまったのは同情するが・・・。

 

 ・・・だが念のためにアレを使ってみよう。試験は出来ているが、実践で使うのは初めてだ。もしかしたら出来ていると思っているのは私だけで、全く効果が違う可能性もある。

 

 そうして私は武器を構え、悟られないように発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武技 領域

 

 一斉に飛びかかってくる幻術。

 

 死角からクライムを襲う実体(サキュロント)

 

 どの軌道で向かってくるのかはっきりとわかる。

 

 本物に振り向き目が合う。

 

 驚愕に染まる男の顔。

 

 一閃。

 

 

 

 

 

 

 ドゴン!

 

 「!?っ」

 

 結果を見れば成功した。ハッキリと存在が知覚できた護衛を迷いなく剣の腹で殴り飛ばした。幻影は霧散し、声も発せずに護衛は壁に打ち付けられ、そのまま気を失いピクリとも動かなくなった。

 

 やっと現状を理解したのか恐れを成して逃げようとした幹部は、彼の背後にいたセバスが腹に一撃を入れて気絶させて、脇に抱えた。

 

 効果は発揮したが、思いの外に規模が凄まじくブレインの言う数メートルとは違いこの建物どころか辺り一辺まで広がってしまった事か。倒れた護衛や背後のクライムの状態、近所に住む住人動向、セバスが幹部の背後に音もなく近づいてくる姿(セバスの技量故かハッキリとではないが)までわかってしまう。

 

 それで留まらずにどんどん広がっていく感覚は、途中で止めなければ王国を包んでいたかもしれない。その分情報量が多くなったが、これからの慣らしで取捨選択もできるようになるだろう。この射程距離をブレインに言えば顎を外して驚きそうだ。

 

 無事にクライムを救えたが、彼を癒した魔法もあってか自分が苦戦した六腕の1人を撃破したのが決め手か、彼が敬愛している王女の話が出たときと同じ、すごく輝く目で見られるようになった。

 

 そのあと建物にいた他の護衛を無力化してから合流したセバスの方は娼婦に暴行を加えていた現場を目撃して、その貴族が屋敷に来た貴族だったらしく。反省の色が全くなかったので、終いには始末したとの事だ。

 

 殺してしまったことを謝ってきたが、私も現場を見ていれば、あの時のように暴走しそうにならなくても、同じことをしただろうし、死体だけでもあれば十分関与していたことはわかる筈で責めるつもりはなかった。

 

 廊下で臓器をぶちまけた貴族の死体を通りすぎ、セバスがある程度応急措置したらしいが、彼女は虫の息でそれを見れば彼が行った行為も納得した。すぐに彼女も回復魔法で全快にさせる。彼女は信じられないものを見たと驚き、感謝の言葉を呟きながらすぐに気を失ってしまった。

 

 安心したからだろう。彼女の体を抱えあげようとすればセバスが変わりに受け持ってくれた。私は彼の好意に甘えることに。そんな様子を手伝いながら見ていたクライムから益々視線が強くなるのを感じる。

 

 こうして無事に襲撃した娼館で八本指の幹部を捕縛し、ガゼフら戦士団に身柄を渡す。彼らは手放しに喜び、讃えてきた。今までの王国なら貴族の手引きによる脱獄を警戒したが、それは少し前の話しだ。

 

 今や貴族は王の怒りを恐れて、力の大半を失った今の貴族は今度こそ手引きが発覚すれば、とり潰されるだろう。さらに警護には国を良くしようとする戦士団だ。賄賂も通用しない。

 

 問答無用で牢へと放り込まれ、罪を償うまで出ることはできないだろう。

 

 他にも無理やり働かせられていた女性たちも救出できた。その際一悶着あったが、今はガゼフ邸で保護している。そこでもまた身寄りのない彼女たちをどうするかの問題が起こった。

 

 娼婦として働かされていた彼女たちの体は治っても心はボロボロで、関係ない男性が近づくだけでも体が震えてしまう。とてもではないがいきなり自立した生活など出来そうにはなく。娼婦として働いてた悪いイメージもあって引き取り手もいない。

 

 このままでは彼女たちは再び水商売に身を落とすしかなくなるか路頭に迷うかになるだろう。助けたものとしてこのまま放り出してそれではあまりにも浮かばれないし、後味が悪くなる。

 

 そこで、これからどうしたいかを話せるようになった者から同じ女である私が聞いてみる事にした。

 

 彼女たちは願いはどこかの村で平穏に暮らしたいが大半であった。元々の貴族に無理やり連れてこられたので彼女たちは一般人で畑仕事などはお手の物らしく。

 

 もしこのまま放置されたのならまず自分を知らない辺境の開拓村などで住民を募集していないかを探す予定らしい。

 

 心当たりが1つあった。そこはある国の兵士を偽装した武装集団に襲われるも、私と悟がいたことで被害ゼロで抑えれた村。

 

 100年前からある村にしては人は200人前後と少なめで、外へ出ていく者も多くいることから、新しい移住者募集は常にされているのを旅の途中でエンリから聞いた覚えがある。

 

 エンリたちにも事情を話してみればそれはいい案だと言ってくれた。今では悟がナザリック加護を与えている村だ。カルネ村は人間亜人だけでなく、モンスターまでが住み、増築が進んでいる。人員は整いつつあるが、まだまだ発展中の開拓村だ。

 

 自然に囲まれた環境ではあるし、モンスターの脅威も今はない。あの時の襲撃で警戒心を持つようにはなったが、それでも彼らの人柄はおおらかでお人好しが多い。トラウマを克服するにしても適任だと思う。

 

 ・・・少し俗っぽい話だが、他の種族が増えても、人間自体は滅ぼされた村から少しずつ集まっていたが増えていない。今までの経験からトラウマのある彼女たちが心から癒されれば、将来子宝にも恵まれる可能性も含めて女手は欲しいだろうし、元農民出の多い彼女たちは農耕で即戦力として充分受け入れてくれる。

 

 しかも防衛も整って来ているらしいので、一応彼女たち拐ったような貴族が来たことはないと聞いてはいるが、今まで無かっただけで、これからもないとは言い切れない。そんな横暴な貴族が来ても、守ってもらえるだろう。

 

 ナザリックで悟からそう聞いている私は、2人の賛成もあり、彼女たちにその事を話せば、是非お願いしたいと逆に頼まれた。命を助けてもらい、傷や病気まで治してくれ、先行き不安だったが移住先まで用意してくれた。なんと言えばいいのかとわからないと感極まり泣き出す者まで出てきた。

 

 確約ではないことを説明して、お礼がしたいならその村はレイナもお世話になった所でまだまだ発展途上。その村に貢献してくれれば、それだけでお礼になると告げれば、貴女が女神様なのですねと祈りを捧げてもきた・・・。

 

 その後ツアレを連れたソリュシャンや護衛の冒険者たちも無事に合流を果たした。まだまだ気が抜けないので、怯えるツアレを安心させるためにもニニャとの再会をすぐにでもさせてあげたいが、今はまだ気が抜けない状態だ。

 

 安心しすぎて、そこを突かれては目も当てられない。護衛だけでもとニニャの要望で漆黒の剣をツアレにつけている。

 

 「あのレイナさん。今回の配置に我が儘を言ってすみませんでした」

 

 「気にしないで、すぐにでも再会したいのに酷なことを言ってるのはわかってたもの。ここまで来て眼を離して、集中できないなんてなったら余計危険でしょ?それに情だけで決めた訳でもないわ。チームワークで今の貴方たちはかなり高いし、彼女の身内として信頼できる。護りたいんでしょ?」

 

 「はい!」

 

 「私たちからも改めてニニャのお姉さんを助けてくださり、ありがとうございました。ここは全力で護らせてもらいます」

 

 「へへ、ニニャお姉さんだけじゃなくて、こんなに綺麗なお姉さん方がいるんだ。俺も張り切っちゃうぜ!」

 

 「張り切るのは良いのであるが、しすぎて空回りしないか余計心配である。調子に乗ったルクレットほど信頼できない故に。それさえなければレンジャーとしては、どんどん腕も伸ばしているのに残念である」

 

 「ちょっダイン。絶対に誉めるのより貶す方の割合が多くねぇか?」

 

 「ダインの言ってることは正しいだろ?誉めすぎると鼻を伸ばしすぎなんだよ。お前は」

 

 「ええ、そこがルクレットの良いところでもあるんですがね」

 

 「ふふ、やっぱりいいチームね。貴方たちにも任せたわ」

 

 「「「「任せてください(くれ)(ある)!」」」」

 

 気心が知れている分、緊張をいい具合にほぐすことができて、最後にはこの団結力である。彼らなら大丈夫だろう。

 

 

 

 傍受対策を施した遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング

)で確認してみれば、懸念通りに不審な人物たちが、すでに人が引き払った屋敷を監視し始めていた。

 

 さすがは随分と恐れられる組織なだけに敵対してからの動きは速い。間一髪だったが、なんとか人質を捕られるといった最悪の展開にならずに済んだのは僥倖(ぎょうこう)だろう。

 

 やつらが八本指の手先であることは間違いない。明かりを一部つけていることで、屋敷に標的がいないことを知るにはもう少しかかる筈だ。

 

 その間に準備を進め、いくつかある本拠地を同時に襲撃。やつらも屋敷に踏み入れたら、待機しているナザリックの場所は既に特定済み。今回捕まえた幹部から情報で王国に積極的に動いてもらうようになった。

 

 クライムはその事を知らなかったが違法娼館の捕虜を引き取る戦士団が来るまでの間に話すと協力を申し出てくれた。訪れた戦士団にはセイラン副隊長もおり、捕縛の件を伝えるために彼と一緒に王城に赴く手筈になった。

 

 「この度は八本指の幹部捕縛ありがとうございました。それだけでなく六腕の幻魔のサキュロントまでとは、流石ですねレイナ殿」

 

 「これで王国は動くのに必要な証拠を押さえましたね。私も城に戻り次第協力します」

 

 「ええ、セイラン副隊長にクライム君も彼らの事お願いね」

 

 「しっかりと罪を償わせるよう牢に閉じ込めますよ」

 

 「ではレイナ殿!後程また会いましょう」

 

 王国特有の敬礼をし、彼らは八本指を連行していった。事前に王に話していたことで、確固たる証拠が手に入った今、信頼できる貴族を動かしてくれるはずだ。

 

 さらにはアダマンタイトの蒼の薔薇も、よく王城に赴くエンリたちを通して話している。向こうもどうにかしたいと思っていたらしく協力してくれるようになった。

 

 それがなくても、彼女らが支援する()()()()()()()第3王女がそれを聞けば彼女たちに要請を出してくれるとラキュースは言っていたらしい。

 

 八本指動きも速いことから、向こうも備えている可能性があるが、充分な準備はできない筈だ。

 

 「バオとエンリは王国の兵士たちと合流し、分担して担当して欲しいわ。私とセバスは本陣に先に行って逃走しないか見張っておく。しそうになったら合流を待たずに仕掛けると伝えてくれる?」

 

 「ああ、任せてくれ。レイナ殿も気を付けてくれよ。あんたに死なれちゃ成功しても後味悪いからな」

 

 「レイナさんなら大丈夫そうだがな。隊長。彼女についていく御仁(ごじん)も相当な手練れみたいだしな」

 

 「昇級して初の大きな依頼が八本指って聞いたときは腰が抜けそうになったけど・・・レイナさんに信頼されている分は、私も頑張るよ!」

 

 バオやブリタたちと久しぶりに会うが、随分と頼りになるくらい成長しているようだ。やはり、装備の充実から依頼を多く成功してきたことで心身ともに鍛えられたのだろう。

 

 「じゃあ、俺たちもガゼフ殿と合流します。レイナさんなら大丈夫と思いますが、セバスさんも気を付けて、あとレイナさんのことよろしくお願いします」

 

 「私からもお願いします。怪我をしないでとは言えませんが、セバスさんも気を付けてください」

 

 「師匠なら大丈夫だろ。師匠がやられたら俺たちも王国も敗けなんだ。こっちの事は任せて気兼ねなく進んでください」

 

 「まぁ今更あんたの心配はしないけどねぇ。ブレインの言う通り、あんたを倒せるような奴がいたら、すでに王国は八本指に落ちてるよ。・・・でも簡単には倒されないでよ。あんたを最初に倒すのは私なんだから」

 

 「お任せてください。このセバス・チャン。全身全霊をもってレイナ殿を護らせてもらいますので。・・・貴方たちもどうか無理だけはしないでください」

 

 「なんか過保護ね・・・言っとくけど、どこも危なくないなんてことは無いんだからね。・・・でもありがとう。私も無茶だけはしないから、貴方たちも本当に必要だと思ったときは助けを呼ぶのよ」

 

 そうして、エンリやバオたち冒険者たちには同時襲撃をかける王国の兵士たちとの合流を指示し、私はセバス一緒に本陣である八本指の砦となっている場所を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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