オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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レイナが来てからのカルネ村の日常


3.5.戦乙女と姉妹

 

 

 レイナが来て2日目。

 

 カルネ村の朝は早い。大人たちは朝日が昇る前より起き出し、男は村の畑へ出かける準備をし、女は家族の朝御飯を作り始める。この村の若い娘であるエンリ・エモットも働き出せるようになった歳からその生活が習慣になっていた。

 

 「す~す~・・・」

 

 隣で眠る歳の離れた妹を起こさないようゆっくりとベッドから起きたエンリは母親の朝食作りを手伝うために部屋をでる。

 

 「おはよう。母さん」

 

 「おはようエンリ。そこの野菜切ってくれる?」

 

 「わかった」

 

 軽く挨拶して、いつものようにスープをまぜる母親に言われて野菜を切り出す。

 

 トントントンとまな板の上で野菜を食べやすいサイズに切ると木で出来た大皿に盛り付ける。今日の献立は黒いパンと今作っているサラダ、そしてスープだ。そして、スープの味つけに入ると私は母親とならぶ、最近は野菜を切るだけでなくこうして料理について教わるようになった。

 

 小さい頃から隣で見てたから、だいたいわかっていたと思うが実際教わり出すと色々見えていないことも多くあり驚かされてばかりだ。母が作るどの料理にも一工夫二工夫も行っており、以前母が風邪で寝込んだ時に代わりに作った事があったがいまいち美味しく思わなかった。それでも父も妹も美味しいと言って食べてくれた。

 

 あとはスープを煮込むだけとなったとき、家の裏から何かの音がする。空気を切ったようなそれにエンリは首を傾げる。

 

 「ねぇ、母さん。今裏庭から何か音しなかった?」

 

 「ん?.ああ、ついさっきレイナさんが何か手伝える事がないか聞いてきてくれたから、薪割りを頼んだのよ。その音じゃないかしら」

 

 「え、レイナさんが?」

 

 お客さんだから最初は断ったんだけどねという母親の言葉にエンリは驚くも、すぐに心配になった。

 

 昨日レイナに旅人だと教えられていたエンリだが一見どこかのご令嬢ともとれる容姿を持つ彼女が薪割りというイメージが出来なかったからだ。というのも薪割りというのはかなりの力仕事だ。

 

 いつもは時間が空いたとき父や他の家の男衆が行っている姿しか見たことがない。その誰もが屈強な体の持ち主だ。最初は渋る父にお願いして薪割りをしてみたが力が足りず割りきれなかったり、手が痺れてしまったこともある。

 

 (レイナさんなら問題ないかな?)

 

 昨日の水汲みのことを思い出す。この村唯一の狩猟を生業とするレイヴァンの息子が手伝ったとはいえ(彼から聞いてみれば彼女一人でも問題なかったとのこと)水汲みを楽々こなせていた彼女ならと納得するが、気になると言えば気になるエンリは母親に様子を見てくると言って裏庭へと向かう。

 

 向かった先ではレイナが斧を軽々と扱い薪を一瞬で割っている姿で父が冷や汗をかきながら畑仕事の準備をしている所だった。

 

 「お、おはようございます。レイナさん」

 

 「ああ、おはよう」

 

 「エンリおはよう」

 

 挨拶しながら次の薪を用意し、2等分、4等分と割るレイナにエンリは瞑目する。良くみれば彼女の隣には多くの薪が積み重ねており、その量は父がいつもやるペースよりだいぶん早い。

 

 「こ、これ全部レイナさんが?」

 

 「ん、ああ親父さんにどれくらい切ればいいか聞いてね。これで最後よ」

 

 「いや、びっくりしたよ。まさか今週分の必要な分の薪をこの短時間で用意出来るとは・・・私も老いたかなぁ~」

 

 「いえいえ、コツを教えてくれたからですよ。力には自信がありますが、薪割り事態は初めてですので」

 

 「ええ?こ、これで初めてなんですか?」

 

 「近いことはしてましたが、こういうのはそのとおりですね」

 

 生まれてこの方薪割りをしたことないと言う彼女にやはりどこかのご令嬢なのかと思い次に近いことはと言われご令嬢ではない?とエンリは混乱しているうちにレイナは最後の薪を切り終える。

 

 そうして今度は水汲みをしに行こうとするレイナに今日はエンリもついていくことにした。道中レイナに疲れていないか聞いてみれば

 

 「なに、あれくらいは全く問題ないわよ。いい手加減の練習になったくらいね」

 

 そう微笑みながら言って力を入れすぎるではなく手加減なのかとエンリの顔をひきつらせた。実際レイナが手加減しなければ、薪を置いた土台さえ真っ二つにしていたからいい練習になっていた。

 

 (でも、あの時のレイナさんかっこよかったなぁ)

 

 まるで流れるように薪を切っていくレイナの姿にエンリは憧憬を抱いていた。

 

 

 

 

 

 「なるほど、普段は畑仕事をして、売り物が出来れば街へ販売しに行くのね、特に売れるのは薬草かぁ」

 

 「はい、このトブの大森林は薬草の宝庫で、私がよく知る知人は実際にこの村に来ることもありますよ」

 

 「それは、仲介料を浮かすため?」

 

 「ええ、それもあるみたいですけど、薬草は鮮度も命らしいのでよくくるんです。その子はンフィーレア・バレアレって言っていい薬師で街でも評判なんですよ」

 

 「その子が会ったとき言っていた知人?」

 

 「はい、魔法も少しなら使えると彼自身が言っていました」

 

 「ああ、あいつか。そう言えば時期的にもうすぐ来るんじゃないか?まぁ、あいつがくるのはそれだけじゃないだろうけど」

 

 村の井戸の前、水汲みに来たレイナたちにシオンも合流して会話に花を咲かしていた。

 

 「なに、薬草以外にも何かあるの?」

 

 「そうなの?ンフィーはそんなこと言ってなかったけどなぁ」

 

 「やれやれ、気づいてないのは本人ばかりか」

 

 首を横にふって意味ありげに呟くシオンにレイナも何か勘づいたのかシオンに近付き小声で話しかける。

 

 「彼はエンリが好きなのか?」

 

 「あ、ああ、エンリは知らないがあか抜けているというか結構村のなかでも人気なんだが、他の男が近づかないのは彼のことを応援しているからなんだ」

 

 レイナがすぐ近くに来たことで動揺するシオンだが悟られないよう返事を返す。

 

 「この村のお得意様だし、彼はいつか出世するだろうし、村では皆家族のようなものだからエンリには幸せになってもらいたいっていう親心があるからな」

 

 「なるほどなるほど、家族とはいいものね」

 

 「もぉ~レイナさんにシオンもなに話してるの?」

 

 のけ者にされたエンリが頬を膨らませて抗議してきたのでごめんと2人が謝る。そんな光景に水汲みに集まってきていた村人たちが微笑ましく見ていた。

 

 その後、エンリは父の畑仕事を手伝いに向かい、シオンも次の狩猟向けての準備を行うために別れ、レイナは村を散策し村人から話を聞いたり、ネムを含む他の子供たちと遊んだりした。そうしてのどかな村では時間がゆっくり進み。

 

 

 

 

 

 その日の夜、レイナはエモット家の裏庭で剣を振っていた。縦、横斜め上段からの切り下ろしから返した刃で切り上げる。その度に彼女の回りに風が吹くその動きはほとんど一瞬であった。少なくとも夕食を終えて外へ向かうレイナについてきたエンリとネムには初動から最後まで全く見えないくらいだ。

 

 「す、すごいですね。レイナさん」

 

 「レイナお姉ちゃん、すごぉぉ~い!」

 

 「ふふ、ありがとう」

 

 2人からの称賛に笑顔で返し、気を良くしたのかさらにスピードをあげる。あまりの早さに残像をともなうその美しい姿にエンリは自分の胸の鼓動が速くなるのを感じる。

 

 時間はそれから暫くたちネムが船をこぎ出しエンリが彼女の身体を軽く拭きベッドに寝かしつけると再びレイナの元へ来たエンリにレイナは剣の構えを解く。

 

 月夜に輝く銀髪に汗一つかかないレイナの立ち姿にエンリは見惚れていた。歳は自分より少し上ぐらいなのにその強さはかに聞く英雄かと思えるほどに洗練されている彼女に憧れた。

 

 「・・・試してみる?」

 

 「え?・・・」

 

 「素振り、やってみたいんでしょ?」

 

 「い、いえ、そんな・・・」

 

 「目がやってみたいっていってるよ」

 

 レイナに促されさっきまで素振りしていた剣を持たされたエンリは自分が持つその剣が村娘ながらとんでもない名剣であることがわかった。

 

 (すごいきれいだけじゃない。持った瞬間剣を通して力が漲るような気がする)

 

 重さがあるが負担になるほどでなく、細く伸びた両刃は見た目と違い力強さを感じ、鍔にある蒼い輝きはエンリ自身を試しているかのようだ。

 

 「ほら、見惚れてないで構えてみて」

 

 「は、はい!」

 

 正気に戻ったエンリは慌てて、見よう見まねでレイナの構えをとる。お世辞にもよいとは言えないほどに体幹が揺れるエンリだが、レイナはその中に彼女の可能性を感じた。

 

 「うん、そこはこうして、あとは・・・」

 

 「あ、はい」

 

 そこをレイナが正して行けばそこには1人の戦士がいた。そして、レイナの指示した通り、剣を振るう。一度振る度にエンリは震えを隠せなかった。

 

 「筋がいいわね、鍛えれば名の知れた戦士いや、英雄になれるかも知れないわ」

 

 「そ、そんなことないですよ。私はただの村娘ですし・・・」

 

 「どんな英雄も最初はただの人よ。そこから鍛えたり経験して出来ないことが出来るようになり英雄になっていく。そういうものじゃない?」

 

 「・・・・・」

 

 レイナの言葉にエンリはゴクリと唾を飲む。自分が英雄になる。このカルネ村に生まれて、友人が話す英雄伝を聞いて心踊らすことはあれど自分がそうなろうとは思わなかった。

 

 このカルネ村で生まれ生きて、誰かと籍を入れ子供を生み最後は骨を埋めるそうずっと思っていた。エンリはカルネ村以外で行ったことがあるのは両親に連れられて行ったエ・ランテルだけだ。その街も今より幼いが子供心に楽しく大きく何より恐ろしく映ったものだ。

 

 そこに、出会ったときからある種憧れた同性の旅人から英雄になれると言われれば恐れ多くも自分ももしかしたらと思ってしまう。今自分はどんな表情をしているだろうか、嬉しいような悲しいようなよくわからない感情に困惑しているとレイナが口を開く。

 

 「なに、英雄にならなくても強くなるのは良いことよ。もしもがあったとき力があれば、戦い誰かを守れるかもしれない」

 

 「・・・・・」

 

 「エンリにもあるんでしょ?守りたいもの」

 

 ある。両親やカルネ村の皆。特に幼い妹のネムに何かあれば命をなげうってでも守りたいと思っている。レイナの言葉にエンリは強く頷いた。

 

 「よし!では簡単な体術を教えて上げる。今のエンリなら大の大人ぐらい伸してしまえるくらいはできるはずの技よ」

 

 「え、ええ?」

 

 「うまく決まればね。それ以外はあくまでも、時間稼ぎ、誰かの手を引っ張って逃げるくらいの時間は稼げるはずよ」

 

 「は、はい」

 

 「ではまず・・・」

 

 「・・・いいなぁお姉ちゃん。ネムも混ぜて~」

 

 「あ、起こしちゃった?ごめんね。う~んネムはもう少し身体が大きくなってからね」

 

 「ああ、ネム位からやると逆に大きくなれないぞ」

 

 「むむぅ~なら我慢する~」

 

 そうして、レイナからエンリへの指導は姉が居なかったからか起きてきていたネムが再び船を漕がすまで続いた。

 

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