オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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49.戦乙女と六腕3

 

 

 「これはまたゾロゾロと集めましたな」

 

 「そうね。元々の警備にしては数が多いわ。本命もいるようだし・・・ねっ」

 

 屋敷に突入した周囲を見回したセバスの言葉に私も同意する。

 

 破壊した扉をくぐった先では八本指の手下と六腕らしき4人が待っていた。その堅牢さを持って周辺住人も迂闊には近づけない威圧を放っていた扉を破壊したことで、動揺の波が走っているのを、彼らの反応から確認できたことに安堵する。そういうのも突撃する目的の1つに、こちらの力量を、わかる形で示したかったからだ。

 

 投降を呼び掛けるにしても、普通に入ってきていきなりそう言われてたとして、相手にされないだろうと思ったからだ。

 

 この世界では一見して強者だとわかる者はいないらしい。

 

 いや、王国の情報収集の際に敵対している帝国にいる重鎮の魔法詠唱者が相手の魔力量を"看破できるタレント"をもっているとは聞いたので、全くではないが、純粋な力量はどうもかなり分かりにくい。

 

 ガゼフたち歴戦の戦士でも己の直勘で、自分よりも上とはわかるらしいが、それがどれ程かは推し量れないようだ。当の本人さえ、この世界に来たときは基準がわからず、自分の身体能力が上がっているのに少し調子が良いとしかくらいしかわからなかったのだから、他人の事は言えまい。

 

 威圧するという意味では隣のセバスがいれば問題ない気がするのだが、何故かツアレを捨ててた男にしても、5人で襲撃してきた暗殺者にしても彼に、物怖じせずに挑むのだから。

 

 老人というのを抜きにしても猛禽類を思わせる鋭い眼光と執事服の上からでもわかるがっちりした肉体。その眼光だけでも見る者からしたら恐ろしく感じられると思うのにだ。

 

 彼が無意味にそんな事をするとは思わないが、クライムに向けたであろう殺気を常に纏えば、あるいは分かりやすい亜人ならば彼らも警戒するのだろう。(前者は傍迷惑だし、後者は入国自体できないだろうが)

 

 私もワールドチャンピオンという肩書きがあってユグドラシルでは他のプレイヤーから尊敬と畏怖の視線を向けられたりしたが、そんなのは知らないこの世界では女だからか、初対面では必ず嘗められる。

 

 一部の冒険者でも実力がある女性も多くいるのに。だからこその囮として派手に突入したのもそのためだ。強固さを誇る正門を破ることで、こちらの技量を伝える訳だが、手応えはあった。

 

 やつらの主力である六腕らしき4人が虚をつかれた様子(1人は全身鎧で分かりにくいが、身じろぎしたので)をしているからだ。これで舐めてかかる事もなく、少しは聞く耳を持ってくれるはず。

 

 ・・・さてと、では期待は出来ないが、一応投降を呼び掛けーーー。

 

 「おい!どうせトリックかなんかなんだろ!?ビビる暇があったら、その女は捕らえて俺の元につれてこい!」

 

 ーーーようとした所で、彼ら以上に戦いに疎く、場の空気を読めない、どこか聞き覚えのある声に顔を向けるのだった。

 

 

 

 声のした方をレイナとセバスが見上げれば、もしかしたら屋敷内の正面広場を一望できるバルコニーがあり、そこでレイナを凝視しながら身を乗り出した貴族の姿があった。

 

 見覚えのあるその貴族にレイナは頭が痛くなった。ろくでもない奴だと知っていたが、ここにいるということは、八本指とズブズブの関係なのだろう。

 

 折角話を聞いてくれそうな空気だったのに男のせいで、無駄になってしまった。

 

 「たしかに今まで見たことない美しい女ですな」

 

 「全く独り占めはズルいですなぁ。あとで良いから私にも楽しませてほしいですよ」

 

 さらに男が言った言葉に周囲もそう考えて、調子を取り戻してしまった。全員がセバスを無視してレイナの全身を舐め回すように観察しだす始末だ。

 

 マシなのは貴族の言葉を鵜呑みにせずに、警戒を高めている六腕たちくらいだ。それでもプライドからか、強気の言葉を吐いて、セバスを挑発する。

 

 そうとは知らずに、彼らならと余裕と取り戻した外野が六腕とレイナたちを取り囲み、即席のリングができた。その間もセバスへの挑発が飛ぶが、彼は全く意に関しないからかレイナの方に切り替えてきた。

 

 「・・・(あの女からは嫌な気配がする。アンデットの本能?だが戦士ならば近づけさせなければいい)」

 

 「どうしたんだい。デイバーノック。まさかびびってんじゃないだろうね?「いや、何でもない」・・・そうかい。しかしアンタも不幸だね。女だから死ぬよりも辛い目に合うなんてさ」

 

 レイナを見た途端に様子が変わったデイバーノックにエドストレームが聞くが、彼は首を横に振る。1番警戒しているセバスには不敵さを隠さずに対応したのにだ。女の方に何かを感じたのだろう。彼の機微を察したエドストレームはレイナへの警戒度を上げた。

 

 「恨むんなら後先考えない行動をとったのを恨むんだな。お嬢さん。だが怪我をさせるとなに言われるかわかんねぇからな。大人しく捕まるんだったら死にはしないぜ?」

 

 「そんなのはお断りよ。あなたたちこそ大丈夫なの?今は隠せているようだけど怖じけ付いていたのを見たわよ?」

 

 「ほう。いい啖呵だ。ではまずは手足の一本失っても後k「なるべく傷つけるなよ!命令だ!」・・・ちっ」

 

 長髪の優男が口火を切る言葉に即座に返せばくぐもった男の声。全身鎧の男が言い掛けて貴族の横やりが入り、不満そうに舌打ちをするとそれを合図に全員が武器に手を掛けた。

 

 「踊るシミターエドストレーム」

 

 「不死王デイバーノック」

 

 「空間斬ペシュリアン」

 

 「千殺マルムヴィスト」

 

 親切にもそれぞれ名乗りを上げる。少しでもこちらの戦意を削ごうとした威嚇か、各々が武器を取り出すと、外野が盛り上がり、聞くに耐えないヤジが此方に飛んでくる。

 

 冷静になったからか彼らの仲間でそれくらいできるものがいるのだろう。それが彼らの中にいるのか、今はこの場にいないゼロというリーダーなのかはさておき。彼らの獲物を情報と照らし合わせて問題ない事を確認する。

 

 ペシュリアンの空間斬の正体は(ないとは思っていたが)ワールドブレイク系ましてや警戒していた武技でもなく。鞘から出した極細の糸といえる長剣ということがわかった。

 

 斬撃属性の鞭といえる武器で、その特性上視認しにくく射程距離も広め。だが、扱いが非常に難しく下手をすれば自分も攻撃してしまう武器に見える。動きを見れば克服しているようだが彼の全身を隠す鎧はもしかして、その名残なのかもしれない。

 

 男2人は対面にいるセバスに任せようと目配りすれば彼も小さく頷いてくれた。私はエルダーリッチと同じ女性であるエドストレームと向き合い彼女に問いかける。

 

 「貴女は同じ女として思うことはないの?女を食い物にする八本指に」

 

 「・・・私には関係ないね。生きるには他を犠牲にしなきゃいけないのよ」

 

 レイナの質問に彼女は事も無げに答えたが、少し間を置いたことから、その心中には思うことはありそうだ。

 

 「おい!!さっさと始めろ!いつまで待たせるんだ!」

 

 「・・・無駄話もここまでだ。貴族どもがうるさいのでな」

 

 デイバーノックも片手にファイヤーボールを唱えたのか手の中で転がしている。焦れた貴族が戦いを促してくる。彼も貴族の言葉に苛立たしげにしていたので、六腕たちも貴族自体は好きではなさそうだ。

 

 現地で生まれた理性を有するエルダーリッチだ。モモンガが知ればユグドラシルとの差異を調べたがるだろう。この世界の魔法にも詳しいかもしれない。情報は多くあればいいし、なくても今後の研究に役に立つかもしれない。

 

 エドストレームも端から見れば魔法のように武器を周囲に浮かせて攻撃に使えるのは興味深い。ユグドラシルにはゴースト系の種族や超能力スキルにそのような操作が可能なのもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たして私と比べて彼女はどれくらい動かせるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お飾りではないようだね。なかなかやるじゃないか!?」

 

 「小娘と言われるほどに若くはないのだけれど。誉め言葉として受け取っとくわ」

 

 「どこまでその余裕が続くか楽しみだねぇ!」

 

 エドストレームは警戒した通りに初動のシミターを増やしたことを正解だったと感じていた。己に放ったシミターの攻撃を最小限の動きで避わすレイナの実力を認めて更にシミターの数を増やして猛攻をくわえながら、思い出したくないオカマの姿をチラつかせていた。

 

 (正直あんたらには少し感謝しているよ。コッコドールの奴を捕らえてくれて!)

 

 奴が自分の体を狙う(自分で楽しむのではなく。商品としてだろうが)あの男が好きではなかった。女を食い物にしているというのもそうだが、何より、奴の嫉妬なのか部下を使って無駄に暴力を振るうと聞いた事もあった。特殊な性癖持ちの貴族にも嬉々として女を壊されようがお構いなしに提供するのだから事実なのだろう。

 

 そんな奴の事を思う事がない筈がなく。同じ女としてあの男は同じ組織にいるだけでも身の毛がよだつ存在だ。カネ払いが良くなければ、今後八本指に所属して不利益があれば、着いていくと決めたリーダーの意志が変われば迷う事なく離脱している。そんな奴が捕まったと知り、さらに脱獄もできないと聞いたときはざまぁないと本気で思った。

 

 しかし、だからと言って恩情をかけるかどうかは別だ。

 

 サキュロントは八本指に所属できたことで浮かれていたが、新人とは得てしてそういうものだ。短い付き合いでも仲間である。今回のことで自惚れを反省したのであれば、彼はこの騒動が終わり次第助けてやっても良いかもしれない。

 

 (それにしても何の冗談だい?あれは盾だろう?私のシミターに対抗して?隠し玉ってやつかい)

 

 いざ戦闘が始まった時に女の背後から2対の盾が浮かび上がり彼女の周囲を回り始めた。白亜の盾の表面の中心には青い宝石がはめられ、それを挟むように青い2つの翼が描かれたそれだけでも価値があるものだとわかる。もっている剣にしても、特殊な盾にしても・・・。

 

 (動きに淀みがない・・・だからって本人の動きが悪くなっている訳でもない。デイバーノックの事もあるから、もう油断はできないけど。・・・気に入らないねぇ)

 

 こけおどしでないことにエドストレームは悪態をつきたくなるのを内心で留める。整った顔つきに、着ている旅装飾にしても良い素材で出来ている。それだけで一般市民は食うのに困らない生活を送れるだろう。

 

 (どうせ女を助けたのだってただの自己満足なんでしょ?)

 

 この女はどこかの貴族で、大方、先祖から伝わる装備を使って関わらなくて良いことに首を突っ込み自分は如何にも強者だと傲っているのだ。自身の力ではなく装備を過信して、弱者を守る。それだって悦に入りたいだけ。王国の貴族よりはマシかもしれないが、エドストレームにとって市民の苦しみを知らないだろう目の前の女は好きになれない。

 

 (少し痛い目を見てもらうよ!)

 

 無数のシミターを左右から同時に襲わせるも本命は別。盾にも集中力を使っているなら、余裕はないとみた。死角からの地面スレスレを1つのシミターが踊り、女の足元を狙った攻撃は・・・。

 

 

 

 

 

 

 直前に上げられた足によって正確に踏みつけられたシミターは刃元からポッキリ破壊された。

 

 (ええっ!?)

 

 およそ想像する令嬢がやらなさそうなそれに、しかも数打ち品でも結構丈夫に作っているシミターが壊されたことに驚き、ヤバイと思ったときには遅く。それがシミターの操作にも現れてしまった。

 

 動きが鈍った左右からのシミターたちは浮遊する盾で的確に弾かれ、残ったものも切り払われた。忌々しい同性でも見惚れる綺麗な顔が急速に近付きーーー。

 

 「魔法二重化(ツインマジック)ファイヤーボール!」

 

 上空へ飛んでいたデイバーノックが2連のファイヤーボールを向けられた事で、大きく後退して避ける。魔法は空振りし地面を爆発させただけになったが、レイナをエドストレームから遠ざける事に成功した。その隙に破壊されたシミターを補充し、手数も増やして体勢を整える。

 

 「助かったよ。デイバーノック」

 

 「礼は後だエド。この者共かなりやりおる。加減等すればやられるぞ。ペシュリアンやマルムヴィストも2人がかりで押しきれていない」

 

 助けられた礼を言うが、彼の顔に不死者故の余裕は見られない。女は動きが早く自分のシミターも彼の魔法も容易く避けられたからだろう。彼の言葉にもう一方の戦いを見れば、目の前の女と違い無傷という条件もなくすぐにあの2人ならと思っていたがそれは裏切られた。

 

 老人だと侮っていた執事が2人の戦士相手に拮抗・・・いや、若干押されているのか。マルムヴィストの表情にはハッキリと焦りが浮かんでいた。

 

 「くっそぉぉ!?全然当たりやがらねぇ!?なんだこのじいさんは!?」

 

 「無駄口を叩くな!くっ俺の空間斬が見切られている!?」

 

 「どうやらまだまだ扱いきれていないようですな。ボディがお留守ですよ」

 

 「ぐはぁ!?」

 

 「っ!?この野郎!?」

 

 どう見切っているのか。老人はその武器の特徴から視認できないペシュリアンの攻撃を易々とくぐり抜け、ボディブローを打ち込む。鎧の上からだというのに、くの字に折れ曲がり、吹き飛ぶペシュリアンにマルムヴィストが気勢を上げて、今まで以上の高速の突きを放つが少しでも当たりさえすれば毒と魔法付加で倒せると自慢していたレイピアは老人には避けるか当たっても問題ない横から(さば)かれる。

 

 此方の攻防も続くが決め手が欠けて膠着(こうちゃく)していた。次第に外野からのヤジもなくなり、うるさくなくなったが、彼らの胸中は穏やかではなかった。

 

 おかしい・・・何度も攻めているのに全然優勢にならない。どれぐらい時間が経ったのだろう?周りも最初はこちらが有利に進めていたから余裕を(かも)していたが、今度は動揺の声が聞こえてくる。

 

 実力はあると言っても1人は老害だ。すぐにスタミナが切れるだろうと、高を(くく)っていたのが間違いだった。2人相手で疲労してもおかしくないのに未だにその動きは衰えない。逆に自分達の動きが鈍り始め反撃を許していく。

 

 だからと言って焦って攻めるも、うまくいかない。シミターは2つの浮遊する盾に全て阻まれ、女はもう避けようともしない分、攻撃は苛烈になり、手元のシミターを何度も破壊されストックがなくなっていく。

 

 鉄壁の防御に翻弄されて時間が経つに洗練(せんれん)されてこれまで以上の速さで迫ってきた。

 

 (なっっっめるなぁぁぁ!!)

 

 苦労を知らない女に言い様にされているのに怒りが爆発したその時、自分はどうやったかは知らないが世界がゆっくり動き始め、女の動きも良く見えた。1つだけだが今まで以上の速さで女の片目目掛けてシミターが向かう。貴族が傷をつけるなと言うのも無視して。女の顔に始めて焦りが浮かんだことに、勝利を確信する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武技 "流水加速"

 

 女が目の前から消えた。

 

 勝利をもたらすと感じたシミターは虚しく空を切り・・・。

 

 「がっ!?」

 

 衝撃が腹を突き抜けてきて何をされたのかわかった。女は更には踏み込んで、殺すつもりがないのか剣ではなく、肘打ちを腹にめり込ませていた。

 

 戦闘があるかもしれないと、少しだけ食べたのが幸いして吐くことはなかった。必死に手持ちのシミターを振り回して距離ができるも先程より自身の動きが死んでいるのを感じる。

 

 続けての攻撃も動きが遅くなった踊るシミターは驚異ではないのだろう。難なく軌道上にあるシミターは破壊され、武器は予備も合わせてこれで手元の1つで最後だ。

 

 「ぐっ!はぁ!?」

 

 手数が減った此方になんと浮遊する盾での殴打までしてくる。たった1本のシミターで防げるはずもなく生傷が増えていく。

 

 デイバーノックがなんとか援護使用と魔法が飛んでくるものの、瞬時に回り込んだ盾に阻まれてしまい効をなさない。それでも武器を下ろすことはしなかったが、プライドがボロボロと崩れていく。認めたくない事実に、頭の中に自身の慟哭が響く。

 

 こんな筈では!

 

 もはや震える体を支えるのにやっとな自分に女が突っ込んでくる。止めを指しにきたのだろう。浮遊する盾と剣にボロボロにされたシミターではもう防御はできない。頼みの綱であるデイバーノックの魔法も通用しない。

 

 そうこうしている内に、もう一方の戦局。今度はマルムヴィストが回し蹴りでガードごと吹っ飛び外野を巻き込んで倒れた。

 

 「エド!」

 

 「くぅっ!?」

 

 デイバーノックの叫びに、なけなしの体力を使って目の前の女にシミターを振るうが、無慈悲に浮遊する盾に弾かれて体制を崩す。

 

 「己!?こうなれば魔法最強(マキシマイズマジッ)!?」

 

 エドがやられそうになったことに切り札である最大火力の魔法をぶつけようとしたデイバーノックの元にいつの間にか光の玉が背後から迫り直撃した。魔法の矢(マジック・アロー)とは違うそれは、彼を一瞬で虹色の水晶に閉じ込め、物言わぬ彫刻と化してしまい地面へと落ちる。

 

 落ちても砕け散ることはなかったが、封印されたアンデットというしかないその光景にエドストレームは遂に戦意を失った。

 

 「まだ抵抗する?」

 

 「あっ・・・」

 

 最後の武器も破壊され、同時に最後の勧告と共に喉元に剣先を突きつけられたエドストレームは少しの抵抗もしようとはしなかった。見れば戦士2人も獲物を破壊か奪われてしまい両者とも膝をついていた。

 

 この瞬間。国中で恐れられた八本指の最高戦力の六腕の内サキュロント含めて5人が敗北を喫したのである。

 

 力なく膝を着くエドストレームは戦いが始まる前に、セバスの向けて自分が放った言葉を真に理解した。

 

 (ボス。私たちはとんでもないやつらを相手にしたみたいよ)

 

 今回に依頼を安請け合いした事を責めるつもりはないが、自ら認める別行動中のリーダーを案じながら思い知るのであった。

 

 

 

 真の強者に会った事がない・・・。

 

 

 

 それは自分達の方だったのだと。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 (・・・少し危なかったかしら?)

 

 エドストレームが扱うシミターの動きを参考に盾をうまく使えたまではよかった。ユグドラシルでの最後の戦いで完全に破壊された特殊装備の盾だが、先日の贈り物(ビューナス・ギフト)のおかげで、新しい盾を作ることが出来た。

 

 破壊された物より幾分か性能は落ちるが、今回の使用を見る限り問題なく動きも粗相がないどころか数を物ともせずに圧倒していたとは思う。

 

 しかし、彼女の心が折れかけとどめを刺そうとした時に復活した彼女は、弾かれて宙をさ迷っていた1本のシミターを正確に人体の急所である眼を狙ってきたのだ。

 

 放たれたシミターはこちらが接近している事もあり、避ける事は勿論、盾も間に合わず、咄嗟に武技を発動させて避けたのは(当たっても対したダメージにはならなかっただろうが、変に無傷であったなら恐怖再来だろう)良い判断だった。

 

 その代償に発動へのデメリットである心身への疲労には少し(こた)えたが。

 

 油断したつもりがないが、あの時は同レベルであれば致命傷になるのは確かだ。それが戦いに追い詰められて覚醒したとすれば、問題なかったとは言え危ない橋を渡ったことになる。いくらレベルで劣っていても決して舐めてはいけないと再認識した出来事だった。

 

 危うく一撃をもらうところはセバスには気付かれただろう。隙を晒すことになるこの場では何も言わずに視線を向けてくるだけで済ませてくれていたが、後で何か言われるかもしれない。

 

 どうもリアルの記憶?(アレ)を見てから集中力が低下しているようだ。大丈夫と言った手前不甲斐ない気持ちになる。

 

 気持ちを切り替えるためにもこの戦いが終われば、明と隼人に直接聞かねばと改めて決意する。

 

 力なく頭を垂れるエドストレームを見下ろしながら、無力化が一番難しそうなエルダーリッチであるデイバーノックの方も確認する。

 

 スキル"光子"

 

 彼を水晶の檻に閉じ込めたこれは、壁などには反射する光の玉が、対象者の動きを封じてしまう。ユグドラシルでは拘束時間は調整されて、一瞬動きを封じれるだけだったが、その特性から活躍してくれたスキルである。この世界の森にいるモンスターで試させてもらったが、障害物にしたり、自分との位置交換さえ可能なのも確認した。

 

 拘束するにはもってこいだとは思ったが、効果が予想以上で、今も閉じ込められたレイバーノックが微動だにしないことから、私が解除するしかないのかもしれない。

 

 同じカンストプレイヤーとかならユグドラシルと変わらない効果かもしれないが、この世界でなら実質的に拘束が不可能なのはないようだ。

 

 問題はスキルを発動するときに手元から出るので、見られたら警戒されて当たりはしないだろうし、連続発射もできない。動きが読めてきたので、エドストレームの攻防中に、彼の魔法の余波に紛れて放った光子の軌道上に誘い入れて1発で決めれたのが大きい。

 

 あとはリングを作っていた外野たちだが、主力である六腕がやられたことに状況を理解して徐々に動き始めたが、士気を失った彼らは逃走や無闇に攻撃してくるとかではなかった。

 

 六腕の実力を見る上でも一気に倒す必要もなかったから様子をみていたが、案の定強さに開きがあり、やろうと思えば瞬殺さえ可能であった。だがそれでは、余計な恐怖が生まれて、大パニックになるだろう。あえて拮抗した状態で戦闘を続けてジリジリと制圧したのもそのためだ。

 

 それが効をなしたのだろう。恐慌状態になることなく周りをみれば皆武器を落とし、問答無用で殺さなかったために素直に降参を告げてくる。大半が畏怖を含めた視線の中には憧れを持った目を向ける者までいた。私たちの戦いに思うところがあったのだろう。

 

 あらかじめ正面を制圧出来たら、鳴らす手筈の笛をセバスに頼んでおく。鳴らせば外で待機している王国の兵士が飛んでくるだろう。

 

 後はバルコニーにいる貴族だが、逃がす理由もないのでバルコニーへと着地すると、戦意がない接待していた女性たちは端にいることを伝えれば彼女らは素直に従った。

 

 私が来たことにハッとなって今から逃げようとしていた貴族たちは出入り口で我先に行こうとしたので団子状態で無様に転倒して罵り合っていた末路は、皆仲良くお縄になったのである。

 

 「たっ頼む!お金ならやるから見逃してくれ!」

 

 「ワシもだ!金貨を100いや200!払おう!」

 

 「ズルいぞ!?俺はその倍をっ!!?」

 

 必死に縄から抜けようとするのを諦めた貴族は最後に顔を恐怖と汗と涙と媚びで醜く歪ませ、そんなことを(のたま)う貴族の姿はリアルでも追い詰めた支配者層の馬鹿共と何一つ違いがなかった。

 

 思わず睨み付けてしまったのはしょうがないと言えたが、予想外な事に彼らは泡を吹いて気絶してしまった。カンストプレイヤーの威圧は武器になるようだ。黙らす手間が省けたのはいいが、何故か恍惚の表情を浮かべて気絶した貴族もいたが・・・。

 

 倒れた貴族たちを確認すると、そこには私に執着していたあの貴族がいないことに気づく。

 

 ここには護衛として六腕のリーダーである闘鬼ゼロがいるかと思ったがそのような男の姿はない。"領域"を使い建物全体を調べても、表で王国の兵士に拘束されている六腕や雑兵以上に強い存在はいなかった。

 

 随分と逃げ足と機転が良かったのだろう。私を物にしようと息巻いていたあの貴族の姿はすでに外に向けて逃げている。

 

 だが、その先では王国の兵士たちが取り囲んでいるので捕まるのも時間の問題だろうと追うことはしなかった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 「もう皆さん行動開始した頃でしょうか?」

 

 「そうだな。俺たちもそろそろ警戒を厳重にしとこう」

 

 「・・・大丈夫でしょうか?やはり私たちも・・・」

 

 「今さらである。それに彼女は今は狙われ安い立場にいる。あわよくば人質にするのは明白。油断はできないのである」

 

 「おーい!こっちもバリケード張ったよ。念のための退路の最終チェックしとこう」

 

 「サンキューブリタちゃん!今度俺とデートしない?」

 

 「はいはい。まずはこれを乗り越えたらね。考えてやってもいいよ」

 

 「ちょっ!?ブリタさん!?」

 

 「まじでか!?こりゃがんばっ!?」

 

 ガゼフ邸にいる漆黒の剣一同は、護衛対象であるツアレを守るために、もともと強靭なガゼ邸をさらにバリケードなどで塞ぐことで簡易的な要塞としていた。

 

 昔とは()()()()()()()()()()ニニャの言葉にペテルとダインが答え、今もまだ男性には恐怖を覚えている元娼婦たちを少しはましになったツアレと一緒に世話をしていたブリタが彼女と一緒に出てくるとお得意の口説き文句を言って、ここでツアレに絡まないのは、まだ彼女が完全に男性に恐怖を克服してないから気を使ったのだろう。

 

 まさかのいい返事に、ペテルは彼が調子に乗ると危惧して叫ぶ。ブリタとしては最近頭角を現し始めた漆黒の剣の一員に興味があったからだ。その手応えに舞い上がっていたルクルットの顔がモンスターと遭遇する前にする不適な笑みを見せてから引き締めたものに変わった。

 

 「へっ!きやがったぞ!数は1で気配も大物だ!」

 

 「やはり!戦士長を警戒しての個人で抜きん出た者の襲撃!レイナさんの読みは当たった訳ですね!」

 

 「だ、だいじょうぶ・・・ですか?」

 

 「ねえっ・・・ツアレさんは彼女たちの元に!ブリタさん最悪の場合彼女たちをお願いします!」

 

 「任せなさい!後ろの心配はせずにドンっとやっちゃいなさい!漆黒の剣の皆!いくわよツアレさん!」

 

 「あ、あのみなさん。どうかご無事で!」

 

 戦闘態勢に入る漆黒の剣にブリタに断りをいれるとツアレはその瞳は心配に揺れながら、まだ男性には苦手意識があるというのに、彼らに近付き激励を贈った。

 

 最後にブリタと一緒になって、お世話をしてくれたニニャという魔法詠唱者の()()を(フード付きのマントを着ていて顔は見えなかったが、フードの奥から感じる眼差しと声は優しく不思議と落ち着いた)見て、彼女は今度こそブリタに連れられすでに退避の準備をしていた他の元娼婦たちとバオ率いる冒険者たちが待つ奥の鍛練場へと消えていった。

 

 「いいのですか?ニニャ。自分の事を伝えなくて・・・」

 

 「いいんです。これが終わったら伝えますから」

 

 「可憐な少女であるなぁ。ニニャの姉というのも納得である」

 

 「ああ、彼女の声援に答えなきゃ男じゃないぜ!」

 

 確かに数年ぶりの姉との再会に正体を明かした上で、その胸元に飛び込みたかったが、まだまだ安心できない状況なのに伝えてしまったが最後、戦えなくなりそうだった。

 

 ニニャとしては元気な姉に会えただけで嬉しかった。もう最悪死んでいる事も覚悟していたのに。姉はトラウマを抱えながらも、自分達を心配してくれた。姉は幼いときから変わらずに優しいままだった。

 

 彼女の声援はニニャだけでなく漆黒の剣の仲間たちも百万力を得た気分だった。

 

 彼らが身構えた所でガゼフ邸の門が大きく揺れる。バリケードも敷いているというのに、嫌な音が弱くなるどころか大きくなっていく。

 

 何度も叩く音が止んで、間が空いたのは一瞬。扉はバリケードごと凄まじい轟音と共に破壊された。

 

 「お邪魔するぜ。ここにツアレという女がいるはずだ。素直に渡せば命だけは助けてやるぜ」

 

 「「「「断る!!」」」」

 

 土煙の向こうから体のデカイスキンヘッドの刺繍をした男が登場するが、彼らは一切怯えもせずに言い切った。

 

 六腕最強と名高い闘鬼ゼロとレイナに貰った装備やアドバイスを受けてチームプレイを活かした戦いでミスリルへと昇級した漆黒の剣たちの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 「モモンさん見えてきました」

 

 「そうか。ユーリ、ハムスケの方も準備はいいか?」

 

 「問題ありませんよ。モモンさん。予定降下地点まもなく・・・ハムスケもいいわね?」

 

 「殿のためこのハムスケ粉骨砕身の想いで、勤めを果たたせてみせるでござるよ!」

 

 夜空に浮かぶ4つの影。先頭を行くのは漆黒の片割れナーベ。八本指への一斉検挙に合わせて王国付近へ転移したアインズがモモンへ変わり、ナーベが自力では飛べないユーリとハムスケ。モモンはアイテムで飛べるが、この際だとナーベのマス・フライに身を任せている。(その時のナーベはかなり張り切った様子を隠そうともしなかったために、姉としてかたまにあるポンコツ属性を心配したユーリから軽く注意されていた)

 

 (零さんやセバスが調べた魔法についての知識が役に立った。ユグドラシルではプレイヤーは皆飛んでいたから気にしなかったけど、ユリたち多くのNPCは種族スキルを除いてナザリック地下大墳墓で必要としてないからな。そもそも、外に出ることなんて考えてなかったし、ナーベが覚えていたのは弐式炎雷さんのこだわりだったんだろうな)

 

 速さと攻撃力に極振りしていた懐かしい忍者を思い出しながら、今発動している全体飛行(マス・フライ)はこの世界特有のもので、それを知ったナーベが、自力での飛行能力を持たないユーリ(微レ存でハムスケ)のために学んだ成果の1つである。

 

 あるとは思っていたが、実際にその魔法を見ると、魔法を戦術に組んでいた者としてくるものがある。今度魔法が使える守護者たちにオリジナル魔法を組ませて見るのも面白くていいかもしれない。若干とんでもない魔法を作らないか不安になるが・・・。

 

 更には元々組まれたプログラムで動いていたNPCだが、戦法というのも旅をしている内に磨かれて、阿吽の呼吸で任務を問題なく遂行してきたのも大きな成長といえる。

 

 それ以上にモモンにとって嬉しいことは、さん付けは相変わらずだが、2人ともナザリックにいたときよりも、気安い関係になれたのが大きかった。

 

 今後の冒険者活動を考えれば第3位階の上だとしても、ユグドラシルでは知られている魔法はこの世界には無いものもあり、この世界にしかない魔法もあるみたいだし、冒険者になってから数多くの依頼を受けたのだから、強くなったて言えば問題ないだろう。

 

 今後の強敵によっては元の実力からセーブしていると危険な目に遭うかもしれない。周囲に誰もいなければ問題ないが、公の場で遭遇した時の事を想定し、何か手を打たなければいかんなと考える。

 

 アルベドからの報告では第6階層のコロッセオではシャルティアとコキュートスを中心に(シモベ)たちが集まり、日夜鍛練と戦略を煮詰めており、その成果か、階層守護者最強という実力から力任せだったシャルティアが成長を遂げていると聞く。

 

 (その目標が打倒零さんというのには複雑だけど・・・)

 

 それを聞いたときはなんとかやめさせられないか考えて思い付かず、零本人にそんな事になっている事を伝えるので精一杯だった。部下の行動を止められない無能だとして失望されないかハラハラしたが、彼女は何故か乗り気で笑顔で楽しみだと言われてしまってはもう説得も出来ない。

 

 本人から今度ナザリックに顔を出したときに場を設けてほしいと告げられたときは、できれば心臓によろしくない事はやめてほしいと思う。

 

 その日は殺試合(ころしあい)にならないか不安で精神鎮圧が何度も起きながらベッドの上を転げ回った。折角の睡眠も少ししか取ることが出来なかった。

 

 「では私とハムスケは先に行きます。モモンさんもお気をつけて」

 

 「はわわ!やっやっぱり、もう少し心の準備をぉぉぉぉぉおおおおおお!!?」

 

 「待てるわけないでしょ。(いさぎよ)()きなさい」

 

 (ナーベよ。言葉のニュアンスが違うよな?まぁそれ以上にキツイ言葉が多かった前よりはいいか。ハムスケ・・・強く生きろよ)

 

 今回モモンとナーベ。ユーリとハムスケと別れて八本指襲撃をかけるので、丁度その真上にきた時点で、ユーリ、ハムスケにかかっていた全体飛行(マス・フライ)の効果を切り、1人と1匹は王国の片隅に落下していった。

 

 ハムスケの悲鳴が木霊する中、見かねたユーリが空中にいながらも近付き、抱えてあげていたので問題ないだろう。この世界の住人から見れば立派な魔獣がその魔獣の半分もないユーリが抱えている姿を見れば、さぞ驚く事間違いないだろう。

 

 「全く。少し見直したと思ったらすぐこれです。あの体たらくでは誇りあるナザリックの名に傷が付いてしまいます。また今度姉さんと一緒に根性を叩き直さないと。良いですかモモンさん?」

 

 「あ、ああ。許可しよう。だが、あまり苛めてやるなよ?」

 

 「モモンさんは本当にお優しいですね。ハムスケ次第ですが善処します」

 

 「は、はは。そんなことはないさ。・・・さてナーベ準備はいいか?」

 

 「はい」

 

 ナーベの容赦ない言葉にモモンは少しだけ綱なしバンジージャンプを強制されたハムスケに同情しながら、意識を切り替え目指すべき場所を見据える。

 

 上空から見る王国は一見静寂に包まれていたが、モモンはこれまでに(つちか)った戦士としての感覚は王国の各所で起こってる動乱を捉えていた。




 イビルアイが使ってたマス・フライって術者の意志で仲間を運ぶ感じですよね。それが位階がわかんなかったので、ただ覚えていないだけかなと思い。ユグドラシルでは(皆飛びそうだし)使えなさそうだし、ナーベラルがこの世界に来て取得した感じになりましたがどうなんでしょうかね?

 ナザリック内の玉座の間を守るのでしたら、フライは必要なさそうですが拘りで取得はしてたのかなと・・・。

 全然違うのでしたら、この世界ではそうということに・・・。

 光子に関してはVP1ではスキルらしくなかったので、名称はVP2シルメリアから取らせてもらいました。
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