「悪魔が現れたぞ!皆逃げるんだ!!出来るだけ遠くに!!」
しばらく外にでて、ほとぼりがさめるのを待って戻ってきたら、金髪ロールヘアーの一度見れば忘れないほど顔立ちが整った女と対峙している悪魔に、赤く染まった部屋の惨状が飛び込んできた。
逃げて助けを呼べという女の言葉に
走りながらなりふり構わず呼びかける。既に日が落ちてさらに閑散としていたが、道行く人々が何事かと反応を見せる。中には他人事と思って逃げようとしない者もいた。
そんな者にも逃げるよう説得したいがそんな時間もない。青年は自分の無力さに悔やみながら出来るだけ周知しながら助けを呼ぶしかできない、
「おい!うるせえぞ!悪魔がいるなんて・・・ざれ・・・ごと」
その時自分の声が喧しいと窓を開けて怒鳴ろうとした酒で酔って顔を真っ赤にした男の視線が自分の背後へと向けられ、そのまま膠着する。
まさかと振り向く暇もなく背後からの衝撃に襲われた。
・・・・・。
「ぐぅぅ・・・い、一体なにが・・・」
少しだけ意識を失っていたようだ。
幸いなことに体は少し重いくらいで動けない程ではなかった。
「な、なんだこれは!?」
体を起こして見たのは信じられないものであった。さっきまであったいつもの街並みが一変して瓦礫の山であった。いくら人が住んでいないと言っても全くではない。つい先程も人通りはあったのだ。
「!?」
そして見たのは瓦礫の下から血が流れている。そこは確かこちらに怒鳴ろうとした男が居たところで。
悲痛な悲鳴がそこかしこから聴こえてくる。青年が無事なのも瓦礫の間にうまく入っていたので、下敷きにならずにすんだのは奇跡に近い。
「ママ!ママぁ!」
「あ、あなただけでも逃げ・・・」
「嫌だよぉ!ママを置いてくなんてやだぁぁ!」
「ああ、だ、誰か」
すぐ近くで助けを求める声が聞こえて、そちらを振り向くと瓦礫に挟まれうごけなくなっている母親らしい女性を子供が必死に助けだそうしている姿であった。
「大丈夫か!?下がっていろ!」
すぐに駆け寄った彼は、腰にかけていた剣を鞘ごと引き抜くと、瓦礫と母親を挟み、梃子の原理で隙間を作り、空いたもう片方の腕で母親を引きずり出した。
「あ、ありがとうございます!」
「お兄ちゃんありがとう!」
母親も挟まれただけで擦り傷はあるものの動けないという訳ではないようで、青年に礼を言うと子供の手を引いて足を引きずりながらも離れていく。
「随分と優しいじゃないか。あんなクズどもと一緒にいたのにな」
「っ!?」
頭上からの声にバッと顔を向けるといたのはあの悪魔がこちらを見下ろしている姿。やはりよく逃げれたものだ。今はっきりしたが奴からは逃げれる気がしない。体は震えて自由がきかない。恐怖に震えながらも歯を食い縛り聞きたいことを口にする。
「・・・彼女はどうした?」
「自分よりも女の身の心配か・・・。考えなくてもわかるだろう?
「・・・・・」
どうしてハッキリと殺したとは言わないのか。悪魔だから正直に話すとは思わなかったが、もしかしたら、彼女の美しさから囚われている可能性がある。
だが自分にはどうしようもない。不意打ちができたとしても瞬時に殺される運命しか見えない。それほどの実力差があると、こうして対面した今は、アジトに返ってきたのを後悔しているくらいだ。
今からでは逃げることも出来ない。だからこそ出来るだけあの親子が逃げる時間を稼ぐために会話を続ける。
「あいつらとはまだ短い付き合いだ。今回のことで愛想を尽かして出ていく用意をしていたんだ」
「・・・見逃してもらう口実ーーという訳ではないようだな。お前には、どこか知っている奴と似た目付きをしている」
「そりゃお礼を言ったほうがいいのか?」
「ああ、ムカつく奴だがそこだけは認めている」
だが見逃す理由にはならないなと悪魔は嗤う。期待はあまりしていなかったがやはり無駄だったようだ。
悪魔の目は全く笑っていない。目の奥に憎悪の光が青年には見えた。
「・・・なにがあんたをそこまで掻き立てるんだ?」
体は動かない癖に口だけは達者なことに安堵しつつ、質問を続ける。自分を助けてくれた女の助けを呼べというのも、不可能だろう。出来たとして誰がこんな悪魔を止められるというのか。
せめて自分が殺される理由が知りたくて問うてみる。
「貴様に言う必要があるのか?」
ああ、やはりまともな答えは期待しなかったが、こうまでとりつく島もないと、逆に清々した気分に・・・ならなかった。あったのはこの理不尽に対する怒りに、殺されただろうろくでなしたちの事。
こうなったのもアイツらのせいなのだろうが、死んでしまった今となっては関係ない。そこで青年は彼らに感謝していたことに気づく。確かに人をパシりにして濃き使ってくれたが、路頭に迷っていた所に声をかけてくれたのは彼らだ。
それが邪なものであろうと、これが少しとはいえ同じ釜の飯を食べた仲間意識から来るものなのかと納得し、悪魔に対して睨み付ける。
「ふん、やっぱ気に入らないな」
そんな反応に悪魔はただ鼻で笑うだけだった。
悪魔が腕をこちらに向けて魔法を唱える。天に掲げられた巨大な火の玉は、悪魔の怒りそのものが具現化したのか聞いたことのあるファイヤーボール等とは比べものにならない熱量を放ち、その余波だけで青年は滝のように汗をかき、体の力が奪われていく。
「ヴャーミリオン・ノヴァ」
明らかにオーバーキルな魔法。そのまま放たれたそれは青年を間違いなく屠り去る。
そして彼だけでなくさらに周辺を巻き込み、逃げたであろう先程の家族もろとも王国に甚大な被害を与えるだろう。
それだけ悪魔の怒りが込められた太陽が迫る。死の直前に自分を庇うように降り立つ旅装束の女と、服の上からでわかる鍛えられた筋肉をもつ老執事の背中を見た。
「セバス!」
「お任せを!"岩砕掌"」
「"空間固定"!"
女の呼び声に老執事が答えて、地面を殴り付ける。そこを中心に地面が抉れ、地盤が
そして、残された自分達を護るように、女が両手で小盾を正面に構える。あの魔法の前では焼け石に水としか思えないその行動に逃げろと2人もあの悪魔が放とうとした魔法を見たはずだ。死地だとわかってどうして来たのか叫ぶが、彼女は僅かに首を回してこちらを見た。その横顔に絶望はなくただただ美しい笑みを浮かべていた。
「貴方よね?親子を助けたのは?彼女たちから頼まれたのよ」
聞けばどうやらあの助けた親子が逃げた先で彼女たちと出会い自分を助けてくれと頼んでくれたらしい。無事に逃げた親子の安否に安堵し、感謝もあったが、巻き込んだとことに後悔したと同時に盾を中心に光が溢れる。
そこに悪魔の放った魔法が着弾し、信じれないことに拮抗した。全てを溶かすほどの熱も光の盾に阻まれ、青年の元には届かない。だがそれは長くは続かなかった。拮抗が破れジリジリと彼女の足が後ろへと下がり出す。
「くっ!なんて火力なの・・・」
彼女から苦しい声が洩れた。よく見れば彼女の手が熱を防ぎきれずに焼かれていることに気付く。常人ならそれだけで悲鳴を上げて下げてしまうだろう。それでも彼女がガードを下げることはなかった。
「ぬぐぅ!」
その時彼女と一緒に来た老執事が同じように盾へと手を伸ばして支える。彼も手を焼かれるが苦悶は最初だけで耐えている。それでも魔法の威力が高いのか後退は止まったものの余談を許さなかった。
青年は2人の姿に恐怖で動けなかった自身の体が自然と動くのを感じた。自分の力などなくても一緒だと思ったが、そんなことよりも少しでも力を貸したいと思ったのだ。だが2人のように盾を押さえようとすれば、燃え尽きてしまうだろうと考えた青年は苦肉の策に、2人の背中を支えた。
「っきみ!」
「すみません!こんな壁みたいにするなんて・・・」
「いえ、ありがとう助かるわ!」
「ええ!レイナ様これなら!」
もしかしたら怒られるかと思って謝ったが杞憂で済んだようだ。2人共に自分を救うためにこんな命懸けな羽目になっているのにお礼まで言われた。その時にレイナという名前なのも知り、場違いにも感動してしまう。
レイナは驚いてから笑みを浮かべ、その笑顔に見惚れそうになるのを必死に頭から追い出した少年。セバスが嬉しそうに口の端を上げた。青年が微力だと卑下したそれは確かに魔法を少しだけ押し返した。
直後、魔法は臨界点を越えたのか大爆発を起した。
魔法はセバスが起こした地盤とレイナが固定することで、即席の砲管にすることで余分な爆発は火柱となり上空へと消え、辺りを赤に染めた。それは大陸中に住むすべての生き物に異変を知らせる警鐘となるのだった。
☆
「ぐぅぅぅ・・・!」
ユグドラシルと違い痛みのあるダメージにレイナの声が洩れ膝を着きそうになるのを
どこまでも人外なユグドラシルプレイヤーのステータスに戦々恐々しながら感謝した。そうでなければ後ろにいるセバスや親子に託された青年を護れたのだから。
「大丈夫ですか!?レイナ様!」
「ええ、なんとかーーと言いたいところだけどかなりヤバイわね・・・」
「あ、あのだ、大丈夫ですか?うっこれは・・・」
背後にいるセバスが、自分も浅くない傷なのに構わず、瞬時に治癒を促す技を掛けてくれたおかげで見るも無惨な腕の怪我は動かせるくらいに回復したが、全快とはいかなかった。肉の焼ける臭いとその火傷の具合をみて青年が顔をしかめる。
それも仕方がないだろう。カンストプレイヤーで戦士でもある私のHPは高い。その分回復は専門職でなければ全快は難しい。
「す、すぐに治療を!」
「いけますか?レイナ様」
「ええ、たぶん大丈夫のはず。ヒール!」
慌てる青年をセバスに任せて私は回復呪文を使い腕を完治させる。瞬く間に癒えた腕に驚く青年に軽く口止めしてから、セバスにも同様に回復呪文をかければ、彼の腕もしっかり治った。
正直彼・・・
その時、瓦礫の上に何かの残骸を発見した。よく見ればそれは金属片でどこかで見たことのあるものだった。偶然にもレイナたちの後ろにあって、魔法の破壊を免れたそれをセバスが拾い上げて驚愕に目を見開く。
すでに破損が目立って原型がはっきりしないそれだが、彼にとって見間違うはずがない装備の一部だったからだ。ナザリックで上司部下として関わりが多く、今回の王国の調査を共にしてきた・・・。
ソリュシャン・イプシロンが着る戦闘メイド服の一部。
「これは・・・まさか・・・」
破片を握りしめ、信じたくない事実に厳格な表情を歪めるセバス。それを知るだろう相手に彼は言葉を選ぼうとして決められずにいるようだ。
「・・・・・」
「・・・殺したの?」
「・・・・・」
彼が聞きたいだろうことを代わりに聞いてみるが、彼は一瞬だけ反応したが、顔は俯いたまま答えなかった。
「・・・セバス。彼を安全な場所へお願いしていいかしら?」
「レイナ様。それは・・・わかりました」
彼の不穏な空気に私は助けた青年をセバスに託して、退避する事をお願いする。最悪戦うことになれば今の彼ではまともに戦うことはできそうにない。さらに、彼が火力特化とは聞いていたが、2人で彼の魔法を受け止めるしか出来なかった。リアルになった影響かそれとも・・・。
それならばと青年を安全圏に逃がしてほしかったので頼んだ。彼も今の自分では足手まといになると、わかっているのだろう。静かに頷き了承してくれた。
「・・・ではいきますよ」
「待ってくれ!彼女を置いていくのか?」
「残念だけど貴方を護りながら戦うことになるとかなりきついの。あk・・・悪魔の反応がない今の内に退避してほしいのよ」
「そういうことです。もしもまだごねるようでしたら強行手段をとらせて貰いますよ」
「っ!」
悪魔の本名を言いかけて訂正しながら、私だけを残すことに意を唱える青年を説得する。すでに彼の魔法を受け止めるのでギリギリだったので心配するのもわかる。セバスが悪役を演じてまで強行手段をとろうとまでしてくれたが・・・。
「・・・すみません」
置いていくことへの罪悪感か自分の無力さか。謝罪を口にして引き下がってくれた。わかってくれたようだが、その顔は苦虫を何匹も噛み潰したようだった。
「レイナ様。わたくしも彼を送り届けたら、戻ってきます」
「ありがとう。セバス。彼をお願いね」
セバスに抱えられて青年は隆起した大地の壁を飛び越えて姿を消した。周りを見渡せば魔法を上空へと逃がすようにしたここはコロシアムになっていた。空間固定がなければ、ここは火山の噴火口にようになっていただろう。
人の目がなくなったことで私は今も棒立ちのまま俯く悪魔に戦う意識がないことをアピールするために両手を広げて受け入れるように近付いていく。
「一体どうしたのよ。明。貴方らしくないわ」
「・・・・・」
反応はなくても彼が聞こえているだろう。
「何があったの?」
「・・・・・」
ここまで反応がないのも、久しぶりな気がする。リアルで出会った最初の方は彼も警戒してて、打ち解けるのに時間がかかった。ある時、支配者層を憎む彼に私の素性を明かした時に決定的に悪くなるかと思ったが逆によく話しかけてくるようになったけど。
「ここには悟もいる。貴方がいるということは隼人もいるのかしら?」
悟と隼人の名前に彼が反応した気がした。なおも近づく。
「今からなら誤魔化せるかもしれないわ。ナザリックに戻って悟も交えーー」
「すまない!零を傷付けるつもりはなかったんだ!俺はっ!ただお前を傷つけようとする奴等の・・・」
あと少しで彼の肩を掴めるとこまできて彼がバッと顔を上げると取り乱しながら頭を下げてきた。彼の言葉は呂律が回らず、聞き取りにくかったが、大体の事情はわかった。
どうしてその現場にいたのかはともかく、彼は私とセバスに対して無関係な一般人、それも子供を人質にして復讐をしようとしていたらしい。彼が話す風貌から、その者たちに心当たりがあった私は先程の青年がそいつらの仲間だったとは信じれなかった。
彼は続ける。
「俺は婚約者として君を守ろうと」
「こ、婚約?」
聞き捨てられない言葉につい反応してしまう。・・・これまでの事から、やはりそういうことなのだろう。
「ああ、そうだ!あのパーティーの晩君に渡した。ああ、くそっ!やっぱりないじゃないか!」
「あっ!」
強引に私の左手首を握ると痛みに声を上げる私に気遣う様子もなく、見えるようにしてくるが当然そこには婚約指輪はなく、彼は落胆するがすぐに先程の表情よりも笑顔で、かえって不気味に思ってしまう。
「そうだ。ここでも指輪をプレゼントしよう!幸いナザリックの俺の部屋には材料が一杯残っている。リアルではあまり良いのはやれなかったんだ。ここでは特大の宝石を」
嬉しいという想いはある。だが、それも未だに強く握られた左手首が悲鳴をあげているせいかすぐに冷めてしまった。思い出すのは彼が言うパーティーの晩。記憶の流れ込みで見たあの2人っきりになった時の事だろう。
あの告白の後に彼が見えるように渡してきた小さな箱をまさかと見つめる私。果たしてそこにいる私はこの私と同じ気持ちだっただろうか?
嬉しさよりも困惑の方が強いこの気持ちが。
・・・・・。
ダメだ。受け取ってはいけない。
こんな気持ちで彼の好意を受けとるのは、あの私に失礼だ。
「そうだ。ここでも結婚しよう!そうすればモモ・・・いや悪い虫も近寄らなくなる。そうだよ。それがいい!!」
こちらの答えも待たずに、決めようとした彼に
「ごめんなさい。それは受け取れないわ・・・」
「ーーーえっ?」
私は確信ともとれる推測を話そうとして、
「私はーーっ!」
彼に左手首を持った逆の手で首を掴まれ持ち上げられ、言葉を発することができなかった。
「どうしてだ!?何故断るんだ!あの時の君は受け入れてくれたじゃないか!?どうしてなんだ!!?」
「あっううぅぅ!?」
目の前には白毛の山羊顔の悪魔の顔が。狂気に満ちたそこには普段の彼らしさが全く存在しなかった。それよりも彼の発言にやはりと確信する。必死に絞り出そうとした言葉は気道を塞がれているために空気が洩れた音のようなものしか出なかった。
「なぜだなぜだなぜだなぜだ俺が悪いのか俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺が傷付けたからか!?」
次第に支離滅裂にしか叫ばなくなった彼だが、首にかけられた手の力はどんどん強くなっていく。体が酸素を求めて足掻くが、拘束が解ける気配がない。
悪魔といえ、魔術師と戦士である自分がーーだ。その事実に気づいた時、死という言葉が浮かんできた。
さらに体をガクガクと揺らされ、最後の肺の空気も空欠になった。体から力が抜けていく。振りほどこうとしていた掴まれていない手もだらりと宙に放り出される。振り回されるだけになった私に彼は気付かない。
(・・・だめっこのままでは・・・)
薄れる意識の中、私は集中する。
私の背後に1つの羽が舞い上がる。ある保険のために1人分しかないけど、彼を止めるために願う。
(しょ、召喚)
たっち・みー
「そこまでだ。ウルベルト!」
「なにっ!?」
「ぐっ!?」
現れた白騎士が私たちの間に割り込み2人を引き離す。その拍子に私は投げ飛ばされるように地面に倒れそうになるが、寸前でたっちにより受け止められる。酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。
「な・・・んで」
弱々しい声の先にいたのは明。なんとか目を開けて見た明は信じられないと白騎士を見てその腕の中にいる私を見た。
再び
この時レイナはミスをした。ナザリックで彼ら2人の話を聞き、周知の仲であることは知っていたが、今この場で呼ぶべきではなかった。アインズ・ウール・ゴウンの女性メンバーなら止めれたかもしれない。だがここに男を呼んだのは情緒不安定の彼にはしてはいけない手だった。
「どうしたんだウルベルト。彼女に手をあげるとは君らしくないぞ。まずは落ち着くんだ」
さらに呼んだのがたっち・みーである。彼はレイナを守りながら正論をぶつけてくる。
・・・なぜ、お前が零の隣にいるんだ。あまつさえ体を密着させて・・・零も何故拒まないんだ。
レイナも焦っていたのだろう。なんとなく推測は出来たが、彼女も修羅場など体験したことのない1人の女性であり、命の危機でもあった。
同性の相手からの相談をよく受けていて、男女の機敏を知っていてもそれは他人だからこそ客観的に判断できていた。
リアルでの本人は財閥が抱える事業や彼女自身の容姿を狙った求愛を受けていた彼女はうまいこと
彼、たっち・みーを呼んだのは共通の知り合いということも含めて彼女は彼を頼ってしまった。
割って入ったたっち・みーの行動も拍車を掛ける要因になってしまった。彼にそんな意図はなくても2人を引き離し、あまつさえ執着していた女を己の腕に庇うように抱えてしまった。
息をするように自然と女性を落としてしまう彼の行動が裏目に出た瞬間だった。勿論レイナがそれで惚れるとかはないが、今のウルベルトにどう映るのか。
・・・
いくら今は飲み仲間とはいえ、昔は磁石のように反発しあっていた2人だ。その宿敵が現れ好きな女を奪われた形。そうなったときある関係になった男はどんな気持ちになるだろうか?
俺の
憤怒
そうとしか見えない怒りの表情に2人の動きが止まる。
「お前はいつからそんな尻軽女になったんだ?たっちだけでなくモモンガまでお前の虜か。・・・アイツもすぐ側に来ている」
「・・・明。話を・・・聞いて」
「言い訳など聞きたくはない!」
「ウルベルト!彼女の言葉に耳を貸すんだ!」
「お前は黙っていろ!」
彼からの乏しには動揺することなくレイナは己の浅はかさを悔やむながら対話を試みる。ウルベルトの反応から推測でしかないが、最早確信ともとれるそれを説明しようにも彼は大声で拒む。たっちも彼に耳を貸すように説得するが一喝で返された。
焼け石に水かもしれないが、彼の言葉の中に悟が来ていることに期待が籠るが、次の言葉に望みは薄いこと知った。
「足止めに悪魔を放っている。英雄だの目指したのが仇になったな。もしも、市民を襲う悪魔を見て見ぬふりすれば・・・」
それで彼が今どんな状況なのかよくわかった。
「時間はたっぷりあるぞ」
冷たい声でそう呟くと彼は 両手を上げる、姿が多重にぶれる。
幻覚ではない。
彼を中心に数十人の彼が現れる。
「そんな・・・」
「・・・嘘だろう?」
幾多の戦いを制してきたワールドチャンピオンの2人すらその光景に愕然とする。
確かにユグドラシルの魔法には術者の分身を生む魔法も存在する。だがそれらは増えれば増えるほどペナルティーが大きくなり、力が弱まる仕様のはずだ。ここまでの数になるとそこらの雑魚にも等しくなる。
だが現れた全てのウルベルトに同等の力を感じたのだ。
「「「「「「「「「「ショータイムだ」」」」」」」」」」
同時に王国を炎の壁が包み込み。召喚された悪魔が空と地上を埋め尽くす。
大悪魔たちは楽しげに嗤い。
ある世界線では一部であったが、規模をリ・エスティーゼ王国全体に広げたゲヘナの炎いや、ゲヘナの大炎獄が始まった。