オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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54.戦乙女とゲヘナ3

 

 

 「くそっ!なんなんだあの女は!?それに八本指の切り札が聞いて呆れる!こんなことなら屋敷に残っているべきだった!」

 

 1人の貴族が人通りの少ない路地を逃げていた。

 

 それは、ある日城で出会った戦士長の恩人を語る女が現れ、それが男の好みにどストレートだった事から、しつこく言い寄っていた貴族の男。

 

 それから、あの手この手で女を物にしようと画策した。中でも王国を廻ろうと誘いにのった時は、千載一遇のチャンスとなったのだが、もう少しというところで、我慢できずに行った事が女の機嫌を損ねて失敗してしまった。

 

 王の恩人でなければ、貴族に恥をかかせたと強引に連れ込むこともできただろうと歯噛みする。

 

 そんなむしゃくしゃしていたときに、今回のショーを楽しみに八本指の招待を受けて、そこにその女がどんな間違いか来たときは、自分の運が向いてきた事を褒め称えたかった。

 

 彼女といる老執事などすぐに殺して、自分に与えられた部屋で、彼女を組伏し、嫌がっても逆に良い味付けになるだろう。そんな光景を思い浮かべ、興奮した男の顔は、彼らが謳う高貴な血を持つ貴族とは、程遠い醜さであった。

 

 暴虐と甘美な限りを尽くし、心が折れるまで楽しもう。

 

 そう決めてた男の醜悪な考えは、六腕と彼女たちの戦いが始まってすぐに暗礁(あんしょう)に乗り上げた。

 

 最初は2対1と有利な展開だったが、時間が経つに連れておかしいことに気づく。女は強かった。彼女だけではない。年老いた執事もは六腕の2人を相手取り余裕があった。

 

 そうして1人1人とやられるのを見て、もう八本指も六腕もダメだと見限った貴族は、呆然とする他に貴族を放って、早々にその場を立ち去った。

 

 しかし、あの時の自分は興奮のあまり、浅慮にも、あの女の前に顔を出してしまった。

 

 王に顔が利く彼女が、証言すれば自分の居場所はもう王国にはない。誤魔化すことも考えたが、彼女は何をしているかわからないが、王との謁見以外にも、戦士長も交えて会っているという噂がある。

 

 それほどの信頼をされているのならば、王がその話を信じるのは目に見えている。

 

 そうだ。

 

 悔しいが、王国の情報を持って帝国の内通者を頼り、王国から逃げよう。

 

 これからの事を考えながら、進んでいた男は自分の目の前にある壁に気づかずにぶつかる。()()()()()()()()()それに男は弾かれ、尻餅をついた。

 

 「こんな時に!邪魔だぞ貴様!?私を誰だ・・・と、な!?」

 

 人間とぶつかった時に似た衝撃に貴族は文句を言おうと相手の顔を見てーーー凍りついた。

 

 自分がぶつかったのは大きな緑色の壁。しかし、その壁の上には、人の顔のようなものが、様々な感情に歪んで浮かんでいた。

 

 その壁がゆっくりとぶつかってきた貴族の男に振り返る。

 

 そこにあったのは、大柄の図体とは不釣り合いな顔で、やる気もない表情で見てくる名前も知らない悪魔。しかし、モンスターは貴族の姿を確認すると、瞳に意志が宿る。ただそれは自分を餌さだと認識しての感情であり、歓迎できるものではなかった。

 

 「ひ、ひぃぃぃ!?や、やめろぉぉ!?」

 

 貴族はあまりの恐怖に動けずに。体を捕まえられ、一飲みにするほど口を開けてから、体を持ち上げられ始めて、何をするのかわかり、もがいて脱出しようとするが、捕まえている手を解くことは出来ずに、身体中からあらゆる体液を漏らしながら、なすすべもなく、かの悪魔に呑まれるまで貴族の男は醜態を晒し続けた。

 

 

 

 

 王国は阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄へと化していた。

 

 炎で照らされた空を飛び交い、王国の古風な街並みを闊歩(かっぽ)するのは、命ある者の不倶戴天(ふぐたいてん)の敵とされるアンデッドに並び、その残虐性から恐怖される存在の悪魔。

 

 戦える者は皆、武器を取って迎撃するも、数が減って安心する間もなく再召喚され、押し返し始めたところで体力に限界がある人には苦しい戦いとなった。

 

 そうなってくれば迎撃ではなく退避を選び、王国の兵士の伝令を聞いた者たちは王国内の各拠点への避難を始めていた。だが避難が間に合わず、悪魔の餌食になる者も出始める。

 

 「家族には手を出させんぞ!悪魔どもめ!」

 

 「あんたぁ!?」

 

 「お父さん!?」

 

 「娘を頼む!早くいくんだ!」

 

 多くの者が自分を犠牲に大切な者を守るために散っていく。またここでも似た光景が繰り返されそうになっていた。悪魔の牙から果敢にも家族を守ろうと、倉庫にあった(くわ)を手に挑む男。しかし彼が握るのは護身用とは言えない農具では悪魔に対抗できる筈がなく、彼にとって決死の一撃だとしても、下手な軌道は悪魔に簡単に見切られ、根本から叩き折られた。

 

 「ぐっ!!やめろ!家族には手を出すな!」

 

 「ああっ!そんな!?・・・」

 

 「ママァァァ!!」

 

 ギャギャギャ!

 

 折られた元(くわ)だった物を今だ正眼に構える彼の必死の抵抗を嘲笑い、守ろうとした家族には他の悪魔が進路に割り込み退路を断たれてしまう、なんとか家族の元へ行こうにも、対峙していた悪魔が見逃すはずもなく、彼の命も狩ろうとその凶爪を伸ばされた。

 

 「水晶の短剣(クリスタルダガー)結晶散弾(シャード・バックショット)

 

 振り下ろす一歩手前のタイミング。イビルアイが現れ、上空からの魔法により、男を襲っていた悪魔の頭から結晶の短剣が突き刺さり、続けざまに放たれた結晶の散弾が、線密に制御された事で男の家族を避けて群れを凪ぎ払って悪魔を殲滅し、彼らの窮地を救った。

 

 「あ、あんたは蒼の薔薇の・・・す、すまない!」

 

 さすがは王国で2つとない(最近3つになった)アダマイタント級の冒険者。その知名度は市井に広く知れ渡っており、彼女の姿に絶望の表情をしていた市民たちは希望に笑みを浮かべる。

 

 だが、そんな事で足を止めようならば、彼女の多少は気を使うようになっても尚、きつい物言いで叱咤を飛ばす。彼らもそれがわかるから、すぐに動き、妙な軋轢を生みはしないが。

 

 「礼などはいいから足を動かせ!決して止まるな!ここから次の角を曲がって真っ直ぐ進めば王国の兵が市民を集めて防衛している場所がある!」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 「ああ、あなた!」

 

 「お姉ちゃんありがとう!」

 

 「礼はいいと・・・いや、いい。速く行くんだ!!」

 

 先程からこうやって助ければ、舌の根が渇かぬ内に感謝を返される事は満更でもなかった。彼らに近くの避難場所を伝えて、追っ手がないよう悪魔を一掃してから。次に向かうを繰り返しているイビルアイ。

 

 彼女は自分の中から溢れる魔力を駆使して悪魔を駆逐していく。その源はレイナから譲り受けた人間化の指輪であった。

 

 普段でも彼女の種族柄、魔力は高いが、それでも限界はあったし、1体1体の悪魔はたいした事はなくても、数の多さから魔法の連続使用で悪魔を数十になるまで倒せば、魔力切れになってもおかしくなかった。

 

 だが、ここ最近チーム内での食事(その量にラキュースたちは言葉を失ったが、その頬張る姿が可愛いと、すぐに好評になってるのを彼女は知らない)の際以外にも人間になって行った食事は、元に戻るとエネルギーに変換され、それはイビルアイの身体能力や魔力の蓄積量や回復量に、いい方で作用したのだ。

 

 会敵した悪魔を滅ぼすと、再びフライを使って空に舞い上がり、目につく悪魔を倒しながら、市民の避難誘導を行っていく。

 

 「また改めて御礼を言った方がいいだろうな・・・」

 

 思わぬ副産物に、懐かしいリーダーに似たあのお節介女を思い出す。その時にはまたあの甘くて美味しい飲み物を頼んでみようかと考えながら、イビルアイは油断せず、時には魔法で作った剣を使って消耗を抑え、市民の危機に全力の魔法を使用するのだった。

 

 

 

 「倒しても倒してもキリがない!やはり本願を叩かなければ、このまま続くのか・・・だが、しかし・・・」

 

 あの場の避難を終えた彼女は他の場所への援護を行うべく、次へと飛んでいった。防衛を心配したイビルアイであったが、ちょうど戦士団の精鋭が来たことで、そこは任せることにしたのだ。

 

 そうして何十もの悪魔を屠るも、減った側から再び数が増え、気のせいでなければ悪魔たちが強くなってきている。元凶はやはり、この王国全体を取り囲む炎なのだろう。それを発生させた者がいるであろう場所も目星はすぐについたが、自分ではどうすることも出来ないとわかっていた。

 

 「くそっ!何がアダマイタント級冒険者だ!彼女に任せることしか出来ないとは・・・ええい!癇癪(かんしゃく)も弱音を吐いてなどいられるか!今できることもしないで英雄だなんて間違っても名乗れないぞ!」

 

 悪魔の大量召喚があったときから、イビルアイは膨れ上がった気配に気付いていた。彼女と出会うまでの彼女だったならば、仲間たちと共に尻尾巻いて逃げるのを選んでいたかもしれない。

 

 もし対峙していれば逃げる事もできずに殺されていただろう。その近くにレイナの気配が訪れ、衝突しているのが感じられた。

 

 やはり嫌な読みは当たり、あり得ない魔力の塊が増えたのだ。それも大量に。絶望してもおかしくないのに、戦況がどうなっているのかはわからない。ただただ無事を祈るだけしか出来ない自分に歯噛みする。だからといって自分が行ってもなんの役にもたたないだろう。ただ足手まといが増えるだけだ。

 

 幸い冒険者や戦士団協力もあり、市民の避難は進んでいる。最悪王国を放棄する事を考えながら、逃げ遅れた市民を見つけては誘導する。

 

 まだ魔力には余裕がある。機動力を上げるために魔力をフライにあてて速度を上げていく。だがそれに集中したのがいけなかったのだろう。この時のイビルアイはアンデッドの沈静化も働いておらず本人が自覚ないまま焦っていたのだ。そこへ横から襲い掛かる悪魔に気づかなかった。

 

 「何!?」

 

 その悪魔はこれまでの圧勝してきた悪魔とは早さが違った。歴戦のイビルアイにも、姿を追うことが出来ずに、気づけば手遅れの距離に詰められ、伸ばされた鋭利な爪が彼女の胴体を捉えていた。

 

 「くっ!?次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)!」

 

 咄嗟に魔法を唱えて避ける。距離ができた分、姿も捉えれるだろうと目を向けたイビルアイ。が次の瞬間、衝撃が彼女を襲った。フライは解けて、そのまままっすぐ落下する。何が起きたのかわからずに混乱するなか、なんとか地面に墜落するのは避けて受け身をとると、先程まで自分がいた位置を見上げる。

 

 そこには当然、悪魔がいた。

 

 今まで無双できていた悪魔とは姿が違った。

 

 全体的に黒みがかかって細身になり、骨が浮き出ている背中の翼も大きく、先程の高速移動もそれだけではないだろうが、凶悪なつり目は一緒だが、その瞳には知性が感じられる。

 

 そんな悪魔が2体。

 

 イビルアイを叩き落としたのは片割れだろう。先の攻撃の正体もなんて事はない。悪魔は1体が囮になり、彼女を撹乱して、魔法での移動を見ていたもう1体が、回り込んでいたのだ。

 

 「少し目立ち過ぎたか・・・いや、運がいいのだろうな。こんなやつが私以外を狙えば地獄だっただろう」

 

 この悪魔たちは他に比べて別格だった。もし、自分以外が出会ってしまえば大虐殺は免れなかったほどに。

 

 イビルアイの見立てでは、それほどの実力差はないと感じられたが、それが2体ともなると苦戦を強いられる。1体に集中しようにも出来ずに、片割れの接近を許してしまい浅くない傷を負ってしまい損傷移行(トランスロケーション・ダメージ)で大きな傷は魔力を大量に消費することで防いだが、代償に魔力がゴリッと削られる感覚に焦りがつのる。

 

 このままではいずれ魔力が枯渇(こかつ)するのも時間の問題だ。まともに戦えなくなった自分は、なぶり殺されるだろう。

 

 何か手を打たなければ、すでにじり貧になったこの状況では死を待つしかない。同じ手を使うのは躊躇したが、そんなことも言っていられないくらいに彼女は追い詰められていた。

 

 再び次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)で2体を同時に視界に納めることで、一気に魔法で削りきる。そうしようとして、その判断が間違っていたことに気づいたのは、移動した直後。

 

 「なっ!?さ、3体目だと!?」

 

 2体の悪魔を視界に納めながら、同じ姿をした悪魔が死角から襲撃してきたのだ。やられた!やつらは元より3体で、こちらのパターンを読んできたのだ。

 

 その悪魔の攻撃は辛うじて防ぐが動きが止まる。そんな彼女に3悪魔は一斉に攻撃を仕掛けた。・・・防げない。防いだところで2体目3体目の攻撃がイビルアイの体を貫くだろう。今までの思い出が走馬灯で見えるなか、最後に見えたのは、何故か自殺して死んでしまったリーダーの事。

 

 なぜあの英雄になったリーダーが自殺をしたのかは、知らせにきた、あの気に入らない老婆には聞いてなかったなと考え、いや、聞くのが怖かくて逃げたのだ自分は。

 

 もし、死んでリーダーに会えたのならその事を聞いても良いだろうか?

 

 諦めたイビルアイはソッと目を閉じ、最後の瞬間を待った。

 

 「でやぁぁぁぁ!!」

 

 そこへ黒く大きな影が彼女と悪魔の間に入り込み、向かって来ていた悪魔を一閃。3悪魔は上半身と下半身を分かたれ、地上へと落ちていった。

 

 驚くイビルアイがその正体をみて驚く、噂で聞いていたよりも大柄で、黒い全身鎧を着込んだ戦士。前代未聞の速度で自分たちと同じアダマンタイト級の冒険者になった漆黒の片割れモモンであった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 モモンガがイビルアイを襲った三つ子の悪魔を切り裂く少し前。

 

 彼は焦る思いを封じ込め、悪魔たちを狩っていた。最初の内は自分を足止めするために直接襲ってきたのが、ある時を境にそれが変化、モモンガではなく悪魔の出現にパニックになっている市民を狙い始めたのだ。

 

 その時モモンガのなかでは、幸いだとそのまま進んでしまおうかという思いがあった。しかし、その市民の中に子供を連れて逃げる家族の姿とレイナの姿が浮かんだ時、彼はその家族を追う悪魔に急接近して、吹き飛ばす。直後、悪魔が上空から取り囲みモモンを襲うが、剣を振り回して問題なく対処できたが、今から走っていては、間に合わない人々を襲う悪魔の群れ目掛けて剣を横向きに投擲。

 

 凄まじい速度で回転しながらグレートソードは悪魔たちを巻き込んでミンチにした。

 

 助けられた彼らはモモンガの姿に御礼を言うが、モモンガにそれを聞いている余裕はない。この時から悪魔の標的は向かってもすぐに殺されるモモンではなく、無力な一般人に変わったのだ。次々と市民を襲いモモンガはその場に縫い付けられた。その場は制圧してもまた別の場所で悪魔が市民を襲うのを目撃しては対処に追われていく。

 

 さらに、彼を苛立たせるのは、彼女の異変を察知してナーベと漆黒の剣たちと別れた直後にナザリックを任せていたアルベドからの妨害でも受けているのだろう途切れ途切れのメッセージ。

 

 『モーンガーま!今すーお伝えーーこーがあーます!』

 

 彼女はモモンガがアインズとして名を変えているのを知っているのに、モモンガと呼んだ。それほどに慌てていたのだろう。モモンガも注意することなく用件を聞くと驚くべきことにナザリック第7階層で僕たちの反乱が起きて、そちらの対応に忙しく、丁度良いと願おうとした増援がこられない事を知った。

 

 反乱。そうきいたときモモンガの頭は真っ白になりかけた。この世界に飛ばされ、自分がロールで悪役をしていただけの元人間である時点で一番恐れていた出来事である。

 

 アルベドが言うには灼熱地獄のモンスターとNPCが、あの紅蓮まで率いてナザリックに反乱を起こし、今はシャルティアとコキュートスがガルガンティアと共に鎮圧に赴き、一時はその下の階層を突破されるところまで行ったが、打倒レイナで修行をつけた彼ら2人によって押し返し、今は膠着状態だという。

 

 それから向こうの要求は何もなく。ただ占領しているだけなのが不気味だという。アルベド自身そこに赴き不敬なやつらを殲滅したいと言うが指揮の都合上、彼女の身に何かあれば取り返しのつかないことが起きるとモモンガが説き伏せていた。

 

 ナザリックからの増援は望めない。

 

 彼女の代わりになるデミウルゴスはどうしたときいても、所在がわからないときた。さらにウルベルトとベルリバーの姿もないという報告にモモンガの嫌な予感は大きくなるばかりだ。

 

 この世界の住人はレベルは下で、今彼女が苦戦しているのは何故か。

 

 彼らは今どこにいるのだ?

 

 彼女程の強者が苦戦してる理由は?

 

 どうして同時に事が動いた?

 

 どうしてこちらの動きを封じるような策を立てられる?

 

 もし、彼女を襲っているのが彼ならば・・・

 

 「くそぉぉぉぉ!」

 

 悪魔を蹴散らすが数は再び召喚されて、市民を襲う。モモンガは全く進まずに、推測が当たっているのならば、彼の思惑通り足止めされている。

 

 信じたくはない。昔の友が自分達を裏切った等とは。

 

 その牙が彼女に伸ばされていることに。

 

 どんどん増える状況証拠が、モモンガに突きつけられる。

 

 その怒りと悲しみに、モモン動きは精細に欠けてきており、悪魔の殲滅に手こずってきていた。

 

 「ぐっ!?間に合わん!」

 

 そして遂に、モモンガがどうしても助けられないタイミングができる。剣の投擲も間に合わず、悪魔が一般市民を攻撃しようとした時。

 

 「はぁぁぁ!」

 

 白い鎧を着た女が夜空のような刀身を持つ大剣を盾のように構えて、悪魔の攻撃を防ぐと、彼女の背に浮かんでいた剣が動きの止まった悪魔を次々に刺し貫いた。

 

 モモンも情報だけは知っていた。王国の2つしか存在しないアダマイタント級冒険者蒼の薔薇のリーダー、ラキュースであった。

 

 「あなたがレイナ様が言っていた漆黒のモモンさんですね!?ここは任せて行ってください!」

 

 「そうだが!大丈夫なのか!?」

 

 「ええっ!数が多いだけですから!ここは私たちに任せて行ってください!」

 

 モモンの肯定にラキュースはモモンの方を振り返らずに、それだけ言うと、悪魔の群れへと突っ込んでいく。だが彼女1人ではここの悪魔たちを倒し、市民を守ることなど出来ない。そう1人であれば・・・。残った悪魔が動くもその影に何かが刺さると悪魔は身動きがとれなくなった。物陰から飛び出す影が2つ。蒼の薔薇の双子忍者ティアとティナである。

 

 「悔しいけど私たちじゃ行っても邪魔になるだけ」

 

 「でもあの人が助力を求めて呼んだあなたなら」

 

 よく見れば彼女たちの体は震えていた。きっと今から向かう先にいる巨大な気配に怖くて仕方がないのだろう。それでも彼女たちは自分が出きることをしようとしている。

 

 それは対抗できるだろう者を、送り届けること。モモンは彼女たちに感謝しつつ、再び地面を蹴って王国を走る。

 

 「・・・助かる!」

 

 さすがはアダマンタイトの冒険者だと思うモモン。そんな彼の背中を見送り、ラキュースたちの戦いは再開された。

 

 「2人ともまだまだいける?」

 

 「問題ないボスこそ大丈夫なの?息上がってない?」

 

 「リーダーがそんなじゃ頑張れない。でもレイナ様が頑張っているのにこんなことで根を上げたくない」

 

 いつもの軽口を叩く2人にラキュースの笑みがこぼれる。こんなときでも普段通りの2人に心配した自分が馬鹿みたいだ。

 

 一瞥した先には自分では到底立ち向かえそうにないバケモノの存在がある。そこにあの人がいなければ自分は絶望に動けなくなっていただろう。今も油断すれば足が震えて、折れてしまいそうだ。

 

 「いくわよ!」

 

 「「了解!」」

 

 だから恐怖に震える自分自身を大きな声で鼓舞して、託せる人を送り出す。あとは体力が尽きようとも、受けた役割を(まっと)うする!

 

 「あれは・・・」

 

 そして、モモンは3体の悪魔によって追い詰められたイビルアイを見つけ、今のままでは手こずると考え、ユグドラシルでは魔法使いがたまに気晴らしで、前衛が出来るようステータスを丸々戦士にして遊べる魔法(ただし使用できる魔法は制限されたりとデメリットはある)完全なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)を発動させた。

 

 戦士レベル100相当の脚力(きゃくりょく)からの踏み込みは、弾丸となって彼女たちの戦域に軽々と届かせ、唖然とする両者を無視して、悪魔だけを瞬殺するのだった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 「一体どういうつもりなんだ・・・明さん。零さんを説得するんじゃなかったのか?」

 

 身体中が口がはえている異形は悪態をつきながら、夜の王国外壁の上に現れる。彼の目には悪魔に蹂躙(じゅうりん)され、燃える王国がハッキリと映っていた。

 

 「計画を実行するにも早すぎるし、最終手段だったはずだろう!」

 

 メッセージも通じず、ここからは聞こえないとわかっていても、彼ベルリバーこと隼人は声を張り上げずにはいられなかった。信じていた人物の凶行。だがそこに彼らしくない動きに疑問が浮かぶ。

 

 「様子が変わったのはあの時から・・・王国は間に合わなかったが・・・まだ救えるはず・・・んっあれは・・・」

 

 彼が見た先には見た覚えのある人物が、市民を襲う悪魔を殴り飛ばし、その横で己の巨体を使って一般人それ子供たちを守る巨大な毛玉が、蛇のように伸縮自在な尻尾を使って近づく悪魔を蹴散らしている姿。だが数に押されるその様子に余裕は無さそうだ。

 

 「あんたがそうなら・・・俺は俺のしたい事をする」

 

 ベルリバーは自身のアイテムBOXから、装備を取り出し、中でも醜悪な見た目を隠せるかもしれない認識阻害の効果を持つマントを羽織ると、渦中の王国に飛び込んでいくのだった。

 

 

 

 

 担当していた八本指のアジトを鎮圧してすぐに、悪魔の出現に戸惑うも、ユーリことユリ・アルファーと元森の賢王ハムスケは悪魔からの敵意に気付くと、迎撃しながら街に出た。

 

 そこは悪魔たちによって地獄と化していた。悲鳴が上がるなか悪魔を相手取り奮戦するも、道中、親からはぐれた子供が多く、それらを放っておく事ができなかったユリは、彼らを保護しつつ、どこかから聞こえる避難場所へと向かっていると、予想以上の数の悪魔に窮地に立たされていた。

 

 「ユーリ姫!数が多いでござるよぉぉ~!?」

 

 「泣き言いう暇があったら手も尻尾も動かす!そのための訓練はいっぱいしたでしょう!?」

 

 「そうでござるけどぉ~!?厳しいで「うわーーーん!?怖いよぉぉ!?」「おかぁさぁぁん!」おおっと怖がることないでござるよ!拙者が護るゆえーーー」

 

 その時、遂にハムスケの尻尾の攻撃を掻い潜ってくる悪魔がいた。悪魔はハムスケではなく彼女が守る子供を狙っていた。

 

 「くっ!?」

 

 ユリも慌ててカバーに入ろうとするが間に合わない。その時ハムスケの体が光に包まれ、彼女の感覚が引き伸ばされる。さっきまで目で追うのがやっとだった動きがスローモーションに変わり、悪魔が伸ばした爪を、本来はかわいらしい爪を使い余裕で弾くと、伸びきっていた尻尾は今まで以上の俊敏さで戻り、残虐な笑みから防がられて驚愕を浮かべる悪魔の横っ腹に叩き込み肉塊へと変えた。

 

 「やるじゃない!ハムスケ!」

 

 「あ、いや拙者もなにがなんだが・・・」

 

 それにユリは思わず誉めると彼女は不思議そうに己の腕を見つめるそこへ、降り立つ影。その存在に悪魔たちは一瞬動揺するも襲いかかったが、彼が来た時点で勝負はついていた。

 

 "聖属性付加(ホーリー・エンチャント)" "鎌鼬"(かまいたち)

 

 彼が取り出した剣に、光が集い輝き出す。

 

 その光ごと無造作に振るった。

 

 その場にいたので誰がその過程を見れただろうか?

 

 子供たちやハムスケ。そして、上位の実力を持つユリでさえ、それがわかったのは、彼が振り終えた後。

 

 その力が向かった当事者の悪魔たちさえ例外ではなかった。

 

 飛びかかっていた悪魔を聖なる属性がかかった真空の刃が悪魔をバラバラに切り刻むと血が飛び出すより早く、白き炎に包まれて消滅したのだ。

 

 この時彼には2つの選択肢が出た。

 

 悪魔を倒す。

 

 そう思ったときに1つ目の異形の本能が叫んだ。

 

 "喰え"と

 

 確かに彼はこの時、異形の力を自然と使えた。しかし、彼の体は異形でも心は人間だ。彼は本能ではなく理性を選んだ。そもそも、認識阻害効果を持つマントを羽織ったのはなんのためだったのか。使うのは本能ではなく理性。マントと一緒に取り出した一振りの剣。

 

 かの世界で、引退する最後まで使った人としての武器。

 

 魔法戦士としての2つ目の選択肢を選んでいた。

 

 「ひっ」

 

 「えっ」

 

 すぐそばに着地したベルリバーに、気付いた子供たちが振り向くと怯えた声が洩れた。

 

 マントをつけたのは一番はやはり、異形の体を隠すためだが、やはりマントで全身を隠しては、怖がらせてしまったようだ・・・。

 

 現れたベルリバーに緊張が張り詰めそうになる中、ユリが彼の前に出て、それが敵意のないものであったのは助かったが、躊躇なく、かしづきそうになるのを、手を前に出すことで止める。

 

 「・・・今はユーリでいいんだよね?やまいこさんの・・・」

 

 「ベルリバー様。その通りでございます」

 

 「ううっ・・・」

 

 「ユーリ姫?知り合いでござるか!?」

 

 「あっ、は、ハムスケも!こ、これはご無礼をっ」

 

 ハムスケの言葉や彼女の背で震える子供たちの態度にユーリは少し慌てているようだった。・・・そういえば、ユグドラシルでは悪のカルマ値であった事を思いだし苦笑する。彼女は心証を悪くすれば。自分がハムスケや子供に危害を加えるかもしれないと考えたのだろう。

 

 「こんなマントをつけていれば仕方がないさ。少し事情があって姿を見られるか訳にはいかないんだ。ごめんよ」

 

 「あっ・・・」

 

 なるべく優しい声色を意識して、気にしていないと告げると子供たち、さらにユリも安心できたようだ。すると1人の子供、女の子が、オズオズと伏せていた顔を上げて自分を見上げる。

 

 「た、助けてくれたのに、怯えてごめんなさいお兄さん・・・」

 

 「・・・いや、君は悪くない。怖がらせてしまったね。でも礼が言えた君は良い子だな」

 

 ちゃんと隠せているか不安だったが、心配はなかったようだ。礼を言う女の子の頭を褒めながら撫でると、彼女は恥ずかしそうに俯いてしまった。続くように他の子供にもお礼を言われる。視界の端でホッと一息つくユリの姿も見えて、やっぱり助けて正解だったとベルリバーは思う。

 

 そうして次に、子供たちを彼が来るまで守っていた大きな毛玉の動物?に目を向ける。

 

 「君もご苦労だった。しかし、聞いてはいたけど本当にハムスターなのか?大きいし。尻尾は蛇の鱗?それにハムスケ・・・か、名付けたのはモモンガさん・・・なん・・・だよな?相変わらずだなぁ・・・」

 

 「いやぁ~手を貸してくれなかったら危なかったでござるよ」

 

 自分が来るまで持たせた彼女に担う言葉をかけると照れたように頭を掻くハムスケ。その姿と名前にギルド長の変わらないセンスへの評価に対してのベルリバーの呟きは、幸い彼女たちには聞こえていなかった。

 

 「まぁまずはこの状況をどうにかしてからだな。ユリ、後で話をお願いできるかい?」

 

 「わかりました」

 

 「う~、またぞろぞろときたでござるぅ~・・・」

 

 つい先程殲滅したというのに、騒ぎを聞きこちらの方が驚異だと判断したのか、他の逃げる人間よりも、ここに集まってきた悪魔。

 

 だが、ベルリバーが加わり、ユーリとハムスケに支援魔法をかけ、彼が来たことで手数が増えたことで集まった悪魔は、比較的に楽に殲滅できた。すぐに新たな悪魔が現れるので、油断は出来ないが、会話をする時間ぐらいはとれるはずだ。

 

 「じゃあ早速聞いてもいいかい?」

 

 「もちろんです。実は・・・」

 

 彼女たちも八本指の拠点の上空から降下し、奇襲を仕掛け、そこは問題なく制圧が完了。拘束して、モモンガとの合流を考えていると、悪魔の襲撃。最初はナザリックの者かと思ったが、彼らはユーリたちさえ標的にして襲ってきた。

 

 やむ無く応戦して、王国を駆けるとそこは既に火の海。なんとかモモンガとの合流を考えたが、子供がさ迷っていたのを見つけたのだ。親とはぐれたのか、それとも・・・と考える間もなく、善のカルマ持ちのユリが保護したまではいいが、足は当然遅くなり、更に道中でも、子供を救助していると取り囲まれてしまったのが、先程の状況だったらしい。

 

 これまでの経緯を最後まで聞き、事情を知ったベルリバーは、今にも泣きそうなのに我慢している子供たちの姿を見て、悔しそうに拳を握る。

 

 「ユリ・・・ここは任せて大丈夫か?」

 

 「先程は危なかったですがベルリバー様のおかげで悪魔も減りましたので、これからこの子達を連れて避難場所へいく予定です」

 

 「すまない。かけれるだけの支援魔法を使ったから、どうか無事でな」

 

 「道理で力が湧いてくるのでござるな!先程は不覚をとったゆえ、今度は任せるでござるよ!」

 

 「ああ、よろしく頼むぞ!」

 

 ベルリバーへの返事に、弱音を吐いてたというのに調子のよい言葉を吐くハムスケに、またこの子はとユリが頭を抱える姿に、ベルリバーはやはり、ここはと確信する。

 

 ハムスケの悪魔の攻撃を防いでいたとは思えないフワフワの毛を撫でる。激励も込めて行動だったが、なんとも言い難い触り心地に手が止まらないベルリバー。そう言えばリアルでペットを飼うか悩んだりもしたなと想いを馳せる。結局は彼も仕事が忙しくて、世話が出来ないと諦めたのだ。

 

 「おお~殿と勝るにも劣らない手腕でござるぅ~」

 

 「こ、これは・・・」

 

 こんな時だというのについ魔が差して無遠慮にお腹を撫で続けてしまったが、彼女の反応から悪い気はしないらしい。ベルリバーも想像以上の触り心地に、やめどきがわからずに戸惑っていた。

 

 「・・・・・」ジィー

 

 ・・・それをユリは隠すつもりもないのか、じっと羨ましそうに見つめてきた。彼女の場合さすがにお腹を触るわけにはいかずに頭をナデる事になったのだが、ハムスケとは別に、手触りの良い髪質や恥ずかしそうに俯く美女の姿を見れたのは、ちょっとした役得であった。

 

 思わぬ形で英気を養い、1人と1匹に子供たちと別れ、跳躍して建物の屋根に飛び移ると、改めて街の惨状にベルリバーは目を細める。

 

 「これは夢じゃない。本当に起こっていることなんだ」

 

 眼下でユリとハムスケが支援魔法のブーストで、悪魔を蹴散らし、退路を確保する姿や市民を守ろうと戦う王国の兵士たち。

 

 「明さん。今の貴方がやってることは貴方が信じる悪なんですか?」

 

 あの日、例の事が起きて脱け殻のようになった彼の姿を思い出す。なんとか一命はとりとめたものの、眠り姫となった彼女を起こすために、彼がどれ程身を削ったのかを知っていたベルリバーはどんな事でも協力しようと決めていた。

 

 懐かしい友人と命を持った彼ら彼女たちに出会ってなければ。

 

 思えば自分は、リアルでも後方支援に甘んじて、前線に立つことはなかった。ユグドラシルでは魔法剣士で、どちらもこなせる職であったが、傾向は同じだったと思う。何の奇跡か、ユグドラシルの肉体であっても、パソコンしか取り柄のなかった自分が前線に立つのは、感慨深くあった。

 

 彼女と同じ土俵に立てた気がするから。

 

 あの日、既に情報は渡すべき相手に渡っていたが、それを知らない企業は、自分が握る証拠を消そうとして、命を狙ってきた刺客が、影から飛び出した漆黒に次々と倒れていく。味方がやられていき、最後の1人となった者が、銃を乱射。

 

 その凶弾が自分を捉えたときに、押し倒された。自分に馬乗りになった状態で、彼女は半狂乱になっているそいつに銃を向けて、眉間に1発の銃弾を撃ち込むことで黙らせた。

 

 左肩を押さえながら立ち上がる彼女。彼女が現れた際に、身を隠すなりしていれば良かったのに、思考停止して、動かないノロマなんて捨て置けば良かったのに・・・

 

 自分の性だと自責の念に捕らわれていた自分に優しく声を掛けられる。

 

 間に合って良かったと。

 

 庇って受けた傷のことを聞けば、スーツが護ってくれたから問題ないと銃弾が当たった所を叩いて笑う。ならどうして痛そうにしているのかと聞けば、苦笑してから「衝撃までは防ぎきれないから」と。

 

 怪しく光るバイザーと一般的に使われているガスマスクを小型にしたもので、表情はわからなかったが、彼女は優しい口調で、その後も語りかけてきた。

 

 先行きのない自分の身の上話を聞き終えた彼女は、ソッと手を伸ばしてる。その意味を理解すると同時に思い出す。

 

 情報を洗うなかで、企業が忌み嫌い。企業による支配世界を揺るがしかねないと、一部の警察関係以外徹底的に情報を秘匿され名前もない存在。

 

 しかし、自分の印象は違った。眉唾なものか、大袈裟に誇張されたものだと思っていた人物が目の前にいて、その流れるような動きは美しく鮮烈で。

 

 現実はどこまでも暗く冷たい世界で

 

 磨かれた技は美しく強く

 

 彼女の声はどこまでも優しかった

 

 そんな求めて止まなかった救世主(ヒーロー)

 

 その名は自然と浮かんできた。

 

 

 

 

 

 戦乙女(ヴァルキリー)

 

 

 

 

 

 「他にいくところがないなら、私といかない?」

 

 「!・・・ああっ!」

 

 倒れたままの自分へ差し伸ばされた先から見上げる彼女。

 

 既に失くしていた自分の人生だ。拾われた命に対して少しでも恩が返せるならと、彼女の伸ばされた手を掴んだ。

 

 

 




 ゲヘナで出てきた悪魔たちの名前が調べてもわからない!

 という訳で見た目の説明だけになります。オリ悪魔も

 もし嫌な人がいたら、ごめんなさい。orz
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