オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

57 / 58
 


55.戦乙女とゲヘナ4

 

 

 

 『少し話があるんだがいいか?』

 

 『いいけど何かしら?もうすぐ作戦が始まるから手短にお願いしたいのだけれど』

 

 『あ、ああそうだな・・・』

 

 あれはまだ互いに協力関係は築くも信頼できていない時期、協力しての初めての作戦前、隼人と同じく後方で控えているはずのレジスタンスのリーダーから声を掛けられた。

 

 彼は私の顔を見ると、難しい表情を作り、口を開く。

 

 『その・・・いや、頼みがあるんだがいいか?』

 

 『出来ることなら』

 

 『・・・素顔を見せてくれないか?』

 

 そう言えばまだハッキリとは顔見せはしていない。協力を取り付ける切っ掛けになった元から彼と繋がりのあった隼人ならばいざ知らず、私は正体を隠していた。ちゃんと空気が浄化されている室内と言うことで、ガスマスクの方は外しているが、各種機能付のバイザー越しで彼らとは接している。

 

 作戦控えた場面で、今からしようとする対応では印象が悪くなり、支障が出るかもしれないと考えるが、やはり、メリットよりデメリットの方が大きく、一旦は断る事にした。

 

 『ごめんなさい。まだ完全に信頼出来てる訳じゃないから』

 

 『そ、そうだな。いや悪い』

 

 『いいのよ。でももしこの作戦が無事に終わったら考えてあげる』

 

 『そ、そうかっ!』

 

 大人なのにすごく落ち込んで見えた罪悪感から、つい期待させる事を言ってしまったが、考えるってだけなのに、嬉しそうに笑う。彼は私の容姿がそんなに気になるのだろうか?しかし、彼の反応は懸念していた嫌悪という感情はなく、去っていく背中には、どこか既視感がある気がして、首を傾げるのだった。

 

 

 

 「「散開!!」」

 

 どちらとともなく叫ぶとお互いに逆へと駆け出した。その間を何発もの破壊の魔法が撃ち込まれたのを回避して、そのまま2手に別れた。

 

 すぐ近くの分身体であろうウルベルトの分身を切り刻み消滅させる。魔力は高いようだが、耐久力も魔術師のためか、少し高い位で全く通用しないなんてことはなかったが、安心は出来ない。これだけ分身を生むのならば向こうも様子見であるのが窺えるからだ。

 

 「おいおい、酷いじゃないか分身とはいえ恋人を切り殺すなんて」

 

 「だったら分身の後ろに隠れずに、直接来たらどう?もっと強烈なのを叩き込んであげるから!」

 

 「おおっとおっかないな。でも、そんな所が好きだ」

 

 「この状況で、よくもそんな!」

 

 先程の激昂が嘘のように茶化す言葉と、すぐに場違いな台詞に、やはり今の彼は正常ではないと確信する。

 

 次に向かった分身は、見覚えのある構えをとった事で思わず舌打ちしたくなった。それでも止まるわけにはいかない。ここで止まれば四方八方から魔法を撃ち込まれるかもしれないから。振り下ろした剣に合わせて彼が動き、懐に入り込まれるう。私が振るう剣の持ち手に手を添えーーー。

 

 「ちっ、やっぱり零には通用しないか・・・」

 

 その手を逆の手で掴んで止める。そこから反対側に引っ張り、回転を利用。大きくよろけた彼を背後に周ってから切り捨てた。

 

 「何度組手をしたと思っているの?降参するなら今よ。組手で私に勝てたことある?」

 

 「動きは知っているといいたいのだろう?だがそれはこちらにも言えることだ。確かに勝てたことはないが」

 

 斬られた分身は抵抗もなく霧散したが、会話は引き継いだもう1人に分身がそう答えると、今度は向こうから近付いてきた。

 

 接近を許し、今度は剣を横に振るう。っ掻い潜られた!

 

 剣を振った腕に痛みが走る。下から腕を打ち上げられたのだ。剣は手放すことはしなかったが、当然起動は大きく外れ、体は後ろに大きく弾かれる。

 

 攻撃を防ごうと盾を挟み込もうとしたところで、盾が動かないことに戸惑う。見れば持っていた盾に手が添えられただけで、ビクともしない。驚愕に動きが止まってしまい。彼がその隙を見逃すはずもなく、真っ赤に燃えている手が深く腰を落としたところで構えているのが見えた。

 

 「こんな風にな!!」

 

 「ぐうっ!?」

 

 その手が腹を直撃して、凄まじい一撃に視界が前方に流れて強い衝撃が背中を襲った。

 

 

 

 

 「そう言えばたっちと衝突することは多かったが、こうして本気で戦うことはなかったか」

 

 「ああ、あの時は俺の言葉にも問題があったから、素直に謝って、拳をお前が下げたが・・・今回はそうはいかなそうだな」

 

 彼が言っているのは、クラウン時代の事で、それまでリーダーをしていたのをギルドを結成した時に辞退した要因にもなったあの件のことだろう。

 

『悠々自適に暮らすあんたに何がわかるって!?』

 

『それはーー』

 

『こっちは糞みたいなリアルなんだよ!ゲームの中くらい自由にさせろよ!もういい俺はユグドラシル辞める!』

 

 同じクランの仲間として大目に見ればと言ってくれたレイナのアドバイスを聞いていて、彼の事情も察する事が出来ていたというのにだ。

 

 自分の譲れない正義感から、咎めたことで傷付き離れていった彼の友人。その友人は元より素行も悪く。(リアルの事情によるストレスがあったのだろうが)言動が過激すぎて、行き過ぎたPKKによる衝突は頻繁に起きていた。

 

 あの時はウルベルトの方から殴りかかってきたが、自分にも非があるとして、殴られても謝罪することで収まった。その後も彼とは付き合いが続き、ナザリックを攻略した時には、人知れず肩を叩きあったものだ。

 

 「"光波刃"はぁぁぁぁ!!」

 

 「甘いな!」

 

 「ぐわっ!?」

 

 強力な所が強みであるが消費量が高い十八番の次元断層(ワールドブレイク)では長期化するこの戦いでは、もたないと考えて聖騎士(パラディン)の攻撃スキルによって剣に纏った光が伸びて数体の分身体と悪魔を凪ぎ払う。だが、それを避けた分身体による無詠唱からの雷の魔法を撃ち込まれて、ギリギリ直撃は避けたが、大きな傷を負ってしまう。

 

 「どうしたんだ?お前らしくないなぁ。動きが遅いぞ?」

 

 「ぐっ、ブランクもあるのだろうが・・・。チートは嫌いじゃなかったのか?」

 

 「俺がチートを使っていると?まぁ確かにこの沸き上がる力は異常だよな。だが心当たりはあるから心配するなよ」

 

 「心・・・当たり?」

 

 違法データや課金による有利を嫌っていた昔の彼を思い出しながら、わざと砕けた言い方で情報を少しでもと思い。そう問いかけるが、彼は仰々しく腕を広げると叫んだ。

 

 「愛さ!俺の零への想いがこの力を目覚めさせた!」

 

 「それはスバらしいな・・・」

 

 彼の言葉に棒読みで返す、あとで絶対恥ずかしい事この上なくなる台詞。まともな返事は望んでいなかったし、只の中二病とは笑えればいいが、今の彼は正気を失った危険人物に似た危険な雰囲気がある。

 

 「こんな風にな!」

 

 「ぐうっ!?」

 

 「っレイナ!?」

 

 その時、自分とは逆方向で戦っていた別の分身体の叫びに目を向けると、レイナが腹部を殴られたと同時に凄まじい破裂音が響くと、こちらへ飛ばされ、壁に叩きつけられた彼女が近くに転がった。幸い彼女はすぐに立ち上がったが、ダメージは浅くないようだった。少しふらつく彼女の姿に焦りの感情が浮かぶ。

 

 彼は彼女への愛だの言っていたのに、傷つける彼の行動はちぐはぐで恐ろしく思えた。

 

 「はぁはぁ、い、今のは効いたわ・・・」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「零もうこれ以上の抵抗はしないでくれると助かるんだが、俺は出来れば君を傷つけたくない」

 

 「せ、説得力ないってわかってるの?」

 

 「君が大人しくするんだったらこれ以上はしないさ」

 

 彼女の言葉に、彼は肩を竦めながら、やんちゃする子供を叱るように言う。言葉だけ聞けば、ユグドラシル時代の彼そのものだが、しようとしている行動はやはり合わない。

 

 気持ち悪い違和感が付き纏う、彼は本当に俺の知る彼なのだろうか?

 

 

 

 

 「・・・大丈夫かレイナさん?」

 

 「ええ、大丈夫って言いたいところだけど、不味いわね・・・」

 

 乱れた息を整えつつ、剣を構える。明の分身体や悪魔たちに囲まれる中、たっちとは背中合わせに立っていると、彼から気遣いの言葉を掛けられるが現状は芳しくないことを告げるしかなかった。

 

 互いにダメージが重なっていたが、レイナがこっそり回復魔法を使うことで、ダメージはすぐに消える。この時ほど自分のビルドが只の戦士ではなく回復も使える育成にしていてよかったと思う。ただMPと呼ぶべき魔力が、少なくなり、リアル化の影響で、それが疲労となり2人を襲う。

 

 ユグドラシルでは、確かにゲーム疲れはあったが、ここまで行動に支障が出るようなものはなかった。

 

 これがリアル化の伴ったペナルティという事に、レイナは歯噛みする。

 

 武技の使いすぎ・・・いや、それ以前にこのハイスペックの体を使い、最近まで結構無茶をしていた反動もあるのだろう。このままではそれが尽きた途端に、悪足掻きも出来ずに、異常な魔力を持つウルベルトに()(つぶ)される未来しかない。

 

 ・・・彼の反応から殺される可能性はないとしても、より酷い結果になりそうで、全く安心は出来ない。ゲームだったらと考える自分の今更な思考が忌々しく感じる・・・。

 

 ここがリアルな世界だと知って行動してきたのだ。今さら後悔するにしても遅いし、無責任に逃げ出すのはもっと違う。

 

 そうやって投げ出そうとする無責任なあり方は嫌いだ。リアルの世界を徐々に蝕んでった屑どもと一緒だからだ。どうにかする力はあるのに、その席に甘んじて、野放しにしたから。さらに・・・いや、それは今はいい。

 

 だから後悔はない。こうなってしまえば自分がやって来たことは必要なことでもあったと思う。

 

 できることをやる。でもそれに巻き込んでしまった彼やこの場にはいない悟にも、こんな事になったのを謝りたかった。

 

 「ごめんなさい。たっち」

 

 「謝る必要はないさ。」

 

 「そうじゃなくて・・・仲間と戦うのって辛いでしょ?」

 

 「そんなことか・・・何、彼との争いには慣れてる。まぁこれ程苛烈なのは、はじめてだけどね。それに男女間の痴情(ちじょう)(もつ)れって結構リアルでも多いし、職業柄、(あいだ)に入って仲裁なんて良くあるんだ。それに、本当に辛いのは君の方じゃないか?」

 

 「・・・・・」

 

 たっちが言う痴情のーーはともかく、図星を突かれて、レイナは言葉をなくして、それは表情にも暗く表れた。

 

 男女問題で1つの国が巻き込まれる。そんな規模の騒動を起こしたウルベルトを許せないという気持ちと、仲間としてどうしてという思いに挟まれているのを見抜かれていたからだ。

 

 「・・・・・」

 

 「レイナ。今不穏な事を考えたね?」

 

 あの時、突き放さずに受け入れれば彼が暴走せず、八本指を下した今は平穏な夜を迎えていたのだろうか?リアルの自分が見せる記憶から、彼との出来事を見て(さっ)する事ができた筈だ。

 

 あの時は自分の気持ちが彼に向いてないのを、怖さを我慢して告げずに手を取っていれば、そう考えたレイナの心境を察したにたっちに言われて、どんどん堕ちていく思考が中断する。

 

 「気持ちに嘘はついてはいけない。その場は誤魔化せてもいつかは露見する。君もそう思ったから、彼を突き離したんだろう?それに一度断れたからといって暴力を振るうのは彼の落ち度だ」

 

 「・・・・・」

 

 「それに今の彼は可笑しい。たとえその選択をしても、彼がナニモしないなんてあるのか?」

 

 彼の言葉は、確信があるのか、はっきりしたものであった。

 

 しばらく考えたレイナは、たっちにだけ、聞こえる声で告げる。

 

 「たっち、お願いがあるの」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 彼女の願いに言いたいことはあったが、そんな時間もないということで承諾する。

 

 彼女・・・大分弱っていると感じた。肉体的にも精神的にも、信じていた仲間との衝突に、本人が自覚できないダメージを負っていた。そんな姿に、つい説教みたいな事をしてしまったたっちは、持ち直した彼女と一緒に目の前の宿敵とも言える親友を見据える。

 

 今ならわかる。彼女に召喚されてから、彼との対峙であったが、そこにいたのは、彼の皮を被ったナニモノか。

 

 彼女もすでに知っているだろうが、下手な事をすれば、目の前の親友に何が起こるかわからない。実質人質に捕られている状況だ。

 

 リアルでの警官としての勘が、警鐘を鳴らしている。

 

 「いつまで仲良く話している。来ないならこちらからいくぞ」

 

 ついに焦れたのか、それとも、身を寄せて会話する自分達への嫉妬からか、言葉には苛立ちと怒気が含まれており、今まで待ちの姿勢だった彼が動いた。

 

 分身の4体が"完全なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)を使用する。モモンガとは違いコレクターとしてではなく、リソースを割くことを嫌っていたのに、自分と殴り合うためだけに取得したそれだが、遊び半分ではなく、妙に力を入れていた。

 

 スタッフとは違うが近接にも魔法の適正もある専用の武器デスサイズタイプを振り回し、2、2に別れて、こちらを襲ってきた。

 

 背後をとられないよう、彼女か壁を背にして応戦する。その4体に対しては十分に対応できる。この世界で、ユグドラシルよりも自由度が高くなったおかげで、思う存分に体を動かせて、彼を寄せ付けない。

 

 彼女の方も、体術に覚えがあるのか、ウルベルトの独特のカウンター狙いの動きも、先に潰して逆にダメージ与えており、危なげない。その彼女の動きに、どこかで見た気がしたたっちだが、目の前の相手が、思考する時間を与えてくれずに、怒濤の攻撃を培ってきた技と勘を動員して、捌ききるしかなかった。

 

 「ちっ、フレンドリーファイヤーがなければ、もっと楽ができるのになぁ~」

 

 どこかで、苛立たし気に呟くウルベルトの声が聞こえる。これまで数に負けていながらも、有利に戦えていたには、やはりそれが一番理由だ。魔法の射程から、分身体を壁にすることで、これまで凌いできた。

 

 このまま続けば、いずれは本体に攻撃が届くだろう。そう、続けばだ。

 

 「ま、いいか」

 

 その言葉にゾワッと身の毛がよだち、懸念していた事が起こる。

 

 分身体を合わせて6人で戦っている所に、周囲囲むように展開した残りの分身体から、大魔法が撃ち込まれる。

 

 咄嗟に自分はガードを硬め防ぐも、分身体が消滅しダメージが襲う。

 

 「相手が相手だ。これくらいは必要経費というものだろう」

 

 彼は消えた分身体など、構わずに魔法の効果範囲が広いのを次々に使用してくる。

 

 「それに、まだストックはたくさんある。せいぜい足掻きな」

 

 それを皮切りに、戦局は一方的なものに変わった。

 

 

 

 ある日、珍しいことに相談したい事があると贔屓にしている居酒屋に誘われた。最初は今まで通りの世間話からであったが、そろそろ酔いが回ってきたところで、恋について相談された。

 

 あまりの唐突さと、まさか、恋愛相談を受けるとは思いもしなかったために、盛大に飲んでいたお酒を、真剣な面持ちの友の顔面にぶちまけて、リアルファイトに発展しかけたのは(すぐに居酒屋の親父に怒鳴られて未遂となったが)記憶に新しい。

 

 何度も助言して、失敗する度に、彼のヘタレさもあるが、相手の女性の鈍感具合もあって、ダメ出しと愚痴が続き、恋敵とのバトルには、友として出来る限りアドバイスした末に、決着が着いた。

 

『世話になったな・・・』

 

『全くだ・・・何度も何度も付き合わせて、そのおかげでまたアイツが勘違いしかけたんだからな?』

 

『俺は男だぞ?どうしてそうなるんだ?少し思うんだが・・・お前の嫁は少し被害妄想が激しくないか?』

 

『言うな。妻の事は好きだが、そこだけが玉にキズなんだ』

 

『リア充なんてと囃し立てた張本人としては今更だが、リア充はリア充でも苦労しているんだな。同情するよ』

 

『同情するなら、今度は俺に付き合え、その時は酒代は俺が出してやるから、今度こそヘタレるなよ』

 

『ヘタレって言うな!』

 

 ついに告白すると意気込む友に発破をかけて送り出して、次にあったとき、彼はこの世の幸せを集めた様子で報告してきて、ついでに惚気話に発展したときは、自分が妻の事を話すときも、こんなだったのかと、その度にギルメンに嫌な顔をされる理由を知り、心底申し訳なく思ったものだ。

 

 だがそれからしばらく、彼とは全く会わずに、連絡も取れなくなった。世界はレジスタンスによる作戦が成功し、これで世界が変わるとなった。

 

 自分は国の、いや、企業の犬であったが、最後に企業の闇を暴いた者として、職務停止を受けていたが、そして、ついにレジスタンスの声明が発表されたその時、壇上に立つ彼の姿に、自分には出来ない事を成し遂げた彼を誇りに思うと同時に、悔しさもあった。

 

 この腐敗した世界を変えるためには、その中枢へ行かなければいけないと思った。だから、必死に努力して、才能もあったのだろう。大学を卒業してエリートとして、警察組織に所属した。

 

 だが、現実は厳しかった。警部に登り詰めるも、それまでだった。

さらに上に行くためには、企業のコネがなければならず、それを払うには、多くの犠牲が必要で。中でも妻帯者は、愛する妻を捧げたりしたらしいが、気に入られなければ、それが実るとは限らない。

 

 当然、自分は出来なかった。

 

 万年警部。

 

 それが警察組織の自分の立ち位置になっていた。信頼する部下には恵まれたが、世界を変えられる地位は遥か遠く。

 

 ソコへ行けるのは、生まれたときから企業の庇護を受けた奴等。勿論、彼らが企業の不利になる事をするはずがなく。世界の闇は深くなるだけだった。

 

 到底変える事なんて夢の夢。指を咥えていることしか出来ない。

 

 ある人物と出会うまでは。

 

 そんな人物に会ったのは、ある企業の建物を防衛するために、警察を頼りにしてきた時だった。珍しいことであった。企業は普通お金にものをいわせて、私兵を雇い、企業を外敵から護ってきた。今までの小競り合いは警察を、それら以外はその私兵たちが対応していたのだが。

 

 あまり、良い噂の聞く企業ではなかったが、上からの命令だ。緊急だと部下を引き連れて向かった先で出会ったのは、企業の私兵を、ものの数分で制圧する人影。

 

 企業のお金を盗んだと伝えられたので、自分も私兵たちに混じり、応戦したが、自分を残して、企業の私兵も、腕には自信のある部下も全滅。

 

 自分の姿も酷いもので、防戦一方で何度も打ちのめされた。しかし、必死に食らい付く。部下の仇と燃えていたが、綺麗な一撃を顎にくらった。意識がなくなる中で、咄嗟に伸ばした手が捕らえた腕は思いの外、細くか弱く、防護服に身を包んだ企業の私兵を含めて我々をノックアウトした力があるとは思えない。

 

 『いつまで掴んでいる?』

 

 声は変声機を使っているのだろう。間近で見たことや、触れた体つきから女性であることがわかったが、すぐに自分は気を失っていた。さらに意識を振り絞りなんとか顔だけでもと、バイザーとガスマスクに隠れる顔に手を伸ばすが、突き飛ばされて届くことはなかった。

 

 そんな彼女は誰1人、殺してはいなかった事に気づいたのは、病院で目覚め、見舞いに来ていたその時の部下たちの顔を見たときだった。

 

 それからは、話が聞きたいと個人的に追いかける事になるのだが、何度かの遭遇で、彼女の真意を知る機会もあったが、彼女に迫った実績を買われて、部下共々、企業の応援に向かうことにもなる。

 

 企業は自分達を挺の良い壁役か何かとしか思っていないのか、危うく部下を失いそうにもなったり、結局は手柄を焦った企業の一部幹部の暴走により足を引っ張られ、捕まえることは出来なかった。

 

 そして、いつの間にか、レジスタンスを従えて、一斉一代の大革命が成されたのだ。

 

 今度、酒飲む機会があれば、自分の負け認めた上で祝福しなければとおもった瞬間。映像が途切れた。その途切れた時に一瞬だけ、彼の悲痛な叫びが聞こえた気がして・・・。

 

 ・・・・・。

 

 後日、相変わらず、彼との連絡は取れない。しかし、レジスタンスの革命は着々と進んでおり、道を行き交う人も、どこか嬉しそうな雰囲気ではあった。

 

 そして、アーコロジーの中、見覚えのある背中を見つけ声を掛けたが聞こえなかったのか、先回りするよう駆け寄る。進路方向に現れた自分を見ようと上げた彼の顔は・・・・。

 

 「なんだ。お前か・・・なにか用か?今は忙しくてな。あまり関わっている時間はないのだが」

 

 「ーーー随分と素っ気ないな。それに今はぶらぶらしてるようにしか見えないぞ、聞きたいこともあるしな」

 

 あの砂嵐で終わった演説やその後の悲鳴の正体や、彼女についても。

 

 「・・・・・本来ならこうしてぶらつくのも駄目なんだがな。アイツらが、少し休めと五月蝿かったから、仕方なくだ」

 

 そう答える彼の顔色は優れない。心配する者の気持ちがよくわかるからか、彼の部下たちを擁護(ようご)するような事を言っていた。

 

 「死ぬほど働く事を口うるさく言ってた奴が、働き過ぎとかどんな冗談だ?」

 

 「うるせぇな。前任者がどれだけ贅沢できるかだけに、注力してて、それ以外は力押しで、ほんっっっっとうに適当にやってたから、整理したり、法を失くしたり、作らなければいけなかったりと大忙しなんだ。そういうお前は?・・・ん?その格好は・・・」

 

 自分の今の格好を見た彼が、疑問に思うのも無理はないだろう。警部を示していた胸元のバッジがあった場所には、ここのアーコロジーの警備を任されている物に変わり、よく見えるように所属と本名が書かれた名札になっているのだ。

 

 「どこかの誰かさんたちに、触発されて動いた結果さ。ああ、別に恨んじゃいない。あの時に、俺は自分が変えようとしている組織は腐敗していたことに、改めて痛感させられた。」

 

 今でも思い出す。レジスタンスの行動に危機感を抱いた企業が警察組織に働きかけて、何をしようとしていたのか。これを聞いた時、何度も上に掛け合い中止する事を訴えても、上は取り払わず、遂に民間人を人質(ゲスの所業)を実行しようとした。

 

 『ふざけるなぁぁぁ!!』

 

 だから、上の命令を実行しようとする上司を、多くの部下たちが苦情の表情を浮かべる中で自分は動いた。

 

 おもむろに上司の前に出て、横っ面に拳を振るう。

 

 その一撃は上司をきりもみ回転させて、昏倒させた。

 

 覚悟は決めていた。

 

 上司を殴ったのだ。確かにたっちはその実力を買われていて、警部まで昇進していたが、数には敵わない。周りの部下たちに取り押さえられるのも、時間の問題かと思われた。

 

 だが、誰1人たっちを止めるものはいなかった。それどころか、彼に協力して、捕まえろと喚く上司の取り巻きたちを拘束してしまう。

 

 そして、所属していた警察や裏を牛耳る企業を見限って、ツテのあるテレビ局も巻き込み、企業が隠す情報を追い討ちで公表する騒動にまで発展した。

 

 

 

 「・・・すまん」

 

 事情を察した彼が、済まなさそうに頭を下げる。今の自分がする格好は警察官、それも警部としての格好ではなく、ここのアーコロジーを管理する警備員のものである事に疑問を持ったようだが、それに曖昧に答えると、すぐに皮肉を述べる彼が、素直に頭を下げたのには、少し驚きが勝っていた。

 

 「だから気にするな、それに今はここの警備部長を任されている。前々からスカウトは受けていたんだが、今回のことで、なしになるかとも思ったんだがな。お相手はなおのこと乗り気で助かった。同じく職を失った部下たちまで引き受けてくれてね。給料も困らないくらいに貰っているし、なんなら、昔よりも家族と過ごせる時間も増えた、いいことの方が多い」

 

 「まさか・・・その仕事を任せてくたのは・・・」

 

 「ああ、このアーコロジーを所有する。緒方財閥のーー」

 

 「そう・・・なのか。悪い俺はもう帰る」

 

 「お、おい。明」

 

 最後まで聞かずに話を切る彼は、引き留めようとする自分の声も無視して、早足で去る彼の背中を見送るしかなかった。

 

 声を掛けた時、彼は自分に気付くと、すぐにいつもの表情になったが、それは、取り繕ったもので・・・一瞬だけ見せたのは絶望に満ちた酷いものであった。

 

 あの時に無理にでも引き留めて、話しを聴いていれば、何か違ったのだろうかと、たっちは友人の蛮行を見て思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 左からくる大剣の悪魔が振り下ろすのを、捌くとカウンターで、何度もやられてボロボロになっている顔面を打ち砕くと、ついに体力が尽きたのか、その悪魔は動かなくなった。

 

 そして睨み付けた所には、元々大斧を持っていたが、刃先は折られ、満身創痍の悪魔が、使い物にならなくなった斧を放り捨てて、突貫してくる姿があった。そんな悪足掻きなどセバスに通用するはずもなく、次の瞬間には、彼が振り下ろした拳をもって地面に赤い染みを広げて動かなくなる。

 

 「悪魔の諸相:鋭利な断爪!」

 

 そんな悪魔の影から、躍り出たのはデミウルゴス。両手にはスキルによって鋭利に伸びた爪を武器に、倒れた悪魔を囮に飛びかかったのだ。

 

 「むんっ!」

 

 「なんと!?ぐはぁ!」

 

 しかし、元々の能力の差か、近接に関してはセバスに軍配が上がる。どんな鋼鉄も切り裂き、溶断する爪は、爪の効果が及ばない横からの打撃によって逸らされ、逆に懐に潜られてしまえば、反撃も出来ない。

 

 無防備なお腹を、強烈な正拳づきが捉え、デミウルゴスを後方に吹き飛ばす。

 

 なんとか受け身をとって立ち上がろうとするが、ダメージは重く、膝をついてしまう。召喚した悪魔ほどではないが、彼も傷付き、体を覆っていたマントはすでになく。普段着ていたスーツとの色違いは、所々土に汚れるか、破れている。彼の前に立つのは、所々汚れがあるものの健在の鋼の執事だった。

 

 「こ、これは予想以上だよ・・・。セバス。君強くなってないかい?」

 

 「・・・・・」

 

 その声には純粋な驚きが含まれていた。確かにセバスは自分が強くなっていることに驚いていた。最初の予想では1対1では相性の良さから、勝つことは難しくても負ける事はないと思ったが、相手は召喚した悪魔2体。その2体とも彼の支援魔法や此方を弱らす魔法もあり、よくて引き分けだと思っていたのだが、立っていたのは自分。この結果はなんなのか?

 

 彼の言うように、ナザリックを出た自分が強くなった?

 

 思わぬたっちとの再開。

 

 信頼できる女性との出会い。

 

 心の(わだかま)りが、なくなって体が軽くなった。

 

 だが本当にそれだけか?

 

 目の前の気に入らない所はあれど、ナザリックという組織で生まれた絆から、無下には出来ない同士を見つめる。

 

 「確かに私は強くなったのでしょう。しかしそれだけではない」

 

 「なに?」

 

 「デミウルゴス様。貴方には迷いがある」

 

 その言葉にデミウルゴスの顔がすさまじく歪んだのは一瞬だけだが、セバスは見逃さなかった。

 

 「その2体の悪魔。確かに強いですが、自分を止めるには少々力不足。貴方の配下には憤怒や嫉妬、強欲の3体がいました。その3体を連れてこられていては、私が負けていた」

 

 「彼らには別の役割を与えていた。今頃はナザリックからの干渉がないように足止めをしてもらっているからだよ」

 

 「っ・・・だが貴方は一度も変身していない」

 

 「・・・・・」

 

 彼の普段通りの言葉で告げられたナザリックの足止め。そう聞いて動揺しかけるが、拳を強く握ることで抑えて、そう思った理由を告げれば、彼は黙ってしまった。

 

 彼には本気を出せば変身を行い、今の姿とは違う悪魔の姿がある。当然そうなれば自分も本気の姿で応戦することになるだろうが、向こうは手札が増えるので、ならない手はないのだ。

 

 誰が隠そう彼の創造主であるウルベルトが、ナザリックにご帰還していたときに、他の御方交えて自慢していた。

 

 アイツと俺が本気を出せばどんな奴だって倒せるぞと。ついぞそんな機会がくることはなかったようだが。

 

 だから彼がそれを知らないはずがないのだ。

 

 「っ!?」

 

 「これは・・・」

 

 その時、例の場所からとてつもない波動を感じた。

 

 「ふふ、どうやら私の役目は終わったようです」

 

 「ま、まさか・・・」

 

 「ええっ!さすがはウルベルト様だ!我が創造主よ!」

 

 彼の言葉に最悪の結果を想像する。きっと彼は悪魔たちとの視界を共有していたのだろう。嬉しそうに声をあげると、戦いが起こっていた場所を振り向き、天に向けて両手を上げる姿は喝采。

 

 

 

 

 

 「この底を知らない凄まじい魔力!これならばあの忌々しい女も終わりです!」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 常人では見ることも出来ない戦いが起こっていた。もしも、周囲を岩が囲んでいなければ、スキルにより、衝撃をないものにしなければ何度王国いや、この大陸のすべての生命が滅ぶ程の破壊がのもたらされていただろう。

 

 そこでは1人の大悪魔が、己が分身を無尽蔵に生み出しただけではなく、悪魔を大漁に従える光景は、最終戦争そのもので、対峙するのはたった2人の戦士。

 

 蹂躙は必然だった。

 

 しかし、戦士たちは悪魔に一歩も譲らなかった。

 

 多くの魔法が迫る中、僅かな隙間に体を通して、最小限のダメージに抑えながら、悪魔たち一刀の元に両断する。

 

 時には目にも止まらぬ連撃で

 

 広範囲を凪ぎ払う斬撃で

 

 大悪魔の分身や悪魔の群れを一掃していく。

 

 が、それも焼け石に水。

 

 本体はすぐに再召喚された悪魔や分身の中に隠れてしまい効果が出なかった。

 

 そうなると有利なのは悪魔側かと思われたが、彼らも自分の魔法で巻き込んでしまったりで、数による優勢は思ったほど効率はよくなかった。

 

 「もう終わりか?ならば俺の勝ちだな」

 

 しかし。大元の大悪魔は馬鹿ではない。巻き込む事を踏まえての戦法に、切り替えると戦士側が圧され始める。

 

 

 そして最後に立っていたのは

 

 

 

 

 大悪魔であって、

 

 

 

 

 地に倒れ付したのは聖騎士と戦乙女だった。

 

 

 

 

 結果はわかっていた。相手がパターン通りに動くCPならば勝算はあったが、相手はプレイヤー。それも使い勝手の良い使い捨ての駒を多く持っている差し手だ。

 

 特攻してくる相手に手間取っている所に、打ち込まれた魔法は、かのユグドラシルの狭き門を通り、さらに絞られて立つことができる世界の頂点に輝いた2人のチャンプを地に叩き落とした。

 

 「くっ!ウルベルト!」

 

 「はぁはぁ!・・・っ!」

 

 ついに追い詰められた。

 

 たっちも私も体力はあっても気力の方が限界だった。

 

 「まさか分身体をここまで消耗するとは思わなかったぞ。だがそれもここまでか」

 

 数体の分身体が、壁を背にする私たちの前に、立ちはだかる。

 

 かなり数を倒したというのに、未だに彼の魔力が弱まってるようには見えない。

 

 絶望的なまでの現実がそこにはあった。

 

 「零。ここまで苦労させたんだ。相当なお仕置きが必要だな」

 

 「な、なにを・・・っ!?」

 

 彼の言葉とその目を見て全身に悪寒が走る。本能からくる拒絶に身を震わす。

 

 信じたくなかった。彼からそんな目と感情で見られたことに、嘗め回すような視線から、トラウマになりかけた出来事を思い出してしまう。

 

 彼なら大丈夫と、仕事が忙しい両親から預かった幼い私を捕らえて、父の会社に無茶な要求を求めるだけでなく、屈強な男たちに囲まれ、体を拘束された未熟な私を下卑た笑みを浮かべて見ていた男。

 

 両親から、自分達にはたくさんの味方もいるが、敵も同じ位いると聞いて育っていたので、警戒はしていたのだが、昔から家族ぐるみで付き合いが多く、慕っていた人物だから油断していた。

 

 何がどうしてそうなってしまったのか。

 

 企業に(そその)かされたのか。

 

 元々そうだったとは思いたくなかった。

 

 ここで私は企業の恐ろしさを、始めて体感した。

 

 奴等は人の欲望を増長させて。操るという事を知った。

 

 優しかった面影はなく。ただただ自分の欲望に忠実になってしまった筆頭株主(父の右腕的存在)・・・。そして、優しく頭を撫でてくれていた手を伸ばして、こう言うのだ。

 

 私のモノになれ

 

 もしも、あの時、良心の呵責に耐えられなかったその人の妻と姉妹のように育ったあの子が父に連絡して、場所がすぐに割れて父の私設部隊が、突入してくるのが遅ければ、自分はどんな目に合っていたのか。

 

 「そうだな。お前が俺の物だと証明するのもいいな」

 

 「ぐわっ!?」

 

 「たっち!?」

 

 アレと同じこと言った瞬間。たっちが両脇に現れた分身体に、腕を捕まれ、そのまま拘束されてしまう。

 

 1人になった私に、何を考えているのか、正面から分身体を掻き分けてきた見るのも嫌になってきた山羊顔が近づいてくる・・・。

 

 「零。1対1だ。これでけりをつけよう」

 

 「・・・本気?」

 

 どうやら本体のようで、そんな彼からの提案は、悪いものではなかった。分身を指し向かれて、じり貧の今では、刺し違うのも難しい。

 

 「もし、俺に勝てば、今回は退こう」

 

 「退くだけなの?」

 

 「ああ、それでは不満か。ならば金輪際俺はもうなにもしない。だがその代わり俺が勝てばーー

 

 君の全てをもらう、心も体もだ!」

 

 「・・・わかった」

 

 「駄目だ!レイナ!彼の言葉に惑わされるな!」

 

 彼の言葉の意味に、そういうことなのだろう。たっちが受けることを否定するように叫ぶが、私は受けることにした。

 

 攻防が始まった。

 

 これが最後にチャンス。近づく彼に私は最後の気力を振り絞って踏み込む。

 

 振り下ろされる大鎌の刃先を掻い潜る。今までと同じようには避けれない早さで迫るそれだが、集中した今なら充分対応できる。

 

 実行して懐に入ったところで剣を振るが、彼の持つ大鎌と()()()()()()()。可笑しい・・・確かに大鎌は振り抜かれたはずなのに、防がれた。ガゼフに見せて貰った中にそんな武技があったことを思い出して、まさかと思うも、彼にその様子は見えなかった。

 

 "時止め"という可能性も考えたが、その対策はされているので除外する。とにかく、いつの間にか大鎌が構えた状態に戻っていたのだ。

 

 いい言えない不気味さに剣先が鈍らないように集中する。

 

 打ち合う度に火花が散り、そのまま鍔迫り合いに持ち込む。彼は一瞬だけ離した手で魔法を放ってくるが、サイドステップで避けるか、盾で弾いて無効化する。何度も行われる内に、先程の不安が嘘のように、次第に形勢は私に傾いてきた。

 

 大鎌は独特の軌道と射程を持っているが、近付いた今では、明らかにこちらの方が有利。彼もそれはわかっているはずなのに、示し合わすように、距離を取ろうとしない。

 

 なにかあるのか。

 

 そこへ焦れたように大鎌による大降りの一撃が放たれる。あまりに露骨さに怪しさはあったが、チャンスとして出し惜しみ無しの全力を込めた刺突を彼に向けて放つ。

 

 レベルカンストの身体能力と極限の集中力から放たれたその一撃は、横からの衝撃を受けたとしてもそれをものともせずに彼に突き刺さるだろう。

 

 狙い通り彼の防御も回避も間に合わない。決死の攻撃に彼は反応出来ずーーー。

 

『零。愛している』

 

 光速の視界の中で彼の瞳と目があった瞬間。脳裏に別の記憶が甦り、優しく笑う人間の明が見えてしまった。その想いは今の自分なのか、かの世界の自分のものなのかはわからないが、剣先が鈍ると同時に、どこからか、いや彼の背後に黒い影が沸き立ち気配も大きく魔力として膨れ上がったのが見えた瞬間。

 

 

 

 切っ先は彼の届こうとしてーーー。

 

 

 魔力の壁に刃先を止められていた。

 

 「うぐぅっ!?」

 

 体制を立て直そうにも、剣先は掴まれたままビクともしないそれに驚く間に、完全に自由になった彼の伸ばされた手で首を万力のごとき力で、絞められ息が詰まる。

 

 その際に武器も取り上げられて、虚しく地面に落ちてしまう。首を絞められたまま宙吊りにされてしまい、無防備を晒してしまった腹部に、尋常ではない魔力が集約された手が押し付けられる。

 

 何が起きるか理解する前に爆発。

 

 何度も何度も何度も。

 

 僅かに肺に残っていた空気が一気に吐き出されてしまい、意識を手放さないようにしようとしても、爆発がそれを阻む。

 

 「うぅっ!あぁっ!」

 

 何度も何度も何度も何度も。

 

 首を絞めてる手を外そうとしていた手がダランと下がる。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 倦怠感に体が蝕まれていく。

 

 「あ・・・あ・・・っ!」

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 体が動かなくなると次に意識が遠くなっていく。もう決着はついたも同然なのに、それでも彼の手から魔法が止まることはなかった。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 「あ・・・きらぁ

 

 そうして最後に一際大きな爆発よって意識が刈り取られそうになった時、もう目の前にいる本人にも聞こえない声で名前を呼ぶなかで、視界も霞んでいたが確かに見た。

 

 彼の体から立ち上る黒い影のようなものが。

 

 

 

 

 

 嗤ったのを

 

 

 

 

 

 「意識を失ったか・・・」

 

 気を失った零を腕を高く上げるように魔法で宙吊りにして、その姿に目を奪われる。着ていた服は、魔法攻撃に耐えられずにボロボロで、破れた隙間から健康的な素肌が覗き、綺麗なラインがモロに晒され腹部は特に大きく破け、傷ついていた。

 

 "・・・・・せ"

 

 ノイズが頭を走る。首を振って否定する。

 

 "こ・・・せ"

 

 さっきよりも強いノイズ。

 

 五月蝿い。

 

 それから逃げるように別の感情が強くなる。

 

 無防備な愛しい女の扇情的な姿に、情欲が支配していく。

 

 彼女でなければ上半身と下半身が引きちぎれて内蔵をぶちまけていただろうが、腹部は赤くなっていても綺麗な形を保っている。破けた服の下から形の良い膨らみがもう少しで見えそうであり、弱々しく呼吸する姿は、背徳的な魅力を感じずにはいられない。

 

 気づけば彼女の残った上着に手をかけている大悪魔(自分)がいた。

 

 「やめろ!ウルベルト!?そんなことをすれば後悔するぞ!」

 

 身動きできないたっちが声を荒げるが、今のウルベルトは目の前の女に夢中で気付かない。この女の衣服を全て剥ぎ取り、それから無理矢理犯し、汚すことした考えられなかった。余計な観客もいるが、それがまた良い刺激(スパイス)になるとしか考えられなかった。

 

 「ーーぅ」

 

 「ああ綺麗だよ。零。この勝負は俺の勝ちだ。約束通り。君を貰おう!」

 

 "殺せ!"

 

 すでに目の前の女の体にしか興味がないウルベルトはハッキリと聞こえたはずのノイズをも無視して、獣のように歪む表情を抑えようともしなかった。上着ごと胸を鷲掴みにすると、気を失っていても女性として、敏感な部分に反応した彼女から色っぽい声が洩れて、もう我慢の限界に達してしまった。

 

 服を引きちぎり存分に生まれたままの彼女を使って楽しもうと、力を込めたその時、自分の背後で重い何かが降り立つ音がした。

 

 「ウルベルトさん!あんた!なにしてんですか!?」

 

 折角の楽しい時間が始まろうとしたところで入った邪魔な存在に大きく舌打ちをしてから降り向くと、どこかで見た赤いマントをたなびかせた漆黒の鎧が、2本の内1本のグレートソードをこちらに向けて、そこに立っていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。