オーバーロードとヴァルキリー   作:aoi人

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 お待たせしました。

 コロナの影響で外出が制限されていましたが、徐々に解除されていってますね。

 その影響という訳ではないですが、再び書き直して時間がかかってしまい、ごめんなさい。




56.戦乙女とゲヘナ5

 

 

 

 モモンガがやっと辿り着いたのは惨憺(さんさん)たる現場だった。

 

 彼の魔法によるものだろう。これをやったのが彼なのかと見渡した辺り一面は瓦礫で埋まり、その間から血が滲み臭いも漂ってくる。

 

 その中心には不自然に突出した岩に囲まれた場所が見えた。

 

 ここも悪魔が群を成して待ち構えているかと思ったがそれもない。

 

 いやに静かな様子に最悪の展開を考えて、まさか遅かったのかと、足元が崩れそうになるのを、そうと決まったわけではないと言い聞かせて耐えると、一気に跳躍する。

 

 軽々と壁を越えて降りる内に、あってほしくなかった現実が飛び込んでくる。着地までに間が嫌に遅く感じる中、今まさに凶行を行う友に剣を向けた。剣先が震えて今さら怖いと思う自分がいる。

 

 人一倍慎重に生きてきた臆病な鈴木 悟の思考が、ナザリックに帰りたいとそして自分の部屋に閉じ籠り、これは悪い夢なのだと現実逃避したいと思ってしまった。

 

 体は超越者(オーバーロード)となったに関わらず、心は鈴木 悟のままだ。ナザリック配下たちにもしも自分が元は人間だと伝えた後が怖くて必死に支配者らしく振る舞おうとして、それがより高い期待を負うようになってしまうとは考えずに・・・。

 

 もっと軽く接してほしいと思うも、彼らを心底から信じれないゆえに自分を出すことができない。誤解はどんどん加速していき、本当に求めているものは遥か遠くにいってしまう。

 

 逃げたい。逃げてしまいたい。現実から仮想に逃げたように。

 

 そんな考えをモモンガは頭振って否定する。今から逃げて何が変わるのか。いや、逆にそれこそ最悪以上の何を生むのか。

 

 思えば、現実(リアル)仮想(ユグドラシル)でも自分は逃げてばかりだった気がする。低レベルなだけでなく数による暴力に辞めようかと思うほどに追い詰められた時。直後に恩人の聖騎士に助けられた後、仲間を得るも自分の意見を言うのはいつも最後で、それはクラウン時代も拠点のギルドを得た後も同じだった。

 

 それは皆が次々に辞めていった後も。

 

 ユグドラシルが本当の意味で無くなるとわかった後もだ。

 

 自分は自分のために我が儘を行動に移して来たのか?

 

 最後くらいもっと我が儘に行動していれば、何か変わっていたのではないか?

 

 1人寂しくユグドラシルの最後を迎えるのかと半場諦めて、それは会社の上のミスで残業が決まったときに完全に諦めていた。メールを送った張本人がなかなかログインしないのだ。

 

『どうして・・・こんな日に限って・・・』

 

 誰か来ていてもすぐに帰ってしまうだろうと帰宅してログインしてみれば。

 

『う、嘘やろ?』

 

 思わずエセ関西語が洩れるくらいに動揺していた。メッセージを報せるアイコンが見えたので、慌ててチェックしてみれば全員とはいかないが、ギルメンたちの名前がズラリと並び、内容は集まれない事への謝罪と労いの言葉が添えられていた。

 

 さらに自分の勤めている会社以上にブラックな環境で、その忙しさのあまりログインできてなかった皮肉を込められた名前のヘロヘロが、右往左往しながら円卓の間行き来している姿。

 

 気のせいでなければ、いつも眠そうにしていたのが嘘のように、モモンガに気付いた時の声には元気があった。

 

 どうやら彼1人のようだが、それでも久しぶりの再会に喜んでいると。彼の口からさらに信じれない言葉が飛び出してくる。

 

『いやぁ。来てくれて嬉しいですよヘロヘロさ』

 

『おひさでーーあっ!それどころじゃないんですよ!?ギルド長!?大変ですよ!』

 

 来てくれた彼に感謝の言葉を述べようとして、なんかワチャワチャして急接近してくるヘロヘロに遮られる。

 

『ど、どうしたんですか?ヘロヘロさんそんなに慌てて『し、侵入者が!ナザリックに侵入者が来てるんですよぉぉぉぉ!』えっ?』

 

 理解するのに数秒要し、はは~んさては最後ということでドッキリでも仕掛けてきたのかと疑う。

 

『またまたぁいきなりなんですかヘロヘロさんそんなサプライズか何かですかーーーえっほんとうに?』

 

 コクコクコクコク

 

『 えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?  』

 

 彼から告げられた言葉に、脳が理解しようとして出来ず動揺から息継ぎするのも忘れ再度確認すれば彼も動転しているのだろう。言葉はなく高速で何度も頷くヘロヘロ鬼気迫る雰囲気に冗談ではないことがわかり、表情が動かないオーバーロードのアバター越しの大絶叫が円卓の間に響いた。

 

 『ど、どどどどうしよう!?お、おちゅつつけ、取り敢えず装備のかく認からああっ!?』

 

 『モモモモモモモンガさん!?』

 

 あればいいなと思っていたのにも関わらず、いざ来たとなるとテンパるモモンガはコンソールをいじりながら早足に歩くものだから円卓の隣の椅子に(つまず)き、0のダメージエフェクトに驚く姿は、なんとも悪の総本山と恐れられるギルドの長とは思えない。ながら駄目絶対!

 

 彼が来るまで1人円卓の間で、ソワソワしていたヘロヘロもつられてワタワタしてしまう始末。暫くログインしてなかったブランクに操作が覚束ずアワアワしている光景は、すぐ側でテンパる骸骨も含めてシュールなものであった。

 

 ・・・・・

 

 『よ、よし。とりあえずは私は問題ないですね。しかし、すみません。ヘロヘロさん・・・預かっていた神級装備を霊廟に置きっぱなしにしてしまい・・・』

 

 『気にしないでくださいよ。モモンガさん。しかし、皆の像を作っていたのには驚きましたよ。・・・時間がなくて見れないのが残念です。最終日だけじゃなくて1度くらいログインしてみれば良かったなぁ』

 

 『そう言ってもらえるだけでも嬉しいですよ・・・』

 

 なんとか落ち着いて装備を確認し終えたモモンガと自身のアイテムボックスに残っていた全盛期に使用した装備よりも性能は多少落ちたとしても支障はない装備を身に付けたヘロヘロが円卓の間でパーティー申請を行った。

 

 モモンガはパーティーを組むとでてくるメッセージに少しだけ涙が出てきた(アバターなので見えはしないが)。大の大人が泣いてるなど知られたくないモモンガは声でばれないかとヒヤヒヤしていた。

 

 気付いていてもヘロヘロは、どこかの天の邪鬼な堕天使とかではないので掘り起こさないが・・・少しだけ友人であるギルド長を忙しいという理由で、ずっと放置していた事に罪悪感が芽生えていた。

 

 しかも、なんなら資金に換金してくれてもよかった装備を後生大事にするばかりか自分達の像を作り、それに飾って置いてくれているらしい。それ以外の装備さえ他にないかと向かったのだが、自室のアイテムボックスの中さえ、どれ1つとして失くなっていない状態で残されていたのだ。

 

 ナザリックは拠点の中でも、他と比べて維持費などは安めであろうと、ギルド拠点。複数のプレイヤーで支えるのを前提にしたそれを、1人で支えていたのだから、懐かしいアイテムを手にとって思い出に浸れたのには感謝しかない。

 

 だから、最後の最後に単身とはいえ侵入してきてくれたプレイヤーの存在にも感謝した。願わくばマナーの悪いプレイヤーでないことを祈りつつ、作戦や雑談も交えて動作に不備がないかなど確認していく。

 

 そして出会ったのは、白と青のアーマードレスを着た美しい銀髪の女性プレイヤーであり、2人とも噂で聞いたことのあるとんでもない大物中の大物であった。

 

 ワールドチャンピオンに輝いた女性の2人の内の1人。

 

 自分達が集う理由となった悪質なPKに同じ人間種でありながら、真っ向から戦い勝ち続けた女傑。

 

 ユグドラシル時代に、風の噂で聴いたがログインは不定期で長い事いないこともあれば短い間だけ復帰が続く中、1度だけ彼女がログインしている時期に開催されたワールドチャンピオンを決める試合を観たことがある。

 

 確か あの時は1度ワールドチャンピオンになった者は出場権がないため参加出来なかった たっち に薦められて観たのだったか。当時はウルベルトや他のギルメンも含めて観戦していた覚えがある。

 

 ウルベルトは彼女の事が たっち と同じくらい気に入らないのか乗り気ではなさそうではあった。しかし、もしも敵対すればと考えて渋々了承していたが、始まると食い入るように観ていたのを覚えている。

 

 ギルメンとあーだこーだと対策などを考えていたが、対戦相手がその作戦を決行して、返り討ちに合うのを何度も見る内に、皆唸るばかりで、最後には降参するように両手を上げるものもいた。

 

 ギルドの軍師である ぷにっと萌え も、いくつも案を出すが、最後に押しきられそうと自信が無さそうだった。

 

 そして決勝戦。彼女は見事に初出場で世界の頂点に立った。

 

 もしも、彼女が たっち が出たときに出場していたら。

 

 もしも、ナザリックに襲撃してくる事があれば。 

 

 純粋に戦いたいと思う者。

 

 どう奇襲しようかと模索する者。

 

 女性陣は前から知っていたのか。さすがだよねぇ~とのんびりした感想を洩らすぶくぶく茶釜に、他の2人も相づちを打っていた。

 

 見終わると各々が考える中。

 

 まさかな・・・と。

 

 ウルベルトは1人声を洩らしたのは、誰も気付かなかった。

 

 その時から、一躍有名になった彼女の呼び名はユグドラシルに広まった。

 

 称号であり、唯一その職を得ていた彼女のだけを指す名称。

 

 戦乙女(ヴァルキリー)

 

 そしてユグドラシル最後にしてナザリックの最後の挑戦者。

 

 思えばこの時から彼女に惹かれていたのかもしれない。

 

 昔の思い出を思い出したことで、再び泣きそうになるツーンとした感覚が鼻にくるのを我慢して、涙声になってないか注意しながら、こちらに気付き足を止めた彼女に話しかけた。

 

 目が合った瞬間。

 

 モモンガーー鈴木 悟の鼓動が跳ねた気がした。

 

 その想いは全サーバーの停止が進むなかで、次第に強くなっていき、勝つため しのぎをけずる の楽しさに酔ったのか想いの丈をぶつけた。楽しかったという言葉に重ねるように返ってきたのは同じ言葉だった。

 

 彼女が合わせてくれただけかもしれない。

 

 自分にとってユグドラシルは全てだった。もしもこの事を誰かに話せば、たかがゲームでと笑われるかもしれない。

 

 なのに彼女は楽しいと言ってくれた。

 

 

 

 そうだ。

 

 

 

 今1番恐れることは彼女がいなくなってしまう事だ。

 

 

 

 ここに来るまでに多くに助けられ、願いを託された。

 

 

 

 気づけば腕の震えは止まり、目の前の友人を強く見据え、ここに来るまでの多くの助けあった事を思い出す。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 「さっきは助かった。あ、ありがとう。本当はもっとお礼を言いたいのだが、そんな暇もないっ!避難もまだ余談を許さないからなっ!」

 

 空で窮地に陥っていたマジックキャスターの少女を助けると、言葉は少なくお礼を言われる。だからと言って不快になることはなかった。現在進行形で悪魔の対処に追われているからだ。

 

 イビルアイと名乗った少女は、実力的には60レベル。だがレベル以上に魔法の使い方がうまい。今も周囲に展開する悪魔を誘導して、一纏まりになったところを水晶の礫をマシンガンのように撃ち込んで一掃した。

 

 これが自由度が上がった魔法の使い方かと参考になる。

 

 そこを自分がさらに攻め込むことで、悪魔の撃退速度が目に見えて早くなる。おかげで道が出来上がり、彼女はここは任せて行ってくれと言う。

 

 「彼女を頼みます!」

 

 「ああっ!わかった!」

 

 彼女と聞いて浮かぶのは1人しかいない。去ろうとする自分に焦ったのか悪魔が、急いで回り込もうとするが、イビルアイがその進路に水晶の壁を発生させたことで、急には止まれない悪魔は衝突するか、足止めをくらう。

 

 その隙に跳躍して突破。目的地がまた近付いた。

 

 

 

 

 漆黒の恩人の背中を見送ったイビルアイは、邪魔をされたことで怒りを向けてくる悪魔たちを見据える。

 

 両手に魔法で創造した水晶の槍を構えて、不用意に近付いてきた奴等から貫いてやる。マジックキャスターとして、魔法しかないかと思われがちだが、イビルアイは見た目以上に長生きで、多くの戦いを経験した猛者でもある。

 

 ある事情から吸血鬼の肉体的を得た彼女の身体能力は、学んだ技術も合わさり、下手な戦士ならば相手にならないくらいには強い。3つ子の悪魔には不覚をとったが、今対峙する悪魔の中にはイビルアイに勝てる存在はいなかった。

 

 近付けば、自分の自慢の爪よりも長い槍で貫かれ、離れれば魔法の水晶弾の標的になる。おまけに無視しようにも、直後に水晶の壁が現れて、進めない。

 

 「やれやれ、どうしたんだ?悪魔もそんな顔をするんだな?私の相手もしてくれないと寂しいじゃないか?」

 

 さらに彼女の周囲に礫ではない、水晶の短剣が現れて、その矛先を向けてくれば、隙はない。

 

 忌々しげに吼える悪魔に、イビルアイは得意気に笑う。

 

 「もうあんな遠くに・・・」

 

 悪魔の攻撃をヒラリと避わし、刺突で貫き、周囲の悪魔は水晶の短剣で牽制しながら立ち回る。チラリと見た漆黒の姿はすでに遠くに行ってしまった。

 

 言い慣れないためにどもってしまったが、お礼を素直に口に出したのはいつぶりだろうか?

 

 長い年月生きてきたイビルアイにとって人との関わりは決して、いいものばかりではなかった。何度も辛辣を舐めたものだが、中には大切な思い出もちゃんとそこにはあった。

 

 英雄となったリーダーたちや今ではある人物からの提案で、共に冒険者として組むようになった蒼の薔薇たち。彼らとの出会いがあったからこそ、今もイビルアイは種族の違いを理由に人間に害をなしたりはしなかった。

 

 彼に命を助けられたこともあるだろうが、もしかしたら、最近出会ったリーダー似のお節介な女のおかげかもしれない。

 

 「たしかリーダーがチョロインとか呼んでいたな」

 

 懐かしい思い出から、ふとそんな言葉が洩れる。最後まで教えてくれはしなかったし、意味はわからなかったが、そう呼ぶリーダーの様子は馬鹿にする訳ではなく心配している口振りだったので、悪口ではないようだったが、当時はそう呼ばれるのに何故か抵抗を覚えた。

 

 わからないが、今の状況に近い形で言われた気がするので、もしもこの場をリーダーがみれば、そう洩らす気がした。

 

 「良い機会だ。私の本気を見せてやろう!」

 

 白銀の女神と漆黒の英雄。2人お関係を詳しく聞くことは出来なかったが、彼らの反応から悪いものでないのはわかる。彼らの無事を祈りつつ、イビルアイは邪魔な仮面を脱ぎ去った。

 

 ラキュースらがお城でレイナたちの訓練に揉まれる間、イビルアイは遊んでいた訳ではない。彼女たちの訓練風景を見ていたイビルアイは、触発されたのか、彼女も密かに魔法の鍛練を行う事になった。

 

 鍛練などいつぶりだろうか、蒼の薔薇ではチームの連携などを行ったことはあったが、己の鍛練などある時期からぱったりとしなくなった。

 

 限界というものを薄々感じていたのだろう。そうして、久しぶりに精神集中からの魔法の運用などを見直している内に気付いたのだ。

 

 己の内にある力に余りあるものがあることに。

 

 食事という外部からのエネルギーを得ることが出来るようになった彼女は、自分のその力の使い方を模索する事になり、これが叶えば、新たなステージに立てる可能性があった。

 

 そしてそれは実ることになる。

 

 此度の王国の動乱での長時間の魔法の行使は、それの副産物ようなものだ。魔力量をタンクに表すと、今までは1つだったタンクが2つになり、足りなくなったら2つ目のタンクから補充する。自然回復量を考えると、ほぼ永久に戦えるようになった。

 

 しかし、本質は違う。

 

 人外の証である尖った口元を笑みを浮かべ、赤い瞳に炎を灯し、魔力を出し惜しみなしに解放する。

 

 悪魔たちはその圧力の前に後退するほどの魔力が彼女から溢れてくる。溢れる魔力は収束していき、彼女の体に纏う形に落ち着く。だが、その存在感は今までの比ではなく悪魔たちを後退るほどだ。

 

 倍以上の水晶の短剣が踊り、魔力の波動で起こる風にはためく姿はアダマンタイト冒険者にして、最強のマジックキャスターを体現していた。

 

 「さぁここを通りたければ私を倒してからにするんだな!」

 

 爛々と燃える瞳に睨まれ、どんどん集まった悪魔の苦しまぎれの威嚇に、それ以上の挑発を返して水晶の槍を振り回し、不退転の覚悟で構える。

 

 イビルアイはあの時、確かに動いた気がした胸の鼓動を思い出し自嘲する。どこか寂しく思うも今ある想いは悪いものではなかった。かの恩人たちの事を想うとあたたかく、この魔力とは違う別の力が溢れるのを感じる。

 

 数がどんどん増える悪魔たちの殺気を前にしても、負ける気がしない彼女は堂々とした態度で悪魔を迎え撃った。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 「くっ!行動が!?そうまでして近づかせたくないのか!?」

 

 イビルアイの援護によって、目的地に距離を詰めることが出来たモモンであったが、再び悪魔の妨害を受けていた。

 

 王国の避難が思っていた以上に早いのもあるだろう。いなくなった市民への陽動をかけた襲撃をやめて、悪魔たちは誰かに指示されたように、今度はモモン1人に向けて壁になるように攻めてくる。

 

 ユグドラシルでの、かの魔法との差異に驚きながら、なりふり構わない悪魔たちの妨害はモモンの行進を遅くしていた。

 

 こんな時こそ、本職の魔法使いで一掃することも考えたが、焦りがあるなかでも、街中であの姿オーバーロードになるのは戸惑われた。

 

 「もうそんなことに躊躇(ちゅうちょ)している暇はないーーか!」

 

 言い聞かせるように叫ぶと覚悟を決めて、本来の姿に戻ろうとしたその時。

 

 

 

 "武技 六光連斬"

 

 

 

 瞬間、モモンの眼前を塞いでいた悪魔の壁が切り裂かれ、視界が晴れると共に活路が切り開かれた。

 

 「たっち さん?」

 

 驚くモモンガが見た先には空中に躍り出て戦う白磁の鎧を纏う騎士。一瞬その姿が自分の知る聖騎士と被るものの、ヘルムから覗く顔でハッキリとわかるも思わず、幻視した彼の名を呟いていた。

 

 

 

 

 

 「ガゼフ!」

 

 「ブレインか、それにクライムにセイランも無事だったか!」

 

 「今のところはな・・・これからはどうなるかはわからんぜ」

 

 「しかし、ランポッサ王だけでなく王子たちや姫様まで・・・」

 

 「そうですよ!こんな狙ってくださいって言ってるようなものです!」

 

 ガゼフと合流したブレインとロックマイヤーは、まず多くの護衛に護られた王族について問う。中でもクライムは焦りからか、いつもの礼儀を忘れて、怒鳴るように詰め寄っていた。

 

 しかし、ガゼフは気にせず、落ち着けと軽く(なだ)めた。彼も無理ならぬことと理解しているのだ。彼が落ち着くのを待つと、簡潔に経緯を話し始めた。

 

 「なにも無策ということではない。城は今この場にいない貴族たちが、守りを硬め私たち一団が保護した市民の避難場所に使っている。城より遠い場所は各所にある丈夫な建造物を拠点に市民保護と防衛だ。ラナー様がいるのも、いざという時に目が届く位置に置くためだ」

 

 「そ、それは・・・でも危険すぎます!!」

 

 「深呼吸したらどうだクライム君?よく考えてみろ。彼らを守っているのは王国最強のガゼフとその部下たちだ。逆にこれ以上安全な場所があるか?」

 

 納得はできないクライムが尚も突っかかるが、それに不安ならお前が全力で守ってやればいいと彼だけに聞こえる小さい声で、肩を叩きながら言う。

 

 「・・・わかりました」

 

 それに思うことはあったのだろう。彼は頷くと今だクライムに向けてを手を振るのはやめたが、身を乗り出したまま見つめているラナーの乗る馬車の方へ駆け足で向かっていった。

 

 「ふ、若いねぇ。でも悪くはない」

 

 「ああ、その通りだ」

 

 「最近は彼も戦士団の訓練に揉まれたせいか、メキメキと上達しています。このままいけばあるいは・・・」

 

 「将来が楽しみだな」

 

 「全くだ」

 

 少年の背中に男たちは笑いあう。そこに絶望などという感情はなかった。

 

 「しかし、聞いていたがガゼフ。お前の装備も凄いな」

 

 「ああ、恐ろしいほど馴染むのだ」

 

 五宝物の装備よりもなんて言葉が出かけて、飲み込む。

 

 「ブレイン殿と同じことを言っていますね隊長」

 

 「むっ、そういえばブレインの装備も見たことないものに変わっているな・・・」

 

 「おいおい、羨ましいからって睨むのはよせよガゼフ」

 

 「そんなつもりはなかったのだが・・・気を付けよう」

 

 「まぁなんとなく気持ちはわかるがな・・・しかし、お前がなぁ」

 

 睨むように見られたというのに、ガゼフを見るブレインの目は優しい。それに居心地が悪くなったのか合わせていた視線を外す。前まではお互いに宿敵同士として張り詰めた空気が、漂っていたのに、日々共に生活と研磨することで、気軽な友人となった2人は、この危機において頼もしかった。

 

 そんな3人をおいて、クライムはラナーに詰めより、どうして来たのかと問い詰めていた。さっきは理解はしても納得はできない彼は、彼女を説得しようとしていた。

 

 クライムの態度にラナーは表面上は萎らしく対応していたが、自分の仮面が彼に通用しにくくなり、以前よりも慎重に表情を作らなければならず、内心肝が冷える想いをしていた。

 

 今までのようにはいかないもどかしさとやりにくさに、どんな状況でそうなったのかも考え、それが鮮明に想像できることが、自分の武器であった異常な思考力を忌々しく思う日が来ようとは。

 

 ラナーは手で口元を隠しながら唇を噛む。

 

 どう彼に影響を与えたのかを想像できるが故に、今までない嫉妬の炎を泥棒猫(レイナ)に向けていたが、彼の前ではそれもおくびにも出さずに対応していた。

 

 「ラナー様。どうか考え直してくれませんか?」

 

 「ここには王国最強である戦士長や戦士団もいて、安全な所もないでしょう?城の方も一部を塞ぎ最も壁が厚い箇所に兵を集中させています。その分収容できる人数に限界があり、私たちはこちらに志願したのよ」

 

 「しかし!?」

 

 「まぁまぁ、確かあなたクライムっていう子ね?」

 

 「そうですが・・・あなたは・・・」

 

 互いに引かない2人を、落ち着いた声で止める声の主が、ラナーが降りてきた馬車の窓から覗いていた。「よいしょっ」と体を起こした女性が降りて来ようとして、扉の前に立ち全体が現れ、その姿を見た瞬間。クライムは躊躇なく女性に手を差し出して体を支えた。

 

 大きく膨らんだお腹。彼女は身籠っていた。

 

 「あら、ありがとう。ふふ、姫様はいい騎士に恵まれたわね」

 

 「はっ!?す、すみません・・・」

 

 支えるために近付いたために間近で見ることになったが、顔はあまり見た覚えがない。そう考えた所で、彼女の身分を察し、慌てて離れ頭を深く下げた。

 

 今までは平民出という理由で、ラナーやラキュース以外の貴族の女性からいい目で見られたことのないクライムは、触れた事に謝罪するが女性は特に気にした様子もなく首を振る。

 

 「顔をあげなさいな。お礼は言っても謝られる覚えはないわよ?それにあまり彼女を責めるもの良くないわ。確かに身の危険はあるけど、危険なのはどっちもよ。悪魔にこちらの常識が通じるかなんてわかんないでしょ?だったら全滅を避ける為にも分散させる必要があったの。それに今からさらに戦力を分散させる危険もわかるでしょ?これからの危険からはあなたが守ってあげなさいな」

 

 「そう・・・ですね。すみませんでした姫様」

 

 「いいのよクライム。・・・それに正直心配してくれて嬉しかったんだから、だからもし悪魔がきても護ってね」

 

 彼女の言葉に、こんな貴族の人もいるのかと、いかに自分の見聞が狭いか気づき、微笑む目の前の女性に見惚れそうになった。クライムは誤魔化すようにラナーの方へ向き直ると、謝罪を口に出して頭を下げた。

 

 ラナーは、大人の魅力に当てられたクライムの様子に彼と話す彼女が身籠っていることも抜きにして、コノオンナモカと警戒し、ドウシテクレヨウと嫉妬を越えた歪んだ想いを向けかけていたが、この後の騎士に護られる姫という王道の展開に夢を馳せて霧散した。

 

 そんな彼女の内心は流石に予想できないクライムは、和解したことで、「護って」と言って年相応の姫様らしく恥ずかしそうに俯き呟く姿は、たしかにクライムの胸を打った。

 

 「は、はい」

 

 「いい顔ね。頑張りなさいな」

 

 「おい、おまえ。あまり無理をするな」

 

 そこへ現れたのはさっきまで指示を出しながらも前線に出て悪魔を倒していたバルブロ王子であった。彼の持つ剣には悪魔の血が付き濃厚な匂いを放っていた。その血を拭い、鞘に納めると、妻か腹の子供を気遣う言葉を発している姿はクライムとラナーには見慣れたものではなかったために、少しだけ驚く表情を見せる。

 

 そんな2人、特にクライムに一瞥を向けるもバルブロは一瞬は顔をしかめかけてーーわざとらしく咳払いしてみせるとなにも言わずに己の妻と話を続ける。妻の反応もなにか不自然なところもないので、これが彼らのいつも通りなのだろうか?その様子にさらに困惑するも、2人は黙って先行きを見守った。

 

 「ずっと座りぱなしではそれこそ気が滅入るわよあなた。それよりも」

 

 「ああ、わかっている。ザナック!ここから別れて民を誘導するぞ!俺はこっち、お前は逆だ!」

 

 「あ、兄上!しかしですね!」

 

 「なんだ、今頃怖じ気づいたか?いつも知識ばかり集めるから肝心なときに臆するのだ。これを契機に鍛練の方にも力を入れんと、今のままではそこの小僧にも劣るぞ!その肥満体では次期王の座は得られんし、譲るつもりもないぞ!」

 

 昔の彼ならこんな言葉が出てきた上に発破もかけるなど欠片も想像出来なかっただろう。彼を知る者の心境はいかほどか・・・。特に血の繋がった身内である者たちは、より顕著であった。

 

 その2人の内、王になる上で目の敵としていた兄を持つ弟であるザナックは開いた口が塞がらず、様々な噂話を集めて真意を見透すラナーでさえ、顔には出さないが、その頭の中で下の兄と同じことを思っていた。

 

 誰だ?コイツ??

 

 クライムも過去の彼と今の彼とはイメージが合わずに眉間にシワを寄せ首を傾げかけている。それを見た彼の妻は無理もないわねと口元に手を当て優雅に笑っていた。

 

 「ぐぐっ正論を・・・最近会っていないなと思ってたらこの変わりよう・・・ほんと誰なんだアレは?」

 

 以前は絶対に言わないであろう言葉で、偽物なのでは?という考えにも及び、ザナックは思わず口に出していた。答えを返したのは彼の協力者であり、自身も経験のあるレエブン候だけであった。

 

 「その気持ちわかりますよ。ザナック王子。大丈夫です。我々も着いていきますので、と言っても彼ら頼りなんですが・・・お前たち頼むぞ!」

 

 「任せてください!やるぞ!お前たち!」

 

 「おう!」 「おし!」 「ああ!」

 

 「アイテムの補充も出来た。いつでも行けるぜリーダー」

 

 ザナックの隣を陣取るレエブン候が、バルブロの妻に領地に残してきた愛する妻を思い出していた。彼は頷くとロックマイヤーと合流した元オリハルコン冒険者たちに声をかれば、リーダーによる頼りになる返事と各々の装備を振り上げて答える彼らの声によってもたらされる。

 

 「何を話しているかわからんが、そっちの馬鹿弟は任せたぞレエブン候!よしっ!お前たち行くぞ!悪魔たちに臆するな!1人では決して対応するなよ!盾持ちは前に出て防ぎ、後方から槍で突き怯んだところで止めをさせ!それ以外の者は常に2~3で組み、連携して対処に当たるのだ!」

 

 「ええいっ!こうなればやってやる!レエブン候我々も行くぞ!兄上ばかりにいい格好させてたまるかっ!」

 

 号令と共に進むはバルブロ。その姿は若き日のランポッサ王の背中に似ていた。彼に負けじと、臆しそうになる心を奮い立たせ、ザナックも兄とは逆の方へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王の側を守りながらのガゼフたちの進軍は、負傷者は出るものの、装備が新調された戦士団の活躍もあり、比較的に問題なく進軍は進み、避難も順調であった。

 

 少しだけ、順調すぎることに不安を覚えるが、悪いことではないので、気を緩めないようにしながら避難と悪魔の討伐を行っていく。

 

 「むっ、あれは・・・」

 

 ふと彼が見上げると異常な数の悪魔が集まる箇所に気付き目を向けると、漆黒の戦士が悪魔たちに襲われている所であった。だが戦士はそんな数をものともせずに戦っているが、異常な数の悪魔に阻まれてしまっている。

 

 「ガゼフ」

 

 「ああ、先程から悪魔が少ないのは彼が惹き付けているからか・・・向かおうとしているのは・・・っ!やるぞブレイン!」

 

 「っああ!」

 

 「私たちが先にいく!お前たちも王を護りながら着いてこい!」

 

 指示するもの忘れずにガゼフとブレインは飛び出していく、それを追うように他の戦士たちが続いていく。

 

 「やれやれ。久しぶりだというのに忙しない奴だ。我らもいくぞ!遅れるな!」

 

 馬の上から、そんなガゼフたちの姿を見た誰かが、声を張り上げて激励すると、ラナーらを乗せる馬車とクライムや護衛の者も動き出した。

 

 漆黒の英雄に悪魔が一斉に飛びかかる。

 

 武技 六光連斬

 

 その声と共に、悪魔は裂かれモモンの視界が晴れる。

 

 武技 風切り

 

 それでも洩れた悪魔は、飛ぶ斬擊によって斬られた。

 

 そこには地上から飛び上がったガゼフと、地上では屋根に登り、居合いの構えを取ったブレインの姿があった。

 

 「ここは我々が引き受けた!」

 

 突然の乱入者に、悪魔たちは騒ぐも、すぐに無防備な姿を晒すガゼフを狙う。人間は空中では魔術師以外は飛べぬのが道理。悪魔はすぐにこの邪魔な人間を肉塊に変えようと爪を伸ばす。

 

 「ふんっ!」

 

 なんと空中を蹴りつけることで避わし、すれ違い様に切り捨てた。再び宙を蹴りつけて、近づいた悪魔を次々に剣の餌食にする。彼の足にはレイナによって作られた足具が、魔法の輝きを放つ度にガゼフに地上での戦い方のまま空中を自在に駆ける力を与えた。

 

 機動力を得た王国1の戦士は、悪魔たちを蹴散らしていく。

 

 「たっち さん?」

 

 「むっ?」

 

 「あ、いや、失礼を少し知人に似ていたもので・・・。ガゼフ・ストロノーフ戦士長でよろしいか?」

 

 その姿に驚いたのはモモンガ。彼の空中での機動だけでなく彼が着用した白の鎧の後ろ姿が、かの聖騎士と被ってみえたからだ。しかしよく見れば、それはガゼフであることに気づいて、首を振り言い直す。

 

 呼ばれなれない名前で呼ばれたガゼフは首をかしげるが、訂正されたことで特に思うことはなかった。

 

 今さら自分の名前が知られていることについても疑問を覚えない。王国での自分の知名度は嫌というほど知っている。彼も王国で住んでおる内に知ったのだろうと納得する。まさか自分が、村を救った恩人であるマジックキャスターに自己紹介しており、それが目の前の戦士だとは想像できなかっただろう。

 

 「そうだ。貴公の噂は聴いている。何でもたった数日でアダマンタイトに上り詰めた新進気鋭の冒険者だとか、なによりーーいや、悠長に話している時間はないな。ここの悪魔は我々が引き受けよう」

 

 なによりレイナが迷うことなく助力を願った御仁であることに、軽く嫉妬の気持ちが沸いたことに首を振り、そう言ってガゼフは、こちらに集まってくる悪魔の群と先ほどから戦士の勘が告げる気配がする方向に目を向ける。彼だけでなく錬磨された実力持つブレインもハッキリとわからずとも、戦士としての勘が、そこになにかがいることがわかった。

 

 その存在が自分よりも強いということも。今日この日まで鍛練をサボるなどはしたことがない。だが、王国の村を襲撃され、じっとしていられずに王に頼んで遠征をしたが、待ち受けていたのは貴族たちの罠。もしも、かのマジックキャスターや彼女がいなければ自分は部下諸とも無念のまま死んでいただろう。

 

 助かった命。さらに鍛練を積んだ。たしかに強くもなったし、新たな装備によって、出現する悪魔たちにも余裕で太刀打ちできるようにはなった。だが世界はガゼフが思っている以上に強いものに溢れていただけだ。それでもやはり・・・彼女の隣に今の自分が立てないことに悔しく思う。

 

 強く剣を握りしめて、目の前の自分よりも強いであろう戦士を見た。

 

 「行ってくれ。そして彼女を頼む!」

 

 「・・・恩に着る!」

 

 彼の力強い視線にモモンは頷くと進行方向の悪魔を凪ぎ払い、そのまま走り抜けていく。

 

 彼の姿が一瞬で遠くに行ったことに、彼に任せるのは間違っていなかった。・・・少し、いや、かなり悔しく思うも、新たな強者の存在に燃える己が心もある。

 

 「行ったか」

 

 「はっ、すっげぇ~もうあんな所に・・・」

 

 追い付いたブレインがすでに小さくなったモモンに対して、感心した言葉を洩らす。2人を無視してモモンを追おうとする悪魔がいたがその瞬間、バラバラ切り刻まれた。

 

 「ガゼフよ。急に飛び出すでない。もう少し老骨を労らんといかんぞ」

 

 その悪魔仕留めた者がガゼフを背後から声をかける。それは五宝物に身を固めたランポッサ王その人であった。

 

 「ならばこそ、王よりも先に目の前の障害を取り除かねばなりませんな」

 

 「ふふ、言いよるな。彼女のおかげで歩けるようになってからお前たち戦士団の訓練で、鈍った勘をいくらか取り戻せた。今までのように只後ろで守られているだけの儂ではないぞ」

 

 集う悪魔を前後に相手取り、モモンの後を追わせない。少し離れた所から抜けようとする悪魔は、ブレインや戦士団に阻まれてモモンを追うことができない。

 

 「王よ。忠誠を誓ったあの日から、こうして背中を合わせて戦える事をずっと夢見ていました」

 

 「儂もだ。ガゼフ。儂の背中を任せれるのは御主しかおらぬ」

 

 それにこの装備を着るには久しぶりだ。と洩らす王は懐かしそうに己が身に纏う鎧に手を滑らせる。そんな王の姿にガゼフは国宝である五宝物を出そうとした時の事を思い出す。

 

 この期に及んで渋る貴族に「ならば私が着よう。まさか王が着るのが相応しくない等言わんだろうな?」と言って、てっきりガゼフに装備させると思っていたその場の貴族たちに、過去の傷で立てなくなっていた自らの足で立ち上がってみせ、宣言した時の驚き固まる彼らの表情は、ガゼフにとって生涯で1番スッとした気分だった。

 

 「いきますよ!王よ!着いてこれますか!?」

 

 「うむ!やってみせよう!若き頃の戦を思い出すわ!」

 

 「盛り上がってるねぇ俺たちも負けらんねぇな!?」

 

 「戦士長とランポッサ王。ブレイン殿に続けぇぇぇ!!」

 

 「「「「「おおおおおおぉぉぉぉ!!」」」」」

 

 「「まずは俺らが相手だ!」」

 

 掛け声と共に飛び出した2人の戦士が魔化された武器を振るう。

 

 「さすがは我が女神様から貰い受けた武器はひと味違うぜ!」

 

 「冒険者や戦士長ばかりにかっこはつけさせねぇぞ!そうさ!これがあれば我らに敗北なし!」

 

 調子の良いことを言いながら先陣をきる2人は、いつかレイナに飛び込み告白して粉砕していたが、今は見事に悪魔の群を分断する。

 

 「行くぞ!悪魔共にこれ以上の狼藉を許すな!」

 

 セイランを先頭に片側に猛追をかける。

 

 後方からは弓を得意とする者が、陣を組んで遠くの悪魔を射止める。

 

 近づいた悪魔は前衛を担当する戦士の猛烈な攻撃に曝され、その命を散らしていく。

 

 「ここから先は通さん!」

 

 「今こそ戦いの時よ!」

 

 「おっとこのままじゃ2人に全部持っていかれそうだ。俺も全力でいくぜ!」

 

 残った片側をガゼフとランポッサ王とブレインが蹂躙じゅうりんしていった。

 

 「すごいこれが英雄、その英雄に集う戦士たちなのか・・・」

 

 「もしかしたら俺も・・・」

 

 ガゼフなどの英雄達だけでなく、自分達とあまり違わない平民出の戦士たちの姿や自ら先陣をきる王族の姿に、徴兵されていた他の兵士たちの士気が高まり、悪魔へと果敢に挑む。

 

 「おいっ!いつまでへっぴり腰でいるつもりだ!?元平民どもに遅れるなど貴族の名が泣くぞ!かかれぇぇ!!」

 

 「やってやる!やってやるぞぉぉ!!」

 

 「奴等は上からも来るぞ!気を付けろ!!」

 

 「当たらなくてもいい!弓を持ったやつらは牽制しろぉ!」

 

 そんな一般兵には負けるわけにはいかないと、貴族出の兵たちも続いていく。そんな王国の進撃は止まらず、大物の悪魔が出現しても数人係で抑え込んだところでガゼフとランポッサ王かブレインによって倒され、それを見た兵士たちの士気がうなぎ登りで上がり、(おおむ)ね誰も欠けることなく進んでいく。

 

 平民出身の兵士たちは憧れに、貴族は己のプライドのために。

 

 この災厄に向けて王国が1つになった瞬間であった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 短い期間を共にした漆黒の剣とナーベから始まり、蒼の薔薇、王国の戦士長。彼らから託された想い答えるべく目の前の間違った選択をしようとする友人に向けるのだ。

 

 正直に言えば今にも逃げ出したい気持ちは変わらないが、そうしてしまえば何もかもが終わる気がして、必死に弱い 鈴木 悟 の心を押さえ込む。

 

 降りた先にはレイナとたっちがそれぞれ拘束されてしまっている。たっち は左右から2人のウルベルトに、彼女に至ってはボロボロな上に服が破けてあられもない姿にされている。宙吊りにされ意識も失っているようだが、まだ息をしていることに安堵する。

 

 現実とは違い生きていれば、ポーションでも回復魔法でも全快にできるのが、この異世界だ。なんとか救出する方法を考えながら、相手から目離さない。

 

 あの不敗の戦乙女と公式チートと呼ばれた たっち の2人掛かりで挑んで敗北している時点で、異常なのに。

 

 まだ対峙していないというのにわかるのだ。いや、ユグドラシルでは感じなかったのが、現実化しこの世界で、鈴木 悟 として無縁だった殺伐とした世界の中心にいるであろうレジスタンスのリーダーである彼の重圧が大悪魔となったことで、息苦しさを覚えるほどに。

 

 すると彼女の残った衣服のそれも胸を掴んでいた彼が、手を離して振り向く。その動作は酷く緩慢で、隙だらけのはずなのに、彼の山羊の縦に割れた瞳も相まって恐ろしく見えた。

 

 「やはり来たかモモンガ。まさかこんなタイミングでくるとはな。悪魔たちも役にはたたん」

 

 「ウルベルトさん、どうしてこんな・・・」

 

 「その姿。特に赤いマントはたっちをリスペクトしたな?気に入らないがなかなか似合うじゃないか。特に色合いがダークヒーローチックなのがいい」

 

 「ウルベルトさん!話を聞いてください!」

 

 「はぁモモンガ。俺はお前の事を友人だと思っている。いくらゲームの中でとはいえ、お前との時間は楽しかったからな。だが、恋人同士との中に入るのはマナー違反じゃないか?」

 

 「ウルベルトさん!」

 

 「駄目だモモンガ。今の彼には何いってもーぐぬっ!?」

 

 「たっちさん!?」

 

 「五月蝿い外野はほっておけ、さもないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐにゲームオーバーだ」

 

 

 

 気づけば、モモンガに向けてウルベルトは駆け出していた。

 

 咄嗟に向けていた剣を振る。()()()()()()()

 

 肉薄された時点で、モモンガは下がるべきだった。

 

 同レベルの魔法詠唱者(マジックキャスター)が、反応が遅れる速さで接近してきた異常に。だが、今のモモンガは完全なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)で自身も強化している経験から、彼もそうだと断定しての行動だったが・・・。

 

 振られた剣速はもしもこの世界の生物ならば脅威そのものであったその剣先は・・・ウルベルトに届く直前ーー視界が大きく回転、見えたのは赤く染まった夜空。

 

 「武技"要塞"っ!?」

 

 「ちっ避けたか」

 

 背中から衝撃に自分が地面に仰向けに叩きつけられたのを理解する前に、こちらに向けて、足を振り上げたウルベルトに気付き、両手の剣を重ねてガードしようとするが、足が振り下ろされた瞬間に、更なる危機感に襲われたモモンガは武技の"要塞"を使用したが、それが発動し彼の足を受け止めーーー剣を捨てて横に転がった。

 

 ズンッと重いものがさっきまで胴体があった場所に、足がつく。地面はまだレイナの固定化が効いたままのおかげで抉れはしなかったが、無惨にも真っ二つどころか粉砕された剣から、どれほどの威力で蹴り抜かれたのがわかる。

 

 信じれなかった。受け止めたのにも関わらず、それはただ数瞬もっただけでアッサリと破られたのだ。

 

 元の位置には無惨に折られたモモンとして、活動する間、魔法で創造したとはいえ、共に戦ってきた剣。未知数の脅威考えていた武技さえ通用せず、もしも横に転がっていなければ、そうなっていたのは自分の方だったかもしれない事に寒気が走る。

 

 「なんかスキルとは違うのを出したが大した事ないな。それに見たことのない装備だったから、もしやと思ったが・・・」

 

 彼の声が聞こえた直後、すぐさま起き上がり、今度は距離をとろうと後ろに跳ぶが、見慣れた山羊頭の歪んだ顔がピッタリと追随してきていた。

 

 「そんなハリボテで相手になるとでも?」

 

 この距離ならばと拳を握り。先程、六腕の最高戦力らしい男を追い詰めたボクシングで挑むも、とらえているはずの攻撃は悉く流され、しまいには伸びた腕をとられ、勢いのまま引っ張られた。

 

 「腕は思いの外いい。だが、爪が甘いな。そもそもただのサラリーマンと腐ってもレジスタンスのリーダーであった俺に徒手空拳で挑むだと?」

 

 まただ。まるでこちらがわざと外しているように感じる。超人的なコンマ数秒もない攻防の中、モモンガの攻撃を無効にするそれは、リアルで彼が所属していた組織にいたある傭兵から教えてもらった軍隊で採用された実戦的な格闘術。

 

 モモンガのそれは確かに同格にも通用するものではあったが、同格以上のそれも本当に命のかかった戦場で磨かれたことのある彼の前では、格好の餌食だった。

 

 「馬鹿にしているのか!」

 

 「がはっ!?」

 

 怒り声を発したウルベルトに捕まった腕を体ごと引っ張られ腕に潜るように懐に入ってから、繰り出される肘のカウンターがボディに打ち込まれる。抉られるような衝撃に、魔法で創られた鎧の胴体は完全に壊れ、隠していた骨の体は勿論、ワールドアイテムであるギルメンにはモモンガ玉と呼ばれる血のような赤玉が露になり、後方に受け身もとれずに吹き飛ばされた。

 

 「戦いは始まる前に決まっていると散々言っていたのに、この体たらく。後悔は死んでからでは遅いんだぞ?」

 

 高速で吹き飛ぶ中、その言葉はハッキリと聞き取れた。確かに焦って本来の姿に戻ることも、ろくな準備もせずに挑んでしまったのは自分の落ち度だ。

 

 悔しく思うも体は動かない。いや、実際は彼の体は彼の意思動いていたが、それは戦い慣れたウルベルトにとってあまりにも遅かった。モモンガは視界の端に更に追撃をかけてくるウルベルトが映るも、ゲームとは違い、気を失いそうになる痛みに反応が遅れてしまう。

 

 絶体絶命のその時、ウルベルトが不自然に動きを止めて、横に跳ぶ、そこには剣を振った白い騎士がいた。

 

 「驚いた。あの一瞬で分身を始末しただけでなく、割ってはいるとは。捕らえたままと油断せずに始末しておくべきだったな」

 

 「物騒な物言いだな・・・。モモンガさん大丈夫か?」

 

 「た、たっちさん」

 

 割って入ってきた たっち のおかげで追撃はなかったが、モモンガは、生まれて始めて感じる猛烈な痛みに気絶しそうになるのを耐えて立ち上がる。

 

 たっち が前にいる内に本来の姿へと戻るモモンガ。

 

 「ははっ!今度は前衛と後衛か。と言っても今の俺には(いささ)か物足りないな」

 

 2対1。それもワールドチャンピオンと死霊術を得意としていながらマジックキャスターとして覚えるもの大変な多くの呪文を適切に使用できるオーバーロードを前にしても余裕な態度で笑っていた。

 

 実際、モモンガが来る前に分身を使った物量作戦とはいえ たっち とレイナの前衛2人を相手にして圧倒する異常な強さを見せる彼とっては、少しだけ面倒な相手というだけなのかもしれない。

 

 こちらのボディと鎧を捉え粉砕した己の手を見ながら呆れたように頭を振る友人の悪魔の姿があった。

 

 ここで始めて。ありえない不可解な力の差と彼の姿に恐怖で息をのむ。

 

 「やっとハリボテを捨てたか、まぁ捨てなければ傷1つつけれなかっただろうがな」

 

 圧倒的な力を前に たっち もモモンガもしばし呆然としていた。ゲームとは違うリアルになったからこそわかる。強い。圧倒的なまでに。こんな存在にレイナと目の前にいる たっち は戦っていたのかと思うと改めて尊敬する。

 

 「さて、このまま相手をしてやってもいいが、その前に・・・」

 

 そう言ってウルベルトが腕を翳す。攻撃かと身構えるが、何も起きない。疑問に思うとふと目を向けたのはレイナがいた空間。そこには、彼女を覆うようにゲートのようなものが現れると、その中に彼女を引き摺り込まれていくのがみえてしまった。

 

 「レイナさん!?」

 

 「万が一、起きられて合流されては面倒だ。終わるまでの間、零はビップルームに案内しておこう」

 

 駆け寄る暇もなく瞬く間にレイナはその中へと消えてしまった。

 

 「さてと最後通牒だ2人供。退く気はないんだな?」

 

 「はい、でも聞かせてください「いいだろう」・・・どういうつもりなんですか?今回の件は全部自分達に任せるという話では?」

 

 レイナの安否が気になるものの、彼の口振りから一先ずは無事なのがわかると、今回の勝手に始めた騒動について問い詰める。お陰で八本指に関しては対処できたが、被害はモモンガたちが想定していた以上に広まってしまった。

 

 これが事前に予定していたことならば、ナザリックのためだというのであれば容認していたかもしれない。

 

 しかし、今回は八本指や六腕らを捕らえて、ついでに腐敗した貴族らも白日のもとに晒して、一気に膿を除くことも視野に入れていた。王国に対して恩を売り、今後のナザリックの表だった活動がしやすくなる意図もあった。

 

 人間に頭を下げるなどと、いくつか、ナザリックの部下たちからの、不満もあったが、別に頭を下げるとかでもないので、気にすることはないと伝えていた。

 

 「俺の目的は最初から最後まで零を手に入れることだ」

 

 「そんな・・・」

 

 「だから目的を果たした今、俺がここでお前らと戦う理由はない」

 

 わかるだろ?と言いたげに視線で訴えるウルベルト。薄々はわかっていたが、彼の目的が彼女自身であることにショックを受けるモモンガ。それはもしも、彼がモモンガの伝言を見て来ていたら、彼はリアル化したここではなく、現実に戻ろうとする事を言っている。思えば再開を喜ぶのもなかった気がする。ならば彼と一緒に来たベルリバーもと考えて、気分は落ち込んでいく。

 

 「モモンガ。気持ちに正直になるんだ。君はどうしたいんだ?」

 

 逃げたい衝動に駈られる中、聞こえたのは恩師で友人である たっち の言葉。自分がどうしたいのか・・・そんなのは決まっていた。彼が去るのを了承する?彼女を手放す?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなのいいはずがない!

 

 

 

 何か理由があったとしても、彼女を傷つけた彼に任せてしまえば、取り返しの使いない事態になるのではないかと想いが、モモンガの胸に炎を灯す。

 

 ユグドラシルから去っていく友が増える度にモモンガ鈴木 悟心の何かが磨り減るのを感じていたリアル世界。それしかなかった彼にとってユグドラシルのサービス終了は、絶望に等しかった。

 

 そんな最後の折りに出会え、想いを共有し理解してくれた彼女の存在はモモンガの心に光が射し、異形に引き寄せられることもなく人間の気持ちをもっていられたのは、寂しく迎えるはずだったのを、ラストバトルを飾ることで未練をなくしてくれた彼女がいたからだ。

 

 その時、芽生えたものはオーバーロードと化しても変わらなかった。

 

 今のままでは万に1つでも勝てない。

 

 意識を集中し、弱い 鈴木 悟 からモモンガというオーバーロードへと気持ちを切り替えた。そこには仲間に恵まれ、数多くの戦いを覚えた戦術と魔法を合わせて戦い抜いてきた魔法使いがいた。

 

 「全く余計な一言を言ってくれたな たっち 期待はしないがお前は?」

 

 「そんな聞かなくてもわかるんじゃないですか?」

 

 「ああ、本当に無駄な時間だった」

 

 神級の装備に身を包み懐から出したのは、ギルド武器には及ばぬものの、1人での狩りを支えてくれたメイン武器の1つであり、禍々しい1振りの杖。

 

 ギルド長である彼の為に作られたギルド武器やそのレプリカながらも強力なものではないが、ひどく手に馴染み力が溢れてくる気がする。

 

 モモンガの長年愛用していた神級装備の杖。

 

 数々のワールドエネミーの素材から作られた唯一の限界まで鍛えられた彼に相応しい杖であり、個人で所有するもので(はばか)らずに使用可能。

 

 主の意思に答えるように魔力を迸り、魔力は形になって敵対者に容赦ない牙を剥く。

 

 「俺も本気でいく。零は俺がもらう。本当にこれが最後だ。見逃すならーー」

 

 「それはできません」

 

 「だろうな。わかっていたさ」

 

 決意の籠った目でハッキリと否定すれば、彼も目の前の友人が退くとは思わなかったのだろう。ウルベルトは警戒を解くこともせずに、一見無防備に大鎌を肩に預けるように構えたままだが、モモンガは知っている。半身になり、肩に預けて上に刃がくる鎌は獲物を飲み込まんとするアギトであり、ユグドラシルでの彼の本気の構えである。

 

 「本気を出しての戦いはいつぶりーーいや、はじめてになるのだろうな?それが女の取り合いとは、人生わからないものだな」

 

 「ええ、本当に。でもあなたと最後の模擬戦は私の勝ちだったですよね」

 

 「最後の1回をたまたまだろう?それで完全に勝ったと思われるのは心外だ」

 

 「今さら負け惜しみですか?」

 

 「さっきまで押されていた癖に、いい気になるのも今の内だぞ?その前までの戦いでは俺の勝ち越しだったはずだが?」

 

 「惜しい戦いも多くありましたよ?勝率もそこそこ高かった」

 

 ピリッと両者の間に流れる空気が緊張は既に高まりつつある。

 

 モモンガは感じていた。ゲームでは感じることも感じたことのない圧力がウルベルトから溢れてる事に、彼が大悪魔だからとかでなく、リアルではレジスタンスを纏めるリーダーだ。

 

 そんな彼に本気の殺意を向けられれば、只の一般人であった鈴木 悟ではこの時点で、泣きわめき無様を晒すほどのそれに、耐えれているのは一重にオーバーロードになれただけでなく、この異世界に来てからの出会いや冒険があったからこそ。

 

 「モモンガいつかの通りだ。俺が壁になる。あの馬鹿にきつい1撃を食らわせてくれ」

 

 「たっち さん・・・はいっ!」

 

 これ程頼りになる戦士がついてくれている。憧れた背中は昔のままで、どんな強敵との戦いでも彼がいるだけで、ピンクの粘体であった彼女ほどでなくても、鉄壁の要塞に守られている気分になる。それと何よりも心の支えになった彼女の存在が、震えそうになる体を止めてくれた。

 

 「行くぞ!ウルベルト!」

 

 「来い!モモンガ!」

 

 「俺を忘れるなよ!この馬鹿野郎!」

 

 前方はたっちがいるので下がらず、魔法を唱える。ウルベルトもそれはわかっているのか、隙あれば邪魔をするであろう たっち から距離をとる。

 

 魔法の強化をかけ終わると、その間にどう戦いを運ぶかも考えながら、第2ラウンドの開戦告げる魔法を放つ!

 

 「大顎の竜巻(シャークスサイクロン)!」

 

 「万雷の撃滅(コール・ グレーター・サンダー)!」

 

 大きな竜巻の中を、巨大な人食い鮫が獲物を求めて泳ぎ。

 

 大地をも砕く巨大な雷の大鎚がそれを迎え撃った。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 「もう大丈夫だよ。歩ける?」

 

 「う、うん。ありがとう!お姉ちゃん!」

 

 「ふふ、泣かないで偉いね。じゃあこのお兄さんが安全な所に連れていってくれるよ」

 

 「ああ、任せてくれ。ここはもう大丈夫だろう。一度拠点に戻り、ガガーラン殿も交えて街の様子を話し合おう」

 

 「わかりました」

 

 逃げる時に転んだのだろう。ネムを思い出す年頃の男の子を抱き起こし、同じく救助に当たっていた兵士に預けると、エンリは燃え盛る街並みに目を向ける。大分避難が進んだこともあり、人影は見えない。

 

 彼の言う通りそろそろ撤退するべきかと考える。手持ちのポーションは使いきり、自分の姿は悪魔の攻撃や火に晒されてボロボロな上に、全力での行動が多く溜まった疲労で今にも倒れそうだ。

 

 そうして見渡したエンリ視界視界に飛び込んできたのは、大きく膨れ上がった炎の塊。気づいたときには遅く。その炎はエンリを飛び越え、背を向けていた兵士と男の子目掛けて向かっていく。

 

 「っ!!?」

 

 避けて!と叫ぶ声も炎の着弾によって生じた爆風に潰され、エンリ自身吹き飛ばされた。

 

 背中を打ち付け強い衝撃にむせる息を飲み込み、顔をあげると地獄が広がっていた。

 

 「そ、そんな・・・」

 

 2人の姿は見えない。いや、あの炎の塊が直撃したのならば骨も残らないだろう。それほどの火力だったのだ。

 

 エンリの意識が真っ白になる。

 

 護れなかった。特に男の子姿が実の妹に重ねていたエンリにはあまりにも衝撃的だった。

 

 「ぐううっ・・・わ、私・・・は・・・っ!」

 

 無力さに流れる涙と吐きそうになるのを我慢して、すぐにそれを行っただろう存在を見つけるために目を走らす。

 

 はたしてそれは上空にいた。

 

 そいつは狂喜に嗤いながら、エンリを見下ろしていた。

 

 そして理解する。コイツはわかっててエンリではなくあの2人を狙ったのだと。

 

 今までの悪魔と違い角が大きく、素手だったのに杖を持っている。理性がある瞳をしているが、やはり悪魔。人がどう絶望するのかが楽しいのだろう。

 

 村で自分とネムを追いかけてきたアイツらと一緒で。

 

 怒りに立ち上がろうとするも、剣を支えに起き上がるので精一杯だ。そんなエンリに満足したのか、悪魔は杖の先から炎を灯すとそれはどんどん規模を大きく広げて、先程の炎の塊にしてみせた。

 

 動けないエンリの更なる絶望を望んで、わざわざ過程を見せたのだろう。だがエンリは臆すことなく、睨み続けたままだ。

 

 悪魔は望んだ表情が得られずに、残念そうにしたが、何もできない愚かな人間に向けて、放つ。

 

 エンリは、故郷に残してきた家族や恩人たちの事を思い出していた。

 

 避けようのない。

 

 「ごめんなさい。レイナ・・・さん。お父さん・・・お母さん・・・ネムっ!」

 

 残す家族の事と仇取れない悔しさに、エンリは最後まで迫りくる死から目を離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・え・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 お・・・ちゃ・・・ん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お姉ちゃぁぁぁぁん!

 

 

 最後に自分を呼ぶ懐かしい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 




 モモンガさんの武器はアニメではギルド武器のレプリカ使用してたみたいですけど、ユグドラシルでの資金稼ぎもそれだったのかわからんのでオリジナルの専用(?)武器を出すことに。

 色々強化された原作キャラがいますが、気に入らなかったら

 ごめんなさい。

 

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