ナザリック地下大墳墓~モモンガ自室兼執務室~
そこではセバスに見守られたモモンガが鏡の前で珍妙な動きをしていた。鏡の前で手ふり足ふり時には万歳したり屈伸したりとするその姿は骸骨も相まってギルドの仲間たちがみれば笑いを堪えられないだろう。そうした動きを眠りから覚めたモモンガはずっと行っていた。
遠隔視の鏡は、ユグドラシルでは妨害魔法さえあればその情報を十分伝えられない微妙アイテムだがなんも消耗もせずにナザリック周辺を見ることのできるアイテムだ。ユグドラシルでの操作と現実になった弊害でどうすればいいかわからないときた。これは他のアイテムもどう発動させるか確かめる必要があるなとモモンガは内心そう考える。
そうして、ついに鏡が動く。セバスに「おめでとうございます」と言われてからはコツをつかんだのか鏡を上手く操作出来るようになった。森に面した村が10キロ先にあることに気付いたモモンガがそこへズームをかけるとそこで起こっている事態に気づく。
村人が武装した集団から逃げており、それを守るように戦う2つの白い影。一つは先日PVPした戦乙女レイナがユグドラシルの旅人服を着て村人に剣を振り下ろす兵士の間に入り剣を受け流し、返す刃で兵士を切り捨てる。そうして彼女が間に合わない位置にいる兵に対して攻撃を仕掛けるもう1つの白い騎士の姿は間違えようがない我がアインズウールゴウンの・・・
セバスもその姿を見つけたのか息を飲むの聞こえ、次にこの惨状になろうとしている村で戦うその姿に喜びの表情を浮かべていた。
「む、あれは・・・」
はぐれたのか森に中へ逃げる姉妹を鏡が映す。どうやら伏兵がいたらしい。兵士に追われる彼女らにモモンガは決意をして、転移門を発動させた。
エモット家で美味しい朝ごはんを食べたあと村長の元へと行き、挨拶もそこそこにエンリにもおこなったように質問していたレイナだが、強い殺気を感じ外へとびだす。村長家は村を見渡せる位置にあり、村の正面ならそこへ目を向けると平原の方から馬を走らせ向かってきている武装集団が見えた。
他の村人たちもその異変に気付いたのかなんだなんだとその方向をみて顔をひきつらせ、短く悲鳴をあげる。その武装集団は武器を抜刀し、逃げる村人の一人を切りつけようとして、空を切る。一瞬彼らの動きが止まり、その眼前に現れたレイナを見て完全に馬を止めた。
「なにようか」
先に言葉を発したのはレイナだった。旅人のような格好をしたそのとんでもない美貌をもつ彼女が発したとは思えない強い口調は彼らに向けられており、彼らは馬上から一瞬気圧されるも、すぐに上物がつれたと喜ぶ隊長によって突撃を再開する。
「そうか、・・・」
呼び掛けにも返答はなく自分ひいては村に攻めてくる彼らにレイナのスイッチが入る。いつの間にか剣がレイナの前に地面に突き刺さった。
「数が多いな。彼に手伝って貰おうか」
レイナが考えるのはこの状況を見たなら必ず己の身を晒して助けるだろう純白の騎士の姿。何故かできると確信があった。何度か互いに戦い共闘することもあった宿敵。向かってくる兵士からは、レイナの背中から一瞬光の翼がみえ、散るように広がり彼女の隣へと集束する現れたのは右手に剣を左に盾をもつ白い騎士。
「我が召喚に応えよ」
「よし!、私の勝ちよ!」
「ああ、悔しいが・・・俺の負けだ」
「・・・本当に引退するの?このままだと私の勝ち越しよ?」
「・・・いや、146戦60勝61敗25引き分け。だからこそあと腐れなく終われる。今日の一戦で俺はもう現役は無理なのがよくわかった・・・」
「そう悲観しなくても、今日の戦いも凄くよかったわ。数ヵ月のブランクがあるとは思えないくらい」
「だが、勝てなかった。今の君ならユグドラシルの最強のあの人にも勝てるかも知れないな」
「ええ、実は先日その人と戦って勝ったわ。結構ニュースになったと思うけど知らないのね」
「なんと、ふふ、君も大概だね」
「そうよ。だから自信に思いなさい。そんな私に善戦したのだから腕は鈍ってないわ」
「・・・いつかまた出会った時に勝負してくれるかい?友よ」
「勿論。我が友よ」
力をかしてくれ。
声と共に映像と想いが伝わる。
弱い人を襲う何者か。
困っている人がいれば助けるのは当たり前
それが彼の掲げる理念。
彼の答えは決まっている。
たっち・みー
「任せろ」
瞬間2つの白が兵団へ突っ込んだ。
兵たちにおいてそれは悪夢だった。数をものともしないそれに彼らは恐怖した。たったひと振りで馬ごと吹き飛ばす騎士、着地することなく馬から馬へと飛び乗り仲間を蹴り落とす女。彼らを越えて誰一人村へとは入れない。村の前にはクワやナタを持った村人たちも集まっている。中には狩人らしい2人が弓を構え始めた。
まるでどこかの英雄譚で自分達はそれにやられる悪党であった。
例え所属する国の上からの指令だとしても、実際ここにくるまでに行った行いを考えればそのとおりかもしれない。だが彼らもなんの手もなく挑んでいるわけではない。
もうすぐ森の中に潜んで村を包囲しようとしていた仲間が村人の誰かを人質にすれば彼らの動き止めれると考えていた。そのあとはあの強い女も村の女も含めて楽しんでやる隊長ベリュースは部下をけしかけ粘るが一向にその味方が現れない。
時間だけがすぎ、残ったのはベリュースとロンデス含む数人の兵だけだ。それも無傷とはいかず、全身ボロボロでやっと立っている状況だ。
「まだやるか?」
女が一歩前に出て隊長に問いかける。その眼は強い意志があり、思わず武器を落としそうになる。勝てない。そう思うこの中でも腕に自信のあったロンデスは隊長に向け降伏しましょうと告げようとして、異常な雄叫びに中断される。
ぐおぉぉぉぉ!!
地獄が走ってきていた。人の何倍もある黒い巨体フランベルジュとゆう大剣をもち大盾をもつ亡者の戦士デス・ナイトが村の中から向かってきており、それは村人を飛び越え、女と騎士を素通り彼らに向けその凶刃を振り下ろした。
シオンは焦っていた。突然上がる村の仲間の悲鳴を聞きつけ、その声がした方へ行けば砂煙を上げてこの村に来る武装した集団。その誰もが抜き身の剣をとり、向かってくる一団。盗賊というには装備が整っているそいつらの前に現れる知り合ったばかりのレイナの姿。
このままでは彼女がやられると思い。すでに装備した狩人の弓を持って近くの家に昇り、弓を構える。そうして見た先には信じれない光景があった。
あまりに一方的な戦闘にシオンは愕然とした。彼女とその隣に現れた騎士は瞬く間に武装集団を無力化していった。そして、その姿にシオンは見惚れていた。
服装はそのままに手にもった見事な片手剣だけで風のように無駄なく兵の攻撃をかわしながら敵の武器を根本から砕き馬から蹴り落とす。プラチナ色の髪が日によってキラキラ輝き流れるそれにシオンは自分が恋をしたのだと自覚した。
ついに、集団の隊長らしき者に剣を向けることでこの戦いも終局かと思われたその時、背中に冷水をかけられたような悪寒が広がる振り向けば黒い恐ろしい者が見えた。それは何故か村人たちの集まりを飛び越え、レイナたちも無視してここを襲撃した者たちへと向けられた。
「少し聴きたいこともあるので殺されると困るのよ」
死んだ。と思い目を閉じたベリュースとその部下たちは何も衝撃の来ないことに不思議に思っているとそう声がして眼を開ける。その攻撃してきたデス・ナイトの攻撃を受け流し、地面へと向けさせたレイナがいた。地面は爆発したようにめくれその一撃がどれ程のものか物語っていた。
ぐるるっ
なぜ邪魔をすると言いたげなデス・ナイトにレイナは微笑み。
「主人に命令されて来たのでしょうが、主人を守る盾があまりに離れない方がいいのではないか?」
っ・・・
その言葉にデス・ナイトは動きを止め、膝から崩れ落ちた。
ここにデス・ナイトが現れた理由をなんとなく察したレイナは彼にそう指摘すると動きを止めた彼を見て確信する。
たしか、中位アンデットだったか、この強さきっとモモンガによって生まれたものだろう。
そう考えていると目の前に黒い渦が現れ、中から仮面とガントレットをつけ、骨の姿を隠したモモンガ自身が現れた。
「あら、意外と遅かったわね」
「どうもレイナさん。たっちさんお久しぶりです。モモンガですよ」
「ん?、その装備はモモンガさん?あれ、ユグドラシルの夢にしては随分リアルだな」
最後に隊長を縄で縛ったたっち・みーがモモンガに気付き首を捻る。その言葉を聞き、今度はモモンガが首を捻る。
「あれ、たっちさんもこの世界に来たんじゃないんですか?」
「私のスキルによって召喚したのよ」
答えたのはレイナだ。それにたっち・みーは頷く。
「ああ、なにか声が聞こえて来たらいろんな景色が見えて、それをどうにかしたいと思ったら、ここに来てたよ」
「え、ええ!?ど、どうゆうことですか?レイナさん!?」
「ほら、私ヴァルキリーのクラス持ってるでしょ。その中のスキルに友好の証に貰ったアイテムや装備があれば、NPCとして召喚出来るのだけど・・・、ここでは意識まで呼べるみたい」
何故かそういうものってわかるのよというレイナに、それを聞いたモモンガは仮面の下で大きく口を開けていた。ま、まさかこんなすぐに仲間に会える機会か訪れるとは思わず、さらにそんな彼女をどうにかしてナザリックに迎えたいと思う。
そう思っていると、モモンガの背後に完全武装したアルベドとじっとしてられなかったのかセバスまで現れる。
「貴様!モモンガ様から離れろ!」
「たっち・みー様、お会いしとうございました」
「な、アルベドやめんかっ!」
「ああ、セバスも元気そうって・・・しゃべっているのか?」
「う、いきなり切りかからないでよ。反撃しそうになるじゃない」
即座にレイナに襲いかかるアルベド、それを避けるレイナ。アルベドを止めようとするモモンガにその足元で土下座するデス・ナイトに胸に右手を当て創造主に頭を下げるセバスに自然と返事を言いそうになり違和感に気付くたっち・みーという阿鼻叫喚のなか呆然とする縛られ動けない兵士と遠くから見守る村人たちの姿があった。