カルネ村
投降した兵士は数人に分け彼らの本国へのメッセンジャーと捕虜に分ける。残されたものはロンデスという気骨ある者と数名で絶望に顔を歪め、解き放たれたベリュースと残りは安堵の笑みを浮かべて去っていったが、さて、どうなることやら・・・
「すみませんレイナさん。勝手に人員を分けて・・・」
「人数が人数だもの。多すぎても抱えきれないでしょ」
武器や防具を取り上げ賠償金みたいなものとしてカルネ村に渡し、空いた納屋に詰め込み、たっち・みーとセバスが尋問と合わせ監視を。モモンガとデス・ナイトによって死んだ兵士は森の奥へと埋葬する。
レイナとモモンガは今、村の村長のお宅へとお邪魔していた。彼が村の危機を救ってくれたことにお礼がしたいと言ってきたのがその始まりだ。でこの時モモンガは名を改めてアインズ・ウール・ゴウンと名乗った。
「これが村中から集めた謝礼になります。どうかお納めください」
「いえいえ、これは受け取れません。私はただの通りすがり、村を守ったのはそこのレイナさんの尽力があってこそ。彼女に渡してください」
「私は一食一泊の恩がありますのでこんな大金受け取れません。伏兵を倒したアインズさんにこそあげてください」
という会話があり、そっちこそ、いえいえ、と押し付けあいが続き、そんな2人の会話に村長はなんていい人たちなんだと感動に震えていた。
話が進まないので、お金は総額の半分を2人で分け、残りは情報をもらうということで落ち着いた。そこではレイナが聞いていたことも含めて再確認を3人は行った。
「しかし、ポーションが経年劣化する上に、一番低い回復量がここでは伝説級なのか・・・」
「ええ、そのポーションにしても高級品でその原料となる薬草をここは卸してるんだけど誰も持ってないようだし、効果は薄いみたい。魔法にしても第3段位使えればかなり優秀の部類に入るくらいで、種類も多くない。今の私たちが使える位階を隠さなければ一躍有名人ね」
もっとも御免だしやらないがとレイナは肩を竦めてみせる。
アインズが顎に手を当て唸る。それが本当なら自分が懸念した自分達を遥かに越える強者の心配はほとんどないということで安堵が生まれる。しかし、そんな彼にレイナが釘を刺す。
「でも、ここには私たちの知らない生活魔法があるから私たちの知らない魔法だけじゃなく生まれながらの異能タレントや武技と呼ばれる未知の力もある。もしかしたら、防御力無効とか初見殺しなところもある可能性だってある。注意が必要よ」
「ううむ、レイナさんの言っていることも一理ある・・・」
「貴様、我が至高の御方であるアインズさまが遅れをとるなどあるわけがなかろう!」
レイナの言葉に黙ってはいられないと強く反応したのはアインズの後ろに立つ漆黒の全身鎧を装備したアルベドだ。言葉はアインズを軽視するレイナに対するものだが、その胸中にあるのは嫉妬だ。
アインズとレイナは村長と向かい合って話すため、両隣で座りあい、さらに村長にはあまり聞かれたくないため、身を寄せて小声で話し合っているのだ。その様子は本人たちがその気がなくても仲睦まじく見える。
特にアインズを敬愛しているアルベドにとって見逃せるものではなかった。普段なら御方の話し合いを盗み聞き、会話の間に割り込むなど不敬としてその場で自害しようとするくらいなのに、そうした行動をするほど冷静ではなかった。
「どうしたのだ?アルベド。彼女の言っていることは正しい。事故とはいえ、ここに来てしまった以上細心の注意の必要があるのだ」
「モ、アインズ様!。なぜこのようなに、・・・の女などを庇われるのですか!?」
「庇う庇わないではない。今は少しでも協力者がほしいのだ。彼女ならば私に対して実力も近く遠慮なく意見を言える希少な立場なのだ。滅多なことをいうでない」
強い口調で迫るアルベドにアインズは努めて冷静に返す。もしこの世界に来たのがモモンガ一人ならここまで冷静に対応できず、ナザリックのギルドマスターの権限をもって高圧的に黙らせただろうが、ここには同じくリアルを知るレイナがいる。
アンデッドという異業種になった自分は人間の頃とは倫理観が変化しており、今回に村の救済もレイナとたっち・みーが居なければ村人達の生存など気にせず、ほとぼりがすむまで放置していたかもしれない。当然、村人たちの人命はたくさん散ることになるだろう。
レイナという存在は人間としての価値観をなくさない指標だけでなく、もし自分が完全にアンデッドになったとき、止めてくれる最後の希望になってくれるだろうという安心と彼女にだけはナザリックのギルドマスターではなく、一般人鈴木 悟としてのモモンガの素をみせれる唯一の人間なのだ。
そうした思いもあり、レイナの味方をするアインズにアルベドは御方の言葉とはいえ、納得できなかった。守護者統括としては今ここでレイナを敵にまわすのは良くないと理解している。しかし、女としては今すぐこの女を殺すよりも酷い目に遭わせてやりたいというどうしようもない憎悪が増すばかりで、冷静になれるはずがなかった。
「ア、アインズ様・・・ううっ・・・っ!」
「?・・・」
アルベドは兜の下で唇を噛み、血が流れるもの無視してレイナを睨み付ける。レイナもアルベドから向けられる殺意に気付いても理由がわからず首を傾げる。
もっと情報を集めるにはここよりも栄えているエ・ランテルという大きな街があるのでそこを目指そうと話が終わるその時、扉を大慌てであけて見張りをしていた一人が入ってきた。
村へ向かってくる集団が見えたと
また先程の襲撃してきた奴らの仲間が来たのかと怯える村長と一緒にアインズがその集団を出迎えるのを引き受けた。レイナでないのは彼女が女であり、端から見れば舐められるかもしれないからだ。
レイナはたっち・みーと念のため村の人たちが集まって身を隠す民家を守るように扉の前に立つ、もし何かあればレイナもたっち・みーもすぐに対応するつもりではあった。しかし、レイナはそうはならないだろうと思っている。今回は向かってくる彼らからは怒りの感情は感じるがそれはこのカルネ村ではなく別のものに向けられ、焦りの方が大きい。
きっと彼らはこの国の治安を守る者たちで、生き延びた襲撃者たちに口を割らせたとき、ここにくる前に襲撃した村があることからその追っ手なのではないだろうかと考える。
事実、その代表とおぼしき屈強などこか日本人にみえる男性がアインズが村を救ったと聞き、頭を下げたのは好感が持てた。レイナは隣に立つたっちみーの方を伺うと彼も腕を組みうんうんと頷いている。
ユグドラシルではNPCとして召喚したプレイヤーはレイナが解除したり、力尽きたら消滅するので、それまではこのままなのだろうが、彼の話し聞く限り、夢の中でここに来ている感じで、夢特有のフワフワした感じでいるらしく。いつ目を覚ますかわからない状態らしい。
このレイナという身体はヴァルキリーのスキルをユグドラシル内だけの設定だけでなく、リアルにあった概念さえも反映されている気がする。北欧神話でヴァルキリーがどう言われてたのかレイナは知らないが、それを知ることが出来ればこの異世界転移後の世界においてトラブルを打破する力にはなるだろうと思う。
「どうやらこっちにくるみたいだね」
「あら、本当」
考察している内に事態が動いていたらしい。モモンガと村長、リーダー格の男性と一緒にこちらへと向かって来ている所だった。
「彼らが?」
「ええ、私より早くこの村への襲撃に気付き、それを阻止した者たちです」
謎のマジックキャスターでアインズと名乗る者に案内された先で出会ったのはこのカルネ村を襲撃した者たちを返り討ちにした2名の男女であった。
男の方は見るからに相当な価値を持つ純白の全身鎧をきた戦士その実力は相当なものを感じさせる。そして、女の方を見れば思わず動きが止まる。
その美貌はこの世の物とは思えず、かの黄金と呼ばれるラナー姫に匹敵する美しい彼女は時々王国で出会うアダマンタイト級冒険者の蒼の薔薇に似た強い眼差しをもって私を見据えていた。
「この度は村を救っていただき誠に感謝する」
いつまでも閉口するわけにもいかず、ゴウン殿にしたように深く頭を下げる。
「なに、私たちもこの村には一泊の恩がある。こんな形ではあるが恩が返すことができてよかったわ」
「ああ、気にするな。困っていたらお互い様だ」
そう笑っていってくれたお二方に、私は感動に震えていた。今時ここまで人ができている方が、ここに居てくれて村だけでなく私の心まで救っていただいた気分だ。
「言葉もないとはこのこと良ければ王国に寄ることがあれば是非我が家に歓迎したいと思います」
2度目も深く頭を下げた。
「今回襲撃してきたものは数人を除き捕らえています。王国の方で引き取って貰えますか?」
「なんと、捕虜まで、これで村を襲ってきた事実を王国に伝えれます。ご協力感謝します」
アインズの案により生き残った襲撃者たちは全員は王国の方へと引き渡すことにし装備も色をつけて買い取って貰えた。これが他の貴族なら買い叩かれていた分彼への信頼が上がる。比較的協力的なロンデスやそれに近いものには温情を与えるように嘆願し王国に引き渡すことになった。
ついでに、王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフと副団長を交えての情報を交換しておきたかったが、今度は村を包囲する者たちが現れたことで中断された。
その集団の狙いはガゼフ本人であることをアインズが推察し、心当たりがあったのか、心底悔しそうに顔を歪めるガゼフは一度モモンガやレイナたちに助力を求めるが、それはこれから起こるであろう戦闘への加勢ではなく、自分の隊が奴らの注意を引くので村人たちを避難させてほしいと言うものだった。
断る理由のなかったアインズとレイナは承諾し、わかっていながら死地へと飛び込む彼らを見送った。
「もはや、ここまでだな」
ガゼフ率いる兵士たちの奮闘虚しく膝をつくガゼフに、馬上に乗ったまま他の陽光聖典隊長ニグン・は油断なく監視の天使を召喚しながらガゼフに対して天使による一斉攻撃を指示する。
最後を悟りながらも、天使の群れの間からガゼフが自分を睨み付けたまま天使に塗りつぶされるのを見届けようとして叶うことはなかった。
「そこまでにしてもらおう」
どこまでも重い男の声がニグンへとかかり、彼だけでなく周りにいる彼の部下や支配している天使がその動きを止めた。いつの間にかそこにいたのか4人の人影がガゼフたちと入れ替わるように現れた。
4人は対照的で声をかけてきた男のマジックキャスターは仮面を身に付け全体的に黒、その隣に立つシルエットから女性らしい漆黒の全身鎧を着込んだ戦士。もう一方は旅人らしい格好の女性で青が混じった白、そんな彼女の隣に立つのは純白の全身鎧を着た屈強な男。
姿も雰囲気も違う黒と白。対照的な彼らはニグンたち陽光聖典に立ちはだかった。