プロローグ
肉体を失い、刹那とも永遠とも取れぬ時間を、少年は過ごす。
目の前には様々な色彩で彩られており、それが無限に広がる世界で輝く、物語だと気付く。
数多の世界を彩る物語、それは……悲劇の物語。
——ある人は言った。死んでいく人を見たくない、と。助けられるものなら、苦しむ人々全てを助けることは出来ないかと。
元々、それは無理な話なのだ。
尽きることのない悪意と敵意により、繰り返されるのは憎悪の連鎖。勘違い、些細なすれ違いから起こる、争いの数々。
幸福の席は限られている。その席に座れるのはいつだって、全体よりも少ない人数。
相手が自分の意思や願いを尊重してくれるとは限らない。
当然、敵は尊重してくれない。
それが現実だ。
それでも。
世界にあるのは悲しみだけではない。たとえ花は枯れようと、枯れた花は腐って土に還り、またその上に花が咲く。
幸福も不幸も流転するもの。
この世界は不幸だけで構成されたものではないのだ。
目の前に広がる物語には、ヒーローがいた。
究極の闇に抗い伝説を塗り替えた戦士
創造主から人の運命を取り戻した戦士
自らの命を犠牲にしてまで戦いを止めようとした戦士
人々の夢を守るために戦った戦士
世界と友、どちらも救うために運命と戦う戦士
鍛え抜かれた、人知れず戦う鬼の戦士
神の如き速さで、時間の狭間で戦う戦士
時間を駆け抜け、時を守る戦士
相容れぬ人と魔のハーフとして生まれた戦士
二人で一人の、探偵にして戦士
どこまでも腕を伸ばす戦士
友と共に青春を生きる戦士
希望にして魔法使いの戦士
人を超越し、それでも人の優しさを信じる戦士
車を駆る、刑事にして戦士
死して尚、命を燃やす戦士
人々の命を救う医者にして戦士
愛と平和の為に戦った戦士
そして、最高最善の王を目指した戦士
悪意と敵意だけでなく、そんな悪意に立ち向かう世界の守り手たるヒーロー達がいた。
誰の心にもヒーローがいることに、誰だってヒーローになれることに気付いた少年は、託された力を片手に、夜明けへと進むために立ち上がった。
―――――――――――――――――――
この世界に、仮面ライダーというモノは存在しない。都市伝説にも、伝記にも、テレビの中の絵空事ですらない。
その名を知っているものは誰もおらず、人々の記憶に残ることも、認知されることもない。
果たして、仮面ライダーがいないことは喜ぶべきことなのか否か。
仮面で顔を隠し、その表情を偽りながら戦う人がいない、ということ自体は喜ぶべきなのかもしれない。
彼らの様な人が戦わないので済むのであれば、それに越したことはない。誰もがそう思うだろう。
が、彼らがいない=世界が平和である、なんて等式が成り立つわけではない。どうやら世界はそんな単純な作りではないらしい。
彼らがいなくても世界には悲劇が、悪意が満ち溢れている。
なら、もし彼らが、ヒーローがいたら平和だったのだろうか?
ヒーローが居るから平和、というのは論法としてありえない。
何しろ、正義の味方が活動しているという事は、彼らが戦わなければならない、すなわち、倒すべき悪が世界に存在しているという事になる。
もっとも、この世界に存在しているのは悪意だけでなく、まったく未知の超常の災害もあるのだが。
しかもその災害に関して、俺は一切の知識を持たない。周りにとっては常識でも、俺にとっては常識ではなく。俺にとっては常識でも、周りにとっては常識ではなく。
知識がない、というのは恐ろしいものだ。何が正しいのか、どう行動すれば良いのか、全てが不明なのだ、恐ろしくないわけがない。
人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害——ノイズには位相差障壁という物理法則から切り離された能力があるらしい。これにより、物理法則に則って人類が築き上げてきた叡智の結晶とも言える兵器はほぼ無意味と化した。
一応ほぼ、であり、効率を考えず絶え間なく攻撃を仕掛ける長時間の飽和攻撃によって殲滅は可能とのことだが、そんな攻撃を街中でしようものなら都市が機能不全になること待ったなしである。
ノイズとは即ち災害。災害相手に人間は殴る蹴る、なんて愚かな真似はしない。
有用かどうかはともかく、シェルターに引きこもり去るのを待つばかり。
政府に情報操作がされている様な気がしなくもないが、一般市民には知る由もなし。
仮面ライダーは存在しない。
でも、その力は、ここにある。
…………。
ああ、まったく。
彼らの代わりが、果たして本当に務まるのだろうか。
彼らの様に、人間の自由の為に戦えるだろうか。
「ーーーーーー!」
こうして、何処からともなくいきなり出現して、人々を炭素の塊にしてしまうモノが存在する、この世界で。
果たして、ライダーの記憶を人々に刻むことが出来るのだろうか。
―――――――――――――――――――
逃げ惑う人々を背に、少年は歩きながら目を細める。
逃げるのに夢中な人々はその場から離れることに、或いは足を動かすことに集中しており、誰も少年に意識など割いていない。
とあるライダーの力を借りて磁場を発生させ、監視カメラからその姿を消す。
油断なく、そして慢心なく、呟く。
「変身」
少年の腹部に、ベルトのバックルが浮かび上がり、周辺の地面は大きくヒビ割れながら巨大で赤黒く燃える時計が出現。
無数の赤黒い帯状のエフェクトが回転し、異形の姿を形成。
その姿は、人によっては悪趣味な高級時計のような印象を与えかねない装飾を付け全身が黒と金で統一されている。
その姿は見る者によっては『魔王』と印象付けることだろう。
「祝え」
様々な形のノイズに、少年が変身した異形がゆっくりと歩み寄る。
走ることはなく、王者の如き歩み。寧ろノイズがその異形へと駆け出していく。
その光景を見て、誰かが悲鳴をあげる。当然だ、ノイズに触れられた者は皆、抵抗する間も無く炭素へと変えられてしまうのだから。
故に災害。
故に避けられぬ死。
しかし、ソレは例外であった。
軍団と化したノイズが集まっていくが、ソレが片手を軽く振るっただけで大爆発を起こし雑音を一掃、更に自身の数倍の体格を持つ種類のノイズですら念動力の様な力で次々と投げ飛ばし、投げ飛ばした先でその存在を消し去った。
また手をかざしただけで、人々に襲いかかるノイズを時間停止したかの如くその場に静止させ、塵も残さずに消滅させた。
「侮るなよ、仮面ライダーの力を」
「仮面、ライダー?」
自分達の知らない単語に、近くにいた者達が繰り返す。
異形の姿を表す単語なのか、はたまた彼らを襲っていたノイズを消し去った能力を指す単語なのか。
何が起こったのかは誰一人として理解出来なかった。それでも、自分達は助かったのだと、その点だけは徐々に理解しだす。
「た、助かった……?」
「ねね、アレの写真撮っとこ」
「そうね……あれ?」
懐からデバイスを取り出し操作を始め、災害を駆逐した異形の姿を撮ろうとする。
瞬間。
その異形の姿は何処にも見当たらなかった。
―――――――――――――――――――
異形の姿を持つ黄金の戦士はそれ以来、突如として人々の前に現れた。
いや、ノイズが現れるとまた、その存在も現れた。
人々がノイズの襲撃で大混乱に陥っている最中、それは何も語ることもなく、ノイズの脅威に怯えることもなく、圧倒的な力でノイズを組み伏せた。
しかし、意外な事にその姿はどの記録にも残ることはなかった。
その姿をカメラなどに収めようとすれば、たちまちノイズのようなものが走り、まともに映すことが出来なかったのだ。
故に、世間にその存在を認知されながらもその姿が一切報道されないというあやふやな存在でもあった。目撃した者は確かにいる、が、証拠となるものが一切出てこない。
その為、マスコミは騒ぐに騒いだ。
その異形は何者なのか?
その異形は味方なのか?
その異形は本当に存在するのか?
それでも、皆が讃えたものだ。何故なら、これほど心強いものはなかったからだ。
災害であり、人の身ではどうすることもできない死の運命であったノイズを倒してくれる。あれほど恐ろしかったノイズを何でもないかの如く消し去ってくれる。
まるでヒーローだと。
正義の味方だと呼ばれていた。
皆がその正体に関心を持った。一体どのような人物なのだろうか、と。
しかし、彼が表に出ることはなく、ノイズの襲撃の現場に偶々いた記者の質問にも何一つ答えることはなかった。
そして、次第に。
より恐ろしいものとして、人々の目に映っていくこととなった。
なにしろ絶対的な力の持ち主だ。
どんな軍隊、政府であれ、ソレには敵わないのだ。むしろ、脅威とも言える。
あらゆる交渉、勧誘、果てには説得すら、ソレには通じなかったのだから。
その異形は、人々にとって正体不明な存在に映り、その疑いは加速する。
……理由など、語る必要もない。
一体どこの、誰が、何の見返りもなく、他人の為にその超常の力を使えるのだろう———?
『アイツは、きっと何か恐ろしい企みを持っているのではないか?』
『我々はあの存在の力に騙されているのではないか?』
『ノイズはアイツのせいで出現しているのではないか?』
疑心暗鬼がいらぬ風評を呼び、その風評はまるで真実かの如く広まった。
その結果が、ヒーローから魔王への転換。
こうして人々のヒーローであろうとした存在は、あっさり魔王へとジョブチェンジすることとなった。
これはきっと、その異形の誤算……であったのだろう。各国の政府は異形が恐ろしくなったのだ。
『この異形は、ノイズを殲滅する為に力を振るっているのかもしれないが———』
『いつか異形にとっての悪となれば、その力は此方に向けられる事になるだろう』
人々を助けるヒーローだと思っていた存在が、その実、破壊の限りを尽くす魔王だとしたら。
ノイズ以上の被害をもたらす悪魔だとしたら。
……だからこそ、政府は恐れた。
蹂躙されるノイズ達の姿は、未来の自分達の姿だと。
それでも、ソレは戦い続けた。
例え後ろ指を指されようとも。
特異災害対策機動部二課司令官、風鳴弦十郎は初めてそれを現実に視た時、恐ろしいと。そう言わざるを得なかった。
ノイズ襲撃の連絡を受け、更には魔王と呼ばれる異形の存在の目撃情報も重なり、司令自ら出向いた。
見極めねばならない。弦十郎は無意識に恐れる心から目を背け、現場へと急行した。
場所は某所の空き地。星々の微かな光が照らす深夜の闇の中、軍団と化した雑音と一人戦う魔王が居た。
深夜という本来なら静寂に包まれた時間帯。
ドン、ドン、ドン、と。
まるで爆発の中にいるかの様な爆音が、静寂を保っていた闇をを塗りつぶす様に大きく響く。
そして、弦十郎はその姿を遂に見た。
強い、極限的に。
その強さ、噂に違わぬ魔王の如し。
圧倒的な力を誇る魔王は、かつて人々を苦しめたノイズ達をそれぞれその手で直接触れることもなく掃討していく。
唯一ノイズに対抗できる装備と思われていたシンフォギアですら、この様なことはできない。
手をかざし、周囲にいた全てのノイズを消し去る。
その後に遺るものなど何もない。
風に吹かれた炭素が静かに空に舞う。
騒がしいほどの雑音は静寂へと変わり、ただ一人の勝者である魔王を包んだ。
物陰から一部始終を眺めていた弦十郎は駆け寄り彼を引き止めた。
「漸く会えたな、噂の戦士……」
突然現れた弦十郎にちらりと真っ赤な複眼?を向ける。
「ラ、イダー……?」
顔にセットされた文字を見て、思わず声に出して呟いてしまう。
一体どのような意味が込められているのか。それは何を意味するのか。
聞きたいことは山程あった。だが、弦十郎が聞こうとするとその存在はその場から立ち去ろうとした。
「待ってくれ! きみは……っ」
聞きたいことは確かに山程ある。が、一番気になっていたことを、彼は聞く事にした。
「なんで、風評を否定しない」
沈黙。
魔王は数秒の間を置き、視線を弦十郎から外す。何かしらの感情が込められている訳でもない。
無機質、とも言える視線。
人とは違うその姿からは、表情を読み取ることも出来ない。
「意味のないことだ」
「ほう、ならば聞かせてくれ。君の目的と名を」
「正義。仮面ライダーオーマジオウ 」
ライダーがいない? なら誕生させればいいじゃない!
なお、纏まるかは未定
オーマジオウを見た私の感想
最初「おっ、主人公の闇堕ちルートのやつかな?」
中盤「アドバイスするなんて元気なお爺ちゃんやな」
映画視聴後「あっ、あっ、あっ……」
最終回「(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..」
感想、質問何でもござれ
ドMなんで批判ですら喜んじゃうかも