最低最悪の魔王   作:瞬瞬必生

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先週投稿できなかったので、桜の木の下から初投稿です。



暗闇にて

──女の話をしよう。

彼女の両親は音楽家で、彼女自身はそのサラブレッドだった。

彼女の両親の夢は、歌で世界を平和にすることだという。

誰だって夢を見る自由はある。

 

大人だろうと子供だろうと、男だろうと女だろうと夢を見ることはできる。

こいつは決して非難される様なことではないだろう。

一人で見る夢もあれば、友と見る夢もある、家族で見る夢だってある。

途方もない程の大きい夢もあれば、手が届く範囲の小さな夢もある。

 

人の夢に優劣はない。

大きければいいものでもないし、小さければ悪いなんてこともない。

だがまあ、彼らの夢は大きい部類に入るだろう。

 

 

被戦地で難民救済を! なるほどそいつは立派だ。

歌で世界中を平和に! なるほどそいつは素晴らしい。

 

 

だが彼女に待っていたのは両親との死別。

平和とは真逆の結果が答えだった。

現実はいつだって残酷だ。

人の夢と書いて儚いと読む。

残された者には時として夢は悪夢になる。

愛別離苦、九腸寸断、立派な夢だったはずなのに、どうしてこうなった?

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

『俺たちが守りたいのは機密などではない。人の命だ』

 

覗き見しといてなんだが、こんな台詞を言える組織人はそう多くないだろうというのが素直な感想だ。

機密よりも人の命を守る……尊いことだが難しいことだと思う。

怖い組織なら口封じの為に消してしまう、なんて事もあるぐらいだ。

組織を構築しているのが人である以上、各位が見たくないものは見えなくなるし、不祥事などもってのほか。

……誰だって、失敗の責任は取りたくないし。

大きな組織であるが故に、ルールやしがらみに縛られて動けない、対処する力がないというのはよくある話だ。

 

シンフォギアという既存の兵器を大きく上回る力を所有する組織であれば、そのしがらみは相当なものだろう。

誰がそれを運用するのか、市街地での運用の仕方とその後始末、情報の規制、やる事はまぁ素人目でもてんこ盛り、盛り沢山ってやつだ。

そもそも、日本には平和憲法があることによって必要最低限度を超える戦力を持つことはできないとされている。

が、シンフォギアは恐らくそれ一つで必要最低限度を超える。

これが公になれば世論は大きく揺れるだろうし、外国もどう反応することか。

まぁ、いい反応はしないだろう。

政府のどこまで知れ渡っているかは分からないが、もし極一部の者しか知らないとするなら『こんな力を持つのは憲法違反だ、内閣はそれを隠していた……これは国民の意思を無視している! 解散しろ!!』みたいな野党からの内閣への総攻撃が始まるか、マスコミさんからのありがたいコメントが多数報道されるに違いない。

 

そんな難しい立場にいる組織のトップが堂々と人命優先というのだから、少しは信用してもいいのかもしれない。

実際、立花は軽くメディカルチェックをしてシンフォギアについての説明を受けた後、寮に帰されてたし。

あの後は無事立花から連絡があり、なんとか寮に帰ることができたと報告を貰った。

CDショップから逃げた後のことは所々ぼかしていたり、オーマジオウに会ったことや翼さん達に保護されたことは一切話されなかったけど、司令から話してはいけないと言われていたのでこればかりはしょうがない。

 

しかし、いやはやまさか立花や小日向が通う学校の地下に組織の本部があるとは思わなんだ。

いや、まぁ秘密基地は地下と相場が決まっているけれど、学校の地下とは普通思いつかない。

 

とりあえず、今まで不明であった彼女達の使う異端の力……シンフォギアについて多少なりとも知ることができたのは大きな収穫だ。

シンフォギアとは自衛隊特異災害対策機動部二課に所属する櫻井了子により開発された特異災害ノイズに対抗するための唯一無二の「兵器」。

シンフォギア・システムを作り上げた理論は櫻井理論と呼ばれ、なんでも研究界では画期的なもの……らしい。正直難しくてよく分かんなかった。

また、このシンフォギアなるものは聖遺物の欠片を利用しており、その欠片は立花の体内に埋まっている。

そして力を引き出す為には「歌」が必要不可欠とあるが、それは誰の歌でも良いという訳ではないらしく、適合係数と呼ばれる数値が一定以上ないと聖遺物が反応しないんだとか。

シンフォギア・システムの起動及び運用には歌が必要である事を踏まえると、立花達が通う私立リディアン音楽院の地下に特異災害対策機動部二課の本部があるのはそう不思議な事でもないのかもしれない。

そういった諸々の理由を考えれば、学校自体が二課の物……なのかな?

 

ひとまず、シンフォギアという装備には

一つ、歌が必要。

一つ、聖遺物の欠片が必要。

一つ、適合者なる者が必要。

一つ、特異災害ノイズに対する矛であり盾。

これぐらいか。

 

これらの性質上どうしてもすぐに量産するのは難しいだろうし、シンフォギアを全国に配備なんて夢のまた夢だろうが、それでも人の身で太刀打ちできないノイズ相手に対抗できる装備というものはそれだけで貴重だ。

対峙してみた感じ、戦力として申し分ない。

ただ、秘匿したいのは分かるけど戦闘をする度に歌を歌うのであれば秘匿するどころか、自ら居場所をバラしているような気がするけど、情報規制は本当に追いつくのだろうか?

 

ネットでの情報は規制することはできるだろうけど、友人や家族にその口で話されたら正直どうしようもないし、それがあちこちに広まって噂にでもなったら手がつけられなくなりそうだけど、それをカバーする為のオーマジオウは情報規制無しか。

オーマジオウの情報を隠蓑とするとは全く、いやらしい。

 

でも、シンフォギアがノイズへの対抗策なのは分かったが、そのシンフォギアを扱うのが立花なのが問題だ。

その聖遺物の欠片が立花の体内にある以上、誰かに譲るなり託すことは不可能だ。

 

そして、立花は戦う道を選んだ。

この力が誰かの助けになるのなら、と。

困っている人を助けたい。

己の身に宿った欠片でノイズを打ち倒せるのなら、己を犠牲にしても戦う。

尊いことであるけれど、果たしてそれは正しいのだろうか。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

立花がノイズと戦うようになって一カ月。

戦うと決意したのはいいんだが、側から見ていて正直気が気でないぐらい酷かった。

別に周りが何もしてないとかではなく、翼さんは常にアシストしているし、二課とやらのサポート体制も万全と言える。

俺が見えないところで手助けするのは、まぁちょっとだけ。

何が酷いのか。

立花の戦い方だ。

 

一応シンフォギアを纏うことで身体能力が格段に上がっているらしく、ノイズに対しての能力も相まってそれまで戦闘訓練を積んでいない素人の立花でも一応はノイズと戦うことができている。

しかし、シンフォギアを纏ったからといっていきなり戦闘のプロになったわけでもなければ、スタミナが無尽蔵になったわけでもないらしく、その力は本人に由来しているらしいので立花自身の身体能力がモロに戦闘に響いている。

 

現状、翼さんの様に「戦闘を行っている」とはお世辞にも言えず、 「逃げてる間に偶然倒せた」、「がむしゃらに腕を振ったら当たった」という有様で、戦い方に不安やムラがあるとかそれ以前の問題だ。

今まで普通の学生だった立花にそれを求めるのは酷というものだけど、これだったら正直現場に出さずに訓練に明け暮れていた方がマシなんじゃないかと思えるレベルの不安定さだ。

今戦線から離れてしまえば一時的には戦力ダウンかもしれないけど、事件後は元々翼さん一人だった訳だし、大局的に見ればプラスになると思うのだけど、どうなんだろう。

あちら的にはそれは許されざる状況なのだろうか?

 

翼さんに特訓してもらうのが一番の近道なのだろうけど、翼さんは学園生活にアーティスト活動、己の鍛錬にノイズ退治とハッキリ言って自分の時間が存在しているのか怪しいレベルで多忙な身。

かといって、俺がオーマジオウに変身して特訓をしてあげるのは問題がある。

俺が特訓をする事自体は別に構わないけど、まずどうやって特訓まで漕ぎ着けるか分からないし、どうやって鍛えてあげればいいのかが分からない。

プロのスポーツ選手が最高のコーチになれるかは別問題なのだ。

 

「難しいな〜」

 

「なになに、どうしたの総悟くん。溜め息なんかついちゃって」

 

おじさんは夕飯を作りながら、しかし視線はテーブルにうつ伏せている俺に向けていた。

本当は夕飯作るのを手伝おうと思ったけど、おじさんに「いいからいいから!座ってて」って言われてしまったので素直に待つことにした。

と、いっても、さすがに皿だしとかはしたけど。

それにしてもおじさん、手元見ないで料理とか器用だな……。

 

「んー、人に教えるって中々経験ないからさ。どうしたらいいのかなーって」

 

「教える、かー。確かに難しいよね。まず大前提として自分が分かってなくちゃいけないし、尚且つその人にわかりやすく伝えなくちゃいけないからね」

 

いや、まぁ、確かに。

そうだよね。

自分がわからないことを他人に教えるなんて事は不可能だし、なんなら間違った事を教えてしまう危うさまである。

はて、そう思うと俺は戦闘について教えられるほど知っていない。

やっていることといえば衝撃波を出して吹き飛ばしたり、武器を飛ばしたり……飛ばしてばかりだな。

別に殴り合いとかができないわけではない。

が、何しろオーマジオウの力のせいで大半はゴリ押しでなんとかなってしまうし、実際に戦いだすと、謂わゆる無我の境地とも言うべきか体が最適化された動きをするものだから頭で理解しているわけではない。

 

「それに教えてもらう側も一生懸命にならないと成り立たないから大変なんだよね。一方通行になっちゃうし」

 

まぁ立花は一生懸命やるだろう。

けれども。

立花が自ら戦いの場に出てきて、自分の命を賭けて戦うようになってしまった事に、やり切れない思いと不安はある。

できれば、偶然力を持ってしまったとしても、友達には血生臭い場に出て欲しくないし、似合わない。

これは心から思う。

何しろ、戦いとは基本的に負けたら死ぬのが当たり前なのだ。

戦闘不能になった人間をノイズがみすみす見逃すとは考えられないし、当然、炭素の塊にされてしまうだろう。

ゲームと違ってやり直しはきかない、リセットなんかできない。

そんな場所に、そんな行いの中に、何故友に居てほしいなどと思えるだろう。

 

だが、不幸な話ではあるのだが。

彼女は力を、シンフォギアという物を持ってしまっている。

それも、心臓付近に喰い込んでいる事によって現代の医学ではその聖遺物の欠片とやらの除去は不可能、俺の力でも無事に除去できるかは分からない。

ノイズに対抗できるという、珍しいを通り越して誰もが喉から手がでる程の希少さだ。

仮に戦わないという選択肢を選んでも、シンフォギアというものを持っている、というだけで、様々な事に巻き込まれていくに違いない。

人助けが趣味と公言している立花が、その時に我が身可愛さにさっさとしっぽを巻いて逃げてくれるかはわからないのだ。

国の特務機関に関わる以上、ある程度の力量がないとなんの抵抗もできずに死ぬ可能性すらある。

 

「頑張らなくちゃ、な」

 

「? もう解決したの?」

 

「解決はしてないけど、努力することにしたよ」

 

「お、いいね〜。努力はしないより、した方がずっと良いからね」

 

この先も戦い続けて生き残れるか分からない。

なら、戦わなければよかった、関わらなければよかったとでも言うのか?

シンフォギアという力を行使しなかったからと言って、ノイズや敵は見逃してくれるのか?

違う、それは絶対に違う。

結局、遅かれ早かれ立花は巻き込まれる。

なら、戦って、戦って、勝ち抜いて、その先にある「生きる」ということを掴むしかない。

死ぬよりは、ずっといい。

 

と、思ったこの時に。

 

「総悟くん、何処行くの?」

 

「あー、うん。行かなきゃいけないとこがあって」

 

「今から!?」

 

「うん」

 

「あー……、あー。そうなんだ……。夕食までには帰ってきてね」

 

……もう夕飯は完成してそうだったけど、見なかった事にしよう。

ノイズとはまた違った気配。

一体何事なのか。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

夜、公園。

雲のせいで月光も届かない世界、外灯によって照らされたその場所にはシンフォギアを纏った二人の少女と白銀の鎧を纏った少女が向かい合っていた。

彼女達以外いない公園は静寂に包まれてはいるが、それは嵐の前の静けさといった感じ。

アメノハバキリの少女──風鳴翼は、白銀の鎧を纏った少女へと、敵意を隠さずに睨みつけていた。

対する少女はそんな視線を受け流し、挑戦的な笑みを浮かべている。

 

「戦場にノコノコと素人を連れてくるたぁ、お気楽な奴らだな」

 

少女の声からは、挑発、煽りといった風鳴翼を嘲笑うかのような感情がありありとのっている。

敵対する意思をまるで隠す気が無いように。

 

「そういう貴女こそ、私の前にネフシュタンの鎧を持ってくるとは……いい度胸をしている」

 

「そいつはどうも」

 

「皮肉も通じないとは、愚者の類だったか」

 

風鳴翼の視線は更に鋭くなり、そんな様子を見てネフシュタンの鎧を纏った少女は大袈裟に肩を竦める。

 

「怖い怖い。冗談も通じないたぁあんたこそ愚者の類じゃないのか?」

 

一触即発。

そのやり取りを見ていたガングニールの少女──立花響はこの先に起こるであろう未来を予感して、それを止めるべく風鳴翼の腰へとしがみつく。

このままでは確実に二人は衝突する。

それも、ただの喧嘩などではなく命をかけたやり取りを、だ。

 

「待ってください翼さん! 相手は人です、人間なんです! ノイズじゃないんですよ!!」

 

ガングニールの少女、立花響はなお焦る。

ノイズの反応あり、と連絡を受けたことでこの公園へとやって来たはいいものの、肝心のノイズは居らず、どうしたもんかと風鳴翼と悩んでいた。

だが、周囲を探索して異常が無ければ帰還しようと話が纏った時、目の前の少女が現れた。

 

ノイズを倒す為、困っている人を助ける為にガングニールの力を行使しようと決意したのだ。

戦うことへの迷いは勿論あったが、それでも、誰かの命を助けられるならば、と。

そんな思いで協力をする事にしたのだ。

決して、人と争う為に、二課の協力を受け入れた訳ではない。

 

「止めてくれるな立花。二課所属のシンフォギア装者として、何より私の不手際で奪われた物を前にして、足踏みなどできない!」

 

「だったら話してばかりいないで、とっととやり合おうぜ!」

 

じゃらり、と。

少女は鎧と繋がる鞭を振り回し、不規則な攻撃が二人へと繰り出される。

風鳴翼は腰にしがみつく立花響を引き離してそのまま後方へと突き飛ばし、己はその場から飛び退き、攻撃を回避する。

突き飛ばされた立花響を他所に、そのまま二人は己の武器を手に戦い出してしまった。

 

「どうしよう、どうしよう、どうしよう……!?」

 

風鳴翼は、立花響がシンフォギア装者として戦うずっと前から鍛錬し、ノイズと戦ってきた。

この戦いも、何度も実戦を経験してきた風鳴翼なら何とかなるかもしれない。

それだけの実力があることを、期間はまだ短いながらも側で共に戦ってきた立花響は理解しているつもりだ。

彼女が手助けしなくても、風鳴翼なら謎の少女に勝てるかもしれない。

それに、私の不手際、と風鳴翼は言っていた。

立花響の知らない事情が絡んでいる事は容易に想像できる。

それでも。

それでも、同じ人同士が啀み合って戦うのを見たくなかった。

 

金属同士の生み出す甲高い音。

夜の公園に火花が煌めく。

 

ふと、慌てふためく立花響は、背後に何やら違和感を覚えて振り返ってみる。

立花響の感じた違和感の正体は、黄金の王であった。

わざわざ観察するまでもなく、その姿が先日目にしたオーマジオウである事は一目で分かった。

ノイズともシンフォギアとも違う、何処で何の為に生まれたのか由来も成り立ちも未だ不明な魔王。

それでも、前回、オーマジオウは自分を助けにきてくれた。

ならば、今回も……と、一縷の望みを掛けて立花は声をかける。

 

「あの! 助けてくださいオーマジオウさん!」

 

「…………」

 

しかし、オーマジオウからの返事はない。

それどころか、立花響の存在に気付いていないかの如く、視線は白銀の鎧の少女へと固定されており見向きもされない。

オーマジオウは微動だにせず、ただその場で白銀の少女を見つめる。

何度も何度も声をかけるが、シンフォギアを纏った立花響には見向きもしない。

 

「いや、あの、ちょっと! 聞いてます?!」

 

相も変わらず返事のしないオーマジオウに対して焦ったく思ったのか、立花響は腕を引っ張ってみるもまるで固定されているかのように動くことはなく、背中から押しても前に進むことはなかった。

遂には頭をポカポカと叩いてみるも、尚反応は無し。

もしかして置物……それとも寝てる? あまりにも動くことのないその姿から、そんな考えが彼女の頭に思い浮かぶ。

 

そんなふざけたやり取りに白銀の鎧を纏った少女が気づいたのか、腰から何かを取り出す。

反れた形から弓を連想するが、水晶部分から矢の代わりに光が立花響とオーマジオウに向けて打ち出された。

 

「ようやくお出ましか魔王。先ずはコイツらでも相手してな」

 

目の前には大小、形も姿も、色すらも様々なノイズの群れ。

人がノイズを繰り出し、尚且つ出したノイズを操っている。

今までの常識ではあり得ない光景に、立花響は勿論、風鳴翼ですら驚きを隠せなかった。

それは、オーマジオウですらも。

ネフシュタンの鎧を纏っているだけでも厄介だというのに、ノイズを操る聖遺物までも。

 

「立花に手を出すなぁ!」

 

「へっ! のぼせあがるな人気者! いつまでも誰これ構ってくれると思う……っガハッ!?」

 

ノイズが消失する音。

何かが叩きつけられた様な鈍い音と共に響く爆発音。

風鳴翼の目の前にいたはずの少女はオーマジオウに頭を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられていた。

叩きつけられた少女を中心にクレーターができており、オーマジオウは尚も手を離していない。

少女の頭を握ったままのオーマジオウはそのまま掌から衝撃波を放ち、更に地面にめり込ませる。

オーマジオウとの距離からして、まさか直接自分に攻撃されると思っていなかったのか、その衝撃をモロに受け、掴まれたまま衝撃波を放たれたことで受け流す事もできず、脳を揺さぶられる。

 

「ッちっくしょう!」

 

後頭部から地面にめり込んだ少女は、力任せにオーマジオウの拘束を引き剥がした。

引き剥がしはしたが、より正確に言うならば、少女が力任せに拘束を振り解こうとした時点で魔王──オーマジオウは手を離していたのだが、それを少女は知るよしも無い。

息を荒げたままの少女は少しでも息を整えようとオーマジオウから距離を取り、離れた位置で膝をつきながら、己の敵を睨みつける。

 

オーマジオウが一撃で倒そうと思えば倒せたという事くらいは少女でも理解できている。

過去に使用した能力などは飼い主である女性からある程度は聞き及んでいる。

今のが倒すための一撃であったのなら、気を失うどころか頭が原型を留めていなかっただろう。

現に彼女が出したノイズ達は全て消されている。

どんな状況であろうと自分を倒せると考えているからか。

明らかに舐められている。

少女の腹の中で沸々と怒りが煮え始める。

 

「やってくれたな……!」

 

「ノイズを出したのはお前か」

 

「あん?」

 

「お前だな──お前が」

 

「ッ!?」

 

何をされても十分に対処できる程度の距離を取ったつもりであったのに、何故かオーマジオウは自身の目の前に立っており、そのまま足を掴まれて恐ろしい速度で木々を薙ぎ倒しながら後方へと投げ飛ばされる少女。

無論、彼女の纏うネフシュタンの鎧のおかげで多少なりとも木にぶつかったダメージは軽減できているが、あくまで軽減されているだけであり、ダメージの蓄積はされている。

ネフシュタンの鎧の特徴はあくまで圧倒的な再生力であり、防御力を圧倒的にするものではない。

 

投げ飛ばされ、オーマジオウの反対側に着地する寸前に、その背を恐ろしい衝撃が襲い、少女は直前にオーマジオウに投げ飛ばされる時の数倍の速度で再び木々を砕きながら吹き飛ばされた。

半ばで折れた木に周囲を囲まれ、舞い上がる土埃の中から少女が見たのは、いつの間にか自分が投げ飛ばされた方向に立ち、前蹴りの姿勢を取っているオーマジオウ。

オーマジオウは自ら投げ飛ばした少女を上回る速度で先回りし、着地点で待ち構えていたのだ。

 

かつ、かつ、と、草が生い茂る地面で足音を鳴らしながら、先程までの速度が嘘であったかの様に魔王がゆっくりと歩み寄る。

思わず後ずさる少女に、オーマジオウは声に明らかな怒りを滲ませながら語り掛けた。

 

「お前の使うそのノイズを生み出して使役する能力……先のライブ会場や今までの数々の事件、引き起こしたのはお前か?」

 

「……ふん、だったらどうするんだよ」

 

精一杯の強がりか、やったとも、やってないとも言わずに質問で返す。

少しでも相手に情報を与えないようにするために。

だが。

それはここでは悪手であった。

 

「知れたこと。私が、今、この場で叩き潰す」

 

地面が抉れるほどの蹴りで跳躍、残像を残しながら少女へと向かっていく。

対する少女は肩部から伸びる鎖状の鞭で迎撃しようとする。

こちらに寄せ付けまいとする鞭の薙ぎ払い。

ただ寄せ付けまいとしているだけでなく、当たった箇所を削ぐ勢いで振り抜く。

鞭という武器の特性上、その軌道は読みづらく、それは熟練の戦士である風鳴翼ですら苦戦させられたほど。

 

鞭による薙ぎ払いが迫り来るオーマジオウに直撃する。

しかし、攻撃を当てた本人である少女には何の手応えもない。

真っ直ぐ向かって来るような残像を残しながら全て回避してみせたのだ。

 

「鞭による攻撃は確かに軌道が読みづらい。が、私にはお前の未来が見える」

 

薙ぎ払われた鞭がオーマジオウによって掴まれて、そのまま引っ張られる。

その強度ゆえに鞭が千切れることはなかったが、それが逆に仇となった。

顔面と腹部に重い衝撃。

引き寄せたオーマジオウによる顔面へとパンチと腹部への蹴り。

 

後方へと派手に吹き飛ぶ少女。

更に追撃として、オーマジオウの背後に浮かんだ武器群が次々に少女へと飛んでいく。

顔面に展開されていたバイザーは砕け、腹部の装甲も完膚なきまでに壊れている。

 

「あぐッ! ……クソ、何て力だ」

 

更に悲鳴を上げる。

傷口から侵入してきたネフシュタンの組織が、少女の身体もろとも取り込んで再生しようとしている。

通常であれば再生不可能と思えるほどの損傷を負っているはずではあるが、その特性故に回復し始めている。

 

「食い破られる前に……」

 

「食い破られる前に、どうする」

 

激しい打撃音。

血飛沫を上げながら吹き飛ぶ少女。

オーマジオウの拳が少女の脇腹に当たった瞬間。

破裂音。

拳から放たれた衝撃波が少女の体を弾き飛ばす。

 

「っ、~~!」

 

圧倒的な実力の差。

少女の蹂躙される光景に立花響は思わず声を失い、恐怖に囚われて動けない。

風鳴翼は恐れ慄き、モニター越しに見ていた二課の職員も恐怖する。

先日の風鳴翼とオーマジオウの戦いもまた、確かに苛烈ではあった。

しかし、これはそれの比ではない。

確かに真剣ではあった。

だが、本気ではなかったのだ。

 

完全聖遺物のポテンシャルを安易に超える力。

弱者の抵抗をあざ笑うが如き、魔王と呼ばれるに相応しい力。

理不尽なまでに圧倒的な力、そして、強固かつどんな攻撃でも減衰・吸収する柔軟さ。

それがオーマジオウ、それが最低最悪の魔王。

 

だが、これはあくまでオーマジオウの力の一端。

 

彼の扱うのは全平成ライダーの力。

すなわち特定のライダーだけでなく、共に歩んだライダー、その道を阻んだライダー、そして彼らの派生、強化フォームを全て網羅しているいう文字通り「全てのライダーの力」である。

 

「お前なんかが……」

 

血反吐を吐きながら、少女が激しい怒りの形相で顔を上げた。

 

「お前みたいなバケモノじみた力を持つ奴がいるから……争いが無くならねぇんだ! お前なんかがいるから……世界はぁぁぁ!」

 

「………」

 

少女が拳を震わせて叫ぶ、その声音と表情は憎悪に染まっていた。

痛みを押し殺し、少女の怒りに呼応するかのように鞭の先端に高エネルギーが収束されていき、やがて球体へと形状を変えて放たれる。

 

「消えちまえよッ!」

 

しかし、オーマジオウはその巨大な黒いエネルギー弾を片手で跳ね除ける。

 

「そうか……、今、楽にしてやる」

 

『終焉の刻!』

 

終わりを告げる音声が鳴り響く。

ドライバーのスイッチを同時に押し込むことで発動されるソレは、オーマジオウ最大の必殺技。

文字通り、「必」ず「殺」す「技」。

 

目に位置するライダーの文字はより赤く、不気味に光り。

背中の大時計「アポカリプス・オブ・キングダム」を展開することによってエネルギーが解放され、その余波で暴風の如き風が吹き渡る。

 

必ず殺す。

敵は殺さなければならない。

力を持っている者として。

目の前の敵を倒し、ノイズによる被害を無くす為に。

過去の被害者達に報いる為に。

 

「これ以上は不味いぞ!」

 

風鳴翼が駆け出す。

このままでは確実にネフシュタンの鎧を纏う少女が殺される。

ネフシュタンの鎧を纏う少女は確かに味方ではないが、殺してもいい、見殺しにしてもいい存在というわけではない。

何故ネフシュタンの鎧を持っているのか、ノイズを操れる物は一体何なのか、他にも協力者はいるのか。

聞かねばならないことが山程ある。

それに、話し合えば、刃を交える相手ではないのかも知れないのだから。

 

しかし、オーマジオウは既に技の体勢へと入っている。

風鳴翼は止めようとするが、もう、間に合わない。

 

『逢魔時王必殺撃!』

 

「っはああああああああああ!」

 

ライダーキック。

それは、仮面ライダーを代表する技。

キックという文字がネフシュタンの鎧の少女を囲み、ドス黒いオーラを纏ったオーマジオウが飛び蹴りを放つ。

キックの文字によって拘束されていることによって、避けることは叶わない。

誰もが少女の終わりを予感した。

 

 

しかし。

 

「ッな!?」

 

だが、当たる瞬間、オーマジオウのその姿が消えた。

突如現れた銀色のオーロラのカーテンの様なものがオーマジオウを包み、消してしまったのだ。

静寂が訪れる。

まるで、初めからいなかったの様に。

オーマジオウの策略なのか、それとも第三者によるものなのか。

それを知る者はここにはいない。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「いったい、どういうこと?」

 

辺りを見渡すと、一言でいうのなら空も木も無い謎の空間。

確実にさっきまでいた公園ではないし、あの少女の能力とも思えない。

その様な能力を持っているのなら、あのタイミングではなくもっと早い段階で使っていたはず。

勿論、翼さんでも立花でもない。

 

「ここは」

 

どこ、と言おうとしたタイミングで背後に気配を感じ、振り返る。

誰もいない。

 

「随分と派手にやってたな。そんなに敵を殺したかったか?」

 

「一体、誰……」

 

「俺か? 通りすがりの──」

 

かつ、かつ、と足音をたてながらこちらに歩いてくる。

ありえない。

何で、彼が、

 

「──仮面ライダーだ」

 

門矢士がここにいるんだ。

 

 




ようやくクリスちゃん、登場!


◯激おこな我が魔王
ノイズを操る、という光景を見てぷっつんしちゃった子
最大級のトラウマであるライブ会場の事件が連鎖的に思い起こされて魔王っぽい風になっちゃった
そう簡単には乗り越えられないのだ
前を向いているけれど、あの惨劇引き起こした奴は許せないなって感じ
前回が総悟成分多めのギャグ風な感じになってたし、今回は容赦のない魔王風でちょうどいいのでは?
でもオーマジオウって魔王なんだしこれはこれでいい気がする!
本家はレジスタンスをほぼ皆殺しにしてたし!
ドス黒いオーラと真っ赤な目がとってもオシャレ!
謎の少女は敵だからね! 仕方ないね!
このまま謎の少女を殺すと、人を殺した反動でどんどん容赦がなくなって、人の痛みのわからない魔王ルート一直線!
待っててね二期以降の敵さん達! みんなワンパンで殺してくからな!
打ち切りエンドじゃないからそうならないけど、そうしてみたい感はある
魔王ルートも書いてみたいなって

◯ちょっとおこ防人
激おこではない
自分よりも遥かに怒り狂ってるヤツを見るとなん多少冷静になるじゃん? そんな感じ
ネフシュタンの鎧を目の前に持ってくるとはいい度胸してんなぁワレ!?ってキレ気味だけど、奏が死んでないのでまだセーフ
やるべき事はネフシュタンの鎧を確保することであり、相手を殺すことではないと冷静に考えているので最後は止めようとした
冷静なのだよ(重要)
一期といい五期といい、翼さんは冷静さを失うと面倒臭くなるからなぁ
この小説では綺麗で頼れる先輩キャラでいきます

◯初めてのお友達
翼さんはいつもと違ってなんか怖いしでも相手は人間だから戦いたくない
でも結局翼さんと謎の少女は戦い出すしで困ってたら後ろにはなんとオーマジオウが!
オーマジオウえもん、なんとかしてよぉ〜って話しかけたらなんか無視されたし、押しても動かないし引っ張ってもダメ、だから頭をポコポコ叩いちゃう
その後は恐怖で体が動かなかった
今までは普通の高校生だったし、仕方ないね
彼女の戦いはこれからだ!
ちなみに、普段のノイズ退治は翼さんがめっちゃサポートしてくれてた

◯謎の少女
メインヒロインです
メ イ ン ヒ ロ イ ン 
なんかボコボコにされて殺されそうになってたけどメインヒロインです
主人公がメインヒロインと敵対するなんてよくある光景だし、これぐらいヘーキよな……?
フィーネに言われて響を拐いにきた
オーマジオウは倒してくれたら儲けもんだけど、無理やろなぁってフィーネに内心思われてる

◯通りすがり
ようやく初期から何で何でと言われた彼を出せたよ……
詳しくは次回ね


ここからはオリジナル展開とか増えていくだろうし、今回みたいにもしかしたら皆さんのお気に入りのキャラが不遇な扱い受ける可能性大です
人によってはついて来れないような内容になっていくので低評価とか押したくなるだろうけど、まぁ許して許して
許すついでに感想と高評価ください何でもしますから!

次回も、早いのか遅いのかわかりませんが気長にお待ち下さいな


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