最低最悪の魔王   作:瞬瞬必生

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歌の戦士

時折、まだ会話とかをしたわけではないのだが、ノイズと戦う人達——少女達を目にする。

ライダーの力のせいで忘れがちになるが、ノイズは災害であり人の身ではどうしようもない存在であり、逃げるのが最善の選択となる。にも関わらず、ノイズと戦えているというのはどういう事なのだろうか。

俺の調べた範囲では、圧倒的な武力を誇るはずの軍隊でさえノイズには手出しできないのが現状であり、市民はシェルターに避難するのが最優先で警察などはその補助をしているとばかり思っていたのだが。

 

それに、何故か歌を歌ってる。

兵士が行軍しながら歌う軍歌というものも存在しているのでありえなくは無いのかもしれないが、見た限り、軍歌とは明らかに毛色が違う。

そもそも、軍歌とは軍隊の士気の鼓舞や戦意の高揚を目的としたものであり、決して戦いながら歌うものではない。

それに対し、二人の少女は戦いながら歌を歌っていたのだ。

己を奮い立たせる為に歌う……というのは余りに無理がある。普通、それなら雄叫びとかではなかろうか。

 

それはさておき。

いったい彼女達は何者なのだろうか。

物理では対抗がほぼ不可能なノイズに対し、どの様な手段を用いて戦っているのか。特殊な装備によって対抗しているのか、或いは特殊な能力を持って生まれたのか。

しかし、仮に特殊な装備だとして、それが警察などといった組織に配備されてないのは何故なのか。コストや作成方法に問題があってまとまった数を配備できないのが一番初めに思い浮かぶものではあるが、はて。

特殊な能力は知らん。こればかりは人の手ではどうしようもない。想像すらできない。誰もが持ってないからこその"特殊"なのだ。それを人工的に増やそうとすれば、そこには人道的な問題が出てくることだろう。

どちらにせよ、自分以外にもノイズから人々を守ろうと立ち向かっている人がいるのだとと知れただけでも儲け物である。人々の為に戦っている人が他にもいるだけで非常に心強い。

 

しかし、ここで新たな疑問が浮かび上がってくる。

何故、彼女達の存在が公になっていない?

 

自慢ではないがオーマジオウとしての俺の存在は、この短期間で世界中へと広まってしまい、テレビでは連日報道されるようになってしまい、新聞、雑誌関連、SNSでも話題に上がらない時を探すのが難しいレベルへとなってしまった。

見たところ、どういった原理かは不明だが彼女達もノイズを倒せているので、然るべき認知度へとなっているはずと予想したのだが……

 

調べた結果、彼女達の情報、評判は一切なし、ニュースなどでも報道はされていない。

仮面ライダー、再び現る! なんて見出しの記事は探せばいくらでもあるというのに、

 

ノイズを倒す二人の美少女、現る!

 

なんて記事はネットのどこを探しても見当たらない。この手の話題に記者が食いつかない筈がないと思っていたのだが、ここまで彼女達に関する情報が無いのは余りに不自然だ。

まるで、意図的に消しているかのような……まぁ、考えたところで答えなど出る筈もなし。

疑問は尽きないが、彼女達が今後もノイズと交戦していくのであればいずれ接触する機会もあるだろう、その時にでも話を聞けばいい。

 

問題はこちらだ。

SNSなどで騒がれるのは元より承知の上だが、最近はニュースなどでも嫌な目立ち方が増えてきた。曰く、駆除すべきである、と。もしくは、捕まえて利用するのがよい、と。

笑えない話だ。

ネットで騒がれるのはどうということはないが、これが政府、諸外国が騒ぐとなると話は別だ。

対応が国家規模となれば警察、軍隊が出動してくることとなるだろう。

国家権力、これは不味い。

 

オーマジオウの力ならば警察、軍隊が集まってこようが問題なく対処できる。

が、対処できるからといって、無闇にそれらと戦うわけにはいかないのだ。そもそも、警察などを相手する前提として考えるのが不味い。

必要のない戦いは憎しみを呼び寄せる。憎しみが募れば再び争いが生じる。争えば、悲劇が生まれる。

 

ともかく、仮に国家権力が牙を剥いてきても、逃げるのが得策。

戦ってしまえば、それこそ魔王ルート一直線となる。

 

「うん、なんかやばい気がする」

 

朝食も食べ終わり、気づけば既に登校時刻間近、学校の支度をする時間を考えればゆっくりする時間はない。

自転車で急げば遅刻はしないだろうが、慌てて学校へ行くのはどうも落ち着かない。

 

「あ、総悟くん。今から登校?」

 

さぁ行くかと支度を整えると、台所からおじさんが弁当を片手に出てくる。

勿論、それは俺の分のお弁当。

学食、持参のお弁当、購買会でのパンなどの購入と幅が広いうちの学校。別に俺としてはどれでも問題ないのだが、おじさんは俺のために入学から毎日欠かさずにお弁当を作ってくれている。

つまり、おじさんは神的に良い人なのだ。

 

「お弁当、作っておいたからね。あと、急ぎすぎて事故らないようにね」

 

「うん、ありがと。気をつけるね」

 

車とぶつかって車を吹っ飛ばしては大変だ、おじさんの言う通り気をつけなければ。

最近はノイズの出現も増えてきたことだし、外には危険が沢山、これでみんな普通に過ごしているのだから本当に凄い。

元々は遭遇する確率が極端に低いノイズだからこそ一度ぐらい出現しても、それはそれでしょうがないと思うだろう。だが、最近はほぼ週一だ、低いどころか寧ろ高い気がするのは果たして俺だけなのだろうか。

人が死ぬかもしれない災害が頻繁に発生しているのに日常が変わらないのは人間は強いと喜ぶべきか、平和ボケしていると嘆くべきか。

 

無論、平日だろうが祝日だろうが授業中だろうがノイズが出現することもある今。授業中に出た場合、最初はトイレに行くなり保健室に行くフリなどして対応していたが、こうも頻繁だと怪しまれると思い、どうしたものかと考えた結果、クロックアップして倒すことに。

これは実に素晴らしい。

まず、周りに怪しまれることなく自由に動ける。感覚を研ぎ澄ませてノイズの場所を特定、その後に現場にワープし速攻で殲滅、クロップアップを維持したまま教室に戻り授業を受ける。

この手法により目撃者を減らすだけでなく、オーマジオウの正体が俺だという証拠を限りなくゼロにする。

流石にノイズが出たという知らせがある度に「腹痛いんでトイレ行ってきます!」なんてことをするわけにもいかないしね。

 

「いやー、でも最近はノイズが頻繁に出るけど犠牲者もほとんど出ないし、悪いことばかりじゃないんだね。総悟くんの日頃の行いがいいんじゃない?」

 

「いやいや、俺は関係ないでしょ。それに、ホントは出ないのが一番なんだけどね」

 

ノイズが出現することもなく、オーマジオウの力が必要な事態が無いことがベストだ。

変身することなく過ごせればいいのだが、これがまた難しい。

世界は未だ一つにまとまっておらず、互いが牽制し合う嫌な状況……世の中、乱れすぎである。

 

「本当にね」

 

「あれ、それ何の修理してんの?」

 

「これ? これは音楽の再生機械だよ。うち、時計屋なんだけどね〜」

 

台所から出てきたおじさんがうめき声と共に眉を顰める。

 

「そっか、まぁ、時計みたいなもんだし直せるんでしょ?」

 

「いや、まぁ、直せるんだけどさ……」

 

直せるんかい。

冗談で言ってみたのに、まさか本当に直せるとは思わなかった。

 

「そういえば、総悟くんってあんまり音楽とか聴かないよね」

 

「音楽?」

 

音楽。それを聞いて一番初めに思い浮かぶのは、やはり歌いながら戦う少女達のこと。

頭の後ろで手を組みながら考えていると、おじさんは何やらチラシを取り出し、こちらを見ながら口を開いた。

 

「最近はさ、総悟くんと同い年ぐらいの女の子達が人気らしいじゃない。総悟くんも聴いてみれば?」

 

「女の子?」

 

なにそれ、やっぱ、歌ってる子達はみんな可愛いアイドルグループとかそんな感じ?

しかもそれがまだ大人に片足も突っ込んでない年齢である俺とほぼ同い年?

ヤバイのでは?(語彙力の低下)

小さい頃から身体を鍛える事ばかりを優先してせいでそういった物に疎い俺ではあるが、それでもアイドルといった存在は尊いと思う。

癒されるだけでなく、希望を与えてくれる。彼女達の良いところを挙げればキリがない。

何人規模のアイドルなのか知らないが、やはり数は多いものなのだろうか? 戦いとは基本、数がモノを言う。アイドルグループ同士の争いもまた、戦いである。

……この戦いに、数は関係ないか。

 

「そうそう、ツヴァイウィングっていうらしいよ」

 

そう言ってチラシを渡してくれるおじさん。

ファンになるかは別として、一体どんな子達なのかは気になるものである。それが可愛いとなればなおさら。

おじさんから受け取ったチラシを見るとあら不思議。

 

「あれ?」

 

なんか、この二人。何処かで見たことあるような、ないような。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

都内、某所。

時刻は昼の真っ最中である十二時半。

これからお昼時だということで、休日ということも相まって、街には昼食を取りに行こうとする人々で溢れかえっていた。

そんな中での、ノイズの出現を報せるサイレンが響き渡る。

 

先程までの平和だった空間は一変。

政府によって設置されたシェルターへ避難する為、昼食を呑気に食べていられる状況ではなくなった。

先週にノイズが出たばかりだというのに、再び人々が集まる都内に現れるという災害の連続により、街は混乱していた。

 

本部からの報せを受けたシンフォギアの装者である天羽奏と風鳴翼は、現場に現れたノイズを殲滅する為、そして人々を守る為に街へと急ぐ。

最近は突如現れた"仮面ライダー"を名乗る存在によって被害が最小限にとどめられてきたが、だからといってそれは安心できる理由にはならない。まだ、彼女達にとって仮面ライダーが味方かどうかが分からないのだから。

その存在が人々を守る為に再び現れるとも限らない。もしかしたら、もう現れる事はないかもしれないし、寧ろ、人々を襲う……なんて事もありえないとは断言できないのだ。

 

仮面ライダーという存在の強さは、ノイズに対抗できるという点を除いても、その多様な能力から人智を超えていることは明白だ。

無論、彼女達が扱うシンフォギアもまた人智を超えてはいるのだが。

その強さがノイズではなく、人類へと向けられた時、果たして人々は対抗できるのか。

そのことに対して不安に思う者も多くおり、政府の中でも意見が纏まらず、進まない会議により時間ばかりが費やされるのが現状。

 

このまま傍観を続けるのか。或いは接触するのか。接触した後の対応はどうするのか。もし捕獲するのであれば、どのような手段を用いるのか。存在を危険視して駆逐するのであれば、何処で、どのような兵器を用いてやるのか。

 

天羽奏は政府の現状に対し、不安に思うことはあれど、責めるつもりはなかった。

人智を超えた、ノイズとは異なる未知の生命体。その存在に対し、正しい選択肢を短期間で選び取れ、という方が無理があるのだ。

 

だからこそ、彼女は彼女にしか出来ないことを、今、精一杯やろうと決めている。

今は一刻も早く、人々をノイズから守ろうと現場へと急ぐ。

 

到着するとそこには、逃げ遅れた市民と、それを襲おうとしているノイズの集団。

それを止めようと、相棒である風鳴翼と共に胸に浮かぶ歌を歌う。

彼女達が持つ、人類がノイズに対抗する唯一の力。

しかし、手の中に既に備えていたペンダントが、彼女達に戦う力を与える鎧となるのはほぼ同時。

だが、僅かではあるがタイムラグはあり、その間にもノイズは人々が襲うのを止めることはない。

 

間に合わない。

止まることはないと知っていても、制止の声を上げてしまう。

ノイズが人々に触れる直前、その場にいたノイズの集団は一斉に上空へとその身を投げ出されて消滅することとなった。

まるで、物理法則を無視したかの如くノイズの動き。

 

唖然とするのは助けられた市民達だ。

昼間の住宅街のど真ん中の、あまりにも不可解な出来事。

或いは突如として現れた、自分達を襲うノイズの集団に対してか?

いや、違う。

 

「やはり、ノイズとやらは此方の都合など関係無しに何処へでも現れるのだな。何処にでも現れるというなら人の居ない所へ出ろ、人の居ないところへ」

 

その声と共に現れたのは、黒と金で彩られた鎧を纏う、仮面ライダーを名乗る者。

この場において、その存在を知らぬ者はいない。

風鳴翼はその姿を見た途端、己のアームドギアである刀を手に持っては構え、視線をそのまま仮面ライダーから外さない。

天羽奏もまたアームドギアを手に持ってはいるが、風鳴翼のように構えを取ることはしなかった。

 

「ほほう」

 

ざり、と、足元を擦りながら振り返る仮面ライダーが笑う。

 

「お前達がノイズに立ち向かう者達か……歌はどうやら私の空耳ではなかったらしいな」

 

非常に落ち着いた声。

先程までノイズと戦闘をしていたはずなのに、息を荒げる事もなく、まるで往来で友人に会ったかのような落ち着き様。

その様子に、風鳴翼は恐怖した。

 

「貴様の……貴様の目的はなんだ!?」

 

「落ち着け、翼」

 

アームドギアを向ける風鳴翼を手で制止し、一歩前へ出る天羽奏。

 

「悪いね、あたしの相方はマジメなもんでねぇ」

 

「気にするな、私は気にしない」

 

「でも、アンタも悪いんだぜ? いきなり現れてはノイズを殲滅。正体を明かすこともなく消えては、またノイズを殲滅。みんなの不安も汲んで欲しいものだけど」

 

「ふむ、此方にだけ正体を明かせとは不公平なことを。では貴様らも何故表舞台に出てこない? ノイズの対抗策として市民に認知されてない様だが」

 

肩をすくめて、やれやれと大げさに首を振る。

仮面越しである為に視線が伝わりにくいが、その視線は市民へと向けられており、つられて彼女達の視線もまた市民へと向けられる。

 

「で、どうする。王であるこの私を捕らえるのか?」

 

「王とはまた強く出たもんだ」

 

「不思議なことではない。この世界に生まれた時から王の資格を与えられた、生まれながらの王である」

 

何を言ってるんだ? とばかりに怪しげなモノを見るような視線を二人は送るが、仮面ライダーは気にした様子もなく、二人を見ることなく周りを眺める。

明らかな隙。

わざとか?

或いはそう思わせる為の行為か。風鳴翼とて、伊達に防人としてその身を鍛えてきたわけではない。幼少期から研鑽し続けてきたその技術は伊達ではなく、相手の様子からある程度のことは読み取れる程までに力を付けている。

 

(誘っている、のか)

 

仮面ライダーは明らかに、此方の出方を待っている。

 

戦闘するか、交渉するか。

どちらを選ぶのか、或いは他の選択肢を取るのかは、ほぼ現場の判断に任せられている。

たとえば、相手に交戦の意思があるのにも関わらず、上からの命令で交渉をしようとして倒されるなど愚の骨頂。

その点、彼女達は良い指揮官を持ったといえる。

 

「忍びとは、面白い者もいるのだな」

 

「っ!?」

 

もしもの時の為にと、随時到着した二課のメンバーが周りで待機していたが、それすらも仮面ライダーにはお見通しであった。

 

「私にも事情があるのでな、今日はこのへんで御暇させていただこう。──チャオ」

 

ぐっぱぐっぱと手を開閉させて見せながら、黒い煙を全身から噴出して消える仮面ライダー。

二人は、その姿が消えるのを見ていることしかできなかった。

 

 




エボルトォ!!!
実は私、エボルトが大好きなのです。あーいう悪役、良くない?

それはともかく、XVでは翼さんのメンタルがヤバイしらゼロワンではこっちのメンタルがヤバイしでもうヤバイ(語彙力)

高評価、様々感想、ありがとうございます! 嬉しすぎて、バーを二度見しちゃいましたよ。
これからも感想、評価、ドシドシくださいな!

あ、本当かどうかわかりませんが、ある方の話によると祝え! を感想でやると運営に消されるかもしれないらしいんで、これからは心の中で祝ってください。
皆さまの感想が消されるなんて事態、勿体無いんで!
それでは、私の趣味てんこ盛りではありますが、よろしければ気長にお待ちください

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