最低最悪の魔王   作:瞬瞬必生

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嵐の前

ちゃんとした接触とは言いづらい結果ではあったが、ノイズと戦っていたのは間違いなくツヴァイウィングの二人と見て間違いないだろう。

あの後も何度も現場で見かけたことから、ツヴァイウィングのそっくりさんが、たまたまノイズが出た現場で、たまたまコスプレをしていた、なんて事はないだろう。

あれからも、ノイズの発生が止まることはない。

学生生活の合間合間にノイズが現れるのは二度や三度ではないし、酷い時には国外に現れることもある始末。ここまでくると、ノイズの発生とその駆除は日常の一部として割り切るしかなさそうだ。

 

……本当はノイズと戦うつもりなんて無かったのだから、頻度の高い駆除を日常として扱うのは些か抵抗はあるけれど、こうも頻繁に現れるとなるとやはり話は別だ。

ノイズの発生頻度が教科書に載っている"稀に発生する"程度であれば、災害と割り切って関わることもなかったのだけど。

当然といえば当然だ。

俺も身分としては一介の学生。力があるからといって、この世全ての命を助けようなんて馬鹿げた真似はできない。

全国の事件、事故、災害現場に助けに行っていては俺の時間は皆無となり、それでは勉学どころではない。それに、何より学校に行かせてくれているおじさんに顔向けできない。

 

ライフセーバーの資格を持っている人間が、わざわざ休暇に砂浜で待機し、溺れる人がいないか安全確認するだろうか?

否である。

 

そう思っていた矢先に、ノイズの大量発生。

最初は、たまたま現場にいたから。

二度目は、実家近くだったから。

それからは周辺で不定期にノイズの連続発生。こうなってくると、動かないわけにもいかない。

いったい、ノイズと遭遇する確率は非常に低いというのはなんだったのだろうか。

 

そんな訳で、多少の無理はしつつも、学校生活とノイズの駆逐を両立した生活を送っている。

時折、その場で後処理をしていると撮影用カメラを片手にこちらに向かって全力疾走してくるマスコミや再生数稼ぎの某投稿者達が来るのは如何なものか。いくら頑張ろうと、撮影などできないというのに。

だが、彼らの命がけの撮影と、撮影に掛かるリスクに比例する様に広がる仮面ライダーの悪評は俺も新聞で確認できた。

 

マスコミに対して、一つも思うところがないと言えば嘘になる。

余波で建造物を壊したのも一度や二度ではない。

直したから許せ、というのは違うということはわかる。

だが、ちょっとばかり広範囲に爆発が起きたからといって直ぐに"仮面ライダーは魔王"とかいう悪意ある報道をせずに、公平性に満ちた報道を心がけてほしい。

そして謎の黒服共、ツヴァイウィングが出た時にだけ箝口令を敷くのやめろ。どうせなら仮面ライダーについても箝口令を敷いてくれ。

そしてノイズの危険性を鑑みてツヴァイウィングの鎧的な武器とかを量産して全国にくまなく配備して被害を最小限にしてくれないだろうか。

そしたら俺も普通に学生に戻るから。

 

冗談はともかく。

最近のノイズの大量発生をみるに、どうも自然発生とは言い難い。いかなり襲いかかる災害とは言えないレベルになってきている。

そして、問題なのはここからだ。

いや、ノイズの発生自体も問題ではあったのだが……。

ノイズの動きが統制されているように思える。

 

最初は動物か何かの類かと思い意思疎通を図ってみたが、意思の疎通の不可能。特性を理解しようと観察してみた事もあるが、基本的に人間のみを襲撃、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させようとし、発生から一定時間が経過すると自ら炭素化して自壊する特性を持つ、という教科書以上のことは分からなかった。

他のノイズが消滅しようが恐れることはなく、時には他のノイズと合体、もしくは分裂なんて事も見かけた事を踏まえると、知性を有しているか怪しいレベルで、『個』は無いに等しい。

そんなバラバラであったノイズの動きが急に統制されるなど果たしてあり得るのだろうか。

 

誰かに指示されている?

いや、指示されようとそれを理解するような知性は無いだろうし、第一に指示を出した人間が襲われかねない。

ならば学習した?

だが、知性なく、死を恐れないモノが果たして学習するのだろうか。

 

警戒しておくに越したことはないのだが。

果たして、ツヴァイウィングの二人の実力はどれ程のものか、という疑問が思い浮かんだ。

できれば、数の暴力をされようとも余裕で殲滅出来るぐらいの力を持っていてほしい。

もし彼女達の力がノイズ数体分しかない、というのであれば流石に心許ない。

 

彼女達の力……装備?でノイズを倒せるのは確認した。

歌は……どういった役割なのか気になるが、現状特に問題になるようなことではないので放置。

後は彼女達の後ろに付いている組織についてか。警察関連か、それを超える政府に連なるものなのか。

 

民間組織という線もあるか……いや、ないな。

彼女達が持つ力は民間組織が持つには大き過ぎる代物であるし、何より政府とマスコミが黙っているはずがない。

現状のノイズの対抗策として、他の国ですら効果が有るのか分からないシェルターを推しているぐらいなのだ。そんな中、民間組織がノイズを倒す手段を秘匿していたとなれば総バッシングは避けられまい。

となると、やはり政府関連か。

 

考えれば考えるほど、思考の沼に嵌りそうになる。

 

「……ツヴァイウィングか」

 

「好きなの?」

 

無意識に呟くように口にした言葉に疑問で返す声。

気付けば目の前の席に、パンをかじっているクラスメイトの少女がいた。

お昼休みということで、昼食を友人達と一緒に食べていたはずだが、どうやら食べ終えて自分の席へと戻って来ていたらしい。……パンを食べているのは、お弁当だけでは物足りなかったからか。

椅子の背もたれに体を預けながら顔のみをこちらに向け、首を傾げている。

 

「いや……なんかこの前おじさんに勧められてさ。どんなのかなって」

 

「私も未来にオススメされたんだよね。かっこいいからきっと気に入るーって」

 

「へえー、あの小日向が」

 

「それにそれに! 普通はなかなかチケットが取れないらしいんだけど、運良く取れたらしくて今度一緒に行くんだ」

 

「立花ってライブとかってよく行くっけ?」

 

「ううん、行くのは初めてだよ」

 

なおもパンにかじりつく立花響のその姿を見るに、彼女はライブなどといったものよりも食事を楽しむ姿の方が似合っているように思える。

別にこれは彼女がライブに似合わないだとか、食べ過ぎて太っているというわけでは決してなく、ちょっとした感想だ。

しかし、話を聞く限りではチケットは簡単に取れないらしいので、今からチケットを取ってライブに参加するのは難しそうだ。いや、潜り込むこと自体はできるが、ただでさえ悪評があるのにこれ以上悪評を広めるわけにもいくまい。

 

仮面ライダーオーマジオウ、人気アーティストのライブを盗み見ようとする!

なんて馬鹿げた悪評などまっぴら御免だ。

どこぞの週刊誌などは喜んで記事にしそうだが、そんな下らないネタを提供するつもりはないので絶対にやらない。

そもそも、ライブであの対ノイズ用装備を披露することはないだろう。もしライブで披露するのであれば、秘匿という意味を俺は覚え直さなければいけなくなる。

そう考えると、わざわざライブに行く必要もないだろう。

 

「今度、ライブの感想でも聞かせてよ」

 

「もっちろん!」

 

そうと決まればこちらも昼食の時間だ。ツヴァイウィング関連の事を考え込んでいたせいで、お弁当を机の上に出したにも関わらず、まだ一度も手をつけてない。

……食事が必要かどうかを問われれば、今の俺の身体には必要ない。

生体増強装置のおかげで、ベルトが生み出すエネルギーを生体エネルギーへと変換すれば食事をせずとも生きる上で必要なエネルギーは賄える。賄えるのだが、それだけを頼りに生きていくつもりは毛頭ない。

食欲は三大欲求のうちの一つ、それを疎かにするべからず。

 

それに、なによりおじさんの作ったお弁当は食べていて飽きることがない。

栄養バランスの考えられた献立の時もあれば、和洋のジャンルを問わずに俺の好きな物をとにかく詰め込んだ夢のような献立の時もある。

毎日作るのも大変だろうに、おじさんには本当に頭が上がらない。

 

「あれ、総悟くんはお弁当? 美味しそうー」

 

どうやら今日の献立は俺の好きな物を詰め込んだものであり、どんなお弁当なのかと覗き込んでいた立花響が目を輝かせている。

 

「でしょ? おじさんの手作りなんだ」

 

内容はハンバーグ、タコさんウインナー、唐揚げ、だし巻き卵、煮物、梅干し、そしてトドメのふりかけと、子供が喜ぶであろうパーフェクトな中身となっており、誰であろうと満点を出すお弁当だと思う。

それは立花響も例外ではなかったらしく、興味津々ですと言わんばかりにおじさんのお弁当を見つめている。

 

「……一口、食べる?」

 

「いいの!?」

 

「別にいいよ」

 

えへへーと喜びを隠せずに頬を緩ませる立花響。

こんなにも美味しそうに食べるのならば、作ったおじさんも報われるというものだろう。いや、決して俺が不味そうに食っているわけではないのだが。

食事を楽しむのはいいことだ。

彼女のような笑顔を守るために戦うのいうのも、悪くないのかもしれない。

そう思うと、みんなの笑顔の為に戦った戦士は素晴らしい人間であったのだと再認識させられた。

 

 

 

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「だいぶ、データは揃ったわね」

 

己の纏めた資料を参照しながら、櫻井了子……いや、"フィーネ"は満足そうに呟く。

 

ノイズ程度では相手にならないことは既に理解していたがために、オーマジオウを倒す目的ではなく、データ取りのために運用した。

映像に残らないという点は非常に厄介ではあるが、映像に残らないならば残らないなりに、やりようはある。

彼女は考えもなしにノイズを大量に発生させていたわけではない。

データが足りないなら、その分、多くオーマジオウとやらに戦闘させればいい。その考えのもと、彼女は様々なタイプのノイズを、異なる時間、異なる場所、異なるシチュエーションで試してきた。

 

「これで全部だったならいいのだけど、そんなわけないでしょうね」

 

陳列された能力に目を通し、ふん、と、不満げに鼻を鳴らす。空間転移、時間制御、高速移動、衝撃波、爆裂、などなど。

腹立たしい事に、オーマジオウの力はフィーネを上回る。それを理解しているのは他ならぬフィーネ自身だ。

彼女は、はっきりと言えば『戦う者』ではない。

勿論それは、戦えない、ということを意味しているのではなく、それを極めた者ではない、という意味合いだ。

彼女とて、そこいらの人間に負ける気などなく、寧ろ束になったところで返り討ちにすることすら可能ではあるが、()()だけは別だ。

 

忌々しい、と爪を噛む。

何を間違ったのか、この世の理から外れたかの様な存在であるオーマジオウが現れたのが事の始まりだった。

 

当時は、シンフォギアに相当するものが現れた、程度の考えだったと思う。

現代の技術では、ノイズの特徴である位相差障壁を無効化して攻撃するなどシンフォギアシステムしかなかったのだから、珍しいものが現れたもんだと思っていた。……シンフォギアシステムが現代の技術かと問われれば、回答に困るが。

ノイズ自体は効率を考えず間断なく攻撃を仕掛ける長時間の飽和攻撃によって殲滅は可能ではあるが、それははっきり言って人類の自滅を意味するので考える必要もなし。

 

一体だけという点で言えばシンフォギアをも上回り、後の展開などを考えて、適当にデータ取りを終えたら処分するなりなんなりすればいい。

そんな見通しは、次々と報告されるオーマジオウの能力により瓦解していった。

 

空間転移、時間制御、高速移動。どれか一つですら過分な力だというのに、それら全てを操る化け物じみた能力。それどころか、まだ他にも力を隠しているという底の見えなさ。

突如として現れ、ノイズを手をかざすだけで消滅させ、謎の衝撃波で吹き飛ばし、炎と瓦礫の中で魔王の如く立ちはだかるオーマジオウの力。

あれに恐れてしまった官僚は多い。

 

いや、あのフィーネですら、オーマジオウの力に、仮面ライダーという存在に、恐れを抱いていたのかもしれない。

 

勝てないかもしれない。

 

だが、いや、だからこそ、わざわざそんな存在と真正面からぶつかる必要性など無いのだ。

報告によれば、オーマジオウは必ず、人命救助を優先しているとか。

そこに、()()()がある。

噂では、警官に拳銃を発砲されたこともあるらしいが、反撃するどころか気にもしなかったらしい。

 

「……貴様ほどの者が何故人間を助けるかは知らないけど、それは甘さよ」

 

計画を進める。

ネフシュタンの鎧の機動実験まで、あと僅か。

 

 

 

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雨が降り続けるなか、都内のスクランブル交差点前に設置された大型ビジョンにてとあるニュースが流されており、しかしてそれは、人々の雑音を伴奏に、ニュースキャスターの声がつらつらと垂れ流されるものだった。

 

『ツヴァイウィングのコンサート事件から数日。ノイズ、及びオーマジオウによる襲撃により多くの被害が引き起こされました。この事件により、オーマジオウによって()()()()()された人々は後遺症に悩まされており、今も病院で苦しんでいます。また、"生存者は責任を取って欲しい"という声が相次いでいます。何故生存者はあのようなことを平然と――』

 

『また、今回、初めてオーマジオウの姿をカメラに収めることができました。それがこちらです』

 

映像には、破壊し尽くされ原型をとどめていないライブ会場に、一人佇むオーマジオウの姿が映し出されていた――

 

 

 

 

 




みなまでいうな。わかってるわかってる。
次回ね、次回
多分次回で判明するよ、うん

では、少し質問が多かった部分と分かりづらかった部分の解説を
Q、なんで最初のとこでディケイド省かれてるの?忘れたの?
A、そこ、わざと省きました。わざと省いたって言えば、だいたい分かるよね??

Q、なんでオーマジオウが人々から恐れられてんの?助けたんだから普通崇められたり感謝されたりしない?
A、これは助け方の問題ですね。例えば、街中に連続殺人犯がうろついているとします。そこに、いきなり覆面した男がやってきて殺人犯を殺したらどう思います?
実際、未確認生命体四号は当初は警察に銃を撃たれたり、ライジングマイティによる爆発で問題視されてましたしね
今回の話の最後? それは……うん

返信が遅かったりするけど感想、質問なんでもござれ。
誤字報告、高評価、ありがどうございます!励みになります

そんなこんなで好き勝手書いていますが、それでもよければ次回も気長にお待ちください




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