時は遡り、ツヴァイウィングのライブ当日。
某市場近くで、およそ市場では聞くことはないであろう音が響き渡る。
鋭利な物が風を切る音、連鎖して響く爆発の重低音。
それらは俗に言う戦闘音と呼ばれるものであった。
市場という一般市民が集まる事を考えれば、当然そんな戦闘音などその場に似つかわしくない音ではあるけれど、これは何もそこに来た市民が出している音などではない。
その音の発生源となる存在は、世間から仮面ライダーと認知されている者と特異災害であるノイズ。
奇しくも、ツヴァイウィングのライブ兼ネフシュタンの鎧の起動実験という重要な日に
いつものように、ノイズの発生を感知したオーマジオウが現場へと向かう。
しかし、状況がいつもと違った。
通常であればノイズは近くにいる人間を炭化させるべく襲うか、或いは敵わないと知りながらもオーマジオウへと向かっていく。
ターゲットは違えど、まるで鉄砲玉の如く相手に一直線で向かうのが今までのノイズであった。
しかし、市場に現れた大小、形態違いのノイズが五十体。
人型、鳥型、そして見上げるほどの大型といった複数のタイプのノイズ。
それらはオーマジオウから距離を取るように、建物といった障害物の後ろに隠れるようにして取り囲んでいる。
事の始まりはこのノイズ達の出現。
人々が目を覚ましてそれぞれの生活を始めた出した時刻、雑音と共に現れたのが特異災害。
それを殲滅する為に現れたオーマジオウ。
市民達にとっては脅威ではあるが、オーマジオウの前には無力、そう、オーマジオウの変身者たる常磐総悟は考えていた。
そもそも、市民を襲うでもなくオーマジオウを取り囲むように動いている時点で犠牲者を出す心配をせずに戦える事を踏まえればいつもよりも楽とすら言える。
ノイズはオーマジオウを前に攻めあぐねているどころか、攻めてこない。
念の為に目の前のノイズへと発動させた予知能力ですら、奴らが距離を取るようにしか動かない事を告げていた。
猿のように身軽で、時には鳥の形へと姿を変えて逃げる。
だが、それだけだ。
そんな事をしようと捉えきれないなんて事はない。
ベルトから己の武器たる剣を出現させながら、近くにいたノイズを衝撃波によって吹き飛ばす。
己の仮面を模した『ギレードキャリバー』に『ライダー』の文字が記されているのが特徴な剣。
自己顕示欲が強すぎる武装を片手に、周りで様子見を決め込んでいるノイズへと斬りかかりながら突撃する。
持ち主とリンクしてシステム的な同一化を行うことで、主の能力に追随する形で常に最強の武器であり続けることができるソレの前に、ノイズは紙切れ同然。更にもう一振りの剣を出現させては合体、大剣へと変化した武器を振るい続ける。
交差、すれ違いざまに一刀両断。
この武器に斬れぬものなし、という程に絶対的な信頼があった。
拮抗は無い。
敵対するソレを捕まえようと伸ばしてきた腕は、人を炭化させる超常の腕。しかし、相手する者もまた超常。
伸ばされた腕を、大剣が、容赦なく斬り裂く。
紙でも裂くように、本来なら触れることすら叶わないそれを斬り裂いてみせた。
片腕を切り落とされようともノイズは止まることなく、残った腕で相手を捕まえようとするもオーマジオウはそれを許さず、今度は体に大剣を刺されることに。
「とっとと終わらせる」
がこん、という音と共にオーマジオウはスイッチを操作し、剣のフェイス文字が変化する。
そして、無機質な電子音と共に大剣へエネルギーが集まり、「ジオウサイキョウ」と書かれた長大な光の刃が形成される。
『キングギリギリスラッシュ』
体に大剣を刺されたノイズは当然、周りにいたノイズ達もその長大な光の刃によって斬り裂かれ、あれだけいたノイズをものの数秒で跡形もなく消し飛ばして爆発へと変えていく。
今回もまた、無事に解決できた。
だからこそ、彼はこの事態を大事に捉えていなかった。
連続で、ノイズが出現するまでは。
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いったい何が起きているというのか。
いつものように一箇所に複数のノイズが現れるのではなく、沖縄から北海道といった全国の様々な場所に連続で出現しては逃げるように立ち回っている。
出現したかと思えば人を襲うでもなくこちらを様子見するばかりで、かと思えば次第に人気の無い場所ばかりに出現するようになっていった。
人を襲わない、人気の無い場所に出るのは歓迎ではあるが、かといってノイズを放置するわけにもいかないので休む間もなく戦闘を続ける羽目に。
今は襲っていないからといって、そのまま襲わないとは限らないのだ。そのまま何もせずに消えるのであれば万々歳だが、問題はそうでなかった場合。
実際、俺が現地に到着すれば取り囲むように動くし。
いつもみたいに馬鹿で野蛮で知能のカケラも見当たらない人間絶対殺すムーブをすることもなく、距離を取ったり、或いは逃げ出すなんて行動を取るのはなんの冗談だろうか。
そもそも、何故今になって人気の無い場所に現れる?
たまたまその場所に現れた?
偶然、では片付けられない。一回だけならまだしもこんな連続で起こることを偶然とは言えない。
人間がターゲットではない?
建物などの物を一切壊さずに、動物に目を向けることなく人間だけを執拗に狙っていたノイズに他のターゲットなど存在しているのか。
俺を狙っている?
そもそも、俺狙いならばいつものように馬鹿の一つ覚えで突撃してくるだろうし、何より全国に出現する意味がわからない。オーマジオウ=常磐総悟と認識しているかは知らないが、仮に認識しているならば自宅付近に連続で出現するはずだし、もし認識していないにしても全国に出現するなんて無駄な行動を取らずに一箇所に連続で出現すればいい。
このノイズは本当に自然発生しているものなのだろうか。いや、いつもいきなり現れるノイズも自然発生と呼んでいいのか知らないけど。
どんな災害にも原因はある、予兆も一切ない災害なんてものはない。
雲一つない空から雷は落ちてこないし、東京の真上にいきなり台風が発生するなんてこともない。
もっとも、だから"特異"災害なのだと言われてしまえばそれまでだけど。
人為的だ、と考えるのは俺の思い込みなのだろうか。
そんな考えを頭の片隅に、ひたすら戦い続けていると、ふと、視界の隅に少年が映る。
「────っ!」
ぷるぷる、と、木の裏に隠れて声が出ないよう口を手で塞いでいる。
逃げようにも、どうやら腰が抜けて動けないらしい。
腰を抜かした原因は、特異災害として知られるノイズと魔王と報道されているオーマジオウ、それらを目にしたせいだろう。
臆病者、とは言えまい。
恐怖するなと言う方が無理がある。
今いるこの森はハイキングコースで有名らしく、街からそう遠くないという事を考えれば、人がいてもおかしくはない。
子供が一人。親や友達とはぐれたのか、或いは本当に一人で来ていたのか。
放置するわけにもいかないので少年の方へと駆け、ノイズへと向き直る。
少年を背に、戦い続ける。
既にノイズの数も多くない。
その場にいたノイズを殲滅し、少年の方へと向き直って声を掛ける。
「無事か、少年」
「え、あ、うん……」
「早くこの場から離れろ。ノイズが再び出ないとも限らん」
まだまだ幼さの抜けない、恐らく小学生ぐらいの年頃。
あまり関わっても怖がらせるだけ、と思うのは、少年の顔が今にも泣きそうだからか。
「街へ……なに?」
新たに感じたノイズの気配。
場所はこの上空と、ツヴァイウィングのライブ会場。
上空はいい。だが、ライブ会場はここからでは遠すぎる。ワープを経由しなければ時間がかかり過ぎる。
いかに高速でこの場のノイズを倒しても、多少なりとも会場へ着くのが遅れてしまう。
「クソっ!」
―――――――――――――――――――
同刻。
ツヴァイウィングのライブ会場は混乱の坩堝と化していた。
ライブ会場に、同時多発的に出現した、優に百は超える特異災害『ノイズ』。
事の始まりは会場の一部の爆発。
ツヴァイウィングの公演の裏側では、ライブ会場の別室に設けられた実験室にて特異災害対策機動部二課による、完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」の起動実験が行われていた。
「ネフシュタンの鎧」の起動には成功したものの、直後、ネフシュタンから膨れ上がるエネルギーを安全弁が抑えきれず、 暴走。
これにより実験室は倒壊することとなった。
暴走の余波は当然会場にも伝わり、爆発という形で現れた。あまりにも突然の事態に、会場全体が騒然として誰も動けずにいた。
それはステージにいた天羽奏と風鳴翼も同様であり、曲の流れを無視し、歌を中断して食い入るようにして爆心地を視線を向けていた。
会場の人々は混乱、不穏な空気が漂い始めたその瞬間、異変に最初に気づいたのはツヴァイウィングの二人だった。
風に流されてきた煤を捉えて、二人の背筋が凍る。
「──これは、まさかっ」
「ノイズが、来る──!」
二人の口から零れた言葉通り、爆心地の近くに突如としてノイズが現れ、近くにいた人々は炭素の塊に変えられ、粉塵となってその場で崩れ落ちた。
次いで爆煙が晴れて観客たちも、目の前で炭素の塊へと変化した人だったモノを目にして、理解をせざるを得なかった。
「ぉおりゃっ!」
がっ、と、身の丈ほどある槍を持った戦姫の突きがノイズの胸部に直撃。
人間の複数人分の巨体を持つノイズはその突きに耐えきれず、身体を炭素へと変えていく。
しかし、五体、十体倒そうがその後ろからはその倍以上の数のノイズが押し寄せてくる。
槍を持つ戦姫、天羽奏は焦っていた。
今回の公演は、司令である風鳴弦十郎からネフシュタンの鎧の起動実験を兼ねた大事なものだと聞かされていた。
全て上手くいっている筈だった。
ライブの盛り上がりは絶好調であり、耳にはめた通信機からは成功を報せる声も流れてきていた。
完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を起動・解析することが出来れば、櫻井理論をさらに発展させ、 より効率的なノイズの対抗策を打ち出す事が可能になる。そうすれば、ノイズによる被害を今以上に減らす事ができる。
だというのに、現在は司令達との通信途絶。
加えて、後天的な適合者である彼女は、この実験の為にギアの制御薬「LiNKER」を断っていたのだ。
それのせいで己のギアたるガングニールの出力が上がらず、苦戦を強いられていた。
圧倒的なノイズの数、それにより相棒たる風鳴翼とは距離を離され、連携もままならない。
だが、この状況で、相棒と合流することは不可能だ。
「くそっ、時限式はここまでかよ!」
ギアの出力は徐々に落ちていく。
弱音を吐こうとも、右も左も前後もノイズだらけなのは変わらない。天羽奏が今いる場所はノイズの発生源近くであり、無数のノイズが蠢く群れの中だ。
これだけの数のノイズを、数瞬で殲滅する程の力はない。
この騒動も、時間を掛けさえすれば対処できない事もないかもしれない。
ノイズは一定時間を経過すれば炭素化して自壊する運命。
いつか現れる仮面ライダーに後のことを任せれば、なんとかなるのかもしれない。
それでも。
その瞬間までに、どれほどの犠牲者が出るのか。
だからこそ、立ち止まれない。
地獄ともいうべき光景が、目の前に広がっている。
会場の至る所から悲鳴が、絶叫が聞こえるのだ。
ノイズに襲われ、為す術無く殺されていく人々の断末魔が、戦姫を、天羽奏を戦わせる。
「きゃぁぁぁ!」
直後、背後から瓦礫の崩れる音と共に生存者の声が聞こえてきた。
「あっうっ! 痛たたた……」
「大丈夫か!?」
「あ、危ないッ!」
天羽奏の背後から、ノイズの攻撃が迫り来る。
会場は未だ混沌の最中にあった。
だが、それもそう長くは続かないだろう。
多くの被害を出し続けるノイズの群れは、徐々にだが減りつつある。
多くの犠牲者を出し、しかし、程なくして、ライブ会場の混乱は収まるだろう。
しかし、その結果。
この会場から生きて帰る事のできた装者は──たった、一人のみ。
次回で分かるといったな、あれは嘘だ
いや、これ以上だとキリが悪くて長くなっちゃうし、投稿も遅れちゃうからという言い訳をさせてくれ
週一を心掛けているので……週一って難しいね
次回かな、次回。
オーマジオウの能力関連も多分説明します
ライブ会場のやつをちゃんと描写してから説明したいしね
もし忘れてたら説明してないやんか! って怒ってください
あと、いつも評価、感想などありがとです。返信とか遅いけどこれからもドシドシくださいな
さて、xvもいつのまにか次で最終回。まだ十二話観てないけど……終わってしまう……
いや、まだだ。まだ終わらんよ。
シンフォギアは終わっていない!諸君らの気高い理想は決して絶やしてはならない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々と共にある!シンフォギアの真理はここだ!皆!バエルの元へ集え!