「心配したんだよ〜ホントに」
とりあえず服と髪を乾かしてから家に帰ると、おじさんに予想通り心配されていた。
「大丈夫だよ、怪我とかしてないし」
ノイズから攻撃されようがオーマジオウの耐久性なら炭素にされたりすることはない。
また、ノイズは物理的な攻撃手段を取ってくる訳でもないから、ハッキリ言って炭素化だけどうにか出来ればそれほど恐ろしいものではない。いや、それが普通出来ないから恐ろしいのだけど。
でも、オーマジオウだから大丈夫なんて言った日にはおじさんはストレスで倒れるに違いない。
なんせ、世間はオーマジオウの話題で持ちきりなのだから。もちろん、悪い意味で。
「外寒かったでしょ? お風呂沸いてるから入ってきなさい」
「んー、夕飯食べた後でいいよ」
「髪の毛濡れたままだと風邪引いちゃうよ」
「じゃあ入ってきまーす」
そういえば髪の毛は乾かしてなかった。
家の前で服だけは速攻で乾かしたはいいけど、髪の毛の事までは考えていなかった。
別に風邪を引く前に自力でなんとか出来なくはないけどおじさんの親切を無碍にするのは失礼だし、ここは素直にお風呂に入ることにしよう。
部屋に戻り、荷物を置いてお風呂場へ。
ポケットから端末を出して着替えと一緒籠に入れようとして、ふと、SNSのアプリを開く。
先のライブ会場の惨劇について軽く調べてみるも、出てくるのは頓珍漢な情報やオーマジオウがどうたらこうたらと叫んでいるものばかり。
あの場で戦っていた二人については、表の顔しか報じられていない。
「やっぱり、か」
情報の規制、制限。
まさかあの人数の情報制限となるとやはり絡んでいるのは国と考えるのが妥当か。
どのような手段を取って規制しているのか知らないが、その隠し具合はお見事という他ない。それが良いのか悪いのかはともかく。
しかし、他の情報は規制しているくせに『オーマジオウ』関連について規制しないとなると露骨だな。
対応出来なかった政府からのヘイト移しに見えなくもないが、実際、俺も被害を出したんだし無理もない。
俺は悪者じゃありませんーなんて声明を出すわけにもいかないし……。
今までより少し恨まれるだけだ、なんということもない。
脳裏に思い浮かぶのは人々の悲鳴と肉を斬る感触、そして、視界に映った手負いの天羽奏に庇われる胸に傷を負った立花。
小日向とライブに行く、と、この前聞いたばかりだった。
テストも近いのによく行く、とはあえて言わなかった。
ライブに行ったところで成績に大きな影響があるわけもないだろうし、努力でどうとでもなる範囲だ。
「……」
口を開いて、言葉が浮かばず、閉じる。
いったい何を言おうと思ったのか、自分でも分からない。
何かを言おうとしたが、何故、何かを言おうとしたのかもわからない。
独り言を、いや、泣き言をここで言ったところで何かが変わるわけでもない。
少しだけ、混乱している。
ガラッ、と、扉を開けて風呂に入る。
夕食の時刻も近いことだし、あまり時間も使いたくないし湯槽には入らずシャワーだけ浴びてさっさとあがろう。
―――――――――――――――――――
おかしい。
風呂場の鏡が曇っていて俺が映らない。
別に風呂場の鏡が湯気によって曇ること自体は何らおかしくはない。
しかし、本来なら鏡にシャワーを掛ければそこには服を脱ぎ、タオルすら纏っていない俺が映るはずなのだ。
不思議に思い、シャワーだけでなく水を操って絶え間なく鏡に水を浴びせ続けるも曇りは取れず、いよいよきな臭くなってきた。こうなれば此方も意地だと言わんばかりに能力を駆使して鏡の曇りを取りにかかる。
能力の無駄遣いだと言われるような気がしなくもないが、別に誰かが見ている訳でもないので遠慮なく使っていく。
仮に他人が俺の風呂を覗いていた場合は全く得にならないし犯罪なので素直にやめて欲しいものだが。
ここまでやり、ようやく曇りが取れ、少しばかりの達成感を感じながら、ふと気づく。
俺が映っていない。
「ねぇ、この世界にもミラーワールドはあったんだね」
俺の言葉を聞いたからか、それともタイミングでも図っていたのか、鏡にオーマジオウとなった俺が映り込んでくる。
もちろん、現実の俺は裸のままだし変身なんてしていない。
と、なれば結論は一つ。
しかし、なんでまたこんなタイミングで鏡像の俺が動き出したというのか、それも鏡を曇らせるなんてよく分からない手間をかけてまで。
しかし、鏡の俺は此方を見つめているだけで何か行動するでも話しかけてくるわけでもなく、何をしたいのかが分からない。
「……せめて何か言ってくれない?」
いわゆる、年頃の息子が反抗期を迎えて父親の事などを無視するのと同じなのだろうか。
ふん、いちいち話しかけてくんなよ親父、うっぜぇなぁ!
的な感じ。
がーん。
お父さんはそんな風に育てた覚えなんてありませんよ!
いや、鏡像の俺が息子って考えるのは些か無理があるし、反抗期だなんておかしな話ではあるのだけど。
それにこちらは裸だというのにそちらだけ変身しているなんていうのは不公平というものではないだろうか。
こっちが裸なんだからそっちも裸で来るのが礼儀というものだろう、いや、別に自分の裸だし見ても何も思わないし見たいとも思わないけどさ。
……自分の裸を見て何か思う人っているのだろうか。
自分に欲情。
生憎とそこまで精神に異常はないのでそのような事には決してならない。
そんな事を考えているうちに、鏡像のオーマジオウは無言で手招きをし、鏡の世界の奥へと消えていく。
どうやら、ミラーワールドへのお誘いらしい。
お誘いを断るという選択肢もなくはないが、それをした場合の鏡像のオーマジオウが何をしでかすか分からないので却下。
目的が分からない以上、ここで待っていても何も変わらないのであちらの誘いに乗るしかない。
「なんかまずい気がする……」
こちらもオーマジオウへと変身し、ミラーワールドへと足を踏み入れる。
自慢ではないが、今更多少の罠や小細工をされたところでどうにもならない程度の力は持っている。
漫画やアニメであるような殺気を感じるどころか、ある程度の未来なら見える、なんて、オーマジオウとなる前だったら『頭大丈夫かお前?』みたいなことも出来る。
故に、恐れることなく、誘いに乗り、ミラーワールドへと踏み込む。
反転した世界。
そこに人の気配はなく、あるのは静寂。
その静けさ故に聞こえてくる生理的耳鳴り。
家の外に出れば、そこには鏡像のオーマジオウ。
仮面で隠された表情は何一つ読めない。
不気味なほど真っ直ぐに、鏡像のオーマジオウが、現実のオーマジオウである俺を見つめてくる。
同じ自分だというのに、何故こうも威圧感があるというのか。
ああ。
なんとなく、分かってきた。
こいつは、俺と、ここで、戦う気だ。
―――――――――――――――――――
ミラーワールド、都内某所。
ビルや看板の文字など全てが反転した世界の中で、全く同じ姿の二体の黄金の異形が向かい合っている。いや、完全に同じというわけではないか。
一体はまるで鏡に映る存在の如く姿形が反転していおり、それは顔に描かれている『ライダー』の文字から見て取れる。
黄金の異形──オーマジオウは、どうするべきか内心困惑していた。
対する反転したオーマジオウは仮面に覆われた顔から表情を窺い知る事はできない。
「ねぇ、何で俺を呼んだの?」
『わざわざ説明する必要はあるか?』
そして、その声には感情が込められておらず、反転したオーマジオウが何を考えているのかを読み取ることができない。
「あるよ。訳わかんないからちゃんと説明してよ」
これにどういった意図があるのか、少年には理解できない。
『そうか』
肯く。
反転したオーマジオウはそのまま手をかざした。
それが何を意味するかは、自分であるが故によく理解していた。
今まで何度もオーマジオウがノイズ相手に奮ってきた力だ、その力がどういったモノなのかは誰よりも理解している。
オーマジオウもまた手をかざし、相殺するために己もまた同様の力を発動させる。
互いの手から衝撃波が放たれ、それは二体の間で相殺される。
金に縁取られた黒い重厚な装甲。
燃え盛る炎の如く、赤く不気味に光る眼に位置する文字。
その異形の存在は、異なる世界において、遥か未来に魔王として恐れられてきた最強で、最恐の存在。
オーマジオウ。
同じ姿。
同じ力。
同じ能力。
その二体がどちらもオーマジオウであるが故に、ノイズを蹂躙してきたその力は通用しない。
『ならば、力で説明してやろう』
反転した世界故、その世界には彼ら以外の生き物はその場に存在していない。
あらゆる制限を取り払われた能力を発動させ、互いの体を吹き飛ばし、そしてその肉体を燃焼させる。
が、その燃焼はすぐに沈黙し、衝撃波も意味をなさなくなる。
──それは、オーマジオウが、どんな奇跡かその力を受け継いだ一人の少年が、その記憶にある究極の名を冠するもの同士の戦いと、図らずも同じ構図。
誰一人として観戦者の無い反転した世界にて、異形と異形の、自分同士での壮絶な戦いが始まる。
―――――――――――――――――――
金属同士が生み出す鈍い音。
鏡像は迷うことなくオーマジオウへと突っ込んで目の前に発生した爆発を物ともせず、逆に爆発ごと斬り裂いてきた。
オーマジオウは慌てることなく突き出した大剣で鏡像の剣を受け止めるも、鏡像は乱暴にオーマジオウの剣を振り払った。
オーマジオウはその払われた勢いを利用して素早く体を反転、鏡像の脇腹に斬り込んだ。が、鏡像はその動きを読んでいたかの如き早業で、オーマジオウの剣を難なく受け止めた。
オーマジオウらは同時に剣を払うと剣からエネルギーの刃を伸ばして互いに構えを取り、必殺技を繰り出した。
高エネルギーの刃は真っ向から激しくぶつかり合い、互いの火力によってオーマジオウらは弾き飛ばされた。
しかし、滞空中にすら互いの手の中には銃が握られており、撃ち合う。
並の相手ならばそれだけで倒すに到る弾丸は空中で激突し、吹き荒れる暴風すら掻き消す。
風に揉まれ、どちらも受け身すら取れずにビルへと投げ出される。ビルはそのまま倒壊し、オーマジオウ達は瓦礫の山に埋もれる。
瓦礫の山から出てきた両名の見た目は、既に無傷。
どちらともなく立ち上がり、引き寄せられるかの如く走り出す。
オーマジオウが走りながらにもう一振りの剣を取り出し、合体させ大剣へと変化させる。
鏡像が走りながら、オーマジオウのそれと全く同じく大剣を手に持つ。
「はぁぁぁぁ!」
『せぁぁぁぁ!』
キングギリギリスラッシュ。
それはジオウの能力に追随する形で常に「サイキョー」であり続ける武器が放つ文字通りの必殺技。
「ジオウサイキョウ」と書かれた長大な光の刃を発生させ正面からぶつけ合う。
まさに鏡合わせの如く放たれた技が激突し、両者の大剣が互いを斬り裂く。
普通の人間が受けようものなら体が真っ二つになるであろう攻撃を受けたにも関わらず、尋常ではない防御力で耐えたのか、或いは再生させたのか傷一つない。
獲物を握り込んだままに、彼らは拳にエネルギーを纏わせて振り抜く。
響くは、鈍く、重い、打撃音。
互いの動きが驚くほど同時に繰り出され、カウンター気味に殴り合う。
同時に放たれた拳により、きりもみしながら再び瓦礫の山へと吹き飛んでいく。
「っ、~~! いったぁ……」
『──はっ、やはりお前は俺ではない』
今まで経験したことのないダメージに、思わず呻き声を上げてしまう。
……それはそうだ、本来、オーマジオウの圧倒的な防御力を前にダメージを与えるのは至極困難。どれほどの攻撃力を持っていようと、オーマジオウの能力によりそれを上回る防御力を手に入れてしまう。しかし、相手がオーマジオウだったら?
自分同士であるが故に、互いにダメージを与えることが可能となっているのだ。
「……どういうこと? 君は鏡の世界の俺でしょ?」
『確かに俺は鏡の世界のお前だ。だが、お前は俺ではない』
「意味わかんないよ」
オーマジオウは相手の意図が理解できず、自身でも分からぬ怒りに身を任せて、猛然と鏡像へと突っ込んだ。
その動きを予知していたのか、それを躱しながら斬り込んできた鏡像とオーマジオウとが鍔迫り合いとなる。
力はやはり互角。
対等であるが故に、鍔迫り合いは硬直状態となった。
『いつものオーマジオウを真似たふざけた口調はどうした? 使わないのか?』
「自分相手に使う気は起きないね」
『それにオーマジオウの力を何故使わない。この理不尽な世界が嫌なんだろ? だったらこの時空を破壊して新しい時空を創造すればいい』
重なる剣の向こうから鏡像の顔がグッと近づいてきた。
『お前は心の底で思ったはずだ……破壊してしまえばいいって』
その言葉が鋭い刺となってオーマジオウの胸をついた。
それは彼が心の奥底で考えてしまったことだった。無論、すぐにその考えを彼は放棄した。
しかし、完全に捨て去ったかと問われれば……否。
一度思ってしまった思考はそう簡単に消すことなんて出来ないし、ましてやそれを誰に相談することもなく一人で考え込む事によって余計に思考の沼へと引き摺り込まれていく。
仲間もなく、頼れる友人もいない。
……だからこそ、彼が来たのだ。
―――――――――――――――――――
考えてしまった。
この時空を破壊すれば、新しい時空を創造してより良い明日が来るんじゃないか、と。
そうすれば悪かった昨日は無くなったと慰めることが出来る。
この時空が消えればノイズがいなくなり、そしてオーマジオウがいなくなる。
人々にとってはそれこそが望む世界なのではないかって。
思ってしまった。
何故、ノイズなんてものが存在するんだ。
人だけを殺す災害なんてものがなければ、こんな惨劇はなかったというのに。
助ける為だったとはいえ、手足を斬らないで済んだはずだ。
俺がこうして戦う必要もなかったかもしれないのに。
これから、五体満足で逃げ延びた人々……立花へのバッシングが始まる。
ただ「無事に生き延びた」という理由だけで彼女らは迫害されていく。
ノイズによって死んだ者、オーマジオウによって手足を欠損させられた者。それらの人がいる中で、五体満足の人間にも渡される補償金。
己を優先させた者達による暴行によって多くの人が犠牲になったことも知っている。
……でも、立花はそんな事をしていないじゃないか。
何故悪くない彼女が責められるのだ。
許したくないのだろう、責めたくなる気持ちもわかる。
だが、あの極限状態の中で自分を優先するなというのは無理がある。
誰だって死にたくはない。
だけど、あの地獄の中で、なお生き残ろうと互いを励まし合って助け合った人々だっていた。
その、人間としての誇りを捨てずに足掻いた人を、何故責めることが出来る?
いくら俺が助けようと……
『ほらね? そういうとこ。最高最善を目指しておきながらお前が心で思ってる黒いことこそが、お前が聖人君子でない証だ』
鏡の世界の俺の言葉にギョッとする。
心を読んだのか、それとも俺だからこそ分かるのか。
『仮面ライダーになるなんて、お前には無理なんだよぉ。嫌だってんなら逃げちまえばいい。……お前がどうするのか、見せてもらう』
奴は俺を大きく突き飛ばして間合いを取る。
体勢が崩れ、視線が逸れる。
奴に視線を戻そうとすると、そこにはもう鏡像のオーマジオウはいなかった。
『ハイパークロックアップ!』
『Start up!』
『フォーミュラ!』
『高速化!』
『トライアル!』
無機質な電子音が連続で鳴り響く。
奴はいなくなったのではない。攻撃の体勢に移っただけだ。
俺は今まで味わったことのない、背筋に氷柱を突っ込まれたような悪寒を覚えた。
直感と未来予知が数秒先の未来に対して強い警告を発しているのだ。
奴は最悪のコンボで俺を倒そうとしている。
まずいまずいまずい。
やられる。このままでは確実に倒される。
俺も同様に加速のさらにその先の世界へと行く。が、既に遅かったようだ。
周りには
ああ、間に合わなかった。
『終焉の刻! 逢魔時王必殺撃!』
加速の加速……速そう(小並感)
書いてて、あれっ自分でも何を書いてるかよく分かんないや! ってなる時がくる
そして止まらなくなってまぁいけるべってなる
それが今回の話でした
まぁどんな展開になってるんじゃボケェと言われても消すのもどうかと思うのでこのままなのですが
修正はするかも
つまり、感想とか欲しいなって
返すの遅いのに欲しがっちゃう、ごめんね!
夜中にガンガン携帯が鳴って全く寝れんかった。緊急速報は切っておけばよかった
まぁ自宅でなんとかできてるので我がままと言えば我がままなのですが……道路の浸水はやばい。猫ちゃんがビックリして二階から降りてこなかったよ
そんなこんなで遅れました
あ、アンケートの結果なのですが、見たいという人が多かったのでボツネタも投稿しようと思います
ただ、投稿するタイミングはこの無印が始まる前の話が終わってから投稿しようかなと
ひと段落した方がいいだろうし、このペースならもうそろそろ無印始められそうだし
そして、ウィザードのタイムのことを忘れていた我。
いっそいで小説を棚から出して読み直してきました。
タイム……強すぎ! ノーリスク! ずるい!
以上! 閉廷!
いや、待って。石投げないで。冗談とかじゃなくて、晴人くんもヤバいから使うの自重するって言ってたし総悟くんも自重する
色々後書きに書きたい気もするけど、そんなことをする前に本編を書こうと思います
片付けのせいでまたちょい遅れたりするかもしれません、そんなこんなのssですがそれでもよければ次回もお楽しみに