幻想結界録 作:アナタは
「母さんや」
「何かしら幸人」
神社の屋根に寝そべりスキマから覗く金髪の胡散臭い綺麗なお姉さん、まぁ俺の母さんなのだが勿論血の繋がりはない。俺は正真正銘ただの人間でただちょっと素敵な術が使える一般人だ。そんなことを口にして言えば「お前が一般人な訳ないだろ!いい加減にしろ!」と白黒の男勝りなくせに意外と乙女というギャップの塊みたいな魔法使いが言ってくるだろうが俺はそう思わない。俺は霊夢ほど人間やめちゃいないからな。
空を見上げながらなんでもないように俺は言った。
「母さんの式神貸してよ」
「一応理由を聞いておくわ」
「モフりたい」
「やめてあげて」
胡散臭い雰囲気から一転真顔になる母さん。
おかしいな。俺のモフりテクはどんなケモ耳も落とすはずなのに。
「だからよ。貴方に尻尾を触らせたら最後あの子使い物にならなくなるじゃない。それは私が困るわご飯的な意味で」
「じゃあ神社で食ってけば?」
「あ、それはいいかも.......じゃなくてっ!鑑貴方にモフられた後どんな顔してたと思う?」
「あれだろ。やっぱり美人のアヘ顔ってそそるよな」
「何処で育て方を間違えたのかしら.......」
心外だな。尻尾をモフって俺は癒され鑑は気持ち良くなる。正しくwin-winの関係だというのに。
ペシっ、と扇子で頭を叩かれた。不満げな顔を隠そうとせず睨んでやると呆れ顔で溜め息をつかれた。
「貴方はちょっと手癖というか女癖が悪過ぎるわ」
「仕方がない。この幻想郷は可愛い女の子が多過ぎる」
「それで紅魔館のメイドに手を出してどうやってあの吸血鬼を丸め込んだのかしら?」
「うわぁ、ばれてーら」
「当たり前でしょう。それ以外に阿求に果てには貴方あの幽香にも手を出して.......流石に私も頭が痛いわ」
「これがいわゆるエロ本を親に見つかった子供の心境か。何だかこそばゆいな」
「おバカ。反省しなさい」
俺は悪くない。
妖怪達は人間とは比べ物にならない程長寿だ。
意外と人間っぽく乙女思考な妖怪もいるのはいるが基本的に欲に忠実で確固たる「自分」を持っている。
まぁ言ってしまえば暇を持て余した長寿である妖怪は認めて貰いそれなりに良好な仲になれば割と抱かせて貰える事が多い。
長い時を生き、色々なものを感じて生きてきた彼女達にとってそういう刹那的快楽はとても有意義な時間らしい。
俺が複数の女性と関係を持っているのは勿論言ってはいないが殆どバレているだろう。
.......初心な咲夜に関してはちょーっと狙った部分があった事は否定はしないが。
そんな事より幻想郷は今とても平和だ。
霊夢が鬼神のごとく悪さを働く妖怪をぶっ飛ばしそこらの弱小妖怪がビビったのと俺の実家である結界師の一族が人里で目を光らせているし何より結界術が十八番なだけあって有象無象の妖怪如きでは人里に立ち入ることすら出来ない。
そんな事もあってかここ10年ぐらいは実に平和だった。だからこそ目に付くのだ色々訳ありなやつってのは。
「ほんと、どこで育て方間違えたのかしら.......」
「けどほら。みんな笑顔でハッピーなんだから細かい事は気にしちゃ駄目だって」
「だからって手を出すのは駄目だわ」
「仕方がない。女の子から誘われて断るだなんてそれこそ男が廃るってもんだ」
「じゃあ霊夢はどうなのよ」
「霊夢?別に俺は霊夢と関係を持ってないし事実何もない」
「けど貴方気付いてやってるのならほんといつか刺されても文句は言えないわね」
「母さん。俺は母さんに霊夢との壁、というか心の距離感の境界を弄られてんの知ってるんだよ」
ぴくっ、と眉が動く。
最初は確かにほんの少しの違和感だった。けど一緒に暮らすにつれて違和感は確信に変わっていった。
隠しても無駄だから言っちまうと俺は霊夢が好きだ。多分霊夢も同じ。弄られてこれが普通じゃないって認識しながらも俺はそのままにした。
あの頃はまだ俺も幼かった。けどそれでもあんまりじゃないか。霊夢の中には俺しかいなくてそれさえ消してしまえば果たして残されるのは一体なにか。
きっとその時は霊夢という1人の女の子が死んで完全無欠の素敵な幻想郷の巫女である博麗の巫女となっていたのだろう。
それほどに昔から霊夢は完璧過ぎたんだ。
幼いながら俺はそれを本能で察してしまったんだろう。だからそのままでいいと思ってしまった。
結果当然お互いに惚れてしまった。だが決して俺と霊夢はそんな関係ではない。相変わらず俺には当たりは厳しくけど喜怒哀楽がはっきりしていておちょくりがいがあってやられたらやり返す何万倍返しがモットーらしい霊夢にいつもボコボコにされるがそれも俺にとっちゃ可愛いものだ。
決してマゾではない。そう決してマゾではないぞ。
それでも霊夢は博麗の巫女だ。
情で流されることは無く平等でなければならない。だからこそ俺たちは決して胸の内を語らない。いや違うな。多分、俺は意図して彫り込まれたものだから。霊夢は博麗の巫女だからと言い訳をして。そして言い訳をするように。忘れようとするように他の女の子を抱く。
我ながらゲスいと思うが仕方がない。そう言い訳して。
「私は別に良いと思うわよ。貴方と霊夢がくっ付いても。そもそもその為に呼んだようなものだし。さっさとセックスして子供でも作って下さいな」
「えぇ.......それでいいのかよ幻想郷の管理者」
「だって貴方は霊夢の弱点にはなり得ないし。というかぶっちゃけると貴方のその力、子供に受け継がせたら幻想郷は安泰だわっ!」
「ぶっちゃけやがったよこのクソババア」
いやわかってたけどさ。
霊夢は「博麗」でなければならない。
誰も本当の意味では寄せ付けず1人でなければならない。
能力で「浮いている」のも原因の一つだがそれが霊夢の在り方を決定付けている。
でも俺だけは例外で「表」の幻想郷のバランサーとも要とも言える「博麗」とは「裏」である俺だけは霊夢の傍にいる事が出来る。
俺には霊夢を捉えられるし傍にいられる。
幻想郷のバランスを保つ為に人間にも妖怪にも平等で、弾幕ごっこで退治を行う「博麗」
そして幻想郷に仇なす害ある存在、敵意ある存在を滅する「博影」
俺、博影 幸人はその「裏」である「博影」最初の執行者。
霊夢が「表」で俺が「裏」
霊夢は実力も勿論高いが能力故に本気を出せば弾幕ごっこでは無敵に対して、俺は幻想郷にいる限り万が一にも負けはない。
何故なら
「違うわね。幸村貴方、そういう関係になったら好き勝手に女の子を抱けないとか思ってるからチキってるんでしょ?」
「正直この歳で落ち着くのは考えられないですお母さん」
「女の敵ね。貴方」
「まぁ味方でもあるけどな」
物はいいようねぇ、と小さな声で呟かれる。おい聞こえてんぞ。
ふわぁと揃って欠伸をする。にしてもこの博麗神社の屋根の角度は実に昼寝に最適な角度をしてやがる。
ふと母さんの方へ目線を向けたらぽかんと口をあけて此方を、いや正確には俺が向いている方向とは逆の方向を見ていた。
なに。新しい一発芸か何かなの。
そのアホズラ。
冷めた目で母さんを見て次に反対側を見た。
しゃがみ込み俺を真顔でのぞき込む霊夢がいた。
..............。
え、いつからいたんです?
「母さんや、の所からかしら?」
「最初からじゃねぇかっ!?ていうかナチュラルに心読むな」
「どうでもいいわそんな事。それよりも早くご飯食べましょ」
いや全然どうでも良くないんですが。
展開に付いていけない俺をおいて霊夢は続けて言った。
「紫。あんたも食べてくの?」
「い、いえ。私はもう帰るわね」
そう言ってそそくさとスキマの中に消えていく母さん。
「何ぼさっとしてんのよ」
「あ、あぁ。今行く」
言われるがままに俺は居間に移動し用意されていたご飯に手を付ける。言わずもがな俺はここ博麗神社で暮らしている。事実上霊夢と同棲しているのだがそういう事になったことは誓ってない。
カツカツと箸が食器を叩く音が響く。
それ以外に音はなくお互いに会話はない。
今日の献立は白米にお味噌汁、白魚にだし巻き玉子。ほうれん草のおひたしだ。
勿論これらは全て博麗の巫女である霊夢が作ったもの。霊夢の生活力は高い。広い神社の掃除は勿論選択もこなし料理も一流に引きを取らない。
そんな女の子として生活力もとい嫁力が高い霊夢に以前「霊夢は良いお嫁さんになるな」と茶化すように言った白黒の魔法使いが夢想封印を叩き込まれその手の話題はご法度になったのは暗黙の了解である。
「お粗末さまでした」
「ん」
「今日はちと行くとこがあってな」
「そう」
それ以上は語らない。
霊夢も俺も口数は多くない。いや普段変わり者に囲まれているが故によく喋っているように見えるが2人でいる時はいつもこうなる。
仲が悪いだとかそういう訳では無い。
ある種の信頼と時間がそうさせていた。
食器片付けると後の時間は風呂に入るか寝るぐらいになるのだが今日は霊夢が真っ直ぐと俺を見詰める。
人付き合いが良いとは言えない、寧ろ悪い霊夢だが容姿は驚く程整っている。それに加え博麗の巫女の象徴である巫女服は露出度が高い。
年頃の男子としては剥き出しになり惜しげも無く晒されている腋や肩は非常に目に毒だ。
湧き上がる欲情をなんでもないように抑える。
俺は寧ろ欲望には忠実な方だ。
けれどもこの流れは宜しくない。
「ねぇ」
ホレきた。
緑側に座る彼の耳元で囁かれた声はいつも通りなのに何かが違う。俺の肩に手を置きそこから流れるように下に手を滑らせそのまま膝に手を置いた。こそばゆくそれでいて優しく触れてくるその手つきに欲情が掻き立てられる。
内心たまったもんじゃないが俺は動かない。
隣に腰を下ろした霊夢はゆっくりと此方に体重を預けそしてふわっとシャンプーの香りと甘い霊夢の体臭だろうか。女の子は男と違って何故こんなにも良い香りがするのだろうか。
肩にのっている重さは紛れもなく霊夢のもので。時折こうして霊夢は甘えてくる。別に不思議なことでは無い。毎日毎日巫女として良くやってくれている。ご飯だって掃除だってそれこそ人里でいう専業主婦のような事も毎日やってくれている。ならば心身共に休める時間が例え幻想郷の守護者であっても必要なのではないか?
それは当たり前の権利でまだ霊夢だって十代の女の子なのだ。たまに甘えるぐらい誰も文句を言うまい。
.......いや違う。
これは俺の言い訳だ。
そのまま俺にしなだれるように首に腕を回してくる。
「..............」
「っ!?」
首元に顔を埋めるように押し付けていた霊夢が唐突に俺の首に舌を這わせた。
チロチロと控えめでいてそれても執拗いぐらいに首元を舐め回す。
ぺちょぺちょと聞こえてくる水温と焦れったくこそばゆい感覚をじっと耐える。
丁度その辺は確かレミリアに噛まれた場所なのは偶然なのか。
不意にふわりと霊夢は俺から離れた。
「もう大丈夫。じゃ私は寝るから」
「そっか。おやすみ」
何も言わない。
何も言えないし俺は霊夢のやることを拒めない。
でも応えてやる事も出来なくて俺は黙って霊夢を受け入れるだけ。
霊夢の勘は恐ろしく鋭い。
間違いなく全てが筒抜けでバレている。
でも霊夢は何も言わない。
それがとても恐ろしくもあってありがたくもあった。