幻想結界録   作:アナタは

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過去 紅魔異変


第4話

 

 

 

 

 

 

 

 

「スペルカードルール、ねぇ」

「そうよ。今の幻想郷には必要な事だわ」

 

いつもの様に博麗神社の屋根の上、母さんと俺は1つの資料片手に話し合っていた。

スペルカードルール、いわゆる弾幕ごっこと呼べなくもないそのルールはある事件を切っ掛けに提案されたものだ。

 

吸血鬼異変と呼ばれる幻想郷に妖怪の中でも強力な吸血鬼が攻めてきた。

確かに吸血鬼は強い。

でも1番の問題だったのは当時から幻想郷の妖怪はバランスを保つ為にむやみに人を食べることを禁止されていて、時折支給される食用の人のみでの生活を余儀なくされていた。

それに加えて博麗による妖怪退治。

たとえバランスを保つ為だとしてもこれはさすがに不満が溜まったらしい。

このせいで一時期幻想郷の妖怪達の無気力化が広がっていた訳だ。

 

そこに吸血鬼が攻めてきて向こうに寝返る奴が出てきたり、その力に怖気付いて何も出来なかったり。

俺は殆ど参加していないがあれは酷かった。

言葉と知識だけは知っている戦争。

辺りはもう原型を止めていない何かの一部が落ちていたり、何処も彼処も血だらけで悲鳴やら叫び声やら飛び交い正しく阿鼻叫喚という風だった。

きっと戦争とはこういう事を言うんだろうなと当時の俺は思った。

 

最終的に母さんや鬼、幽香といった一部のバランスブレイカー達によって蹂躙され鎮圧され収束した吸血鬼異変。

 

今回はたまたまどうにかなったがこんな事が何度もあればこの小さな幻想郷は崩壊してしまうかもしれない。

でも妖怪達は人を攫い化かし闘争の中に生きる幻想だ。

それがなければ生きていけない。

だから俺たちは考えた。

 

そしてこのままでは駄目だと提案されたのがこのスペルカードルール。

 

内容としては幻想郷内での揉め事や紛争を解決するための手段とし、人間と妖怪が対等に戦う場合や、強い妖怪同士が戦う場合に、必要以上に力を出さないようにする為の決闘ルール。

 

一つ、妖怪が異変を起こし易くする。

一つ、人間が異変を解決し易くする。

一つ、完全な実力主義を否定する。

一つ、美しさと思念に勝る物は無し。

 

それを理念としてお互いに弾幕を放ち先に当たった方が負け。

スペルカードはその中でも必殺技というか強力な弾幕を放つ為の手札になる。

 

悪くないと思う。

俺も霊夢も一緒に考えた訳だし、最後まで詰めたのは母さんと霊夢だがこれ自体に否定的ではない。

でも。

 

「これ、わざと弾幕に穴を作るんだよな」

「そうね。あくまで相手を倒す為の弾幕じゃなくて魅せる為の弾幕だから、その中でどうやって相手に被弾させるかがキモなのよ」

「でもそれだと俺は出来なくないか?」

「わかってるわ、だから貴方は博影として裏に回って貰うのよ」

「あー、なるほど。要はいつも通りって事か」

「そういう事ね。最初は注意喚起、改善の見込みがなければどうしたって構わないわ」

 

俺は一身上の都合でスペルカードルールが使えない。

別にスペルカードルールで戦う事は出来るが当たるも避けるも選べてしまう俺には全くもって意味が無いルールになる。

ズルしてるのと何も変わらない訳だし。

母さんが言うように俺は博影だ。

博麗の影にして裏の博影。

元より汚れ仕事は俺の役目、ルールが新しくなっても俺がする事は何も変わりない。

 

「.......幸人」

「あぁ.......悪い。大丈夫だ」

 

心配するような、申し訳なさそうに此方を見て声を掛けてくる母さん。

無意識に漏れていた殺気を散らす。

 

別に俺は今の役割を不満に思っていない。

閉じ込められていた俺を拾ってくれたのは母さんだし、望んで俺はこの役割を請け負っている。

少なくとも自分の意思でこれを選んだつもりだ。

母さんには感謝している。

俺にも生きる意味が出来た。

俺なんかがいなくてもきっと何も変わらないと思う。

でも、それでも俺は何かしたいと思った。

いつもの面倒くさそうな彼女も時々甘えてくる時も、そして時折みせる寂しそうな表情も。

いやきっと最後は俺のせい。

人は繋がりがあるから弱みが生まれる。

繋がりは強さにもなり軟弱な人は繋がりでそれを補えるが、強過ぎる個はそれを必要としない。

「博麗」である彼女がそうであるように何でも出来る者には繋がりは弱みになる。

俺が彼女を弱くした。

きっと、それは間違いなくて時々甘えてくる彼女は儚くて少し押してしまえば消えてしまうんじゃないか。

そっと抱き締めれば柔らかい女の子らしい身体は吹けば直ぐに壊れてしまうだろう。

彼女には俺が必要で俺にも彼女が必要だ。

 

たとえこの共依存の状態が誰かに作られた偽物の感情だったとしても、これは間違いなく俺達にとって本物で。

ずっと偽物しかなかった俺に出来た初めての本物。

だから俺は。

 

 

「幸人、ご飯出来たって.......あんた.......」

「何でもなっ!?」

 

 

ご飯が出来たと屋根に上がってきた彼女、霊夢は俺を見て目を細める。

感がいい霊夢の事だから俺の変化を感じ怪訝に思ったのだろう。

何でもない、と言い切る前にふわっと甘い香りと一緒に暖かい感触が俺を包む。

 

「大丈夫。私は大丈夫だから」

「.......あぁ。きっと、そうなんだろうな」

「私は.......あんた、幸人さえいればそれで.......」

「..............」

 

こんなのはダメだって分かっているのに気が付けば俺も背中に手を回していて。

あぁ、ダメだ。

俺はもうこの心地良い今を手放す事なんて出来やしない。

これが偽物で正しくなくて彼女の為にならないとしてもダメだ。

もう、この深みにハマりきっている俺にはこれを振りほどくなんて真似は出来そうにない。

ずっと、ずっとこの温もりの中に沈んでいきたい。

そう思い目を閉じる。

鼻を擽る霊夢の髪が擽ったくて、それがまた心地よい。

もう夕暮れだというのに堪らなく良い香りがするのは俺達男と何が違うのか。

もういっそずっとこのまま.......

 

 

「ねぇ、私の事忘れてない?」

 

 

忘れてなんかないぞ。

 

 

「もうそのまま押し倒してせっく」

 

この後めちゃくちゃ夢想封印されてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それで私達に異変を起こして欲しいと」

「えぇそうですわ」

 

重苦しい空気の中2人は牽制でもするかのように目線を外さない。

相変わらず、というよりもいつもにもまして胡散臭い母さんはともかく向こうさんはいつの日か苦渋を舐めさせられた相手というのもあるんだろうがこの空気何とかならないものか。

というか向こうさん、吸血鬼の当主様の容姿が子供のそれで違和感がヤバい。

放っている重圧は大妖怪のそれと大差ないが見た目が犯罪的に噛み合ってない。

それが俺には小さな子供が背伸びしてるようにしか見えない、というよりも前に会った時と殆ど変わってなくて本当にあの時本人が言ってた通り500年生きてたんだなぁと今更ながら納得した。

 

後ろに立つ母さんの式神である藍さんは目を閉じたまま直立不動だし、向こうの可愛らしい吸血鬼の傍にいるメイド?まぁフリフリのアリスみたいな服を来た従者も似たようなものだし。

あ、目が合った。

綺麗な目だなぁ。

取り敢えず会釈しとこ。

ありゃ、なんか目を逸らされた。

嫌われたかな?

 

「.......ちょっと」

「ん?どうしたお嬢ちゃん。お腹空いたの?飴ちゃん食べる?」

「食べる.......わけないじゃないっ!さっきから私の咲夜にちょっかい出したり私の視線は無視するし!」

「あ、声に出てた?」

 

なるほど。

だからメイドさん、咲夜さんに目を逸らされたのか。

 

「.......ちょっといい幸人?レミリアと知り合いなのアナタ?」

「おう。吸血鬼異変の時にコイツを退治したのは俺だ」

「.......」

 

なんだよその目は。

 

「それ本当なの?」

「本当よ、なんか真っ黒い球みたいなので危うく綺麗さっぱり消え去る所だったわよ」

「まぁ俺の事はいいじゃねぇか。それよりさっさと話を詰めようぜ」

「何かしら異変を起こせばいいのでしょ?それよりも.......」

 

ごう、と凄まじい妖力の波が押し寄せる。

先程の何倍もの重圧に空間が耐え切れないというふうに何かが軋む音がする。

ピリピリと肌を刺激する濃厚な殺気に嫌でも感覚は研ぎ澄まされる。

 

「あの時確かに私は傲慢し格下と侮った人間のガキ相手に負けた。あぁ、見事なまでに惨敗だったさ」

 

当時を思い出すように語るレミリア。

貧弱な力しかない人間と侮った結果が今だ。

 

「でももうそれは有り得ない。この私、スカーレットデビルが舐められたままだなんて許せない」

 

いつの間にか手に持っていた真紅の禍々しい槍を俺に突き付けながらレミリアは言う。

 

「幸人、アナタ私と殺し合いましょ?」

「レミリア。貴方幻想郷でそれがどういう意味か知っているのかしら?」

「ええ。もちろん知ってるわ」

 

博影の名は幻想郷にて重い意味を持つ。

ただ博麗とは違い口に出すことすらはばかられるその名は誰一人として語ろうともせず口にもしない。

天狗の文屋ですら話題にもあげないその存在は確かに存在する。

確かに理性的な妖怪は多い。

でも何故大小問わず本来闘争の類を好む妖怪達が大人しくしているのか。

幻想郷の守護者である博麗、管理者で賢者でもあるスキマ妖怪が抑止力として働いてるのも間違いない。

でも違う。

それだけではない。

 

退治され心を改めるのであればそれでいい。

大きな力の前に怖気付き何も出来ないのでもいい。

 

それでも尚幻想郷に仇なすものがいればどうなるか。

その時はただの前触れもなく消え去るのみ。

 

黒、黒、黒。

黒い髪に闇のように深い黒い瞳。

博麗の巫女が来ている巫女服の露出している部分をなくし所々が灰色のような黒で統一された和服。

 

博影は幻想郷の執行者。

それに勝負を挑むという事は幻想郷そのものに喧嘩をうっているに等しい行為。

 

「俺これでも一応博影として来てるんだよ。博影として戦うのなら一切の手加減はしない。なんなら今ここでノーモーションでお前を存在ごと消し去る事も出来る」

 

ピクリ、とレミリアの眉が動く。

 

「それは私がそれだけとるにならない存在だと.......?」

「まぁ要するに博影としてじゃなくて幸人としてならいいよって事」

 

 

 

 

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