幻想結界録   作:アナタは

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第6話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かい合う。

その姿はまるであの頃から変わっていない。

母さんもメイドさんもいない、母さんのスキマの力を僅かながら使える俺が広げた専用の空間みたいな場所で向かい合う。

母さんからも許可は得ている。

 

「ねぇ、幸人は私達が初めて出会った時の事を覚えてる?」

「あぁハッキリ覚えてるさ」

 

相手は間違いなく自分よりも格上でその当時幾らか術を覚えていたからといって勝てるような相手ではなかった。

自分は人間で相手は妖怪。

そして妖怪の中でも特に力が強大な吸血鬼。

一撫でするだけで自分が吹き飛びかねない相手で更に肌に突き刺さるような妖力は間違いなく大妖怪クラスのものでやろうと思えば此方の結界術を真っ向から破れるだろう。

じゃあ何故俺は生きているのか。

 

 

「運が良かっただけだ」

「運が良かった?あぁ、そうね。貴方はとてつもなく運が良かった」

 

 

何が面白いのかくつくつと笑い出すレミリア。

あの時の少女が無事だったのも、自分があの場面であの術を使えたのも全て偶然に過ぎない。

レミリアが最初から本気だったのであれば自分も少女も一瞬で消えていただろう。

 

「運が良かった?偶然?えぇ、えぇ、その通り。あの時女の子が助かったのも幸人が私に勝てたのも全て偶然で運が良かった」

 

 

くつくつ くつくつと笑う。

我慢できない、抑えられないと言わんばかりにレミリアは笑う。

 

 

「ねぇ幸人。私の幸人。私の運命の人」

 

 

レミリアの手が俺の顔をなぞる。

優しく愛おしく抱き締めるように小さな手が、そして真っ直ぐと見詰め合う。

物欲しそうに何処か期待したような目が揺れている。

乱れた息が吹き掛かり少し擽ったい。

だから俺は触れるだけの優しいキスをする。

 

「もっと.......」

 

甘える声でそう囁くレミリアをそっと抱きしめて抱え上げた。

ぺろぺろと今日に舌を使って甘えるように身体を擦り付けてくるレミリアにもう一度キスをする。

幸せそうな顔しやがって。

先程までの艶っぽく淫靡な雰囲気なんてまるで感じさせない、ただ嬉しくて堪らないという表情。

 

無駄に吸血鬼っぽくカリスマぶるレミリアも嫌いではないが実のところ、こういう見た目相応の表情をされると心揺さぶられるものがある。

 

「そういう風に素直になれば可愛いのにな」

「か、可愛いだなんて言って誤魔化しても普段は可愛くないって言ってるの私は誤魔化されないんだからねっ!」

 

おい、背中の羽がぱたぱた揺れてるぞ。

お前は犬か何かか。

 

「でも、だからこそ」

 

 

チリチリと突き刺さるような何かを感じ咄嗟に突き飛ばすように距離を取る。

舞い散る血飛沫。

 

「あらやだ。レディの扱いがなってないわね」

「レディ扱いして欲しいならまず淑女らしい行動を取ってもらいたいものだ」

「ごめんなさい。でも吸血鬼の淑女としては満点でしょ?」

「知るかよ。だって俺人間だし」

 

それもそうね、と口元から垂れた血を紅い舌でペロッと舐めとる。

幼い見た目ながらもそこにある艶っぽさ、切り替えの速さには脱帽する。

アイツ、俺の首を喰いちぎるつもりだったな?

頬に流れる血を手の甲で拭いながら考える。

やれやれ、本当に面倒なやつに好きれちまったものだ。

 

「ふふっ、やっぱり男の血って不味いわ」

「吸血鬼の感覚なんて知らねぇよ」

「でも嫌いじゃない。幸人に流れる血が私の中に入ってくるのを感じるの.......あぁもっと貴方の血を私にちょうだい?」

 

そんな風にお願いされてもねぇ。

馬鹿みたいな量の弾幕が展開される。

一つ一つがまた馬鹿みたいな妖力が込められていて一つ当たっただけで俺は吹き飛ぶだろう。

お前血が欲しいんじゃないの?

それ当たると俺跡形もなく吹き飛ぶよ?

それが雨のように降り注ぐ。

 

「結!」

 

四角い箱のような結界を何重にもして重ねる。

俺のこの能力は至ってシンプルなものだ。

「結界を操る程度の能力」

俺の一族は代々受け継いできた結界術を俺は使える。

雨のように降り注ぐ死の雨は轟音を撒き散らしながら結界にぶつかっていく。

 

「貴方のそれ、本当に反則ね」

「結界の丈夫さには自信があるんだ」

「なら今度は手取り足取り教えてあげるっ!」

 

物凄いスピードで突っ込んでくるレミリア。

いつの間にか手に握っているグングニルは禍々しい妖力を感じる、俺の勘がアレはヤバいと訴えかけて来る。

 

「ふっ!」

「.......へぇ」

 

右手を振るう。

振り下ろされるグングニルに合わせて結界を生成しそれを弾き返す。

何も俺はあの頃から成長していない筈がない。

次々と振るわれるグングニルを弾きながら後ろに下がる。

このままゴリ押しされると確かに厳しいものはあるが淡々と相手の土俵で戦ってやる義理はない。

 

「ぐぅ.......!?」

 

幾つもの細長くした結界でレミリアを串刺しにした。

ぶしゃぁ、と突き抜けた身体から血が吹きだし血溜まりを作る。

普通なら俺の結界術は滅する為に囲ったり中に入れたりする方が効率がいいのだが、こうやって形状変化させて武器にした方が色々と手っ取り早い。

ピクリとも動かなくなったレミリア。

 

「っ!?」

「ふふふっ、吸血鬼って頑丈なのよ?この程度じゃ止まらないわ」

 

迂闊に近寄ったのがいけなかったか。

不意打ち気味に放たれたグングニルが俺の左手を突き刺す。

いやでも普段ならそんなヘマはしない。

吸血鬼がこの程度直ぐに再生するのは知っていたし、いつどんなタイミングであっても結界を張れるようにしていた。

ただ何となく大丈夫だろ、といつもは思わない思考が流れて動作が遅れた。

俺が油断した?

いや違うこれは。

 

「どうして、って顔をしているわね」

 

胸に突き刺さっている結界を砕いたレミリアは嬉しそうに顔を歪める。

 

「きっと普段の幸人ならこの程度の攻撃防ぐでしょうね」

「.......俺に何かしたのか?」

「いえ何もしてないわ。幸人が油断したのもこうして攻撃が当たったのも全て偶然、たまたまだわ」

「偶然、ね」

「えぇ。きっとそういう運命だったのよ」

 

くつくつ、くつくつと笑う。

運命ねぇ。

何かしらの能力だろうが知覚していない脅威が何よりも恐ろしい。

たまたまだとか偶然だとか、レミリアの言葉を鵜呑みにする訳じゃないがきっとそうなのだろう。

 

左手はもう使い物にならない。

でも片手あれば事足りる。

 

ズキン

 

「結!」

 

素早く捉えるように結界を張る、が突然異常に痛み出した左手の傷に意識が削がれ何重にも展開した結界はレミリアを捉える事はなかった。

 

空を飛び滑空するように向かってくるレミリア。

ならばまた串刺しにしてやる。

右手を振るい結界を創り出す。

 

「当たらない、当たらないわよっ!」

「嘘だろおいっ!」

 

夥しい量の結界が空中を針山のように展開されるが偶然全てレミリアには当たりはしなかった。

目の前に迫るグングニルを紙一重で躱し、飛んでくる弾幕を結界で防ぐ。

立て続けに迫り来る攻撃を辛うじて凌ぎ、ジリ貧を悟った俺は強引に棒状の結界を放つように展開するもひらりとレミリアは飛び上がってそれを躱す。

 

「いいわぁ、ねぇ今の幸人とっても素敵だわぁ。決められた運命に翻弄される気分はどう?」

「なるほどな。お前の能力、因果操作系統か」

「えぇ!えぇそうよ!大それた操作は無理でもちょっとした操作なら造作ないわ。たまたま貴方の攻撃が外れたり、意識がそれたりね。私は運命を操る程度の能力と呼んでるわ」

「なるほど。運命ねぇ」

 

レミリアの言い回しに含みを感じるとは思っていた。

たまたま、偶然それに運命。

 

「素敵でしょう?私と幸人は出逢うべくして出逢ったの。幻想郷に来る前からずっと、ずっと予感だけはしていて幸人に出会って確信に変わった」

 

ギュッと胸を包み込むように抱き締める。

恋する乙女のように、愛おしいものを抱きしめるように。

そこにいるのは人間から恐れられている吸血鬼ではなくただ1人の女の子のように見えなくもない。

 

「幸人、あぁ私の幸人.......」

「俺はお前の物になった覚えはないんだがな」

「これからそうなるの。きっとそれも運命だわ」

「さっきから運命運命って.......つまんねぇ奴だな」

「.......何?」

「運命だとか大それた事俺は信じねぇし、何よりも誰かに決められた道筋を歩くっていうのは尚更気に入らないな。なぁ俺と出逢ったのも運命とか抜かしてるけどさ、それ自体はお前の勝手だから好きに思えばいいよ。でもそれを俺にまで押し付けてくんな。はっきり言って重いしウザイわお前」

 

重い女の子は嫌いではない。

けどそれが独りよがりの重さの場合は違う。

女の子に好かれること自体は好きだし、自分でも自覚してるぐらいには女の子が好きだ。

好きだと言われれば何かを返して上げたいと思う。

でも流石に一方通行でここまで重いとなぁ。

 

きょとん、とした顔を浮かべるレミリア。

そしてやっと言われた言葉を飲み込めたのか頬を膨らませ涙目になる。

 

「な、何よ!私は本気なのにそんな言い草ないじゃないっ!」

「おい。大妖怪特有のカリスマ消えてんぞ」

「そんなのどうでもいいのよっ!」

 

どうでもいいのかよ。

 

「そんなに私って重い?」

「まぁそうだな。全然面識ないのに1万年と2千年前から愛してるとか言われてもなぁ。しかも半分狂気入ってるし」

 

正直地雷は勘弁して欲しい。

さっきまで意気揚々と俺を殺そうとした吸血鬼の姿は見る影もなく、今ではしゅんとしていて部屋の端で体育座りを決め込みそうなまである。

 

「まぁなんだ。運命とかそんなもん抜きにしてさ、気楽にやろうぜ。レミリアがどう思うかは勝手だけどその価値観を俺に押し付けられても困るんだよ。何よりも決められた運命より、選び抜いた運命の方が絶対いいだろ?」

 

誰かの思惑通りになるのは気に食わないし、決められた結末を迎えるのも気に食わない。

何より人の人生は短い。

だからこそ自分の人生は自分で決める。

少なくとも俺はそう思っている。

誰かが言っていた。

 

人は短い人生を全力で駆け抜けるからこそ輝けるのだと。

 

「でも私ずっと運命を見てきたから。今更それ無しだなんて.......怖いわ。先が見えないのはとっても怖いの」

 

見えていたものが見えなくなるのは確かに怖い。

突然目が見えなくなれば誰だって怖い。

レミリアはずっと運命を見てきたんだろう。

だからこそ運命が見えない、先が分からないのは暗闇をなんの道筋も案内も無しで歩くようで怖い。

 

「大丈夫さ。その先へはお前一人で行く訳じゃない。俺も、もちろんさっきのメイドさんだとか友達何かも一緒だから」

 

だから大丈夫だ。

そう言ってナイトキャップの上からぽんぽん、と頭を叩く。

 

「幸人は.......私の事重いと思う?」

「重いな。くっそ重い」

「うっ.......じゃあ嫌いになった?」

「それはない。俺は可愛い女の子には目がないから」

「じゃあ.......私の事好き?」

「普通」

「そう.......」

 

すると考えるように下を向いた後、ぱっと顔上げて言った。

 

「なら私が幸人を惚れさせて見せるわっ!それに今なら咲夜も付けてあげる!」

 

メイドさんとばっちりだな。

そう言うレミリアの笑顔は無邪気なものでこりゃ惚れさせられるのも時間の問題かな。

そう思った。

 

 

 

 

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