幻想結界録 作:アナタは
「はい、これは幸人の分ね」
「さんきゅーアリス」
ふよふよと浮いている人形が俺の頭に、肩に止まる。
それを見て微笑む少女。
これ半自動って言っても操ってんのお前だろとかは言わない。
それを聞いて恥じらい当たってくる彼女も可愛いのだが、それに伴う報復が割と洒落になってないから加減を見誤ると痛い目に遭う。
これは割と実体験だったり。
金髪をヘアバンドで纏め人形達と同じようなフリルを沢山あしらったドレスを見に包む彼女はアリス。
彼女は普段クールというか大人びた対応を取る大人な女性だが内面はそれに似合わずとても女の子女の子だ。
子供好きで可愛いものに目がなくその内側はビックリするぐらい乙女。
これが以外と純情で壁ドンや耳元で優しく呟くだけで直ぐに恥ずかしそうにするもんだから、いつもからかい過ぎてしまう。
そのせいで良く魔法の森で人形と追いかけっこをしてるのは俺です。
「今日は来てくれてありがとうね」
「まぁ特に予定もなかったしな」
「ふふっ、そういう事にしておきましょうか」
「しておくもなにも毎日暇だっつーのに」
実際俺は暇な事が多い。
一時期、確かに忙しかったりするが博影が暇だという事は幻想郷は平和って事でそれはそれでいい事でもある。
でも最近霊夢関係で色々とごたごたしているのは確かでもあった。
そういう意味でもやはり「女の勘」と言う奴なのだろうか、何となく察せられているら辺男には分からないシックスセンス的な何かが彼女達にはあるのだろうか。
実に羨ましい限りだ。
「にしても増えたな人形」
「皆、可愛らしいでしょ?きっともっと増えたら素敵だと思うの」
「あー.......そうだな」
そこは賛同しかねたがとりあえず頷いておく。
トイレ行く時とか目が合いそうに普通に怖いとか言えない。
まるで大切なものを自慢する子供のように言われれば流石にそんな事は言えない。
「本当はこんなに作るつもりはなかったの。でも少なかったら少なかったらで寂しいじゃない?」
「確かに言われてみればそうだな。で、皆動くんだろ?」
「えぇ、もちろん」
くいっ、とアリスが指を動かすと一斉に人形達は浮かび上がり俺に向かったお辞儀をする。
面白いのはそれぞれ挨拶の仕方が違う所だ。
優雅にスカートの裾を持ち上げているやつもいれば、そっぽを向いて恥ずかしそうにしているやつ、端っこに隠れているやつに挙句には挨拶を無視して幾つかの人形は俺に飛び付いてきたやつまでいる。
そして既に俺の頭の上を陣取っていた上海と俺の頭の上争奪戦を開始する始末。
てか上海毎回俺の頭の上に止まってるよな。
「ははは.......どいつもこいつも元気なこった」
「ごめんなさいね。皆幸人が来てくれて嬉しかったんだわ。ほら、幸人が困ってるでしょ?」
そう言うと渋々といった形で人形達は離れていく。
勝った、と言わんばかりにむふーとドヤ顔する上海。
いや見えないけど上海は態度でかいから多分そんな感じの顔してるだろ。
と思っているとぐいっぐいっと髪を引っ張られた。
ふよふよと俺の前に浮かんできた上海は「れでぃに向かって失礼ね」と言わんばかりにビシッビシッと俺を指差す。
なに、人形にまで俺心読まれてんの?
どんだけだよ。
「あらあら。上海ったら」
「こいつほんとに生きてんじゃねぇのかって時々思うんだよねぇ」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけれどね。完全自律してるわけじゃないのよ。元々組み込んでおいた個性に合わせてそれらしい反応を自動で返してるだけ、と言っておいて心のどこかで私はこの子達にも心はあるんじゃないかって偶に思っちゃうの」
「いいと思うぜ。信じる事は何よりも尊い事だと思う、そうやって信じてたらきっとコイツらも何時か答えてくれるさ」
「そうね。そうだといいわ」
正直魔法の事なんかこれっぽっちも分からない俺からすればアリスの目指す完全自律する人形というものがどれ程のものなのか検討も付かない。
今現在も成しえてないという事からとても難しい事なんだろうな、と朧気に思うだけできっと魔法使いではない俺には一生分からないことだろう。
だから言葉だけでも頑張れ、というのは簡単な事だけどそれは何だか余りにも他人事過ぎて薄情な気がする。
だからいつも言っている、俺に出来る事ならば何でも言ってくれと。
そしてうよう曲折って事もなくストレートに好意を告げられた訳で。
そしたらただ偶に傍にいてくれるだけでいいのだと。
そう言わせてしまった事に罪悪感はある。
抱くのは簡単だしそうしてしまった方が色々と楽なのかも知れない。
それでもこうして気兼ねなく接していけるのは俺としても有難かった。
仲のいい奴は幾らだっている、身体を重ねた奴も。
結局口で愛してるだとか好きだとか何とか言っても、きっと彼女達には俺の心の中で大半を占めているのは自分ではないのだと理解しているのだと思う。
言葉ではそれでいいのだと言っていても、裏ではきっと涙を流している奴もいるんだろうと思うとどうにも頭が上がらない。
だからこそ俺は本当の意味で彼女達の傍にいては心は休まらない。
だって申し訳なさと自己嫌悪、そんな情けなさでいっぱいだから。
はっきりと霊夢だけが好きだと言えればどれだけ楽だっただろうか。
きっと、これからも俺の中で霊夢が1番だということは変わらない。
だからアリスの距離感は俺としてもとても有難いものだった。
人形達を元の場所に戻し戻ってきたアリスは突然すんすん、と鼻を鳴らす。
「.......幸人、さっきまで永遠亭にいたでしょ?」
「ほう。してその心は?」
「馬鹿ね。こんなにも薬品の匂いさせてたら誰だって分かるわよ」
「え、今俺ってそんなに薬品臭い?てか確かに薬品棚のある場所にいたけど匂いのきつい薬品なんてあったかなぁ」
「なに。私が嘘ついてるっていうの?」
「いやそういう訳じゃないんだが.......」
それは心外だと言わんばかりに頬を膨らますアリス。
普段なら有り得ないあざとい仕草に俺は苦笑いする。
まぁ確かに俺はアリスの家に行く前までは永遠亭に居た。
別にやましい事はしていないし、ちょっと肉体的接触は確かにあったにはあったがそれはまだスキンシップの範囲内で収まるものであり、元から此処に来る予定だったのに手を出す程俺も落ちぶれちゃいない。
輝夜が巫山戯で鈴仙を俺に抱き着かせて俺が追い掛けられる、といういつものパターン。
いつも思うのは襲う相手間違ってるだろってこと。
何でも流石に姫様に手を上げれないから俺に八つ当たりしていると。
更に我らが永琳先生は俺の事を珍しい研究動物みたいに思ってるし永遠亭での俺の扱いは割と酷い。
「ふーん。まぁ別に幸人が何処で何をしようと自由だけど」
「その割にはご機嫌斜めそうだけど」
「気の所為じゃない?」
ふんっ、とそっぽを向くアリス。
こういう拗ねると子供っぽい所は可愛くもあるが同時に面倒くさくもある。
それでも一癖も二癖もある幻想郷の女性陣の中では比較的まともで常識の範囲ないではあるが。
開幕ビームな幽香とか毎回ことある事に戦いたがる鬼達とか。
ビームは暫く夢にも見たし、酒も浴びる程飲んだりしたせいで記憶が飛んでたなんて事よくある。
間違いなく俺じゃなきゃ死んでるな。
「.......ごめんなさい。ちょっとらしくなかったわ」
「いやいい。実際不誠実なのは俺だし」
らしくなかった自覚はあるらしかったアリスは少し顔を俯かせてそう言ってくる。
実際不誠実なのは俺だから正直何を言われて何をされても仕方がないのだが。
それを違うの、とそっと俺の隣に腰を下ろし俺の手に自分の手を重ねるように握りしめる。
ふわりと香ってくる甘い香り。
「最初にそうやって言ってくれていたのに貴方を求めたのは私だもの。それに私は幸人の負担にはなりたくないの」
「負担だなんて思ってないさ。実際お前のところは居心地はいいし」
「少しでもそう思われるのは嫌なの。だってさっきちょっと面倒臭いなって思ったでしょ?」
「.......なに。幻想郷の女性陣って全員さとり妖怪もびっくり頭の中でも覗けるの?」
さとり妖怪の能力は俺の能力でどうにか出来るのだがいかせん、俺は女性陣には隠し事が出来ない。
やっぱり、と顔を伏せるアリス。
心無しか人形達も元気がなくなったようにも見える。
「女なんて面倒くさくてなんぼだろ。結局俺が自分に目を向けないでふらふらとしてるのが悪いんだ。だから気にすんな」
「ダメよ.......やだっ、優しくしないで.......」
アリスを優しく胸元に引き寄せる。
手で俺を引き離そうと弱々しく抵抗するがまるで意味が無い。
ぽん、ぽんと子供をあやすように頭を撫でてやると抵抗らしい抵抗もなくなって控えめにキュッと手を回してきた。
「ずるい、ずるいわ。そうやって女の子を誑かしてきたのね」
「どうとでも言え。俺にはこれぐらいしか出来ないからな」
そう言うと背中を抓られた。
ちょっと痛い。
「ちょっとは否定しなさいよ.......」
「まぁ事実だしな。否定出来ねぇよ」
はぁ、と溜め息をつかれる。
「そうよね、だって幸人ですもの」
「おい」
「でも」
柔らかい何かがそっと俺の頬に当たった。
突然の事で惚けていた俺は、さっき何かをしたであろう今も俺の胸元に顔を埋めている金髪の少女へと視線を落とす。
そして長く美しい金髪の髪をかきあげた。
「耳真っ赤だぞ」
「う、五月蝿いわねっ!」
言葉とは裏腹に抱き着く力が強くなる。
変な所で素直じゃないのは魔法使い特有のスキルか何かなのだろうか。
暫く俺はアリスの好きなようにさせる。
言葉はなくともお互いに感じているだろう暖かさは不愉快ではなくて落ち着くものだ。
すると徐に顔を上げたアリスは見上げるような上目遣いを俺に向けて来る。
潤んだ瞳は自分しか写っていない。
何かを求めるようにそっと目を瞑る姿は可愛らしくもあり美しくもある。
そして俺は徐々に顔を近付けていって
「おーい、アリス.......」
バタン、と勢いよく開いた扉から場違いな程大きな声が響いた。
咄嗟にそっちを見れば唖然として固まる特徴的なとんがり帽子を被ったアリスと同じ金髪の少女。
そして視線を戻すと不自然なほどぷるぷると震えてさっきより顔を真っ赤にさせたアリスが。
「ノックぐらいしなさいよっ!バカっ!」
「あぶなっ!?おい、今のは私じゃなかったら死んでたぜ!?」
「うるさいうるさいうるさぁぁぁい!」
「くそっ、ここは撤退だぜ」
ぴゅーんと飛び去る魔理沙に追い掛けるアリス。
そして取り残された俺。
ふむ。
取り敢えず紅茶をお代わりするか。
――――――
「はぁ、はぁ.......やっと逃げ切ったぜ」
ちょっと小腹が空いたからアリスの家にお菓子を貰いに、もとい集りに行くとまさかこんなことになるなんて思ってはいなかった。
そもそもノックをしなかったという意味では自分にも責任があるのだが。
思い出すのは黒髪に霊夢とは対象的な和服をきた幸人とアリスが抱き合い、もう少しで.......
そこまで思い出してぶんぶんとそれを追い出すように頭をふる。
「くそっ、遂にアリスまで」
魔理沙は幸人が何人もの女の子に手を出しているのを知っていた。
霊夢のことが本当は好きな癖に。
それを知っているからこそ魔理沙は許せなかった。
それじゃ霊夢が余りにも可哀想で、何よりも許せなかった。
何せ
我ながらチョロいと思うが吸血鬼に襲われて死にそうになったところを助けられて、なし崩し的にキスして。
コロッと落ちてしまった。
霊夢と幸人。
博麗の巫女に博影の執行者。
お互いに幻想郷において重要な役目を担う同士お似合いだ。
神社に行けば2人が黙って寄り添っているのを見た事がある。
淫らな事をする訳でもなくただ静かに2人寄り添っている。
それはただ寄り添っているんじゃなく心の距離のようで。
小さく幸人が微笑めば霊夢も嬉しそうに微笑み返す。
それを見て、あぁこれは適わないなぁと心で思ってしまった。
だからこそ自分のような人を増やさない為にも直ぐに手を出すのは止めろと何度も本人に言ってもはぐらかすだけでまともに取り合わない。
だから実力行使に出た。
1回痛い目に合わせれば幸人もそういう事を止めるだろうと。
でも予想外だったのが幸人が自分なんてまるで目じゃないほど強かった事だ。
何度も何度も挑んでも勝てない。
のらりくらりと此方の魔法を躱してある程度消耗させたら結界で囚われ、その身動き出来ない間に幸人はいつも逃げていく。
「今度こそ.......今度こそ私がアイツを.......」
そうやってブツブツと呟く魔理沙の瞳は光がなく、何処までも黒く濁っていた
オリ主!
背中!背中刺されそうだよ!