転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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※主人公の名前としていた「ユーリ」が原作中主要人物と被ってしまっていたため「ターナ」へと修正しています。
修正前からお読み頂いている皆さん申し訳ありません。  2019/9/16


決意する転生者

 アールスハイド王国、マーシァ公爵領。

 王国において有数の肥沃な土地に恵まれており、古くから王国の発展に貢献している地の一つ。

 そんなマーシァの地が有する広大な山林を流れる川裾に、釣り糸を垂らす老爺の姿。

 

 衣服は山歩きに合わせた動きやすそうな物だったが仕立て良く身分の高さを窺わせ、傍には護衛らしき帯剣した男性まで控えてもいた。

 釣りに興じる老爺の意識は水面よりもすぐ隣、岩場に屈み釣り糸の先をじっと見つめている幼い少女に向けられている。

 

「すまんな、こんな爺に付き合わせて。疲れてはおらんか?」

 

「――平気ですお爺様、どうかお気遣いなさらず」

 

 とても年頃が五歳の少女とは思えないほどのはっきりとした受け答えが利発さを喜べばいいものか、幼気のなさを嘆けばいいものかと老爺を悩ませる。

 その名をウーロフ・フォン・マーシァという老人は既に爵位を息子に譲ってはいたが、かつてはこの地を治める公爵家の家長だった。

 現在ではアールスハイドにおいて多くの貴族がそうであるように、王都で役職に就いている現公爵の息子に代わり領政を取り仕切っている。

 

 そうした人生経験豊富な人でありながらも目の前の実の孫娘である少女にどう接すれば良いか考えあぐねていた。

 事の起こりは里帰りしてきた息子夫婦から相談を持ち掛けられたことによる。

 母親譲りの艶やかな黒髪をして将来は見目麗しく育つだろう、整った顔立ちをした娘のことを彼らは目に入れても痛くないほど溺愛していた。

 

 そんな愛娘の様子が近頃おかしく、塞ぎこむように思いつめているところをよく見かけるのだと言う。

 幼い子供の行動が読めないのは当たり前のことだが、あまりに真に迫った様子を不安に思った両親は気の休まるようにと、この初夏に自然豊かな自領へと娘を連れて来たのだった。

 それにしてもなんと落ち着いた子だろうか、とウーロフは胸の内で呟く。

 

 往々にして幼子というのは好奇心の塊だ、身の回りのあれこれに興味を持ち思いのままに行動し、喜び泣く。

 物事を判断する知識も経験も足りない、未成熟さ故の浅慮は子を育てる親にとって避けられない試練である。

 しかし彼の記憶する限りこの子がそんな有り様を見せていたのは物心もつかないほど小さな頃まで。

 

 ある年の収穫祭で荷崩れを起こした作物の山に埋もれあわや死にかけて以来、子供らしい無軌道さは鳴りを潜めてしまった。

 初めは心配していた少女の父母も精神的に傷付いてしまったような様子が見られないこと、すっかりと良くなった聞き分けに安心しきっていた。

 そうしてこの子はよく学び、適度に遊び、公爵家という地位の高い生まれでありながら周囲を見下すことも無い模範的な子女として成長していたのだ、ついこの間までは。

 

「ターナや、まだ魔法は怖いか?」

 

 顔を向けず投げかけた問い掛けに孫娘、ターナの肩がピクりと反応し確信が深まった。

 少女の様子がおかしくなった切っ掛けらしきものは既に両親から聞き及んでいる。

 この世に満ちる魔力を制御し、何もないところに火を起こし水を生じさせる、常ならざる現象を生み出す技術、魔法。

 

 個人の技量によりその規模は様々だが、熟達した使い手は大魔法と呼ばれるような超現象をも操り、ウーロフもその域にある人物を一人は知っていた。

 とはいえ魔法そのものは普遍的な技術で、小さな火種を生み出す程度なら一定の教育さえ施せば誰でもできる。

 アールスハイドでは魔法師の教育は身分の隔てなく盛んに行われており、ターナに対しても先だって専門の家庭教師があてがわれたという。

 

 これだけ利発な少女だ、さぞや優秀な使い手として育つに違いないと皆信じ切っていた、しかし。

 

「……はい、正直恐ろしく思います」

 

 教わるにつれ、この少女は魔法という技術に対してはっきりと忌避感を示していた。

 聞くところによれば初めの授業では素直に教師の指導を聞き、初めての実演で拳大の炎を生み出すほど適性を見せていたという。

 その結果に両親も喜んでいたのだが、指導が始まり間もなくしてターナは魔法という存在を拒絶するようになっていた。

 

「恐ろしい、か。確かに魔法は使い方を誤れば不幸を引き起こすものだ。しかしだからこそ正しい使い方を学び、力を制御できるようにならねばならん」

 

 子供に話すには難しい理屈だが、この子なら理解してくれるのではないかという考えるウーロフは言葉を重ねる。

 特に権力を持つ、自分達のような貴族にとっていずれその認識は必要なことだった。

 しかし珍しくも少女は首を小さく振り拒絶の意を示す。

 

 早まったかと後悔しかけたウーロフの耳に、ターナの口から漏れた呟きが届く。

 

「制御なんて、できるわけがありませんよ」

 

「……何?」

 

 どういうことか尋ねようとした時、聞こえた草木を掻き分ける物音にハッとしたウーロフは釣り竿を放り立ち上がる。

 

「ウーロフ様」

 

「分かっておる」

 

 同じく気配を察した護衛の青年が腰の剣に手をかけながら物音の方、木立の先へ視線を飛ばす。

 嫌な胸騒ぎが高まり空気が緊張する中、現れた存在にウーロフ達の表情が険しく歪んだ。

 身の丈にして二メートルは裕に超えるかという巨躯の野生動物、大熊。

 

 冬ごもりから目覚めてすぐの春先ならまだしも、今の時期にこんな人里近くまで山を下りてくるのは珍しい。

 孫の心配をしておきながら肝心の警戒が緩くなっていた己の怠慢を嘆きながらもウーロフは剣の柄を握りこの子だけは守らねばと覚悟を決める。

 魔物化してはいないようだが、本来なら駆除するためには腕利きの魔法師かハンターを集めなければならないところだ。

 

 ウーロフも護衛も魔法の心得は多少あるが、いかんせん相手との距離が近すぎる。

 馬よりは遅くとも、熊の足は人などより遥かに速い。

 詠唱が終わるよりも早く迫る爪はこちらの頭を叩き割ってしまうだろう。

 

 それでもやらねばならないと、意を決して踏み込もうとした瞬間だった。

 目の前の熊が後退る、まるで怖気づいたようにして。

 同時、視界の端から大熊へと一条の白い筋が奔った。

 

「は……?」

 

 何が起こったかと口に出すよりも早くその結果が目に映る。

 鋭い刃に切り裂かれたかのように、首筋から血を噴き出した大熊が呻きながら地へ倒れ伏す。

 明らかな致命傷、起き上がることは二度とないだろう。

 

 呆然としながらウーロフが今、目にした白条の発生元である後ろへ目をやるとそこには。

 すぐ脇の宙に、水球を浮かべさせたターナの気まずそうにして目を伏せている姿があった。

 今奔ったのはおそらくあの水球から放たれたものだと直感する。

 

「まさか……無詠唱魔法?」

 

 信じられないと言わんばかりの護衛の声。

 しかし目の前で起こっているのはそうとしか説明のつかない現象だった。

 

「ターナ……お前は一体」

 

 魔法とは魔力を用いて自身のイメージを具現化させるもの。

 そのために起こしたい現象を表した詠唱を行うのが現代魔法師の主流である。

 詠唱せずに魔法を行使できるのは熟練の使い手のみ。

 

 それを齢五つの少女がやってのけた、しかも並の魔法師でも仕留めるのに苦労するだろう大熊を一撃で屠るほどの威力で。

 魔法を忌み嫌っていたはずの孫娘にどうしてそんな芸当ができたのか、ウーロフの疑念を更に深まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――やってしまった。

 

 後悔の念に苛まれるあまり、部屋へ戻るなり無暗に豪華な天蓋付きのベッドに突っ伏してしまう。

 祖父と護衛のあからさまにドン引きした顔を思い出すと憂鬱は一層深まった。

 仕方ないことだとは分かる、あんな猛獣をこんな小さな子供があっさり仕留めてしまうなんて普通に考えて有り得ないし、異常だ。

 

 しょうがなかったのだ、魔法なんてものがあっても大熊が人間なんかあっさり食い殺せる生物であることには変わりない。

 祖父達も命懸けの覚悟を決めていたようだ、見た目の迫力も凄まじくて姿を見たときにはこちらも心臓が止まるかと思った。

 かばわれなければ我に返る間もなく、そのまま襲われて食われてしまっていたかもしれない、実のところ危機一髪の事態だった。

 

 それでも咄嗟に魔法を使ってしまったことは悔やんでしまう。

 帰るまでは黙っていてくれたが、きっと爺様や事情を聞いた両親からどうしてあんな魔法を使えたのか、追及されてしまうことだろう。

 説明はしたくない、したところで信じてもらえるかも疑わしい。

 

 自分には前世の記憶があるんです、なんて与太話。

 

 同僚の信号無視による交通事故に巻き込まれる形で死んでしまった前世の記憶が甦ったのは収穫祭で崩れて来た荷物に押し潰されて死にかけたときのこと。

 初めはひたすら混乱した、何せここは日本じゃないどころか魔法なんて非科学的な存在が当たり前の世界で、おまけに自分は性別すらも変わってしまっていたのだから。

 ターナ・フォン・マーシァ、それが今の自分、私の名前。

 

 どういうわけかこの国、少なくとも周辺諸国では貴族はフォンというミドルネームを持つものらしい。(フォンはミドルネームではなく、貴族称号たるドイツ語の前置詞である。)

 実は遥か宇宙の彼方にはこんな魔法が存在する星があったのか、それとも記憶する科学文明が滅びた後に地球が有り様を変えたのか。

 はたまた全く次元の異なる異世界に生まれ変わったのか、気にしたところで分からないことだらけで考えるのを諦めたことも多くある。

 

 精神が男のまま性別が変わってしまったことには将来に多少の不安を、いやものすごく感じてしまうがそれについてはまだ慌てる時間じゃない。

 幸いというか前世の記憶はしっかりと、死ぬ間際の嫌なものまで残っていたから価値観の違いに戸惑うことはあってもなんとか利口な子供として振る舞えている。

 只の人も年の頃が十より戻れば神童のように見えるのか、可愛がってくれる両親の期待が申し訳なかったがこれまで上手くやってこれた。

 

 けれどただ一つだけ、未だに受け入れられないことがこの世界にはある。

 

「ターナ、起きているか?」

 

「――! はい」

 

 ノックの音に続き聞こえた声に身を起こし返事を返す。

 この声は爺様のものだ、やはり来てしまったかと深呼吸して緊張をほぐしベッドから身を離す。

 

「開いています、どうぞ」

 

「ああ――入るぞ」

 

 流石は公爵家に連なる人物というべきか、ウーロフ爺様はこんなお子様相手にでも礼儀を払ってくれる。

 承諾を得てから入室してきた祖父を緊張しながら迎え、

 

「……?」

 

 一人だけ、共に来るのではないかと思っていた両親の姿がないことが不思議になる。

 そんなこちらの思惑を察したのか、ウーロフ爺は安心させるように微笑みを見せた。

 厳めしい顔つきをした人なので、効果はとても薄いものだったが。

 

「エリック達は呼んでおらん、来たのは私だけだ。座って話せるか?」

 

「……はい」

 

 父の名を告げ自分だけで来たという意図が読めなかったが、あんなことをしでかした手前帰ってもらうわけにもいかず頷いて返すと歩み寄って来た祖父は隣、ベッドの端に腰を落とした。

 それに倣ってこちらもベッドに腰掛けるとウーロフ爺はゆっくりと語り始めた。

 

「驚いたぞ、まさかターナがあんな魔法を使えるとはな」

 

 やはり気にするのはそこだろう、しかしそれには沈黙で返すことしかできない。

 どう言い繕ったものかと考えあぐねていると、じっとこちらを見ていたウーロフ爺は言葉を重ねてくる。

 

「今回の件だが、まだエリック達には話していない、護衛の奴にも黙っているよう言っている」

 

「え?」

 

 予想外な発言につい相手の顔を見返してしまう。

 

「ターナが賢いことは知っている、何か事情があるんだろう?」

 

「……事情、というほどのことではありません」

 

 実際のところこれは複雑な話じゃない、魔法が恐ろしいと、あの渓流で口にしたそれがほぼ全てだ。

 魔力を操り、思い描いたイメージを具現化する、そんな魔法をこの世界の人々はただ便利なものとして何の抵抗もなく使用しているが、その恐ろしさを理解している人はいるだろうか?

 燃え盛る炎、極薄に閃く流水、そんな現象を頭に思い浮かべ大気に満ちる魔力を練り上げれば現実のものとすることができる。

 

 炎の熱さも、水の厚みも、物理的にどんな現象によって引き起こされているのか、理屈を知っても人の感覚では知覚できないというのに。

 しかも分子の構造だとか、原子の配列だとか、科学が未発達なこの世界の人々は知る由も無い。

 なのに上辺のイメージだけを元に魔法はその改変を成し遂げてしまう。

 

 それこそ街一つを吹き飛ばすような大爆発だって、イメージさえしてしまえば引き起こせる。

 ミサイルのような戦略級の兵器なんてこの世界には存在しないからそんなことはそうそう起こらない。

 しかしウォーターカッターをイメージして大熊を仕留めたあの魔法のように、物理の知識なんて義務教育程度にしか無くても実現できる。

 

 それを自分が制御しているなんて、とても思えなかった。

 もしそんな魔法に甘えて戦略級の攻撃魔法なんて使ってしまえばまるで人間兵器、国からは重用してもらえるだろう。

 けれどそうして使われた魔法を目にした人々も、いずれ見たイメージだけで再現できるようになってしまうかもしれない。

 

 テレビや漫画誌で表現される実現可能かも疑わしい空想科学でもこの世界の魔法は再現できることを確認している、杞憂なんてことはないはずだ。

 そうなってしまえば世はちょっとした気の迷いで大災害を引き起こせる危険人物だらけ。

 いくら街中で攻撃魔法の使用を禁じる法律があっても使用を封じることは出来ないんだから。

 

 ミサイルの発射スイッチを持った人がそこらじゅうに居る世界なんて、恐ろしすぎる。

 それを現実のものとしてしまうイメージを広めないよう、自重しなければならない。

 俺――私にとっての魔法の恐ろしさとはそういうことだ。

 

 生まれ変わりのことをぼやかしつつ、そんな気持ちをかいつまんで説明すると爺様は神妙な顔つきで考え込んでしまっていた。

 世迷言と適当に聞き流しているようには見えない、祖父がこんな子供の話でも真剣に聞いてくれる人だったとは。

 密かに感動するがマーシァの家は貴族、それも格では最上位の公爵家だ。

 

 そんな力を持ちながら甘ったれるなと一喝されるんじゃないかと不安もある。

 しかしこの話の何が琴線に触れたのか、ウーロフ爺は呵々と笑い、頭をわしわし撫でて来た。

 

「わ――じ、爺様?」

 

「本当にお主は……子供離れしておるな、並の大人でもそこまで考えることはできんだろうに」

 

 まあ精神的にはとっくに成人している身なものでして、とりあえず気分を害した様子はないようだった。

 前世の記憶故の思考を褒められるのはなんだか不正をしているようで後ろめたく、素直に喜べない。

 そんな複雑な心境でいると、いつの間にか祖父は表情を真面目なものに戻してこちらを見つめていた。

 

「だがなターナよ、恐ろしいのは皆同じだ」

 

「皆……ですか?」

 

「そうよ、お主のように先が見え過ぎるばかりに恐怖を感じる者は珍しいがな。多くの平民達は分からぬが故に将来が見えず、不安を抱えて生きている」 

 

 祖父の言うことは、なんとなくではあるが理解できる。

 日本のように全ての人に教育が普及した社会と違い、前世感覚で中世頃のこちらの世界はそこまで至っていない。

 このアールスハイドでは平民でも貴族とほぼ変わりない教育が受けられるが、隣国のブルースフィアとかいうけったいな名前の帝国では平民に対する差別が酷いものらしく無学な者がほとんどだという。

 

 知識が無ければ行動選択の幅は狭まり、将来の見通しなど立てられず、とても自由には生きられない。

 それを不幸と見るかは人によるだろうが、生殺与奪が人任せな生き方は不安ではあるだろう。 

 

「貴族という存在はな、そんな彼らを導く存在でなくてはならん。少なくとも私はそう思っている」

 

 貴き者としての責務、ノブレスオブリージュというやつだろうか。

 貴族なんて身分とは縁の無い庶民生活をしてきた身にはピンと来ないが、ウーロフ爺がその考えに誇りを持っているらしいことは声音から伝わってくる。

 平民を搾取の対象としか見ず、領政を代官任せにして不正を横行させる貴族も少なくないと聞く世の中で立派なことだ。

 

 つくづく前世で暮らしていた人々とは価値観が違うのだなと思い知らされ、つい見入っていた祖父の顔が薄い笑みを象る。

 

「誰にでもできることではないだろうさ、だからこそ――お主のような者がそう成ってくれたらと思ってしまう」

 

 思いがけない期待をかけられている事実に息が詰まる。

 数多くの人々の生き方を左右する生き方なんて想像もつかなかった。

 何より、前世の記憶があると言っても学者のような知識があるわけじゃない自分が誰かの役に立てるなんて思えなかった。

 

「無理、ですよ……こんな臆病な私なんかじゃ」

 

 そんな拒絶の言葉に祖父は静かに首を振って示す。

 一体この人はどうしてそんなに期待をかけてくれるのだろうか。

 

「臆病なぐらいでいいんだよ、特にターナのように大きな力を持つ者が恐れ知らずだったならとんでもない誤った道へ突き進んでしまうかもしれんだろう? お主が自分の選択が正しいのか、誤っているのか、世界にどんな影響を与えるのか、考えることができる人間だからこそ、私はこう思った」

 

「……そういう、ものでしょうか?」

 

「ああ、勿論無理にとは言わん、婿をとって慎ましく生きるのも一つの道だろう」

 

「そうですね、それも……あれ?」

 

 無理強いしないでくれるのはありがたいのですがお爺様、それだけはご免なんです。

 男性と添い遂げる将来なんて想像しただけでも鳥肌が立つ、もしかするとこの提示された道で独り立ちしなければ心の貞操を保つことはできないのではないのか。

 よく考えれば公爵家の令嬢なんて身分は縁談に事欠かない、というよりそれが求められる立場だ。

 

 気づかされた予想よりも遥かに切実な危機に電撃のような衝撃を受ける。

 そんな未来は何としても回避しなければならない、例え魔法なんて胡乱な技術に手を出してでも。

 

「――お爺様」

 

「うん?」

 

 ベッドの上に正座して居住まいを正してから深く、頭を下げる。

 祖父が動揺する気配を感じながらこの時芽生えた心からの願いを口にした。

 

「私は公爵家の当主を目指します、どうか貴族としての職務をご教示下さい」

 

 そうして俺、改め私、ターナ・フォン・マーシァは転生五年目にして貴族としての道を歩むことを決意したのでした。

 


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