転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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尺の切り方に迷ったので短めですが一話更新します。
返信いつも遅れがちですが、感想、誤字訂正下さる方々いつもありがとうございます。


究極魔法研究会

 新入生に対する研究会説明後、予想通りというべきか、すっかりと名前の知れ渡ったシンには各研究会からの誘いが殺到した。

 すぐに彼が新たな研究会を立ち上げることが知られると今度はそちらへの入会を希望する生徒が殺到し、Sクラスの教室は一時押し掛ける人で出入り困難なまでになった。

 全ての生徒を受け入れるわけにもいかず、顧問の教師となったアルフレッドの提案により異空間収納の魔法が扱える者に限り入会を認めると条件が定められ、Sクラス以外からの入会者は三名にまで絞られたらしい。

 

 付与魔法を研究している生活魔法研究会なるものが存在しているらしく、そちらの方が穏やかに過ごせそうではあったがオリベイラの件があり殿下から魔人に対抗できる稀少な人材として認識されているのが仇となった。

 こちらもかの魔人を野放しにしておくには危険とは考えている。

 情報源が多いのに越したことはないので、オリベイラへの対策方針が固まるまで仮に、という条件をつけて私も入会することになった。

 

「仮などと言わず参加してほしいが……マーシァにとってもシンの魔法は参考になるだろう?」

 

「私自身は別に魔法を極めたいなどという目的があるわけでもありませんから、折を見て生活魔法研究会の方に移籍させて頂きたいと思います」

 

「惜しいな、無理強いは出来んが……そういえば」

 

 研究会に割り当てられる部屋で、Aクラスからの入会者を待っている間、ふと思いついたようにアウグストが尋ねてくる。

 

「異空間収納は使えるのに、鞄を持ち歩いているんだな?」

 

 全員が異空間収納の魔法を使えるSクラスの生徒達は学院に鞄を持って来ない。

 教科書や筆記具などすべて異空間収納に納めておけるからだ。

 そんな中でそれらを鞄に入れ持ち歩いている私がおかしく見えたのだろう。

 

「習慣づけです、私の領では公共の場で異空間収納を使用することは禁じていますから」

 

「禁止……? それはまた何故……領民から不満の声は上がっていないのか?」

 

「はい、そもそもそれだけの魔法を扱える魔法使いが民間に多く居るわけではありませんから、王都でも街中での攻撃魔法の使用は禁じているでしょう?」

 

「それは危険だからだと分かり切っているだろう?」

 

 同列に扱うのが信じがたいというような反応を見せる殿下だったが、こちらからするなら何故扱わないのかという気にもなる。

 その理由を示す好例はすぐに目の前で披露されるのだったが、気にも留められなかった辺り手遅れなのだろう。

 やがてやってきたAクラスからの入会者は殿下の護衛だったユリウスと他二名。

 

 家が鍛冶工房をやっているという少年、マーク・ビーンズに、両親が王都では有名な食堂である『石窯亭』を経営しているというオリビア・ストーン。

 ユリウスに続き幼馴染というその二人が自己紹介するとマークの家、ビーン工房は質の良い武器を取り扱っているとして王都で評判らしく、シンが武器を新調したいと相談を持ち掛ける。

 魔人を討伐した英雄の武器に代わる代物などそうそう無いと焦るマークだったが、そんな彼に対して。

 

「じゃあ俺の剣ちょっと見てくれる?」

 

 思惑ありげにシンは自身の異空間収納から一振りの直剣を取り出すとマークに渡す。

 こうして人を殺傷できる凶器が取り出し自由だというから禁止せざるを得ないのに、この国では誰も気にしていないらしいのが悲しい。

 凶器がいつでも出し入れできる上に生物の死体すら収納できる、つまりは物的証拠の隠蔽も容易で、こんな魔法を攻撃魔法同様に危険視できないわけがないだろうに。

 

 そんな私の嘆きをよそに、シンから受け取った剣を観察していたマークが驚愕を露わにしていた。

 

「これ……普通の鉄製の剣じゃないっスか! しかも薄くて耐久性もあまり……本当にこれで魔人を斬ったんスか!?」

 

 魔法学院の生徒は大半が剣というものに対し造詣は深くないが、その反応には皆が大なり小なり驚きを示す。

 賢者の孫で、新英雄、そんな彼なら扱う武器も上等な代物だという思い込みがあったのかもしれない。

 カートに止めを刺したときのことを思い出すと、剣にはなんらかの魔法が付与されているらしい反応があった。

 

 その辺りに何か絡繰りがあるのかと考えていると、剣を受け取り本当に言われた通りのものらしいと確認しているアウグストにシンが種明かしをしていた。

 

「剣は普通だけど魔法付与してあるんだ、魔力を通してみろよ」

 

「魔道具なのか――これは、刃が微細に振動している……!?」

 

 言われた通りに剣へと魔力を通したアウグストがその変化に瞠目しているが、それを聞いたこちらは背筋に嫌な悪寒を感じてしまう。

 振動って、まさかね。

 

「で、これ斬ってみ?」

 

 用意のいいことに、シンが異空間収納から取り出した二の腕ほどの長さの丸太を放る。

 斬ってみろと言われても唐突のことで、すぐに対応できなかったアウグストは丸太の放物線上に剣を掲げることしかできなかったのだが。

 刃に接触した丸太はろくに抵抗すら生じていないかのようにスッパリと、真っ二つに両断され床へ転がった。

 

 ……えぇ。

 

「なっ……何だこれは!? 全く力を加えずに……」

 

「バイブレーションソード――刃に超高速な振動を加えるとそういう風に物が斬れるようになるんだ」

 

 自信作なのか、少し得意げにその付与内容を語って見せるシンに皆が呆気にとられている。

 私もまた呆気にとられてしまっていた、多分他の皆とは別の理由からだろうけど。

 超高速な振動、つまりは超音波カッターのような理屈なのだろうか。

 

 前世なら色んな分野で用いられていたし、ネット通販でも簡単に購入できる確かに良い切れ味のちょっとした工作にもってこいの品だ。

 けれど今実演されたように、太い丸太を一刀両断なんて真似ができるような代物じゃなかったはず。

 摩擦が抑えられるとはいえ、そんな使い方をしようとすればまず刃の方がポッキリと逝く。

 

 にも関わらず彼の剣はそれを成し遂げている、私がやっているように、こうあれとするイメージを創り上げ道理を捻じ曲げているのかと思いもしたがシンの顔を見るとそれも無さそうだ。

 あの自信ありそうな顔は本気で「高速で振動する刃は凄い切れ味になる」と信じている顔だ。

 魔法に頼らずその原理を再現することがこの世界ではまだ出来ないので立証は出来ないが、彼が常人離れした魔法を扱えるという理由の一端を知れた気がする。

 

 何が()になっているのかは分からないが、この思い込みの強さはこの世界で強みになる、なってしまうのだから。

 

「薄い刃……そういう条件だけでいいなら自分にも打てます」

 

「ほんと!? 助かるよ、色々試したいことあったんだけど、今までは人伝に頼んでたから細かい調整とかできなくてさ。放課後に君の家行ってもいいかな?」

 

 嬉しそうにはしゃぐシンに、並の付与魔法使いでは到底作れないような魔道具を持ち出しながらまだ足りないのかと言わんばかりに皆が畏れ交じりの視線を向けている。

 

「それはいいがシン、街中を歩くならお前の評判を聞きつけた人間に囲まれたりしないよう注意しろよ。特に、良く知りもしない女に囲まれたりすると面倒臭いぞ」

 

 次期王位に就くことが確定的な王子として、嫁入りを期待する貴族の子女などに囲まれた過去があるらしいアウグストが忠告を入れるとシンもハッと思い出したような顔をする。

 

「確かに知らない場所にはゲートも使えないしな……いっそ変装するか姿を消してでも行くかな」

 

「姿を消す……って何ですか?」

 

 さらりとシンが口にした言葉の意味が分からず、トールが問い掛けると。

 

「いやこうやって」

 

 その一言と共にシンの姿がその場からかき消える。

 実際には何らかの魔法により姿が見えなくしただけで、彼自体はどこにも行っていないようだったが。

 

「えっ!? シン君、どこですか?」

 

「嘘っ……急に消えた!?」

 

「いやそんなに驚かなくても……」

 

 慌てるシシリーとマリアに見えないまま返事したシンはすぐに魔法を解除し姿を現した。

 いや目の前の人の姿が前触れもなく消えれば普通は驚くでしょう。

 魔法を披露する度に似たような反応をされているのだから、それぐらいは分かるんじゃないかと思うのだけれど。

 

「な……何今の? どうやったの?」

 

「光学迷彩の魔法を使ったんだよ」

 

 マリアの問いに何でもないことのようにそう返している辺り、この世界の文明レベルでそんな知識を用いることが常識的でないことを本気で分かっていないらしい。

 前世の記憶持ちであることはもう確定的である気がするが、知識と倫理のつり合いがあまりにもとれていない。

 世俗に関わりを持たない箱入りな人間だったのだろうか。

 

「人間の目って光が反射したものを見てるだろ? だから俺の周囲に魔法で干渉して光を歪めてやると、俺の周りの風景に反射した光が俺を迂回して前に居る人間に見える。結果俺が消えたように見えるってワケ」

 

 当然のことながら、そのシンの説明を理解できた人間は誰も居ないようで、皆ひたすら頭の中に疑問符を浮かべるような顔をしている。

 

「……マーシァは理解できたか?」

 

「……いえ、おぼろげにしか。真似できる気はしませんね」

 

 レンズで視力を矯正している眼鏡は発明されているのだから、光を操ればそういった目の映り方に干渉できると発想できる人間は居るかもしれない。

 ただ綺麗に人一人の姿だけ消してみせるだとか、どう光を歪めれば実現できるのかだとか彼の魔法では一切考慮されていないだろう。

 かの賢者様はそんな過程なんてすっとばした魔法を次々とゼロから開発していく孫を見て本当に疑問を持たなかったのだろうか。

 

「ターナさんでも無理だったか……まあここは究極魔法研究会なんだから、これぐらいで驚いていられないだろ?」

 

「いきなり究極すぎる!」

 

 その常識離れぶりに皆が口々に「もう生暖かく見守ろう」と呆れたり、「少しでも学びとる」と意気込んだりとしていたが、いずれにしても圧倒されてしまったことには違いないだろう。

 それにしても彼だってほとんどが森暮らしだったとはいえ、十五年もこの世界で暮らしているだろうに。

 親の顔が見てみたいとは言うが一度賢者様の顔を拝んでみたい、二つ名通りさぞかし知性に富んだ人なのだろうと考えていたが、実態が怪しくなってきた。

 

「流石と言わざるを得ないが光学迷彩だったか、もしこんな魔法が広まってしまえば戦場でも奇襲が簡単に成功するだろうな。みだりに使用することは控えろよシン」

 

「お、おう。そうだな、気を付けないと……」

 

「……逆に広めきってしまった方が安全かもしれませんがね」

 

 呟くと意外そうにシンとアウグストがこちらを見てくる。

 ああやっぱり思い至ってはいなかったのか。

 

「それはまた何故だ? 真似できる奴が現れたら今言ったような危険があることは分かるだろう?」

 

「いいえ、あくまで姿が見えなくなっているだけで魔力反応まで消せるわけではありません、索敵魔法を使えば発見は容易です」

 

 この世界の生物は例外なく魔力を持つ、故に視覚だけを誤魔化しても存在を隠蔽することはできない。

 普段そんなことに気を回していない民間人の目を欺くぐらいなら楽だろうが、そこで魔法が使用されている反応まで垂れ流しているのだから人によってはすぐに気付く。

 指摘されてようやくそこに気づいたようにシンらは「あっ」と声を漏らしていた。

 

「なるほど……確かに索敵を緩めなければ発見できる、そんな魔法があることが知っていれば対処のしようもあるということか」

 

「盲点だったな……確かに魔力の反応は消しようがない」

 

 魔法に頼れば魔力を使わざるを得ず、それは自身の存在を発信することになってしまう。

 実のところこの世界で完全な隠形は不可能に近いのだった。

 

「為になるな――やはりマーシァ、正式に研究会に参加しないか?」

 

 こんな気疲ればかりしそうな研究会はまっぴらごめんですと、口にしてしまいたいがなんとか堪える。

 治安も大事だが、早く移籍するためにもオリベイラの所在が明らかになって欲しいものだ。

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