転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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年末年始ゆっくりと、し過ぎた……大分間隔あけてしまいましたが年始初投稿になります。
遅れ巻きながら明けましておめでとうございます、感想、評価、誤字修正入れて下さる皆さまいつもありがとうございます。


賢者の孫の魔法

「魔法から――撃て!」

 

 クリスティーナの号令の下、アウグスト、マリア、シシリーが一斉に魔法を放つ。

 無詠唱で放たれたそれらは迫っていた狼の魔物へと狙い通りに命中し、動きを止めた。

 

「魔物の動きが止まりましたよ、騎士学院生!」

 

 続けて呼びかけられた騎士学院生、ノインとケントが飛び出していき怯んでいた狼を手にした剣の一閃で仕留める。

 魔猪との初戦から彼らも素直に指導を受け入れるようになり、基本的な連携だという魔法使いによる牽制の後に止めを刺す、一連の動きは板についてきた。

 

「ようやく形になってきたな。……ていうかアイツらやたら魔法の精度高くないか? 無詠唱でポンポンとまあ……下手したら俺より」

 

 平均的な学院生、どころか魔法師団の兵すらも及ばないようなレベルでアウグストらが魔法を扱っていることにジークフリートが動揺を隠せないでいる。

 

「ああ、俺が研究会で魔法教えたんだ。あれまだ本気じゃないよ」

 

 戦闘に参加せずその隣に居たシンが何でも無い事のように種明かしをする。

 実際シンからの指導によりアウグスト達は狼程度の魔物なら仕留めてしまえる威力の魔法を使えるようになっていた。

 連携の訓練であるので手加減をしているが、実戦なら騎士学院生達に止めを任せる必要もない。

 

「マジかよ……」

 

 明かされた事情は現役の軍人であるジークフリートに衝撃を与えているようだった。

 それだけ彼のような軍人を差し置いて学生である殿下達が飛び抜けた実力を有していることが歪であることに、シンは気づいているのだろうか。

 後ろから聞こえてくる会話に気が散りそうになるのをこらえ、こちらの戦闘に意識を引き戻す。

 

「来ますよ、二人とも目を逸らさないように」

 

「――はいっ!」

 

 私の前で構えているクライスとミランダが顔を前方、迫ってくる二頭の狼の魔物へ向けたまましっかりとした返事を返してきた。

 魔法で仕留めるのが容易いのはこちらも同じだが、連携を学ぶと言うからにはそれらしい動きをしなければならない。

 とはいっても普段は魔法使いより後ろに控えてもらって、動きを止めてから「はいどうぞ」と突撃してもらってばかりでもいられないだろう。

 

 なにせ今回の訓練を行うことになった切っ掛けは魔人。

 脅威度の低い魔物相手にしか通用しないような戦術ばかりとっていても備えになるとは思えない。

 あえて手を出さなかった狼達が立ち塞がるクライスとミランダへ飛び掛かる。

 

「くっ――!」

 

 閃く狼の牙と爪を、二人は剣や籠手でなんとか受け止める。

 日頃から近接戦闘の訓練を重ねているだけあって、落ち着いていればそれぐらいの防御技術を持ち合わせているらしい。

 とはいえ盾も槍も持たない彼らにあまり無理はさせられない、狼達を押しとどめる二人の後ろでこちらも魔法の行使に移る。

 

(アロー)

 

 指先に顕れる五つの(やじり)型の炎。

 森の中で火の魔法は無暗に扱えないが、これだけ凝縮すればそうそう周囲に飛び火することもないだろう。

 事前の打ち合わせ通り、こちらの詠唱を聞き取ったクライス達が受け止めていた狼を押し飛ばし距離を空ける。

 

 それに合わせてほぼ真上に撃ち放った鏃が急角度で折り返し、二頭の狼目掛けて直上から降り注ぐ。

 クライス達と相対していた狼はそれに反応することが出来ず、無防備に射抜かれた魔物達がその身を傾がせる。

 機を悟り踏み込んだクライス達に急所を斬り裂かれ、体勢を立て直す間もなく狼達はその命を散らせた。

 

「ふぅ……」

 

 無事魔物を仕留めたことに安心してクライスが息を吐いているが、気を抜くにはまだ早い。

 後ろで察したシンとジークフリートを無言の手振りで制しつつ、装填をすませておく。

 

「――太矢(ボルト)

 

 手の甲に生みだした炎を今度はクロスボウで用いるような杭状の矢に形成し、構える。

 詠唱は小声で行ったが、聞こえていたのかミランダがハッと目を瞠り、剣を下ろしていたクライスと背中合わせになるよう回り込んだ。

 

「どうしたミラン――っ?」

 

 その挙動の意味が理解できなかったクライスが聞くよりも早く、木々の隙間から今片づけたものと同種の狼の魔物が二頭飛び出す。

 出てきた瞬間に用意を済ませていた杭矢を撃ち出し、片割れの頭部を貫いて絶命させ、もう一頭は待ち構えていたミランダが受け止めてくれた。

 

「ロイド君、仕留めて!」

 

「――っは、はい!」

 

 奇襲に対応できなかったクライスだがこちらの声にはすぐ反応してくれた。

 狼もミランダの剣に食らいついてしまったせいでクライスの攻撃を避けることは出来ない。

 焦りながらも振るわれた刃閃は頸部を捉え、一撃で仕留めることに成功する。

 

 首から血を噴き出しながら崩れ落ちた狼が動かなくなったのを確認すると、冷や汗を浮かべながらクライスが周囲を警戒していた。

 

「後続はありませんよ、お疲れ様です」

 

「……申し訳ありません、油断しました」

 

 言葉通り申し訳なさそうにクライスが頭を下げてくるが、索敵魔法の使えない騎士学院生には今のような不意打ちを防ぐのは難しいだろう。

 

「いいえ、意地の悪い真似をした私の方こそ謝らなければいけません。ウォーレスさん、カバーに入って下さってありがとうございます」

 

「そ、そんな、たまたま足音が聞き取れただけですから」

 

「お蔭で私も落ち着いて対応できました。残心を忘れないのは大事ですが気を張り続けるのも難しいものです、今のように死角を補い合えば魔法使いの支援が無くともリスクを抑えれるようになるでしょう」

 

 索敵魔法で事前に感知できるのは有効だが、乱戦になってしまえば一々報せることも難しくなる。

 並の人間では一人で全周囲を警戒することなどできないのだし、連携というなら魔法使い相手でなくとも互いにフォローし合う意識を大事にしてもらいたい。

 そんなわけで話を聞いてくれるようになった彼らには殿下方とは少し違った戦法をとらせてもらっているが、少し険のある視線を後ろから感じる。

 

「……一撃か、それに見たこと無い魔法だな。あの子――っと、閣下にもシンが教えてるのか?」

 

「ああいや、研究会は同じなんだけどターナさんには全然教えたことないな」

 

 シンとジークフリートが話す脇で、こちらを見ているクリスティーナの視線は訓練開始時よりもいくらか冷ややかだ。

 まあ教官として派遣された彼女を差し置いてクライス達に指示したりとしていれば、いい気はしないだろう。

 しかし騎士である彼女の意見を無視するのは強引過ぎたかもしれないが、この班分けは魔法学院生と明らかに力量が離れすぎているし、もう少し彼らにも騎士学院生にも配慮して欲しい――大人げなさが目立つ殿下辺りは特に。

 

「噂の公爵閣下ですか、魔人を撃退したという話でしたが、先程からの戦闘を見ている限りではそこまで突出したものは感じませんね。殿下方と違い騎士学院生を矢面に立たせているようですし」

 

「そりゃあ普通の魔法使いは前面に出ないんだから普通だろ、シンみたいに近接戦闘までイケるのが常識離れしてるだけなんだからよ」

 

 やはりあれだけの人前で戦ってしまったせいか私についても噂が出回っているらしい。

 とはいえあのとき見せた魔法だけでは実力を完全に測られることもないだろう。

 オリベイラ達が世界初の魔人ほど被害をもたらさなかったこともあるかもしれない。

 

「シシリー、怪我はないか?」

 

「え? は、はい、私は大丈夫ですけど」

 

「疲れたならいつでも言ってくれ、シシリーのことなら必ず守って見せるからな」

 

 ノインとケントがシシリーを気遣う姿が目に映る。

 彼女に治療を受けてからというものの、二人は戦闘や移動の合間にこうしてアピールしてばかりいた。

 マリア曰く、あの手の男はか弱くて優しい女に簡単に惚れるとのことで、つまりはそういうことらしい。

 

 騎士学院が男性比率の高いこともあるのだろうが、クラスメイト達のそんな分かりやすい態度にはミランダも苛立ちを募らせているように見える。

 そうしたノインらへの苛立ちといえばシンの方が相当なご様子で、騎士学院の二人がシシリーに話しかける度に顔を不機嫌そうに歪めていた。

 まだ交際関係には至っていないらしいが、意中の少女に寄ってくる虫におかんむりと言ったところだろうか。

 

 と、訓練中でありながら大分弛みつつあった空気の中、厄介そうな生体反応を感知してしまった。

 

「マルケス教官」

 

「どうし――ああ、こいつはちょっとヤバそうだな」

 

 言わんとすることは察してくれたらしく、この場に居る中では索敵範囲の広いジークフリートとシンが表情を険しくする。

 目を反応の方へ向けていると、やがて駆け込んできたのは教官に連れられた別の班の学院生達。

 

「ああ! ジーク先輩、クリス姉さま、逃げて下さい! 大量の魔物に追われてるんです!」

 

 二人の顔見知りなのか、教官らしい魔法師団の女性がこちらに向けて警告を発してくる。

 普通の学生では魔物を一人一体相手にするだけでも一苦労なのだから、言葉通りならここまで慌てるのも無理はない。

 

「規模は?」

 

「少なくとも百は居ます!」

 

 ジークフリートに答えた女性の言葉にはこちらの班のメンバーもほとんどが驚きを露わにする。

 大量にしても百もの群れとは滅多に見られるものではなく、何かしら原因がありそうなものだが、まず迫ってくる魔物達に対処しなければならない。

 

「ジークにいちゃん、俺がやるよ」

 

「ん……そうだな、頼めるか?」

 

 そこで名乗り出たシンにジークフリートもあっさりと応じる。

 他班の教官が逃げてきたように、百以上の魔物を相手するなど軍の魔法師でも容易ではない。

 どう対処するつもりなのか分からないが、それをあっさりと申し出る辺り余程自信があるのだろう。

 

「そんな……シン君一人でそんな数……」

 

「シンに任せておけば大丈夫だよシシリーちゃん、ほらお前らも下がれ、シンの邪魔だ」

 

「正直我々よりブッチギリで強いですからね」

 

 心配するシシリーらを相変わらずの信頼ぶりを見せつけながら教官方が下がらせる。

 ここまで信頼を受けるからに、教官達はシンがどれだけの魔法を扱えるのか知っているのだろう。

 それならばこちらが手を出さなくてもいいのかもしれない、他の皆と同じように離れておくが、そういえば彼が魔法を使うのをちゃんと見るのはこれが初めてだっただろうか。

 

 魔道具を使った戦闘は先程見せてもらったが、この状況を一体どう捌くつもりなのか。

 前に出たシンは感覚を確かめるように手を握り開きしながら呟く。

 

「久々に爆発系行くか」

 

 ……爆発?

 少し、いや大分物騒な言葉が聞こえたような気がしたのだが、既に彼は膨大な魔力を手元に集め魔法の構築にかかっている。

 見えてきた、土煙を上げながら迫ってくる魔物の群れに向けて、シンが両手を突き出した瞬間、大気を震わすような轟音が広がる。

 

 シンから放たれた視界一面を覆ってしまうかのような爆炎は猛進してきた魔物達をまとめて薙ぎ払い吹き飛ばしていく――周囲の森林ごと根こそぎに。

 もうもうと舞い上がった土煙が晴れた跡には、森の一面が削り取られたかのような変わり果てた光景が広がっていた。

 

「……うしっ、すっきりした!」

 

 今、彼はなんと言ったのか。

 言葉が出ない、というか出そうとしたら空けた口が塞がらなくなりそうな気すらする。

 確かに魔物の脅威は残らず取り除かれた、多大な森林資源を道連れにして。

 

 これしか方法を思いつかなかった、というよりもまるで憂さ晴らし目的だったかのような発言が聞き間違いであったらどれほどマシだっただろうか。

 あまりの破壊規模の大きさに騎士学院生だけでなく魔法師団の教官まで絶句している。

 

「どうなるかと思ったが、シンについてきてもらって助かったな」

 

「……これを見て、殿下に思うところは何もないのですか?」

 

「……? すごい魔法だとは思うが、シンだからな。魔法使いとして劣等感を感じないとは言わないが、気にし過ぎてもしょうがないだろう」

 

 自分の国の、育てればかなりの年月を要する森林資源が無為に吹き飛ばされたのだが、本当に殿下は素直に感謝しているらしい。

 いや人命救助が目的なので、無為にというわけではなかった。

 それにしても他にやりようが無かったのかと思ってしまうのは、傲慢な考えなのだろうか。

 

 シンの実力に畏怖しながらもそこを問題視している人間はこの場にいないらしく、シシリーなどは真っ先に彼の身を気遣い駆け寄っている。

 

「シン君、大丈夫なんですか? こんな……地形が変わるぐらいすごい魔法使ったりなんかして」

 

「ああ俺は平気だよ、爆風は障壁で防いでるし」

 

 常識を学びに王都へ来たというが、この有り様では別な意味で彼の常識破りに警戒が必要なのかもしれない。

 もし同じような真似を自分の領地でしでかされたら平静でいられるだろうか。

 もやもやとした感情に胸を苛まれながらも、先程クライスに注意した身として気を弛めてばかりもいられない。

 

 そうこうしている内に今の騒動の元凶が近づいてきているようだった。

 

「一体何があったんだよ?」

 

「あ、あの……私達はもっと浅い所で訓練してたんですが、急に索敵魔法の探知外からあの魔物達が近づいてきて……」

 

 逃げてきた教官達に事情を聞いたジークフリートが何かに気づいたような反応を見せる。

 

「ということはあいつらお前達を追ってたわけじゃないな。何かから逃げてきた、ってところか」

 

 逃げてきた、と単純に言っても今の群れには大型の熊のような魔物まで含まれていた。

 そんな魔物までもが逃げ出すような相手、という存在がほのめかされ再び緊張が高まる中、それは姿を現した。

 騎士学院生達、シンから指導を受けるアウグストらも息を呑み視線を吸い寄せられる。

 

 魔物化したことにより野生のそれよりも大きな体躯を持つ大虎、災害級と評される生物。

 討伐には軍を動員しなければならないほどで、通常単独で遭遇したなら死を覚悟しなければならない相手だった。

 恐怖に震える騎士学院生達の前で、怯んだ様子も無いシンが睨みを飛ばす。

 

「ジークにいちゃん、俺が魔力で威圧して足止めしてるから皆の避難を――」

 

「いえ、それは必要ありません」

 

 また一人で相手取るつもりだったらしいシンが私に遮られたことで驚きを見せる。

 今回は一頭の災害級が相手で、さっきのような魔法は使用しないのかもしれないが、希望的観測に縋るには大分こちらからの信用度が落ちてしまっていた。

 余計なお世話かもしれないが、正直さっきのようなことを見過ごす羽目になるのもストレスが溜まる。

 

「あれは私が処理しますので、ウォルフォード君も引いて下さい」

 

「処理って……いや俺だけで十分だけど?」

 

「マーシァさん! 危険ですよ、シンに任せて下がりなさい!」

 

 シンは完全にやる気なようだし、クリスティーナ教官も声を荒げてくるがこちらも譲るつもりはないので強硬手段に移らせてもらう。

 まず前に出ながらシンが集めている魔力を認識し、その制御を丸ごと奪い取り霧散させておく。

 

「――っ!? ちょ……ターナさん何を……っていうか、ええっ!?」

 

 まさか自分の魔力制御が越えられるとは思っていなかったのだろう、流石に泡を食った様子でシンが目を剥いている。

 何をやったのか認識できているジークフリートや魔法学院生達が目を丸くしている一方で、こちらを引かせようというのか後ろから寄ってくるクリスティーナの気配を感じながら、ありったけの魔力を集め、告げる。

 

動くな(フリーズ)

 

 その場の全員が一斉に息を詰まらせたような気配が伝わってくる。

 そちらの反応はあくまで余波で、最も深刻な影響を受けたのは指を向けた災害級、シンの威圧から解放され動きだそうとしていたところを金縛りにでもあったかのように硬直している。

 身動きを封じる魔法を行使したわけではないが、膨大過ぎる魔力に込められた強い意思は言葉だけでもこうした影響をもたらす。

 

 即死魔法を使えば殺めるのは容易い、しかし人前であんな魔法を使って見せては危険視されて面倒なことになるだろう。

 手段を決め沈黙で満たされる中、ゆっくりとシンを横切り大虎の前へと歩んでいく。

 魔力を集めてこそいるが、災害級を相手に無防備に接近していくように見えるのかクライスの上げる声が耳に届いた。

 

「閣下――っ!」

 

 目と鼻の先にまで近づくと、窮地に立たされ金縛りを振り切った大虎が牙を剥いた。

 開かれた顎が迫り、鋭利な牙がこちらの首元へと突き立つ。

 

「ターナさんっ! くっ……?」

 

 シンが嘆いてみせたように、傍目からすれば助かる見込みのない光景だっただろう。

 しかし目の前で、大虎の牙は私の身に爪先ほども刺さっておらず、どころか肌と制服の表面で完全に押し止められてしまっている。

 

「悪いけど、放っておくわけにもいかないからね」

 

 魔物化してさえいなければ殺める必要もないが、凶暴性が高い個体は処分せざるを得ない。

 喰らいつこうとした牙を防いだのは単純に物理障壁、ただ私のものは込められた魔力量が尋常ではない上に、身体を覆うように表面に展開している。

 障壁と名がついているからといって一々壁のように張る必要も無い、見た目だけでは障壁を纏っていると分からないようにもしていた。

 

 自分の領地でも魔物は少なからず発生することが有ったので魔物との戦闘にはもう随分と慣れた。

 しかし今世では生憎と小さい頃から多忙な身だった故に、近接格闘はあまり修練を詰めていない。

 なので魔法の選択に面倒になったらこうした力押しをさせて頂いているわけだが。

 

『――――ッ!?』

 

 身体強化を発動し、丁度良い位置にあった虎の首を脇へと締め抱えると驚愕するような気配が伝わって来た。

 圧倒的な格の差がある場合、力押しとは呆れるほど有効な戦術というもので、どれだけ必死に抵抗しようが無駄に等しい。

 障壁同様に膨大な魔力で強化した膂力で以て、もがく魔物の首を捩じり曲げていく。

 

 爪が打ち付けられるのも一切構わず障壁で受け流しながら捩じり続け、やがてバキリと乾いた音が響いた。

 災害級と言えども、頸椎を砕かれては生命を維持することはできない、フッと操り糸が切れたかのように押さえていた大虎の体から力が抜け地へと崩れ落ちた。

 絶命を確認してから息を吐いて、服についてしまった汚れを払う。

 

 ああ防汚の魔法がかかっているのでこんなことをする必要もないのだった。

 無手で災害級を屠ったことにドン引きしていそうな視線を背中に感じて、ついため息が漏れてしまいそうだったが、やってしまったことは仕方がない。

 


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