転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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ますます返信追い付かなくなってしまっており申し訳ありませんが感想には全て目を通しています、皆さまいつも本当にありがとうございます。
誤字修正も全て適用できていなかったりしますがとても助かっています、ミスが抜けず不甲斐ないですが入れて下さる皆さまありがとうございます。


決別

 合同訓練終了後、王都に戻った参加者のほとんどは同じ班となった両学院生と和やかな雰囲気で談笑を交わしており、期待された訓練結果を得られたらしい。

 ただ一部、他の究極魔法研究会メンバーと同じ班だった騎士学院生には随分と気落ちした様子が見られ、事情を聞いてみると。

 

「いやー、中等部の知り合いが居たんだけどね」

 

 騎士学院に知人が居たらしいトニーの談に寄れば、その人物が彼に対して敵意を剥き出しにしていたとのことだが。

 

「彼が好きだった子が僕に告白してきたことがあってさ、今は別れちゃったしキスまでしかしてないから、割り切って欲しかったんだけどねー」

 

 と、普通は顰蹙を買ってもおかしくないようなことをあっけらかんと言ってのけていた辺り、自ら地雷を踏みに行ったのではないだろうか。

 ユーリ、アリス、リン、トールら四人の班では、女子の前でいいところを見せようとやる気を空回りさせていたようで、騎士学院生達が魔物に翻弄されるのを見かねた彼女達がほとんどの魔物を片付けてしまった上に、リンが魔力制御を誤って暴走させ、周辺を吹き飛ばしたりして彼らに無力感を与えてしまったようだ。

 

「だからあれほど力を抑えろって言ったのに……」

 

 そう嘆く様子を見せるシンだったが、森の一画を吹き飛ばしておいて言える言葉ではなく、殿下ですらも「お前が言うか」と指摘を入れている。

 

「毎日の魔力制御の訓練で相当威力上がってんだよ」

 

「ごめん、つい」

 

「調子に乗った」

 

 アリスにリンが申し訳程度に謝っているが、この分ではあまり訓練の成果も無かっただろう。

 シンからの指導で魔法の実力は上がっているのだろうが、こうした加減のできないところを見ると正直不安にさせられてしまう。

 そんな様子を神妙な顔つきで見ていたジークフリートが、学生である彼女達にまで実力で抜かれていてもおかしくない現状に焦ったようにしてシンへ声を掛けていた。

 

「なあシン、お前達の練習法教えてくれねえか? 魔人騒動の事もあるし、軍の力の底上げも必要だと思うんだ」

 

 その訴えにシンから意見を求めるような視線を送られたアウグストは首を横に振って返す。

 

「シン特有の過程からのイメージは伝えるべきじゃない、軍事利用に当たるし国のパワーバランスが崩れかねんからな。既にマーシァの奏上案で魔力制御の訓練は軍でも始まっている、そちらで強化を図ってもらうしかないだろう」

 

「そっか……ごめん、ジークにいちゃん、全部は教えられないんだ。ほら、ディスおじさんにも宣言してもらっちゃったし」

 

「ああ、そういやそうだったな。陛下の命令じゃあしょうがない、地道に訓練するしかねえってことか……」 

 

 肩を落とすジークフリートをシンが宥めるのを横目に、殿下が集まっていたSクラスの面々に向けてなにやら呼び掛け始めていた。

 

「皆聞いてくれ、この機会に伝えておくが究極魔法研究会の面々はシン以外は卒業後、国の管理下に置かれる。おそらくは私直轄の特殊部隊となるはずだ」

 

 衝撃のあまり、耳を疑ってしまうような発言が飛び出したような気がするが、残念ながら聞き間違いではないようだった。

 他のクラスメイト達もすぐにその発言を呑み込めず、言葉を失っているようだ。

 

「このまま行けば私達は世界最強の部隊となる。各々感じているだろうが、それだけシンの指導による魔法効果への影響は大きい。脅威とも言える戦力が各国に猜疑心を抱かせないためにも、国を越えた様々なケースで我々が動く必要が出てくるはずだ」

 

 何なのか、これは、国を越えた様々なケース?

 世界の警察でも自称するつもりなのか、それをやれば他の国が安心すると本気で思っているのだろうかこのお方は。

 悪いと自覚すらしていないような顔を見ていると、平和に利用するからと嘯き、ミサイルに転用可能なロケット開発をどんどん進めるような国家を思い出してしまう。

 

 それ以前に今の今、ジークフリートの訴えを退けておいて、シンの指導を受けた人間を取り立てるなどとは。

 特殊部隊と言い換えたところでそれが大々的に陛下が禁じた軍事利用でなくてなんなのか、しかも王子自らそれを破るとは言葉も出ない。

 シンもそこで初めて事の大きさを知ったかのように気まずそうな顔になっている。

 

「ごめん……俺……ひょっとして皆の人生、変えちゃった?」

 

 殿下の口ぶりからするなら選択の余地は無いらしく、研究会の人間達は卒業後の進路を定められてしまった形になる。

 それを申し訳なく感じたのだろうが、返された反応は彼の不安と裏腹なものだった。

 

「何言ってんのシン君! これって超エリートコースだよ!」

 

「凄いっス! 自分もその一員になれるなんて!」

 

「異例の特別扱いだよねえ」

 

 浮かれた調子で声を上げるアリスとマークに、トニーも満更ではなさそうな顔を見せている。

 確かに王子殿下の直属部隊などなろうと思ってなれるものではない、傍から見れば大出世というものだろう。

 賢者様やシン絡みの事情に一切合切、目を瞑ったとして、だが。

 

 予想外の反応に戸惑い気味なシンの肩に触れ、殿下が安心させるように語り掛けている。

 

「気にするな、使い方さえ間違えなければシンの――我々の力は人類を救う希望にもなるのだからな」

 

 その使命感に満ちた表情を見ていると、殿下は本気でその人類の希望とやらになるつもりらしい。

 王族とはいえ、一人の人間がこうまで夢を見れるとは、シンによる指導の弊害は随分と深刻な事態をもたらしてくれたようだ。

 

「シン君はきっと……世界の希望になりますよ」

 

「シシリー……」

 

 きわめつけに夢見る乙女のような顔をしたシシリーからの言葉を受け、シンは完全に不安を払拭されてしまったようだ。

 魔人に対抗できる希少な人間とは分かっているが、世界の希望とは。

 夢見がちに思える彼らのこうした一面は、幼い頃から賢者様方の英雄譚に憧れて育ったことに由来するのだろうか。

 

「しかし、私が制御するにも限度があるからな、無茶はし過ぎるなよシン。――それでマーシァ、お前は立場もあるので部隊に組み込むわけにはいかないだろうが、事態が事態だ。いざとなれば協力を要請することがあるかもしれん。その時はよろしく頼む」

 

「いえ、お断り申し上げます」

 

「ああ――何?」

 

 こちらの返答が理解できなかったかのように殿下が目を瞬かせ、研究会の皆もぎょっとした視線を向けてくる。

 

「……どういうことだマーシァ。事が世界の危機だということはお前も分かっているだろう?」

 

「お言葉を返すようですが殿下、ご自分が何をやろうとしておられるのか、本当に理解しておいでですか?」

 

 まさか拒まれると思っていなかったのか、きつい言葉での反発に面の皮が厚い殿下も僅かに鼻白んでいる。

 しかしこれ以上の軽挙妄動ぶりにはこちらも付き合う気にはなれない。

 

「ウォルフォード君からの指導を受けた生徒達を徴用するなど、陛下より禁じられた軍事利用に他ならないでしょう」

 

「だから私直轄の特殊部隊として扱うと言っている。他国との戦争行為に運用するなどといった真似はしないと保証しよう。各国からの監視機関も受け入れるつもりでいる」

 

 この期に及んで真顔でそんな事を言ってのけるとは。

 気高い理念を掲げるのは結構だ、本当に平和的な目的のみに彼らの力を生かそうとしているのかもしれない。

 しかし、それが誰にでも受け入れられると考えるのは甘すぎるだろうに。

 

 アールスハイドの人間のみで構成された特殊部隊、もし他国と戦争状態になったときそんな集団が傍観に徹してくれるなどと誰が思うだろうか。

 言うまでも無く、アールスハイドは周辺国に対して圧倒的な軍事的優位を確立させるだろう。

 他の国からするなら迂闊に逆らうことも出来ない、敵対などもってのほか。

 

「魔人に匹敵する戦力を持つ部隊を抱える唯一の国家に、他の国々が何も思わないとでも? 殿下はアールスハイドが覇権国家となることがお望みなのですか?」

 

「そのようなつもりは無い! 魔人に対抗する為にもシンの魔法は必要だが、使い方を誤れば逆に世界を滅ぼしかねん。不用意な拡散を防ぐために必要な措置だ」

 

「――それが技術を囲い込んだ側からの言葉では、お為ごかしにしか聞こえない者も居るでしょう」

 

 この体が幼い頃から懸念していたように、強力すぎる魔法が広まってしまうのはこちらとしても勘弁願いたい事態だ。

 しかし人類を救うなどというお題目を掲げながら、一国の学生達がその力を独占するなどというのは、あまりに傲慢ではないのか。

 まるで使命感に酔っているような、人々を守りたいのではなく『自分達が守る』という行いを目的にしているようですらある。

 

「第一に旧帝国領の魔人の動向は不明ですが、不測の事態に研究会の人員だけで対応できるとでも? 学院は皆、中退させるのですか?」

 

「……そこまで強いるつもりは無い。活動はともかく、正式な部隊編成はあくまで卒業後の話だ」

 

 予想通り、であって欲しくは無かったが、本当に殿下は自分でも世界の危機と評する問題に研究会のメンバーだけで臨むつもりであったらしい。

 

「つまり学業の片手間に世界を守ろうと仰るのですね。それはそれはなんとも――馬鹿げた話を為さる」

 

 無礼と言えるだろうこちらの発言に皆が息を呑み、殿下やトール、ユリウスらに至っては目を剥いているが問題が問題だ、これ以上引き下がるつもりは無い。

 

「マーシァさん……いくら何でも殿下に対してその発言は……」

 

「王子殿下の行いと言えど、見過ごせるものとそうでないものがあります。事が十名ばかりの人間でどうにかできる事態でないのは明白でしょう。それも軍部に即応できる部隊を創設するのならまだしも、学生達で解決しようなどと、どれだけの犠牲が出るか分かったものではありません」

 

 トールの苦言にも構ってはいられない、臣下であっても主君がここまで無茶を言い出せば口出しさせて頂く。

 こちらが推し測れなかった深い考えでもあるというのなら話は違ってくるが、この方にそんなものは無いと断定できてしまうのが問題だ。

 

「賢者様方を敬い意向を尊重するのは結構です。しかしそれは人々の命と天秤にかけられるほどのものでしょうか? 力の扱いにせよ、私からするなら殿下はあまりに民を侮り過ぎているように感じられてなりません」

 

「ちょ……ちょっとターナさん、そんなことないんじゃないか? 俺はオーグぐらいに皆の事を考えてくれている王族なんて、そうそう居ないと思うけど」

 

 入学からこれまで友人関係を築いている殿下が責められるのを堪えかねたのか、シンが口を挟んでくる。

 親しい人間からするなら殿下は権力を濫用せず、身分に分け隔てなく接する優れた為政者としてでも捉えているのかもしれない。

 シンが賢者の孫でなく、優れた魔法の使い手でもなかったなら、王子はシンに見向きすることもなかっただろうが。

 

「……この件に関して、ウォルフォード君は殿下に怒ってもおかしくは無いのですよ」

 

「俺が、オーグに? どうしてそんな……」

 

 やっぱり想像していなかったらしく、ついため息が漏れてしまう。

 

「殿下の仰る特殊部隊は帝国領にて確認された魔人達への対応も視野に入れたもの。それで間違いありませんね」

 

「その通りだが、何か問題があるというのか?」

 

「つまりウォルフォード君、貴方が良かれと思い指導した研究会の皆は殿下によって、世界で最も危険な場所へ連れ出そうとされているのですよ」

 

 そこまで口にすると、ようやくシンや他のメンバーもその状況を理解したようにあっと声を漏らす。

 軍籍にある者達を置いて、こんな危機感の薄い学生達に世界の危機とやらを処理させようというのだから、呆れるしかない。

 

「でも……シン君は私達のことを思って魔法を教えてくれてるんですよ。シン君の優しさを……そんな言い方しなくたっていいじゃないですか」

 

「ええ、彼が優しい事は私も理解していますよ」

 

 シンのことを悪く言っているように聞こえたのか、すっかりと彼を信じ切っているシシリーが庇ってくるが、こちらの返した言葉には意表を突かれたようで目をキョトンとさせている。

 

「だ、だったらどうしてそんな……」

 

 戸惑いながら言葉を濁すシシリーは純粋と言えば良いのか、私のような発想はしないのだろう。

 シンの振るえる力は大きい、常人とは比べるべくも無く。

 入学からこちら、その恩恵を存分に受けてきた彼女のような人間からするなら、彼はさぞかし優しい人間に見えることだろう。

 

 ただそれが、本当に彼女のことを思ってのことなのか、彼女に優しくしたいという彼自身の欲求を満たすために行われたのかは分からない。

 私からするなら彼が本当に誰に対してでも優しい人間であるのなら、利用されれば国を去るなどと賢者様や導師様の言いなりにならず、人々の為に行動を起こしても良さそうに思えてしまうのだが。

 利益を絡めて物事を見てしまうのは不純かもしれないが、そんな所が彼は人に対してというより自分に対して優しい、自分が傷つかない為に動いているのだと、感じてしまう所以になっている。

 

 そんな彼に頼り切りになるというのは、彼と親しくは無い人間のことを思えば、危うげに感じられてならない。

 

「ウォルフォード君、貴方も成人している身なのですから、もう少し自分の行動が人にどんな影響をもたらすのか、考えるべきだと思います。貴方ほどの力の持ち主なら尚更。そして殿下、貴方のお考えに私は賛同することが出来ません。事と次第によっては魔人への対抗策について独自に動かせて頂きたいと存じます。――失礼」

 

 どの道、オリベイラの所在が知れた時点で究極魔法研究会に籍を置き続ける義理も無い。

 彼らと距離を置くことを決心し、様々な感情が入り混じった視線を背中に感じながらも、私はその場を後にするのだった。

 

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