転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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前話と繋げ切れなかった回になるので早めに投稿することにします。
正直私も貴族制度については詳しくないどころじゃないのでツッコミどころ満載になってしまっているかと思います、ガバ設定申し訳ありません。


少女の転機

 ターナさんが行ってしまうと、場の空気はどこか居心地悪いものになってしまっていた。

 殿下直属の特殊部隊に入れると浮かれていた皆も素直に喜べなくなっているみたいだ。

 私自身、殿下の話を聞いたときには正直胸が湧かなかったと言えば嘘になる。

 

 国家の枠組みを超えて、世界の為に活動する魔法使い。

 まるで小さな頃から憧れた賢者様、導師様のように。

 自分もそんな風になれるのかもしれないと、昂揚した。

 

 けれどターナさんからしてみればそれは納得のいかないことだったらしくて、あの礼儀正しい彼女があそこまで強く殿下を批判するなんて思いもしなかった。

 現実に存在する魔人という脅威から人々を守るのに、シンのお蔭で魔法の腕が上がった私達が役立てるならそれ以上のことはないと思う、けれど。

 

「……まさかマーシァに反対されるとはな」

 

「驚いたよ、それもオーグに向かってあそこまで言うなんて……戦争には利用しないっていうのに、そんなにまずかったのか?」

 

「シンの魔法を広めることのリスクが大きすぎることには変わりないが、マーシァの懸念も分からなくはない。強大な軍事力を持つ国が警戒されるのは自明のことだからな。しかし、いやだからこそ、我々の有益性を世界にアピールしていく必要があるだろう」

 

 悩み込んでいた殿下は部隊の結成を諦めてないらしくて、決意を新たにするようにして表情を引き締めている。

 

「悪意に晒される弱き者を助けるのは力持つ者の責務だと私は考えている、それを果たすのにどうかシン、皆も力を貸してくれないか?」

 

「――ああ! 任せろよ、魔人なんかに負けないぐらい、鍛えてやるから」

 

「そ、そうっスよね……ちょっとビビっちゃいましたけど」

 

「要は僕らが皆をしっかり守って、負けもしないぐらいに強くなれば問題無いんじゃないかな?」

 

 段々と元気を取り戻していく皆を見ていると、どうしてか胸の奥にひりつくような感覚が湧き起こって、もどかしくなった。

 

「そ、そうですよ! シン君に教わればきっと私達も……世界を救う希望になれますよね」

 

「元からウォルフォード君の魔法は全力で学ばせてもらうつもり、当然私も付き合う」

 

 研究会に入った皆は自分の成長を実感している。

 今までとは比べ物にならないようなすごい魔法を扱えるようになっていくのが嬉しくて、楽しくて。

 自分もシンのように、英雄になれるんじゃないかと、心のどこかで思っているのかもしれない。

 

 でも、シンと同じぐらいに、ひょっとするとそれ以上にすごい、あの人はそれでも心配していたのだ。

 救えないかもしれない人達の事、それに――自ら危険に飛び込もうとする私達の事すらも。

 思えば入試の結果を見に行ったあの日から、気遣われてばかりだったことに今更になって気づいてしまう。

 

 前にも柄の悪い連中に絡まれたっていうのに、懲りずにシシリーと二人だけで街中を歩いてしまっていた自分は何て浅はかだったんだろう。

 きっと大丈夫、何とかなる、そんな何の裏付けもない保証が裏切られる時は呆気なくやってくるのに。

 一度はシンに助けられた、でも次は――?

 

 誰かが助けてくれる保証なんてどこにも無い。 

 きっと、彼女はそれを無くしたいと思っているんだ。

 それに思い至った瞬間、胸の奥のわだかまりがストンと腑に落ちた気がして、同時に私の意思は決まってしまっていた。

 

「そういえばアリス、さっきから珍しく静かだけど大丈夫?」

 

「うん……ターナさんが研究会辞めちゃうってことはさ……もうあのお菓子食べられないんだよね」

 

 リンに声を掛けられたアリスにとっては特殊部隊がどうこうよりも、研究会活動の休憩時によく振る舞われていたお菓子をもう味わえないかもしれないことの方がショックだったらしい。

 

「……コーナー、まったくお前と言う奴は……確かにその気持ちは分からないでもないが、石窯亭の料理も大したものなのだろう?」

 

「ちーがーうーのっ! 殿下は分かってないよ、石窯亭の料理も良いんだけど、マーシァさんのお菓子もこう……幸せな気分になれて楽しみだったんだから」

 

 見た目相応の子供のように駄々を捏ねるアリスを傑作そうに研究会の皆が笑っている。

 まだ同じクラス、研究会になって間もないけれど、皆の仲は良好ですぐに和やかな雰囲気を取り戻していた。

 

 ――これならきっと、シシリーも大丈夫だよね。

 

 ただ一つ心残りだった、幼い頃からの親友の存在。

 絵本のお姫様みたいに淑やかすぎて、私がついてあげていないと不安になるぐらいだったけど、あの子にはもうシンがついているのだから。

 こちらの視線に気づいたのか、不思議そうに首を傾げたシシリーが声を掛けてきた。

 

「――? マリアもさっきから静かになってたけど、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ。それと――ごめんねシシリー、応援してるから頑張って」

 

 これだけじゃ何を言われてるのか分からないだろう、目を丸くしているシシリーから一歩離れ、殿下へ向けて口を開く。

 

「殿下」

 

「ん、どうしたメッシーナ?」

 

「すみません、その特殊部隊――私は辞退させて下さい」

 

 その発言で再び皆をざわめかせてしまったのが、ちょっとだけ心苦しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってマリア! ――ごめんなさいシン君、先に戻ります!」

 

 アウグスト直属部隊のみならず、究極魔法研究会からも脱会を宣言して去ってしまったマリアを追いかけシシリーが駆けていく。

 ターナに引き続き、マリアまでもが抜けていったことに、残ったメンバーも流石に動揺を隠せずに居た。

 

「よろしかったのですか殿下、マリアさんは既にシンさんからある程度の魔法を教わっていますが」

 

「……研究会を抜けるとまで言われては無理に引き止めるわけにもいかんだろう。本人の自由意思を無視すれば、それこそ国として利用していることになってしまう」

 

 確認してきたトールに淡々と返しながらも動じていないわけではないらしく、アウグストの表情には陰が差している。

 あくまで特殊部隊の活動は本人達の善意によるもので、国家から強いられているわけではないという言い訳も立たなくなってしまう。

 シンからこれ以上の教えを受けることを諦めてまで辞退したマリアを引き止めることはアウグストにもできなかった。

 

「それにしても意外だ、賢者様方にも憧れていたメッシーナがこの機会を棒に振るとは」

 

「シシリーとも仲が良かった筈なのに、どうしてだろうな……やっぱり――」

 

 その決断をもたらす可能性として、彼らが思い浮かべてしまうのは自然、一人の少女の姿だった。

 

「マーシァがあそこまでの使い手だったとはな。実際どうなんだシン、お前から見た彼女の力量は」

 

「いや、俺もあんなことされたのは初めてだったし、予想出来ないよ。物心ついた頃から魔法の訓練やってた俺より魔力制御が上なんて……信じられないってのが正直な所」

 

 訓練中の事を思い返している二人に、その現場を見ていない他の面々が何の話をしているか掴めず疑問顔を向ける。

 

「あの、殿下。マーシァさんと何かあったのですか?」

 

「ああ話していなかったな、私達の班は訓練中、百頭近い魔物の群れと災害級の魔物に遭遇したのだが――」

 

 並の人間では助かり得ない事態に遭遇したことをさらりと話され驚愕する研究会メンバー達だったが、それらが討伐された下りを説明されると言葉も失くし暫くの間絶句させられる羽目となっていた。

 

「す、素手で災害級の魔物を、ですか……?」

 

「そうだ、身体強化の魔法は使っていただろうがな。魔人を撃退したという話は耳にしていたが、目の当たりにすると予想以上だ。味方で幸いだったとしか言い様がない」

 

 改めて安堵したように息をつくアウグストに、考え込むようにしていたシンがぽつりと問い掛ける。

 

「なあ、ターナさんって、小さい頃から魔法の才能があったのか? 誰も使ったことの無い魔法を使ってたりとかは?」

 

「――お前のようにか? いや、むしろ幼い頃のマーシァは魔法嫌いとまで言われるほど魔法を避けていたらしいぞ」

 

「ぇえ? 魔法、嫌い!?」

 

「ああ、何しろ彼女は公爵家の一人娘だからな、貴族の間ではそれなりに知られている話だ。先々代の当主に諸外国へ知見を広める旅に連れられてからある程度改善したと聞いていたが、あそこまで急成長しているなどとは誰も予想しなかっただろうな」

 

 一時ポカンとしていたシンは納得が行かないようにして散々に頭を捻らせていたが、やがて諦めたようにため息を吐いて見せる。

 

「んん……思い過ごしかな。それにしても良かったのか? ターナさんが公爵って、偉い貴族なのは知ってるけど、権力の最高位に居るオーグにあそこまで言わせちゃって、示しとかさ」

 

 シンの指摘にアウグストらは一瞬硬直するも、すぐ何事かに気づいたようにして渋い表情で頷きを見せる。

 その反応を訝しむシンに、アウグストからの目配せを受けたトールが口を開く。

 

「シンさん、確かに王族である殿下に対して、並の貴族ではまともに意見することも難しいでしょう。しかし彼女程の大貴族ともなると話は違ってくるのですよ」

 

 貴族の階級について、上司部下のように単純な権力差で考えてしまっていたシンはトールの説明に考えを改めさせられることになるのだった。

 

「特にマーシァ公爵家は昨今発展が目覚ましく、王家が身分を保証せずとも交易を望む諸外国は引く手あまたでしょう。それに王家に近しい血筋でもあります、例えば独立を宣言すれば支持する貴族が出てもおかしくはありません」

 

「そ、そこまで!?」

 

「あくまでマーシァ家が王国を見限りでもしたらと考えられるパターンの一つですが、もしそんなことになれば多大な税収を失う我が国の損害は計り知れません」

 

「もっともそんなことをすれば王国の庇護を失うかの領にも少なからず負担は避けられん、領民に重荷を負わせることになる選択を軽々しくマーシァが取るとは思えんが……」

 

 苦々しい表情になりアウグストが言いづらそうに言葉を濁すと、後を引き継ぐようにしてトールが言葉を重ねた。

 

「立太子の儀を控えているとはいえ、殿下はまだ一人の王子、場合によっては彼女の言葉の方が力を持つことすらも有り得るでしょう」

 

 すっかりと貴族はアウグストに逆らえないものとばかり思っていたシンはあっけにとられてしまう。

 

「……やはり知らなかったようだな、賢者様方もそういった機微には疎いご様子だし」

 

「ああ……爺ちゃんから教わったのは魔法のことばっかりだったしな……もっと婆ちゃんやトムおじさんに教わっておけばよかったよ」

 

「今更初等部の教育を受け直すわけにもいかんしな、おいおい学んでいくしかないだろうさ。元々お前はそれが目的で王都に来たんだろう?」

 

 偉大な英雄を育ての親に持つことを普段羨ましがられることの多いシンだが、がっくりと肩を落としたその時ばかりは皆から憐れみの視線を集めてしまうのだった。

 

 

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