転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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尺と視点的な都合で今回は二話投稿します。
感想、評価、誤字修正下さる皆さんいつもありがとうございます。


続、転生者と魔道具

 最近恒例になってしまっているけど、今日の研究会活動の魔法訓練もゲートを使えるようになってからよく使っていた荒野に皆でやってきている。

 燃焼を促進させる酸素を意識して火力の上がった炎魔法や、大気中の水分を利用することで規模の増した水魔法。

 その他の風や土を使った魔法も、俺が教えた現象の過程をイメージすることで皆その威力や精度が跳ね上がっている。

 

 学院の練習場じゃ手狭過ぎるもんだから、こうして周辺に被害が及ぶ心配の無い荒野にまでやってきているわけだ。

 実際もう皆が扱う魔法はそこらの魔法使いを越えてしまってるんだろう。

 放たれた魔法で地面が抉れたり、岩山が吹き飛んだりしていく光景を見てオーグも唸っている。

 

「まるで一国の軍事演習風景だな」

 

「でもまだ魔人を相手にするには足りないと思う」

 

 魔人になったカートの魔力制御は相当なものになっていた。

 話に聞いた、完全に理性を残しているような魔人が居るのなら、扱える魔法の威力もきっと凄いものになる。

 ここはやっぱり装備の方も整えておくべきだろうな。

 

 そんな事を考えながらもこっそり気にしてしまうのはシシリーのことだ。

 皆と一緒に放出魔法の実践練習をしているけど、いつもより表情が硬いような気がする。

 多分、研究会を辞めてしまったマリアが数日前からこの場に来なくなったことが影響してるんだろう。

 

 二人は小さい頃からの幼馴染だって聞いていた。

 ずっと仲良くやってきたらしいのに、喧嘩別れしたわけじゃないにしても、落ち着いていられるわけがないよな。

 

「やはりクロードの事が心配か?」

 

「ああ、無理しないでくれるといいけど」

 

「だったらせいぜいお前が支えてやるんだな、どうせなら恋人としてでも」

 

 オーグがこっちの気持ちを見抜いたみたいだったけど、余計な一言にぎょっとさせられる。

 

「こ……恋人って、俺達はまだそんなんじゃ……」

 

「何を言ってるんだ今更、お前だってクロードからどう思われているか、勘付けないほどの朴念仁でもないだろう?」

 

「そりゃあ、もしかしたらって、思ったりはしてるけどよ」

 

 王都に来てから縁が出来たシシリーとは悪くない仲を築けていると思う。

 何かと俺の事を気遣ってくれるのはきっと、彼女がただ良い子ってだけじゃないんだろう。

 でもやっぱり勘違いだったらどうしようと考えてもしまって、あと一歩が踏み出せない。

 

「まったく、英雄にもなっておいてそんなところで怖気づかなくてもいいだろうに、告白するなら早めがいいと思うがな。もし魔人達との戦いが始まればそれどころでは無くなるだろう、この戦いが終わったらなんて悠長な事を考えていたらいつになるか分かりもしないぞ」

 

「そんなフラグみたいなこと考えねえよ!」

 

 反射的に返してしまった言葉に、オーグが「フラグ……?」と首を傾げる。

 やべ、ついこっちの人間には分からない事を口走ってしまった、適当に誤魔化さないと。

 

「と、とにかく! シシリーのことは真剣に考えるよ。それより合宿の件は大丈夫なのか?」

 

「そちらは問題ない。定期的に旧帝国の状況を報告してもらうことになっているから王都まで戻らなければならないが、お前にゲートで送り迎えしてもらえばなんとかなるだろう?」

 

 情報収集して回っているらしい王国の斥候部隊によれば、旧帝国の状況は悲惨の一言らしい。

 機密らしいけど、いざという時に戦力として必要とされるかもしれない俺達、究極魔法研究会にはその情報が知らされていた。

 魔人達は帝国領内の街や村を次々と襲って、そこを治める貴族や住人達を殺して回っているらしい。

 

 しかも襲撃の度に魔人はその数を増やしているらしい。

 どうやってかは知らないが、リーダー格らしいオリベイラという魔人は本当に人工的に魔人を生み出せるみたいだ。

 こうしている間にも人々が命を奪われているかもしれない状況に、手出しできないことをオーグも悔しそうにしていた。

 

 研究会の皆も魔人が増え続けているという話には表情を強張らせていた。

 魔人に対する恐怖心は簡単に振り切れるもんじゃないんだろう。

 そこで恐怖心を感じなくなるよう、レベルアップを図るために俺が企画したのが研究会での強化合宿だ。

 

 もうすぐ学院も夏の長期休暇に入るので丁度良い。

 今まで以上に魔法の訓練に打ち込める、この案には皆も喜んで賛成してくれた。

 王都からしばらく離れることになるから、王族のオーグには問題があるんじゃないのかと思っていたけど、この様子だと本当に問題ないみたいだ。

 

「それぐらいならいいよ。でもやっぱり完全に留守にするわけにもいかないんだな」

 

「まあ私も立太子の儀を控える身であるからな、これぐらいの負担は止むを得んと理解している。それにこの事態の矢面に立っている父上などと比べれば軽いものさ」

 

 学生だっていうのに、あれこれ不自由を強いられることをオーグは何でも無い事のように言う。

 俺と同じ年頃だっていうのに、これが本物の王族ってやつなんだろうな。

 こういうところは素直に尊敬させられてしまう。

 

「アレの配備が進めば手間も少なくできるのかもしれんが、こればかりは頼りづらいことだしな……」

 

「ん――アレって?」

 

「シンはまだ聞いていないか? まあ特許の申請が通ったのもつい先日のことだからな……マーシァの工房が新たな魔道具、通信機の開発に成功しているんだ」

 

 難しい顔をしてオーグが教えてくれたその内容には驚かされた。

 通信機なんて、今まで遠距離で連絡を取る手段が無かったこの世界じゃ革命的な発明じゃないか。

 

「通信って……マジにか?」

 

「事実だ。驚きではあるが、帝国の周辺国で綿密な連携が必要とされる今の状況では願っても無い助けになるだろう。マーシァの方でもそれは理解してくれているようで、王国をはじめとした各国の首脳部には先行して商会から提供されている」

 

「……ちなみにそれ、どんな形してるんだ?」

 

「形? そうだな……本体はこれぐらいの箱型で、長細い受話器とセットになっているが、受話器は使わなくても通話可能らしい」

 

 オーグが手振りで表してくれた本体っていうのは、人の胴体ぐらいのサイズがありそうだった。

 予想したよりも結構大きめみたいだ、前世の記憶で言えばレトロな映画に出て来そうな古い電話機に近いタイプなのかな。

 その割に無線式だっていうからまた驚かされたけど、よく考えれば魔法で音を届けるんだからおかしい話でもないんだよな。

 

 そう考えると俺でも簡単に作れそうな気がしてきた。

 例えば音声送受信、なんて付与をすればたったの五文字で抑えることができる。

 イメージも携帯式の電話を思い浮かべればいいし、そんなかさばる大きさじゃない、持ち歩き可能なサイズで仕上げれそうだ。

 

 ――あれ?

 でも魔道具なんだから、無線式っていうなら相手側の通信機も魔力が通った状態でないと繋がらないよな。

 常に誰かに魔力を通しておいてもらうなんて面倒なことが必要だとは思えないし、ターナさんの工房はそこをどうやってクリアしたんだろう?

 

「それ以上にとんでもない特許申請もあったが……その内知れることだろうし今は置いておこう。ともあれそういうわけで、危急の事態にはこれまで以上に迅速に対応できるだろう。複数購入の申請には少しばかり条件を呑むことになったがな……」

 

「条件って、なんでまたそんな?」

 

「お前のバイブレーションソードと一緒さ。誰にでも使える、強力な魔道具は軽々しく広めるものじゃないだろう? 通信機も当分は販売せず出荷に制限を設けるらしい」

 

 ああそういうことか。

 俺の開発した魔道具、ジェットブーツやその他の生活魔道具も馴染みのトムおじさんを通じて特許申請してある。

 ただバイブレーションソードみたいな殺傷力の高い武器は止めろってばあちゃんからもきつく注意されていた。

 

 販売された魔道具が善人だけの手に渡るとは限らない。

 もし悪用されたらって危険性を考えれば、しょうがないことなんだろう。

 

「広めるにはまだ早いってことか、誰でも使えたら便利になるのにな。そういえばなんでまた……ターナさんは一体どんな条件をつけてきたんだ?」

 

 同じ国の人間相手だっていうのに、正直ターナさんがどうしてそんな事を言い出すのか分からない。

 特殊部隊に皆が所属することになるって教えられた時には一悶着あったけど、俺にはオーグが皆の力を悪用することは無いだろうって信頼できる。

 貴族社会のことは未だによく分からないけど、こんな緊急事態の時ぐらい助け合ったり出来ないんだろうか。

 

「大まかに言えば、自治権の拡大だな。これまでもかなりの裁量を任されていたが、マーシァ領における法、軍事、経済は今後完全に公爵家に一任し、独自に外交を結ぶことも承認された。見返りとして約束されたあちらからの臨時支援も大きいが、破格の待遇と言えるだろう」

 

 オーグも普段より大分悩んだ風な顔をして言っているし、大変なことみたいだ。

 実を言えばそれがどれだけの意味を持つのか、しっかり理解できないんだけど、また世間知らず扱いされるのも嫌だし余計な事は言わないでおこう。

 

「聞いてた以上に、すごい影響力あるんだな、ターナさんの公爵家と商会って」

 

「それはそうさ、今回の件で業界最大手と言っても過言ではなくなったしな。だがシン、お前だって商会を立ち上げる話が出てるんじゃなかったのか?」

 

 そうだった、トムおじさんを通じて特許申請してある魔道具なんかは俺の名前、新たに立ち上げることになったウォルフォード商会から販売されるらしい。

 ばあちゃんもそうだったらしいけど、組織の立ち上げとか面倒なところは全部トムおじさんがやってくれている。

 開発した魔道具を渡すだけなんだけど、俺も名目上は商会長ってことになるらしい。

 

「賢者様の孫にして新たな英雄の商会だ。業績次第では、というより確実にお前もかなりの経済的な影響力を持つことになるぞ」

 

「じいちゃんのネームバリューのお蔭みたいな言い方するなよ。作った生活魔道具の方はばあちゃんにだってお墨付きをもらってるんだからな」

 

 とんでもない発明ばかりするって注意されることもそりゃあ多いけど、生活の役に立ちそうな魔道具だって色々開発してるんだからな。

 特に前世で言うルームランナーとかいったトレーニングマシンを再現した魔道具の類はアレンジも加えてある自信作だ。

 負荷をかけて損傷した筋肉が、修復されるとき今まで以上の強さになる、いわゆるところの超回復。

 

 俺製作の魔道具は自然回復力を強化する付与がされてあって、すぐにその効果が現れる。

 使ってみたばあちゃんからも体が引き締まった気がするって好評だった。

 魔道具に関しては第一人者だったばあちゃんがそんな評価をしてくれたんだから、それなりに売れるんじゃないかって期待はある。

 

 今の生活に不自由は無いし、アイデア料として貰えているエクスチェンジソードの売上の一部とか、これまであまり意識していなかった。

 けど影響力っていうのを上手く、たくさんの人の役立てることが出来るなら、魔道具開発の方も積極的になってみていいかもしれないな。

 魔人騒ぎでゴタゴタが続く中で、明るい希望みたいなものが芽生えた気がして俺の胸は少し熱くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学院の休日、定期的に行われるようになった騎士学院との合同訓練で少し疲れてもいたんだけど、なんだか別邸でジッとしていられなくって、つい街中まで足を向けてしまっていた。

 究極魔法研究会を離れたことで、シンと同じ研究会に所属していることを喜んでいた父さん達を悲しませてしまったけど、非難までされることは無くてホッとした。

 エリートコースを外れてしまったのに心残りが無いと言えば嘘になるけど、仕方ないよね。

 

 私自身が決めたんだから、もう戻るつもりは無い。

 シシリーからも悲しそうにどうしてって言われたけど、あのままじゃきっと望んだ私になれないって、思ってしまったんだから。

 国家の枠組みを越えて活動する特殊部隊、そこに居れば普通の魔法使いじゃ出来ないような活躍の場が待っているんだろう。

 

 それこそ賢者様、導師様のような、英雄的に。

 けれどきっと、できなくなることも増えてしまう。

 他の国から監視されないといけないような組織の一員なんて、身勝手な行動は許されないだろうし。

 

 あくまでアールスハイド王国を中心に活動する魔法使い、その括りからは逃れられない。

 私はこの国の貴族として生まれたんだから、それは当然のことでもあるんだけど。

 ――旅をしてみたいなんて、言ってみたら怒られるかな。

 

 昔、賢者様達がそうしていたように、各国を巡って人々の助けになる。

 小さな頃憧れた将来像の一つだった。

 貴族の子女がそんな真似をするなんて、両親が許してくれるとも思えないけど。

 

 ……でも今の国王陛下はまだ王子だった頃、そんな賢者様達に弟子としてついて行ったことがあるんだったっけ。

 よく考えると立場の割に、奔放に過ぎるんじゃないかって今更になって気づく。

 憧れる前にそう一歩引いた視点で物事を考えるようになったのは、やっぱり彼女の影響なんだろうか。

 

 研究会の皆と違う道を選んでしまった私は将来どうしようかな、なんて考えながら歩いているそんな時だった。

 

「やあ君、ずいぶん可愛いね。一人みたいだけど、一緒にお茶でもどう?」

 

 歯の浮くような台詞で男から声を掛けられてしまったのは。

 本当に誘いたいならもうちょっとマシな文句を考えなさいよと変なことに腹が立ってしまう。

 普段は一緒に歩いているシシリーにばっかり声が向くせいか、こんな風に声を掛けられるのも久しぶりだけど、目の前の軽薄そうな男にホイホイついていく気なんて起きなかった。

 

「無理、他当たってちょうだい」

 

「え?……ま、待ちなよ、少しぐらい良いだろ?」

 

 はっきり断ったのにしつこい男だ。

 肩に手が伸びてきてるし、ちょっとひねってやろうかしら。

 街中での攻撃魔法の使用は禁止されてるけど、身体強化の魔法ぐらいならいいかなと考えていたんだけど。

 

「ちょっとそこの! 止めなさいよ、嫌がってるじゃない」

 

 正義感のある人が居たみたいで、制止する女性の声が上がった。

 というかこの声、聞き覚えがある?

 びくついてそそくさと男が立ち去った後、声の方を見てみると。

 

「大丈夫だった……って、貴女、確か……メッシーナさん?」

 

「貴方達、騎士学院の……ミランダにクライス?」

 

 意外そうに目を丸くしていたのは、あちらの学院も休日の筈なのに、合同訓練の時みたいにしっかりと装備を整えた二人。

 合同訓練で行動を共にした騎士学院生達の姿がそこにはあったのだった。

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