転生公爵令嬢の憂鬱 作:フルーチェ
詰まり気味でまた間隔空けてしまい申し訳ありません
コロナの影響で世間は大変ですが、早期の収束願いつつ少しでも紛らわしになれば幸いです。
夏季休暇の半ばだったが、流石に外すわけにはいかない用事の為に王都へ戻って来た。
この日、王城前の広場に設営された会場で行われるのはアウグスト殿下の立太子の儀。
これをもって殿下は正式に王太子、次期国王として任命される。
式典は公開されており一般国民も観覧することが許され、王城のテラス下の広場から多くの参加者が儀式の様子を見つめていた。
しかしこちらは王国貴族として祝う立場であり、会場の脇で儀式に立ち会っているわけだが、究極魔法研究会の面々も参列しているのはどういう意図なのだろう。
まさかこの場で例の特殊部隊を創設することを発表でもするつもりなのか。
完全に放置するのも気が休まらないので、彼らが夏合宿中のクロード領には調査員を派遣していた。
シンが転移魔法や索敵魔法を頻繁に使用するので可能な人選も難しく完全ではないが、その甲斐はあってある程度は彼らの行動を把握できていた。
把握できても結局は頭を悩まされることになったのが悲しいところだが。
まず夏合宿についてだが、研究会の生徒達に加え保護者として賢者様に導師様も同行したらしい。
この世界の基準において一応は皆、成人しているわけで、子供扱いしているようにも見えるが相手はあの英雄夫妻だ。
シンは頭が上がらないようだし、他の生徒達も同行を喜びこそすれ、異議を唱えたりはしなかったらしい。
過保護ではあるが微笑ましく見れなくも無い、それだけだったのなら、だが。
どんなやり取りがあったのか、報告によれば賢者様方は合宿中、研究会の生徒達へ積極的に指導を行っていたらしい。
あれだけ国に利用されることを疎んじているらしかったというのに、殿下の意向にそれだけ賛同されたのか、それとも孫の学友だから政治とは関係無いとでも言うのか。
いずれにしてもそれだけ充実した環境での合宿内容など、現役の軍属魔法使いからしたら羨ましいことこの上ないだろう。
現段階で既に、研究会の大半が一人で災害級の魔物を討伐できるようにまでなっているらしい。
そして合宿の途中、何故か殿下の婚約者であるコーラル公爵の息女、エリザベート嬢のみならず王女であらせられるメイ様まで加わっていたと聞いた時には流石に耳を疑った。
殿下が心配になったのだというエリザベート嬢は魔法の素養に恵まれず、合宿は見学に終始していたらしい。
一方で以前から賢者様達に憧れていたというメイ王女の方は優れた素質を見出されたらしく、研究会の面々同様に指導を施されていたとか。
研究会所属で無い上に王族だというのに、それを止める人間が居なかったというのだから、もうどこからどこまでが政治利用にあたるのだとか考えるだけ無駄に思えてきた。
『我が息子、アウグスト・フォン・アールスハイドよ。汝は王太子となり、この国の為、国民の為に、身を粉にして邁進することを誓うか?』
『はい、私はこの国の為、国民の為に、命を捧げる事を誓います』
そのやり取りはスピーカーめいた拡声の魔道具で会場の隅々までとどろき、アールスハイド王族らしい模範的な答辞に列席者や観覧する国民達が誇らしげな表情で歓声と拍手を送る。
本当に、宣言通りの行動を心掛けてくれるのなら素晴らしいお方なのだろうが。
その時、懐へしまっていた魔道具、小型通信機が不意に小さく振動する。
通信が飛ばせる相手は立太子の儀に出席することを知っている人間に限られ通話に応じる必要は無く、これはある事態の起こりを報せるためのものだった。
覚悟はしていたが、遂に来たかと腹の内が冷え込むような緊張を感じてしまう。
『うむ、よく言うた。汝を王太子として認めよう、国民の為いっそう努める事を期待する』
陛下が王子へ激励の言葉を送る中、魔力索敵に城中からこの会場の方へ駆けてくる人間の気配を感じ取る。
通信機はアールスハイドを含めた周辺国に貸与してあるので、そちらからも連絡があったのだろう。
息せき切ってテラスに続く階段を駆け上がったその兵士が呼吸を挟み、声を張り上げようとしたのを見てすぐに魔法を発動させる。
「――――っ?」
叫んだように見えた兵士、その声が全く周囲へ響かなかったことで、その姿が見えている会場の参列者や兵士本人が怪訝な反応を見せる。
「落ち着きなさい。儀仗兵、彼から取り次ぎを」
「!?――しょ、承知しました」
こちらで大気に干渉して阻害した、兵士の報告内容は予想がつく。
危急の用件ではあるがしかし、この場には多くの国民の耳目が集まっている。
そんな場所に余計な混乱を招く必要は無いだろうと、指示を飛ばして控えていた儀仗兵を兵士の元に向かわせた。
報告を聞き取った儀仗兵が顔を青くし、それを取り次がれた陛下と殿下も表情を張り詰めさせる。
緊急事態を悟った参列者達、そしてシン達も顔つきを神妙なものにしていき、観覧していた国民の間にも何かあったのかと気遣わし気な雰囲気が漂い出す。
その様子を見下ろしていたアウグスト殿下はなにやら意を決したように口元を引き締めるとテラスの端に立ち、拡声魔道具に向かう。
『皆、落ち着いて聞いて欲しい。たった今、隣国スイード王国に魔人が現れ、王都へ迫っているとの報告が入った』
堂々とその事実を公開したアウグストに、居合わせるほとんどの人間が目を剥いている様が見て取れる。
こちらからしても驚きだ。
これだけ人の集まった場所で、天災の訪れとも言える魔人の出現をあっさりと報せて、パニックになりでもしたらどう収拾を付けるのか。
『だが心配するな、魔人に対抗する手段を我々は既に持っている――シン!』
呼ばれたシンが意図を察したように、ハッとした顔になりながら殿下の隣へと向かう。
ここで彼を持ち出すというのはつまるところ、そういうことなのだろう。
彼らにとっては
先の魔人討伐で名は知れ渡っているシンが姿を見せると、会場の雰囲気は一変して大きな歓声に包まれる。
国民のこうした感情を煽る殿下の手並みに関しては流石としか言いようがない。
『彼はシン・ウォルフォード。周知だとは思うが、新たな魔人討伐の英雄だ。我々は彼と共に研鑽を続け、遂に魔人と対抗できるだけの力を得た……!』
大仰にそう語ると殿下は身に着けていた儀礼用の装束に手をかけ、どういう仕様だったのか一振りで脱ぎ捨てる。
その下には青を基調とした色合いの衣装を着込んでいたようで、何かと思えばシンも、そして合わせたように控えていた究極魔法研究会のメンバーも揃いの外套を脱ぎ捨て、着込んでいたらしい揃いの衣装を晒していく。
研究会、というより例の特殊部隊のユニフォームにでも当たるのか、そんな代物を既に用意していたらしい。
立太子の儀の最中にトラブルの連続だが、その音頭を取っているのが王太子殿下であり、国王陛下にも咎める様子が無いので、参列者の誰もが雰囲気に呑まれてしまっているようだ。
勢揃いした研究会の生徒達に皆が視線を集める中、殿下から何事か囁かれたシンが慌てふためいている。
状況からして、国民に向けて何か言葉を掛けるよう求められたのだろうが、こうして
殿下に利用されているように見えなくも無い彼は可哀想であるのかもしれない、感情のままに施しを与え続けた自業自得とも取れなくはないけれど。
『えー、俺を始め、ここに居る仲間達は魔人に対抗できる力を十分に持っています、だから安心して下さい……』
殿下からどんなリクエストがあったのか、そこで一度口ごもるシンだったが、続いた彼の台詞にはあらゆる意味で表情筋を抑えるのが困難だった。
『俺達――アルティメット・マジシャンズが、必ず魔人達を討伐してきます!』
それが彼らの部隊名、なのだろう。
研究会時点で相当なものだったが、究極の魔法使い達とは大きくでたものだ。
しかし人々には大ウケだったようで、会場は瞬く間にそれまで以上の大歓声に包まれた。
研究会の面々の一部も気恥ずかしそうにしている辺り、部隊名の考案は即興だったのかもしれない。
発言させておきながら可笑しくてたまらないかのように、こんな事態の最中で笑いを堪えている殿下から目を外し、そろそろいいだろうと陛下の元へ向かう。
念のために、眼帯は外してしまってから。
「――陛下、進言をよろしいでしょうか?」
「む? どうしたかマーシァ公――」
こちらを向いた陛下が、白い義眼を見て一瞬言葉を詰まらせる。
眼帯以上に見た目から多少の衝撃を与えてしまうだろうことは予想していたので、そちらの反応は気にせずこちらの意見を申し上げさせて頂こう。
「スイードに魔人が現れたとのことですが、陛下もまた――アルティメット・マジシャンズでしたか、彼らにその対処を任せるおつもりなのですか?」
そのやり取りは当然、殿下達の耳にも届き、部隊名を口にされたシンが自分でも恥ずかしいと思っているのか身をよじっていた。
「うむ。シン君だけでなく、彼らの事は息子からもよく聞いている。彼らならば、いや彼らにしかこの事態は解決できないであろうからな」
「我が領ならばこのような事態に備えがあります。すぐに救援に応じることもできますが、スイードへ兵を派遣するお許しは頂けないでしょうか?」
その意見には陛下も目を瞠り、研究会改め、マジシャンズの面々も驚きを示している。
「……そなたの領で画期的な戦術が運用されていることは聞いている。しかし魔人に有効かまでは未知数だ、この場で応じることは出来ぬ。何よりシン君には魔人を討伐したという実績がある、そんな彼の鍛え上げた部隊が救援に向かうというなら誰もが納得してくれるだろう」
予想はしていたが、やはり陛下も殿下と同じように、未だ学生の身である彼らにこの事態解決を委ねるつもりらしい。
とはいえ実績という点を持ち出されると抗論しづらいのも事実だ。
成果を既に上げているものと上げていないものとでは、前者の方が信用を得られやすいのは言うまでもない。
だからと言って納得できるわけではないが、これ以上言いすがり、いたずらに時を浪費して犠牲となるのはスイードの民かもしれないのだ。
食い下がるのも、これが限界だろう。
「……承知しました。ですが一つだけ確認を――殿下、スイードまではどのようにして向かわれるおつもりでしょう、転移魔法を?」
水を向けられたアウグストが、こちらが諦めたことで緩めかけた気を引き締める。
「いや、シンはスイードに行ったことがないからな、転移魔法は使えない。しかし合宿中にシンが開発した浮遊魔法で向かう、これなら馬車よりも遥かに速く到着できるだろう」
その言葉に息を呑む気配がマジシャンズ以外の人々から伝わってくる。
つい先日までは魔人オリベイラ以外扱える者の居なかった筈の浮遊魔法をもう開発したとは、一体どんなイメージで実現させたのか気にはなるが今は置いておこう。
「それはどの程度の速度が出せるものでしょう? 音よりも速く、とは申しませんがそれに迫る程度は可能でしょうか」
驚くどころか追及されるとは予想していなかったようで、一瞬息を呑んだアウグストが返答に迷い、シンへと目を向ける。
「音よりもとは……どうなんだシン?」
「い、いや……移動は風の魔法を使って自分でやってもらうし、流石にそこまでスピードは出せない」
基本的にクロード領と王都以外に向かう様子も無かったようので、そんなところだろうとは思っていた。
危機に備えて合宿するのはいいが、どう危機に向かうかはまるで考えていなかったらしい。
関わりを避けるあまり、そういった指摘を入れなかったこちらの落ち度もあるかもしれないが。
「それでは間に合わないでしょう。スイードまで私が転移魔法を開きますので、救援に向かわれるのでしたらそちらからお願い申し上げます」
転移魔法は行き先のイメージが無ければ使用困難だが、私なら過去に祖父から連れて行ってもらったことがあるお蔭でスイードまで繋げることができる。
協力を申し出たことで、意表を突かれたような顔をするシン達だったが、いち早く我に返ったアウグストが首を縦に振った。
「分かった、頼む」
「いいのかオーグ?」
「当然だ、スイードの民の命が懸かっているのだからな」
殿下の特殊部隊を認めようとしなかった私の手を借りることに、戸惑いを覚えるメンバーも居るようだったが、流石に人命が懸かっていることは理解しているらしい。
面子にこだわってこの申し出を拒むようなら、それこそ全員ふん縛ってでも勝手にやらせてもらうつもりだったが、取り越し苦労に終わって幸いだ。
「しかしそうだな……マーシァ、空に大きくゲートを開くことはできるか?」
「……可能ですが」
「ならそのようにして欲しい。どうせなら国民を安心させるために、我々の魔法を披露しておきたい」
この期に及んで宣伝に余念のない事だ。
全て無視して転移魔法に叩き込んでやろうかと魔が差すものの、そんなことが出来るわけもない。
説得するのも面倒なので、要望通りにテラスの上空に転移魔法を開くと、初めて目にする人々からどよめきが上がった。
「よし……シン」
「ああ、じゃあ全員に浮遊魔法を掛ける、行くぞ皆!」
膨大な魔力を集めたシンが魔法を行使すると、メンバーが一斉に宙へと浮きあがり、それぞれが起動した魔法の風を操り中空の転移魔法の入り口へと飛んでいく。
開発した、とは言っていたがその様子を見ると浮遊魔法自体を扱えるのはシンだけらしい。
常識外れな魔法の連続に呆気に取られる人々の前でついに彼ら、アルティメット・マジシャンズが始動したのだった。
殿下の謳い文句あって、転移魔法の繋がるスイードへ消えたシン達を、その場のほとんどの人間が誇らしげに見送っていた。
それにしても迷うことなく全員で飛び込んでいったが、大胆な事だ。
ただでさえ十名程度の部隊、戦力の温存などと言ってもいられないのだろうが――
「ん――?」
ふと気づけばまた会場へ向かってくる人の気配がある。
やはり慌てた様子の兵士が何か報告を持ってきたようだが、今度はこちらが手を出すまでもなく、儀仗兵に止められ陛下に取り次がれている。
それを受けた陛下が血相を変え、気まずそうにこちらへ顔を向けてきた。
「マーシァ公」
「はっ、いかがなさいましたか?」
「スイードに現れたものとは別の魔人集団が国内に確認されたそうだ。他国の領土を跨ぎ侵入してきたらしく、発見が遅れたらしい。問題はその進路なのだが……」
わざわざこちらに呼びかけられたことあり、陛下が言葉を濁した先の内容に察しがついてしまう。
それにしてもただ他国へ侵略するだけにしては面倒な動きをしている、彼らは一体何を目的にしているのだろうか。
「そちらの集団はマーシァ領に向けて進軍していると推測される。シン君達にはスイードを通じて可能な限り早く駆けつけられるよう伝達するが……」
シン達は通信機を持ち歩いていない、連絡を取る手段が限られている以上すぐに助けを求めることはできないわけだ。
あの規模の部隊でこういった局面に対応できるわけもなく、元よりこちらに求めるつもりはないので問題は無いのだが。
「承知しました。我が領への侵攻ということであれば、遺憾なく対応させて頂けるのでむしろ幸いでしょう」
領内での軍事行動は自由を許されている。
こうした事態を想定していたわけではないが、不幸中の幸いだ。
「マーシァ公……いや、そなたの力量も聞き及んではいるが、こちらからもすぐに応援は派遣する。それまでなんとか持ちこたえるよう努めてくれ」
「承知しました、では私も領へ戻ることと致します」
魔人の戦力が未知数である以上、私でも絶対は保証できない。
しかしこれまでの報告通り、戦闘訓練も受けていない、元平民の魔人が大半のようであるなら。
――試してみる価値はある。
ターナさんの転移魔法でスイード王国に出た俺達は、雨の降りしきる中まだ無事な王都の街並みを見てほっと息をつく。
けど油断してばかりも居られない、魔力索敵を広げてみると――居た。
彼方から猛進してくる多数の気配、魔人達の魔力反応だ。
「時間が無い――皆、城壁から魔人共を迎え撃つぞ!」
「了解!」
オーグの号令に皆が応じてスイード王都をぐるりと囲む城壁に向かう。
カートを操っていた魔人が使っていたって話を聞いて、思いついた『反重力』のイメージ。
原理は分からないけど、重力の反対の力をイメージした結果は上手くいき、新開発できた浮遊魔法。
調子は良好で、合宿中に皆で訓練したこともあって、俺達はあっという間に城壁の上に辿り着く。
飛んできた俺達にスイードの兵隊さん達が慌てていたが、オーグが救援に来たことを説明すると、もう来たことにまた驚きながらも歓迎してくれた。
正直、魔人に対する戦力としては話にならないだろうけど、こちらの軍にも俺の魔力障壁が付与された防御魔道具が貸し出されているらしい。
それなら庇って戦う負担も減る、万全の体制で魔人共を迎え撃てそうだ。
もう一度魔力索敵を伸ばして気配を探ってみると、魔人達はどうやら馬に乗って移動してきているらしく、ぐんぐんこちらへ迫ってくる。
旧帝国領で確認されたように、従う魔物が居ないらしいことをオーグが不審がっていたが、こちらの背筋を震わせるような、邪悪な魔力を感じ取った皆も顔つきを険しくする。
「シン君……」
「大丈夫だよシシリー。合宿で皆強くなった、落ち着いて戦えば、あんな連中に負けないはずだ」
迫ってくる連中からは災害級の魔物と比べても強い魔力を感じるけど、魔人化したカートと比べると変わらないか、少し劣るぐらいの反応がほとんどだ。
不安げに見てくるシシリーを安心させようと笑って見せると、俺も気を引き締めていく。
奴らが帝国みたいに、関係無い他の国まで滅ぼそうっていうんなら――
「覚悟しろよ魔人共……一体残らず討伐してやるからな!」
気付けば決意を込めたその言葉が、俺の口から漏れていた。
「状況は?」
『隣接する領地を抜けた魔人勢力は公都への進路を取っていますが、帝国方面の砦に配置していた部隊が既に展開しております。魔人達の総数は五十に満たない程度のようです』
百に満たない程度の戦力で他国へ攻め入ろうとは無謀極まりないが、一人一人が天災級の魔人ならそう甘く見てもいられないか。
城館の私室で、通信機越しにオルソンからの報告を聞きながら、こちらも準備を進めていく。
例のけったいな部隊名を得た同級生達が救援に向かった隣国の事も気になるが、まずはこちらの対処を済ませねばならない。
少し視てみたところ、彼らが身に着けていたあの青い衣装にはシンが学院制服に施していたものと同質の付与が施されているらしかったので、彼ら自身の心配はあまりしていない。
魔法も物理も無効化してしまう、国宝級の装備に身を包んだ特殊部隊とは豪儀なことだ。
あんな装備なら魔人相手でも危うげなく立ち回れることだろう。
呆れ半分に思いを馳せながら、新しく仕立てた領主用の衣装に袖を通していると、部屋に居合わせているヒルダの物言いたげな視線に気づき、苦笑してしまう。
「本当に、その服で良いんですか?」
「うん、決めたことだからね」
心配してくれている彼女には申し訳ないと思うし、これまで定めてきた自分の在り方に背く行為でもあるので後ろめたさもある。
けれど今だけはこの判断が必要だと感じた。
これまで外を出歩くのに身に着けていたものと、異なる仕様の衣装を身に纏うことで、気を新たにしてオルソンへ指示を告げる。
「私もすぐに向かうけど、まずは第一段階。侵攻してくる魔人達は全て――生かして、捕らえるように」
願わくばこの決意が功を奏することを、今はただ祈るとしよう。