転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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更新が超停滞してしまっておりまして時期が時期なだけにご心配もおかけしたようで申し訳ありません。
一度筆が止まってしまうと再開にかなり手間取ってしまうようで、エタったんじゃないかとがっかりさせてしまったかもしれず申し訳ありません。
感想返信もできておらず不甲斐ない限りですが、ちょっとずつ書く余裕戻ってきましたので、また更新再開させていきたいと思います。


覗く暗躍

 馬に騎乗した一団が、街道より大きく外れた平原を駆けていた。

 それぞれの質素な服装には統一感はなく、組織的な印象は欠片も無い、魔人の集団。

 旧帝国領よりこの地、アールスハイド王国マーシァ領に踏み入った魔人達は、他国に侵入してからも無警戒に馬を進めていた。

 

「それにしても王国の連中慌てるだろうな」

 

「ああ、ヨウドウ作戦だっけか?」

 

 それは集団の内の誰かが言い出した作戦だった。

 早々にアールスハイドへ攻め入ろうと大半の魔人達が意気込む中、まずは周辺国を落とし戦力を増強すべきだという案。

 人を魔人化させることが出来るのはオリベイラのみであり、魔人戦力を増やすことは出来ないが、捕虜や降伏者は得られるはずと賛成意見も上がり、スイード王国が標的として定められた。

 

 そして救援に動こうとするはずのアールスハイドへ攪乱を兼ねて、魔人の脅威を植え付ける為に戦力の一部で強襲を仕掛けるのだと。

 ただでさえ二百人に満たない少数の戦力を分けるなど愚策に思えるが、教養の得られる身分に無かった平民出身の彼らは魔人としての圧倒的な力に溺れ、企みが上手くいくものとすんなり信じ込み、行動に移してしまった。

 世界征服などという題目を掲げオリベイラから離反した魔人達だが、実際のところは魔人化の影響により溢れ出る暴力衝動の矛先を求めていた者がほとんどで、侵略の目的などどうでも良かったのかもしれない。

 

「もうアールスハイドには入ったんだよな、随分遠回りさせられたが道は合ってるんだろうな?」

 

「俺に聞くなよ。確かあいつらが……あれ、どこに居るんだ?」

 

 陽動作戦を提案し、国外の道を知っていると道案内を買って出た者達。

 その姿がいつの間にか見えなくなっていることに気づき、話し込んでいた魔人達は首を傾げる。

 陽動に参加している魔人の数は五十、簡単に見失いはしないだろうというのに。

 

 しかし他の誰かに所在を尋ねようとするより早く、魔人達の行軍は止まることになった。

 

「来やがったぞ!」

 

 先頭の魔人が大声で全体へ届けた、接敵の報せ。

 僅かな緊張が走るが、ほとんどの魔人達の表情は嘲笑めいた弛みを帯びている。

 迎え撃ってくる人の軍隊など蹂躙の対象でしかないと、帝国で街々を滅ぼした経験が彼らに印象付けていた。

 

 そんな中、まだ距離は遠く指先程の大きさにしか目視できない彼方の隊列から、魔法により拡張されているらしき声が届く。

 

『停止されよ。入国、及び入領の目的を聞かせてもらいたい。こちらは――』

 

 その勧告が終わらない内に、魔人達は我先にと攻撃魔法を放ち、先制攻撃を仕掛けていた。

 暴れる口実だけを求めていた彼らにとって、流儀も作法も知ったことではなく、容赦なく放たれた魔力の塊は。

 

「あ――?」

 

 隊列に届く寸前、展開された何重もの魔力障壁によって阻まれ、余波の風圧のみを辺りに撒き散らして終わった。

 帝国ではあり得なかった、自分達の魔法が阻まれる光景に、余裕に溢れていた魔人達の表情が固まる。

 そうしてやがて彼らは、魔人にあらざる人間達の戦力を自分達が甘く見積もり過ぎていたことに気付かされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何枚割られた?」

 

「最低で五枚は貫かれたようです。流石に災害級を上回る魔力量と言ったところでしょうか」

 

 侵攻してきた魔人迎撃の為に出陣していたマーシァ領防衛隊、その陣中でマーシァ家の先々代当主であるウーロフが部下と言葉を交わしていた。

 現役復帰し、防衛隊の指揮を預かっている彼は襲来した魔人を前に慌てる様子もなく、報告に静かに頷いて返す。

 

「やはりその程度か。第一号の魔人とは比べるべくも無いな」

 

 これまで一体で一国を滅ぼしうる脅威として認知されていた魔人だが、複数の存在が確認されるのに伴い、その認識が必ずしも正しいとは限らないことが推測されていた。

 魔物がそうであるように、魔人もまた元となった人間の力量によってその振るえる力に大きな差が生まれる。

 過去にアールスハイドを滅ぼしかけた魔人は、国内でも一二を争うほどの魔法使いだったこともあり、軍隊ですら太刀打ちできないほどの存在と化した。

 

 しかし魔法の素養どころか、ろくに教養を積むことすら許されなかった帝国平民が主である、目の前の集団はどうか。

 放たれる魔法の構成は稚拙にして粗雑、更には今しがた完全に防がれたのは何かの間違いなのだとでも言わんばかりに同じ単純な放出魔法が繰り返されている。

 敵の中にウーロフが孫娘より話に聞かされていた、オリベイラのような魔人が存在したなら、マーシァ領の兵達であっても撤退せざるを得なかっただろう。

 

 だがその心配は杞憂に終わった。

 魔道具による出力の安定した障壁を突破し得るような威力も、かいくぐるような技巧も、彼らは持ち合わせていない。

 ならばウーロフらは粛々と務めを果たすだけだった。

 

「攻撃を開始する。各隊に杖撃(じょうげき)と障壁の配分を伝達、囲い込め」

 

 淡々と発された号令の後、防衛隊から一斉に火線が放たれていく。

 その弾幕に目を剥きながらも魔力障壁を展開し防ぎきる魔人達だったが、圧倒的な物量差から浴びせかけられる魔法を前に反撃もままならなくなっていき、いつしか追い詰められる一方となっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい……冗談だろ」

 

 その光景を遠方から観察する人影が二つ。

 瞳は赤く、魔人の特徴を宿したゼストより任務を与えられた元諜報部隊の男達。

 スイード方面を担当したローレンスを除く二人、アベルとカインは思惑から外れた展開に焦りを滲ませていた。

 

 誘導こそ上手くいったものの、魔人達はマーシァ領の兵達を前に手も足も出ていない。

 いくら元平民といえど、並の軍隊程度は圧倒できる能力を有しているとの目算であったのというのに。

 これでは賢者の孫や公爵当人の戦力を測るどころの話ではなかった。

 

 次々と撃ち込まれる魔法に晒され、身動きもままならない魔人達は、ゆっくりと戦線を上げている兵達に囲まれつつあった。

 五百は下らないだろう兵数に、完全に包囲されるのも時間の問題と見える状況を前にしてカインが迷いのある声を漏らす。

 

「あれだけの魔道具を揃えた部隊が居るなんて……どうする、介入するか」

 

「いや、今さら手を出したところで遅いだろう。それにあの数だ、下手に巻き込まれれば俺達まで危うくなる」

 

 諜報部隊の一員として幾度も実戦を経験し、魔法の指導も受けてきた彼らには平民の魔人と比べれば隔絶した実力を持つ自負がある。

 それでも目の前の状況は無策に飛び込むには危険であると思わせるのに十分な有り様だった。

 古来から戦場において最も有効な力とされてきた、数の暴力。

 

 装備さえ十分であるなら自分たち魔人でさえもその脅威には抗いきれないかもしれないのだという思いに、固唾(かたず)を呑みながら事の推移を見届けようとするアベルらだったが。

 

「助けてやらなくていいのかい?」

 

「――っ!?」

 

 投げかけられた、第三者の声にその場を飛び退ることになった。

 いつの間にやら、目と鼻の先にまで近づいて来ていた男が二人。

 身に着けた装束の特徴がマーシァ領の兵と一致することに、アベルとカインは失態を悟った。

 

「……カイン」

 

「悪い……気を抜いた」

 

 通常、魔法使いは集めた魔力を一つの魔法に変換するため、複数の魔法を同時に起動することは出来ないと知られている。

 魔力障壁を展開しながら放出魔法は放てず、その逆もまた不可能。

 一方が索敵魔法で周囲を警戒するために二人組で行動していたアベルたちだったが、予想外な戦況のあまり、周囲への警戒をおろそかにしてしまった。

 

「どうやらあんたらも魔人みたいだが、連中とはずいぶん毛並みが違うな」

 

「どうあれ、事情は聞かせてもらわなくてはならない。大人しく我々に同行願えないか?」

 

 赤い両目という魔人としての特徴を隠していない以上、素性が割れるのは自明のことだったが、まだ若い兵達の態度に違和感を覚えたアベルは眉根を寄せる。

 

「随分と悠長なことを言うな……俺達が何か分かっているのだろう?」

 

「それが何か? 何はともあれ入領の目的を教えてもらえるかな、こっちも手荒な真似はなるべく避けたいんだ」

 

 魔人という存在に対してたった二人で相対しながら、あまりに危機感の欠けて見える物腰に、むしろアベルたちは警戒を強めた。

 視線を交わし、一歩前に立つアベルの背後で、カインが瞬時に索敵魔法を起動させる。

 そうして周囲を走査し、目の前の二人以外に自分達を窺っているような反応が見られないことが一層カインを困惑させた。

 

「……近くに居るのはこいつらだけだ」

 

「まさかな、いくら魔道具で武装しているとはいえ、二人だけで俺達を取り押さえれると踏んだのか?」

 

 元平民の魔人たちを圧倒できたのはあくまで数の利あってこそ。

 それを理解するアベルはカインと視線だけで意思の疎通を済ませ。

 

「――ちっ!」

 

 一息に兵達の懐へ飛び込んだ。

 体の陰に開いた異空間収納から抜き放つと同時に振るわれる剣。

 魔人の身体能力で撃ち込まれたその一撃は、並の兵士なら十分に戦闘不能に至らしめるだけの威力が込められていた。

 

 しかし。

 

「――!」

 

 今度はアベルの方が目を剥かされることとなる。

 逆袈裟に振るわれた剣を、男は咄嗟に構えた一風変わった杖のような得物でしっかりと受け止めていた。

 

(押し込めん、だと――?)

 

 人の首をも捩じ切れる、魔人の膂力による剣撃を、ただの人間が受け止めて見せたことはそれだけ驚きに値することだった。

 魔力の流れから身体強化の魔法が使用されたことが窺えるが、それでも並の魔法使いには不可能な芸当。

 もう一方の兵士が同じ武器を構えるのを視界の端に捉えたアベルは驚愕を呑み込み、後方へと跳躍する。

 

 次の瞬間にはあっさりと引き下がって見せたアベルに兵士たちが息つく暇を与えず、カインによる魔法が放たれていた。

 横一文字に空間を歪ませながら飛来する、風を操った刃。

 これもまた並の人間には防ぎえない威力を持つ魔法であるはずだったが。

 

「グラン下がれ!」

 

 踏み出した兵士が手を掲げ生み出した魔力障壁は完全にカインの魔法を防ぎきってみせる。

 それは決して手を抜いたせい、というわけでもなく、魔法を放ったアベルの渋面からもそれは明らかだった。

 

「風の刃か……そういやお嬢はなんでか、この手の魔法苦手だったな」

 

「軽口叩いてる場合か」

 

 魔法の威力以上に、アベルの圧力に隠されていたカインの攻撃にも対応して見せた兵士たちの練度が、魔人二人にこれ以上の任務継続が困難であることを知らしめる。

 会話を挟みながらも警戒を緩めてはいないその姿を前に、彼らがとった行動は。

 

「――退くぞ」

 

「……ああ」

 

 目にした全てを報告することすらできなくなる前に、一目散にその場から退くことだった。

 敵地で発見されてしまった以上、悠長に構えていても事態が悪化こそすれ、好転することなど滅多にないと、諜報部隊としての経験に彼らは学んでいた。

 背に視線を感じながらも、追ってくる気配の無いことに安堵しつつ、報告せざるを得ない事象の数々がアベル達を苦悩させられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間に小さくなっていく背中を見送り、二人の魔人と刃を交えた兵士、グリードとグランはようやく大きな息を吐くことができていた。

 工房で量産されているものと異なる、ターナの手による付与が施された特別製の魔道具を持たされていたことで対抗してみせた二人だったが。

 

「追うか?」

 

「よしとこうぜ、こっちの身が持たなくなりそうだ。あれが本物の魔人か……肝が冷えるっていうか、怖いねえ」

 

 魔人の動向に不審を感じ取ったウーロフの指示により、周辺を探っていたグリード達が発見した二人は明らかに集団に属する魔人達と別物の力量を持っていた。

 表面に出さないよう振る舞った二人だがその実、彼らの膨大な魔力を前に竦み上がりそうになるのを押さえ込むのに必死な思いをしている。

 相対するだけで神経を擦り減らされていただけに、長引けば不利を背負うことになるのを感じていた彼らにとっても相手が退いてくれたことは幸いだった。

 

「悔しいが、あいつらの正体が何なのか考えるのは俺達の仕事じゃないな」

 

「確かに。他に目はないようだし、司令に連絡するぞ」

 

 あっさりと整理をつけグリードが通信機を取り出す。

 

「こちらグリード。戦場を観察していた魔人二名ですが、申し訳ありません、取り逃しました」

 

『了解した。十分だ、手勢を回せずにすまんな』

 

「いえ承知しています、魔人との初戦闘ですから」

 

 通信に応じた部隊の長、ウーロフが事の子細を聞き終えると二人を労う。

 

『ご苦労だった。到着しているターナに伝えよう』

 

「と、仰いますと……」

 

『うむ、魔人達は間もなく鎮圧できるだろう』

 

 未だに魔人達との交戦は続いていたが、領主の到着。

 それが意味するところを知る二人の間で、確信を持った言葉が交わされるのだった。

 

 

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