転生公爵令嬢の憂鬱 作:フルーチェ
魔人の扱いばっかりは軽く流せないのでなんとも悩ましい。
更新遅れていたのに暖かい感想を頂きありがとうございます。
相も変わらず返信をおろそかにしてしまっていますが、全て読ませて頂きとても励みにさせて頂いています。
魔人達の侵入地点から最も近い砦まで、転移魔法で跳んだときには防衛隊の出動も済んでいた。
曇り空の下、接触が予想される位置まで馬で向かう道すがら、予定外の同行者となった一行が差し迫った表情になっているようだったので声を掛けておく。
「無理をなさらずともいいのですよ?」
「いえ! 世話になっておきながら、指を咥えてこの事態を眺めておく気にはなりません。我々だけでもお手伝いさせて頂きます」
同行を願い出てきたのはダーム王国のラルフ・ポートマン氏。
魔人侵攻の報せに伴い、魔道具指導を受けに来ている方々には万一に備え避難準備するよう伝えてあったのだが、氏には武人気質なところがあるのか部下を引き連れ助力を申し出てきた。
勇ましくはあるが、魔人相手に戦力となり得るかは難しいところであるし、状況次第では彼らの出る幕も無い。
断ってしまっても良かったが退去させるのは難しくもないし、こちらの方針を伝える良い機会になるかもしれなかったのでついて来てもらうことにした。
そう時間もかからない内に、攻撃性の放出魔法が放たれる気配と音が伝わってくる。
緊張を強めるラルフ氏とその部下達を連れ、やがて辿り着いた戦場では、既に一方的となっている戦況があった。
「これは……まさか」
ラルフ長官が息を呑んで見やる先で、一定の距離を保ち兵士達に取り囲まれた魔人達はまるで自分達が張った魔力障壁に押し込まれているようだった。
散発的に魔法を放っているようだったが、いずれも兵士達の障壁を抜くことは出来ていない。
見たところ、ろくに損害らしい損害も出ていないようだ。
予想以上の優勢ぶりにラルフほどではなくとも驚いていると、こちらを察知してきた索敵装備の兵士達が駆け寄って来る。
「閣下、ご到着ですか」
「ご苦労様。状況を確認したいのだけど、お爺様――ウーロフ司令はどちらかな?」
尋ねてはみたが余程に余裕があったのか、兵が問い合わせるまでもなく、その人物の方から声が掛かった。
「着いたか、ターナ」
「司令。はい、ただいま」
馬から降りて、オルソンを従えてやってきた祖父を見上げる。
もう年は八十を越えているのに、相変わらず体格の良いお方だ。
賢者マーリン氏もそうだったが、この世界には随分とタフネス溢れるご老体が多い、これも魔力の賜物だろうか?
ダーム王国の一行を一瞥しつつ、成り行きは察してくれたようで追及もせずに祖父は説明を優先してくれた。
「見て分かるだろうが、既に大勢は決している。攻めてきたのは元平民の魔人のみのようだな」
「そのようですね、あれでは王都に現れたオリベイラ氏にはまるで及ばないでしょう」
「それと戦闘の様子を盗み見ていた魔人が二人居たらしい。グリードとグランが接触したが、逃げられてしまったそうだ」
つけ加えられたその情報には少しばかり意表を突かれる。
彼ら二人は兵士としての訓練期間も長く、実戦経験も豊富な防衛隊の精鋭。
しかも魔道具装備はハイエンド品、究極魔法研究会――アルティメット・マジシャンズの面々を相手にしても遅れはとらないはずだ。
彼らから逃げおおせることが出来る時点で、並の相手ではないことが窺い知れる。
そんな存在が盗み見ていたとは、偵察行動と見るべきか、なんにせよ気にかけておくべきだけれど。
「……気になりますが、今は目の前の事態を終わらせましょう」
魔人達は圧倒的な劣勢に追い込まれながらも、現実を受け入れまいとするように未だ抵抗を続けていた。
せめて一点突破を狙い火力を集中させるなど彼らが出来ていたなら違った結果もあったのかもしれないが、その程度の統率もとれなかったようだ。
祖父もそれを見抜いたからこそ陣を薄くするリスクを負ってまで包囲を仕掛けたのだろうけど。
このまま殲滅するのは容易い、けれどそれをするには
留め金を外し眼帯を取り払うと、中には初めてこの素顔を見る者もいるだろう兵士達やラルフ一行が息を呑む気配が伝わって来た。
「司令、兵士達への切り替え指示をお願いしてもよろしいですか?」
「引き受けよう――無理はするなよ」
引き締めたままの顔つきが一瞬、こちらを心配するように歪んだのが見えてありがたさが湧いてくる。
――これからもっと、気苦労をかけてしまうだろう真似をしでかすことを思うと、申し訳なくもなってしまうが。
「はい、ありがとうございますお爺様。では――」
左の白眼に魔力を通し、刻まれた魔法を打ち起こす。
そうして視界に生じる変化。
正確には視えているわけではないがこの魔道具、『擬似神経』と『魔力視』が付与された義眼を用いると、不思議にも掴み取れるようになることがある。
この世界を満たしている『魔力』、それらが眼には視えなくともそこに在るということを、脳が知覚する。
特定条件下に置いて固体化し、魔石と呼ばれる形態になることで物質として目視することができるようになる魔力だが、大気中に存在するそれは人間の目に映る存在ではない。
これはそれでもどうにか観測する手段が欲しかった私の、過ちが生んだ産物だ。
魔法を制限するにはやはりその源である魔力に干渉する手段を確立させるのが有効と思われた。
干渉するにはまず、観測できなければ話にならない。
それには魔力の存在をなんとなく感じ取れるだけの、この世界の人が持つ感覚だけでは不十分だった。
初めの内は失敗ばかり、『魔力視』だけを付与した眼鏡をつくってみたりもしたが、イメージに左右される魔法の悪影響か、出来たのは索敵魔法のまがい物のような代物ばかり。
失敗続きでハイになっていたところもあったんだろう、目に視えないのなら、視えるように適応できないかなんて試みてしまったのは。
痛み止めの魔法頼りに、挿げ替えた左目、つけ加えた『擬似神経』の付与。
結果として、凄まじい後悔をする羽目になる。
視えないものを視ようとすることを脳が拒絶でもしているように、魔法でも上手く抑えきれない悶絶するような痛みが連日、頭の中を駆け抜け、まともに外出することもできない。
止めてしまえば楽になる誘惑を振り払いながら過ごした、気が狂うんじゃないかと言う日々はしかし、無駄に終わらなかった。
眼には映らない、しかし視えている、そんな矛盾した奇妙な感覚で魔力そのものを捉えることができるよう、私の脳は適合してくれたらしい。
漂う魔力という存在を新たな感覚で正確に掴み取れるようになったことで制御力も格段に向上し、何よりの成果として。
「――
今では魔力そのものを対象とした、魔法を行使できる。
この魔法の影響下に置かれた魔力は、人の意思一つで現象へと変換されるその性質を停止させる。
「――!?」
一切の魔法が使えなくなった魔人達が慌てふためく光景が目の前に広がっていった。
「お、おい馬鹿! なんで障壁を消すんだよ!」
「違う! 勝手に消えたんだよ!」
「魔法が出ない――どうなってんだよ!」
魔人達の間で怒号が飛び交う。
仲間を責めていた者達も、起こった異変に気付くと動揺を露わにしていった。
そんな魔人達の足元に。
「な――っ」
取り囲む兵士達から、魔道具による威嚇射撃が撃ち込まれる。
抉れ飛ぶ大地、魔法を扱えなくなった彼らが再び攻撃に晒されればどうなるかは、誰の目にも明らかだ。
一方的に押し込まれ、魔法すら使えなくなり、魔人となったことで得た全能感を失った彼らの顔に絶望が浮かぶのに、そう時間はかからなかった。
表現力が追い付かなくて書いてる作者自身が軽くポルナレフ状態になりつつあるオリジナル設定、正直強引な言い回し多いかもしれず申し訳ありません。