転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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積み過ぎたゲームを消化してたら遅れる遅れる……まともに感想返信もできずにすみません。
また間を開けすぎての更新となり、読んで頂いている皆さんには重ね重ね申し訳ありません。


彼女にとっての予想外

「――以上がスイードに攻め入った魔人たちの顛末となります」

 

 元ブルースフィア国、実質的にオリベイラらの拠点となった帝城で、ゼストによる離反した魔人たちの動向が報告されていた。

 玉座に腰掛けたオリベイラは、離反した魔人たちの行動が失敗に終わったことを聞き終えると冷ややかな笑みを浮かべる。

 

「無様ですねぇ。あれだけ息巻いて出ていきながら、ほとんど手も足も出なかったとは」

 

「しょせんは強者に従うことしかできなかった者達。魔人となれどその本質は変わらなかったのでしょう、より強い者が現れれば当然の帰結かと」

 

「アールスハイドの若き精鋭部隊ですか。フフ……華々しいですね、見せ物としては映えることでしょう」

 

 ゼスト達からするなら、魔人を苦も無く討伐できる部隊など脅威にほかならないが、オリベイラは他人事のように聞いている。

 魔人の扇動が彼の興味を引くための(くわだ)てでもあったゼストは、その薄い反応を内心で惜しみながら、自身の想定の甘さを悔やんでいた。

 部下ローレンスによるアールスハイド特殊部隊、その戦力報告には元々諜報部隊に属し、実戦経験も豊富な彼らをして舌を巻かされている。

 

 並の軍属魔法使いと比較にならない、高威力にして広範囲の放出魔法。

 人を容易く屠れるはずの魔人による攻撃を歯牙にもかけない防御力。

 何より、そんな魔法使い達の中にあってすら抜きんでた実力を持ち、瞬く間に魔人を殲滅していったという賢者の孫の存在。

 

 どれをとっても懸念事項となる部隊が結成されたことは、彼らにとって由々しき事態と言えた。

 更にゼストの胸の内を苛む問題はそれだけにとどまらない。

 

「帝国領へ逃げ帰った者達については観察中ですが、もう一方。マーシァ領へ差し向けた魔人ですが……そちらは予想通り、一人も生還者は居ないようです」

 

 アベルとカインが誘導した魔人たちについては、彼らが離脱を余儀なくされたことでその成り行きを見届けることが出来ていなかったが、それまでの戦況から生存は絶望的だろうと推測されていた。

 

「賢者の孫の部隊同様、あるいはそれ以上に驚異的な戦力と言えるかと。魔道具を完全に配備した部隊の存在は我らにとっても予想外でした」

 

 当初の算定とは裏腹にその結果は散々たるもので、侵攻した側ではあるが魔人たちの方が被害は大きくなってしまっている。

 まともな軍規に従った采配でないにしても、大失態とみなされてもおかしくはない結果に、あらゆる叱責も覚悟していたゼストだったが。

 

「生還はゼロですか……本当にそうでしょうかねえ」

 

「……? 状況からして、殲滅されるのは時間の問題であったようですが」 

 

「まあそういうことにしておきましょう。それで、報告というのは済みましたか?」

 

 不愉快そうにするどころか、薄笑みすら浮かべて見返してくるオリベイラに、動揺を押し殺しながらゼストが肯定を示す。

 

「はっ。この度の失態については言い訳のしようもなく――」

 

「構いませんよ。貴方は私に指示される立場でもないのですから、好きにすればよいでしょう」

 

 変わらず自分たちへ関心を向けていない姿勢を示され、ゼストの胸の内には深いわだかまりが生じるのだったが。

 

「しかし同じ王国の人間でも随分と対応に違いが出るものですね……特殊部隊とやら、それと公爵閣下の動静について調べるのであれば、今後も報告を聞かせて頂けますか?」

 

「――シュトローム様がお望みとあらば」

 

「結構。暇つぶしになるような面白い話が聞けることを期待していますよ」

 

 そう言い捨てるなり玉座から離れ、居室へと去っていくオリベイラ。

 彼が関心らしきものを示したことはゼストにとって意外であったが、喜ばしい事態でもある。

 手駒とできる魔人の損失は痛いところだったが、かの勢力に目を付けたのは間違いではなかったと、その内情をより深く調べるために再びゼストは思索を巡らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏季休暇へ入りマーシァ領へとやってきてからの日々。

 利用させてもらっている魔法実技の訓練場を出たマリアは休憩所に立ち寄り体を休めていた。

 そうして購入したドリンクを飲みながら一息つけているところに。

 

「精が出るようだな、メッシーナ」

 

「えっ……あっ、アルフレッド先生!?」

 

 王都に居るはずの意外な人物から声をかけられたことで居住まいを正すマリア。

 休暇中である教え子にそんな態度を取らせてしまったことにアルフレッドは苦笑いすると、共にやってきていたミランダへの礼を口にした。

 

「休憩中にすまんな。ウォーレス君もありがとう、助かったよ」

 

「いえ、このぐらいでしたらお安い御用です」

 

 キビキビと応じるミランダの姿とそのやり取りから、彼女がここまでの道案内を務めたことをマリアも察する。

 

「ミランダも休憩?」

 

「というか午後は暇をもらってるわ。こっちの兵士さん達もこの間から忙しいみたいだし」

 

 残念そうなミランダの返答に、マーシァ領が魔人侵攻の事後処理に手間を取られていることを知るマリアも同情するような視線を返す。

 忙しいところに負担をかけてまで指導を願い出るほど面の皮が厚くもない二人は、先日からほとんど自主トレーニングに勤しんでいた。

 

「その様子を見ると魔法の鍛錬も充実しているみたいだな」

 

「はい。シンから教われなくなったのは残念ですけど、こっちで教わることもためになりそうなことばかりですから」

 

「それは何よりだ。研究会を抜けると聞いたときは大丈夫なのかと心配していたからな……まあ熱心なのはいいが、休暇中の課題も忘れるんじゃないぞ?」

 

 表情柔らかにしつつ、アルフレッドが釘を刺すように告げる。

 密かに受けていた気遣いに礼を言うようにして、マリアも朗らかな笑みでそれに応じた。

 

「大丈夫ですよ。初等部のお子様じゃないんですから、課題忘れなんてやらかしませんって」

 

「はは、まあSクラスの皆が優秀なことは知っているから俺もあまり心配はしていない。……いや、コーナーあたりはちょっとばかり不安にさせられるが」

 

 幼気に溢れるクラスメイトの姿を彷彿させられ、あり得そうな予想にマリアが軽く噴き出すと、アルフレッドもつられたように小さく笑みを浮かせる。

 そうして挨拶ついでのやりとりをいくらか交わしたところで、マリアの方から抱いていた疑問を口にした。

 

「それにしてもどうして先生がこちらに、学院のお仕事は大丈夫なんですか?」

 

「通常の授業は無いし、こう言うのは情けないが究極魔法研究会にも俺が顔を出す必要はない。少し王都を離れるぐらいの時間ならつくれるのさ。それでどうして来たのかと言えばだが……」

 

 言いづらそうに言葉を濁しながらちらりと周囲を窺い、他に人の気配が無いことを確認したアルフレッドが言葉を繋ぐ。

 

「後学のため、ってところか」

 

「後学?」

 

「魔法学院教師として、だな。今年度から色々あったのもあるが、俺も昨今の魔法教育に思うところがある。それでこちらなら参考にできそうなこともあるんじゃないかと考えてな」

 

 表舞台に現れると同時に脚光を浴びる立場となった賢者の孫、シン。

 魔人という災厄の再来、大量出現。

 それらに並ぶ魔法、魔道具を扱うターナら公爵領の存在。

 

 いずれも魔法に関係する立場の人間であれば、関心を引かれずにはいられない出来事がこの短い間に起こり過ぎた。

 衝撃を受ける以上に、魔法使いの教育に携わる者として、アルフレッドが抱いたという感情が。

 

「危機感、ですか」

 

「そうだ。ウォルフォードやマーシァのおかげで、俺達は過去のように国が滅びそうになるような危機は免れている。だが……彼らが居なかったら、どうなっていたんだってな」

 

 現実に救われてしまっていることもあり、誰もが考えずに、考える必要の無くなっていることではある。

 しかし常識の範疇にある軍隊では対抗することのできない魔人が現れている現実の前に、その仮定を軽んじることはマリアにもできなかった。

 効果の薄い詠唱に頼った魔法が巷に流行し、並の魔法使いの力量はかつて魔人という災厄を祓った賢者、導師の両名に及ぶべくもない。

 

 たまたま運よく時代に英雄的な存在が居合わせてくれたからいいものの、ほとんどの人々は二度目となる世界の危機に、自分たちの力で立ち向かうことすらできていなかった。

 およそ半世紀の間、過去に学ぶどころかろくに魔法技術を進歩させることすらできていないことは確かに、危機感を抱くのに十分である。

 

「可能な範囲で取り入れるにしても、天才的すぎるっていうのか、シンの発想は常人じゃ理解が難しそうだからな。訓練場で聞いたみたいにマーシァの魔法なら参考にできるかもしれないかと思ってたところに、王都に詰めなきゃならなくなったルーパー団長からこっちでの研修を勧められて、渡りに船だったってわけだ」

 

「はあ……でも、王都にも魔法学術院はあるんですよね? そちらでの研究じゃ不足なんですか?」

 

 話を聞いていたミランダが不思議そうに漏らした言葉に、マリアとアルフレッドは渋い顔つきにならざるを得なかった。

 彼女の言う通り、確かにアールスハイド王都には魔法研究の最高峰、魔法学術院という機関が存在する。

 しかし、その機関が詠唱魔法の実態をまともに検証することもせず、野放しにしていた実態を知る者の視点からするなら、研究機関としての能力は怪しいものだった。

 

 詠唱が流行したそもそもの原因だが、過去にとある魔法使いが賢者マーリンの魔法を真似ようと試みたことによる。

 なかなか氏の魔法を再現できず、苦心していたその魔法使いはやがて詠唱の文言を工夫し始めた。

 そして試行錯誤を重ねる内に、マーリンが扱っていたものに近い威力の魔法が行使できてしまったという。

 

 その魔法使いの頭には実際に目にしたことのある『賢者マーリンの魔法』という確としたイメージがあったことで、実際には制御できる魔力量がそれに追いついたというだけのことだっただろう。

 詠唱自体の効果が微々たるものだったことは予想に難い、しかしその成果を目にした世の人々は詠唱を工夫すれば魔法の威力を底上げすることができると信じ込んでしまったらしい。

 詠唱と威力の因果関係がしっかりと検証されていたなら、大層な文句を考えたところで意味がないことは知れただろう。

 

 魔法師団などには無詠唱で大威力の魔法を行使できる人間も少なからず居たのだから、それぐらい考えることができてもおかしくはない。

 しかし現代では数多くの魔法使いたちに詠唱が重要なのだと誤解が広まってしまっている。

 それを防ぐこともできなかったのだから、王都魔法学術院の能力も疑われるというものだ。

 

 そんなマーシァ領での見解をマリアから聞いたアルフレッドは、不甲斐なさを示すようにしてがっくりと肩を落としている。

 

「賢者様方が後進の育成に興味を持たれていなかったとはいえ、この認識の遅れは痛いな。どう修正したものか……メッシーナはこちらでしばらく教わっているらしいが、違いは感じたか?」

 

「て言っても、私も一から教育受けてるわけじゃありませんし。アウグスト殿下も警戒されたように、まだ教育には組み込めてないみたいですよ?」

 

「そういえば、シンの魔法規制は王家の意向もあったんだったな。懸念も分からないではないんだが……」

 

 強力過ぎる魔法を無暗に広め過ぎれば新たな争いの火種となりかねない。

 その発想自体は頷けるもので、マーシァ領でも通常教育の改定はまだ進んでいなかった。

 

「うーん……確か殿下から禁止されたのはシンの魔法イメージだから……こっちで教わったことのさわりぐらいならいいかもしれませんけど」

 

 シンが強大な魔法を使える大きな要因の一つ、常人では思いつきもしないようなイメージ。

 特に拡散を禁じられた部分がそこだったことを思い出しながら、伝えられる内容を吟味するマリアの頭の中には、ふとした疑問も湧いてきていた。

 

(過程をイメージすることが大事って言ってたけど、その割にはシンの魔法って――)

 

 マーシァ領の研究院で、理解度を測るという名目で研修を受ける内に、マリアには以前に語られたときには感心することしかできなかったシンの魔法イメージが随分と大ざっぱであるように思えてきた。

 道筋自体は間違っていないが、そこを渡るための手段が不明確であったり。

 そもそも道筋が立証不可能なものであったりすることがほとんどであったような、と。

 

 火が燃える、そういった現象そのものに小さい頃から疑問を持ったシンが一人でその仕組みを解明し、編み出していったイメージだとマリアはかつて賢者マーリンに語られたことがある。

 しかし今となってはろくな施設も無い森の奥地で、幼い内からあれだけの魔法が編み出せるものなのだろうかと、疑問も湧いてくる。

 彼が天才だからと皆が納得していたが、シンとマーシァ領、二つの魔法を経験したマリアの観点からはそんなレベルにもとどまっていないように思えた。

 

 まるで分かっている答えに無理やり辻褄を合わせたかのような、座りの悪さがあるような。

 

「メッシーナ?」

 

「――っと!? すみません」

 

 思考がずれかけたマリアは呼びかけに我を取り戻し、今は考えなくても良い事だと元の思考へ頭を切り替える。

 

「ええっとですね。正しい魔法の発動過程を浸透させるための初期教育みたいな話を聞いたことがあります」

 

「確かに、魔法学院の受験生ですら詠唱を重視する者は多いんだ、王都もまずそこは手をつけないといかんだろうな」

 

「それでまあ、魔力を精霊って例えて解説されたりしてましたね」

 

「精霊って……お伽噺みたいなか?」

 

 理論的とは程遠い、その例え方を聞いたアルフレッドは虚を突かれたように目を丸くする。

 その反応をもっともと予想していたマリアは頷きを返し続けていく。

 

「どこにでもいるその精霊に、私たち魔法使いはお願いすることで魔法という現象を起こしてもらっているんだとします」

 

「……魔法を使えない私からしたら、魔力を感じるなんて言われてもピンと来ないんですが、そんな説明してしまって問題ないんですか?」

 

「例えということならアリだな。魔力なんて言い方も、皆がそう呼んでるだけのことだ」

 

 魔法使いでないミランダの問いかけに答えつつ、気を取り戻したアルフレッドは真摯に耳を傾けていくのだったが。

 

「それで、言わば下請け業者である精霊さんは、発注元である私たち魔法使いのお願いを読み取って、魔法として仕上げてくれるわけですね」

 

 メルヘンな導入から一転し、世俗的な印象を背負わされた例え話にガクリと腰を折られる。

 

「……そこにもっとマシな表現は無かったのか?」

 

「あはは……導入までに要改善ってターナさんも言ってましたね」

 

 苦笑いを浮かべながらも適切な改変が思いつくわけでもないので、呆れを受け入れながらマリアには聞いたままに解説を重ねるしかなかった。

 

「精霊さん達はとても優秀なので、私たちからの発注内容が大まかでもちゃんと形にしてくれます。でも具体的なほど完成度は高くなる、魔力(コスト)がかけられるなら尚のことです」

 

 そこまで語られるとアルフレッドも今度は腑に落ちたように目を瞠り、再び顔つきを真剣なものにしていく。

 魔法の心得がないミランダも理解を示すかのように、聞かされた言葉を反芻していた。

 

「ただ人と違う精霊さんに言葉は通じません。だから頭に思い浮かべるイメージの具体性が大きく影響する――なんて設定が考えられてるみたいですよ」

 

「ふむ……物語調にして初等部の内から採り入れれば、魔法教育の導入として悪くないかもしれないな」

 

 魔法学院の教師として思うところがあったのだろう、しきりに頷きを見せていたアルフレッドだが、上手く伝わったらしいことにホッとした姿を見せているマリアに、ふっと表情を緩ませる。

 

「え……な、何かおかしかったでしょうか?」

 

「なに気にするな。一教師として、逆に教えられてしまうぐらいの生徒の成長が嬉しかっただけだ。負けないように俺も頑張らないとな」

 

 率直にアルフレッドから褒められてしまったことに気づくと、マリアは照れながら慌てたようにパタパタと手を振り乱す。

 

「わ、私なんてまだまだですよ! ターナさんやシン達と比べたら、ただの学生なんですし」

 

「上を見過ぎだ。こちらでの研修だって自分から願い出たんだろう? 幸運には恵まれたのかもしれないが、メッシーナは努力だって十分してる方だろうさ」

 

 更に褒め言葉を重ねられてしまうと、魔法学院への入学からこちら、常識外れな人物ばかりを目にしてきたせいか、自分を卑下してしまいがちだったマリアは言葉も失くして顔を赤くしてしまう。

 珍しい姿を面白がるようにして、にやつくミランダの視線から耐えきれなくなったようにして、マリアは話題を逸らしにかかった。

 

「そ、そんなことより! 王都ではターナさん、大丈夫なんでしょうか?」

 

「うん?」

 

「その……今回のことで、良くないこと、言われちゃったりしてないかなって」

 

 マリアが示したことが世を騒がせる、遂に帝国から国外へ踏み出した魔人たちのことだとアルフレッドはすぐに理解した。

 

「魔人たちを生かして捕らえた、という件だな。俺も驚いたよ、まさかそんなことができるなんて……いや、誰もやろうとも思わなかっただろうしな」

 

「というと、やっぱり」

 

「ああ。どうしてそんなことをするんだと、疑問に思う声は多かった」

 

 ほとんどの人々にとって、特にアールスハイドの人間からするなら魔人といえば恐怖の象徴でしかない。

 そんな存在は魔物と同じように駆逐して然るべきというのが、世界中の一般認識だ。

 下手をすればマーシァ領が周囲から孤立しかねない事態を予想し、マリアとミランダは顔色を曇らせる。

 

「二人はマーシァ閣下が間違ってないと考えているのか?」

 

「間違ってないというか、魔人に対して恐怖心はもちろんあるんですけど……」

 

「帝国の人達がどんな暮らしをしてたか、聞いた後だと……安易に討伐して欲しいとは言えませんね」

 

 それが夏季休暇でマーシァ領に来てから、帝国の内情を学ぶ機会のあった二人の心境だった。

 その言葉を聞いたアルフレッドは二人を安心させるように微笑んで見せた。

 

「ああ――そういう声も、今になって出始めている」

 

「え? なんでまた……」

 

「つい先日、出版された本があってな。難民の話を元に、帝国における人々の暮らしを綴ったものだ」

 

 魔道具の普及により、印刷技術の高いこの世界では書籍の流通も広まっていた。

 最も出版を拒もうとしただろう帝国の消滅により、無事に世へ出回ることとなったその書籍によって帝国の人々の悲惨な生活が知れ渡るにつれ、魔人となった人々に同情的な意見も出てきたのだという。

 

「それでも不安は拭いきれるものじゃないだろうがな。ただもう一つ、閣下にとっては追い風になりそうな噂も出ている」

 

「噂、ですか?」

 

「俺も王都からこっちに来る馬車で乗り合わせた、商人らしい人の会話を聞いただけなんだがな。……やけに声のでかいエルス訛りで、少しばかり胡散臭くもあったが」

 

 その時のことを思い出したように、小さく首を捻りながらアルフレッドが告げた内容にはマリア達も目を丸くしてしまった。

 

「――闇に堕ちた魔人達を、武器も持たずに説き伏せた公爵閣下の振る舞いが、まるで聖女のようだ。なんて話が現場を直接目にしたダーム王国の人々から広まりつつあるらしい」

 

 それはとかく英雄的存在に憧憬を抱く、人々の習性故にか。

 耳にした当事者が思惑を超える展開に、頭を抱えることになる事態が広まりつつあるのだった。

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