旧約:とある戦士達の黙示録   作:一条和馬

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祝福になれなかった風

「ほ、ホントにリインフォースなのか……」

 

 

 かつて、彼女に祝福の風“リインフォース”の名が授けられる以前から………共に苦汁をなめながら、笑う事を忘れ戦い続けた中でも信頼しあってた戦友の帰還に対してシグナムが抱いたのは、再開の喜びではなく、疑問であった。

 

「……将か」

「リインフォース……なぜ貴様がここに? お前は十年前に……」

「リインフォース? それは誰の事だ。将よ、私は闇の書。それ以外の呼び名など持ち合わせていない」

 

 

 シグナムに対して彼女は、ただ淡々と喋っていた

 

 

「長らく私と一緒に居なかったから機能不全に陥ったのか……これも闇の書の定めか……だが、安心しろ将。私一人ででも闇の書を完成させ、守護騎士(ヴェルケンリッター)だけでもこの悲しみの連鎖から解放してやる…」

 

 

「リインフォースさん……」

 

 なのはが闇の書を名乗る女性を見つめる

 それは確かに、十年前に見た“まだ”闇の書だった時のリインフォースそのものだった

 

「お前も、私をその様な名で呼ぶのか」

 

 闇の書は、ゆっくり手のひらをなのは達に向けた

 

「せめて、守護騎士達だけでも悲しみの連鎖から解放する為に、お前達には糧になって貰う……本当はこんな事したくないのだが、許してくれ……私は犠牲を払わねば償えない卑劣な存在なのだ……」

その言葉の後、彼女の周りから強力な魔力が溢れ出した。

 

「リインフォース……お前は……」

 

 瞬間、シグナムからも膨大な魔力のオーラが溢れ出る

 

「ここは私に任せて、お前達はさっきの連中を追え!」

 

 そう言いながら彼女はレバンティンを構える

 

「シグナム副隊長…」

 ティアナが心配そうな視線を向ける

 

 

「ティアナ、あいつは大丈夫だ。でもな……」

 ヴィータも、シグナムの横に並び、グラーフアイゼンを構える

 

 

「ヴィータ……」

「十年前、あいつは理不尽な呪いでアタシらを庇って天に逝った…そこまでしてアタシらの未来を守ってくれたコイツが何かで利用されてるなら、守護騎士……ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士ヴィータとして、砕くほかねぇだろ!」

「ヴィータ……そうだな。なら私も、烈火の将シグナムとして、成すべきことをなさないといけないな……」

 

 守護騎士の二人が飛び出し、刃と鉄槌が振り下ろされた

 轟! と音が響く

 

 

「ヴィータまで……くっ、闇の書は、どこまで残酷なものなのだ……」

「リインフォース!! お前ははやてと一緒に夜天を駆ける役目を二代目に託したんじゃねぇのか!? それすら覚えてねぇのかよ!!」

 

 

 力強い言葉と共に、アイゼンの強力な一撃が闇の書に振り下ろされる

 

「はやて? 二代目? ヴィータ、お前は何を言っているんだ?」

 

 

 子どもの間違いを訂正する親のような口振りでヴィータの一撃を片手で防ぐ闇の書だったが……

 

 

 グキッ!

 

「………ッ!!」

 

 目の前の鉄槌の騎士が放った攻撃は、闇の書が記憶する彼女のそれとは全く異なっていた。

 根本的な力の差だけではない何かを、闇の書はかすかに感じた

 

(これは何だ? ヴィータから憎悪を感じない? 長い呪縛の中、一番心を閉ざしていたあの子が……)

 

「リインフォース!」

 

 その隙を逃がすまいと、シグナムの一閃が闇の書を襲う

 

「くっ!」

 

 彼女は狭い廊下をバックステップで移動し、今の攻撃を回避した

 

「なのはっ! 何ボサッと突っ立ってる!! 早くしねぇとさっきの連中が逃げちまうぞ!!」

 

 ヴィータが援護しようとしていたなのはを怒鳴り付けた

 

「ヴィータ副隊長……なのはさん!」

「スバル……ここは二人に任せましょう。きっと……いや、必ずこの二人は勝つから」

 そう言って、なのはは先程セツナと未央が走っていった壊れた壁に向かって走り出した

 

「高町!! くっ……ナカジマ! ランスター! 御坂妹!! 俺達も追うぞ!!」

「上条さん…」

「なぁ? 俺忘れてない?」

「あ、内田も行くぞ!!」

 

 

 上条、スバル、ティアナ、御坂妹、照山もなのはを追い、走っていった

 

 

「これで正々堂々戦えるな」

「二対一が正々堂々だとは思わねぇけどな……」

 

 

 ジャキジャキッ…っと、二つのデバイスを構える音が響く

 

(二対一で互角かそれ以上……一体何が起きているんだ?)

 

 

 闇の書は困惑しながら拳を構える

 

 

「ヴィータ!!」

「おうよ!」

 

 

 シグナムの叫びで二人が同時に動き出す

 

「たぁぁぁりゃぁぁぁ!!」

「ッ!!」

 ヴィータの横振り攻撃を間一髪で避ける闇の書

 

「まだだっ!」

 そこへシグナムの縦一閃

 間髪入れずヴィータの攻撃が再び闇の書を襲う

 

 

 

(マズイ……最大防御展開!)

 

 

 幾つもの魔方陣の盾を出し、巧みに回避する

 

 が、二人の猛攻は止まらない

 

 

 

 ドガッ! ガガガガガガガガガガッ!!

 

 

 

 次第に三人の攻防は目に見えるスピードを超越し、残像が残る程白熱したものになっていた

(このまま防戦一方では……落とされる!)

 

 

 自信の命の危険を感じた闇の書だったが、それでも彼女は防御の隙に攻撃を何度か試みていた。

 が、二人の隙があまりに短く、上手く攻撃魔法を発動出来ずにいた

 

(私が負ければ、また繰り返される……騎士達を再び闇に誘わなければならなくなる……私だけならまだしも、それだけはっ!!)

 

 

「うおぉ!」

 

 短い叫びと共に、闇の書の心底から力があふれだす

 

 

「私は自らの力で呪縛を解いてみせる!それで我が身朽ち果ててしまうとしても!! 私はこの拳を止めない!!」

「リィィィンフォォォス!!」

 

 

 シグナムはそれをギリギリで避ける

 それと同時にガシャガシャン! とレバンティンがカートリッジロードを行い、刃が炎に包まれる

 

「この大馬鹿者が!!」

 

 ジャキン!!

 

「紫電ッ! 一閃ッッッッッッ!!!!」

 

 シグナムの必殺の一つ、紫電一閃が、闇の書に直撃する

 

 

「があっ!!」

 

 

 バタンッ!

 その場に倒れ込む闇の書

 

 

「リインフォース!」

 

 

 倒れた彼女に駆け寄るヴィータとシグナム

 

 

「ヴ……ヴィータ…将……すまない。また……お前達を……」

「リインフォース……もう…終わってんだよ…」

「終わって……いる? ヴィー……タ、それは……どういう……?」

「闇の書の切れる事の無かった死の連鎖は、十年前に断ち斬られた……我々の最後の主……主はやてと、若く強い翼達によってな……その時お前は、私達に未来を託す為に、一人で天へ逝ったんだ。二代目を残してな」

「…………。そ、そうか…終わっていたから、ヴィータから憎悪が……うぐっ!」

「リインフォース!」

「ヴ、ヴィータ……最後の主は……優しいお方だったのだな……」

「あぁ! お前もまたはやてに合いたいだろ! だったら頑張れよ!! これ位の傷、シャマルならきっと治してくれる! ザフィーラだってきっと顔には出さねぇと思うけど喜ぶはずだろ! だから、死ぬなリインフォース!!」

「ふ……ふふふ、そうしたいのは山々だが、それは偽物の私の役目では無いようだ……」

「……偽物?」

 

 

 シグナムが怪訝な表情をする

 

 

「どうやら、私は何かの弾みで現れた幻の様だ……体から力が消えていく感じがする……」

 

 

 その言葉と同時に、闇の書の体が少しずつ光になり始めた

 

 

「おいリインフォース! リインフォース!!」

 

 

祝福の風(リィンフォース)……それが私の名前か……」

「あぁ! はやてが付けてくれた名前だぞ! そんな綺麗な名前をもらったのに! なんでこんな悲しい風を吹かせやがんだよ!!」

「すまない……ヴィータ。最後に……呪縛から解放されたお前達を見れて……良かっ…………」

 

 

 最後の言葉が言い終わる前に、リインフォースは全て光になり天に昇っていった

 

──────────

────────

──────

 

 

 

 

「………やはり、時の差は大きいものでしたね」

 

 アイアンマウンテンがある谷の上空に、茶髪の少女が浮いていた

 

 

「ほらね。星ちゃん、あいつらにもう“欠片”は通用しないんだよ」

 

 

 その隣には、青く長い髪をツインテールにした少女が空中であぐらをかいていた

 

 

「ご老人一人にも勝てない貴女の言葉では説得力がありませんね」

「うっ……あの時は……あれだよ。昼御飯にたこ焼きを食べ過ぎて……」

「たこ焼きのせいにしてはいけませんよ……最も、私もあの時腹八分目にしていたら戦っていたんですが……」

「星ちゃんも戦ってたら良かったのに。食後は適度に運動しないと太るよ?」

「……………」

 

 ガチャリ。と、杖を構える音が青い髪の少女の耳に響く

 

 

「あっ……じ、冗談だよ星ちゃん ほ、ほら! そんなにお腹目立ってないし! 全然太ってないよ!?」

 

 

 全力で茶髪の少女の機嫌を直そうと必死になる青髪少女

 

「一度、星屑になってみますか……?」

「ちょ……ストップストップ! 僕が悪かった! 謝るから! 謝るからぁ!!」

「貴女みたいに楽観的なら私も救われたかも知れません……しかし、どうも私は毎日お風呂の後の体重計の針の位置がどんどん変わっていくのが怖くて仕方ないんですっ!」

 

 

 彼女の持っていた紫の杖から、幾つかの魔力球が飛び出した

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

ドオンッ!!

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 セツナ、未央、梔の三人は丁度、イヴを連れ逃走用のテスタメントでアイアンマウンテンを出た所であった

 

 

「ここまでくれば連中も追ってこな…」

 

 

 ドオンッ!!

 

「なっ、何!?」

 

 

 セツナが後方を確認する。何かが空中で爆発した様だ

 

 

〔汚い花火だぜ……〕

「…………ん?」

 

 

 爆音のせいか、気絶していたイヴが目を覚ました

 

「ここは……はっ!」

 

 

 目の前にいた人物を確認したイヴは、即座に拳を構えた

 

 しかし、

 

 

 ヒュウゥゥゥゥ…

 

 

「「?」」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

〔親方! 空から女の子が!!〕

 

 先程の爆心地から、青い髪の少女が涙を流しながら落下してきて……

 

 

ゴンッ!!

 

 

「なうっ!!」

「いたっ!!」

 

 

 イヴの頭に丁度ぶつかった

 

 

 ドサッ

 

 

 

 イヴはそのまま倒れたが……

 

 

 

 ガンッ! ゴンッ!!

 

 

 

「あぅ! へぶっ!!」

 

 

 

 ツインテールの少女は、そのまま地面を転がりどこかへ消えていった

 

 

 

「今の……何?」

 

 

 

未央が困惑した表情を見せたが、テスタメントはそんなもん知らんと言わんばかりにスルーし、ブラックスポットの荒野を走り抜けていった……

 

──────────

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──────

 

 

(まいったわね……)

 ディスクが顎に手を当てながら唸る

 

 先程、巡回していた無人パワードスーツが黒服の変態を担いで連れて来た時に少しは嫌な予感はしていたのだが、なのは達が後味が悪い様な表情で戻ってきた時にはその予感が的を外していなかったのを悔やんでいた

 

「ディスクさん……一体何が…」

 クルスが不安そうな顔でディスクを見上げる

 

 

「イヴさんがあいつらに拉致られたわ。それだけならまだしも、変な侵入者まで現れるし……」

「変な侵入者じゃと?」

 

 ギドが怪訝な表情を見せる

 

「そ。いきなり現れて、いきなり消えた謎の物質。まぁ、実際はそこの二人が瞬殺しただけなんだけどね」

「……」

 

 そう言ってシグナムとヴィータを指差すディスク

 二人は何も喋ろうとしなかった

 

「……それで、ヴィータちゃん」

 なのはが、ヴィータに話しかけた

 

「リインフォースさんは?」

「……消えたよ」

「あいつは、自らを“偽物”と言っていた。そして、最後の消え方………十年前のアレに似ていた……まさかとは思うが……」

 

 

 その言葉に、唯一事情がわかるなのは、ヴィータ、シグナムの三人の表情が曇った

 

 口を開いたのは、ヴィータだった

 

「……“闇の書の闇”は、まだ完全に消滅しちゃいねぇ。あの野郎、まだ生きていやがった……!」

 

 

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